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指名債権譲渡における債務者の異議をとどめない承 諾と譲受人の過失

著者 山岡 航

雑誌名 同志社法學

巻 67

号 7

ページ 2979‑2999

発行年 2016‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015634

(2)

    同志社法学 六七巻七号一三一二九七九

最高裁第二小法廷平成二七年六月一日判決(平二六(受)一八一七号・不当利得返還請求事件)民集六九巻四号六七二頁、金判一四七三号一六頁

             

【事実概要】

  本件は、貸金業者Aとの間で金銭消費貸借取引をしていたXが、AのXに対する債権を譲り受けたYに対し、いわゆる過払金の返還を求める事案である。

  Xは、平成一二年一月一三日、A(タイヘイ株式会社)との間で、限度額の範囲内で繰り返し金銭を借り入れること

( )

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    同志社法学 六七巻七号一三二二九八〇

ができる旨の金銭消費貸借基本契約を締結した。その後Xは、翌一月一四日から平成一四年二月二七日まで、同契約にもとづく金銭の借入れおよび返済を繰り返した。このXの返済は、利息制限法(平成一八年法律第一一五号による改正前のもの。以下同じ)の制限を超過する利息を含むものであった。

  平成一四年二月二八日、AはB(株式会社ユニマットライフ)に対し、Xとの基本契約にもとづく貸金債権すべてを譲渡した。この債権譲渡の契約書には、XA間の取引に旧貸金業法(平成一八年法律第一一五号二条による改正前の貸金業の規制等に関する法律。以下同じ)四三条一項のいわゆるみなし弁済規定の適用があることを前提に、譲渡対象の貸金債権がいかなる抗弁等にも服さないという記載があった。また、同日における譲渡対象の貸金債権の元本残高は、同法四三条一項の適用があるとした場合には四六万二九二一円であった。しかし、実際にはその適用はなく、利息制限法の制限を超えて支払われた利息の元本充当により、元本残高は三三万九五七九円であった(以下、XA間の取引に旧貸金業法四三条一項の適用がなく、元本残高が三三万九五七九円に減少していたことを﹁本件事由﹂という)。

  平成一四年三月一八日ごろ、AおよびBは、Xに対し、譲渡対象の貸金債権の元本残高が四六万二九二一円であると表示して、右の債権譲渡の通知を行った。これに対し、同月二一日ごろ、Xが異議をとどめない承諾をした。

  その後Xは、Bとの間で、限度額の範囲内で繰り返し金銭を借り入れることができる旨の金銭消費貸借基本契約を締結した。Xは、BおよびBを吸収合併したY(CFJ合同会社)との間で、平成一四年四月四日から平成二四年一一月一九日までの間、同契約にもとづく金銭の借入れおよび返済を繰り返した 1

。また、同契約は、同契約にもとづく取引によって過払金が発生した場合、これをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいる。

  以上の事実関係のもと、XはYに対し、Xが本件事由をYに対抗できるとしたうえで、右の取引における各弁済金のうち、利息制限法の制限を超えて支払われた利息を元本に充当すると過払金が発生しているとして、不当利得返還請求

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    同志社法学 六七巻七号一三三二九八一 権にもとづき、過払金の返還等を求めた。

  本件では、過払金計算の前提として、Xが、AB間の債権譲渡に対して異議をとどめない承諾をしたにもかかわらず、本件事由をYに対抗できるかどうかが争点となった。この点に関しXは、Xによる異議をとどめない承諾が民法四六八条一項の承諾にあたるとしても、①Yは本件事由の存在について悪意であったか、善意だとしても重過失がある、②Xのした承諾は錯誤によって無効である、などの主張をした。

  第一審判決(名古屋地判平成二六年一月一七日金判一四七三号二三頁)は、Xによる異議をとどめない承諾が動機の錯誤によって無効であるとして、Xの請求を認容した。これに対し、控訴審判決(名古屋高判平成二六年六月一三日金判一四七三号二一頁)は、XA間の取引に旧貸金業法四三条一項の適用がないという前提のもと、本件事由の存在についてのYの悪意および重過失、Xによる異議をとどめない承諾の錯誤無効のいずれをも否定し、異議をとどめない承諾の効力を認めた。そして、Xが本件事由をYに対抗できないという前提で計算された過払金額についてのみ、Xの請求が認められた。そこで、Xが上告受理申立てをした。

