訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応す る訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する 決定が確定した場合において、請求がその数量的な 一部に減縮された後の訴えを却下することの許否
著者 山本 真
雑誌名 同志社法學
巻 68
号 4
ページ 1451‑1470
発行年 2016‑09‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016898
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二六三一四五一
訴 訟 の 目 的 で あ る 金 銭 債 権 の 数 量 的 な 一 部 に 対 応 す る 訴 え 提 起 の 手 数 料 に つ き 訴 訟 上 の 救 助 を 付 与 す る 決 定 が 確 定 し た 場 合 に お い て 、 請 求 が そ の 数 量 的 な 一 部 に 減 縮 さ れ た 後 の 訴 え を 却 下 す る こ と の 許 否
平成二七年九月一八日最高裁第二小法廷判決(平成二五年(受)第二三三一号損害賠償請求事件)民集六九巻六号一七二九頁
山 本 真 ( )
( )同志社法学 六八巻四号二六四 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四五二
【事案の概要】
一 訴えの提起及び訴訟上の救助の申立て 死刑確定者として大阪拘置所に収容されているX(女性)は、夫の養子との外部交通の申出を大阪拘置所長から不許可とされ、著しい肉体的・精神的苦痛を被ったと主張して、平成二四年五月三〇日、Y(国)に対し、国家賠償法に基づき、三〇〇万円の損害賠償請求を求める訴えを提起した )1
(。原々審(東京地裁)は、この訴状(以下﹁本件訴状﹂という。)の請求原因に﹁勝訴の見込みは大きくあり、資力は無職無収入であり全くなく、本日現在の領置金残高は¥一三円であり、印紙予納郵券等、必要分は、訴訟救助申立てます﹂(原文ママ)との記載があったため、訴訟上の救助の申立てがなされたものとして立件した。本件訴状は、平成二四年六月八日、Yに送達された
)2
(。
二 訴訟上の救助の申立てに対する決定(訴訟救助一部付与) 東京地方裁判所(平成二四年(モ)第二〇四四号平成二四年八月三一日決定・決定理由の全文については公刊物未登載)は、以下のとおり判示して、申立人に対し、訴え提起手数料のうち五〇〇〇円及び送達に必要な費用について訴訟上の救助を付与し、その余の申立てを却下した(以下、この決定を﹁本件救助決定﹂という。)。
﹁該支払う資力がない者に当用すると一応認められるを費一は件記録によれば、申立人、訴な訟の準備及び追行に必要。 申立人の主張に係る大阪拘置所長の違法行為及びこれによる申立人の損害が認められたとしても、申立人の請求のうち損害賠償金五〇万円を超える部分については、申立人が主張する違法行為や損害の内容に照らすと明らかに過大であ
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二六五一四五三 るから、﹃勝訴の見込みがないとはいえないとき﹄(民事訴訟法八二条一項ただし書)に該当するとは認められない。 よって、本件申立ては、損害賠償金五〇万円の請求に対応する訴え提起手数料五〇〇〇円及び書類の送達に必要な費用について訴訟救助の付与を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、主文のとおり決定する。﹂
三 補正命令及び請求の減縮等 原々審は、本件救助決定と同時に、Xに対し、訴え提起手数料として収入印紙一万五〇〇〇円を本件救助決定の確定の日から五日以内に納付することを命ずる補正命令(以下﹁本件補正命令﹂という。)を発した )3
(。なお、右収入印紙の額は、訴え提起時の三〇〇万円の請求に対応する訴え提起手数料二万円から訴訟上の救助を付与された五〇〇〇円を控除した金額である。
