生物発光関連複素環構造を基盤とした
新規蛍光色素の開発研究
八谷 聡二郎
電気通信大学
2010 3 月
生 物 発 光 関 連 複 素 環 構 造 を 基 盤 と し た 新 規 蛍 光 色 素 の 開 発 研 究 八 谷
生物発光関連複素環構造を基盤とした
新規蛍光色素の開発研究
八谷 聡二郎
電気通信大学大学院電気通信学研究科 博士(理学)の学位申請論文
2010 3 月
生物発光関連複素環構造を基盤とした
新規蛍光色素の開発研究
博士論文審査委員会
主査 平 野 誉 准教授 丹 羽 治 樹 教授 石 田 尚 行 教授 加 固 昌 寛 准教授
安 井 正 憲 准教授
著作権所有者
八谷 聡二郎
2010年
Development of New Fluorescent Dyes Based on Bioluminescence-related Heterocycles
Sojiro Hachiya
Abstract
Fluorescent dyes are widely used in applications such as fluorescent sensors for live-cell imaging and light-emitting components for organic light-emitting devices. Many fields depend on advances in new fluorescent dyes. Fluorescent dyes based on bioluminescence are promising because of their high-performance for light generation. Aminopyrazine is the core structure of the bioluminescence-related compound ethioluciferamine, derived from the ostracod Cypridina, and AF-350, derived from the jellyfish Aequorea. Aminopyrazines are also useful precursors for preparing bioluminescent substrates and light-emitter compounds. In addition, Cypridina oxyluciferin and coelenteramide are the light-emitter compounds for these bioluminescence systems. These light-emitter compounds have an amidopyrazine core structure.
At first, I have attempted to prepare new fluorescent dyes by modification of an aminopyrazine derivative and an amidopyrazine derivative. Although I tried to prepare 9,10-dihydro-1,4,5,8,9,10-hexaazaanthracene as one of my target compounds by palladium-catalyzed C–N cross-coupling reactions using 3-bromoaminopyrazine. A fluorescent nitrogen-rich heterocycle, bis(pyrazino[2',3':4,5]imidazole)-fused 1,2,5,6-tetrahydro-1,4,5,8,9,10- hexaazaanthracene (BPI-HAA) was serendipitously generated. I describe herein the synthesis and fundamental properties of the new heterocycle, BPI-HAA.
Next, I attempted to modify the chemical structure of amidopyrazine using the methodology for preparing boron dipyrromethene (BODIPY). I then successfully prepared new boron-containing fluorophores, difluoro[amidopyrazinato-O, N]boron (APB) derivatives, by the reactions of amidopyrazines with BF in the presence of an organic base. In the thesis, I describe the synthesis,
生物発光関連複素環構造を基盤とした新規蛍光色素の開発研究
八谷 聡二郎
和文概要
蛍光色素は生体内イメージングの蛍光プローブや有機ELの発光材料として生物 科学や材料科学など広い分野で利用されている。従って、新しい蛍光色素の開発は科学 技術発展のための重要な研究課題である。著者は蛍光色素開発にあたり生物発光関連化 合物に着目した。生物発光は効率良く光を生み出す分子システムであり、関連する複素 環構造を化学修飾することで新たな蛍光色素の開発が可能であると考えた。本論文では、
海洋発光生物ウミホタルの発光に関連するアミノピラジン及びアミドピラジン構造を 基盤として新規蛍光色素の開発を目指した。その結果、ビス(ピラジノイミダゾ)ヘキ サアザアントラセン誘導体及びアミノピラジナートボロン誘導体の合成に成功し、これ らの分子構造や蛍光特性、電子構造についての分子基盤を明らかにした。
目次
第一章 序論
1-1 有機蛍光色素 1
1-2 生物発光から新規蛍光材料の可能性 5
1-3 本研究の目的 8
第二章 ビス(ピラジノイミダゾ)ヘキサアザアントラセンの開発
第一節 序論 10
第二節 合成
2-2-1 3-ブロモアミノピラジン誘導体の合成 12
2-2-2 パラジウム触媒を用いたC-Nカップリング反応 13
2-2-3 パラジウム触媒を用いたC-Nカップリング反応の条件検討 17
2-2-4 BPI-HAA、PI-HAA誘導体の溶液中における安定性 20
第三節
X
線結晶構造解析21
第四節 分光学的性質の評価
2-4-1 BPI-HAA誘導体の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル 25
2-4-2 PI-HAA誘導体の紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル 28
2-4-3酸及び金属イオン添加によるBPI-HAA誘導体の
紫外可視吸収スペクトルの変化 30
第五節 酸化還元特性の評価 32
第三章 アミノピラジナートボロン (APB) の開発
第一節 序論 40
第二節 合成
3-2-1 無置換APBの合成 43
3-2-2 5-フェニルAPB誘導体の合成 44
3-2-3 8-フェニルAPB誘導体の合成 45
第三節 X線結晶構造解析
3-3-1 無置換APBのX線結晶構造解析 46
3-3-2 5-フェニルAPB誘導体のX線結晶構造解析 48
第四節 分光学的性質の評価
3-4-1 5-フェニルAPB誘導体の分光学的性質 53
3-4-2 8-フェニルAPB誘導体の分光学的性質 60
3-4-3 5-フェニルAPB誘導体の固体状態における分光学的性質 64
第五節 酸化還元特性の評価 66
第六節 量子化学計算による基本的性質の考察
3-6-1 5-アリールAPB誘導体の分光学的性質の考察 70
3-6-2 8-アリールAPB誘導体の分光学的性質の考察 72
第七節 結語 74
第四章 結語
75実験の部
76参考文献
167第 第 第
第一 一 一 一章 章 章 章 序論 序論 序論 序論
1-1
有機蛍光色素有機蛍光色素有機蛍光色素有機蛍光色素有機蛍光色素は生物科学や材料科学などの広い分野で利用されている1)。例えば、材 料科学の分野では、最近注目を集めている有機発光ダイオード(
Organic Light Emitter
Diodes, OLEDs
)の発光層に利用されている。OLEDs
は従来の製品に比べ、高いコンストラスト比、広い視野角、軽くて薄いといった特徴が挙げられ、次世代のディスプレイ として期待されている。さらに電極にも伝導性ポリマーなどの有機材料を用いることで、
折り曲げられるディスプレイといった今までの無機材料では持たせることのできなか った性能を持たせられる。
Fig. 1-1
にOLEDs
の一般的な構造を示した。OLEDs
は電圧 をかけることで、電子がカソード(cathode)
から電子輸送層(electron transport layer)
を通っ て発光層(emission layer)
へ行き、正孔(hole)
がアノード(anode)
から正孔輸送層(hole
transport layer)
を通って発光層へ行く。電子と正孔が発光層で電荷再結合(charge
recombination)
することで、発光層に存在する発光色素が発光する。OLEDs
の発光層には、電子または正孔の移動度が高いホスト材料に少量の蛍光色素をゲスト材料として導 入する方法が良く取られている。ゲスト材料には、高い蛍光量子収率を持ち、長期間使 用に耐えうる耐久性、正孔輸送層と電子輸送層からのホールと電子を受け取ることので きる適切なイオン化ポテンシャルと電子親和力を持つことが望まれる5)。
Scheme1-3
にOLEDs
の発光層に用いられている蛍光色素の例を示した。ペリレン(Perylene)
は青、キナクリドン
(quinacridone)
は緑、ルブレン(Rubrene)
は赤として発光層のゲスト分子に用い ら れ て い る 。 ま た 、 ト リ ス(8-
ヒ ド ロ キ シ キ ノ リ ン)
ア ル ミ ニ ウ ム(
Tris-(8-hydroxyquinoline)aluminum, Alq
3)は電子輸送層と発光層を兼ねた色素としてよ く用いられている。Alq
3のように電子輸送層と発光層を兼ねることのできる蛍光色素で あれば、膜生成工程が一段階減るため、コストの削減などが期待できる。しかしながら、輸送層と発光層を同時に満たす蛍光色素の報告は少ない。このように蛍光色素は材料科 学の分野で重要な役割を担っている。
Fig. 1-1. Structure and emission mechanism of OLEDs.
