九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
大深度地下管渠構築への推進工法の適用に関する研 究
千田, 尚
https://doi.org/10.15017/1441217
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
大深度地下管渠構築への推進工法の 適用に関する研究
平成 26 年 1 月
九州大学大学院工学府
地球資源システム工学専攻 博士後期課程
千 田 尚
I
目 次
第1章 緒 論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.1 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.2 大深度地下利用制度の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1.2.1 定義と対象地域・事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1.2.2 大深度地下利用の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 1.2.3 大深度地下を利用した今後の社会基盤整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 1.3 地下利用の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1.3.1 都市部における地下の利用状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1.3.2 地下利用の問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 1.3.3 大深度地下の利用事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 1.4 大深度利用に向けての技術開発課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.4.1 大深度の利用およびその課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 1.4.2 課題の解決に必要な技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 1.5 大深度での建設方法 -シールド工法および推進工法- ・・・・・・・・・・・・ 9 1.5.1 両工法の概要と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 1.5.2 考慮すべき技術的な検討項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 1.6 大深度シールド工法・推進工法での検討課題および既往の研究 ・・・・・・・ 14 1.6.1 推進工法における推進力の確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 1.6.2 推進工法における地山への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 1.6.3 推進工法における推進管の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 1.6.4 推進工法における充填材の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 1.7 本研究の意義と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
第2章 大深度施工に向けたテールボイドの実情および評価 ・・・・・・・・・・・・・・・ 23 2.1 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 2.2 テールボイドの機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 2.3 施工時におけるテールボイドの評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 2.3.1 推進力算定式の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 2.3.2 推進力の算定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 2.4 結 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
II
第3章 大深度施工に向けた推進工法施工時の地山挙動解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 41 3.1 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41 3.2 大深度での推進工法における地山挙動のシミュレーション ・・・・・・・・・・ 42 3.2.1 テールボイド挙動における土被りとN値の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 3.2.2 破砕帯を考慮した岩盤層の推進に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 3.2.3 グラウトによる地山改良 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 3.3 結 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
第4章 大深度における推進管の適応性評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 4.1 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 4.2 推進管 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 4.2.1 規格型推進管 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 4.2.2 既存規格手法による推進管の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 4.3 新しい概念による推進管の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 4.3.1 解析モデルおよび解析手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79 4.3.2 解析結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85 4.4 結 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99
