重篤な上大静脈症候群を呈した急性上大静脈血栓閉塞に対して 血栓吸引療法により救命できた完全大血管転位術後の乳児例
Keywords:
postoperative complications, superior vena cava obstruction, transcatheter thrombectomy, thrombus aspiration catheter
喜瀬 広亮1),富田 英1),藤本 一途1),藤井 隆成1), 木口 久子1),大山 伸雄2),曽我 恭司2),籏 義仁1), 平田 昌敬1),伊藤 篤志1),石野 幸三1),佐野 俊二3)
昭和大学横浜市北部病院循環器センター1),こどもセンター2), 岡山大学病院心臓血管外科3)
Successful Emergent Aspiration of Thrombus for Postoperative Superior Vena Cava (SVC)
Obstruction Presenting Critical SVC Syndrome in Early Infancy
Hiroaki Kise1), Hideshi Tomita1), Kazuto Fujimoto1), Takanari Fujii1), Hisako Kiguchi1), Nobuo Oyama2), Takashi Soga2), Yoshihito Hata1), Masataka Hirata1), Atsushi Itoh1), Kozo Ishino1), Shunji Sano3)
1)Cardiovascular Center, 2)Children’s Medical Center, Showa University Northern Yokohama Hospital, Yokohama, Japan
3)Department of Cardiovascular surgery, Okayama University Hospital, Okayama, Japan
We report successful transcatheter aspiration of thrombi combined with percutaneous transluminal angioplasty (PTA)for an infant complicated by superior vena cava (SVC)obstruction in postoperative period presenting critical SVC syndrome. After fetal diagnosis of transposition of the great arteries with restrictive atrial communication, the patient was delivered in the 38th week and balloon atrial septostomy was performed immediately after birth. However, the patient experienced complications of persistent pulmonary hypertension (PPHN)and presented with severe cyanosis. Extracorporeal membrane oxygenation had been needed for two weeks to eliminate the PPHN. An arterial switch operation (ASO)was performed sixteen days after birth, while pleural effusion persisted after ASO. Severe chylothrax emerged on the thirty-sixth day of life, while central venous pressure was elevated acutely followed by severe edema in the head, neck, and upper limbs, which suggested SVC obstruction.
After confirming the complete occlusion of SVC by venography, a Radifocus® guide wire was passed through the site of occlusion, over which PTA was performed. After PTA, venography showed residual stenosis and thrombi on the vessel wall. We advanced the sheath introducer from right juggler vein to the stenotic site and aspirated the thrombi using the sheath. After removing many thrombi, final venography showed no residual stenosis and thrombi. Fifty-six days after the thrombectomy, venography revealed sufficient patency of the SVC. SVC obstruction in early infancy may be difficult to maintain patency and may require frequent interventions. The combination of PTA and transcatheter thrombectomy may be feasible choices immediately after obstruction of the SVC.
要 旨
症例は日齢36の男児.胎児心エコーで心房間狭小化を伴う完全大血管転位(Ⅰ型)と診断され,在胎38週3日に 出生した.出生当日に緊急で心房中隔裂開術を施行したが遷延性肺高血圧を合併し,日齢2に体外式膜型人工肺
(ECMO)を装着した.日齢16にJatene手術を施行しECMOを離脱した.術後から胸水を認めていたが日齢35より 乳糜胸水となり排液量も増加した.日齢36に中心静脈圧が急激に上昇し上半身および頭頸部の浮腫が出現したため,
同日緊急で静脈造影を施行し上大静脈(SVC)の完全閉塞が確認された.閉塞急性期と判断し右内頸静脈から挿入し たガイドワイヤーで閉塞部を通過させ,経皮的血管形成術(PTA)を施行した.PTA後の静脈造影で,狭窄が残存し周 囲に血栓形成が疑われたため,シースを閉塞部まで進めサイドポートから血栓吸引を行った.ウロキナーゼを投与 後,繰り返し血栓吸引を施行し多量の血栓が吸引された.静脈造影で血栓の消失とSVCの十分な開存を確認し終了 した.日齢92に静脈造影を施行しSVCは十分に開存が維持されていた.新生児期のSVC閉塞に対するカテーテル
2014年 1 月 6 日受付 2014年 4 月10日受理
別刷請求先:〒224-8503 神奈川県横浜市都筑区茅ヶ崎中央35-1 昭和大学横浜市北部病院循環器センター 喜瀬 広亮
症例報告
脈灌流障害による心拍出量の減少といった重篤な問題 を引き起こす可能性がある.特に新生児・乳児期にお けるSVCの狭窄は難治性の乳糜胸水や水頭症の発症 との関連も報告されており予後を悪化させる5, 6).こう したSVC狭窄および閉塞に対する経皮的血管形成術
(PTA)はこれまでも報告されているが7, 8),再狭窄の頻
度が高くstent留置も含めた複数回の治療介入が必要と
なる場合が多いため,有効性は十分に確立していない.