anode
cathode h+
h+
h+ h+
h+ h+
e- e-
e- e-
e- e-
hole
electron
light
organic layer
LUMO
HOMO emission
layer charge recombinati on
electron transport layer hole
transport layer
Quinacridone N
N O
O R
R
Rubrene Pelyrene
N
N
N O
O
O Al
Alq3
生物科学の分野では、生体内での標識として用いられている蛍光プローブに蛍光色素 が利用されている。蛍光プローブは今までわからなかった生体内の挙動を知ることがで きる有用なツールであり、アミノ酸残基の特異的な位置に反応することでその部位を染 色するものから、イオンの有無によって蛍光がオンオフするイオンセンサーなど様々で ある3)。蛍光プローブの構築方法としては、ある発色団に機能性部位を導入することで、
用途に応じた機能を持たせる手法が多い。従って、蛍光プローブに用いる発色団には強 い蛍光を示し、置換基変換によって機能性部位の導入、蛍光色の変化が容易に行える発 色団が好ましい。
Scheme 1-2
に蛍光プローブとして良く知られる蛍光色素を示した。1980
年代にFURA-2
がカルシウムイオンセンサーとして報告され、INDO-1
と共にイオンセンサーとして広く用いられてきた。
FURA-2
はカルシウムイオンが配位することで 蛍光励起波長が変化し、INDO-1
は蛍光スペクトルが変化する。近年は、ボロンジピロ メタン(Boron-dipyrromethene, BODIPY
)やシアニン(Cyanine
)などの新しい蛍光色素 がよく用いられている。BODIPY
は緑色の強い蛍光性を示し、蛍光量子収率が0.8
を超 える誘導体が報告されている。BODIPY
の特徴はその高い蛍光量子収率だけでなく、様々な置換基を導入しやすいことにある。イオンセンサー部位などを容易に導入できる ため、様々な機能を持たせた蛍光プローブが報告されている4)。特に有名なのは、東京 大学の浦野博士らが癌細胞内の
pH
が他の細胞よりも低いことを利用して、BODIPY
型pH
イオンセンサープローブで癌細胞の可視化に成功した例である(Scheme 1-3
)。このBODIPY
誘導体はジメチルアミノ基へのプロトンが付加の有無によって、蛍光性を制御することが可能である。プロトンが付加していない状態では、光励起した際に電子供与 性を持つジメチルアミノフェニル基から電子求引性を持つ
BODIPY
へ電子移動が起こ るため、エネルギーは電子移動に費やされ蛍光が消光する。一方、プロトンが付加した 際には、ジメチルアミノフェニル基の電子供与性はなくなるため、電子移動は起こらずに
BODIPY
からの蛍光が観測される。この蛍光のオンオフから癌細胞の可視化に成功した。また、
Cyanine
はオレフィン鎖の長さを調節することで多用な蛍光色を容易に作 れるため、マルチカラーモニタリングが行いやすい5)。Scheme 1-2. Fluorescent dyes are applied to fluorescent probe.
Scheme 1-3. BODIPY dyes having pH sensor functional.
以上のように様々な蛍光色素が各分野で利用されている。
OLEDs
はいくつか実用化 されているが、コストや耐久性、発光効率といった様々な問題がいまだ解決していない。蛍光プローブにおいても、生体内で吸収されにくい長波長蛍光を示す発色団やある一部 分のみ特異的に識別することができるプローブなどが望まれている。新規蛍光材料を開 発し、材料科学や生物科学の分野に提供することで、これらの分野の問題解決の手助け をしていくことは重要なことである。従って、蛍光色素の開発はこれらの科学技術発展
N+ N
R R
Cyanine 3 N+ N
B- F F R R
R
R R
R R BODIPY
Electron acceptor Electron
donor
e
-e
-No fluorescence Fluorescence
H
+N+ N B-
F F
HOOC COOH
N
N+ N B-
F F
HOOC COOH
H+ N R
R R R
Electron acceptor excitation
excitation excitationexcitation
e
-emission
e
-e
-emission
O O
N(CH2COOK)2
CH3 N(CH2COOK)2
O N
O
Fura 2
O O
N(CH2COOK)2
CH3 N(CH2COOK)2
Indo 1 COOK
NH
COOK
1-2
生物発光生物発光生物発光からの生物発光からのからのからの新規蛍光材料新規蛍光材料の新規蛍光材料新規蛍光材料ののの可能性可能性可能性可能性新規蛍光材料の開発に当たり、著者はウミホタルが持つ発光関連物質に着目した。生 物発光はホタルやウミホタル、オワンクラゲなどの有名な発光生物が行っている自然界 に存在する効率のよい発光系である。
Scheme 1-4
にウミホタルの生物発光反応を示した。ウミホタル発光系は基質ウミホタルルシフェリン(Cypridina luciferin)が酵素ルシフェ
ラーゼ(
luciferase
)存在下で酸素と反応することによってジオキセタノン中間体を経て、励起状態の発光体オキシルシフェリンが生成し、これが基底状態になる際に青色に発光 する。その発光量子収率は
0.31
と高い6)。ウミホタルルシフェリンはScheme 1-5
に示 すイミダゾピラジノン骨格を持っている。イミダゾピラジノン誘導体は生物発光基質と してだけでなく化学発光特性も示し、Scheme 1-5
に示した特異なπ系由来のソルバトク ロミズムなど様々な性質が報告されている7)。ウミホタルオキシルシフェリンはScheme 1-5
に示すアミドピラジン骨格を持っている。5
位に電子供与性のπ共役置換基を持った アミドピラジン誘導体は、各種溶媒中で蛍光量子収率が0.3 ~ 0.4
と高い値を示すことが 知られている。また、ピラジン環は電子受容性を持っており、一重項励起状態において 電子供与基からアミドピラジン部への分子内電荷移動特性も知られている。ウミホタル 発光系では、イミダゾピラジノン及びアミドピラジンを用いて、高効率の発光系を実現 している。高効率発光系の発光体であるアミドピラジンを化学変換することで新規蛍光 色素の開発が期待できる。また、オキシルシフェリンがルシフェラーゼによって加水分解されたアミノピラジン も新規蛍光色素の開発において興味深い化合物である8)。アミノピラジンはそれ自体蛍 光性を持ち、イミダゾピラジノン誘導体及びアミドピラジン誘導体の合成前駆体でもあ
る。
Scheme 1-6
に示すように、イミダゾピラジノンはアミノピラジンとグリオキサールとの縮合反応、アミドピラジンはアミノピラジンとカルボン酸誘導体との縮合反応によ って合成される。これらの反応はアミノピラジンのアミノ基の反応性を利用している。
また、アミノピラジンは
Scheme 1-7
に示す反応経路で容易に3
位と5
位にアリール基 が導入できるため、π系の拡張や機能性部位の導入が容易に行える。アミノピラジンのScheme 1-4. Reaction mechanism of Cypridina bioluminescence.
