複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の 適用 : 民法上の一部代位から見る破産法上の開始 時現存額主義
著者 杉本 純子
雑誌名 同志社法學
巻 60
号 7
ページ 1249‑1278
発行年 2009‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011669
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二四九同志社法学 六〇巻七号
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用 ―民法上の一部代位から見る破産法上の開始時現存額主義―
杉 本 純 子
(四二六七)
目 次一 はじめに二 二つの大阪高裁判決三 裁判例の検討四 開始時現存額主義適用の可否五 結びにかえて
一 はじめに 債権者が人的・物的担保を設定するのは、究極的には債務者の倒産時に備えて責任財産の集積を図り、債権回収を有
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五〇同志社法学 六〇巻七号
利に運ぶためである。破産法は、そのような債権の効力の強化を図った債権者に対して、物的担保を取得した者につい
ては別除権(破六五条)を与え、人的担保を取得した者については開始時現存額主義(破一〇四条二項)を適用して、彼らの利益を保護している。特に、後者の開始時現存額主義が適用されると、たとえ連帯保証人等の全部義務者が破産
手続開始後に保証債務の履行として弁済を行ったとしても、債権全額の満足を受けるまでは、債権者は手続開始時の現存額全額をもって破産手続に参加することができる。民法の観点から見れば、連帯債務に関する弁済の絶対効の例外と
なるにもかかわらず (
。者るいてし護保く厚を権、債たし得取を保担的人 1)
近時、この開始時現存額主義の適用範囲をめぐって、大阪高裁にて相反する二つの裁判例が出現した。同一の事実に
基づく二件の破産手続において争われたのは、一個の根抵当権が複数の債権を担保し、そのすべての債権の物上保証人がそのうちの数個の債権に係る残債務全額を代位弁済した場合に、開始時現存額主義が適用されるのかである。開始時
現存額主義が想定しているのは、一個の債権について全部義務者が一部の弁済をした場合であるため、複数の債権を保証している全部義務者がそのうちの数個を全額弁済した場合にまで、開始時現存額主義を適用すべきなのかが問題とな
ったのである。
この問題は、平常時であれば民法五〇二条一項で規定する一部代位の問題となる。一〇四条二項を含む多数債務者関
係についての破産法の規定が、基本的には民法の代位弁済に関する規律を破産法に反映させたものであると理解されてきたことを鑑みれば、開始時現存額主義の適用について検討するに際しては、まず、民法上の一部代位について理解を
深める必要がある。そして、民法上の一部代位と破産法上の開始時現存額主義がいかなる関係にあるのかを考えなければならない。
本来、一個の債権について全部義務者が一部の弁済をした場合が基本とされる開始時現存額主義を、複数の債権を保
(四二六八)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五一同志社法学 六〇巻七号 証している全部義務者がそのうちの数個を全額弁済した場合に適用するのか否かは、すなわち、債権者がそれだけ優先的に満足を受ける利益を有していたか否かに拠ると考えられよう。では、債権者がそのような利益を有する場面とは、
いかなる場合なのか。本稿では、平常時たる民法上の一部代位に関する学説・判例の議論を参考にしながら、破産時における開始時現存額主義の適用について考えてみる。そして、相反する判断を下した二つの裁判例について、検討を加
えることとしたい。
二 二つの大阪高裁判決 まずは、同一の事実に基づいて、相反する判断を下した大阪高裁の二つの裁判例(大阪高判平成二〇年四月一七日金法一八四一号四五頁、大阪高判平成二〇年五月三〇日金法一八三九号四一頁)を紹介する。
︻事実︼
債権者Yは、Bが代表するA会社に対し、平成一〇年九月から同一三年一月にかけて合計五口の貸付(以下、﹁貸付一﹂
﹁貸付二﹂等という)を行い、Bは貸付一ないし五が行われる際にYと連帯保証契約を締結した。また、貸付一ないし五については、平成一〇年九月にこれらを被担保債権として、Aと物上保証人Cが各二分の一で共有する土地および当
該土地上にAが所有する建物に極度額一億五〇〇〇万円の根抵当権が設定されている(以下、根抵当権の目的である土地を﹁本件土地﹂、建物を﹁本件建物﹂といい、土地と建物を併せて﹁本件土地建物﹂という)。その後、平成一七年一
二月一二日、AとBにそれぞれ破産手続が開始され、同一の弁護士が双方の破産管財人に選任された。
(四二六九)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五二同志社法学 六〇巻七号
Yは平成一八年二月六日付で、Aの破産手続において、貸付一ないし五の元本合計一億二四七八万六〇〇〇円 (
と約定 2)
利息三五万二八一五円、破産手続開始決定日前日までの遅延損害金一五三万七一四〇円および破産手続開始決定日以降の遅延損害金(額未定)について破産債権の届出を行った。同時に、連帯保証人Bの破産手続においては、これらの連
帯保証債務履行請求権について破産債権の届出を行った。
その後、本件土地建物は任意売却され、Yは、①本件土地のA持分の売買代金から四八一七万八四四三円、②本件土
地の物上保証人C持分の売買代金から四八一七万八四四四円、③Aの本件建物の売買代金から二八七八万一九二八円の合計一億二五一三万八八一五円の弁済を受けた。YはAに対する別除権の行使として合計七六九六万〇三七一円(①お
よび③)の弁済を受けたことから、それらを貸付一ないし五の遅延損害金・約定利息の全額、貸付一および貸付二の元本全額、貸付三の元本の一部に充当した。そして、Yは、別除権行使により予定不足額が確定したとして、総債権額か
ら上記七六九六万〇三七一円を控除した残額を確定不足額として届け出たが、連帯保証人Bの破産手続においては、手続開始時現存額の全額を破産債権として届け出た。
これに対し、AとBの破産管財人Xは、それぞれの破産手続において、Yの届出債権の全額について異議を述べたため、Yはそれぞれに破産債権査定申立てを行った。
Aの破産手続においては、Yは、Aに対する別除権行使によって弁済を受けた金額だけでなく、物上保証人Cから弁済を受けた金額をも控除した債権額で手続に参加すべきか否かが争われた (
主に、はY、はていお続手産破のB、たま。 3)
債務者Aに対する別除権行使によって弁済を受けた金額と物上保証人Cから弁済を受けた金額双方を控除せず、手続開始時現存額の全額をもって、手続に参加できるか否かが争われた。
Aについての査定決定は、Yの別除権行使によって消滅した貸付一および貸付二のみを控除した額を破産債権額と