第5章 大深度の推進工法に対応した新たな充填材の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 5.1 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 5.2 薬液注入工法の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101 5.2.1 薬液注入工法における材料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101 5.2.2 地山改良材および充填材としての機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103 5.3 新充填材の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105 5.3.1 硬化型新滑材(充填材)の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105 5.3.2 硬化型充填材の改良 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 106 5.4 新硬化型充填材の性能評価試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108 5.4.1 新硬化型充填材の配合比 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108 5.4.2 性能評価試験と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108 5.5 充填材としての機能評価試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 5.5.1 既存充填材料の仕様と試験充填材の選定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 5.5.2 充填材の物性試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117 5.6 開発新充填材による地山改良効果の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137 5.6.1 材料と注入方式の提案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 137
III
5.6.2 地山改良のモデル解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 138 5.7 結 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 141 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 143
第6章 結 論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 145
謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 148
1
第1章 緒 論
1.1 緒 言
近年、大都市部の交通機関やインフラの整備が急速に進み、地下鉄、道路、電気、
ガス、上下水道等の新たなトンネルや管渠埋設施工の需要が増大していたが、原則と してこれらの地下構造物は公共用地の地下にしか許可されず、またその地下浅部には 既存の多種多様な構造物が輻輳していたため、新たな地下構造物の計画には大きな障 害となり、既設のそれらよりもさらに深部に構築せざるを得なくなってきていた。こ のような情勢を受け、都市再生や都市機能の強化等を目的として、平成
12
年5
月、「大 深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(以下、大深度地下法と呼ぶ。)が成立(実 施は平成13
年4
月)し、地下空間利用に関する新たな選択肢が加わった 1),2)。なお、この法律における「大深度」とは、土被り
40m
以深とされている。そして、この大深 度地下法の成立を契機に大深度地下利用は事業実施段階に入り、各方面において大深 度地下利用制度の利点を盛り込んだ事業が活発に計画され始めた。現在、既に一部で は実施されているが、この大深度での地下構造物の構築法は、開削工法は論外であり、シールド工法や推進工法に依らざるを得ない。しかし、この両工法においても経験の 浅い大深度での施工に関しては、解決すべき種々の課題が残っている、特に推進工法 において残っていると考えられている3),4)。
以上のような観点から、本章では、大深度地下利用について概観するとともに、そ の施工においての種々の課題を調査、抽出して整理し、本研究の意義と目的を提示す る。
2
1.2 大深度地下利用制度の概要1.2.1 定義と対象地域・事業
大深度地下法は、通常使用されることのない「大深度地下」について、原則として 事前補償を行うことなく、公共的な目的のために使用できる特別の手続きを定めたも のである。ここで、大深度地下とは、土地の所有者等による通常の使用が行われない 深さの地下として、以下のいずれかの深いほうの深さにより定義されている5)。
①地下室の建設のために利用が通常行われない深さ;地下
40m
以深。②建築物の基礎の設置のための利用が通常行われない深さ;支持層上面から
10m
以 深。図
1.1
に大深度地下の定義のイメージを示す。大深度地下は、少なくとも地下40m
よりも深く、その深さは建築物の支持層によって決まる。また、大深度は、地上の土 地利用が進んでいる都市部においては、限られた利用可能な貴重な空間なことから、適正かつ計画的に大深度地下を利用するための利用調整の仕組みが設けられている。
図
1.5 大深度地下の定義
7)図
1.1 大深度地下法による大深度地下の定義のイメージ
3
また、この法律の対象地域は、土地利用の高度化・複雑化が進んでいる
3