【判旨】

  破棄差戻し の一、とるすうそ)。照参頁六受一二号八巻一二集民・決譲判人知こ、もてしとっかならたを記在いて上お事由の存に 障高最(るあにとこるす、保を全安の引取権債般一昭裁同和〇護廷法小二第日七二月一四年号六八一第)オ(年二し保 でをす抗対に人受譲てっもれここ、もてっあが由事たきるとがの益利の人受譲、は旨趣そが、ろことるすといなきでを   ﹁と債なめどとを議異が者務、では段前項一条八六四法い指こきるす抗対に人渡譲、はと名たしを諾承の渡譲権債民

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    同志社法学 六七巻七号一三四二九八二

ことに過失がある場合には、譲受人の利益を保護しなければならない必要性は低いというべきである。実質的にみても、同項前段は、債務者の単なる承諾のみによって、譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することができなくなるという重大な効果を生じさせるものであり、譲受人が通常の注意を払えば上記事由の存在を知り得たという場合にまで上記効果を生じさせるというのは、両当事者間の均衡を欠くものといわざるを得ない。

  したがって、債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において、譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても、このことについて譲受人に過失があるときには、債務者は、当該事由をもって譲受人に対抗することができると解するのが相当である。﹂

  最高裁は、以上の判示に続き、本件では﹁Xは、本件取引では一八条書面 2

の交付が全くなく、このことはYにおいて知り得たものである旨主張していたものということができる。そうすると、原審としては、本件取引における一八条書面の交付の有無や、仮に交付がなかった場合にこれをYにおいて知り得たか否かなどについて審理判断をすべき﹂として、本件を差し戻した 3

【参照条文】

  民法四六八条一項

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    同志社法学 六七巻七号一三五二九八三 【批評】

Ⅰ   は じ め に

  本件では、指名債権譲渡(以下単に﹁債権譲渡﹂という)における異議をとどめない承諾による抗弁切断効(民法四六八条一項・以下、民法の条文については条文番号のみを掲げる)の発生に関し、抗弁事由に関する譲受人の認識が争点となった。これまでに、少なくとも譲受人が悪意の場合には抗弁が切断されないという点は確立した理解となっていた。そのさらに先、善意の譲受人についての無過失の要否に関しては、見解が分かれていた。本判決は、この点についての初めての最高裁判断である。

  もっとも、四六八条一項は、譲受人の認識を文言上は何ら問題としていない。そうすれば、抗弁切断効のために譲受人にどの程度の認識が求められるかの前提として、抗弁切断効の成否が条文には書かれていない譲受人の認識にかからしめられる根拠にまで立ち返る必要がある。この根拠は、本判決が従来の判例を引用して述べるように、四六八条一項の趣旨理解に見出される。

  また本判決は、近時に頻発していた、貸金業者が事業再編をした場合における過払金の扱いが争われた事案に関する新たな最高裁判決でもある。もっとも、本判決は、この事案に関して現在までに積み重ねられてきた最高裁判決との関係で、画期的な判断を行ったわけではない。それでも、債権譲渡における抗弁の観点からの処理、および判旨末尾の譲受人の認識についての判断の部分など、本判決にも注目すべき点がいくつか含まれている。これらの点についても、あわせて検討を試みることにしたい。

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    同志社法学 六七巻七号一三六二九八四

Ⅱ   民 法 四 六 八 条 一 項 に お け る 異 議 を と ど め な い 承 諾

  本件の争点の前提といえる四六八条一項の趣旨理解の問題は、異議をとどめない承諾の法的性質をどのように理解し(意思表示か、観念の通知か)、抗弁切断効の根拠をどこに求めるかという問題として議論されてきた。本件で争われた譲受人の認識は、四六八条一項の趣旨理解を前提とした各論的問題として位置づけられてきたといえる(以下、この問題を指して﹁譲受人の認識要件﹂という)。そこで以下では、四六八条一項の趣旨に関する議論を整理したうえで、譲受人の認識要件についての見解を確認する。これらの議論の展開では学説が主導的な役割を果たしてきたことにかんがみ、叙述は学説、判例で区別し、この順で行う。