(四二七〇)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五三同志社法学 六〇巻七号 し、物上保証人による弁済金については債権額から控除しなかった。また、Bについての査定決定は、手続開始時現存額の全額をYの破産債権額として認めた。これに対し、破産管財人Xが双方を不服として異議の訴えを提起したところ、
Aについての一審判決(大阪地裁堺支判平成一九年六月一五日金法一八四一号五一頁)は査定決定を認可した。一方、Bについての一審判決(大阪地裁堺支判平成一八年一〇月二四日公刊物未登載)では、Aに対する別除権行使によって
貸付一および貸付二に充当された弁済分は、保証債務の随伴性によって消滅したとした上で、物上保証人Cによる弁済分はその余の残額すべてを消滅させるには足りないことから開始時現存額主義を適用し、貸付三ないし貸付五の元本合
計七八三一万二〇〇〇円をYの破産債権額と査定した。
Aについての査定決定に対する一審判決にはXが、Bについての査定決定に対する一審判決にはXおよびYの双方が
控訴した。
︻判旨︼
⑴
大阪高判平成二〇年四月一七日 主債務者Aについての査定決定に対する控訴審判決である(以下、﹁判決①﹂という)。同判決では、破産法一〇四条二項の定める手続開始時現存額主義の趣旨について述べた上で、﹁複数の債務についての全部義務者が、そのうちの一部の債務について全額弁済した場合においても、全部義務者からすると、全額弁済した債務以外の他の債務が残存して
いる以上、当初約束した全部履行義務を果たしたとはいえず、債権者からしても、全部義務者が約束した利益が実現されるには至っていないのであるから、一個の債務についての全部義務者がその一部について弁済した場合と、利益状況
は異なるものではない。したがって、複数の債務の全部義務者は、他の債務者について破産手続が開始された後、その
(四二七一)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五四同志社法学 六〇巻七号
うちの一部の債務を全額弁済しても、当該弁済した分について債権者に代位することはできず、債権者は上記弁済分を
控除しない金額で破産債権を行使することができる(破産法一〇四条二項が適用される。)と解するのが相当である﹂とする。そして、このことは物上保証人にも同様に妥当すると述べている。
て担の値価換交の産動不保該度当び及額度極、は人証限に上記べす権債保担被の数複上限、えいはとるいてれさ定保物 ﹁でてし保担を権債の数複権る当抵根の個一、ちわないするすいてし定設に産動不る有合所の己自を権当抵根同、場
について債権者(根抵当権者)に満足を得させるべき責任を負担しているところ、(略)複数の被担保債権の一部について全額弁済がなされたとしても、債権者は物上保証に係る被担保債権全額の満足を得るに至っていない。かかる債権
者及び物上保証人の状況は、一個の債権の物上保証人がその債権の一部弁済をした場合と同様のものと考えることができる﹂ことから、﹁債権者は、物上保証人による弁済額を控除されることなく届出債権全額について破産債権として行
使することができるものと解するのが相当である﹂という。
加えて、﹁特に本件のような根抵当権設定による物上保証の場合、物上保証人としては、根抵当権設定時に、極度額
の範囲内で当該根抵当権によって複数の債権が担保されることとなることを当然予定していたはずであり、担保不動産の売却代金をもって被担保債権全額の弁済ができないときに債権者との間で前記のような状況が生じることも予見し得
たものといえるから、かかる物上保証人について、債権者に代位して破産手続に参加することを認めなくても、不当に不利益を与えることにはならない﹂と述べて、別除権行使による弁済分のみを控除した一審判決を支持して、Xの控訴
を棄却した。
(四二七二)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五五同志社法学 六〇巻七号
⑵
大阪高判平成二〇年五月三〇日 一方、連帯保証人Bについての査定決定に対する控訴審判決(以下、﹁判決②﹂という)では、判決①と正反対の判断が下された。
まず、債権者が複数債権を有している場合における開始時現存額主義の適用について、民法四四一条及び破産法一〇
四条は、基本的には民法五〇二条一項で定める債権の一部代位があった場合を念頭において求償権者と債権者との利害調整を図るものであると理解することが素直な見方であるとして、﹁開始時現存額主義が対象としているのは、個別の
債権の一部が弁済された場合である﹂という前提を確認している。その上で、債権者が複数債権を有している場合にもその趣旨を拡張すべき必要があるかどうかを検討する。
検討にあたっては、別除権行使によって主たる債務の弁済があった場合と、物上保証人財産の任意売却によって主たる債務の弁済があった場合とが連帯保証人の破産にいかなる影響を与えるかについて個別に吟味している。
前者については、破産法一〇四条二項・四項は債権者が全部弁済を受けた場合には求償権者が当該債権を行使できる旨定めているところ、本件のように連帯保証人が破産して主たる債務者が弁済した場合には、弁済者が求償権を代位行
使する余地がないため、債権者の権利行使が否定されるとその割当分は一般債権者全体への配当に充てられることとな
り、債権者と他の一般債権者との利害調整が問題になるという。そして、破産法一条が﹁単に債務者だけでなく、債権者その他の利害関係人の間の利害の調整を図ることを目的としている﹂ことを鑑みると、﹁保証人破産の場合において
主たる債務者からの弁済により複数口の債権のうち一部の口の債権が完済されているときでも、なお総債権について弁済がなければ債権者が総債権全額の権利行使を認められるとするならば、破産手続においては、本来、平等に取り扱わ
れるべき当該債権者と他の一般の債権者との均衡が大きく崩れ、他の一般債権者の保護に欠ける憾みがあるといわざる
(四二七三)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五六同志社法学 六〇巻七号
をえない。よって、開始時現存額主義を、複数口債権のうちの一部の口債権に対する全額弁済があった場面にまで拡張
するのは相当ではない﹂と述べる。
後者については、まず、複数口の債権の一部の口債権が全部義務者によって弁済された場合、債権者はその全部弁済
された債権については完全な満足を得ているのであるから、﹁全部義務者が当該債権に代位して破産配当に加入しても債権者が不利益を受けるとはいえない﹂という。その上で、物上保証人は担保物件の価値全部を被担保債権全部のため
に提供しているが、﹁全部義務者であった場合以上に、不利益に扱われる理由はないし、むしろ物上保証人は担保物の価値の限度においてのみ責任を負うものである﹂のだから、﹁債権者が担保物の交換価値を超えて被担保債権全部の満
