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二酸化炭素を炭素資源として利用する新規反応の開発

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 河 村 充 展

学 位 論 文 題 名

二酸化炭素を炭素資源として利用する新規反応の開発

―ニッケル錯体を用いたアレンのカルボキシル化反応―

学位論文内容の要旨

  二 酸 化 炭 素 (C02) は地 球 上 に 膨 大 な 量 が 存 在 す る。 安 全 でか つ安価 なC02は 有 機 合 成 化 学 に お い て 魅力 的 な 炭 素 資 源 で あ る 。 し かし 、C02 は 比 較 的 反 応 性 に 乏 し く、 そ の利用 はこ れま で限 られた 範囲 に留 まって い た 。 低 原 子 価 ニ ッ ケ ル錯 体 は多重 結合 に高 い親 和性を 示し 、酸 素・炭 素 二 重 結 合 を 有 す るC02と も 容 易 に 反 応 す る た め 、 不 飽 和 炭化 水 素 へ のC02固 定 化 反 応 に 高 い 活 性 を 示 す 。 著 者 は 、 こ の よ う なC02固 定 化 反 応 の 基 質 と し て ア レ ン に 着 目 し た 。 ニ ッ ケ ル 錯 体 と 、 ア レン 、C02 か ら 生 成 す る オ キ サ ニ ッ ケ ラ サ イ ク ル は ア リ ル ニ ッ ケ ル 結 合 を 有 し 様 々 な 反 応 性 を 有 す る と 考 え ら れ る 。 著 者 は 、 ア レ ン へ のC02固 定 化 反 応 に よ り 生 成 す る ニ ッケ ラ サイク ルの 新た な反 応性を 見出 し、 さらな る 炭 素  ̄ 炭 素 結 合 形 成 反応 へ と展開 でき るな らば 、有機 合成 化学 的に有 用 な 反 応 の 開 発 に っ な が る と 考 え 、 研 究 に 着 手 し た 。     著 者は 、まず オキ サニ ッケラ サイクルと求電子試薬との反応にっいて 検 討 を 加 え た 。1気 圧 のC02雰 囲 気 下 、DBUを 配 位 子 と し て 化 学 量 論 量 のNi(cOd)2と 末 端 ア レ ン か ら 生成 し た ニ ッ ケ ラ サ イ ク ル に対 し 、 求 電 子 試 薬 と し て ベ ン ズ アル デ ヒドを 加え その まま 撹拌し たと ころ 、速や か に 反 応 は 進 行 し た 。 後処 理 の後、 得ら れた 粗生 成物を 酸処 理し たとこ ろ ラ ク ト ン 体 が 単 一 生 成物 と し て 収 率 よ く 得 ら れ た。 こ の 反応 ではC02 が ア レ ン の 中 央 の 炭 素 に、 そ して興 味深 いこ とに アルデ ヒド はよ り立体 的 に 込 ん だ 置 換 基 の 結 合し た 炭素に 、位 置及 ぴ立 体選択 的に 導入 された   こと がわ かった 。こ の反 応は種 々の末端アレンとアルデヒドの聞で進行   し、この方法がa‑メチレン‐Y.ラクトンの新しい立体選択的合成法にな   るこ とを 見出し た。

  次 に 、 こ の 反 応 を 分 子内 反 応へと 展開 すべ くア レニル アル デヒ ドを基 質 と し た カ ル ボ キ シ ル 化反 応 にっい て検 討を 行っ た。種 々反 応条 件の検 討 を 行 っ た 結 果 、 配 位 子 と し てTMEDAを 用 い 、 ジ オ キ サ ン 中 で 反 応   を行 うと 最高で87% と高 い収率 でカルポキシル化・環化体が得られるこ   と が わ か っ た 。 本 反 応で は5か ら7員環 まで の環 構造の 構築 が可 能であ

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り 、 ま た 含 窒 素 複 素 環 化 合 物 の 合 成 に も 適 用 可 能 で あ る 。    ア レンの両端に置換基をもつ内部アレンを基質としたカルポキシル 化 反応では、ア レンの連続す る 2 つの二重結合のうちどちらの二重結 合と反応が進行するかによって異なる生成物が得られる。著者は、2 つ の 置換基に立体的、電子的に差を持たせることにより、反応の位置選 択 性を制御できるのではないかと考えた。すなわち、置換基としてト リ メチルシリル基をもっアレンを用いるならばシリル基の電子的効果 か ら、 C02 固定化反応 が位置選択的 に進行すると予想した。そこで、

