水工学論文集, 第54巻, 2010年2月
流域の気候・地形・土壌・地質・土地利用が 河川の流況に与える影響
EFFECTS OF CLIMATE, TOPOGRAPHY, SOIL, GEOLOGY AND LAND USE ON FLOW REGIMES IN JAPANESE MOUNTAINOUS WATERSHEDS
横尾善之
1・沖大幹
2Yoshiyuki YOKOO and Taikan OKI
1正会員 博(工) 福島大学 共生システム理工学類 (〒960-1296 福島県福島市金谷川1) 2正会員 博(工) 東京大学 生産技術研究所 (〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1)
The present study investigated the effects of climate, topography, soil, geology, and land use on 95 days flow, 185 days flow, 275 days flow, and 355 days flow in order to explore which watershed characteristics affect on flow regimes in Japanese mountainous watersheds. The results showed (1) streamflow increases under high annual rainfall and humid climate especially with higher daily-rainfall variability; (2) higher reliefs, volcanic areas, white sand plateaus, and sedimentary plateaus increase 275 days flow and 355 days flow, whereas smaller reliefs decrease 275 days flow and 355 days flow; (3) a group of soils, classified as they have higher contribution to the recharge of ground water, increases streamflow, which tendency become clearer in the cases of 275 days flow and 355 days flow; (4) quaternary formations and volcanic rocks increase 275 days flow and 355 days flow; (5) paddy fields increase 95 days flow and 185 days flow, whereas farm lands increase 275 days flow and 355 days flow.
Key Words : streamflow, climate, geographic information, flow duration curve, Japan.
1.
序論流域の気候・地理条件から流況曲線を描く手法の 構築を著者らは目指している.このような研究の歴 史は長く,数種類の流域の気候・地理条件等から流 況曲線を描く方法に関する研究が1970年頃から始 ま っ て い る . 例 え ば ,
Singh
1),Mimikou and Kaemaki
2),Franchini and Suppo3),Crokeret al.
4),Castellarin et al.
5), 6)はその好例である.これらの研究 は,流域の気候・地理条件と流況曲線形状の関係に 基づいて流況曲線形状を推定しているが,それらの 関係が適用できる範囲についての言及が十分にでは なく,研究成果が適用可能な地域はそれぞれの研究 対象地域に限定されると考えるべきであろう.この問題に対処するには,流域の気候・地理条件 と流況曲線形状の関係を丁寧に解き明かし,それを 包括的に取りまとめる研究が必要と考えられる.こ れまで,河川の流況に対する気候の影響(例えば地 頭薗・竹下7),志水8),
Moliere et al.
9),Castellarin et al.
5),Sefton and Howarth
10),Mazvimavi et al.
11),Farmer et al.
12)),土壌の影響(例えばWard and Robinson
13) ,Soulsby et al.
14) ,Kim and Kaluarachchi
15),Sefton and Howarth
10)),地質の影響(例えば虫明ら16),
Holmes et al.
17),地頭薗・竹 下7),志水8),横尾・沖18)),地形の影響(例えば 志水10),Fennessey and Vogel
19)),土地利用の影響( 例 え ば
Kim and Kaluarachchi
15),Sefton and Howarth
10)),森林の影響(例えばBurt and Swank
20), 真 板 ・ 鈴 木21 ),Komatsu et al.
22),Sefton and
Howarth
10))が報告され,知見の集積が進んでいる.さらに,横尾・有働23)は,25種類の地理条件と流況 曲線形状の相関を調べ,地形,地質,土地利用の影 響を報告している.しかし,気候,地形,土壌,土 地利用と流況曲線形状の関係について包括的な説明 に成功した研究例はない.
そこで本研究は,横尾・沖18)が報告した流況曲線 形状と地質の関係を踏まえて,流域の気候・地形・
土壌・地質・土地利用と流況曲線形状の関係を包括 的に調べた.ただし,流況曲線全体の形状について 議論するではなく,豊水量・平水量・低水量・渇水 量に着目して整理した.横尾・有働23),LeBoutillier
and Waylen
24),Cigizoglu and Bayazit
25),Castellarin et
al.