足を得るまで、物上保証人は債権者に劣後するとみるのは妥当ではないし、またそれが当事者双方の合理的な期待であるともいえない﹂と述べた。
その結果、Yの主張していた開始時現存額の総額のうち、別除権行使によって充当された弁済分と物上保証人財産の任意売却によって充当された弁済分がそれぞれ控除され、貸付五の債権についてのみ開始時現存額主義が適用されると して、Yの控訴を棄却した (
。 4)
三 裁判例の検討
1
問題の所在 本件は、複数の債権を保証している全部義務者が破産した場合、破産手続開始後に物上保証人によってその一部が全額弁済されていても、破産法一〇四条二項で規定する開始時現存額主義が適用されるのかが争われた裁判例である。判
(四二七四)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五七同志社法学 六〇巻七号 例①②共通して問題となったのは、破産法一〇四条五項の準用する同条二項の﹁その債権の全額が消滅した場合﹂の解釈として、個々の債権がそれぞれ全額消滅すればよいのか、それとも全部義務者が債権者に負担する債権全てが消滅し
なければならないのかである。そして、連帯保証人の破産手続に関する判例②においては、別除権行使によって主たる債務の一部が消滅した場合にも開始時現存額主義が適用されるかについても争われている。これらの問題は、端的に換
言すれば、債権の一部代位をいかに解するかという問題となる。
開始時現存額主義は、後述するように、民法五〇二条一項で定める一部代位における法律関係を破産手続に反映した
ものと言われる。したがって、本件裁判例を分析するにあたっては、まず、民法上の一部代位(民五〇二条一項)と破産法上の開始時現存額主義に関する従来の議論を俯瞰し、一部代位と開始時現存額主義の関係について理解する必要が
ある。
2
一部代位と開始時現存額主義⑴
民法上の一部代位 民法五〇二条一項は、一部代位者は﹁その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する﹂と規定する。フランス法やドイツ法が﹁一部代位者は、原債権者を害することができない﹂と定めて原債権者優先主義を採っていたのに対して、起草者たるボアソナードは、原債権者に過分の利益を与えないよう、原債権者と代位者が共同で権利
を行使する旨を意図して、意識的に平等主義を採用したと言われている (
受ていおに当配のし残と果結たし行実て債保のを済弁で合割と権額権債償求と額を担権び来、債者およ一部代位者は、 っ初、て。がたしの期博学説は、梅謙次郎士以 5)
けることができるとする考え方が支配的であった (
が民者位代部一は項一条二〇五法、。はていおに例判、でん進にらさ 6)
(四二七五)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五八同志社法学 六〇巻七号
債権者の権利を行使するに際して何らの制限も設けていないと解し、一部代位者は原債権者と共同せずに、その債権額
に応じて単独で、抵当権を実行できるとの見解を示した(大決昭和六年四月七日民集一〇巻五三五頁)。
しかし、このような平等主義に対して、代位弁済制度の目的は求償権の保護に尽きるのであるから、債権者を害して
までこれを認めることはその目的を逸脱するとの批判がなされるようになる。そして、一部代位の場合は、債権者に不測の損害を与えないために、債権者と共同しなければ、代位者は代位した権利を行使できないし、弁済に際しては債権
者が優先するとして原債権者優先主義を採用するのが多数説となった (
。るめ始を展進とへ ら向方るれ離か。旨趣法立の来従も例判、てしそ 7)
⑵
一部代位に関する判例の進展 民法五〇二条一項が定める一部代位は、原則として﹁一個の債権について、一部代位がなされた場合﹂を想定している。このような原則的な一部代位の事案において、前掲昭和六年判決は、一部代位において立法趣旨に従った平等主義に立つことを明らかにしたが、その後、学説上で原債権者優先主義が採られるようになると、判例もそれに倣った見解を示すようになる。さらに、判例は、﹁複数の債権について、その一部が全額代位弁済された場合﹂という新しい局面
についても判断を求められるようになる。
① 一個の債権について、一部代位がなされた場合
まず、原債権者優先主義の採用を明確に示したのが最高裁昭和六〇年判決(最判昭和六〇年五月二三日民集三九巻四号九四〇頁)である。これは、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として、貸付債権を
(四二七六)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二五九同志社法学 六〇巻七号 被担保債権とする抵当権が設定され、まず物上保証人所有の不動産が競売されて、その売却代金が貸付債権の一部に充てられた後に、債務者所有の不動産が競売された場合の配当金の分配が争われた事案である。最高裁は以下のように判
示した。﹁債権者が物上保証人の設定にかかる抵当権の実行によって債権の一部の満足を得た場合、物上保証人は、民法五〇二条一項の規定により、債権者と共に債権者の有する抵当権を行使することができるが、この抵当権が実行され
たときは、その代金の配当については債権者に優先されると解するのが相当である﹂とする。すなわち、一部代位者が物上保証人の場合、弁済については、一部代位者である物上保証人は原債権者に劣後することを明らかにしたのである。
最高裁は、その理由を﹁けだし、弁済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり、そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではなく、この担保権が実行された場合における競落代
金の配当について債権者の利益を害するいわれはないからである﹂と述べている。
この昭和六〇年判決が採用した原債権者優先主義の立場を確認したと言われるのが、最高裁昭和六二年判決(最判昭
和六二年四月二三日金法一一六九号二九頁)である。これは、二つの貸付債権を被担保債権とする根抵当権が債務者所有の不動産上に設定されていたところ、根抵当権確定後に信用保証協会が一つの貸付債権を代位弁済したが、その後に
債務者に対する求償権が抵当不動産売却代金交付期日前までに消滅したことから、同不動産上の後順位抵当権者が保証
協会に交付されるべきであった配当金額に過誤があるとして配当異議を主張したものである。このような事案について、最高裁は、前述の昭和六〇年判決を引用した上で、﹁債権の一部について代位弁済がされた場合、右債権を被担保
債権とする抵当権の実行による売却代金の配当については、債権者は代位弁済者に優先する﹂と判示した (
。 8)
これら二つの判例によって、平常時に﹁一個の債権について、一部代位がなされた場合﹂においては、原債権者優先
主義が妥当し、債権の満足については、一部代位者は原債権者が満足を受けた後でなければ満足を得ることはできない