Scheme 1-5. Structure of imidazopyrazinone and amidopyrazine.
NH
N N
O
HN NH NH2 NH
luciferase, O2
Cypridina luciferin
Cypridina oxyluciferin N
N
HN NH NH2 NH
NH O
*
Light -CO2
N N
HN NH NH2 NH
NH O O O
dioxetanone
N N
HN NH NH2 NH
NH O
N
N NH
R R
R O
amidopyrazine NH
N N
O
R R
R
NH
N N
-O
R R
R
11 π conjugated system
Imidazopyrazinone
10π
conjugated system
Scheme 1-6 Synthesis of imidazopyrazinone and amidopyrazine from aminopyrazine.
Scheme 1-7. Synthesis of aminopyrazine derivatives.
NH
N N
O
R R
R
imidazopyrazine
N N NH
R R
R O
amidopyrazine N
N NH2
R R
aminopyrazine
R X
O R
O
O H
N N Br
NH2 N
N NH2
N
N NH2 R1
Bromination transition metal coupling
Bromination N
N R1
NH2
N
N NH2 R1
transition metal coupling
Br R2
1 2
3 4 5 6
1-3
本本本本研究研究研究研究のののの目的目的目的目的本研究では、前述のアミドピラジンとその合成前駆体アミノピラジンに着目し、これ らに化学変換を行うことで、材料科学、生物科学への応用が期待できる電子受容性と蛍 光性を持つ新規蛍光色素の開発を目指した。
第二章では、生物発光基質の合成前駆体であるアミノピラジンに着目し、新規蛍光色 素の開発を行った。近年、いくつかの含窒素アセン化合物がよい電子受容性と蛍光性を 持つことが報告されている9)。著者は、パラジウム触媒を用いた
C-N
カップリング反応10)によって
3-
ブロモ-5-
アリールアミノピラジン同士を縮合させることで、ジヒドロヘキ サアザアントラセン(9,10-Dihydro-1,4,5,8,9,10 -hexaazaanthracene, DH-HAA
)を経て、そ の酸化体のヘキサアザアントラセン(1,4,5,8,9,10-Hexaazaanthracene, HAA)
といった含窒 素アセン化合物の合成を試みた(Scheme 1-8
)。HAA
の詳しい物性は知られておらず、蛍光色素の開発という点だけでなく
HAA
の基本物性を知るという点でもHAA
の合成 は興味深い。実際にC-N
カップリング反応を検討したところ、目的のHAA
は得られず、HAA
骨 格 を 含 む ピ ラ ジ ノ イ ミ ダ ゾ ヘ キ サ ア ザ ア ン ト ラ セ ン 誘 導 体(3,6,11-Tris(aryl)pyrazino[2’3’:4,5]imidazo[1,2-a]-1,2-dihydro-1,4,5,8,9,10-hexaazaanthracene,
PI-HAA)
及 び ビ ス ピ ラ ジ ノ イ ミ ダ ゾ ヘ キ サ ア ザ ア ン ト ラ セ ン 誘 導 体(3,7,11,15-Tetrakis(aryl)pyrazino[2’3’:4,5]imidazo[1,2-a][1,2-h]-1,2,5,6-tetrahydro-1,4,5,8,9,10 -hexaazaanthracene ,BPI-HAA)
が得られた(Scheme 1-9
)。これらの化合物は今までに知ら れていない骨格を持っており非常に興味深いため、これらの分光学的性質及び電気化学 的性質について調べ、蛍光色素材料として有用であるかを検討した。第三章では、アミドピラジンにホウ素を作用させることで、蛍光性を向上させたア ミノピラジナートボロン
(Difluoro-[amidopyrazinato-O,N]-boron, APB)
誘導体の合成を行 い、新規蛍光色素の開発を目指した。アミノピラジナートボロンはアミドピラジンがホ ウ素にピラジン環の1
位の窒素とアミド基の酸素で配位した構造であり、アミドピラジ ンよりも蛍光性が向上することがすでに共同研究者の稲垣によって報告されている 11)(
Scheme 1-10
)。前述のようにアミドピラジンは5
位に電子供与性のπ共役置換基を導入することで、分子内電荷移動性による蛍光性の制御が可能である。さらに
BODIPY
に代表されるホウ素錯体化合物も電子受容性をもっているため、APB
においても分子 内電荷移動性による蛍光性の制御が可能であると考えられる。そこで、5
位に各種パラ 置換フェニル基を導入し、置換基効果によってAPB
の蛍光性がどのように変化するか を調べた。また、ホウ素が配位したことによるアミドピラジンの共役系の変化から、アパラ置換フェニル基を導入した
APB
誘導体を合成し、5
位同様に置換基効果が蛍光性 に与える影響を調べた。また、5-
フェニルAPB
誘導体は溶液中のみならず固体状態に おいても蛍光を示した。近年、固体蛍光を持つ化合物の報告例が多くなってきており、OLEDs
や固体有機色素レーザーなどへの応用ができるのではないかと注目されている12)。そのため、
APB
の結晶構造と固体蛍光との相関についても考察した。これらの性質 からAPB
が蛍光色素材料として有用であるかを検討した。Scheme 1-7. Synthesis of DH-HAA and HAA from 3-bromo-5-arylaminopyrazines.