Xは、平成二四年九月七日、﹁訴状の訴額金﹃金三〇〇万円﹄を﹃五〇万円﹄と訂正する。請求の趣旨一の﹃金三〇〇万円﹄を﹃五〇万円﹄と訂正する。請求の原因四・五の﹃金三〇〇万円﹄を﹃五〇万円﹄と訂正する﹂との訴状訂正申立書を提出するとともに、﹁補正命令にある収入印紙一万五〇〇〇円を納付することはできませんので申出ます。訴状訂正申立書にて、訴額を、五〇万円に減額して、訴訟を追行したく申出ます﹂との補正書と題する書面を提出したが、本件補正命令で命じられた収入印紙一万五〇〇〇円を納付しなかった。
( )同志社法学 六八巻四号二六六 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四五四
四 訴訟救助一部付与決定に対する即時抗告(抗告棄却) Yは、平成二四年九月七日、本件救助決定に対して、即時抗告を申し立てたが、東京高等裁判所(平成二四年(ラ)第一九九三号平成二四年一二月三日決定・決定理由の全文については公刊物未登載)は、﹁一件記録に照らせば、この減縮後の請求について勝訴の見込みがないとはいえない﹂として、抗告を棄却した。同決定は、同年一二月四日確定した )4
(。
五 原々審(東京地方裁判所平成二四年(ワ)一五三九五号平成二五年一月二二日判決・民集六九巻六号一七五六頁)
原々審は、以下のとおり判示して、訴えを却下した。
。﹂上に令命正補記にじ内間記上、はて応期たは補いなれめ認らともたれさがの正 、照)からの上記と頁お参例二六号二二七報時判・決原り万告〇っよにとこたし縮減にが円五立訴状訂申正書で請求を 一判日六二月二年応てでのもるれさ額減じな七にれそが額の紙印はいべ裁四和昭廷法小三第高と最(るあできべす解き ﹁額時あできべすと準基をのの起提のえ訴、は定算、り訴原たす付に初当、もてしとし告を縮減の求請に後のそが貼
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二六七一四五五 六 原審(東京高等裁判所平成二五年(ネ)第一四〇六号平成二五年七月一〇日判決・民集六九巻六号一七五七頁)
Xが控訴したところ )5
(、原審は、以下のとおり判示して、原々審判決を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻した。
。るあ で額金求請の円万〇三、もときそいなれらめ認かしていを〇のなでまべういとのもたっかきはるでま持す維というもの た、と認めることができ助訴訟上の救が一部につあっで助囲のが認められる金額の範内ので訴えを提起するというも救 ﹁件意的理合をれこ、は思の訴解人訴控たし出提を状に本釈と上訟訴らか所判裁てし上すを円万〇〇三、ばらなる限 すなわち、控訴人の請求は、請求金額が訴状の提出時には確定しておらず、本件訂正申立書が提出された時(平成二四年九月七日)に、これが五〇万円に確定したというべきである(したがって、本件は、確定的に三〇〇万円の請求をしていたが、途中で五〇万円に請求を減縮した事例とは異なる)。また、このように解さなければ、申立人に資力がないことを認めながら、請求金額の一部について訴訟上の救助を付与することには、およそ意味がないということになる。
そうすると、本件補正命令は、本件訴え提起時点で控訴人が三〇〇万円の請求をしていることを前提にされたものであるが、これは控訴人の意思解釈を誤った違法なものといわざるを得ない。したがって、本件補正命令で命じた補正がされなかったとの理由で本件訴えを却下することも許されない。﹂
以上のような経緯から、Yは、原判決に対して、平成二五年七月二四日、上告受理申立てをした。最高裁は、平成二七年九月九日、上告受理決定をした。
( )同志社法学 六八巻四号二六八 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四五六
【判決要旨】上告棄却
。る にとこるす下却をえ訴る係求許請の後縮減に由理をこいはとさのれありおとの次、は由理でそるあできべす解とない。 上求がな記数量的一請合、ていおに場たし定確にが部の減数決ないてれさ付納が料手縮起提え訴、はきとたれさ定るす いそ、てしと由理をとこな部えいはといながみ込見のの訴勝に与付を助救の上訟訴きつ料に数手の起提え訴るす応対分 ﹁て訴訴たれさに時起提のえる上す求請を払支の権債銭訟のい債つに部一な的量数の権該救当、し対にて立申の助金 訴えに係る金銭債権の数量的な一部について勝訴の見込みがないとはいえず、かつ、これに対応する訴え提起の手数料を支払う資力がないか、又はその支払により生活に著しい支障を生ずる場合には、当該部分に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定(以下﹁一部救助決定﹂という。)