26),Iacobellis27)などに示されている通り,流況曲 線全体の形状は数学的モデルを用いると4つ程度の 数少ないパラメータを調整することで再現すること ができるが,そのパラメータと流域の条件との間に 水工学論文集,第54巻,2010年2月有意な関係が見出し難いことが予備研究で確認され た.この結果を受けて豊水量・平水量・低水量・渇 水量と流域の気候・地形・土壌・地質・土地利用の 関係を調べた結果,降雨流出の物理過程を示唆する 有意な相関が数多く見出されたため,本論文はこれ を報告する.
2.方法
(1) 対象流域
本研究は,図-1に示した東海以西に位置する二川,
一庫,岩瀬,厚東川,緑川,椋梨,永瀬,野村,新 豊根,青蓮寺,下筌,椿山,鶴田,湯原の合計
14
の ダム流域を対象とした.これらは,データの欠測が ないこと,雪の影響が少ないと考えられること,人 間活動の影響が少ないと考えられる最上流のダム流 域であること,流域面積100km
2以上であることを 条件として選んだ流域である.日本の山地水源域の河川の豊水量・平水量・低水 量・渇水量と流域の気候・地形・土壌・地質・土地 利用の一般的な関係を明らかにすることを本研究は 目的としているため,雪の影響が少ないと考えられ る流域のみを対象とすることには問題が残る.しか し,積雪・融雪の影響の大きさが支配的になり,そ の他の条件の影響が見えなくなる可能性があるため,
雪の影響が大きいと考えられる流域は解析対象から 除いた.人間の影響が少ないと考えられるダム流域 を対象としたのも同様の理由による.流域面積が
100km
2以上の流域を対象としたのは,土地利用などの分布割合の有効数字の桁数をなるべく多くする ためである.
(2) 使用データ
対象流域の水文データは多目的ダム管理年報,気 象庁の気象データから,地理データは国土地理院の 数値地図情報から取得したものである.
流量データには,多目的ダム管理年報28), 29), 30)の
1990
年から1992
年のダム流入量を用いた.気温は気象庁が公開(
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/
index.php)している1990年から1992年の流域内の1
点の気温観測値を用いた.地理データは,国土交通 省の国土数値情報(http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/)が公 開しているファイル群(G04-56M
,G05-54M
,L03- 09M)から取得した.
(3) 気候条件の抽出
流域の気候条件を説明する特性値として,乾燥指 数および季節性指数を流域ごとに計算した.乾燥指 数DIは,Milly31)の次式で算出した.
/
DI = APET AP (1)
ここでAPET
は年間可能蒸発散量(mm/y)
,AP
は年間
降水量(mm/y)である.
季節性指数
SI
は,次式で算出した.mm mm
/
mmSI = ∆ P − ∆ PET P (2)
ここで,∆ P
mm,∆ PET
mm,P
mmはそれぞれ月平均
降水量の季節変動の振幅(mm/d),月平均可能蒸発散
量の季節変動の振幅(mm/d)
,月平均降水量の年間平
均 値(mm/d)
で あ る . 月 平 均 可 能 蒸 発 散 量 は ,
Thornthwaite
32)の可能蒸発散モデルに月平均気温の観測値を入力して計算した.これらの他,日降水量 および日可能蒸発散量の平均,合計,標準偏差も計 算して求めた.
(4) 地形条件の抽出
流域の地形特性を表現する指標として,河川長
(km),総河川長(km),最大標高(m),最小標高(m),
標高差
(m)
,流域面積(km
2)
,流域平均幅(km)
,形状 係数F,流域平均勾配,河川密度を求めた.本研究は,上記の地形特性に加えて,国土数値情 報に取りまとめられている地形情報も活用した.分 類は国土数値情報記載のものに従い,流域の地形を
40種類に分類して,その面積率を算出した.
図 -2 季 節 性 指 数 の 説 明 図 .
Pmm (mm/d) ,
PETmm(mm/d)はそれぞれ月平均の降水量お よ び 可 能 蒸 発 散 量 で あ り .
Pmm
∆ ,
PETmm
∆ ,Pmmはそれぞれ月平均降水量の季 節変動の振幅(mm/d),月平均可能蒸発散量 の季節変動の振幅(mm/d),月平均降水量の 年間平均値(mm/d)である.