Scheme 1-8. Structure of PI-HAA and BPI-HAA
NN NH2
N N Ar H2N
Br Ar
Br +
Pd
Base Ligand
N
N H
N NH
Ar N
N Ar
[O]
N
N N
N
Ar N
N Ar
N N
N N
N N N
Ar
Ar N N
Ar
PI-HAA
N N
N N
N N N
Ar
Ar N N
Ar
N
N N
BPI-HAA Ar
第二章 第二章 第二章
第二章 ビス ビス ビス ビス ( ( ( (ピラジノイミダゾ ピラジノイミダゾ) ピラジノイミダゾ ピラジノイミダゾ ) ) ) ヘキサアザアント ヘキサアザアント ヘキサアザアント ヘキサアザアント ラセン
ラセン ラセン
ラセンの の の の開発 開発 開発 開発
第一節 第一節 第一節
第一節 序論 序論 序論 序論
本章では、新規蛍光色素の開発に当たり、発光関連化合物アミノピラジンに着目した。
第一章で述べたようにアミノピラジンはアミノ基の反応性を利用した縮合反応によっ て、発光基質イミダゾピラジノンや発光体アミドピラジンを合成することが可能である。
著者は、アミノピラジンのアミノ基の反応性を利用して、別の縮合反応をアミノピラジ ンに適用することで新しい蛍光色素の開発が行えるのではないかと考えた。
アミノピラジンから新規蛍光色素を開発するに当たり、含窒素アセン化合物に着目し た。含窒素アセン化合物は、近年いくつかの報告がなされており、それらがよい電子受 容性を持つことが報告されている
(Scheme 2-1)
9)。Scheme 2-2
のようにアミノピラジン同 士 を 縮 合 さ せ る こ と で 、 ジ ヒ ド ロ ヘ キ サ ア ザ ア ン ト ラ セ ン(9,10-Dihydro-1,4,5,8,9,10-hexaazaanthracene, DH-HAA)
を経て、ヘキサアザアントラセン(1,4,5,8,9,10-Hexaazaanthracene, HAA)
骨格を持つ含窒素アセン化合物の合成ができるの ではないかと考えた。HAA
はアントラセンに窒素を導入した化合物であり、電子受容 性と蛍光性が期待できる。電子受容性を持つ蛍光色素はOLEDs
の電荷輸送層と発光層 の役割を同時にこなすことが可能であり、OLEDs
の作成工程が減るためコスト削減な どが期待できる。また、HAA
骨格は未だ詳しい物性が報告されておらず、材料として だけでなく含窒素アセン型の化合物としての基本物性も興味深い。アミノピラジン同士を縮合させる方法として、近年目覚しい発展を遂げたパラジウム 触媒を用いた
C-N
カップリング反応に着目した。パラジウムを用いたC-N
カップリン グ反応は、1995
年にHartwig
らとBuchwald
らがそれぞれ様々な置換基を持つブロモベ ンゼン誘導体と二級アミンとがカップリング反応を起こし、新たにC-N
結合が形成す ることを報告したのが始まりである。パラジウムを用いたC-N
カップリング反応は、高収率で
C-N
結合を形成する手法として今までに多くの報告がなされている 10)。アミ ノピラジンにおいても3-
ブロモアミノピラジンにパラジウム触媒を用いたカップリン グ反応を適用することによって、アミノピラジン同士が縮合したHAA
骨格が構築でき ると考えた。本章では、パラジウム触媒を用いたC-N
カップリング反応を3-
ブロモアScheme 2-1. Recent study of hetero-rich acene compounds.
N N
N N
N N
N N
Ar
Ar N
N N
HN N HN
NH NH
Ar Ar
Ar Ar
Xylene, HNiBu2 O2, heat
N
N NH2
N N H2N Br
Br +
Pd
Base Ligand
N
N H
N NH N
N
[O] N
N N
N N
N
DH-HAA
N N
N N
N N
N N
N NO2
NH N Cl N
NO2
NH X N
X = F or Cl
EtOH, reflux, 5 h EtOH, reflux, 5 h
SnCl2·2H2O
SnCl2·2H2O
第二節 第二節 第二節
第二節 合成 合成 合成 合成
2-2-1 3-
ブロモアミノピラジンブロモアミノピラジンブロモアミノピラジンブロモアミノピラジン誘導体誘導体誘導体誘導体のののの合成合成合成合成本論文では、パラジウム触媒を用いた
C-N
カップリング反応の原料として3-
ブロモ アミノピラジンの5
位に各種アリール基(Ar)
を導入した3-
ブロモ-5-
アリールアミノピラ ジン誘導体3a-gを用いた。Scheme 2-3
に3-
ブロモ-5-
アリールアミノピラジン誘導体3 の合成経路を示した。導入したアリール基は基本骨格としてフェニル基を持ち、無置換 の3a、溶解度向上を期待してアルキル基を導入した 3b-d、電子求引基としてトリフル オロメタンを導入した 3e、電子供与基であるアルコキシ基を導入した 3f,g をそれぞれ 選択した。出発物質として市販のアミノピラジンを用い、n-Bu4NBr
3との反応で5-
ブロ モアミノピラジン1を得た。1と別途合成したアリールボロン酸またはアリールボロン 酸エステルとで鈴木カップリング反応を行い、5-
アリールアミノピラジン2を得、続く n-Bu4NBr
3との反応で2の3
位をブロモ化し、3-
ブロモ-5-
アリールアミノピラジン誘導 体3を合成した。N N Br
NH2 N
N NH2
N
N NH2 Ar
N
N NH2
Ar Br
t-Bu CF3
OCH3 t-Bu
t-Bu OC10H21
a: Ar =
b: Ar =
c: Ar =
d: Ar =
e: Ar =
f: Ar =
g: Ar = n-Bu4NBr3
pyridine CHCl3 Ar, r.t.
n-Bu4NBr3 pyridine
CHCl3 Ar, r.t.
B(OR)2 Ar
Pd(PPh3)4 2 M Na2CO3 aq.
1,4-dioxane Ar, reflux
n-C6H13
n-C6H13 3
1 2
2-2-2
パラジウムパラジウム触媒パラジウムパラジウム触媒触媒触媒ををを用を用いた用用いたいたいたC-N
カップリングカップリングカップリングカップリング反応反応反応反応まず無置換フェニル基である3aを用いてパラジウム触媒を用いた
C-N
カップリング 反応を検討した。反応条件はパラジウム触媒に酢酸パラジウムを3 mol %
、配位子にラ セ ミ 体 の2,2’-
ビ ス(
ジ フ ェ ニ ル ホ ス フ ィ ノ)-1,1’-
ビ ナ フ チ ル(2,2’-bis(diphenylphosphino)-1,1’-binapthyl, BINAP)
を4 mol %
、塩基に炭酸セシウムを1.4 eq.