大都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏)であり、対象事業は、道路、河川、鉄道、電気通信、電 気、水道、下水道等の公共性の高い事業となっている。
1.2.2 大深度地下利用の効果
大深度地下利用制度が法整備されたことにより、都市機能の強化等の目的に対して は、空間利用に関する手段としての新たな選択肢が加わったことになる。このため、
上下水道、電気、ガス、電気通信のような生活に密着したライフラインや地下鉄、地 下河川等の公共利益となる事業を円滑に実施することが可能になる。
大深度地下を利用する利点として以下のことが期待されている。
①権利調整ルールが明確にされることにより、上下水道、電気、ガス、電気通信の ような生活に密着したライフラインや河川、道路、鉄道等の社会資本の整備を円 滑に行うことができる。
②社会資本整備のために利用可能な空間が道路地下に限定されないため、計画立案 の自由度が高くなり、合理的なルート設定が可能となる。これによって、事業期 間の短縮、コスト縮減にも寄与することが見込まれる。
③大深度地下は、地表や浅い地下に比べて、地震に対しても安全であり、騒音・振 動の減少、景観の保護にも役立つこととなる。
1.2.3 大深度地下を利用した今後の社会基盤整備
今後の都市社会資本を整備する上で、大深度地下空間の果たす役割は大きいと考え る。例えば具体的な利用分野として、交通網の余力の確保によって渋滞や事故を抑制 すること、または地下放水路の構築によって水害を防止すること等々である。すなわ ち、地下空間を活用した広域幹線道路、鉄道、物流ネットワークの形成や、地下を活 用した災害時の道路、ライフラインの確保や河川の整備、防災施設や備蓄基地の整備 が考えられる。また、都心部における地下空間を活用したネットワーク、結節機能の 強化や都市機能の集積、地上における効果構造物等の地下収容における都市景観の修 復や地上でのオープンスペースの創出等が考えられる。
さらに、道路や鉄道、河川、物流等の良質な社会資本の効率的・効果的整備という 観点とともに、地下を活用して地上の都市空間の緑や水が再生されるという観点も重 要になる。このように大深度地下空間は、都市部における新たな利用空間であり、大 深度地下の利用により、魅力溢れる効率的な社会資本整備が可能となる。
4
1.3 地下利用の現状と課題1.3.1 都市部における地下の利用状況
大都市では、鉄道、電気、ガス、電気通信、上下水道等のインフラ設備が輻輳し埋 設されている。これらの施設は、主に公共用地である道路下に埋設されていることが 殆どで、例えば東京都区部の直轄国道道路下には、表
1.1
に示すように、道路1km
あ たり約36km
に及ぶ種々の設備が埋設されている。また、図1.2
には東京都下におけ る建設年と地下鉄深度の変遷を示す。これまでに地下に埋設された施設は、建設が容易な浅い場所から利用され、新たに 建設される施設は既存の施設より深い場所に設置せざるを得ず、年々その深度は深く なってきた。例えば、東京の地下では
50m
近い深さまで利用されるようになっている。このように都市部における地下の利用頻度は増加してきたが、都市部の深い地下の利 用が実現するようになった背景には、深い地下におけるトンネルや管渠を構築するた めの技術の飛躍的な進歩が挙げられる。
日本の多くの都市は、軟弱な沖積平野で発展しているが、軟弱地盤下でトンネルや 管渠を構築する際に用いられているシールド工法、推進工法の技術の向上等により、
深い地下での構築が実現できるようになったものである。また、シールド工法、推進 工法ともに大深度だけではなく、トンネルの大断面化も進展してきており、形状も単 円形以外に、複数の円を組み合わせた多円形や楕円形、矩形等、限られた地下空間で の用途に応じた合理的な断面での構築が可能になりつつある。
表
1.1 東京都区部の直轄国道道路下の埋設状況
1)事 業 総延長(km) 道路
1km
当たり埋設 キロ数(km)通信
2,831.7 17.6
上水道
366.1 2.3
下水道
309.1 1.9
ガス
325.2 2.0
電気
1,860.2 11.5
地下鉄
66.5 0.4
共同溝
105.4 0.7
合 計
5,864.8 36.4
5
図
1.2 東京都下における地下鉄深度の変遷
2)1.3.2 地下利用の問題
地下の利用状況について考えると、上述のように、道路等の公共用地の地下につい ては、既に多数の構造物が埋設されてきたが、長期のマスタープランが存在しなかっ たため、浅部から深部へと利用された。その結果、今日において新たに構造物を設け る場合は、既設構造物より深い場所に設けざるを得ない場合が多く認められる。さら に、線形に制約されるため、直線で建設する場合と比較してコストが増大することが 多い。一方、民有地地下の利用は未利用な場合が多く、地下利用ニーズの高まりに応 じた適切な基盤整備を考える上ではアンバランスな地下利用状況にある。
また、既存都市基盤の機能更新や再整備に目を向けてみると、大都市圏の地下施設 の代表例である地下鉄は、その開業から既に
60
年以上を経過しており、コンクリー ト構造物の寿命等を考慮すると、機能更新、再整備が必要とされる段階に至っている。しかしながら、地上および浅深度での再整備は困難な点もあり、これらの課題への対 応空間として大深度地下空間の活用に期待される。
1.3.3 大深度地下の利用事例
本項では、既に完成された大深度地下利用の実例を概説する。
(1)首都高速中央環状新宿線(道路)
首都高速中央環状新宿線は、都心から半径
8km
の環状道路となる中央環状線のう ち西側約11km
部分にわたり、池袋、新宿、渋谷の副都心を結ぶ地下を利用する高速 道路である。周辺地域の保全および有効な土地利用に対するニーズから、事業延長の 約7
割においてトンネル技術のシールド工法が採用された。12
の鉄道路線と交差する 等の非常に制約された条件下で建設が行われており、先に開業した都営地下鉄大江戸 線とは、中井駅~中野坂上駅間の約3km
で同時に整備されている。その一部として 完成した西新宿工区は、土被り30m、トンネル外径 13m
であり、都心では国内最大6
級の双設シールドトンネルが採用された。この路線の地上とアクセスするランプ部で は、本線のシールドトンネルを掘削後、地上から掘り下げてランプ部を施工する等、
新しい技術(弧状パイプルーフ工法等)が適用された 6)。図
1.3
および図1.4
に概要 を示す。図
1.3 首都高速中央環状新宿線
図
1.4 弧状パイプルーフ工法
(2)首都圏外郭放水路(河川)
首都圏外郭放水路は、都市部の進展や平坦な流域特性から、慢性的な浸水地域とな っている中川流域の浸水被害を解消するため埼玉県の東部で実施され、洪水時に中川 流域の河川の水を江戸川に配水する約
