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【同志社大学労働法研究会】選択定年制によるグル ープ会社への再雇用を内容とする継続雇用制度の適 否 : NTT西日本事件

著者 河野 尚子, 土田 道夫

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 2

ページ 1339‑1373

発行年 2011‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013811

(2)

同志社法学 六三巻二号四七一(     ◆同志社大学労働法研究会◆

― N T T 西 日 本 事 件 ―

平 成 二 一 年 一 一 月 二 七 日 大 阪 高 裁 判 決 平 成 二 一 年 ( ネ ) 第 一 二 三 四 号 、 損 害 賠 償 請 求 控 訴 棄 却 、 労 働 判 例 一 〇 〇 四 号 一 一 二 頁 

河    野    尚    土    田    道   

【事実の概要】一 被告Yは、西日本地域の地域通信事業等を行う株式会社である。Yは、昭和六〇年四月一日、日本電信電話株式会社等に関する法律に基づき、日本電信電話公社が民営化され、日本電信電話株式会社(以下、﹁NTT﹂という。)を設立後、組織の分割再編により独立した態様で設立された。原告Xらは、いずれも日本電信電話公社に採用され、その後、NTTを経て、Yの従業員となった者である。なお、Yの従業員で労働組合となりうる者の約九九%はA労働

一三三九

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(    同志社法学 六三巻二号四七二

組合に所属しているが、Xらは、少数派組合である本件合同組合に所属している。二 NTTは平成四年四月一日、六〇歳定年制を導入したが、平成六年の厚生年金保険法の改正により、年金支給開始年齢が段階的に引き上げられること、平成二年の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下﹁高年雇用安定法﹂)の改正により、六五歳までの継続雇用の努力義務が規定されたこと等を受けて、平成一一年四月一日から定年退職した従業員を再雇用する制度(後記のキャリアスタッフ制度と同様のもの)を導入した。  Yは平成一一年七月一日設立され、その就業規則では、定年六〇歳、定年退職日を定年に達した日以降の最初の三月三一日とし、Yを定年退職した者又はYから転籍し、転籍先で定年退職した者を一年間の雇用期間で再雇用し、欠勤日数が一定日数を超えた場合又は更新時において健康に問題がないと認められない場合を除き、業務上の必要性及び本人の希望により、満六五歳に達した日以降の最初の三月三一日まで契約を更新することができる制度を定めていた(以下﹁キャリアスタッフ制度﹂という。)。三 Yは、経営状況の改善のため、雇用形態の多様化と事業構造の変更を実施することとし、平成一四年一月四日、Yにおける雇用形態および処遇体系等につき、A労働組合と合意のうえ、以下の内容を含む制度(以下、﹁本件制度﹂という。)に基づいて、対象者に選択を求めた。  平成一六年の高年雇用安定法改正(平成一八年四月一日施行)を受け、五一歳以上の社員を対象に、グループ会社転籍のうえ、一定の給与減額のもと六五歳まで契約社員として雇用継続する制度(退職・再雇用型)か、転籍せずにY又は地域会社以外のYの関連会社に出向し、六〇歳まで勤務して定年退職する制度(満了型)を選択する制度を導入し、平成一六年三月三〇日付けで就業規則を改正した。なお、本件制度の導入が決定した平成一四年四月三〇日に、キャリアスタッフ制度は廃止している。 一三四〇

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同志社法学 六三巻二号四七三(       退職・再雇用型の契約社員の更新基準は、キャリアスタッフ制度と同じで、各グループ会社の就業規則に明記され、実際も一定の欠勤日数又は健康上の問題に該当しない限り、希望者全員の契約が更新され、業務上の必要性を理由に更新拒否された者は存在しない。各グループ会社の給与水準は、同一地域の同業種の賃金水準等を参考に設定されたが、被告の給与水準を大きく下回る地域もあったため、最低限七割とし、定年までの所定内給与は、Yの賃金と比較して二〇%~三〇%減額される結果となった。この減額分を緩和するため、当該地域会社における退職手当及び六一歳以降の契約社員期間において給与加算を行い、雇用保険等、公的給付や企業年金の支給との組み合わせを行い、グループ会社退職時及び契約社員期間に支払う繰延型と、Y退職時及びグループ会社退職時に一時金として、地域会社における退職手当及び平成一四年四月三〇日のY退職時に支払う(給与減額分×六〇歳までの残年数の約半額)一時金型が設けられた。なお、雇用形態の選択、通知をしない場合、六〇歳満了型を選択したものとみなすこととされた。四 Yは、平成一五年三月三一日時点で満五一歳となる社員等に対し、平成一四年一月四日から同月三一日までの間に、本件制度の概要及び選択方法(何ら意思表示もない場合は六〇歳満了型を選択したものとみなすことを含む)を説明し、その選択を求めた。その際、Yにおいて、Xらに特定の選択肢を強制したり、選択しないよう強制させたような事情はなかった。  Yは、平成一八年七月に支店機能が地域会社に大幅に移行する等、事業環境が著しく変化することを踏まえて、平成一四年一月三一日までの間に既に、六〇歳満了型を選択した従業員(六〇歳満了型を選択したとみなされた者も含む)を対象に、雇用形態及び処遇体系等の再選択の機会を設けた。五 Xらは、いずれの機会においても、いずれの選択形態を選択するか、明示的にYに通知をしなかったため、六〇歳満了型を選択したものとみなされた。Xらはいずれも、平成一九年三月三一日までに満六〇歳の誕生日を迎え、同日

