酵素反応を利用したγ-アミノ酪酸のマイクロプレートアッセイ:
γ-アミノ酪酸生産性乳酸菌のスクリーニングへの適用
塚谷 忠之
*1樋口 智子
*1松本 清
*2Enzyme-Based Microtiter Plate Assay for γ-Aminobutyric Acid: Application to the Screening of γ-Aminobutyric Acid-Producing Lactic Acid Bacteria
Tadayuki Tsukatani, Tomoko Higuchi, and Kiyoshi Matsumoto
酵素反応を利用した
γ-アミノ酪酸のマイクロプレートアッセイ法を開発した。酵素にはGABaseを用い,最適反応 条件を確立した。酵素反応により最終的生じるNADPHを340nmにおける吸光度測定に供することで,
γ-アミノ酪酸濃 度を算出した。本法により,0.5~10.0mMの濃度範囲で
γ-アミノ酪酸の正確な定量が可能であった。また,乳酸菌 培養に用いるMRS培地を対象とした回収率も平均100.2%と良好であった。さらに,乳酸菌による発酵液中の
γ-アミ ノ酪酸濃度を測定したところ,HPLCにより得られた値と良好に一致した。本法を
γ-アミノ酪酸生産性乳酸菌のスク リーニングへ適用したところ,
γ-アミノ酪酸高生産能を持つ乳酸菌を9株得ることができた。
1 はじめに
γ
-アミノ酪酸(GABA)は降圧作用をはじめ,様々な生 理作用を持つことが知られている。GABAによる降圧作 用は特定保健用食品としても認められており,GABAを 含有 す る食 品 の開 発 が活 発 化し て いる 。 食品 素 材に GABAを高濃度で付与する方法として,乳酸菌を用いた 発酵法が注目されている。自然界からGABA生産能の高 い乳酸菌を取得するには,大量の試料をスクリーニン グする必要がある。しかし,従来のHPLCを用いた方法 では,比較的長い測定時間を要するため,大量の試料 から乳酸菌をスクリーニングする手法としては現実的 でない。このため,GABAを迅速かつ簡便に測定でき,
しかも大量の試料を一斉に分析することが可能な手法 が望まれている。そこで,酵素法とマイクロプレート リーダを用いたGABA測定法の開発を行った。
2 研究,実験方法
2-1 GABaseによる酵素反応
本 法 で 用 い る GABaseは
γ-aminobutyrate glutamate aminotransferase(GABA-T) と succinic semialde- hyde dehydrogenase(SSDH) の 混 合 系 酵 素 の 総 称 で あ る。GABA測定における1連の酵素反応を下記に示す。
最終的に得られたNADPHを測定することで,GABA濃度 を算出する。
GABA-T GABA +
α-ketoglutarate →
succinic semialdehyde + glutamate (1) SSDH succinic semialdehyde + NADP
++ H
2O →
succinate + NADPH + H
+(2) 2-2 マイクロプレートを用いたGABA測定法
96 ウ ェ ル マ イ ク ロ プ レ ー ト の 各 ウ ェ ル に 反 応 液
( 30
µg GABase , 1.4mM NADP
+, 750mM Na
2SO
4, 10mM DTTを含む80mMトリス塩酸緩衝液(pH9.0))を90μl分 注し,これに試料(標準液,乳酸菌発酵液)を10μl 添加して測定を開始した。30℃で60分間反応させた後,
マイクロプレートリーダで340nmにおける吸光度を測 定した。
3 結果と考察
3-1 GABase反応条件の最適化
GABase反応条件の最適化を目的として,賦活剤であ るNa
2SO
4濃度,DTT濃度,補酵素NADP
+濃度,
α-ケトグ ルタル酸濃度,酵素量,緩衝液及びpHの検討を行った。
その結果,750mM Na
2SO
4,10mM DTT,1.4mM NADP
+及び 2.0mM
α-ケトグルタル酸を含む80mMトリス塩酸緩衝液 (pH9.0)を用いることにした。この条件下で,酵素使 用量を30
µg/wellまで低減化することができた。また,
GABA濃度が0.5~10.0mMの範囲において吸光度(340nm) との間に相関係数0.999の良好な直線関係が得られた。
*1 生物食品研究所
*2 九州大学
3-2 MRS培地の影響と回収率
乳酸菌培養に用いるMRSの培地成分がGABase反応に 与える影響について検討した。表1に示すように回収 率の平均は100.2%であり,MRS培地成分の影響を受け ることなく,正確な測定可能であった。
表1 MRS培地中のおけるGABAの回収率
Sample Present(mM) Added(mM) Found(mM) Recovery(%)1 2.35 3.00 5.37 100.7
2 2.70 3.00 5.73 101.0
3 0.07 3.00 3.16 103.0
4 0.05 3.00 3.25 106.7
5 3.65 5.00 8.45 96.0
6 1.57 5.00 6.50 98.6
7 0.04 5.00 4.87 96.6
8 0.00 5.00 5.15 103.0
Medium 0.00 10.00 9.67 96.7
Mean 100.2
aCV(%) 3.4
a Coefficient of variation.