をすることができるが、これは、当該債権の数量的な一部に限ってではあるものの、正当な権利を有する可能性がありながら無資力のために十分な保護を受けられない者を社会政策的な観点から救済するという訴訟上の救助の制度趣旨に沿うものといえる。そうすると、訴え提起時にされた訴訟上の救助の申立てに対する一部救助決定には、勝訴の見込みがないとはいえないとされた数量的な一部に請求が減縮された場合、これに対応する訴え提起の手数料全額の支払を猶予し、その結果、訴え提起時の請求に対応するその余の訴え提起の手数料の納付がされなくても、減縮後の請求に係る訴えを適法とする趣旨が含まれるものというべきである。このように解しないと、上記のとおり請求が減縮された場合であっても、一部救助決定をした裁判所は、勝訴の見込みがないとされた部分を含む訴え提起時の請求に対応する訴え提起の手数料が納付されない限り、減縮後の請求に係る訴えをも不適法であると判断せざるを得ないこととなり、そもそも一部救助決定をすることを認めた訴訟上の救助の制度趣旨に反することとなる。﹂
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二六九一四五七 【検討】
一 はじめに 本件は、金銭債権(三〇〇万円)の支払を求める訴えの提起と同時になされた訴訟上の救助の申立て(民訴八二条一項)に対し、裁判所が当該債権の一部(五〇万円)を超える部分については、﹁勝訴の見込みがないとはいえないとき﹂に該当するとは認められないとして、その当該債権の一部(五〇万円)に対応する訴え提起の手数料(五〇〇〇円)に限定して訴訟上の救助を付与した場合において、原告がその当該債権の一部(五〇万円)に請求を減縮したときに、訴え提起時の請求額(三〇〇万円)に対応する手数料(二万円)の不足分(一万五〇〇〇円)を納付することを要するか否かが争われた事案である )6
(。
訴えを提起する際、原告は、訴訟の目的の価額(以下、単に﹁訴額﹂と略することがある。)に応じた手数料を裁判所に納めなければならず(民訴費三条一項)、手数料の額に相当する収入印紙を訴状に貼付しなければならない(民訴費八条。手数料の額が一〇〇万円を超える場合は現金での納付も可。同条ただし書・民訴費規四条の二第一項)。また、送達費用も予納しなければならならない(民訴費一一条一項、一二条一項) )7
(。
原告が手数料及び送達費用を納めない場合、裁判長は、訴状審査権に基づき(民訴一三七条一項、一三八条二項)、裁判所書記官を通じた任意での納付を求め、応じなければ補正命令を発し、それでも納付しない場合には、不適法な訴えとして(民訴費六条)、命令により訴状を却下することになる(訴状却下命令・民訴一三七条二項)。
この手数料や送達費用等を支払う資力がない者やその支払により生活に著しい支障を生ずる者に対して、裁判所は、勝訴の見込みがないとはいえない場合に、申立てにより、訴訟上の救助の決定をすることができ(民訴八二条一項)、
( )同志社法学 六八巻四号二七〇 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四五八
その決定が確定すれば、その手数料や送達費用等の支払が猶予される(民訴八三条一項一号)。また、以下で検討するとおり、金銭債権の請求について訴訟上の救助が申し立てられた場合、その請求額の全額については勝訴の見込みがないとはいえないと認められないが、その請求額の一部については勝訴の見込みがないとはいえないと認められるときには、その認められる請求額の限度で、その額に対応する訴え提起の手数料に限定して救助を与えること(一部救助決定)ができると解されている。
この一部救助決定の場合、訴え提起の手数料のうち救助で付与された手数料を超える部分はどうなるのか。 一部救助決定後も、原告が訴え提起時の請求を維持する場合、裁判長は、訴え提起時の請求額に対応する手数料から一部救助決定によって付与された手数料を控除した手数料(以下、この控除後の手数料を﹁訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分﹂という。)について、裁判所書記官を通じた任意での納付を求め、応じなければ補正命令を発し、それでも納付しない場合には、訴状却下命令を発することになる(民訴一三七条二項)。