一三四一

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(    同志社法学 六三巻二号四七四

の経過をもって、Y社を定年退職したものと扱われた。そこで、Xらは、六五歳までの継続雇用が可能となる繰延型、一時金型が六〇歳を超えて継続雇用された場合に得られる賃金額に比べ、六〇歳満了型を選択した場合よりも低くなる、あるいは労働者が希望すれば必ず更新される制度とはなっていない等の不合理性を理由にXらが高年雇用安定法(以下﹁高年法﹂)九条一項二号の継続雇用制度に該当しないと主張している。  本件は、Yが高年法九条一項に基づく定年後の継続的雇用を確保すべき義務に違反してなんらの措置を採らなかったうえ、Yの合理化政策に反対した本件労働組合の組合員であるXらを報復的意図をもって定年退職させた等として、Yに対し、Xらが債務不履行または不法行為にもとづく損害賠償等を求めた事案である。一審(大阪地判平成二一年三月二五日・労働判例一〇〇四号一一八頁)は、高年法九条一項に違反した場合の私法的効力を否定したうえで、本件制度が高年法九条一項二号の﹁継続雇用制度﹂の該当性を認め、Xらの請求をすべて棄却したため、Xらが控訴した。

【判旨】請求棄却

一 高年雇用安定法九条の私法的効力

 ﹁高年雇用安定法九条に私法的効力のないことは、原判決のとおりであり、同法の性格・構造・文理・違反の制裁の規定、法改正の経緯及び立法者の意思、並びに私法的効力の違反の効果が不確定であることからして、法九条の私法的効力を否定する当該解釈が憲法一三条、二七条一項に違反するというXらの主張は認められず、XらがYの定めた本件制度、あるいはキャリアスタッフ制度の廃止を無効として、継続雇用されるべき地位にあったことをYに主張すること 一三四二

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同志社法学 六三巻二号四七五(     はできないというべきである。﹂

二 本件制度の高年雇用安定法との適合性及び雇用条件の不利益変更

 ﹁本件制度においては、従業員が六〇歳を超えて就業を継続するためには、Yの定年年齢の一〇年も前に、﹁繰延型﹂、﹁一時金型﹂の雇用形態を選択しなければならないが、そのためには五一歳の時点でYを退職し、地域会社に転籍して一年更新の不安定な条件で再雇用され、遠隔地への配転は免れるものの、二〇から三〇%の減給を甘受することになるのであり、また、﹁六〇歳満了型﹂を選択した者については、従前のキャリアスタッフ制度が廃止されたことにより、以後の再雇用の道が断たれたことになるなど、Yの従業員に不利益を与えていることはXらの主張するとおりである。﹂ ﹁しかしながら、Xらは、本件制度が高年法の趣旨に適合しないことを主張するが、本件制度が高年法に適合しないとはいえないことは原判決の説示するとおりである(なお、仮にこれが適合しないとしても、法九条について私法的効力がないことは前記のとおりであるから、その適合しないことだけを理由に本件制度が無効であるとして、従前のキャリアスタッフ制度の適用を求め、あるいは六〇歳以降においても従業員の地位があると主張し、雇用が継続されなかったことを理由に債務不履行や不法行為に基づき損害賠償を求めることは認められないというべきである。)。 そして、Yの民営化や電機通信事業の民間への開放、その結果としての競争の激化と大幅な赤字の計上、高齢者の増加と少子化、年金の支給年齢の引き上げを要因とする雇用延長の要請などの社会的、経済的環境のもとに、Yの労働組合員の九九パーセントを擁するA労組の同意を得て(かつ少数組合とも交渉を経て)、本件制度が導入された(キャリアスタッフ制度は廃止された)という経緯からして、これがYの従業員に就業規則等の不利益をもたらすとしても、そ

一三四三

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(    同志社法学 六三巻二号四七六

の不利益変更にはその法的規範性を是認するだけの合理性があるというべきである。﹂ ﹁また、⋮本件制度の実施についても、A労組とYとの合意があったことはXらも認めるところであり、本件制度の導入やキャリアスタッフ制度の廃止について、Xらやその所属する本件合同労組の同意がないことを理由に、Xらに対してその効力がないという主張は失当である。﹂ ﹁さらに、⋮本件合同労組に所属するXらにおいて、雇用形態の選択・再選択の際に、﹁六〇歳満了型﹂を選択すれば、もはや他の雇用形態を選択することができないことを了知することができなかったということはあり得ないというべきである。﹂ よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。

【研究】結論賛成、判旨の理由付けに疑問

一 本判決について

 本件は、高年法九条の私法的効力の有無、本件制度の法九条一項二号の﹁継続雇用制度﹂適合性及び雇用条件の不利益変更の合理性の有無が争われた事案である。 本判決は、一審判決と同様に、高年法九条一項に違反した場合の私法的効力を否定し、本件制度が高年法に適合したものであると認め、そして、本件制度を導入した就業規則等が不利益変更に該当し、従業員に不利益をもたらすとしても、法的規範性を是認するだけの合理性があると判示している。 厚生年金保険法の改正により、老齢厚生年金の支給開始年齢が満六〇歳から六五歳に段階的に引き上げられることに 一三四四