1   学       説

⑴  民法四六八条一項の趣旨   四六八条一項の趣旨に関する議論は、時系列に沿って、次のように整理することができる。譲受人の認識要件との関係から、特に各見解の問題意識および従前の学説に対する批判と、抗弁切断効の根拠とを中心にとりあげる。

  初期の見解は、異議をとどめない承諾を、譲受人に対する新たな債務の承認の意思表示と理解し、抗弁切断効をこの意思表示の結果として説明していた 4

(以下、意思表示に根拠を求める見解を総称して﹁意思表示説﹂という)。もっとも、意思表示という性質決定に対しては、四六八条一項が﹁債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは﹂と規定しているところ、四六七条の承諾は観念の通知であるため、文言上齟齬があるという問題が指摘される 5

  このような問題を踏まえ、異議をとどめない承諾を、債務者が債権譲渡の認識を異議なく表示すること、すなわち観

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    同志社法学 六七巻七号一三七二九八五 念の通知とする見解が提唱された。それによれば、異議をとどめない承諾による抗弁切断効は、異議をとどめない承諾を信頼した譲受人の保護、および取引安全保護のために、観念の通知に法律が特別に与えた効果であると説明される(以下、抗弁切断効を法定の効果とする見解を総称して﹁法定効果説﹂という)。これらの保護の具体化につき、当初は禁反言の原則が援用されていた 6

。これに対し、後の見解は、異議をとどめない承諾に一種の公信力が付与されたものと説明をする 7

。後者の見解が、従来通説とされてきた。両見解を比較すれば、さしあたり、禁反言の原則の援用に含意される債務者の行為への否定的評価が、公信力への依拠によって希薄化しているという点が指摘できよう。

  通説に対しては、二つの角度から批判が向けられた。第一は、異議をとどめない承諾によって権利が取得されるわけではないため、公信力という説明が不適切であるというものである 8

。これにもとづき、近時では、通説的な理解をしつつも、抗弁切断効を譲受人の信頼や利益の保護・取引安全保護のための法定効果とのみ説明し、公信力という語を使用しない見解も少なくない 9

  第二は、より根本的に、債務者が債権譲渡の認識を表示したことのみをもって、公信力の前提となる、抗弁事由の不存在という信頼が生じることはないというものである ₁₀

。通説の本質的問題点を鋭く突くものであるといえ、この批判を発端に、学説は抗弁切断効の根拠の段階からの新たな展開を見せる。片や意思表示説への回帰のもとで新たな説明が模索され ₁₁

、片や従前の法定効果説の発展形ともいえる見解が提唱された。

  後者の見解では、抗弁切断効の根拠が、譲受人の信頼や利益の保護・取引安全保護に加えて、異議をとどめない承諾に反して抗弁を主張するという債務者の行為への否定的評価にも求められる。もっとも、この新たな根拠の位置づけは一様ではない。一方の見解は、債務者の行為への否定的評価に主たる地位を与え、承諾の意思的要素 ₁₂

や矛盾行為の禁止 ₁₃

を根拠とする債務者への帰責として抗弁切断効を説明する。これに対し、他方の見解は、債務者の行為への否定的評価

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    同志社法学 六七巻七号一三八二九八六

を譲受人の信頼や利益の保護・取引安全保護と同等に位置づけ、双方にもとづく法定効果として抗弁切断効を説明する ₁₄

⑵  譲受人の認識要件

  まず、意思表示説においては、いずれの見解によっても、譲受人の認識は理論的に問題にならない。債務者が自らの意思表示にもとづいて抗弁切断効を発生させると解される以上、その抗弁の存在についての譲受人の認識は関係がないからである ₁₅

  これに対し、法定効果説では、法定効果の要件として、譲受人の認識が問題になる余地がある。もっとも、譲受人の信頼や利益の保護・取引安全保護から少なくとも善意が要求される点を除けば、前述の抗弁切断効の根拠から論理必然的に結論が導かれるわけではない。公信力を援用すれば善意無過失という結論が自然であるものの、必ずしもそのように理解されてはいない ₁₆