0 2 4 6 8 10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
Time(month)
Pmm, PETmm(mm/d)
PET
mm∆ P
mm∆ P
mmP
mmPET
mm図-1 研究対象流域
0 500km
N
◆:14 study areas
◆
◆
◆◆
◆
◆
◆
◆
◆
◆ ◆
◆
JAPAN
130°E 140°E
30°N 40°N
35°N 45°N
135°E 145°E
◆
◆
0 500km
0 500km
N N
◆:14 study areas
◆
◆
◆◆
◆
◆
◆
◆
◆
◆ ◆
◆
JAPAN
130°E 140°E
30°N 40°N
35°N 45°N
135°E 145°E
◆
◆
(5) 土壌条件の抽出
国土数値情報の土壌分類データは,土壌を79種類 に分類されている.この分類に加えて,本研究は中 野33)の「地下水涵養に対する貢献度」による土壌分 類を拡張した横尾ら34)の分類に従い,土壌を
3
種類 に分類した.以上の分類にしたがって,それぞれの 流域内の面積率を算出した.(6) 地質の抽出
表層地質は,横尾・沖18)にならい,①表層地質の 大分類の名称による分類,②地質年代による分類,
③虫明ら16)による分類,④小葉竹・石原35)による分 類,⑤中野33)の分類を拡張した横尾ら34)の分類のそ れぞれに従って,面積率を算出した.
(7) 土地利用の抽出
土地利用は,横尾ら34)の分類によって11種類に分 類し,それぞれの流域内の面積率を算出した.
(8) 相関解析
流域の気候・地形・土壌・地質・土地利用に関す る特性値が河川の豊水量・平水量・低水量・渇水量 に与える影響を調べるため,両者の相関を調べた.
合計14流域を対象としたので,相関係数の5%有意 水準値および1%有意水準値はそれぞれ0.532,0.661 である.
5%
有意水準値を超える有意な相関係数が 得られた関係に基づいて考察した.なお,外れ値の 影響で相関係数が高くなったと視覚的に判断された 散布図は結果・考察から除外した.3.結果
(1) 気候の影響
図-3に,気候条件と豊水量・平水量・低水量・渇
水量の相関係数をまとめた.図中の点線および実線 はそれぞれ5%有意水準値0.532および1%有意水準値0.661
を示す.この図から,いずれの気候条件も,豊水量から渇水量に向けてその影響度が小さくなる ことが分かる.この結果は,渇水量については,気 候の影響のみではなく,様々な地理条縁が影響して いることを示していると解釈できる.これは,虫明 ら16)の研究成果とも整合する.
個別の気候条件の影響をみると,まず乾燥指数が 大きい流域では,豊水量・平水量・低水量が減少す るという関係が見出された.これは,
Farmer et al.
12) やYokooet al.
36)とも合致した結果である.また,降 水量の平均および標準偏差が大きい流域では,豊水 量,平水量,低水量が増加するという有意な関係が 見出された.これは志水8)やCastellarin et al.
5)と同様 の結果である.以上より,雨の多い湿潤な気候下にあり,日降水 量の変動が大きな流域ほど流量が大きくなると言え る.
(2) 地形の影響
図-4は,地形と豊水量・平水量・低水量・渇水量
の相関係数である.この図によると,最大標高およ び最大標高差が大きいほど河川の流量が全体的に増 えることがわかる.これは,標高が高いほど降水量 が増える傾向にあるという気候的な要因や,山体体 積の増加により河川の流量が増加する効果を反映し た結果と見ることができる.注目すべきは最大標高 差の影響が豊水量から渇水量に向かって増加してい 図-3 気候条件と河川流況の相関.P meanおよびP sdはそれぞれ年間平均降水量(mm/d) お よ び そ の 標 準 偏 差 (mm/d) を 示 す . 95th,185th,275th,355thはそれぞれ豊 水量,平水量,低水量,渇水量である.
図-5 地形と河川流況の相関.T1-01,03,06,07,
15,16はそれぞれ大起伏山地,小起伏山地,
中起伏火山地,小起伏火山地,シラス台地,
砂礫台地を示す.
図-4 地形と河川流況の相関.TCL,ELmax,ELD,
WA,MWはぞれぞれ総河川長,最大標高,最大 標 高 差 , 流 域 面 積 , 流 域 平 均 幅 を 示 す . 95th,185th,275th,355thは図-5と同様.