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同志社法学 六三巻二号四七七(     なったため、六〇歳~六五歳の高齢者の雇用が重要な課題となった。従来主流であった六〇歳定年制は見直しを図られ、二〇〇四年には、高年法において、六五歳までの雇用機会の確保を企業に義務付ける﹁高年齢者雇用確保措置﹂(法九条一項)の改正が行われた。高年法九条一項では、定年年齢の引上げ(一号)、継続雇用制度(二号)、定年制の廃止(三号)という三つの高年齢者雇用確保措置のいずれかを講ずることを使用者に義務づけている。 高年法八条は、六〇歳を下回る定年を定めることを禁止しており、私法的強行性が認められ、六〇歳未満の定年を定める制度は法八条に違反し、無効となると解釈されている。ただし、無効となった場合に、法八条を違反した場合の補充的効力の見解も対立しているところである(すなわち、定年制が存在しなくなったと解するか、もしくは、六〇歳まで雇用するものと解するかの問題である )。 一方、法九条一項に違反した場合、厚生労働大臣による助言、指導または勧告(法一〇条)といった公法的措置が明示されるだけで、違反事業主と労働者との間における私法上の効果は何ら規定されていない。仮に、法九条の私法上の効果を認めないと解すると、事業主が同項に違反して高年齢者雇用措置をなんら講じていない場合でも、労働者は、法九条一項違反を理由とした私法上の救済を受けることができないことになる。法九条一項違反の場合、六五歳未満の定年制を無効と解した上で、労働者は事業主に対して六五歳までの雇用確保等を求めることができるのかという私法上の効果については、解釈の余地がある(二争点①の(四)参照)。 また、本判決は、法九条違反の私法的効力を否定しているので、たとえ同条の義務違反があっても、直ちに私法上の違法行為と解することができない。判旨は、本件制度が法九条一項二号に定める継続雇用制度に該当することを認めているが、仮に本件制度が高年法に適合しない制度であったとしても、本件制度の無効を前提として、従前のスタッフ制度を求め、あるいは六〇歳以降においても従業員の地位があると主張し、雇用が継続されなかったことを理由とする債

一三四五

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(    同志社法学 六三巻二号四七八

務不履行や不法行為に基づき損害賠償をすることは否定されることになる。 さらに、本判決は、本件制度の導入が就業規則等による労働条件の不利益変更に当たるとし、その上で、Yの社会的環境、経済的環境、制度導入の経緯からみて、当該変更内容に法的規範性を是認するだけの合理性があることを認めている。継続雇用制度(法九条一項二号)は、現に雇用する高年齢者が希望するときに、定年後も引き続き雇用する制度であるが、継続雇用制度等の雇用形態は必ずしも従業員の希望に合致した職種・労働条件の雇用に限定されない。つまり、雇用確保措置の趣旨をふまえていれば、常用雇用のみならず、多様な雇用形態でもよく、労働条件の低下も許容され得るため、労働条件の不利益変更の合理性が問題となる。 以下では、具体的な争点となる、高年法九条の私法的効力の有無(争点①)及び、本件制度の法九条一項二号の﹁継続雇用制度﹂適合性及び雇用条件の不利益変更の合理性の有無(争点②)について、検討を行う。

二 高年法九条一項違反の私法的効力(争点①)

(一) 私法的効力を否定する理由 本判決は、一審と同様の理由を掲げ、同法の性格・構造・文理・違反の制裁の規定、法改正の経緯及び立法者の意思、並びに私法的効力の違反の効果が不確定であるとして、法九条の私法的効力を否定する。 一審が掲げた理由として、第一に、高年法が、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者の就業機会の確保等の措置を総合的に講じ、もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済および社会の発展に寄与することを目的と 一三四六

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同志社法学 六三巻二号四七九(     し(法一条)、事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として、種々の施策を要求しており、社会政策誘導立法ないし政策実現立法として公法的性格を有することをあげている(理由①)。 第二に、法九条の改正の経緯として、各企業の実情を考慮し、労使関係に応じた適切な対応がとれるように、公法上の義務を課す形式をとり、各号において、労働条件について規定を定めていないこと、また、同条二項において、労使協定により法九条一項二号の﹁継続雇用制度﹂の対象となる労働者に係る基準を定めた制度を導入することが可能であること等をあげている。そして、法八条が、法九条について努力義務が削除された後も、定年年齢を六〇歳以下の定年制を禁じている規定があることも述べている(理由②)。 第三に、法九条一項に違反した場合、労基法一三条のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存しないこと、また、同項の給付内容が特定できない点や、その義務の履行を法律上強制することが可能か否か、裁判上強制した場合に実効性を確保しうるか等の問題性が生じることも高年法九条の私法的効力を否定する理由としてあげている(理由③)。 以下、これらの三つの理由についてそれぞれ検討する。