6.3km
の地下河川事業である。この放水路の建設は、国道
16
号線の地下約50m
を利用して行われており、流入施 設等となる5
つに立坑とそれを結ぶ4
本の内径約10m
のシールド工法によって構成 されている。一番深い立坑では、深さ140m
の地中連続壁が用いられている。この他 にも、急曲線シールドの採用といった新技術やシールド掘削による発生土のスーパー7
堤防の盛土への再利用といったリサイクル技術等が採用されている7)。図
1.5
に概要 をしめす。図
1.5 首都圏外郭放水路
(3)地下鉄大江戸線(鉄道)
地下鉄都営大江戸線は、平成
12
年に全線開通し、東京の西北部、都心部、下町地 域、山の手地域の11
の工区を結ぶ延長約40km
の地下鉄である。全38
駅のうち26
もの駅において、既存の地下鉄やJR
等の路線と連絡している。この線は既存の地下鉄等の下を通過せざるを得ず、深い地下を利用する工区が多か ったため、大部分がシールド工法により建設されており、シールドトンネルの本数は 全線で
78
本にも及んでいる。最大深度は飯田橋駅~春日駅間で、軌道の深さで地下49m
になっている。また、飯田橋駅や六本木駅でもシールド工法によって建設されて おり、ホームと軌道の空間を確保するため、円形を組み合わせた多円形シールド工法 が採用された。8
1.4 大深度利用に向けての技術開発課題 1.4.1 大深度の利用およびその課題前述したように、現状でも大深度地下に相当する深さの地下利用が進んできている が、地下施設は地上施設に比べ、地上環境への環境負荷が少ないという利点がある一 方で、通常その建設費は深度の増大と共に多くなる。また、地下鉄等では、駅部の深 さに起因した地上アクセスへの不便さ、乗換え駅における乗換え通路の複雑化等、大 深度地下特有の利用の不便さが顕在化してくる。したがって、都市再生を目的とした 地下利用や大深度法の利点を活かした地下利用、さらには純民間での地下利用構想は、
現状と比較し、より深く、より長く、より大規模となる条件に対し、利便性や建設コ ストをも考慮した適切な対応が必要となる。具体例には、大深度地下は通常の地下よ り深く、利用経験が少ない空間であることから、その活用に当たっては、施設の維持 管理、更新がこれまで以上に困難であることが課題として挙げられる。
1.4.2 課題の解決に必要な技術
現状と今後の地下利用の規模を踏まえ、大深度地下利用の実現に向けた諸課題を整 理し、現在の浅度利用と比較して見ると、大深度地下の建設や利用には以下のような 課題が挙げられよう1)。
①地上から施工することが困難 ②土圧、水圧が高い。
③強固な地山の掘削が必要
④地下水環境への悪影響 ⑤維持管理、施設更新が困難 ⑥建設費が高い。
⑦地上との連接点の限定、制限 ⑧アプローチ等の利便性の低下
⑨防災上の対応策が困難
これら中で、既往の技術の延長や小改良により解決できるものも多いと考えられる が、現状の技術を踏まえた更なる技術の改良や新たな開発が必要と判断される。さら に、公共の利用に供する施設の場合、最大の課題と考えられるのは、事故や災害時の 人命への対応策であることに異論が無いところであるが、本研究では検討の対象から 省く。
9
1.5 大深度での建設方法 -シールド工法および推進工法-
前述したように、大深度におけるトンネルや管渠の構築法は、地上へのアクセス部 分を除くと開削工法は論外であり、シールド工法や推進工法に依らざるを得ないと考
える 8),9)。そこで、これらの構築法としてシールド工法と推進工法に着目し、この両
工法の大深度地下での適用についての問題点や課題を抽出し、検討する。
1.5.1 両工法の概要と特徴
両工法とも軟弱地盤の非開削工法の主力として発展してきたものである。以下、本 項では両工法の歴史を含めて概要や特徴について概説する。
(1)シールド工法
シールド工法は、シ-ルドと呼ばれる鋼製の円筒状の掘進機を、自ら有する掘進用 のジャッキにより地中に押し込み、先端部で地山の崩壊を防ぎながら掘削を行い、シ ールド後方部で掘削断面を支保する覆工(セグメント組立)を繰り返し、その覆工を 掘進用ジャッキの反力受としながらトンネルを掘り進んでいく工法であり、仕上がり 内径は通常で
1,350mm~14,000mm
程度である。シールド工法の歴史は、1818年にフランス人
M.I.Brunel
が船喰い虫の生態からヒ ントを得て開発した工法に始まり、実際にシールド機を使用したのは1825
年のロン ドン・テムズ川の川底下の横断道路トンネル工事に採用され、成功したことを嚆矢と する10)。この後、鋳鉄製の覆工材、地下水を遮断するための圧気工法(1915年)、掘 進用油圧ジャッキが採用されるようになり、また、覆工材組立て用のエレクタや切羽 を抑えるフェースジャッキも発明され、掘進速度も飛躍的に向上し、19
世紀末にはシ ールドトンネルの掘削が手掘りから機械掘りに進んでシールド工法の基本が確立され ている。以来、連綿と種々の改良が続けられて現在に至っている。我が国においては、
1920
年代の折渡トンネルおよび丹那トンネル工事における試用 期を経て、1936
年に手掘り・圧気シールド工法が関門海底トンネルに採用された11)。 地下鉄等の都市土木では、1960
年の名古屋市のトンネル工事が最初である。その後下 水道や電力、上下水道、通信等の比較的小口径のトンネル工事に用いられるようにな り、大阪市で機械式シールド(1963年)、東京都でブラインドシールド(1965年)が 用いられた。この頃まではシールド工法には圧気工法が併用される場合が多かったが、超軟弱で地下水の豊富な地山では、さらに薬液注入工等の補助工法を併用する場合が 多かったため、切羽の安定を重視して密閉型シールド機の開発が進められ、泥水式は
1964
年に埼玉県で、1974年には土圧式が東京都で採用された。また、1969年には、密閉型シールド機で隔壁を設けることにより切羽圧や裏込め注入圧の自由な制御が可 能となり、補助工法を必要とせずに地山の安定を保つことが可能となった。
図
1.6
にシールド工法の施工概要図を示す。シールド工法は開放型手掘り式シール ド機から始まるが、密閉型機械掘り式の開発によって、適用土質の拡大、補助工法の10
軽減、作業効率の向上、作業環境の改善が図られている。シールド工法は組み立てた セグメントに反力を取りシールド機を推進させるため、施工延長に制限が少ないこと とともに、急曲線施工も可能であることから立坑間隔を大きく取ることができる。ま た、推進工法よりも道路交通への影響や建設公害が少なく、さらに、二次覆工を行う 場合、施工精度の確保が容易であること等の利点を有している12)。
図
1.6 シールド工法施工概要イメージ(密閉型、土圧式)
(2)推進工法
推進工法は、「推進管の先端に先導体を取り付け、発進立坑内に推進力の反力受け を設置し、ジャッキの推進力により推進管を地中に圧入して、刃口部で土砂の掘削・