また,乳酸菌によるGABA生産にはMRS培地にグルタ ミン酸ナトリウム(Glu-Na)を高濃度に添加されるこ と が 多 々 あ る 。 そ こ で , 10mM GABA 測 定 時 に お け る GABase反応に与えるGlu-Na濃度(0~10.0%)の影響を 検討した。GABase量が30
µg/wellの場合,Glu-Na濃度 が2.0%以上で反応が著しく抑制された。一方,GABase 量 が 120
µg/wellの 場合 , わ ず か に 反 応 は 抑 制 さ れ る ものの,反応時間60分で測定は終了した。この結果か ら,高濃度(10.0%)にGlu-Naが存在する場合は,酵 素量を増やすことで対応可能であることがわかった。
3-3 実試料の測定と有効性の確認
本法の信頼性を評価するために,実試料に対する本 法とHPLCにより測定した値の比較を行った。乳酸菌に はGABA生産能の高い3株を用い,培養時間とGlu-Na濃 度をパラメータとして設定した試料を調整した。測定 の結果,本法とHPLCにより測定した値には良好な一致 が認められ,本法の有効性が確認できた(表2)。
表2 本法とHPLCによる測定値の比較
Present method HPLC Bias
Lactic acid bacteria Glutamate (%) (A) (B) (A-B)
Lactobacillus brevis 0.0 0.04±0.00 0.03±0.00 0.01
NBRC3345 1.0 0.64±0.02 0.62±0.00 0.02
2.5 1.49±0.04 1.56±0.02 -0.07
5.0 2.30±0.03 2.38±0.05 -0.08
Lactobacillus brevis 0.0 0.05±0.00 0.05±0.00 0.00
NBRC12005 1.0 0.65±0.02 0.64±0.03 0.01
2.5 1.45±0.03 1.49±0.06 -0.04
5.0 2.68±0.09 2.75±0.14 -0.07
Lactobacillus brevis 0.0 0.03±0.00 0.03±0.00 0.00
NBRC12520 1.0 0.65±0.00 0.71±0.05 -0.06
2.5 1.45±0.03 1.58±0.12 -0.13
5.0 2.09±0.02 2.05±0.08 0.04
(g/100ml) Sample
3-4 GABA生産性乳酸菌のスクリーニング
自 然 界 及 び 食 品 中 か ら 分 離 し た 乳 酸 菌 を 対 象 と し て,本法を用いてGABA高生産性乳酸菌のスクリーニン グを行った。GABA高生産乳酸菌として知られている
L.brevis
NBRC 12005のGABA生産量を基準としてスクリ ーニングを行った。
L. brevisNBRC 12005のGABA生産 量は2.1mMであった。スクリーニングの結果,2.1mM以 上の生産能を持つ乳酸菌を9株得ることができた(図 1)。
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
0 100 200 300 400
菌株 No.
GABA 生産量 (mM)