。見解は、善意のみで足りるとするもの ₁₇

、善意無重過失を求めるもの ₁₈

、善意無過失を要求するもの ₁₉

に分かれている。単純な数でいえば無過失または無重過失を要求する見解が多いものの、いずれにせよ実質的考慮の問題である。

  具体的には、取引安全保護や債権譲渡の自由 ₂₀

、債務者への帰責 ₂₁

を強調すれば、過失を容認する方向へ傾く。これに対し、信頼の保護であることや ₂₂

、単なる観念の通知によって債務者が受ける不利益との均衡 ₂₃

を重視すれば、無過失の要求に近づくことになる。これらのうち、特に最後の均衡の要素は、比較的多くの論者によって考慮されている。前述の学説の変遷に照らせば、この考慮の背後には、異議をとどめない承諾を観念の通知とする限り、譲受人の信頼を正当化しきれない一方で、債務者の意思を見出せないために否定的評価も向けきれないという理解があるように思われる。これ

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    同志社法学 六七巻七号一三九二九八七 らの問題が、譲受人に無過失を要求することで補われていると解されるのである。この点では、抗弁切断効の根拠論が、譲受人の認識要件に反映されているといえよう。

2   判       例

⑴  民法四六八条一項の趣旨

  本件において、最高裁は従来の判例を引用し、四六八条一項の趣旨が﹁譲受人の利益を保護し、一般債権取引の安全を保障することにある﹂と述べた。このような譲受人保護・取引安全保護に着目した最上級審の判断は、昭和九年の大審院判決(以下﹁昭和九年判決﹂という) ₂₄

までさかのぼる ₂₅

。同判決は、次のように述べる。

  まず、四六八条一項の趣旨につき、債務者が異議をとどめない承諾をした場合、﹁譲受人ヲシテ該債権ニ付瑕疵ナキコトノ信念ヲ懐カシムヘキヤ当然﹂である。それゆえに、法律は、この場合について﹁例外トシテ右譲渡承諾ナル法律事実ニ特殊ノ効力ヲ認ムルヲ相当ト﹂し、抗弁切断効によって﹁譲受人ヲ保護センコトヲ期シ﹂ている。このような抗弁切断効は、﹁債権譲渡ニ際シ債務者ニ於テ譲受人ニ対シ新ニ債務ヲ承認スルノ意思ヲ表示シタルト否トヲ問ハス苟クモ何等異議ヲ留メサル承諾アリタル以上法律ハ該譲渡承諾ナル観念表示ニ恰モ有効ニ存在セル瑕疵ナキ債権ノ譲渡ト均シキ効力ヲ附与シタルモノ﹂である。

  このような昭和九年判決の理解は、本判決が引用する昭和四二年の最高裁判決(以下﹁昭和四二年判決﹂という) ₂₆

で、最高裁によっても維持されている。昭和四二年判決は、異議をとどめない承諾による抗弁の切断を﹁債権譲受人の利益を保護し一般債権取引の安全を保障するため法律が附与した法律上の効果﹂とする。簡略な表現にとどめられてはいるものの、基本的には昭和九年判決の理解が維持されているようにみえる。

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    同志社法学 六七巻七号一四〇二九八八

  さらに、後の判決でも昭和四二年判決と同様の理解がなされている ₂₇

。したがって、判例においては、異議をとどめない承諾による抗弁切断効は、譲受人の利益および取引の安全を保護するために、観念の通知に特別に付与された法定効果であるという理解が、確立しているということができる。ただし、昭和四二年判決以降の判決では、保護の対象について﹁譲受人の信頼﹂という表現が用いられなくなっている。そうすれば、最高裁が保護している譲受人の利益が、特に譲受人の信頼であるのかは、必ずしも明らかではない。

  以上の判例に対しては、公信力に依拠する通説を採用しているという評価がなされることが少なくない ₂₈

。確かに、判例の理解が通説に近いことは否定できない。しかし、昭和九年判決まで含めても、判決で﹁公信力﹂という語が使用されたことは一度もない。さらに、判例の保護するものが譲受人の信頼であるかどうかについても、検討の余地がある。そうすれば、従来の判例が通説に依拠したものであるという評価には、慎重さが要求されるべきであろう ₂₉