これに対し、一部救助決定後、原告がその一部救助決定で認められた請求額に請求を減縮した場合、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付することを要するか否かが問題となる。以下で検討するとおり、手数料算出の基礎となる訴額の算定基準時は、訴え提起時とされ、その後、請求を減縮したとしても手数料は減額されないと解されているところ、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付することを要するとすれば、手数料を支払う資力がない者を救済するという訴訟上の救助の趣旨に反することになるからである。本件ではこの点が争われた。
そこで、本評釈では、まず、前提事項として、手数料算出の基礎となる訴額算定の基準時、請求の減縮後の手数料、訴訟上の救助と一部救助の可否について一瞥し、その後、この問題点について、検討することとしたい。
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二七一一四五九 二 訴額算定の基準時 訴えを提起するには、法定の手数料を納めなければならない(民訴費三条一項)。手数料は、制度の利用者である当事者が支払う裁判所(国)の手数に対する反対給付であると説明される )8
(。
訴え提起の手数料は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて算出される(民訴費三条一項別表第一第一項)。手数料の算出の基礎となる訴額は、﹁訴えで主張する利益﹂(民訴八条一項)によって算定されるところ(民訴費四条一項)、この訴えで主張する利益とは、原告が訴訟物について全部認容判決を受け、その内容が実現された場合に直接にもたらされる経済的利益を客観的かつ金銭的に評価したものをいう )9
(。
訴額算定の基準時について、明治二三年(一八九〇年)に制定された民事訴訟法(明治二三年法律二九号)(以下﹁旧民事訴訟法﹂という。)では、﹁訴訟物ノ價額ハ起訴ノ日時ニ於ケル價額ニ依リ之ヲ算定ス﹂(三条一項)と規定されており、民事訴訟の費用に関する法制として同年八月に制定された民事訴訟用印紙法(明治二三年法律第六五号)では、﹁訴訟物ノ價額ヲ算定スルニハ民事訴訟法第三條乃至第六條ノ規定ニ從フ﹂(二条二項)と規定されていた。大正一五年の改正によって、訴額算定の基準時を明確に定める規定はなくなったものの )₁₀
(、改正後の二九条(現行民訴一五条)において、管轄決定の基準時が﹁起訴ノ時(訴えの提起の時)﹂とされ、訴額が事物管轄の判断基準となっていることから、訴額算定の基準時も訴え提起時となるというのが通説 )₁₁
(・実務 )₁₂
(である。そして、訴えの提起は、訴状を裁判所に提出する方式でしなければならず(民訴一三三条一項)、この訴え提起時とは、訴状が裁判所に提出された時とされる )₁₃
(。
( )同志社法学 六八巻四号二七二 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四六〇
三 請求の減縮後の手数料 原告が手数料を納めない場合、裁判長は、裁判所書記官を通じた納付の補正や補正命令後、不適法な訴えとして(民訴費六条)、命令により訴状を却下することになる(訴状却下命令・民訴一三七条二項)。訴状却下命令に対して、原告は即時抗告をすることができる(民訴一三七条三項)。訴状却下命令を発することができるのは、被告への訴状送達前に限られ、訴訟係属後は、訴え却下の判決を言い渡すことになる(民訴一四〇条)。本件では、訴訟係属が生じているため、原々審は、訴え却下の判決を言い渡している。
では、訴え提起時に手数料の一部しか納付していなかったため、手数料の不足分を納付するよう補正命令が発せられたところ、原告が請求を減縮し、その減縮後の請求額に対応した手数料が当初に納めた手数料の範囲内に納まった場合、その訴えは、適法な訴えとなるのであろうか。すなわち、訴え提起時に納付すべき手数料は、請求の減縮によって減額されるのであろうか。
請求の減縮の性質について争いがあるものの、請求の減縮を訴えの一部取下げ(民訴二六一条一項)としての性質を有すると解すると、その減縮した部分の訴訟手続は初めから裁判所に係属していなかったとみなされることから(民訴二六二条一項)、訴え提起時に納付すべき手数料が減額されるのではないかが問題となる。