搬出を行いながら、順次推進管を継ぎ足して管渠を敷設する工法等」と定義されてい る10)。推進工法は、内径φ
150mm~700mm
の小口径推進工法と人間が入ることがで きるφ800mm~3,000mm の中大口径推進工法に分類されている。推進工法の先導体 は、自らの推進装置を持たず、発進立坑で推進管を継ぎ足してジャッキにより管を押 すことで掘進力を得て進行し、地山掘削は人力あるいは動力(掘削機)で行われる。推進工法の歴史は、
1896
年のアメリカ北太平洋鉄道軌道下の排水管横断工事に始ま り、これ以後の既設鉄道下の横断鋳鉄管を押し込む工事に採用された13)。欧州におい ては、第二次世界大戦後、1950
年代に推進工法の技術は多くの国で用いられ、その中 でもイギリス、ドイツ等で積極的に採用された。我が国では、1948年の国鉄福知山線の軌道横断工事(ガス管のさや管としてφ600
を
L=6.0m)に初めて手掘り式(刃口式)推進工法が採用され、この後、中押し工法
(1953年)、動力式ジャッキ装置(1959年)の実用化、続いてホリゾンタルオーガ(1963
11
年)の導入、フロントジャッキング工法およびセミシールド工法(1965年)の開発等 の技術革新が成されてきた 14)。また、シールド工法において、1961 年にフランスで 泥水式が考案され、
1972
年に日本で土圧式が開発されると、このシールド工法の技術 が推進工法に転用され、1981 年には泥水加圧推進工法の開発と施工開始に始まり、1986
年には曲線施工能力を飛躍的に向上させた高濃度泥水加圧推進工法が開発され た。現在では元押しのみで1,000m、曲線半径 10m
の施工も可能となっている。一般 に、地下構造物の有効径3m
程度以下で施工距離500m
程度までにおいては、シール ド工法に比べて安価な場合が多いため、現在では地下構造物の敷設施工法としての地 位をほぼ確立している15)。図
1.7
に推進工法の施工概要図を示す。推進工法は既製管(推進管)を立坑から直 接推進・敷設することから、開削工法とシールド工法の双方の特長を有している。一 方、管材の強度やジャッキの能力により推進距離が制限されるため、シールド工法に 比べて一般に立坑数が増加するとともに、曲率半径の大きな単純曲線の施工以外は直 線施工が中心となる等の弱点がある。また、施工期間中は、管が移動し裏込め注入が できないので、周辺地山の沈下や移動の防止に留意する必要がある。図
1.7 推進工法施工概要イメージ(開放型、刃口式)
(3)両工法の比較
両工法を比較して、主な相違点を整理すると表
1.2
に示すようである。12
表
1.2 推進工法とシールド工法の比較
1.5.2 考慮すべき技術的な検討項目
前節で述べた大深度地下構造物の建設や利用の諸課題についての両工法の具体的 な技術的項目を列挙すれば以下のようであろう16)~20)。
①覆工材(セグメントおよび推進管)の耐久性
大深度地下施設の維持管理の困難さに配慮して、覆工材の耐久性や維持管理に関 する技術開発が必要と考えられる。すなわち、高耐久性のセグメントや推進管の 耐久性設計手法の開発が考えられる。
②シールドおよび推進工法の設計技術
より合理的に大深度地下でトンネルを構築するためには、堅固な大深度地下の地
推進工法 シールド工法
掘削機構 ジャッキの推進力を発進立坑内の 支圧壁等により反力をとり、推進管 を圧入して掘進する。
シールド機に装備されたジャッ キをセグメントに押付けて反力 をとり、掘進する。
覆工材 推進管 セグメント
テール ボイド
施工時:滑材を注入 到達後:裏込め材充填
裏込め材を充填
掘削径 断面形状
内径
150mm~3,000mm
円形、矩形外径
2m~14m
程度円形、複円形、楕円形、矩形 線形 可能ではあるが、急曲線には適さな
い。
曲率半径/シールド外径=3程 度までの急曲線が可能。但し補助 工法が必要
施工延長 推進抵抗が増大するため、シールド 工法に比較して施工延長は短い。最 近は滑材や掘進機の改良により、
1km
超の実績がある。6km
を超える長距離施工の実績 がある。(電力、鉄道等)適用地質 シールド工法と比較すると、礫や粗 石に対する適用は困難であるが、最 近はこれらの地質に対しても実績 が増えてきている。
未固結地山から粗石層まで適用 範囲は広い。最近は岩盤に対する 実績も多い。
工事規模 シールド工法に比較して、小~中規 模
推進工法に比較して、中~大規模
建設費用 同じ工事規模であれば、シールド工 法に比較して低い
同じ工事規模であれば、推進工法 に比較して高い
13
山特性や高圧地下水を適切に考慮した設計手法の開発が必要と考えられる。すな わち、大深度地下シールドおよび推進工法での実測データに基づく既往の設計手 法の検証と適切な地山特性評価手法の開発が必要と考えられる。
③地下水制御技術
地下開発に伴う地下水の変動は井戸枯れや地盤沈下につながるため、地下水の変 動を適切に調査、計測し対策を行うための技術開発が必要である。すなわち、地 盤沈下や地下水変動を回避するための地下水モニタリング技術や覆工材の止水 技術の更なる開発が必要と考えられる。
④長距離掘進技術
大規模な地下施設を効率的に構築するためには、シールドおよび推進工法の長距 離化に向けた技術開発が必要と考えられる。すなわち、掘削ビットを含む各機器 の高耐久化による長距離対応掘進機の開発等が必要と考えられる。
⑤新しい掘削技術
より合理的に大深度地下施設を構築するためには、大深度地下の地山特性に配慮 した、新しいトンネル構築技術の開発が必要と考えられる。すなわち、種々の地 山に対応した複合地質型掘進機の開発や山岳工法とシールド工法やシールド工 法と推進工法を組み合わせた新しい掘削方法の開発が望まれる。
⑥多断面トンネル技術
大深度地下空間を効率的に利用するため、単円形以外の断面形状のトンネルを合 理的に構築するための技術が必要と考えられる。すなわち、単円系に対し、多円 形シールド工法や推進工法を用いて単円や矩形断面を連続的に連ねてルーフを 形成し、任意の断面形状を構築できる掘削技術の開発が考えられる。
14
1.6 大深度シールド工法・推進工法での検討課題および既往の研究
大深度を想定した場合の両工法の技術的検討課題について調査すると 21)~29)、先述 してきたように、先ずは浅度~中深度に比べて高い土圧や地下水圧、さらには沖積層 下の基盤層の掘削等々が予測されるので、施工段階から供用後までのこれへの対処法 に関連する事項であろう。主なキーワードを挙げると、地山保持、地下水、先導機(掘 削機、掘進機)、覆工材(セグメント、推進管)、連続施工距離、充填材、止水法等で ある。この視点からシールド工法を改めて見ると、大深度法施行以前からを含めて既 に数多くの実績があり、さらには山岳トンネルの実績も加わり、理論的な解明も含め て技術的問題に対して改善・改良が進められているため、大深度施工に関する課題は 少ないと考える。一例として被圧地下水の問題を挙げれば、図