⑵  譲受人の認識要件

  昭和九年判決および昭和四二年判決は、譲受人の認識要件についての先例でもある。両判決は、四六八条一項の譲受人保護という趣旨から、譲受人は抗弁事由の存在について善意でなければならないとしている ₃₀

。しかし、両判決は過失の扱いについては何も述べていない。

  この点、下級審裁判例では、譲受人に善意無過失や善意無重過失を求めるという一般論のもと、少なくとも過失や重過失があることを理由に抗弁の切断を否定した判決も複数存在する ₃₁

。しかし、譲受人の善意または悪意を認定して過失には言及しない判決も多い ₃₂

。この状況によれば、無過失ないし無重過失の要否について下級審裁判例の見解が割れているかどうかも、一概にいうことはできない。ただし、善意でさえあれば過失があってもよいと明言した判決は、管見の

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    同志社法学 六七巻七号一四一二九八九 限りでは見当たらない。これらの認識要件についての理解の理由づけについては、善意無過失を要求する理由として公信力をあげる判決もある ₃₃

。しかし、下級審裁判例の多くは、昭和四二年判決の述べた四六八条一項の趣旨に言及する程度である。また、特に理由を述べないものも多い。

  学説の箇所で述べたように、譲受人保護・取引安全保護を抗弁切断効の根拠に据える限り、譲受人の善意は当然に求められることになる。これに対し、この根拠からは過失の扱いは論理必然的には帰結されない。したがって、従来の判例法理から過失の扱いを論理的に導くことは不可能であった。また、下級審裁判例をみても、善意のみでは足りないという傾向は看取されるものの、これも憶測の域を出ない。それゆえに、まさに最高裁の判断が待たれていたといえよう。

Ⅲ   貸 金 業 者 の 事 業 再 編 に お け る 過 払 金 の 扱 い 1   問 題 の 概 要

  冒頭においても述べたように、本件は、貸金業者が事業再編をした場合における過払金の扱いが争われた事案である。近時、同種の事案が多発していたところであり、本件もその一つである。

  もっとも、本件の問題は、従来中心的に論じられてきた﹁過払金返還債務の承継﹂とは異なる ₃₄

。本件では、事業再編のために移転された貸金債権が(以下、この貸金債権を移転させた業者を﹁譲渡業者﹂、貸金債権の移転を受けた業者を﹁譲受業者﹂という)、譲渡業者のもとでの過払金の充当により減少していたあるいは消滅していたことを、債務者が譲受業者にも対抗できるかどうかが問題となった。この問題では、特に譲渡業者のもとですでに発生している過払金返還債務の帰趨は直接関係がない(ただし本件では、この過払金返還債務は発生していない)。この問題は、これまで

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    同志社法学 六七巻七号一四二二九九〇

のところあまり議論の対象とはされてこなかったようであるものの、下級審裁判例では時折姿を現していた。以下では、下級審裁判例を紹介し、本判決との関係で検討を要すべき点を指摘することにしたい。

2   下 級 審 裁 判 例

  移転した貸金債権についての過払金充当の譲受業者への対抗の可否は、債権移転の場面における債務者の抗弁の帰趨、すなわち四六八条の問題である。本件と同種の事案においては、業者側が債務者から異議をとどめない承諾を得ていることが多い。これによる抗弁切断効の発生を否定する方法の一つとして、譲受業者の認識が問題とされてきた。参照しえた裁判例ではいずれも、譲受業者の悪意や過失が認められ、抗弁の切断が否定されている。その結論の是非はともかく、裁判例における以下のような判断枠組みには、留意が必要であるように思われる。

  第一に、ここでの譲受業者の認識の対象は、利息制限法違反は当然として、最終的には債務者の譲渡業者に対する弁済に旧貸金業法四三条一項の適用がなく、その結果発生した過払金の充当によって、移転した貸金債権が消滅等していることになるはずである。ところが、従来の裁判例では、この点が必ずしも厳密ではないように思われる。たとえば、譲受業者が移転した貸金債権の内容を十分に把握していたことをもって悪意を認定する裁判例がみられる ₃₅