この問題点について、最三小判昭和四七年一二月二六日判時七二二号六二頁は、﹁訴額の算定は、訴提起の時を基準とすべきであるから、上告人がその後に請求の減縮をしたとしても、所論のように当初に貼用すべき印紙額がそれに応じて減額されるものではない﹂とし、学説もこれを支持するものが多い )₁₄
(。
この問題点に関しては、手数料の性質を裁判所の手数に対する反対給付であると解すれば、裁判所が訴状を受理した
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二七三一四六一 時点で手数がかかっており、訴えを取り下げたとしても、手数料を納める義務は遡及して消滅するものではないと考えられる。このことは、民事訴訟費用等に関する法律第九条が、訴え提起後、最初にすべき口頭弁論の期日の終了前に訴えを取り下げた場合には、申立てにより、納められた手数料の額から納めるべき手数料の額の二分の一の額(その額が四〇〇〇円に満たないときは四〇〇〇円)を控除した金額を還付すると規定していることからもわかる。
例えば、三〇〇万円の金銭債権の支払を求める訴えを提起し、その訴額三〇〇万円に対応する手数料二万円を納めた後、第一回口頭弁論期日終了前に請求を五〇万円に減縮した場合、手数料還付請求の申立てをすると、七五〇〇円が還付される )₁₅
(。すなわち、訴え提起時に納付した手数料二万円と請求の減縮後の訴額五〇万円に対応する手数料五〇〇〇円との差額一万五〇〇〇円の全額が還付されるわけではなく、手数料の一部が還付されるにすぎない。このように、仮に、訴え提起時に手数料の全額を納付しなくても、請求の減縮後にその減縮後の請求に対応した手数料のみ納付すれば適法となるのであれば、訴え提起時に手数料の全額を納付し、その後、請求の減縮をした者との公平を害することになる。
したがって、訴え提起時に納付すべき手数料は、請求の減縮によって減額されることはなく、請求の減縮後の請求額に対応した手数料が当初に納めた手数料の範囲内に納まったとしても、訴え提起時に納付すべき手数料の不足分を納付しない限り、不適法な訴えとなると解する。
四 訴訟上の救助 前述のとおり、訴えを提起するためには、当事者は訴訟の追行に必要な費用を自ら支出しなければならない。そうすると、貧困などのため裁判所にこの費用を支払うことができない者は、裁判所に対して自己の権利の保護を求めること
( )同志社法学 六八巻四号二七四 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四六二
ができなくなる。そこで、民事訴訟法は、裁判を受ける権利(憲法三二条)を実質的に保障するため )₁₆
(、訴訟の追行に必要な費用の支払を猶予する制度を設けている(民訴八二条以下)。この制度を訴訟上の救助といい、一般に、訴訟救助とも呼ばれている )₁₇
(。
訴訟上の救助は、﹁訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者﹂(資力要件)が、﹁勝訴の見込みがないとはいえないとき﹂(勝訴の見込みの要件)に、申立てにより、裁判所が決定で付与することになる(民訴八二条一項)。
訴訟上の救助決定の効果は、主として、裁判費用の支払の猶予であり(民訴八三条一項一号)、その結果、原告が訴訟上の救助決定を受ければ、本来支払うべき裁判費用(手数料・送達費用等)を支払わないで訴訟を追行することができる。この決定の効果は確定したときに生じ )₁₈
(、原則として、救助の申立時に遡及して効力が生じる )₁₉
(。
この救助申立てのうちの一部について救助決定をすることが許されるか、いわゆる、一部救助の可否の問題がある。一部救助は、①請求の客観的併合の一部についての救助、②数量的に可分な請求の一部に対応する手数料についての救助、③手続費用の一部についての救助の三つの態様に分類することができる )₂₀
(。①は、一個の訴えで数個の請求をする客観的併合訴訟において、その請求中の一個にのみ勝訴の見込みがないとはいえないと認められるとき、その一個に限定して救助を与える場合である。②は、数量的に可分な請求の一部について勝訴の見込みがないとはいえないと認められるとき、その請求の一部に対応する手数料に限定して救助を与える場合である。③は、例えば、手続費用のうち訴えの提起の手数料に限定して救助を与える場合である )₂₁