(二) 高年法の性格 理由①は、高年法を社会政策誘導立法と位置付けているが、労働法規は、雇用政策に関わる法(労働市場の法)と、労働条件に関わる法(勤労条件基準の法定)とに二分されることが多い。雇用政策に関わる法は憲法二七条一項の勤労権の保障を基礎に、労働市場における法としての性格を有し、また、労働条件に関わる法は憲法二七条二項の労働条件法定主義を基礎に、労働基準の法としての性格を有するものである。

一三四七

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(    同志社法学 六三巻二号四八〇

 この議論に対応するものとして、高年法の性格について、学説では高年法を憲法二七条一項に依拠する法律と解する説 があげられる。この見解は、憲法二七条一項の﹁勤労の権利﹂によって、国は労働者がその能力を有効に発揮できる労働機会を得られるようにする政策義務を負い、高年法も体系的な労働市場の法に属すると解する。高年法の法目的の達成には、行政の誘導によるアプローチが求められ、最低条件を設定する労基法のように、労使の契約に直接介入して勤労条件を法律で義務付けることを要請する憲法二七条二項に由来する法とは異なり、私法上の効果を必然的に導くものではないとする。 これに対し、労働立法を憲法二七条一項に依拠する法律と同条二項に依拠する法律に峻別できないとする説 からは、憲法二七条一項に関係することがたとえ論証できたとしても、それだけでは憲法二七条二項の要請を受けていないことの論証にはならないといった批判 がある。憲法二七条二項は、勤労条件の決定を使用者と労働者の間の契約に委ねずに、国が契約内容に直接介入して、﹁賃金、就業時間、休息その他の勤労時間﹂の基準を﹁法律﹂で定めるべき政策義務を負うことを宣明する 。この見解では、憲法二七条二項の対象となる労働条件に関する法規には、労基法一九条、同法二〇条、労働契約法一六条等の解雇制限に関する規定のように、憲法二七条一項の労働権によって理論的に根拠づけられるような場合があり、憲法二七条一項と二項は並列の関係にあるわけではなく、重なり合う部分があることを根拠としてあげている。そして、高年法九条においても、公的老齢年金支給開始の引き上げに伴い、高年齢者の生存権の危殆化防止の観点から、雇用の確保が要請されていると考え、重要な労働条件としての﹁基準﹂を定め、﹁基準﹂に違反した場合に私法的効力を肯定するものと解している。 元々、労働市場の法として位置付けられるものであっても、雇用社会の変化とともに、労働契約の適正な運営を促進するために介入する必要性が生じることにより、労働条件の最低基準の保障としての法の性格を持ち始めることがあ 一三四八

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同志社法学 六三巻二号四八一(    。高年法八条においては、以前は努力義務であった六〇歳未満の定年禁止は、一九九四年に禁止規定に改正され、労働者の労働関係の終了についての重要な労働条件に関する規定と位置付けられたと評価できる。このような経緯は、定年までの雇用確保に関する問題が労働者および使用者を中心として国民の利害に重大な関わりを有するように変化した現れであると解することができる。 しかしながら、高年法の目的は、高年齢者の安定した雇用の確保、高年齢者等の再就職の促進および高年齢退職者への就業機会の確保であって、最低条件を設定する労基法とは異なり、行政の誘導により履行を確保するように規定を定めてきたものである。高年法八条は例外的な位置付けとして捉えるべきであり、あくまで高年法の性格は社会政策誘導立法ないし政策実現立法と解するべきである。したがって、理由①については賛成である。

(三) 高年法九条の改正経緯 本判決は、高年法九条の改正経緯において、事業主の事情を考慮し、柔軟な制度を構築したことをあげている(理由②)。同様に、学説においても、労使関係等の事情に応じた適切な対応を可能にさせるために、指導、勧告というソフトな手法によって履行を確保しようとしたものと解するものがある 。 一方、法九条の私法的効力を肯定する見解は、二〇〇四年改正により、六五歳までの雇用機会の確保として﹁高年齢者雇用確保措置﹂が努力義務規定から義務規定化されたことに着目している 。この点について、二〇〇四年改正に至るまでの背景として、定年制に関する高年法の改正経緯についてみる必要がある。まず、一九九〇年に六五歳までの再雇用を事業主の努力義務とする規定を置き、一九九四年には六〇歳未満定年制の禁止を努力義務規定から義務規定化するとともに、六五歳までの雇用継続努力義務の履行を促進するための諸規定が設けられた。そして、二〇〇〇年改正の段