1.8、図 1.9
に示すよ うな地下水圧下での工事実績がある。この地下水圧は掘削地山の圧力にも通じる。
図
1.8 泥水式シールド施工実績
21)
図
1.9 土圧式シールド施工実績
21)15
一方、昨今の推進工法では、その施工技術全般においてシールド工法の技術を取り 入れて発展してきているが、推進工法であるが故の特有の施工法、すなわち「覆工材
(推進管)が施工期間中常に掘削地山中を進行可能でなければならず、また掘削の押 し付け力も覆工材によって伝達される」という施工法のため、シールド工法とは異な った検討も必要である。この視点から大深度での推進工法を見ると、施工実績がほぼ 皆無のため浅度の実績から予想せざるを得ないが、掘削技術としての推進力の確保(施 工可能距離)、推進力の摩擦低減、テールボイド領域の形成と維持、施工時の周辺地 山の沈下や移動の防止、等々に解決すべき課題が残っていると判断される。なお、こ こでテールボイドとは推進管の外周面と地山と隙間の呼称である。
以上の観点から本研究では、推進工法の技術的課題に目標を絞った。以下、推進工 法特有の代表的課題について概説する。
1.6.1 推進工法における推進力の確保
推進工法において推進力の確保を可能にするためには、充填材(滑材)とその注入 システム、さらにテールボイドの適切な形成と保全、等の技術が必要である。ここで、
滑材は推進管外周面と地山の摩擦を減じるため、両者間の境界に注入、充填されるも のである。また、テールボイドは推進工程を円滑かつ適正に管理する上で最も重要で あり、推進期間を通じての維持・管理が推進工法の成否を左右することは広く認識さ れている。
推進工法では、掘進機に地下水圧および土圧を受け、この圧力に対して掘進中はジ ャッキの推進力で対抗している。しかし、推進管をセットする際、一時的にジャッキ を引戻すため、切羽前面に作用している圧力により掘進機・推進管が後退する。この ため、掘進機前面に空域が発生し、水圧・土圧に対抗した圧力が保持できなくなり、
切羽が崩壊する状況が発生する恐れもある。したがって、テールボイドの確保ととも にこのような状況への対応も必要となる。
推進工法は、最近まで工学的に脚光を浴びてこなかったためか、既に数多くの施工 実績はあるものの系統的かつ普遍的な検討が見られず、現場経験に依っている部分が 多いのが実状であった。また、地山の安定性、低推進力システム、低推力泥水の開発 等の多くの未解決課題が残され23)、長距離化・急曲線化、さらに大深部化の要求に伴 い、これらの解明への現場からの要請も大きくなっている。このような背景から、推 進工法においては、推進開始から、推進中および推進終了後まで半永久的に周辺地山 の安定性が確保され、安全でかつ効率的な施工が行うことができるような施工指針確 立のための知見が強く求められている。
1.6.2 推進工法における地山への影響
一般に推進工事は、シールド工法と同様に、既設の他のトンネル、ガス管や水道管
16
等の地下埋設物、ビルや鉄道・橋梁等の各種重要施設物の基礎等と近接・交差して施 工されることが多い。さらに地上には各種施設・道路等が密集している。したがって、
掘進に際してはこれらの近接構造物に変状を与えないことが厳しく要求されている。
近年技術力も向上し、年々難しくなる地質条件、施工条件を克服できるようになって は来たが、施工に伴う沈下問題の解決は未だ十分とは言えず、古くて新しい課題とし て残されている24),25)。
シールド工法や推進工法における地山変状の実態に関しては、掘削に伴う地山変状 の要因として、直接的・間接的な要因が複数に重なり、掘進や裏込め注入等の工程に よる時間の経過とともに段階的に生じると考えられている16),26)。シールド工法の掘進 による周辺地山に及ぼす影響は、図1.10、図1.11のように模式的に示されているが、
推進工法においても同様である。また、図1.12には泥水式推進工法の縦断面方向の地 山の変位のイメージを示す。
図1.10 シールド横断方向に伴う地表面変位26)
図1.11 切羽周辺の地山における変位の三次元イメージ20)
シールド工法は、一次覆工となるセグメントの組立機構やテールシールの必要寸法 のため100mm~150mm程度の大きなテールクリアランスを必要としている。一方、
推進工法はテールボイド厚さが30mm~50mm程度であり、シールド工法と比較した 場合、地山の沈下に対し有利とも考えられるが、通常シールド工法はセグメントの組
17
立直後から地山の弾性変形内で裏込め充填が可能であるため、掘進に伴う塑性変形が 発生する前に地山の沈下を抑止することができる。一方、推進工法ではテールボイド を維持し続けなければならず、この抑止策は採れない。
図1.16 推進工法における地山の挙動図
図1.12 泥水式推進工法の縦断面方向の地山の変位のイメージ27)
昨今のシールド工事における施工検討の際に発生する地山の挙動について、有限要 素法を用いた数値解析によって予測することが盛んに行われている。それらの多くは、
シールド工事を平面ひずみ問題として取扱い、周辺地山の変形に影響を及ぼす様々な 条件因子をモデル化したものである。すなわち、切羽面における切羽力と土圧の釣合 い状況、切羽面の切削状況、掘進に伴う地山の変形状況、掘進機周面とそれに接する 地山の摩擦、テールボイドの発生および裏込め注入等の様々な要因を考慮した有限要 素法解析が行われ、施工に伴い発生する地山の変形挙動の予測に多大な成果を挙げて
いる28),29)。しかしながら推進工法は、シールド工法の切羽面における切羽力と土圧の
釣合い状況は類似しているものの、推進立坑から元押しジャッキのみで推進管を埋設 するという点で大きく異なり、推進管は施工が完了するまで常に移動するため、シー ルド工法における解析をそのまま適用することは出来ないと判断される。したがって、
この推進工法特有の条件因子を考慮した解析が必要と思われる。
1.6.3 推進工法における推進管の課題
推進工法に供用される推進管は、特殊な場合を除いて規格型の汎用市販品である。
その使用の規格や安全性については、現在は未だ大深度での使用が考慮されていない が、日本下水道協会が定めた規格値を以て検討が行われ、選定されている30)。製作工 場での製品検査は強度および水密性の安全照査であり、鉛直荷重に対する管の耐荷力、
継手部の水密性と管本体の耐水性能、推進力に対する管の許容耐荷力、内水圧に対す
18
る耐圧性である。鉛直荷重に対する管の耐荷力については、最も多く使用されている鉄筋コンクリー ト管等の剛性は、通常、鉛直方向の耐荷力を管の外圧強さ(ひび割れ荷重;0.05mm 幅のひび割れが生じた時の荷重)より求まる管の抵抗曲げモーメントと管軸方向のコ ンクリートの許容圧縮応力度で求まる許容耐荷力により、その安全性が検証されてい る30)。図