(四二七七)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六〇同志社法学 六〇巻七号
ことが明確となった (
。 9)
② 複数の債権について、その一部が全額代位弁済された場合
いが場たれさ済弁位代額全部﹂一のそ、ちうの権債の合に複すつに題問のこ。かのる当も妥が義主者権債原に様同数﹁ ﹁済例判﹂、合場たれさなが弁、部一、ていつに権債の個は一、明はでれそ。たしにからを債場立るす用採を義主者権原て争われたのが最高裁平成一七年判決(最判平成一七年一月二七日民集五九巻一号二〇〇頁)である。事案は以下のとおりである。
三個の貸付債権について債務者所有の不動産に抵当権が設定され、かつ、上記貸付債権に係る債務について連帯保証人が存在していたところ、債務者が会社更生手続開始の決定を受けて各貸付債権についての期限の利益を喪失した。そ
の後、連帯保証人は、上記各貸付債権のうちの二個の貸付債権の保証期間が経過した後に、債権者に対し、保証期間が経過していなかった一個の貸付債権に係る残債務全額につき代位弁済したので、債務者の管財人が、本件抵当不動産の
売却代金を債権者が有する残債権の元本額と連帯保証人が代位によって取得した債権の元本額に応じて按分弁済したところ、債権者が、自らは連帯保証人に優先して弁済を受ける権利を有すると主張した。
一審(東京地判平成一五年八月一日金法一七〇九号四九頁)、二審(東京高判平成一六年二月二四日金法一七一八号六九頁)ともに、本件の場合にも原債権者優先主義が妥当するとして、債権者の請求を認容した。二審によれば、﹁弁
済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり、そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではないとの昭和六〇年判決の説示は、本件についても当然に妥当するものであり、(略)
代位弁済が一個の被担保債権の一部の代位弁済の場合と一個の抵当権によって担保される数個の被担保債権のうちの一
(四二七八)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六一同志社法学 六〇巻七号 個の債権全部の代位弁済の場合とで区別する理由もない﹂と判示している。
ところが、最高裁は、﹁不動産を目的とする一個の抵当権が数個の債権を担保し、そのうちの一個の債権のみについ
て保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合は、当該抵当権は債権者と保証人の準共有となり、当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには、債権者と保証人は、両者間
に上記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り、上記売却代金につき、債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受けるものと解すべきである﹂と述べて、二審の判断を
破棄した。その理由について、最高裁は、﹁この場合は、民法五〇二条一項所定の債権の一部につき代位弁済がされた場合とは異なり、債権者は、上記保証人が代位によって取得した債権について、抵当権の設定を受け、かつ、保証人を
徴した目的を達して完全な満足を得ており、保証人が当該債権について債権者に代位して上記売却代金から弁済を受けることによって不利益を被るものとはいえず、また、保証人が自己の保証していない債権についてまで債権者の優先的
な満足を受忍しなければならない理由はないからである﹂と判示した。
この平成一七年判決によって、﹁複数の債権について、その一部が全額弁済された場合﹂、たとえ当該複数債権を被担
保債権とする抵当不動産の売却代金が、債権者の有する被担保債権の全てを消滅させるに足りなくとも、保証人による
全額弁済によって債権者は完全な満足を得ているのであるから、この場合に原債権者優先主義は妥当しないことが明確となった。ただ、本件における連帯保証人は、当初は三個の債権を保証していながら、保証期間の経過によって結果的
にはそのうちの一個の債権についてのみ責任を負うこととなり、当該一個の債権について全額弁済した事案であり、連帯保証人は当該弁済によって自らの責任を全て果たしていた。この点は大変重要な意義を有しており、判決においても、
﹁不動産を目的とする一個の抵当権が数個の債権を担保し、そのうちの一個の債権のみについて保証人が当該債権に係
(四二七九)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六二同志社法学 六〇巻七号
る残債務全額につき代位弁済した場合は﹂として、本判決が示した判断が極めて限定された事案にのみ妥当することを
明らかにしている (
。 10)
⑶
破産法上の開始時現存額主義 数人の全部義務者の全員、又はそのうちの数人に破産手続開始の決定があったとき、債権者は、破産手続開始時に存する債権の全額について、それぞれの債務者の破産手続に参加することができる(破一〇四条一項)。これが、破産法における開始時現存額主義であるが、その意義は、次の二つに分けられると言われる。第一は、﹁破産手続開始時の現
存額全額が破産債権になる点であり、それ以前に一部の弁済を受けていれば、本来の債権額全額について債権届出はできない﹂という点、第二は、﹁いったん現存額の届出をなせば、その後に他の義務者からの弁済がなされても、破産債
権額に影響はない﹂という点である (
しろ義部全の等証保、こ者とるなと準基の定算務が当、滅消が部一の権債は存者権債の合場るす在額配額たれさ額減が に後らか者三第に手始開続弁産、破は常のよ済が、とるす滅消部等一の権債てっ。通 11)
ても、なお手続開始時の現存額全額で配当に参加することができるため、それだけ厚く保護されていることになる。したがって、開始時現存額主義は、一般に、人的担保の存在による債権の効力の強化を破産手続で顕現させたものと理解
されている (
。 12)
旧破産法下においては、現存額主義を定めていると解されていた旧法二四条と、債権者が破産宣告時の債権額全額を
破産債権として行使しても、その後に求償権者が弁済を行った場合には、﹁其ノ弁済ノ割合ニ応シテ﹂債権者の権利を﹁取得ス﹂と規定していた旧二六条二項の関係をいかに解するかという問題点があった。すなわち、旧二四条に基づい
て債権者が破産宣告時の債権額全額について権利行使すると、当該債権者は破産宣告後に全部義務者から債権の一部の
(四二八〇)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六三同志社法学 六〇巻七号 弁済を受けたときにもなお、届出債権全額の満足を受けない限り、その債権全額について破産債権者として権利行使ができる。ところが、旧二六条によれば、求償権者がその債権の一部を弁済した場合、弁済の割合に応じて求償権者が債