一三四九

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(    同志社法学 六三巻二号四八二

階で、六〇歳未満定年制の禁止と継続雇用制度の二段階の規制を用意しつつ、六五歳までの雇用確保について努力義務を前提とし、行政指導を通じて是正することを試みる期間が長く存在していた。この背景をふまえ、法九条一項は、定年年齢の引上げ、継続雇用制度、定年制の廃止という、三つの選択肢を事業主に用意し、一律の定年引上げ等の義務付けが困難な現状において、継続雇用制度など、実行のたやすい選択肢を用意することで六五歳までの雇用確保措置については確実な義務の履行を事業主に求めたと解している。 我が国では、雇用規制を変更するときに、労使いずれかに強い抵抗が予測されるようなものについては、いきなり強制するのではなく、まず努力義務として自主的な変更を促すことがある。そして、そうした自主的な変更である程度の水準まで進んだところで、全体的な強制規制とするというやり方を六〇歳定年制(法八条)においてとっていた 。しかしながら、法九条では、未だ、六五歳への引上げを一律に義務づけず、企業の事情を考慮した柔軟な制度を講ずるよう、三つの選択肢を置いて、ソフトな手法を用いて履行を確保している。そのため、判旨のこの点については、妥当であると考える。 また、判旨は、同項二号に該当する継続雇用制度の作為内容が抽象的で、直ちに私法上の効力を発生させる程の具体性を備えていないと述べている。しかし、この点については、法九条において、雇用確保措置として同項一号~三号の三つの選択肢によって義務内容は明確化しているため、否定する理由として掲げるべきものではないと解する。そして、同項二号においては、内容は一律ではないため、違法性の判断を行うのは困難であるとも考えられるが、争点②で法九条一項二号の該当性を検討している通り、法九条の違法性の判断が可能であるのは明らかである ₁₀

一三五〇

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同志社法学 六三巻二号四八三(     (四) 高年法九条の給付内容 本判決は、同条一項の義務に違反した場合、労基法一三条のように私法的効力を認める規定がないため、無効となり得ないこと、また、補充的効力を認める明文規定がなく、給付内容が不特定であるため、義務の履行を法律上強制すること等、解釈上の問題が生じることをあげている。 まず、労基法一三条のように違法となった場合に無効となり得るか、私法的効力の有無について検討する。判旨と同様の立場である否定説では、六〇歳未満の定年禁止を定めた法八条は、一義的で明確な規定として、確実に定着していることから、例外的に公序違反で無効の効果を導くことのできる規定であるのに対し、法九条は、義務化されたものの、同条は措置の枠組みを定めるにすぎないこと、平等原則の観点からの規定でもないことから、性格は法八条とは同じではないと解する ₁₁

。 これに対し、肯定説 ₁₂

では、労働法規のうち使用者に作為・不作為を命じたり、具体的な労働条件を定める条項は、その基準等の実現について行政的な指導・勧告・罰則などを予定しているものを含めて、原則として私法的強行性 ₁₃

をもち、それに反する行為は違法・無効と解する ₁₄

。この見解では、改正経緯をふまえた上で、法八条と法九条の関係が、二段階の手段を用いて、六五歳までの雇用の延長という共通目的を有する点を主張する。そして、六五歳までの雇用の確保を図るという目的に反する場合には、法九条違反として無効となる。 次に、法九条一項の﹁雇用確保措置﹂義務に違反した制度が無効と解された場合における、補充的効力の有無について検討する。まず、私法的効力を否定する立場の根拠としては、同条が三つの措置を並列的に規定していることや、補充的効力を認めると、再雇用を義務付けることになり、採用の自由との原則との抵触という問題を生じかねないことなどをあげている ₁₅

一三五一

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(    同志社法学 六三巻二号四八四

 これに関しては、私法的効力を肯定する立場からも、法九条一項の雇用確保措置が一義的ではないことがあげられており、再雇用契約の成立を認めないものが多い ₁₆

。むしろ、このような見解は、法九条一項の﹁雇用継続確保措置﹂義務に違反していた定年規定それ自体が無効となり、雇用契約上の地位の確認を請求し得る。ただし、その後に、事業主が同項の定める要件に適合した継続雇用制度を設けた場合などは、その時点において同項違反はなくなると解している。他方で、契約内容の補充的解釈を行う立場 ₁₇

からは、六五歳までの継続雇用制度を導入する意思を有していたものとして補充的解釈を行っている。 私法的効力の有無について検討すると、法九条一項において、個々の企業の実情に応じて実施できるように設けられた三つの選択肢は、六五歳未満定年を理由として労働者が雇用を失うことを防止するための措置という点で一致していることから、この趣旨に反する場合には、私法的効力を認めると解する余地もある。ただし、法九条一項における高年齢者雇用確保措置は一義的ではなく、六五歳まで定年制を引上げて、雇用継続を強制することは困難であるため、補充的効力を認めるべきでない。また、法九条一項の私法的効力を認める立場では、補充的効力を否定したとしても、法九条一項に違反し、六五歳未満の定年制や違法な継続雇用制度が無効となった場合について、雇用契約上の地位の確認を請求し得ると主張する。しかし、これも、法九条一項に違反しない制度を導入するまでは、当初の締結していた労働契約を終了しないものと解することになり、雇用継続を強制することになる。よって、雇用契約上の地位の確認を請求しうる私法的効力を認めるべきではない。 以上、①~③の理由を示した上で、法九条一項の私法的効力を否定していることから、妥当であると解する。 ただし、労働者が法改正により六五歳までの雇用継続の期待を有していることを根拠として期待権侵害(あるいは信義則違反)を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求を事業主に対して行うことは理論上は可能である。この点につ 一三五二

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同志社法学 六三巻二号四八五(     いては、使用者が改正高年法に従った定年後の雇用継続を期待させる言動をしていたにもかかわらず継続雇用制度を導入しなかったという場合に、期待権を侵害されたとして不法行為を構成し得るといった、慎重な態度をとる立場が多い ₁₈