、溶媒にトルエンを用い、100 °C
に加熱して行った(Scheme 2-4)
。3aからは多様な生 成物が得られたが、生成物の溶解度は低く単離は困難であった。同様に電子供与基、及 び電子求引基を導入した3e,fにおいても溶解度が低く、単離が困難であった。そのため、溶解度向上を行った3bを用いて、同様の条件で反応を検討した。その結果、3bにおい て反応生成物の一部の色素化合物A-Eの単離に成功した(
Table 2-1
)。FAB-MS
測定か らA----Eはすべて3bの三量体以上の質量数であり、二量体のDH-HAA
及びHAA
では ないことがわかった。A-E の中で、主生成物として得られ、強い赤色蛍光を示した Cの
FAB-MS
及び1H-NMR
による構造推定とX
線結晶構造解析による構造解析を行ったと こ ろ 、 ビ ス ピ ラ ジ ノ イ ミ ダ ゾ ヘ キ サ ア ザ ア ン ト ラ セ ン
(pyrazino[2’3’:4,5]imidazo[1,2-a][1,2-h]-1,2,5,6-tetrahydro-1,4,5,8,9,10-hexaazaanthracene, BPI-HAA)
骨格を持つ4bであることがわかった(Scheme 2-5
)。3c,dでも同様のBPI-HAA
骨格を持つ4c,dが確認され、それぞれ13%
と12%
の収率で得た。3fに比べて溶解度を向上させた3gではいくつかの生成物の単離に成功したものの、
DH-HAA
、HAA
、BPI-HAA
いずれの化合物も得られなかった。N NH2
Pd(OAc)2 BINAP
Cs2CO3 N N
Ar t-Bu
t-Bu b: Ar =
CF3
OCH3
OC10H21 e: Ar =
f: Ar =
g: Ar = a: Ar =
Various dye
6%
Table 2-1. Synthesized products by C-N coupling reaction of 3b.
得られた4bの構造決定を
FAB-MS
スペクトルと1H-NMR
スペクトルから行った。Fig.
2-1
に4bのFAB-MS
スペクトル、Fig. 2-2
に4bの1H-NMR
スペクトルを示した。FAB-MS
スペクトルから4bの[M+H]
+の質量数は895.4
であることと同位体ピークのパターンか らブロモ基は残っていないことがわかった。C-N
カップリングによって、臭化水素が脱 離することを考慮すると、3b四分子(
分子量1224.8)
から臭化水素四分子(323.6)
が脱離し た化合物の分子量901.2
に近いため、3b(分子量306.2)
の四量体であると推測される。ここからさらに三分子の水素が脱離することでちょうど分子量が合致する。後述の反応 機構から考えると、求核性の
C-N
カップリング反応で一分子の水素が脱離し、酸化過 程で二分子の水素が脱離すると考えられる。次に、4b の1H-NMR
スペクトルから考察 すると、アミノピラジン由来のピークが9.51 ppm
、フェニル基のオルト位由来のピークが
9.16 ppm
と8.37 ppm
、フェニル基のメタ位由来のピークが7.76 ~ 7.69 ppm
に観測された。ピーク比はそれぞれ
1:4:4
であった。さらにt-Bu 基由来のピークが1.48
と1.47
に二本観測された。これらのスペクトル情報と四量体であることを合わせて考えると、4bは対称性を持つ化合物であることがわかった。4c、4dに関しても
FAB-MS
スペクトルと1
H-NMR
スペクトルから4bと同様のBPI-HAA
骨格を持っていることを確認した。Comp. color fluorescent yield (%)
m / z (M+H)eq. of 3d used
A
purple n. d. 0.4 977.4 4
B
red n. d. 0.9 754.3 3
C
red red 6 895.4 4
D
green n. d. 2 1346.7 6
E
purple n. d. 5 1121.5 5
N N
N N
N N N
N N N
N N
Ar
Ar
Ar
t-Bu t-Bu
t-Bu b: Ar =
c: Ar =
n-C6H13 N
N NH2
Ar Br
05010602(I-086-5) #3-31 RT:0.10-1.05 AV:29 NL:2.24E6 T:+ p FAB SRM ms 2 [email protected] [ 9.99-1000.05]
100 200 300 400 500 600 700 800 900
m/z 0
5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
Relative Abundance
895.43
880.51
839.24 809.30 762.66 472.04
249.36 430.97
18.4276.60 160.55 193.67 314.01 385.02 590.10 621.83 674.34 977.48
Fig. 2-1. FAB-MS spectra of 4b.
N N N
t-Bu
t-Bu
Fig. 2-2.
1H-NMR spectrum of 4b.
N N
N N
N N N
N N N
N N
t-Bu
t-Bu
t-Bu
t-Bu
2-2-3
パラジウムパラジウム触媒パラジウムパラジウム触媒触媒触媒ををを用を用用いた用いたいたいたC-N
カップリングカップリングカップリングカップリング反応反応反応の反応のの条件検討の条件検討条件検討条件検討次に、
BPI-HAA
の収率向上及びHAA
化合物を得るために、各種溶媒への溶解度が最も高かった3cを用いて
C-N
カップリング反応条件の検討を行った。前述の反応条件で は、原料である3cの原料回収率が50%
であったことから、よりC-N
カップリング反応 を進行させるために、反応時間及び触媒量を増加させた。なお配位子の量は触媒量の変 化に合わせ、触媒と同モル量を用いた。Table 2-2
に検討した反応条件及び生成物と原料 3cの有無をまとめた。まず反応時間を72
時間へと増加させたが3cは消費しきらず、4c の収率は低下した。パラジウム触媒の活性が失われていると考え、反応時間を40
時間 とし、触媒量を3 mol% ~ 100 mol%
まで変化させ、反応を検討した。ただし、40
時間経 過前に3cが確認できなくなった反応においては、その時点で反応を停止した。触媒を30 mol%
ま で 増 加 さ せ た と き 、 ピ ラ ジ ノ イ ミ ダ ゾ ヘ キ サ ア ザ ア ン ト ラ セ ン(pyrazino[2’3’:4,5]imidazo[1,2-a]- 1,2-dihydro-1,4,5,8,9,10-hexaazaanthracene, PI-HAA)
骨格 を有する5cが得られた。さらに触媒量を増やすと、主生成物は5cとなり、4cの生成が 見られなくなった。これらの結果から、パラジウム触媒を増加させることで、よりC-N
カップリング反応が進みやすくなり、四量体まで縮合する前に、3c が消費され、三量 体である4cが得られたのではないかと考えられる。cat. (mol%.) time (h.)