(。本件で問題となったのは②の態様である。
この問題については、明文の規定はなく、反対説 )₂₂
(もあるが、全部救助が無理である場合でも一部救助を与えることもでき、訴訟上の救助の制度趣旨にも沿うとして、一部救助を認めるのが通説・実務である )₂₃
(。もっとも、②の態様におい
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二七五一四六三 て、極端に多額の請求額のうち僅かの金額につき勝訴の見込みがないとはいえないと認められるときには、訴訟上の救助の申立全部について勝訴の見込みの要件を欠くと考えられる )₂₄
(。
本判決は、②の態様における一部救助決定を最高裁が初めて認めたものである。
五 一部救助決定において請求がその一部に減縮された場合 では、一部救助決定後、原告がその一部救助決定で認められた請求額に請求を減縮した場合、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付しなくても、減縮後の請求に係る訴えは適法となるのか。言い換えると、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分の納付に代え、請求の減縮を行えば訴えは適法となるのかが問題となる。
これまで検討したとおり、手数料算出の基礎となる訴額の算定基準時を訴え提起時とし、その後、請求を減縮したとしても手数料は減額されないと解すると、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付しない限り、不適法な訴えとなるのが原則である。しかし、この原則を貫くと、資力がない者に対し、金銭の出費を強いることになり、訴訟上の救助の意義を失わせることになる。
この問題を直接的に判示した判例及び裁判例は見当たらず、学説でも議論されてこなかったようである。 この問題点について、原々審は、右原則を貫き、訴えを不適法とした。 これに対し、原審は、一部救助決定の場合において、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付しない限り、訴えが不適法となるのでは、一部救助決定を認めた意味がないとして、原告の合理的意思解釈により、請求金額が訴状提出時には確定しておらず、請求の減縮時に確定したと解することによって、訴えを適法とした。
( )同志社法学 六八巻四号二七六 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四六四
もともと、原々審は、原告に資力がないことを認め、請求額の一部については勝訴の見込みがないとはいえないと認めて一部救助決定をしたのである。請求額の一部については訴訟の追行を認めておきながら、原告がその請求額の一部に請求を減縮したにもかかわらず、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付しないことを理由として、訴えを不適法としたのでは、一部救助決定によって訴訟の追行を認めた意味がない。
したがって、訴えを適法とした原審の結論は適切であると解する。もっとも、原告の合理的意思解釈には無理があるし、また、請求金額が訴状の提出時に確定していないとする解釈は、事物管轄にも影響を与えることとなり、適切ではないと考えられる。
本判決は、この問題に決着をつけた。
六 本判決の立場 本判決は、数量的に可分な請求について訴訟上の救助が申し立てられた場合、その請求の一部に対応する訴え提起の手数料について訴訟上の救助決定(一部救助決定)をすることができることを明らかにし、一部救助決定後、原告がその一部救助決定で認められた請求額に請求を減縮したときは、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分が納付されていないことを理由として、減縮後の請求に係る訴えを却下することは許されないとした。
原審は、一部救助決定の事案における訴額算定の基準時を請求の減縮時とすることによって、訴えを適法としたのに対して、本判決は、これとは異なる解釈によって、訴えを適法とした。
すなわち、本判決は、訴訟上の救助を﹁正当な権利を有する可能性がありながら無資力のために十分な保護を受けら
