車両単独事故の分析と対策箇所の抽出に関する一考察
(独)土木研究所寒地土木研究所 正会員 ○武本 東 同 正会員 平澤 匡介 同 正会員 葛西 聡
1.はじめに
北海道は、全国と比べて、一度交通事故が発生した ときに死亡事故となる割合が高く、平成 20 年の全国 の死亡事故割合が 0.7%であるのに対し、同年の北海 道の死亡事故割合は 1.0%である。同年の北海道の死 亡事故割合を事故類型別にみると、路外逸脱(11.1%)
と工作物衝突(10.1%)が特に高い。
平成 21 年 1 月に、今後 10 年を目途に、全国の交通 事故死者数を 2,500 人以下とするという新たな政府 目標が掲げられ、今後も交通事故の削減と被害緩和が 求められる中で、そのための取り組みの一つとして、
死亡事故割合が高い事故類型に対して、効果的な対策 を行うことが挙げられる。そこで、本稿では、路外逸 脱と工作物衝突を対象として事故分析を行い、特に対 策が必要だと考えられる箇所の抽出を行った。
2.路外逸脱と工作物衝突の発生過程と対策方針 路外逸脱と工作物衝突は、車両単独事故(第 2 当事 者が歩行者及び車両等以外の事故)に含まれる事故類 型であり、車線を逸脱し、路外を走行後、工作物に衝 突したか否かにより分類される。これらの事故の対策 としては、大きく分けて、車線逸脱防止対策、衝突回 避対策、緩衝対策の 3 つが挙げられる。今後、これら の死亡事故をより削減させるためには、車線逸脱及び 衝突のリスクを減少させる対策と、衝突時の被害程度 を緩和させる対策を適切に組合せて行う必要がある。
これらの対策を行うことが効果的であると考えられ る箇所を抽出するために事故分析を行った。
3.路外逸脱と工作物衝突の事故分析 3.1.事故発生状況
事故分析の対象は、平成 10 年~19 年に北海道の一 般国道で発生した路外逸脱と工作物衝突による事故 の 3,013 件とした。それぞれの状況別の死亡事故割合 に着目し、二群の比率の差の検定を行った結果、直線 区間と比べて左カーブ区間の死亡事故割合が高く、有
意水準 5%で有意であることが確認できた(表-1)。
同様に、死亡事故割合が高くなる状況として、統計的 に 1%有意であることが確認できた状況は、平坦な区 間に比べ上り勾配区間、昼間に比べ夜間、冬期に比べ 夏期、凍結・積雪路面に比べ乾燥・湿潤路面が該当す ることが分かった。
表-1 路外逸脱と工作物衝突の事故発生状況 (H10~19 の北海道の一般国道を対象、N=3,013 件)
3.2.道路線形と事故発生頻度
死亡事故割合が高い夏期の事故データを対象とし て、道路線形と事故発生頻度の関係をより詳細に把握 するための分析を行った。その結果、平面線形につい ては、死傷事故、死亡事故ともに曲線半径が小さい区 間での発生件数が多く、単位延長あたりの事故件数も 同様の傾向を示した(図-1(a)(b))。曲線半径 300m 以下の区間では、単位延長あたりの事故件数が全体平 均を上回った。二群の比率の差の検定を行い、曲線半 径が 300mより大きい区間の単位延長あたりの事故件 数と比較した結果、統計的に 1%有意であることを確 認できた。
縦断勾配については、死傷事故、死亡事故ともに勾 配が緩やかな区間での発生件数が多いが、単位延長あ たりの事故件数は、急勾配となるほど多くなり、4%
キーワード 交通安全、路外逸脱、工作物衝突、事故分析
連絡先 〒062-8602 北海道札幌市豊平区平岸1条3丁目1番34号 (独)土木研究所寒地土木研究所 TEL:011-841-1738
死傷事故 死亡事故
件数(件) 件数(件) Z 検定結果
路外逸脱 882 111 13%
工作物衝突 2,131 300 14%
右カーブ 646 94 15%
左カーブ 506 83 16%
直線 1,859 234 13%
上り 300 65 22%
下り 502 75 15%
平坦 2,209 271 12%
昼間 1,555 177 11%
夜間 1,458 234 16%
夏期(4~10月) 1,870 295 16%
冬期(11~3月) 1,143 116 10%
乾燥路面 1,666 268 16%
湿潤路面 506 93 18%
凍結路面 719 46 6%
積雪路面 121 4 3%
死亡事故 割合
縦断 勾配 平面 線形
死亡事故割合の差の検定
有意差なし 1.09
右カーブと直線 1.27 左カーブと直線
2.23 上りと平坦
4.49 下りと平坦
1.62
路 面 状 態 昼 夜 季 節 事故 類型
4.37 3.73
有意差なし 5%有意 1%有意 有意差なし
有意差なし 1%有意 1%有意 1%有意 乾燥と湿潤
1.21 乾燥と凍結
6.42
土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
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以上または-4%以下の勾配区間で全体平均を上回っ た(図-1(c)(d))。二群の比率の差の検定を行い、勾 配が急な区間(-4%以下または 4%以上)と緩やかな 区間(-3.9%~3.9%)の単位延長あたりの事故件数 を比較した結果、1%有意であることを確認できた。
