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ユニークな酵素を使ってリン酸化反応をより安価に

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化学と生物 Vol. 56, No. 12, 2018

ATP でなくピロリン酸を利用する新規リン酸化酵素の基質認識機構

ユニークな酵素を使ってリン酸化反応をより安価に

近年,省エネルギーや地球環境への配慮から,酵素反 応の産業的な物質生産への利用が進んでいる.酵素反応 は,常温常圧下で進行するため,過剰なエネルギーを必 要としない.また,有機化学的な反応と比べて,有害な 金属や溶媒を使用しない点も優れている.これまでに,

さまざまな種類の酵素について利用研究が進められてき たが,産業利用が難しい酵素の一つとしてリン酸化酵素 が挙げられる.

リン酸化酵素は,リン酸基の供与体基質から受容体基 質へとリン酸基の受け渡しを行う酵素である.リン酸化 物は化粧品や抗菌薬などとして使われており,酵素によ るリン酸化反応の利用価値は大きい.しかし,リン酸基 の供与体基質であるATPにかかるコストが産業利用へ の障害になっている.ほとんどのリン酸化酵素は,リン 酸基供与体としてATPを用いる.ATPは,RNAの構 成要素の一つであるアデノシンにリン酸基が3個つな がった化合物で,生体内ではエネルギーの伝達物質とし て広く利用される.一方,リン酸化酵素を での 物質生産に利用する際は,ATPが高価な化合物である ため,大きな費用がかかってしまう.

リン酸基供与体にかかるコストの削減方法の一つとし て,ATPの代わりにピロリン酸(PPi)を利用する方法 が考えられる.PPiは,リン酸基が2個つながっただけ の単純な化合物で,ATPに比べて1,000分の1の価格で 手に入る.しかし,PPi依存性リン酸化酵素は,これま でに3種類しか見つかっておらず(1〜3),多様な化合物の リン酸化反応には適用できない.また,ATP依存性の リン酸化酵素をPPi依存性に改変する研究も行われてき たが,PPiを特異的に認識する仕組みが未解明であるた め,成功例はない(4〜6)

最近,われわれは既知のPPi依存性酵素とは異なる酵 素群に属するPPi依存性酵素TM0415を発見し,その PPi特異的な認識機構を結晶構造に基づいて明らかにし た(7).TM0415は,多数のATP依存性の糖リン酸化酵 素を含むリボキナーゼファミリーという酵素群に属す る.この酵素群の酵素は共通の立体構造や触媒機構をも つため,TM0415は僅かな残基の違いでATPでなくPPi を利用していると思われた.そのため,TM0415のPPi

特異的な認識機構を解明することで,ATP依存性のリ ボキナーゼファミリー酵素をPPi依存性に改変すること や,新たなPPi依存性のリボキナーゼファミリー酵素を 見つけ出すことが可能になると考えた.本稿では,

TM0415についての研究結果とPPi依存性酵素の利用可 能性について述べる.

TM0415は,ATP依存性のイノシトールリン酸化酵 素TK2285(8)のホモログとして見つかった.TM0415は,

イノシトールを含む糖や糖アルコールに対するATP依 存的なリン酸化活性がないことが知られていた(9, 10).そ こで,報告されていた基質非結合型構造(11)に基づいて,

この酵素のリン酸基受容体と供与体それぞれの結合部位 構造をTK2285と比較した.その結果,TK2285のイノ シトール認識残基は保存されているが,ATP結合部位 の一部分がPhe221, Arg232, Met266によって塞がれて いた.そのため,TM0415はATP以外の供与体を使っ てイノシトールをリン酸化すると予想された.実際に活 性を確認したところ,TM0415はATPやADPでなく PPiのみをリン酸基供与体としてイノシトールをリン酸 化することが明らかとなった.

次に,TM0415にPPi類似体とイノシトールが結合し た三者複合体の構造およびPPi類似体の代わりに硫酸イ オンが結合した三者複合体の構造を決定した.これらの 結晶構造と変異体解析から,PPiの認識にかかわる残基 が明らかになった.これらの残基のリボキナーゼファミ リー酵素における保存性を調べたところ,Lys171, Arg229,  Arg232の3残基はATPやADP依存性の酵素では保存 されておらず,TM0415に特徴的であることが判明し た.そこでわれわれは,これらの特徴的な残基および先 に述べた供与体結合部位を埋める残基を合わせた5残基