権者の権利を取得し、取得した権利を当該求償権者が破産債権として行使できることになり、債権者はその部分につき届出債権全額の権利行使ができないことになってしまう。このことが、宣告時現存額主義に抵触するのではないかと議
論されていたのである (
るたは者済弁るまどとにし債を済弁部一に後告宣、権破権す使行利権てしと者債者産破てし得取を利権の産、ずせ動発 例届が者権債、はで権判・出通るけおに下法説全債では項二条六二旧はま。るけ受を足満の額旧 13)
ことはできないと解されていた (
。よと条四二旧、てっに六設新の定規該当、二条あ解るいてれさなが決に二既は題問るす関に項りで項二条四 例を場立の説通・こ判な採よのこ、てしうとるた〇一法産破がのし。化文法に確明をそ 14)
また、旧法下においては、債権者が主たる債務者の破産宣告時における債権全額を破産債権として権利行使した後に、物上保証人がその債権の一部弁済をした場合、物上保証人は主たる債務者の破産手続においていかなる権利行使ができ るのかについても見解が対立していた (
べ同きべう扱り取に様と、合場の者務義部全をか両こてすをい扱取るな異し者目着にい違の位地のれ、たいなぎすにめ のがし供に保担はら自、特人証保上た価定いう負を任責てお財に度限の額。産物 15)
きかが争われていた (
者号決(民集五六巻七一日五二四頁)が﹁債務判四最二の点については、高。裁平成一四年九月こ 16)
が破産宣告を受けた場合において、債権の全額を破産債権として届け出た債権者は、破産宣告後に物上保証人から届出債権全部の満足を得ない限り、なお届出債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができるものと解
するのが相当である﹂と判示したのを受けて、物上保証人も全部義務者と同様の取扱いをすることを一〇四条五項にて明らかにしている。したがって、物上保証人に関する問題も一応の決着を得ている (
。 17)
(四二八一)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六四同志社法学 六〇巻七号
⑷
関の義主額存現時始開と位代部一係 これまで見てきたように、民法上の一部代位は、判例・学説共に原債権者優先主義が多数説となっており、債権者に不測の損害を与えないために、債権者と共同しなければ、代位者は代位した権利を行使できないし、弁済に際しても債権者が優先する。弁済による代位は、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり、そのために未だ完全な満足を得ていない債権者が不利益を被るべきではないからである。そして、破産法上の開始時現存額
主義の趣旨も、多くの配当を期待できない破産の場面において債権者の債権回収の可能性を保護し、全部義務者は全額弁済をなすまで義務が残っており、債権者が完全な満足を得るまではその利益を損なってはならないということにある (
。 18)
すなわち、民法上の一部代位における原債権者優先主義と破産法上の開始時現存額主義は、その趣旨を同じくし、後者は前者の延長線上にあるのである (
位基産法の規定が、本の的には民法の代破て当いもそも、多数事。者債務関係につそ 19)
弁済に関する規律を破産法に反映させたものであり、旧破産法二六条二項も民法五〇二条一項に対応したものと理解されていたことからも (
。明うろあでからは係関の者両、 20)
したがって、開始時現存額主義の適用を検討するに際しては、破産法規定の解釈にとどまらず、まずは根本としての民法上の一部代位から考える必要がある。本件で問題となる一部代位の場面には、民法上の一部代位における原債権者
優先主義が採用されるか否か。これが、開始時現存額主義適用の可否を検討する最初の一歩であると思われる。
(四二八二)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六五同志社法学 六〇巻七号 四 開始時現存額主義適用の可否
1
本件の事案と判決の整理 まず、考察を述べるにあたって、本件の事案と二つの判決の特徴を整理しておきたい。本件においては、主債務者である破産会社と物上保証人の共有であった不動産について根抵当権が設定され、五個の貸付債権が担保されていた。そして、当該不動産の任意売却によって、五個の貸付債権のうちの一部が全額弁済された。
設定されていたのが抵当権ではなく、根抵当権であったことは、本件において検討すべき点である。根抵当権を設定したのであれば、物上保証人としては、極度額の限度まではおそらく数個の債権を担保するであろうことを了解する意
思を有していたと考えられるからである。物上保証人は、本来、担保に供した特定財産の価額の限度において責任を負うにすぎないが、それでも被担保債権すべてについて債権者に満足を得させるべき責任は有している。つまり、本件に
おける物上保証人は、根抵当権が担保していた五個の貸付債権すべてについて責任を負っていたのである。したがって、本件では、複数の債権すべてについて責任を負っている物上保証人が、そのうちの一部を全額弁済したことになる。こ
のことは、従来の判例にはなかった本件の特徴である。
そして、このような事案について、裁判所は二つの相反する判断を下した。まず、物上保証人による弁済と開始時現存額主義の適用について、判決①は、本件の事案を﹁一個の債務についての全部義務者がその一部について弁済した場
合﹂と利益状況は異なるものではないとして、開始時現存額主義の適用を認める。一方、判決②では、開始時現存額主義が対象とするのは、個別の債権の一部が弁済された場合であり、複数口債権のうちの一部が全額弁済された場合にま
で及ぶものではないと述べ、本件の事案は後者に妥当することから開始時現存額主義の適用を否定する。このような判
(四二八三)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六六同志社法学 六〇巻七号
断を下す理由として、判決①では、物上保証人は、担保不動産の交換価値の限度に限定されるとはいえ、複数の被担保
債権すべてについて債権者に満足を得させるべき責任を負担しているのであるから、本件における物上保証人は、担保不動産の売却代金をもって被担保債権の一部について全額弁済がなされたとしても、債権者は物上保証人に係る被担保
債権全額の満足を得るには至っておらず、したがって、かかる物上保証人について、債権者に代位して破産手続に参加することを認めなくても、不当に不利益を与えることにはならないと解している点が挙げられる。しかし、判決②は、
物上保証人を担保物の価値の限度においてのみ責任を負うものとし、本件において物上保証人は負担する責任をすべて果たしており、債権者はその全額弁済された債権については完全な満足を得ているのであるから、かかる物上保証人が
当該債権に代位して破産手続に参加しても、債権者が不利益を受けるとはいえないと解している。
これらの点を鑑みると、相反する二つの判決は、本件のような﹁複数の債権について、すべてを保証している全部義