。しかし、移転した貸金債権が利息制限法に違反していたとしても、旧貸金業法四三条一項の適用の有無はまた別の問題のはずである。このような悪意認定には︱︱実際上は悪意の蓋然性が高いとしても︱︱やや不十分な感が否めない。

  第二に、裁判例には、譲受業者が、債務者の譲渡業者に対する弁済について旧貸金業法四三条一項の適用があるとの認識を有するに至ったことがやむを得ないといえる特段の事情がない限り、譲受業者に悪意や過失を認めるものもある ₃₆

。このような判断枠組みは、一般に譲受人の悪意等の立証責任が債務者にあると解されることに対し ₃₇

、立証責任を実

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    同志社法学 六七巻七号一四三二九九一 質的に転換させるものともいえる。しかし、そのような例外的扱いをする根拠は述べられていない。また、この判断枠組みは、制限超過利息の支払いを受領した貸金業者に関する七〇四条の悪意受益者の推定について最高裁が示した定式 ₃₈

に依拠しているようにもみえる。仮にそうであるとしても、制限超過利息を受領した貸金業者についての定式を、貸金債権の譲受業者にそのまま当てはめてよいかは、なお検討を要するように思われる。さらに、譲受業者が、この定式によって悪意受益者と推定されることをもって、四六八条一項においても悪意であるとすることには、なお論理の飛躍がある。いずれにせよ、以上の下級審裁判例の判断枠組みには疑問が残る。

Ⅳ   本 判 決 の 評 価 1   異 議 を と ど め な い 承 諾 に よ る 抗 弁 切 断 効 の 側 面 か ら の 評 価

⑴  民法四六八条一項の観点からの位置づけ

  まず、四六八条一項の趣旨については、本判決が昭和四二年判決を引用するとおり、従来の判例法理が踏襲されている。本判決も、異議をとどめない承諾による抗弁切断効を、譲受人保護・取引安全保護のために特別に認められた法定効果と解している。この点では、債務者の行為に対する否定的評価を考慮する学説とはなお開きがあるともいえる。また、本判決も保護の対象について譲受人の信頼という表現を使用していない。

  以上の趣旨理解のもとでは、譲受人の認識要件について、善意は当然に要求される。本判決は、この趣旨から無過失までを導いているものの、これは論理必然ではない。この点、本判決が続いてあげる実質的理由をみるに、そこでは、単なる承諾によって抗弁切断という重大な効果が生じることから、債務者と譲受人との間の均衡を根拠に、譲受人に無

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    同志社法学 六七巻七号一四四二九九二

過失が要求されている。本判決でも譲受人の信頼への言及がなされていない点にかんがみれば、本判決は、抗弁切断効を異議をとどめない承諾があったこと自体にもとづく法定効果であるとしたうえで、その法定効果の重大さのもとでの均衡を図るために善意無過失を求めたものと解することもできる。これは少なくとも、いわゆる﹁信頼保護﹂や﹁公信力﹂のもとでなされるのと同一の考慮ではない。また、この表現によれば、本判決の過失についての考慮は、近時の学説のうちの善意無過失を要求する見解の多くがしていた考慮︱︱異議をとどめない承諾を観念の通知と解する限りでの根拠づけの不十分さの補充︱︱と軌を一にするものともいえる。この学説の考慮は、四六八条一項の趣旨に関する通説批判にも由来している。以上によれば、四六八条一項の趣旨について判例が通説を採用しているという理解をすることには、今まで以上の慎重さが要求されるようになったという評価も可能であろう。

  以上をまとめれば、本判決は、学説のいずれの見解とも異なる判例法理を維持しつつも、近時の学説と同様に債務者保護といった考慮も加味し、抗弁切断効の発生にとって厳格な姿勢を示したものということができる。これによれば、本件自体はいわゆる過払金関係事案であるものの、本判決の判示は一般化されるべきであると考えられる。また、今般の民法改正では、異議をとどめない承諾による抗弁切断の合理性が疑問視され、この制度を廃止する旨の提案がなされている ₃₉