-1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00
95th 185th 275th 355th
DI P mean P sd
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00
95th 185th 275th 355th
TCL ELmax ELD WA MW
-1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00
95th 185th 275th 355th
T1-01 T1-03 T1-06 T1-07 T1-15 T1-16
ることである.換言すれば,最大標高差が流量を増 やすという傾向は流量が少ないときに顕著になるこ とを示している.
渇水量を増やす影響が顕著になるものとして,総 河川長,流域面積,流域平均幅があることもこの図 は示している.つまり,河川網が発達した幅広な形 状をした大きな流域では,渇水量が多いことを示し ている.流域面積の影響に関しては,
Castellarin et
al.
5)と同様の傾向である.図-5は,地形分類別の面積率と各流量の相関係数
である.この図から,大起伏山地が多く分布する流 域は,豊水量および平水量を増加させることがわか る.逆に,小起伏山地が多く分布する流域では,豊 水量・平水量・低水量・渇水量のすべてが減少する 傾向があることが分かる.この傾向は前述の図-4と も一致している.また,火山地・シラス台地・砂礫 台地が多く分布する流域では渇水量が増加する傾向 にあることも分かる.以上の地形の影響をまとめると,火山地,シラス 台地,砂礫台地が多く分布する流域では渇水量が大 きくなるが,小起伏山地が広がる流域では逆に低水 量,渇水量が減少すると言える.
(3) 土壌の影響
図-6は,土壌と河川流況の関係である.この図か
ら,層厚黒ボク土壌や黒ボク土壌が多く分布する流 域では,低水量や渇水量が多くなることが分かる.また,乾性褐色森林土壌(黄褐系)や乾性褐色森林 土壌(赤褐系)が多く分布する流域では,流量が少 ない傾向があり,その影響は豊水量・平水量・低水 量に顕著になることが分かる.逆に,褐色森林土壌,
黄色土壌は豊水量・平水量・低水量を増加させる傾 向があることも分かる.同じ森林土壌でもより詳し い種別によって河川流量の影響が全く異なる可能性 を示唆する結果である.また,細粒灰色低地土壌は,
河川流量を全体的に減少させることも分かる.
土壌の大分類を行っている中野33)の「地下水流出 涵養に対する貢献度」による土壌分類をさらに拡張 した横尾ら34)の土壌分類で分類した土壌の面積率の 影響をみると,「地下水流出涵養に対する貢献度」
が大きい流域ほど全体的に流量が増え,小さい流域 ほど全体的に流量が減少することがわかる.これは,
中野33)の分類に立脚した横尾ら34)の土壌分類が有効 であることを示す結果であると言える.
(4) 地質の影響
図-7は,河川流況への地質の影響を示している.
この図から,地質の影響は主に低水量・渇水量にあ らわれることが分かる.この低水量および渇水量に 着目すると,洪積世の地質,第四紀の地質,火山岩,
第四紀火山岩,「基底流出涵養に対する貢献度」が 大きい地質が多く分布する流域において増加するこ とが分かる.また,中野33)の「基底流出涵養に対す る貢献度」に基づく地質分類法を拡張した横尾ら34) の分類法において「基底流出涵養に対する貢献度」
が高いとされる地質が多く分布する流域でも低水量 および渇水量が増加することが確認できた.
地質の影響をまとめると,虫明ら16),小葉竹・石 原35),横尾ら34)のように年代および種類の両方を考 慮した地質分類によると,第四紀層または火山岩が 多く分布する流域では低水量および渇水量が多くな る傾向があると言える.
図 -6 土 壌 と 河 川 流 況 の 相 関 .S1-12 , 13 , 22 , 23,25,36,40はそれぞれ厚層黒ボク土壌,
黒ボク土壌,乾性褐色森林土壌(黄褐系),
乾性褐色森林土壌(赤褐系),褐色森林土 壌,黄色土壌,細粒灰色低地土壌の面積率を 示す.S3-1,3はそれぞれ横尾ら34)の分類に 従って分類した土壌の面積率を示す.
図-7 地質と河川流況の相関.D,Q,V,Vq,GTAは それぞれ洪積世の地質,第四紀の地質,火山 岩,第四紀火山岩,横尾ら34)に従って「基底 流出涵養に対する貢献度」が大きい地質の面 積率を示す.