務者が、そのうちの一部を全額弁済した場合﹂に、後述するように、代位弁済後に原債権者が行使する債権について、代位弁済前に﹁債権者が代位弁済者に優先されるはずだった債権﹂としてなお優先的に満足を受ける利益を有している
のかについての判断の相違から生じたと考えることができよう。そして、その判断には、物上保証人の性質をいかに捉えるかの相違も大きく影響を与えている。
したがって、本件の二つの判決を考察するには、上述した事案の特徴を考慮しながら、本件において、債権者は、複数の債権のうちの一部に全額弁済を受けてもなお、代位弁済後に行使する債権について、代位弁済前に﹁債権者が代位
弁済者に優先されるはずだった債権﹂として優先的に満足を受ける利益を有していたかどうかを検討する必要がある。その上で、本件における開始時現存額主義の適用を考えてみたい。
(四二八四)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六七同志社法学 六〇巻七号
2
原債権者優先主義の実質的根拠 既に述べてきたように、民法五〇二条一項は、﹁一個の債権について、一部代位がなされた場合﹂を想定して規定されている。そして、この場合には、昭和六〇年判決が示したように原債権者優先主義が採用され、満足面において債権者は代位弁済者に優先すると解するのが多数説である。﹁弁済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり、そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではない﹂からである。では、
昭和六〇年判決のいう﹁債権者が不利益を被る﹂場合とはいかなる場合なのか。この﹁不利益﹂の内容こそが原債権者優先主義の実質的根拠であり、ひいては、原債権者優先主義と趣旨を同じくする破産法上の開始時現存額主義適用の可
否についての指標となるだろう。
結論としては、昭和六〇年判決のいう
「
不利益」
とは、代位弁済前には﹁債権者が代位弁済者に優先するはずであった債権﹂が、弁済による代位が生じた結果、優先されなくなってしまった場合をいうと考える。すなわち、代位弁済者による代位弁済後に原債権者が行使する債権について、代位弁済前に当該債権についても代位弁済者が保証等の責任を
負っていたのならば、原債権者は代位弁済後に行使する債権についても代位弁済者に優先して満足を受けるはずだったのである。このような場合に原債権者が優先されないとすれば、原債権者が保証人等を徴した目的が達せられず、原債
権者は不利益を被ることになる。逆に、代位弁済者としても、代位弁済前に責任を負っていた債権については、原債権者に優先されることを承知していたはずであるから、代位弁済後に原債権者が行使する債権について、原債権者が優先
的に満足を得ても不当に不利益を受けるとはいえない (
。 21)
このように、債権者が被る不利益の内容を、代位弁済前には﹁債権者が代位弁済者に優先するはずであった債権﹂が、
(四二八五)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六八同志社法学 六〇巻七号
弁済による代位が生じた結果、優先されなくなってしまった場合と考えるならば、複数の債権の全部について保証して
いる保証人が、そのうちの一個の債権を全額弁済した場合は、原債権者優先主義が妥当することとなる。代位弁済後に原債権者が行使する残りの債権についても、保証人は代位弁済前に保証していたのであるから、原債権者は残りの債権
についても優先的に満足を受ける利益を有しているのである。ただし、この場合、原債権者と代位弁済者がそれぞれ別個の債権を有しているにもかかわらず原債権者を優先させることとなり、個別の債権相互間に優劣を認める結果となる
との批判が考えられよう。しかし、そもそも、代位弁済者が弁済による代位によって取得する債権は、本来代位弁済によって消滅すべきはずの債権を、求償権確保のために法の擬制の下に存続させているにすぎないものである。そうであ
るならば、原債権者と代位弁済者の利益調整を考慮して、原債権者が不利益を被らない限度において、代位弁済者のために原債権者の債権を存続させると解しても支障はないのではないか。
では、このような理解の下に、平成一七年判決を見てみたい。当該判決では、保証人は当初三個の貸付債権について保証していながら、保証期間の経過によって結果的には一個の貸付債権についてのみ責任を負うこととなり、当該債権
を全額弁済したという事案であった。したがって、この場合、保証人の責任は完全に果たされており、原債権者は保証を徴した限度において完全な満足を得ていることになる。それゆえ、もはや原債権者は代位弁済者に優先して満足を受
ける利益を有しておらず、原債権者優先主義は採用されないという結論に至った。確かに、代位弁済後に原債権者が行使する債権については、保証人は代位弁済前から保証していないのであるから、当該債権は代弁済前に﹁債権者が代位
弁済者に優先するはずであった債権﹂ではないのである。
この点、判決文においても、﹁不動産を目的とする一個の抵当権が数個の債権を担保し、そのうちの一個の債権のみ
についての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合は﹂と述べて、平成一七年判決における判断が
(四二八六)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二六九同志社法学 六〇巻七号 妥当する場合を限定的に解していることは注目に値する。このことは、平成一七年判決が、﹁全部代位弁済をした法定代位権者がどのような代位資格に基づいて代位弁済をしたのかという点と、代位弁済後に代位弁済者が原債権者との間 でどのような利害関係に立つのかという点 (
もけいつに権債原た受のを転移済者の定て回法類う扱り取に毎型件収事別個、を益利のつ ( 権弁考慮しながら、﹁残債権につき債者﹂がもつ回収の利益と、全部代位を 22)
﹂姿勢にあることを示してい 23)
ると理解されている。したがって、﹁一個の抵当権が数個の債権を担保し、そのすべての債権の保証人がそのうちの一個の債権に係る残債務全額を代位弁済した場合 (
代さ部一、はに合場のこ、りおてれと七﹂程射の決判年外一成平、は等 24)
位弁済と同じ利益状況にあるということができるから、保証人は債権者に劣後すると解すべきではないかとの見解もある (
には代位弁済者に優先するず者であった債権﹂が、弁済が権判債たがって、平成一七年決。も、代位弁済前には﹁し 25)
よる代位が生じた結果、優先されなくなってしまったか否かを基準にして判断しているとも考えられる。
このように、一部代位に関する従来の判例において、原債権者優先主義が採用される場面か否かを判断する際に、代
位弁済前には﹁債権者が代位弁済者に優先するはずであった債権﹂が、弁済による代位が生じた結果、優先されなくなってしまったかを重要な判断要素として考えることができる。したがって、この要素を基礎として本件における事案を