。本判決が譲受人の認識要件に関して示した方向性は、民法改正とも一致するものと評価できる。

⑵  「

債権関係における当事者の交替」の観点からの位置づけ

  さらに、債権譲渡・債務引受・契約上の地位の移転を総称した﹁債権関係における当事者の交替﹂全体の観点から本判決を位置づける可能性について、検討を試みることにしたい。

  これらの当事者交替においては、交替を直接主導しない者(債権譲渡における債務者、債務引受における債権者、契

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    同志社法学 六七巻七号一四五二九九三 約上の地位の移転における契約に残る相手方 ₄₀

)を、交替によって生じる不利益から保護することが必要となる。この保護の方策としては、交替に対するこれらの者の関与を根拠に不利益を甘受させることが考えられる。この関与は、交替の効力発生要件とは区別された、いわば不利益甘受要件として把握することができる ₄₁

。債権譲渡についていえば、四六八条一項は、異議をとどめない承諾という関与を理由に、抗弁の切断という不利益を債務者に甘受させることを規定したものと理解される。もっとも、不利益甘受要件としての関与は、基本的にはその旨の意思にもとづいていなければならない(意思的関与)と解される。本判決のように異議をとどめない承諾を観念の通知と解する限り、これは、そのような意思にもとづく関与では必ずしもない。そこで、このような事実的関与による不利益の甘受が正当化されなければならない。

  このような視点から本判決をみると、本判決は、事実的関与による例外的な不利益甘受の根拠を譲受人保護・取引安全保護に求め、意思的関与との間の均衡を譲受人に善意無過失を求めることで図ったものと解することができる。特に後者に着目し、これを不利益甘受要件一般に及ぼせば、不利益甘受要件としての関与に意思がともなわない場合、交替を直接主導しない関与者は、新たに当事者となった者が善意無過失でない限り、当該の不利益を受けないということになる。このことは具体的に、一つの関与による複数種類の不利益の甘受の可否などの問題に対し、解釈の手掛かりを与えると思われる ₄₂

  このように、本判決が﹁債権関係における当事者の交替﹂全体の観点からも意義を有するのであれば、その意義は、民法改正によって異議をとどめない承諾の制度が廃止されても、なお失われないことになろう。

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    同志社法学 六七巻七号一四六二九九四

2   貸 金 業 者 の 事 業 再 編 に お け る 過 払 金 の 扱 い と い う 側 面 か ら の 評 価

  続いて、過払金の扱いという側面から、譲受業者の悪意等についての具体的判断と、抗弁切断効が否定された場合の処理とに関し、述べておくこととする。

  第一点につき、本判決は、Yの悪意および過失の有無について審理をさせるために、原審への差戻しをした。本判決は、XA間の取引において一八条書面の交付がなかったことをYが知り得たかどうかを、差戻審において審理すべきであるとしている。少なくとも本判決の限りでは、最高裁は、前述の下級審裁判例にみられた妥当性に疑問の残る判断枠組みを採用しなかったということが指摘できる。また、原判決は、弁論の全趣旨や本件の債権譲渡当時における旧貸金業法四三条一項の適用の状況から、Yの悪意および重過失を否定していた。これと本判決とを比較すれば、本判決は、譲受業者の認識の対象に即した、より具体的な判断を要求したものと評することができる。本判決のみをもって一般論を語ることは困難であるものの、方向性としては妥当であろう。

  第二点につき、本件のような事案で抗弁切断効が否定されると、移転した貸金債権について債務者が譲受業者にした弁済は、不当利得として返還請求の対象になる ₄₃

。これはあくまでも、過払金の充当による移転した貸金債権の消滅等という抗弁の対抗の結果、譲受業者が債権額を超えて受領した弁済について返還が認められるものである。譲渡業者のもとで発生していた過払金返還債務などの過払金関係が承継されたものではない。本判決はこの返還についてまでは述べていないものの、このような返還を認めることは、過払金返還債務の承継に関する一連の最高裁判決との間で矛盾するものではない。

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    同志社法学 六七巻七号一四七二九九五

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参照

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