。本件制度については、不法行為を構成し得るほどの、期待権を侵害されたというような事情は見当たらないため、不法行為も認められないと考える。

二 本件制度の高年雇用安定法の適合性及び労働条件の不利益変更(争点②)

(一) 就業規則による労働条件の不利益変更 本件は、法九条の私法上の効力を否定したうえで、就業規則の労働条件変更について不利益変更を認め、合理性の有無について検討している。就業規則による労働条件の不利益変更の可否と要件の問題は、学説・裁判例による解釈に委ねられてきたが、二〇〇七年より判例法の内容を明文化することとなった(労働契約法一〇条) ₁₉

。本件は労働契約法制定以前の事案であるため、判決においても、判例法理を用いており、合理性の判断において、高年法の適合性を一要素として、検討を行っている。 判例法理における合理性の判断基準について、秋北バス事件大法廷判決 ₂₀

では、﹁新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない⋮⋮が、労働条件の集合的な処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該就業規則が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない﹂という規範が形成されている。

一三五三

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(    同志社法学 六三巻二号四八六

 本件は、本件制度導入が就業規則による労働条件の不利益変更に該当することを認めたうえで、本件制度が高年法に適合した制度であること、雇用延長の要請などの社会的要請とYの経営上の必要性、労働組合との交渉経緯、多数組合であるA労組の同意の有無等を検討し、不利益変更の合理性を肯定している。 不利益変更法理を適用すると、第四銀行事件 ₂₁

では、不利益変更の合理性の有無を﹁不利益の程度、変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して﹂判断している。不利益変更法理の判断枠組みを用いることによって、高年法の違法性の是非だけでなく、他の判断要素も検討することができ、合理的な解決手段となり得る。

(二) 定年延長を伴う労働条件の不利益変更該当性

(1) 再雇用制度の労働条件における労働条件変更該当性 本判決は、本件制度を導入し、キャリアスタッフ制度を廃止したことにより、労働条件の不利益変更に該当すると認めている。高年法九条一項二号の継続雇用制度については通達 ₂₂

により、雇用確保措置の趣旨をふまえていれば、常用雇用のみならず、多様な雇用形態でもよいと解されていることから、再雇用制度も可能と考えられている。 ただし、再雇用は、新たな労働契約の締結を意味することから、﹁契約自由の原則﹂に基づき、契約当事者が自由に決定することが保障される。本件と同様の事案であったNTT西日本事件(高松高判平成二二年三月一二日・労働判例一〇〇七号三九頁)においても、キャリアスタッフ制度の廃止は、定年退職者の再雇用というYにおける一定の種類の従業員の再雇用制度を廃止するものであって、Yの﹁社員﹂の労働条件に直接影響を及ぼすものではないとして、本件制度における労働条件が従前の労働条件と異なるものと解する立場をとっている。つまり、定年前の労働条件と再雇用 一三五四

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同志社法学 六三巻二号四八七(     制度における労働条件を区別し、労働条件の不利益変更該当性の問題と解していない。このように解すると、定年前の労働契約における労働条件に該当し得ないことを理由に労働契約法一〇条の直接適用が不可能となる。 思うに、本件再雇用制度は、高年法九条一項二号の継続雇用制度に含まれるものと解される。厚生労働省の﹁改正高年齢者雇用安定法Q&A ₂₃

﹂によると、六五歳まで再雇用制度を採用する場合にも、定年まで雇用されていた企業と、継続雇用する企業との関係について、緊密性と明確性 ₂₄

を要件として総合的に勘案するものとする。特に、緊密性では、具体的には、親会社が子会社に対して明確な支配力を有し、親子会社間で採用、配転等の人事管理を行っていることを求めている。 また、高年法九条一項各号は原則として希望者全員を対象とするため、原則としていかなる者を雇い入れるかについて、使用者は自由に決定することができない。 これらの点を考慮すると、新たな労働条件を締結する際に認められている、契約締結の自由が広く保障されているわけではない。高年法九条一項では、﹁六五歳までの安定した雇用﹂の確保を目的とし、それを実現させるための制度であることを求めている。再雇用制度であっても、雇用継続を確保することにより雇用の安定を図ることが高年法九条一項の趣旨であることをふまえると、定年前の労働条件と再雇用制度における労働条件を、全く別の労働契約における事象として捉えるべきではない。 よって、高年法九条一項二号﹁継続雇用制度﹂に含まれる再雇用制度においては、雇用継続のための労働条件の変更であると考える。ただし、再雇用制度であることから、基本的には﹁契約自由の原則﹂が適用されることになるため、労働条件の不利益変更をどの程度認めるべきかについては、後述の就業規則変更の合理性判断にて、検討を行うこととする。

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(    同志社法学 六三巻二号四八八

(2) 不利益性の判断 労働条件の不利益性の判断について、客観的一義的に行うことが困難であるが、この点に関連して、労働契約法一〇条の解釈につき、不利益変更の該当性に関する議論がある。法一〇条は、﹁使用者は就業規則の変更により労働条件を変更する場合において﹂として、一見不利益変更の場合に限定せずに、変更の効力について規定しているようにもみえる。しかし、本条が前条の合意原則の但書を受けて規定していることから、前条と同じく不利益変更の場合のその効力に関する規定と解する立場がある ₂₅