見ることにしたい。本件のような場面は、原債権者優先主義が採用される場面にあると言えるであろうか。
ここで考慮すべきは、本件における保証人が物上保証人であったという点である。前述のとおり、本来、物上保証人は、担保に供した特定財産の価額の限度において責任を負うにすぎない。物上保証人が供した財産の担保権が実行され
て、債務の引当てとなる責任をすべて果たすと、物上保証人には残債務の履行義務がなくなる。したがって、物上保証人の財産について担保権が実行されたならば、債権者は、物上保証人からは、もはやさらなる満足を受けることはでき
なくなる。しかし、そもそも一部代位の場面で初めて原債権者優先主義を採用した昭和六〇年判決は、代位弁済者が物
(四二八七)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二七〇同志社法学 六〇巻七号
上保証人の事案であった。物上保証人の事案において、判例は、上述のような原債権者優先主義の実質的根拠を示した
と言える。そうだとすれば、やはり、前掲平成一四年判決が述べるように、﹁物上保証人も連帯保証人等の全部義務者も、債権者が債務者から債権の完全な弁済を受けられない場合に備えて、有限又は無限の責任を負うものであって、責任の
集積により債権の効力の強化を図るという点においては異なるものではない (
でも前済弁位代、てはいつに権債るに﹁使にずはるす先優者債済弁位代が者権す行る位証人によ代弁済後に原債権者が べでき上るす解るあ保。すなわち、物﹂と 26)
あった債権﹂として原債権者優先主義が妥当し、原債権者は物上保証人に優先して満足を受けることになる。したがって、物上保証人は連帯保証人等と区別して異なる扱いをする必要はない。このことは、破産法一〇四条五項が、改めて
物上保証人を連帯保証人等と同じように全部義務者として扱う旨規定したことからも明らかである。以上を鑑みれば、本件における事案は、﹁一個の根抵当権が数個の債権を担保し、そのすべての債権の保証人がそのうちの一個の債権に
係る残債務全額を代位弁済した場合﹂と同じ事案であると見ることができる。
すると、次に注目すべきは、本件における担保権が抵当権ではなく、根抵当権であったという点である。根抵当権は、 将来にわたって継続的に発生する多数の債権を一括して被担保債権とする担保権である (
てわおいて優先弁済を受ける。すなち度すしと者事当る定、設を権当抵根に限数保複の債権を被担の債とし、極度額権 度権者は、極囲額の範内で。債 27)
は、債務者は極度額の限度まで被担保債権に係る債務を負うことを認識しており、債権者は極度額までは優先弁済を受けられることを期待している。同様に、自らの不動産を提供して根抵当権を設定する物上保証人も、極度額の限度まで
不特定多数の債権に係る債務を負うことを認識しているはずである。この点、前掲昭和六二年判決は、根抵当権の性質に鑑み、根抵当権については、その元本確定後に保証人が複数の被担保債権のうちの一個につき全額弁済をした場合で
あっても、極度額の限度において担保される債権全体が実質的に一個の債権であり、一個の債権の一部につき代位弁済
(四二八八)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二七一同志社法学 六〇巻七号 がされた場合に当たると考えた上で、原債権者優先主義を採用したとも理解されている (
こての範囲内で当該根抵当権によっ複度れるなととこるさ数保担が権債の額極保、上、人としては証根当権設定時に抵 に件の判決①もおいて、﹁物。本 28)
とを当然予定していたはず﹂であると述べる。その上で、物上保証人所有の﹁不動産の売却等によって(略)複数の被担保債権の一部について全額弁済がなされたとしても、債権者は物上保証に係る被担保債権全額の満足を得るに至って
いない﹂のであり、﹁かかる債権者及び物上保証人の状況は、一個の債権の物上保証人がその債権の一部弁済をした場合と同様のものと考えられる﹂と判示している。判決①では、本件の判断において、根抵当権の性質を考慮していたこ
とが窺える。しかし、原債権者優先主義の実質的根拠を前述のように解するならば、注目すべきは、代位弁済後に原債権者が行使する債権が、代位弁済前に﹁債権者が代位弁済者に優先するはずであった債権﹂か否かであるため、根抵当
権か抵当権かの区別は特段問題とはならないだろう。
このように、従来の判例に従って本件の事案を理解すると、上述のとおり、本件は﹁一個の根抵当権が数個の債権を
担保し、そのすべての債権の保証人がそのうちの一個の債権に係る残債務全額を代位弁済した場合﹂と同じ事案となる。そうだとすれば、本件における五個の貸付債権のうち、数個の全額弁済がなされたとしても、代位弁済後に原債権者が
行使する残債権は、代位弁済前には﹁債権者が代位弁済者に優先するはずであった債権﹂なのであるから、原債権者は、
当該債権についてもなお優先的に満足を受ける利益を有していると言える。したがって、本件における事案は、まさに民法上の一部代位における原債権者優先主義が採用される場面にあると解することができるのである。
3
殊特の産破と用適の義主額存現時始開性 本件における事案が、民法上の原債権者優先主義が採用される場面にあることを確認した上で、次は、破産法上の開(四二八九)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二七二同志社法学 六〇巻七号
始時現存額主義の適用を検討したい。
既に述べたとおり、開始時現存額主義は、平常時において一部代位がなされた場合の法律関係が倒産処理場面に反映したものと言える。この点は、開始時現存額主義の適用を制限した判決②においても示されている。したがって、平常
時における原債権者優先主義が採用される場面であると解される法律関係であるならば、その債権者は、代位弁済後に行使する債権についてなお優先的に満足を受ける利益を有しているのであり、それは破産時においても同様のはずであ
る。むしろ、破産時であるからこそ、債権者の債権回収に対する利益は保護されて然るべきである。そうだとすれば、民法上の原債権者優先主義が採用される場合には、破産時の開始時現存額主義も適用されるべきである。判決①が、﹁複
数の債務についての全部義務者が、そのうちの一部を全額弁済した場合においても、全額弁済した債務以外の他の債務が未だ残存している以上、当初約束した全部履行義務を果たしたとはいえず、債権者からしても、全部義務者が約束し
た利益が実現されるには至っていないのであるから、一個の債務についての全部義務者がその一部について弁済した場合と、利益状況は異なるものではない﹂と判示して、本件に開始時現存額主義を適用したのも、債権者の利益を重視し
た点で同様の理由によるものと考えられよう。
この点、判決②では、民法上の一部代位が一個の債権について、その一部が弁済された場合を想定しているのである