(Arg232は両方にかかわる)をPPi特異的認識のカギと なる残基だと考えた(図1

この5残基を指標にして,リボキナーゼファミリー内 の新たなPPi依存性酵素をゲノムデータベースから探索 した.その結果,この5残基をもつPPi依存性酵素の候 補タンパク質が約50個見つかった.TM0415とは異な る生成物をつくる酵素を見つけようと考え,受容体結合 部位の残基がTM0415とは異なる候補タンパク質を抽出

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し,そのうちの4つについてさまざまな受容体に対する PPi依存的なリン酸化活性を調べた.その結果,2つは ATPやADPでなくPPiを特異的に利用してイノシトー ルをリン酸化することがわかった.また,その生成物の リン酸基が付加した位置は,TM0415の生成物とは異 なっていた.残り2つの候補は,ここで調べた受容体に 対するPPi依存的な活性を示さなかったが,試した化合 物とは大きく異なる化合物を真の受容体とするのだと考 えられる.よって,カギとなる5残基はPPiを特異的に 利用する新たな酵素を見つけ出す指標になることが示さ れた.

本研究により,これまで未解明だったPPi依存性リン 酸化酵素がPPiを特異的に認識する仕組みが初めて明ら かになった.この特異的な認識のカギとなる残基が見つ かったことにより,これまで成功していないATP依存 性リン酸化酵素をPPi依存性へ改変することが可能にな るだろう.また,いまだ活性を調べられていないPPi依 存性酵素の候補が多く残っており,この中から有用な化 合物をリン酸化する酵素が見つかる可能性もある.今 後,酵素工学やゲノムマイニングにより多種多様なPPi 依存性酵素が得られることで,リン酸化物の低コストな 生産法の開発が進むと期待される.

  1)  E. Mertens:  , 285, 1 (1991).

  2)  E. Mertens:  , 9, 122 (1993).

  3)  M. L. Fowler, C. Ingram-Smith & K. S. Smith: 

11, 1249 (2012).

  4)  A. Chi & R. G. Kemp:  , 275, 35677 (2000).

  5)  A.  Yoshioka,  K.  Murata  &  S.  Kawai:  ,  118, 502 (2014).

  6)  T. Dang & C. Ingram-Smith:  , 7, 5912 (2017).

  7)  R.  Nagata,  M.  Fujihashi,  T.  Sato,  H.  Atomi  &  K.  Miki: 

9, 1765 (2018).

  8)  R.  Nagata,  M.  Fujihashi,  T.  Sato,  H.  Atomi  &  K.  Miki: 

54, 3494 (2015).

  9)  I.  A.  Rodionova,  C.  Yang,  X.  Li,  O.  V.  Kurnasov,  A.  A. 

Best, A. L. Osterman & D. A. Rodionov:  , 194,  5552 (2012).

10)  I. A. Rodionova, S. A. Leyn, M. D. Burkart, N. Boucher,  K. M. Noll, A. L. Osterman & D. A. Rodionov: 

15, 2254 (2013).

11)  Joint  Center  for  Structural  Genomics  (JCSG):  Crystal  structure  of  PfkB  carbohydrate  kinase  (TM0415)  from   at 1.91 A resolution, https://www.

rcsb.org/structure/1vk4. (2004)

(永田隆平*1,藤橋雅宏*2,*1 東京大学生物生産工学研 究センター,*2 京都大学大学院理学研究科)

プロフィール

永田 隆平(Ryuhei NAGATA)

<略歴>2012年京都大学理学部卒業/2014 年同大学大学院理学研究科修士課程修了/

2018年同博士後期課程修了(2016〜2018 年日本学術振興会特別研究員DC2)/同年 東京大学生物生産工学研究センター特任研 究員,現在に至る<研究テーマと抱負>酵 素の立体構造に基づく反応機構の解明とそ の改良<趣味>アナログゲーム

藤橋 雅宏(Masahiro FUJIHASHI)

<略 歴>1996年 京 都 大 学 理 学 部 卒 業/

1998年同大学大学院理学研究科修士課程 修 了/2001年 同 博 士 後 期 課 程 修 了/

2001〜2002年同リサーチアソシエート/

2002〜2004年オンタリオがん研究所(カ ナダ)博士研究員(JSPS長期在外若手研 究員)/2004年大阪大学タンパク質研究所 JSPS特別研究員PD/同年京都大学大学院 理学研究科助手/2007年同助教,現在に 至る<研究テーマと抱負>酵素反応の仕組 みの解明と,その改良・利用<趣味>星空 観察・旅行

Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.779 図1TM0415におけるPPi特異的認識のカギとなる5残基

カギとなる5残基があることにより,ATPは立体的に衝突する が,PPiは衝突することなく水素結合をつくる.

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