。もっとも、この立場では、合意原則からすれば、労働者が不利益であるとして反対する労働条件の変更があれば、その労働者へ就業規則の労働契約規律効を及ぼすには本条の合理性の要件を充たすことが必要となる。 また、不利益変更該当性の立証の困難さゆえに、労働者が合理性審査に入る前に入口で排除されることは適当でないとし、﹁不利益﹂性は労働者が不利益であると主張していることをもって足りるとする見解もある ₂₆

。 他方、労働条件の変更の中には、成果主義人事の導入のように、不利益変更か有利な変更かが明確でないケースが少なくなく、判例 ₂₇

もこのようなケースを含めて﹁不利益変更﹂と捉え、合理性審査を及ぼしていたことから、有利・不利を問わず﹁変更﹂に及ぶと解する立場もある ₂₈

。本件の﹁不利益性﹂の判断については、(4)にて検討を行う。

(3) 定年延長に伴う労働条件の設定 定年延長に伴う労働条件の設定については、三つの類型に分けられる。まず、第一に、旧制度上も定年後の在職制度があって、なおかつ、定年制の賃金水準で勤務することに合理的期待利益がある場合、第二に、これまで在職制度等が全くなくて、定年延長や再雇用によって新たに労働条件を規定する場合、そして、第三に、旧制度の下でも在職制度が 一三五六

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同志社法学 六三巻二号四八九(     あったが、定年前の賃金水準で働くことの期待利益が存在しない場合があげられる ₂₉

。 第一の場合に該当する判例として、第四銀行事件 ₃₀

は、不利益変更法理を直接適用するためには、合理的な期待利益があることを前提としている ₃₁

。この事件は、従前の定年在職制度の運用実態について、勤務に耐える健康状態にある者であれば、定年後も五八歳まで在職することは確実であり、その間賃金水準等を下回ることのない労働条件で勤務することができるという合理的な期待利益の存在を認めている。そして、六〇歳定年制の実施に伴う就業規則の変更が既得の権利を消滅、減少させるというものではないものの、旧制度上、定年後在職制度が存在していたことから、同制度を将来においても適用されることについて合理的な期待が認められるため、実質的に見て﹁不利益変更﹂にあたるとする。 第二の場合に該当するものとして、日本貨物鉄道事件 ₃₂

は、定年後在職制度が認められない場合でも、定年延長は労働契約の創設ではなく、従来の労働契約の延長を意味するとして労働条件変更法理を適用した上、合理性判断をより緩やかに行っている。 他方で、第三の場合に該当するものとして、協和出版販売事件 ₃₃

がある。これは、五五歳定年制で定年退職後に嘱託制度が存在していたところを、定年を六〇歳に引き上げたのと併せて五五歳以降は嘱託職員としてそれまでの賃金とは別の給与体系に変更を行った事案である。ここでは、五五歳以降について、それ以前の労働条件で就労する権利を有しておらず、定年前の賃金水準で働くことは期待できなかったとして、不利益変更法理の適用を否定している。

(4) 本件について 本件は、変更前の状況との比較において、再雇用後六五歳まで継続して雇用されることが可能という点においては、変わりはない。ただし、労働条件の変更後、再雇用型を選択した場合には、五一歳の時点で退職・再雇用がなされ(従

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(    同志社法学 六三巻二号四九〇

前は六〇歳定年以降)、転籍後、労働条件が低下することになる(一年更新、二〇%~三〇%の賃金の減少)。 つまり、満了型を選択した場合には、六〇歳で定年となるため、六五歳まで継続雇用を希望するのであれば、従前のキャリアスタッフ制度よりも低下した労働条件で継続雇用がされることになる。これは、変更後の労働条件によって、キャリアスタッフ制度の労働条件で勤務することの期待利益が侵害されたと解することができる。本件の場合、定年後に雇用延長としての機会を与えたキャリアスタッフ制度の存在があり、本件制度を導入したことは、既得の権利を消滅、減少させるものとまではいえないが、キャリアスタッフ制度が将来においても適用されることについて合理的な期待を侵害したということが認められ得る。 よって、これは、合理的な期待利益があることを理由に実質的な﹁不利益変更﹂であると認めた、第四銀行事件の類型に該当すると解される ₃₄

。ただし、変更前の労働条件で勤務することの期待利益があったとして、不利益変更該当性の判断が可能となるためには、前述の第四銀行事件のように、定年後も継続して在職を希望する場合の基準(労働条件等)が変更後の労働条件においても同様の場合であることが必要となる。本件では、事実認定において、キャリアスタッフ制度で在職を希望する場合の採用基準は明らかにされていない。この点は事実認定に係る問題であるため、判断しかねるところである。しかし、六五歳までの雇用継続を希望する、退職・再雇用型の契約社員の更新基準は、キャリアスタッフ制度と同じであるため、定年後に再雇用される際と同一の基準であると判断する余地がある。 もっとも、就業規則変更による労働条件新設のケースとして扱ったと考える場合においては、前述の協和出版事件と同様に、労働条件の新たな設定場面における合理性(労働契約法七条)によって判断を行うべきである ₃₅