また,新生児・乳児期においては成人の血管径まで拡
張可能なstentを留置することは困難である.今回,完
全大血管転位術後の乳児期にSVC狭窄を来し,早期に PTAと血栓吸引療法を併用することで開存が維持でき た症例を経験したので報告する.
症 例
完全大血管転位(Ⅰ型),日齢36の男児.在胎32週 の胎児心エコー検査で完全大血管転位(Ⅰ型,但しきわ めて小さな心室中隔欠損を伴う),卵円孔狭小化を指摘 されていた.在胎35週4日の胎児心エコー検査で心房 間交通は4mmと開存していたため,自然分娩の方針と なった.在胎38週3日自然経膣分娩で出生した.出生 時体重2,700g,Apgar scoreは1分値4点,5分値5点.
全身蒼白で,HR 70~80/minと徐脈傾向であった.自 発呼吸も弱かったため人工呼吸管理を開始し徐脈は回 復したが低酸素血症(経皮的酸素飽和度49%,FiO2 1.0)
が持続した.
心エコー検査で,完全大血管転位(Ⅰ型,但し心室中 隔筋性部に小欠損を伴う)と診断され,心房間交通は著 しく狭小化していたため,同日,心房中隔裂開術(BAS)
(6F Rashkind 1.0mL,1.2mL,計2回)を施行し,心房間 交通は改善した.BAS施行時,左緊張性気胸および縦 隔気腫を発症し穿刺脱気を行った.集中治療室へ帰室 後,経皮的酸素飽和度はpreductal:68%,postductal:
ECMO離脱を試みたが,広範な無気肺による低酸素血 症のため離脱を断念した.日齢16日(ECMO導入14日
目)にJatene手術を施行し,術後エピネフリンおよび
NO使用下で循環・酸素化ともに維持可能であったた め手術室でECMOを離脱し,日齢28に閉胸した.術後 より胸水を認めていたが日齢35より乳糜胸水となり 排液量も増加した.日齢36に平均中心静脈圧(CVP)
22mmHgと急激に上昇し頭頸部の浮腫が出現したた
め,同日緊急で右内頸静脈から4Fシースを挿入し静脈 造影を施行したところ,SVCは同血管から挿入した CVカテーテルの先端部分(SVCと右房の接合部)で完 全閉塞していた(Fig. 1A).臨床経過から閉塞急性期と 判断しカテーテル治療により開通を試みる方針とし た.4F シースから0.018 inch ラジフォーカス ガイド ワイヤーを挿入し閉塞部位の開通を試みたところ,右 心房(RA)まで通過したためシースをRAまで進め,ガ イドワイヤーを0.018inch SV wire(Cordis Co.,Bridgewater,
NJ,USA)に交換した.シースを閉塞部位より近位まで
引き抜き,Sterling 5mm/2cm(Boston Scientific Co.,Natick,
MA,USA)でPTAを施行した(Fig. 1D).PTA後の造影 で閉塞部位は開通していたが,血管壁周囲に血栓形成 が疑われたため(Fig. 1B,E),内頸静脈より挿入した4F シースを閉塞部位まで進め,シース の側管から血栓吸 引を施行したところ多量の血栓が吸引された(Fig. 2).