( ) 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 同志社法学 六八巻四号二七七一四六五 れない者を社会政策的な観点から救済する﹂制度として位置づけ、﹁一部救助決定には、勝訴の見込みがないとはいえないとされた数量的な一部に請求が減縮された場合、これに対応する訴え提起の手数料全額の支払を猶予し、その結果、訴え提起時の請求に対応するその余の訴え提起の手数料の納付がされなくても、減縮後の請求に係る訴えを適法とする趣旨が含まれる﹂と解釈することによって、この結論を導き出した。
本判決は、訴額算定の基準時を訴え提起時とする従来の判例を維持しつつ、訴訟上の救助の趣旨から、例外を加える判断をしたものと考えられる。
七 おわりに 一部救助決定は、資力がない者に対し、請求額の一部につき、勝訴の見込みがないとはいえないとして、訴訟の追行を認めたものである。一部救助決定後、原告がその請求額の一部に請求を減縮したにもかかわらず、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付しなければならないとすれば、その手数料の不足分を支払う資力がない原告は、一部救助決定で認められた訴訟の追行をすることができなくなり、一部救助決定を認めた趣旨を没却することになる。したがって、本判決の結論は妥当である。また、この結論を導き出した本判決の解釈も、訴訟上の救助の制度趣旨を貫徹するための適切な解釈であると考えられる。
本判決によって、一部救助決定後の訴え提起の手数料の納付に関する手続的処理が明らかにされた。 本判決後の実務の運用としては、一部救助決定が確定した場合、裁判長は、原告に対し、まず、裁判所書記官を通じて、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付するか、又は一部救助決定で認められた請求額に請求を減縮
( )同志社法学 六八巻四号二七八 訴訟の目的である金銭債権の数量的な一部に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において、請求がその数量的な一部に減縮された後の訴えを却下することの許否 一四六六
するかの意向を確認することになるであろう。そして、原告がそのどちらも行わない場合、裁判長は、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分の納付を求める補正命令を発することになる(処分権主義から、請求の減縮を求める補正命令を発することはできない)。その手数料の不足分の納付を求める補正命令に対して、原告が一部救助決定で認められた請求額に請求を減縮した場合、補正命令に応じた補正がされたか否かが問題となるも、一部救助決定後の補正命令には、訴えを適法とすることを求めるという趣旨が含まれており、補正命令に応じた補正がされたものと解するのが適切であろう。
なお、本件の場合、訴訟係属が生じている。訴えの提起と同時に訴訟上の救助の申立てがあった場合、訴訟上の救助の判断が出るまでは、第一回口頭弁論期日が指定されず、被告が応訴行為をすることはほとんどないと考えられるが、請求の減縮を訴えの一部取下げ(民訴二六一条一項)としての性質を有すると解すると、仮に、被告が先に答弁書を提出していれば、請求の減縮に被告の同意が必要となり(民訴二六一条二項)、被告が請求の減縮に同意しない場合、原告は、訴え提起時の請求額に対応する手数料の不足分を納付しなければならなくなる。したがって、訴えの提起と同時に訴訟上の救助の申立てがなされた場合、裁判所書記官は、訴訟上の救助の判断が出るまで、被告に対する訴状の送達を留保するのが望ましいと考えられる )₂₅
(。
本判決によって、数量的に可分な請求の一部に対応する手数料について訴訟上の救助決定(一部救助決定)をすることが認められ、請求がその一部に減縮された場合には、訴えが適法となることが認められた。これにより、訴訟上の救助の制度が少しは利用しやすくなると思われる。
もっとも、一部救助決定によって、原告の請求に一定の制約を課すことにもなる )₂₆
(。今後、訴訟上の救助の申立てにおいて、勝訴の見込みの要件に関する疎明資料がより重要となる )₂₇
(。他方、一部救助決定で認められた額に請求を減縮すれ