4c (%) 5c (%) 3c3 24 13 - +
3 72 7 - +
10 40 8 - +
30 40 + + +
50 20 - 22 -
100 20 - + -
Table 2-2 Study of C-N coupling reaction conditions
次に
C-N
カップリング反応機構を考察した。C-N
カップリング反応によるPI-HAA
とBPI-HAA
の生成はScheme 2-5
に示したメカニズムで進むと考えられる。初めに2
分子のブロモアミノピラジン3 の分子間でパラジウム触媒による
C-N
カップリング反応が 起こり、その後同一分子内に残ったアミノ基とブロモ基におけるC-N
カップリング反 応によって、DH-HAA
が生成する。このDH-HAA
が互変異性化しDH-HAA’
となり、こ れにもう1
分子の3 とのパラジウム触媒によるC-N
カップリング反応と続く求核的な 分子内環化によりPI-HAA
のトリヒドロ体(TH-PI-HAA
)となる(Scheme 2-6)
。このTH-PI-HAA
の酸化によりピラジノイミダゾールが1
つ縮環したPI-HAA
となる。酸化が起こらず、
DH-HAA
からTH-PI-HAA
と同様の反応が起こることで、BPI-HAA
のテト ラヒドロ体(TH-BPI-HAA)
を経由して、ピラジノイミダゾールが2
つ縮環したBPI-HAA
が生成したと考えられる。また、TH-PI-HAA
体からPI-HAA
及びTH-BPI-HAA
体からBPI-HAA
が生成する際には酸化反応が進行しているが、酸化剤が何であるか現段階ではわかっていない。
Scheme 2-5. C-N coupling reaction mechanism.
N
N NH2 N
N H2N Br
Br
N N
NH H N
N N
N HN
NH N
N N
N N
NH HN
N HN N
N N Ar
Ar
Ar
Ar
Ar
Ar
Ar
Ar Ar
N N
NH HN
N HN N
NH N N
N N
Ar
Ar
Ar Ar
Oxidation
Oxidation Pd C-N coupling and nucleophilic C-N coupling
N N NH2
Br Ar
N N
N HN
NH HN N
N N
Ar
Ar Ar
Pd C-N coupling and nucleophilic C-N coupling
N N NH2
Br Ar
Pd C-N coupling x 2
N N
N N
N N N
N N Ar
Ar
Ar
N N
N N
N N N
N N N
N N
Ar
Ar Ar Ar
Scheme 2-6. Reaction mechanism of DH-HAA’ to TH-PI-HAA.
N N Ar
NH2
Br
N HN
Ar
N
N N
H N Ar
Base N
N Ar
N
N N
H N Ar N
N H2N
Ar
N N Ar
N-
N N
H N Ar
+H2N
N N Ar
HN
N N
H N Ar HN
Pd
DH-HAA'
TH-PI-HAA
Ar Ar
2-2-4 BPI-HAA
、、、、PI-HAA
誘導体誘導体誘導体誘導体のの溶液中のの溶液中溶液中溶液中におけるにおけるにおける安定性における安定性安定性安定性5c は溶液中において複数の蛍光色素への分解が確認された。そのため、溶媒中にお ける安定性を調べるため、クロロホルム、アセトニトリル、トルエン、ヘキサン、メタ ノールの各種溶媒の溶液において暗所及び明所で静置し、その溶液の色変化と薄層クロ マトグラフィーの変化を調べ、その結果を
Table 2-3
にまとめた。暗所では1
ヶ月静置 したすべての溶媒において溶液の色及び薄層クロマトグラフィーのスポットに変化は 見られなかった。それに対し、明所ではアセトニトリル以外の溶液中で溶液の色及び薄 層クロマトグラフィーのスポットに変化が確認された。メタノール中では数時間で溶液 が黄色から赤く変色し、薄層TLC
においても多数のスポットが確認された。クロロホ ルム中では一日で溶液が黄色から赤へ変色し、薄層TLC
においても5cを含む3つのス ポットが確認された。ヘキサン、トルエン中では一日で溶液が退色し、薄層TLC
のス ポットは 5c を含む3つになっていた。以上のことからアセトニトリルのみ明所でも安 定であり、、、、他の溶媒では光によって何らかの反応が起き、分解することがわかった。同様の実験を4cについても行ったところ、4cはすべての溶液中において、明所にて
1
ヶ月静置しても変化はなく、安定な化合物であることがわかった。Table 2-3. Stability of 5c in various solvents.
Place
n-C6H
14toluene CHCl
3CH
3CN CH
3OH dark stable stable stable stable stable light 1 day 1 day 1 day stable 5 hour
N N
N N
N N N
N N
Ar
Ar N Ar
N N N
N N N
N N N
N N
Ar
Ar
Ar
4 Ar 5
t-Bu
t-Bu c: Ar =
第三節 第三節
第三節 第三節 X 線結晶構造解析 線結晶構造解析 線結晶構造解析 線結晶構造解析
4の構造は前節で推定したが、特に1
H-NMR
で得られる情報が少ないため、その構造 を完全に決定するには不十分であった。従って、X
線結晶構造解析によって構造決定を 行うこととした。4b-d をクロロホルムに溶解させた後、ヘキサンとの溶媒交換法によ り単結晶の作成を試みた。その結果、4c の単結晶の作成に成功した。X
線結晶構造解 析によって得られた基礎データはTable 2-4
にまとめた。X
線結晶構造解析の結果から 4c の構造は、先述の構造決定で推定した構造で正しいことが確認された(Fig.2-3)
。BPI-HAA
構造は平面で広いπ共役を形成し、中心対称性を持つ構造であることがわかった。
Fig. 2-4
には水素を省略した4cの結晶構造を示した。4cはface-to-top
で結晶を形成しており、隙間に結晶溶媒であるクロロホルムが充填した形となっていた。
Fig. 2-5
に4c の
BPI-HAA
骨格、ピラジン、イミダゾールの結合長をそれぞれ示した 13)。4c のBPI-HAA
骨格のピラジン環部位とピラジンを比較すると、4cのC1-C8
、C8-N6
結合の結合交替が強く現れていた。イミダゾール環とピラジン環の間にあるピラジン環
(C1-N1-C6-C7-N6-C8)
を見ると7π
電子系であり、この環の芳香族性が弱まって結合交替が強く出たのではないかと考えられる。また、
BPIHAA
骨格のイミダゾール環部位とイ ミダゾールを比較すると、ピラジン環と縮環しているC1-N1
とC2-C5
はそれぞれ1.405
Å
と1.406 Å
となっており、イミダゾールよりもピラジンに近い結合長となっていた。また、
3
位と7
位の3,5
ジ-t-
ブチルフェニル基とBPI-HAA
の二面角は3
位で38°
、7
位で27°
とねじれていた。これは、t-ブチル基同士の立体障害緩和のため、それぞれの フェニル基はBPI-HAA
とねじれていることが確認された。それぞれのt-Bu基の最も近 い水素同士の距離は2.78Å
であり、水素のファンデルワールス半径は1.20Å
であるので、水素同士が接近しているため、立体障害によりフェニル基がねじれていることがわかっ た。
N N 9
10 11 12 t-Bu
t-Bu
t-Bu
Side view Top view
Fig. 2-3. Molecular Structure of 4c.