1.13
にこの外圧試験図を示す31)。また、管に作用する鉛直等分布荷重は上 載荷重を考慮した緩み土圧の概念で検討され、管の安全性は鉛直等分布荷重と等しい 地山の反力が支承角120°の範囲に作用するものとして管底部の最大曲げモーメント
で比較検証している。しかし、地中埋設管に加わる土圧を正確に予測することは困難 であり、土質や管側部の緩みの状況によっては、最大断面力が発生する場所が一般的 概念とは異なる場合がある恐れもあるため、側方土圧、地山の反力による断面変形の 抑止等を勘案したモデルによる検証方法も有効であろう32)。さらに、土被りが大きい 場合には、大きな土圧や水圧以外に施工時の荷重としての注入圧を考慮した材料設計 を行うことが考えられている33)。したがって、大深度施工に当たっては、各荷重因子 における現象の差異や組み合わせにおける適切なモデルを設定して、規格型推進管の 安全性の再検証が必要と思われる。推進力に対する管の許容耐荷力については、鉛直土圧による荷重の増加で必然的に 推進力も大きくなるため、鉛直荷重に対する管の耐荷力と同様に、大深度施工時にお ける荷重状況や所要推進力を想定したモデルにより管の安全性についての再検証が必 要である。
図
1.13 推進管の外圧試験図
1.6.4 推進工法における充填材の課題
既に繰り返し述べたように、推進工法では、掘進機を含めて推進管全体が施工完了 まで移動しなくてはならないため、推進管周面にある一定の厚さのテールボイドを確 保し、その中の充填材(滑材)による推進力低減を図る必要がある。推進管周囲の充 填材(滑材)の位置関係を図
1.14
に示す。非開削工法として推進工法が信頼性を高め広く普及するためには、掘削に伴う周辺
19
地山への影響を極力抑制した施工が要求されるため、現在にも増してテールボイドの 保持および推進力の低減を図ることが重要な課題となる。すなわち、推進工法におけ る管体の施工において、テールボイド領域を確実に確保・維持することが推進力への 影響抑制と地盤沈下など周辺地盤への影響回避となると考えられ、テールボイド領域 への適切な機能を持つ充填材の注入が必要となる34)。
しかし、在来の充填材で周辺地山の変位抑制機能と推進管外周の摩擦抵抗機能の両 機能を満足するものはなく、必要に応じて補足注入や補助的な装置や手法の工夫によ り補っているのが現状である。施工条件がより厳しい大深度施工に適用される充填材 は、現在以上に上記の機能を満たすことが要求されると思われる。したがって、新た な充填材の開発、あるいは現充填材の改良は必要不可欠であると考える。また、新開 発や改良された充填材の効果的な注入法や注入装置についても創意・工夫が必要であ ろう。
支持圧 土圧
推進管 支持溶液(滑材)
20
1.7 本研究の意義と目的以上本章で種々調査、検討してきたように、昨今の推進工法は、長距離・急曲線の 施工技術が基本的にはほぼ確立し、また施工時に使用する継手の水密性が急速に向上 したことから、能力的には大深度での施工も可能と考えられている。推進工法はその 固有の特徴として、掘削機および推進管が施工完了まで地山を移動しなければならな いため、管周辺の摩擦力を低減させる目的でテールボイドを形成させ、その中に充填 材(滑材)が注入される。既に、このテールボイドの形成と維持が推進工法の成否を 支配することは広く認識されており、大深度でも同様であると考える。一方、テール ボイドの形成に伴い地山の応力解放が継続する側面もあるため、大深度施工において は周辺地山の安定性等の解決すべき課題が挙げられる。したがって、大深度への推進 工法の今後の適用拡大のためには、テールボイドに関する理論・解析・施工という一 連のシステムを理論体系として構築し、かつ系統的データの蓄積が望まれるとともに、
実際の施工における施工技術や施工材料の確立が必要であると考える。
そこで本研究では、大深度施工におけるテールボイドの挙動が推進力に与える影響、
種々の地山条件に推進工法を適用した場合の施工に伴う推進力や周辺地山に対する影 響と推進力低減のための充填材の注入効果、また施工完了後に注入される充填材の機 能を具備したグラウト材注入による地山改良効果等の施工技術、さらに大深度施工に よる周辺地山への影響の軽減を図るために必要な機能を併せ持つ充填材の開発ならび に施工に関わる技術的指針を提示し、推進工法を利用した大深度地下空間掘削施工技 術の構築を目的とした。
以上のような目的を達成するために、本研究では、①テールボイドの実情および評 価、②推進工法施工時の地山の挙動解析、③推進管の適応性評価、④新たな充填材の 開発、という研究項目を設定してその解決を図った。本論文は,これらの研究結果を 取り纏め,推進工法の大深度への適用についての施工技術の構築指針を提示したもの である。
21
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28) 赤城寛一・小宮一仁:有限要素法によるシールド工事の施工過程を考慮した地盤
挙動解析,土木学会論文集, No.481, pp.59-68,199329) 岩野政浩・大塚 勇・小原伸高:トンネルの設計,大成建設㈱土木本部土木設計
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pp.25-304,2009
34) マックス・シェルレ:推進工法の理論と実際,土木工学社,pp.4-7,2001
23
第2章 大深度施工に向けたテールボイドの実情および評価
2.1 緒 言
前章で述べたように、推進工法は、掘進機を含め推進管全体が施工完了まで移動し なければならないことから、推進管周面に適切にテールボイドを確保し、滑材等によ る推進力低減を行う必要がある。推進工法が注目される今日、この管周面抵抗の低減、
およびテールボイドの保持を行うことを目的とした滑材の開発や、施工に伴う周辺地 山への影響等の研究が行われ始めている 1)。テールボイドに充填される滑材は、推進 管背面の状態に大きく左右され、注入後の効果確認も極めて困難である。推進工法は 既に多くの施工実績があるにも拘わらず、未だ施工時のトラブルも多く、地山の安定 性や低推進力システムに関しても未解決の課題が多く残されている。この一因には、
推進工法が既成の推進管を地中にジャッキを用いて押し込むという単純な発想から誕 生した工法で、これまで実績経験のノウハウにより進歩してきたことにあるとも考え られる 2)。今後、益々の長距離化・急曲線化および大深度施工といった推進工法の普 及のためには、これらの課題解明に取組み、施工者からの要請に対応していくことが 必要であろう。