ト リメチルシリ ルアレンを基 質として C02 との反応を行ったところ、

18 % と低収率ながら目的とするカルポキシル化体を位置及び立体選択 的 に得ることができた。トリメチルシリルアレンを基質とした反応で は、分子内にアリルシラン部位及ぴ、a ,p .不飽和エステル部位をもつ興 味 深い化合物が生成する。そこで、収率の向上を目指し、ヒドロシラ ン と の 反 応 を 検討 し た。 そ の結 果、 PhMe2SiH を用 い てト ル エン 中 50 ℃ にて反応を行 うと収率よく 8 置 換アルケンが立体選択的に得られ ることを見出した。

   続 いて、シラン に替えて有機金 属試薬を用いるならば、C02 由来の カ ルボキシル基に加え、有機金属試薬由来のアルキル基を導入可能と な ると考え、有機亜鉛試薬を用いた反応の検討を行った。当研究室で は 既 に、 過剰量 の DBU 存在下、 Me22n によるメ チル化をとも なうアル キ ンヘの C02 固定化反 応が触媒的に 進行することを見出している。そ こ で、同条件を用いアレンのメチル化を伴う触媒的カルボキシル化反 応 にっいて検討を行った。ところが本反応ではメチル化をともなった 生 成 物は 全く得 られず、 2 分子の C02 が 導入されたジ エステルが高 収 率 で、かつ位置及ぴ立体選択的に得られた。このダブルかルポキシル 化 反応は種々の基質で効率よく進行し、対応するジカルボン酸を与え た 。 そ こ で 、 著 者 は こ の ダ ブ ル カ ル ポ キ シ ル 化 反 応 を 利 用 し て Chaetomellic AcidAAnhydride の 合成を行った。基質となるアレンは Myers らの 方法を利用し て収率よく合 成することが出来た。そのアレ ン を用い、ダブルカルボキシル化反応を行い、得られた粗成生物をそ の まま、無水酢酸中還流したところ、脱水縮合と、脱シリル化、二重 結 合 の 異 性 化 が ー 挙 に 進 行 し 目 的 と す る Chaetomellic AcidA anhydride が ア レン より 2 工 程 70 % 、文 献 既知の アルデヒドより 4 工 程、58 %の収率で得られた。

   以 上、著者はNi(0) 錯体によるアレンへの C02 固定化反応によって生 成 するオキサニ ッケラサイク ルの反応性を 詳細に検討し、上記 3 つの 有 機合成反応の 開発に成功し た。これらの 結果は C02 を有機合成化学 上、有用な炭素資源として活用するための一歩と、なるものと思われる。

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学位論文 審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

佐 藤 美 洋 橋 本 俊 一 斎 藤    望 中 村 精 一

学 位 論 文 題 名

二酸 化炭素 を炭素資 源として 利用す る新規反応の開発

― ニ ッ ケ ル 錯 体 を 用 い たア レン のカ ルボ キシ ル化 反応―

  二酸 化 炭 素(C02)は 計算 上地 球上 に膨 大な 量が 存在 し、か つ気 体と して は爆 発 性や 燃焼性 がな く安 全な 上安 価である。従って、C02は有機合成化学において魅力 的な 炭素資 源で ある と言 える 。しかし、COzは化学的反応性に乏しく、有機合成化 学 に お い て も そ の 利 用 は 限 ら れ た 範 囲 に 留 ま っ て い る の が 現 状 で あ る 。   低原子価ニッケル錯体は多重結合に高い親和性を示し、酸素―炭素二重結合を有 するC02と も容 易に 反応 する こと が知ら れて 茄り 、不 飽和 炭化水素へのC02固定化 反応に高い活性を示す。河村充展氏はこの点に着目し、ニッケル錯体を用いた新た なC02固定 化反 応の 開発 を計 画し、基質としてアレンに着目した。ニッケル錯体と アレ ン、C02か ら生 成す るオ キサニッケラサイクルは、アリルニッケル結合を有し 様々 な反応 性を 有す ると 考え られる。河村氏は、このアレンへのC02固定化反応に より生成するニッケラサイクルの新たな反応性を見出し、新たな炭素―炭素結合形 成反応へと展開した。