図-1 道路線形別の事故発生状況 3.3.道路線形と夜間事故
次に、昼夜別に、単位延長あたりの死亡事故件数が 平均を上回る道路線形を把握した。曲線半径について は、昼間の事故は、曲線半径 200m 以下の区間で平均 を上回ったのに対し、夜間の事故は曲線半径 300m 以 下の区間で平均を上回った(図-2)。縦断勾配につい ては、昼夜で差がなかった。
図-2 昼夜別単位延長あたりの死亡事故件数
3.4.冬期の降雪量と死亡事故割合
冬期の死亡事故割合が低下する原因として、降雪が 影響していることが考えられることから、道内の市町 村別に、年間降雪量と冬期の死亡事故割合の相関分析 を行った。対象とする市町村は、10 年間で 25 件以上 の死傷事故が発生した 20 市町村とし、年間降雪量の 値は、気象庁で観測される 1 年間の「降雪の合計」の 値を用いた。その結果、相関係数は-0.59 となり、年 間降雪量が多い市町村は、死亡事故割合が低い傾向が あることが分かった(図-3)。
図-3 年間降雪量と死亡事故割合 4.おわりに
本稿では、北海道において死亡事故割合が高い路外 逸脱事故と工作物衝突事故に着目し、事故分析を行う ことで、特に対策が必要だと考えられる箇所の抽出を 行った。道路線形に着目した分析の結果から、曲線半 径 300m以下の区間や縦断勾配が 4%より急な区間で は、単位延長あたりの死傷事故件数及び死亡事故件数 が多くなることが分かった。また、夜間の場合は、昼 間より緩やかな曲線半径においても、逸脱しやすい傾 向を確認できた。当該区間では、車線逸脱回避と衝突 時の緩衝を目的とした対策を優先的に行うことが望 ましいと考えられる。次に、降雪量が多い地域で冬期 の死亡事故割合が低い原因としては、降雪に伴う速度 低下と、事故の衝撃の前に路肩に堆雪された雪堤等に 衝突することによる緩衝効果が考えられる。速度抑制 対策や緩衝対策を適切に行うことにより、夏期におい ても死亡事故を削減できると考えられる。
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00
0 100 200 300 400 500
-8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 1 2 3 4 5 6 7 8 単位延長当り死傷事故件数 (件/km)
死傷事故件数(件)
縦断勾配(%)
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60
0 50 100 150 200 250 300 350
100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1800 2000以上 単位延長当り死傷事故件数 (件/km)
死傷事故件数(件)
曲線半径(m)
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20
0 10 20 30 40 50 60 70
100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1800 2000以上 単位延長当り死亡事故件数 (件/km)
死亡事故件数(件)
曲線半径(m)
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16
0 10 20 30 40 50 60 70
-8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 1 2 3 4 5 6 7 8 単位延長当り死亡事故件数 (件/km)
死亡事故件数(件)
縦断勾配(%)
(a)曲線半径別死傷事故件数
(b)曲線半径別死亡事故件数
(c)縦断勾配別死傷事故件数
(d)縦断勾配別死亡事故件数 全体平均 0.36件/km
全体平均 0.07件/km
全体平均 0.28件/km
全体平均 0.04件/km
0.000 0.020 0.040 0.060 0.080 0.100 0.120 0.140
100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1800 2000以上
単位延長当りの死亡事故件数 (件/km)
曲線半径(m)
系列1
系列2 全体平均
0.034件/km (夜間) 0.033件/km (昼間) 昼間
夜間
0%
10%
20%
30%
40%
0 200 400 600 800 1000 1200
死亡事故割合(%)
1年間の降雪の合計(H10~19の平均値)(cm)
釧路市
苫小牧市 網走市
白糠町 函館市 浦幌町 別海町
北見市 札幌市
日高町
恵庭市 斜里町
喜茂別町 上川町 芦別市
石狩市 旭川市
小樽市
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