既に、推進工法を用いて良好な施工を行うためのポイントは、推進工法の最大の特 徴となる掘進機が到達地点に達するまで管全体が地中を移動することによる推進管周 面での抵抗や地山の変状抑制に在ると認識されている。この知見は、大深度施工にお いても同様であると考えられるため、大深度の推進施工現場のテールボイドの状態と 推進に伴う推進力の予測、さらには地山変状を把握しておく必要がある。すなわち、
大深度での推進工法の利用を拡大するためには、テールボイドに関する理論・解析・
施工における一連のシステムを理論体系化することや系統的データの蓄積が要求され る。また、大深度での推進では、土被りが大きいために、テールボイドが崩壊して推 進管と地山が接触すると推進力が急増し、施工継続が不可能になる。この回復には、
新たな立坑を構築する必要があり、多大なるコストを費やすことになる。このことか らも大深度施工においては、現在にも増して精度よく推進力を評価することが重要と なる。
以上の観点から本章では、土被り
20m
以深での施工実績データを整理し、その推進 力算定式から得られる推進力と実績データの比較により、大深度推進において必要と 推定されるテールボイド機能について検証する。また、大深度地下でのテールボイド の変形性と推進距離に対するテールボイド変形の関連性についても現場実績データと の比較により検討する。24
2.2 テールボイドの機能推進工法での施工においては地表面沈下、陥没をはじめ既設構造物等に影響を与え ず、要求された品質を有する管の敷設が求められる。したがって、推進管全体を確実 に推進するためには、設計した線形を逸脱することなく、切羽崩落、掘削土砂の過剰 取り込み、裏込め注入不良による地山変状の抑制、推進管のクラック等の損傷、等々 を回避しなければならない。これらを実現するため、現在では一般に推進管の周辺部に
30mm~50mm
程度のテールボイドが掘削され、この箇所に滑材の加圧充填が行われている。図
2.1
および図2.2
に推進工法およびそのテールボイドの概念図を示す。テールボイドの基本的機能は下記のようである 3)。
①滑材を充填したテールボイドは、掘進中テールボイド内に保持されなければなら ない。また、地山が管に接触しないように、滑材は地山の土被り圧を支持しなけ ればならない。このためには、土被り圧に対応してテールボイドに充填される滑 材の注入圧を適切に保持する必要がある。
②テールボイドの形成・維持のためには、掘削外径を推進管外径より一定量以上掘 削し、地山が管に接触し土被り圧が作用する前に滑材を加圧充填しなければなら ない。一旦、推進管に土被り圧が作用すると、これを取り除くことは困難となる。
また、周辺地山に賦存する土粒子が推進管と接触した場合、管周面抵抗は滑材の 補足注入等では効果的に推進力が低減せず、急増する恐れがある。
図
2.1 推進工法の概要
25
図
2.2 テールボイドの概要
滑材浸透範囲 推進管
滑材
皮膜
26
2.3 施工時におけるテールボイドの評価前述のように、テールボイドの最も重要な機能は推進管のスムーズな推進の確保に 在る。そこで本節では、推進力の算定に係わる種々の検討を行う。代表的な推進力算 定式は、先端切羽抵抗と管周面抵抗の和として表される。特に、大深度推進施工の場 合、被圧水による先端抵抗値や上載荷重等により先端切羽抵抗は大幅に増大すると予 想される。そこで、現在用いられて推進力算定式と現在までの実績データを比較する ことにより、大深度地下での推進施工に伴う推進力の増加傾向とテールボイドの状態 に関する評価を行う。また、推進力算定式は、推進工法の計画、設計、施工に渡り最 も重要な事項であることから、テールボイドの評価結果をもとに、算定方法の問題点 を併せて抽出する。
2.3.1 推進力算定式の検証
密閉型推進工法における推進力は、
1983
年に日本下水道協会および日本下水道管渠 推進技術協会により、掘進機前面の抵抗と推進管の移動における管周面抵抗の和で算 定することが提案された。この経験的に導かれた算定式を(2.1)、(2.2)式に示す 4)。ま た、滑材の効果による管外周面抵抗値R
を表2.1
のように定めた。
F
= F0+(R・S+W・f) × L(2.1)
F
0 = (Pe+Pw) × (B
c/2)
2×π
(2.2)
ここに、F:所要推進力(kN)F
0:先端抵抗(kN)S:管外周長(m)
R:管外周面抵抗値(kN/m
2)(土質により区分、滑材注入で低減が可能)
W:管の単位重量 (kN/m)
f:管の自重による摩擦抵抗(= 0.2) L:推進距離(m)
P
e:切削抵抗(kN/m2)
P
w:チャンバー内圧力(kN/m2)
B
c:掘削機の外径(m)
表
2.1 土質別における R
値 シルト混じり砂層 3.0~10.0(kPa)砂 層 4.0~16.0(kPa)
砂礫層 5.0~12.0(kPa)
粘土層 3.0~15.0(kPa)
27
しかし、この式は土質別における
R
値の範囲も広く、精度的には不十分なものであ ることが認識されてきた。すなわち、その後、施工技術の開発および改良や様々な土 質や施工条件での実績が蓄積された結果、算定式より得られる推進力と実際の推進力 との間に大きな差異が認められるようになった。例えば、推進力の算定には、先端抵 抗よりも管周面における摩擦抵抗力に大きく依存し、かつ推進延長に比例すること等 が経験的に明らかとなった。また、推進力のバラツキは、土質条件等の施工環境が影 響するが、近年では工事従事者個々の経験的判断により、滑材による推進力の低減等 の施工管理方法によっても差異が生じている。表2.2
は、推進管の外周抵抗力の影響 要因とバラツキの原因について調査し、要約したものである5)。近年、所要推進力は漸次低減の傾向を見せているが、この要因を列挙すると以下の ようである5)。
表
2.2 推進管の外周抵抗力の影響要因とバラツキの原因
項 目 影響要因 バラツキの原因
土質要因
・土質
・粒度構成(礫の含有率)
・土の密度
(締固まった土、緩い土 )
・土質分布、地盤構成
・地山の崩壊性
→ 滑材充填の不均一性
・土圧の時間的変化
・土質調査データと実際のズレ
・推進力算定式の適用限界
・複合した地盤における土圧算定式の不適合
施工条 件的要因
・外径
・土被り厚さ
・推進距離
・テールボイド
・曲線有無
・中押し有無
・土の緩み高さ(土圧)
・土圧の大きさ
・滑材の地山への浸透、品質低下
・滑材の充填性
・曲線部における推進抵抗力の上昇
・中押し工法の場合は推進力が上昇
滑材注入 要因
・滑材
・滑材注入方法
・滑材注入管理方法
・滑材と土質との適合性
・滑材注入設備、注入方法
・注入ポンプの制御方法、注入タイミング、
注入量等 施工的
要因
・掘進精度
・トラブルによる 停止時間
・蛇行による推進抵抗力の上昇
・初動推進力の上昇
人的要因 ・注入管理
・施工の巧拙
・注入管理の濃密度
・トラブル、掘進精度