-1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00
95th 185th 275th 355th
S1-12 S1-13 S1-22 S1-23 S1-25 S1-36 S1-40 S3-1 S3-3
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00
95th 185th 275th 355th
D Q V Vq GTA
図 -8 土 地 利 用 と 河 川 流 況 の 相 関 . LU1 お よ び LU2&LU3&LU4はそれぞれ水田および畑の面積 率を示す.
-1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00
95th 185th 275th 355th
LU1 LU2&LU3&LU4
(5) 土地利用の影響
図-8は,土地利用が河川流況に与える影響を示し
ている.この図より,水田が多いほど豊水量および 平水量を減る傾向があることが分かる.水田による 水利用の影響があらわれている可能性がある.また,畑が多いほど低水量および渇水量が増加する傾向も 見出された.この結果から,研究対象のダム流域で は,水田よりも畑の水利用の方が渇水量に貢献する 可能性があると解釈することができる.
土地利用に関する結果を総合すると,水田と畑の 河川流量への影響は正反対であると言える.つまり,
ダム流域においては,水田は水を消費するが,畑は 地下水を涵養して低水量および渇水量を増加させる 効果がある可能性を示している.
4.考察
本研究は,河川の流況を決定付ける流域条件を総 合的に把握することを目的とし,雪の影響が少ない 地域のダム流域の気候・地形・土壌・地質・土地利 用と豊水量・平水量・低水量・渇水量の関係を調べ,
数多くの有意な関係を見出した.
しかしながら,得られた関係を他の流域に直ちに あてはめるには問題が未だ多い.これは,対象流域 の特殊性に由来する問題である.西日本に位置する 雪の影響が少ないダム流域を流域選択の条件とした ため,互いに気候・地理条件が類似した流域を対象 とすることになった.このため,得られた関係は地 域性の高い関係であると判断せざるを得ない.
本研究で得られた関係の中から,世界のどの流域 にもあてはまる関係を見出すことができれば,気 候・地理条件に基づいた河川流量の推定への応用が 期待できる.それには,国外を含めて多様な流域の データを収集する必要があるが,問題は日本のよう なデータに恵まれた環境が稀であることにある.そ こで,日本国内での対象範囲を広げるとともに,よ り少なく簡単な気候・地理条件から河川流量を推定 する方法も同時に検討しなければならない.それに は,今回得られた成果を,豊水量・平水量・低水 量・渇水量への影響度に応じて,順位付けすること も必要であると言える.
ダム流域の土地利用の多くは森林である.しかし,
この森林自体の情報はあるものの,樹種,樹齢,樹 林密度など,より詳細な情報は全国的な整備の途上 にあるようである.これらの影響について考察する ことも本研究には必要であると言える.
5.結論
本研究は,河川の流況を決定付ける流域条件を総 合的に把握することを目的として,流域の気候・地 形・土壌・地質・土地利用と河川流況の関係を調べ た.得られた結果を以下にまとめる.
• 雨の多い湿潤な気候下で,日降水量の変動が 大きな流域ほど流量が大きくなる.
• 大起伏,火山性地,シラス台地,砂礫台地が 多く分布する流域では低水量や渇水量が大き くなるが,小起伏山地が広がる流域では逆に 低水量や渇水量が減少する.
• 中野33)に基づく横尾ら34)の「地下水流出涵養に 対する貢献度」が大きい土壌が多い流域は流 量を増加させる効果が高く,その効果は流量 が少ないときにより顕著となる.一方,「貢 献度」が小さい土壌が多く分布する流域では,
流量が全体的に少なくなる.
• 第四紀層や火山岩の多い流域で低水量や渇水 量が多い.
• 水田は豊水量・平水量を減少させ,畑は低水 量・渇水量を増加させる.
今後は,日本国内の対象流域を広げて検証を行う とともに,国外の流域での適用性についても検討を 行い,気候条件が大きく異なる流域において同様の 研究を進める必要がある.
謝辞:本論文は,東京大学総括プロジェクト機構「水の
知」(サントリー)総括寄付講座,科学研究費補助金(若 手研究B,21760381)の成果の一部である.水文および 地理情報の取得には,国土交通省,水資源機構,各地 方自治体のダム管理事務所の協力を得た.ここに謝意 を表す.参考文献
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(2009.9.30受付)