。その場合、労働契約法七条の合理性判断は、高年法に適合するか否かという判断を重視して行われる。 一三五八

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同志社法学 六三巻二号四九一(     (三) 就業規則変更の合理性判断(1) 合理性の判断要素 本判決は、就業規則による労働条件の不利益変更の合理性について、高年法の適合性の判断を行うことで、不利益変更の内容を検討している。そして、高年法の適合性を認め、Yの民営化による競争の激化と大幅な赤字の計上を理由とする経営上の必要性を述べ、多数の労働者が加入するA労組との同意かつ少数組合との交渉を経て、本件制度が導入されたことを理由に法的規範性を是認するだけの合理性があると判示する。 本件は、就業規則における労働条件の不利益変更であることが認められており、新たな労働条件設定の場合に問題となる合理性要件の場合よりも、厳格な合理性判断となる。使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合においては、変更後の就業規則を労働者に①周知させ、かつ、合理性の考慮要素として、就業規則の変更が、②労働者の受ける不利益の程度、③労働条件の変更の必要性、④変更後の就業規則の内容の相当性、⑤労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして判断がなされる(労働契約法一〇条)。 本判決も、④変更後の就業規則の内容の相当性については、本件制度の高年法における適合性を一要素として検討し、一審の判断をそのまま維持している。一審では、法九条の趣旨を高年齢者の六〇歳以後の安定した雇用を確保するとともに高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことを可能とする労働環境を実現することと解し、この趣旨に反しない限り、各事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると判示する ₃₆

。 一審は、継続雇用制度の具体的判断として、導入経緯、転籍、労働条件の低下・更新における合理性、説明義務・継続雇用に関する希望を聴取する時期、労使の協議の有無等について検討している。一方、本件は、高年法の適合性について、一審の内容を維持しているため、①~⑤の判断要素に基づいた検討はなされていない。しかし、労働契約法一〇

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(    同志社法学 六三巻二号四九二

条が定める判断要素に基づいて、具体的な検討を行うべきである。そこで、導入経緯、転籍、労働条件の低下・更新における合理性については、④変更後の就業規則の内容の相当性にて、また、説明義務・継続雇用に関する希望を聴取する時期、労使の協議の有無等については、⑤労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情のところで検討を行うこととする。

(2) 周知(判断要素①) 本判決は、周知に関して具体的に検討していないが、本件制度導入前に多数従業員が所属するA労組や少数組合とも交渉を行っているという事実から明らかに周知の要件を満たしている。

(3) 不利益の程度(判断要素②) 本判決は、本件制度について、六〇歳を超えて就業を継続するためには、Xらの定年年齢の一〇年も前に、雇用形態を選択しなければならず、五一歳の時点でYを退職し、地域会社に転籍して一年更新の不安定な条件で再雇用され、二〇から三〇%の減給を甘受することになる点、﹁六〇歳満了型﹂を選択した者については、従前のキャリアスタッフ制度が廃止されたことにより、以後の再雇用の道が断たれたことになる点をあげている。 本件の場合、高年法の適合性に関する、労働条件の低下における本件継続雇用制度の相当性の検討((5)変更後の就業規則の内容の相当性(b)参照)とは別に、不利益の程度が検討されるべきである。変更後の労働条件によって、再雇用型(一時金型・繰延型)を選択した場合、従前の労働条件(賃金)の二〇から三〇%の減給を甘受することになる不利益の程度は著しいと判断できる。 一三六〇

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同志社法学 六三巻二号四九三(     (4) 変更の必要性(判断要素③) 本判決は、Yの民営化や電機通信事業の民間への開放、その結果としての競争の激化と大幅な赤字の計上、高齢者の増加と少子化、年金の支給年齢の引き上げを要因とする雇用延長の要請などの社会的、経済的環境を変更の必要性としてあげている。これは、社会的要請により、高年法に則した雇用確保措置を確保しなければならないという必要性を有する一方で、Yの経済的環境を考慮した制度を導入しなければならないという二つの変更必要性があると解することができる。その上で、本件制度の内容の相当性の場面において、本件継続雇用制度が高年法に則したものであるかどうかを検討することとなる。

(5) 変更後の就業規則の内容の相当性(判断要素④) 本判決は、変更後の就業規則の内容の相当性について、一審を支持し、本件制度における高年法の適合性を認めている。本件の場合、高年法に則した雇用確保措置の導入を必要とした経緯を考慮すると、変更後の就業規則の内容の相当性に関して、本件制度が高年法に適合するか否かがポイントとなるものと考える。なお、内容の相当性は、代償措置・経過措置や、社会的相当性等の要素についても勘案することとなるが、これについては、(b)変更後の労働条件の相当性において検討を行う。また、(c)説明義務・継続雇用に関する希望を聴取する時期、(d)労使の協議・工夫による制度については、⑤労働組合等との交渉の状況の箇所で検討する。

(a) 地域会社での再雇用(転籍) 一審は、法九条一項二号で定める﹁継続雇用制度﹂は、事業主の事情を考慮した柔軟な制度であって、多様な形態に

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参照

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