Fig. 2-4. Crystal Structure of 4c.
Table 2-4. Crystal data and structure refinement for 4c.
______________________________________________________________________
Empirical formula C76 H90 Cl12 N12
Formula weight 1597.00
Wavelength 0.71073 Å
Crystal system Monoclinic
Space group
P 21/n
Unit cell dimensions a = 18.686(4) Å
α= 90°.b = 11.780(2) Å
β= 104.581(5)°.c = 19.540(3) Å
γ = 90°.Volume 4162.9(13) Å3
Z 2
Density (calculated) 1.274 Mg/m3 Absorption coefficient 0.447 mm-1
F(000) 1668
Crystal size 0.70 x 0.30 x 0.10 mm3
Theta range for data collection 3.14 to 27.48°.
Index ranges -24<=h<=24, -15<=k<=15, -25<=l<=24 Reflections collected 61786
Independent reflections 9422 [R(int) = 0.0869]
Absorption correction None Completeness to theta = 27.48° 98.7 %
Refinement method Full-matrix least-squares on F2 Data / restraints / parameters 9422 / 0 / 470
Goodness-of-fit on F2 1.010
Final R indices [I>2sigma(I)] R1 = 0.0757, wR2 = 0.2119 R indices (all data) R1 = 0.1142, wR2 = 0.2316 Largest diff. peak and hole 1.426 and -0.739 e.Å-3
______________________________________________________________________
Fig. 2-5. Bond length of BPI-HAA, pyrazine, and imidazole rings.
1.349 1.326 1.378 1.358
1.369
N H N
1.3491.326 1.378 1.358
1.369
N H N
N
N N
N N
N N
R
R
1.322 1.353
1.428 1.341
1.380 1.334
1.349 1.379
1.406 1. 39 4
1.436 1.461 1.325 1.3 81
1.3 22 1.4 05 1. 34 6 N
N N
N N
N N
R
R
1.322 1.353
1.428 1.341
1.380 1.334
1.349 1.379
1.406 1. 39 4
1.436 1.461 1.325 1.3 81
1.3 22 1.4 05 1. 34 6
1.339 1.403
N N
1.3391.403
N
C1
N
C2
C3 C4
C5 C6
C7
C8
N1
N2 N3
N4 N5
N5
N6
第四節 第四節 第四節
第四節 分光学的性質 分光学的性質 分光学的性質 分光学的性質の の の 評価 の 評価 評価 評価
2-4-1 BPI-HAA
誘導体誘導体の誘導体誘導体ののの分光学的性質分光学的性質の分光学的性質分光学的性質のの評価の評価評価評価BPI-HAA
誘導体4b-dの分光学的性質を調べるため、各種溶媒中における紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルの測定を行った。測定溶媒にはクロロホルム、シクロ ヘキサン、ジクロロメタン、アセトニトリル、メタノールを用いたが、4bと4dはクロ ロホルム以外の溶媒への溶解度が低かったため、クロロホルムのみで測定を行った。
Fig 2-6
に各種溶媒中における4dの紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル、Fig. 2-7
に4b-d のクロロホルム中における紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示し た。また、Table 2-5
に各種溶媒における4b-dの極大吸収波長及びその波長でのモル吸 光係数、蛍光極大波長と蛍光量子収率をそれぞれ示した。4dの各種溶媒ごとのスペクトル変化を見ると、4dはクロロホルム中で最も長波長側 に吸収が観測され、第一吸収帯の極大波長は
538 nm
であった。一方、最も長波長吸収 を示したアセトニトリル中の極大波長は529 nm
であり、その差は9 nm
であった。この ことから紫外可視吸収スペクトルでは溶媒効果がほとんど影響せず、どの溶媒中におい ても赤色を示した。また、第一吸収帯において振動構造が観測された。第一吸収帯に見 られた振動準位間の波数はクロロホルム中で1294 cm
-1であり、これはペリレンなどの 芳香環に見られる骨格振動に類似している14)。そのため、この振動構造は縮環した複素環である
BPI-HAA
骨格のものであると考えられる。同様の振動構造はすべての溶媒中で観測された。蛍光スペクトルにおいても紫外可視吸収スペクトル同様に、溶媒効果に よる極大波長の差は
11 nm
と小さく、メタノールやアセトニトリルといった極性溶媒で はブロードとなっているが、すべての溶媒で振動構造が見られた。蛍光量子収率は0.57
~ 0.74
とどの溶媒中でも高い値を示し、橙色から赤色を示した。BPI-HAA
骨格は剛直で広いπ共役系を持ち、幅広い電子吸収と高い蛍光量子収率と橙から赤色の長波長に蛍光 を持つ骨格であることがわかった。
Ar
次に 4b-d のクロロホルム中における紫外可視吸収スペクトルを比較すると、全ての 化合物で類似した形のスペクトルが得られた。4bと4dは4cに比べ
10 nm
ほどの長波 長シフトが見られ、極大波長は550 nm
付近であった。蛍光スペクトルにおいても同様 の長波長シフトが見られた。4bと4dの吸収波長の長波長シフトの要因はBPI-HAA
骨 格とフェニル基との間のねじれであると考えられる。X
線結晶構造解析から、4ccはcc3
位、7
位、11
位、15
位にある4
つのフェニル基がBPI-HAA
骨格と共平面に近づくと、それぞれ
3
位と7
位、11
位と15
位のフェニル基上にあるt-ブチル基同士の立体反発が 大きくなる。このため 4c では溶液中でもフェニル基と主骨格の二面角が大きくなり、立体障害の小さい4bと4dに比べて共役系が短くなることから吸収は短波長になった。
Fig. 2-6. UV-visible absorption and fluorescence spectra of 4c in various solvents.
4 3 2 1 0
ε x 1 0
-4700 600
500 400
300
Wavelength (nm)
1.0
0.5
0.0
In te n s ity
CH3OH CH3CN CHCl3 CH2Cl2 C6H12
N N
N N
N N N
N N N
N N
Ar
Ar
Ar
Ar
t-Bu t-Bu
t-Bu b: Ar =
c: Ar =
d: Ar =
n-C6H13 4
UV FL
Fig. 2-7. UV-visible absorption and fluorescence spectra of 4b-d in CHCl
3.
Table 2-5. Absorption and fluorescent maxima of 4b-d in various solvents.