から、民法上の一部代位における法律関係が反映された開始時現存額主義においても、個別の債権の一部が弁済された場合を対象とすべきだと言う。その上で、本件における事案が、開始時現存額主義の趣旨を拡張して適用できるかを検
討している。この検討に際しては、判決②においても、債権者と求償権者との関係において、平時の一部代位での利益衡量と対比する必要があるとして、前掲平成一七年判決との比較を試みている。しかし、当該判決では、物上保証人を
担保物件の価値の限度においてのみ責任を負うものとし、本件における物上保証人と、平成一七年判決における数個の
(四二九〇)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二七三同志社法学 六〇巻七号 債権のうちの一個についてのみ保証していた保証人とを同等に解した上で、物上保証人の責任の範囲内で債権者は完全な満足を得ているのであるから、平時における平成一七年判決と同様の事案となり、当該物上保証人が債権者に代位し
ても、債権者は不利益を受けないと判示する。したがって、判決②においても、結局は、民法上の原債権者優先主義が採用されるか否かに焦点をあてて開始時現存額主義の適用を判断したと見ることもできよう。だとすれば、判決①と判
決②の相反する判断を決定付けているのは、両者の物上保証人に対する理解の相違だと解することができる。しかし、物上保証人は連帯保証人等の全部義務者と異なるものではないことは、既に前掲平成一四年判決において明らかになっ
たのであり、当該判決を受けて破産法一〇四条五項も規定されている。前述しているとおり、物上保証人の責任は担保物件の価額に限定されているが、担保権の不可分性により、担保されているのは被担保債権全額である。一部保証とは
被担保債権の範囲が異なるのである (
。②て、本件を判断した決判に問るじはを感疑の干若 責しとう負を任みはのもかかわらず、物上保証人担。保物の価値の限度においてに 29)
開始時現存額主義の適用については、債権者の利益を重視して適用を認めた判決①を支持したい。しかし、ここでさらに検討すべきは、本件のような事案に開始時現存額主義を適用した場合の一般債権者の利益への影響である。債権者
平等の下で配当を行う破産手続において、開始時現存額主義を広く適用することは、他の破産債権者との間における形
式的な平等を害するおそれがあるからである (
益り債般一はいるあ、た者し護保を益利の者権の債も利の者権債産破つを利保担的人もりよ益権産つもを保担的人て破 は授時始開、も、教眞藤伊存点の現﹁額主義。一般債権者の犠牲においこ 30)
を優先させたりしたものではなく、一般債権者の利益が害されないことを前提として、(略)一部弁済をなした他の全部義務者の利益よりも人的担保をもつ原債権者の利益を優先させたものと理解すべきである﹂と述べる (
。 31)
しかし、通常、全部義務者が破産手続開始決定後に一部弁済を行った場合、全額の弁済を受けるまでは債権者が現存
(四二九一)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二七四同志社法学 六〇巻七号
額の債権全額について権利行使でき、全額弁済を受けた後は求償権者が債権者に代位して、当該権利を行使することに
なる。したがって、この場合にはもっぱら、権利行使するのが債権者か求償権者かという問題に終始するため、他の一般債権者には特別の利害関係は生じない。それゆえ、本件における債権者と物上保証人との関係においては、債権者が
未だ全額の弁済を受けていない以上、破産債権者として権利行使できるのは債権者となり、一般債権者の利益に影響を与えることはない。
一方、連帯保証人の破産手続に関する判決②では、別除権行使に基づく主たる債務者による弁済分についても開始時現存額主義が適用されるかについても争われている。判決②は、まず、本件のように連帯保証人が破産して主たる債務
者が弁済した場合には、主たる債務者は求償権を取得し得ないため、弁済を受けた分について債権者の権利行使が否定されると、その割当分は一般債権者全体への配当に充てられることを示す。その上で、そのような場合にまで開始時現
存額主義の適用を認めるならば、﹁本来、平等に取り扱われるべき当該債権者と他の一般債権者との均衡が大きく崩れ、他の一般債権者の保護に欠ける憾みがある﹂として、別除権行使によって弁済を受けた分について開始時現存額主義の
適用を否定する。この判断については、判決②を支持したい。確かに、保証人について破産手続開始決定があったときも、債権者は破産手続開始時の現存額の全額について破産手続に参加することができる(破一〇五条)。しかし、先に
述べた債権者と物上保証人との関係とは異なり、たとえ主たる債務者が全額弁済しても、主たる債務者は債権者に代位して求償権を得ることはない。この場合にまで開始時現存額主義を適用すれば、一般債権者の犠牲において人的担保を
もつ破産債権者の利益を保護していることになろう。
したがって、本件の事案において、物上保証人の不動産売却による弁済分については、一般債権者の利益への影響を
鑑みても、開始時現存額主義の適用を認めて良いと考える。しかし、連帯保証人の破産手続において、別除権行使に基
(四二九二)
複数口債権の一部の全額弁済と開始時現存額主義の適用一二七五同志社法学 六〇巻七号 づく主たる債務者による弁済分についてまで適用を認めると、一般債権者の利益を害することになるため、開始時現存額主義の適用は否定すべきである。
五 結びにかえて 債権者が人的担保を設定するのは、債務者以外の責任財産からも債権の回収を図るためである。したがって、債務者
が倒産状態に陥った時には、人的担保を有する債権者の利益を最大限尊重するべきである。しかし、一方で有限の破産財団から配当を受ける一般債権者の利益も守らなければならない。この二つの要請をいかに調和させるかが、開始時減
額主義の適用を検討するにあたって重要となる。その際には、本稿で述べてきたとおり、民法上の一部代位における従来の判例から窺える、人的担保を有する債権者が代位弁済者による代位弁済後に行使する債権について、当該債権が代
位弁済前に﹁債権者が代位弁済者に優先するはずであった債権﹂であったとして優先的に満足を受ける利益を有しているかが大きな判断要素となる。そして、これが、破産法一〇四条二項の定める﹁その債権の全額が消滅した場合﹂とい
えるかにつながってくると思われる。したがって、開始時現存額主義の適用を検討するには、やはり、民法上の一部代
位に立ち返る必要があると考える。
本稿においては、民法上の原債権者優先主義を採用した判例の進展を中心に検討し、その実質的根拠を破産法上の開
始時現存額主義に反映させて考察を加えた。今後も、本稿で取り上げた裁判例に類似した事案について、同様に開始時現存額主義が争われる場合があるであろう。そのためにも、様々な事案を想定し、分類しながら、開始時現存額主義の
適用範囲を検討する必要があろう。本稿で取り上げた裁判例は、現在、最高裁に係属中である。最高裁がどちらの判決
(四二九三)