シースからウロキナーゼ(5,000U/kg)を投与した後に再 度血栓吸引を施行し,SVCの残存狭窄および血栓は消 失した(Fig. 1C,F).狭窄部位の圧較差は消失し,CVP
は22mmHgから12mmHgまで低下した.なお,血栓吸
引は20mLのシリンジを使用し,合計約90mLの血液 吸引を行った.血栓吸引施行中は赤血球濃厚液を用手 的に急速輸注(合計60mL)していたが,治療後にヘモグ ロビンは10.3g/dLまで低下した(治療前15.4g/dL).治 療中と治療後を併せて計106mLの輸血を要した.治療 終了後からヘパリンの持続投与(10U/kg/h)を行い,治
療9日 後 か ら ワ ー フ ァ リ ン0.1mg/kgと ア ス ピ リ ン
4mg/kgの内服へ移行した.内服開始後より肝酵素の上
昇が出現し,アスピリンの中止では改善せずワーファ リンの中止により改善したため,ワーファリンは内服 開始14日目で中止しアスピリンの内服は再開した.閉 塞部位における血栓の再形成および肺血栓塞栓症の発 症に留意し経過をみたが,血液検査でFDP-Dダイマー の上昇や心エコー検査で肺動脈圧の上昇の所見はな く,SVCの血流は維持されていた.日齢92に静脈造影 を施行し血栓の再形成がなくSVCが十分に開存して いることを確認し,日齢97神経学的後遺症なく退院 した.
考 察
狭窄および閉塞した血管に対する血栓吸引療法は,
成人領域の心筋梗塞や深部静脈血栓症に対して血栓吸 引カテーテルを用いて行われている.冠動脈領域のイ ンターベンションにおいては,治療時に生じるslow flow phenomenon,distal embolismが心筋ダメージを悪 化させ予後を不良とすることが知られており9, 10),手技 も容易であることからルーチーンで血栓吸引療法を実 施している施設も多いが,吸引カテーテルによる血栓 吸引療法の有効性は明確なエビデンスレベルにない.
また,小児における血栓吸引療法は報告が少なく,
2011 AHA Scientific statementやJPICカテーテル治療の ガイドライン上も血栓吸引療法についての記載はな
い11, 12).現在,本邦で使用可能な血栓吸引カテーテルを
Table 1にまとめた.血栓吸引を行う場合には6F以上
のガイディングカテーテルが必要であり,新生児期・
乳児期の血栓閉塞に対して使用する場合は閉塞部位へ のアクセスの問題や血管損傷が危惧される.
今回,開心術後のSVC血栓閉塞に対して,通常のカ テーテルで使用する4Fシースを用いてPTAと血栓吸 引療法を行い,十分な血栓の除去と内腔の開存維持が 得られた.今回使用した4Fシースは内腔が1.45mmで あり,一般的な血栓吸引カテーテルの内腔が1.1~
1.9mm程度であることを考慮すれば,先端形状は異な
るが血栓吸引を行ううえでは十分であったと考えら れる.
小児において血栓吸引を行う際の問題点として,血 栓吸引の際に大量の血液損失が生じるため,特に循環 血液量の少ない新生児や乳児では大量輸血を並行して Fig. 1 Recanalization of occluded SVC by transcatheter thrombectomy.
A: Venography of occluded SVC.
D: PTA for stenotic site of SVC.
B, E: Venography after PTA, which demonstrated many thrombi on the vessel wall.
C, F: Venography after transcatheter thrombectomy, which demonstrated no thrombus.
SVC: superior vena cava, PTA: percutaneous transluminal angioplasty
Fig. 2 Thrombi aspirated by sheath introducer.
行う必要があり,電解質異常,凝固異常,低体温等に注 意を要する.また,血栓閉塞した血管内でのカテーテ ル操作は中枢側への血栓の飛散やそれに伴う肺塞栓を 生じる可能性がある.冠動脈領域のインターベンショ ンにおいては,こうした治療時のdistal embolizationに よ る 末 梢 循 環 障 害 を 予 防 す る た め にPercusurge Guardwire(Medtronic,Minneapolis,MN,USA)等のデバ イスを用いたdistal protectionを行っている施設もある.
しかし,小児の静脈内血栓を吸引する場合,こうした 血流方向への血栓の飛散防止に有効なデバイスはな く,治療後肺血栓塞栓症の発生には十分に留意して経 過をフォローする必要がある.
本症例ではFDP-Dダイマーの上昇や肺高血圧の出現 に注意し経過をみたが,循環が不安定である場合や低 酸素血症が出現する場合には造影CTや肺シンチグラ フィ等を早急に考慮すべきである.また,閉塞部位に おける血栓閉塞の再発予防として,本症例では肝酵素 が高値となり中断したが,静脈内血栓であり通常は深 部静脈血栓症に対する治療に準じ術後ヘパリン持続投 与に加えて少なくとも3ヵ月間のワーファリンの投与 が必要であると考えられる13).
結 語
開心術後の新生児期SVC血栓閉塞に対してカテー テルシースを用いた血栓吸引は考慮すべき手技と考え られる.
【 参 考 文 献 】
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