Comp. Solvent
λab/ nm (ε / 10
4)
λf/ nm (
Φf)
4bCHCl
3551 (3.93), 513 (4.16), 425 (4.09), 329 (4.24) 616, 571 (0.75)
CH
3OH 532 (3.22), 497 (3.53), 412 (3.40), 320 (3.99) 601, 563 (0.58) CH
3CN 529 (3.32), 495 (3.66), 410 (3.41), 321 (4.39) 596, 560 (0.67) CHCl
3538 (3.58), 503 (3.84), 420 (3.61), 323 (3.74) 603, 563 (0.71) CH
2Cl
2535 (3.50), 500 (3.81), 418 (3.60), 324 (3.88) 601, 561 (0.74)
4cC
6H
12533 (3.75), 497 (4.01), 415 (3.76), 323 (4.28) 591, 552 (0.57)
4dCHCl
3550 (3.55), 513 (3.77), 426 (3.95), 334 (3.92) 616, 570 (0.75)
Ar b: Ar = t-Bu
UV FL
4 3 2 1 0
ε x 1 0
-4700 600
500 400
300
Wavelength (nm)
1.0
0.5
0.0
In te n s ity
4b 4c 4d
2-4-2 PI-HAA
誘導体誘導体の誘導体誘導体ののの分光学的性質分光学的性質の分光学的性質分光学的性質のの評価の評価評価評価合成した
PI-HAA
誘導体5cの分光学的性質を調べるため、各種溶媒中における紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。測定溶媒としてクロロホルム、シクロヘキサン、
ジクロロメタン、アセトニトリル、メタノールを用いた。なお、5c は光によって何ら かの反応が起こるため、測定はすべて暗所にて行った。
Fig. 2-8
にそれぞれ各種溶媒中 における5cの紫外可視吸収スペクトルと蛍光スペクトル、Table 2-6
に各種溶媒中にお ける極大吸収波長及びその波長でのモル吸光係数、蛍光極大波長と蛍光量子収率を示し た。紫外可視吸収スペクトルにおいて5cはどの溶媒でも複数のピークを示した。このピークは
BPI-HAA
にも見られた振動構造である。第一電子吸収帯の極大波長はクロロホルム中で最も長波長吸収が見られ
495 nm
であった。一方、最も短波長吸収が見られ たシクロヘキサン中では480 nm
であり、その差は15 nm
と小さい値であった。これら のことからPI-HAA
はBPI-HAA
と同様に紫外可視吸収スペクトルにおける溶媒効果の 影響が小さいことがわかった。一方、蛍光スペクトルでは、シクロヘキサン中のみ振動 構造が見られた。メタノール中では他の溶媒と比べ蛍光極大が50 nm
の長波長シフトが 観測され、励起状態では分極した性質が強くなることがわかった。蛍光量子収率は0.09
~ 0.004
と低く、光反応や三重項励起状態への項間交差などのBPI-HAA
では見られなかった励起状態の性質があると考えられる。
N N
N N
N N N
N N
t-Bu
t-Bu
t-Bu t-Bu t-Bu
t-Bu
5c
Fig. 2-8. UV-visible absorption and fluorescence spectra of 5c in various solvents.
Table 2-6 Absorption and fluorescent maxima of 5c in various solvents.
Solvent
λab/ nm (ε / 10
4)
λf/ nm (
Φf) CH
3OH 490 (2.74), 460 (3.52), 425 (4.25), 328 (1.69) 610 (0.092) CH
3CN 480 (2.68), 445 (3.38), 418 (4.17), 329 (1.68) 573 (0.021) CHCl
3495 (2.96), 466 (3.70), 433 (4.34), 331 (1.58) 556 (0.026) CH
2Cl
2490 (2.82), 463 (3.56), 428 (4.33), 330 (1.61) 561 (0.024) C
6H
12480 (2.69), 456 (3.52), 422 (4.66), 328 (1.69) 561 (0.004)
UV FL
5 4 3 2 1 0
ε x 1 0
-4800 700
600 500
400 300
wavelength (nm)
1.0
0.5
0.0
In te n si ty
CH3OH CH3CN CHCl3 CH2Cl2 C6H12
t-Bu t-Bu
2-4-3
酸及酸及び酸及酸及びびび金属金属イオン金属金属イオンイオンイオン添加添加添加による添加によるによるによるBPI-HAA
誘導体誘導体誘導体誘導体のののの分光学的性質分光学的性質の分光学的性質分光学的性質ののの変化変化変化変化BPI-HAA
骨格は多くの孤立電子対を窒素原子が持っている。そのため、含窒素複素環特有のプロトン化や金属錯形成が可能であると考えられる15)。こういった含窒素芳香 環の配位を利用して
Alq
3 などの蛍光色素が開発されており、これらの形成によって新 たな蛍光色素となる可能がある。従って、BPI-HAA
誘導体4cを用いて、酸及び金属イ オン添加による紫外可視吸収スペクトルの変化を測定し、その性質を調べることとした。いずれの測定でも、4cの濃度を
1.0 x 10
-5M
とした。酸添加による 4c の紫外可視吸収スペクトルの変化を調べるため、溶媒をクロロホル ム、酸としてトリフルオロ酢酸
(TFA)
を用い、TFA
の濃度を無添加、1.0 x 10
-3M
、1.0 x 10
-2M
、1.0 x 10
-1M
と変化させて紫外可視吸収スペクトルを測定した。Fig. 2-9
にTFA
添加による4cの紫外可視吸収スペクトルの変化を示した。
TFA
が高濃度になるほど330 nm
付近の吸収が減少し、吸収スペクトルが全体的に長波長シフトし、スペクトルがブロー ドとなった。また、無添加、1.0 x 10
-3M
、1.0 x 10
-2M
において、350 nm
と525 nm
付近 に等吸収点が見られたことから、1.0 x 10
-3M
から1.0 x 10
-2M
の酸濃度では一定のプロ トン化体のみが生成していると考えられる。この1.0 x 10
-2M
の条件では吸収極大が5 nm
程のみ長波長シフトしている。従って、プロトンは窒素の孤立電子対と結合し、π 共役系に大きな影響を及ぼさないと考えられる。さらにTFA
を高濃度にした1.0 x 10
-1M
においては1.0 x 10
-3M
、1.0 x 10
-2M
との等吸収点が見られないことから、[5b+H]+から さらにプロトン化した[5b+2H]2+が存在すること可能性がある。以上より、BPI-HAA
は2
箇所以上の窒素原子においてプロトン化が起こり、一段階目のプロトン化はπ共役系 にほとんど影響を及ぼさないことがわかった。t-Bu
t-Bu c: Ar =
N N
N N
N N N
N N N
N N
Ar
Ar
Ar
4 Ar
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
A b s o rb a n c e
700 600
500 400
300
none TFA 10-3 M TFA 10-2 M TFA 10-1 M