河村 氏は、 まず オキ サニ ッケ ラサ イク ルと 求電 子試 薬と の反応について検討を加 えた。すなわち、1気圧のC02雰囲気下、DBUを配位子として化学量論量のNi (cod)2 と末端アレンから生成したニッケラサイクルに対し、求電子試薬としてベンズアル デヒドを加えそのまま撹拌したところ、速やかに反応は進行した。後処理の後、得 られ た粗生 成物 を酸 処理 する とラ クト ン体 が単 一生 成物 として収率よく得られる こと を見出 した 。こ の反 応で はC02がアレンの中央炭素に、また興味深いことにア ルデヒドはアレンの両末端の炭素の中でも置換基が結合し、より立体的に込んだ炭 素に位置及び立体選択的に導入されたことを明らかとした。更に、本反応は種々の 末端アレンとアルデヒドの間で進行し、本法がQ―メチレンーY一ラクトンの新しい立

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体選択的合成法になることを見出した。

次に河村氏は、この反応を分子内反応へと展開すべくアレニルアルデヒドを基質 としたカルボキシル化反応にっいて検討を行った。種々反応条件の検討を行った結 果、配位子としてTMEDAを用い、ジオキサン中で反応を行うと、最高で87%と高い 収率でカルボキシル化一環化体が得られることを見出した。本反応では5から7員 環までの環構造の構築が可能であり、また含窒素複素環化合物の合成にも適用可能 である。

  アレンの両端に置換基をもつ内部アレンを基質としたカルボキシル化反応では、

アレンの連続する2つの二重結合のうちどちらの二重結合と反応が進行するかに よって異なる生成物が得られる。河村氏は、置換基の立体的及ぴ電子的な性質の違 いにより、本来困難である位置選択性を制御できるのではないかと考えた。すなわ ち、置換基としてトリメチルシリル基をもっアレンを利用し、シリル基の電子的効 果からC02固定化反応が位置選択的に進行すると予想した。実際にトリメチルシリ ルアレンを基質としてC02との反応を行ったところ、18%と低収率ながら目的とす るカルボキシル化体を位置及び立体選択的に得ることに成功した。トリメチルシリ ルアレンを基質とした反応では、分子内にアリルシラン部位及び、a,B一不飽和エ ステル部位をもつ興味深い化合物が生成する。そこで、収率の向上を目指し、ヒド ロシランとの反応を検討した。その結果、PhMe2SiHを用いてトルエン中50℃にて 反応を行うと収率よく3置換アルケンが立体選択的に得られることを見出した。

  続いて、シランの代わりに有機金属試薬を用いるならば、C02由来のカルポキシ ル基に加え、有機金属試薬由来のアルキル基を導入可能となると考え、有機亜鉛試 薬を用いた反応の検討を行った。当研究室では既に、過剰量のDBU存在下、Me22n によるメチル化をともなうアルキンへのC02固定化反応が触媒的に進行することを 見出している。そこで、同条件を用いアレンのメチル化を伴う触媒的カルボキシル 化反応にっいて検討を行った。ところが本反応ではメチル化をともなった生成物は 全く得られず、2分子のC02が導入されたジェステルが高収率で、かつ位置及ぴ立 体選択的に得られることを見出した。このダブルかルボキシル化反応は種々の基質 で効率よく進行し、対応するジカルボン酸を与えた。更に、河村氏はこのダブルカ ルボキシ ル化反応を 利用してChaetomellic AcidAAnhydrideの合成を行った。

Myersらの方法を利用して合成した基質アレンに対し、先のダブルカルボキシル化 反応を行い、得られた粗成生物をそのまま、無水酢酸中還流したところ、脱水縮合 と、脱シリル化、二重結合の異性化が一挙に進行し、目的とするChaetomellic Acid A anhydrideを得ることに成功した。

  以上のように、河村氏はNi (0)錯体によるアレンへのC02固定化反応によって生 成するオキサニッケラサイクルの反応性を詳細に検討し、上記3つの新しい有機合 成反応の開発に成功した。これらの成果は、炭素資源としての利用が未開拓であっ

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たC02をニ ッケ ル触媒によって有機化合物内へと取り込み、新たな環形成反応の開 発に成功した極めて独創性の高いものである。よって、本審査委員会は河村氏の研 究成果に対し、博士(薬学)の学位を授与するに十分値すると評価するものである。

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