• 検索結果がありません。

茨城県の黒ボク土ナシ園における堆肥施用および施肥改善が地下水・土壌・大気環境に及ぼす影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "茨城県の黒ボク土ナシ園における堆肥施用および施肥改善が地下水・土壌・大気環境に及ぼす影響"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

氏 名 学位(専攻分野の名称) 博 士(農芸化学) 学 位 記 番 号 乙 第 910 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 28 年 2 月 20 日 学 位 論 文 題 目 茨城県の黒ボク土ナシ園における堆肥施用および施肥改善が 地下水・土壌・大気環境に及ぼす影響 論 文 審 査 委 員 主査 教 授・農 学 博 士 前 田 良 之 教 授・博士(農学) 樋 口 恭 子 教 授・博士(農学) 小 塩 海 平 農 学 博 士 小 川 吉 雄* 名誉教授・農 学 博 士 後 藤 逸 男 論 文 内 容 の 要 旨 1. はじめに 茨城県は,販売農家戸数や農業就業人口が全国で最も 多く,わが国の農業において重要な地位を占めている。 本県の農耕地 174,000ha のうち樹園地を含む畑地は 74,000ha で,その 82% は標高 15∼50m の台地に分布 し黒ボク土壌群で占められている。本県の農業産出額は 4,356 億円(平成 25 年)と,北海道に次いで多い。そ の内訳は,園芸(イモ類,野菜,果実,花き : 2,244 億 円)が 52%,畜産が 26%,米が 20% である。園芸部門 のうち,果実の産出額は 134 億円であり,主な品目はニ ホンナシ(学名 Pyrus pyrifolia Nakai)(以下,ナシ, 73 億円)である。一方,本県の畜産の産出額は,全国 5 位で,各畜種の飼養頭羽数が多く,それに伴う家畜糞堆 肥(以下,堆肥)の生産量も多い。 一般的に施肥量が多いナシ栽培地域では,浅層地下水 の硝酸態窒素濃度が高いことが指摘されている。また, 農水省が定めた「地力増進基本指針」の基づき,堆肥等 の有機物施用が土づくりのために推奨され,これまでナ シ農家の多くで利用されてきた。しかし,堆肥中の肥料 成分は施肥設計に考慮されていない場合が多い。 農地が面として拡がりをもっているため,肥培管理に 由来する環境負荷の汚染源を特定することは難しい。し かし,今後環境と調和した農業を推進するためには,農 業サイドから自発的な環境負荷削減対策を講じる必要が ある。具体的には,作物の養分吸収量に応じた効率的な 施肥法や有機物由来の肥料成分を考慮した施肥法など, 環境保全のための適切な土壌管理方法の開発が望まれて いる。 そこで本研究では,ナシ園の施肥および堆肥施用が環 境に及ぼす影響について主に窒素と炭素の動態から,1. ナシ園の施肥,土壌および地下水水質の実態調査と本県 のナシ園で慣行的な施肥方法である化学肥料と堆肥の併 用が硝酸態窒素の溶脱や温室効果ガスである二酸化炭素 および一酸化二窒素の発生に及ぼす影響,2.作物生産 と環境に配慮した施肥法として堆肥の窒素肥効を考慮し た施肥法が,生育,窒素吸収量および窒素収支の改善, 土壌の炭素蓄積または維持,温室効果ガス発生に及ぼす 効果,3.黒ボク土ナシ園の樹体炭素蓄積量の推定によ るナシ園の温室効果ガス吸収源機能の観点から明らかに し,施肥の一部を堆肥で代替する新規施肥法を確立し た。 2. ナシ園における施肥管理および土壌,地下水水質の 実態解析 2003 年に本県の県央地域を対象にナシ園(19 園,農 家 17 戸)の施肥実態を調査し,施肥が地表から 300cm までの深さにある浅層地下水に及ぼす影響について検討 した。 調査農家において,本県のナシの施肥基準量(1ha 当たり窒素 200kg,リン酸 160kg,カリ 160kg)より も過剰な施肥をしていた農家の割合は,窒素,リン酸, カリそれぞれ 73%,100%,80% であった。また,調査 農家の 87% は堆肥を利用していたが,いずれの農家も 堆肥中の窒素成分を施肥として評価していなかった。次 に,施肥がナシ園の土壌および地下水に及ぼす影響を検 討した。窒素施肥量と浅層地下水に含有される硝酸態窒 素濃度との関係は明確ではなかったが,土壌中の硝酸態 窒素濃度は地表から深さ 100cm までの範囲において下 *鯉淵学園農業栄養専門学校 教授

(2)

層ほど高い値を示し,ナシ園直下の浅層地下水の硝酸態 窒素濃度は 20.7∼256.0mg L−1の範囲で調査したナシ 園すべてにおいて環境基準値(硝酸態窒素と亜硝酸態窒 素の合計 : 10mg L-1)を超過していた。 3. 堆肥施用および施肥改善がナシ園のナシ生育と果実 品質,ならびに窒素出納に及ぼす影響 (1)施肥および堆肥連用がナシ園土壌における硝酸態窒 素の溶脱に及ぼす影響 農家における施肥実態調査において,施肥および堆肥 由来の窒素がナシ園の浅層地下水の硝酸態窒素濃度に影 響する可能性が示唆された。そこで,本県のナシ園にお ける慣行的な施肥方法が硝酸態窒素の溶脱に及ぼす影響 を明らかにするため,茨城県施肥基準量を化学肥料によ り施用した化学肥料区と,県施肥基準量に堆肥を上乗せ 施用した慣行区を設け,ナシ栽培ライシメーターを用い て調査した。ライシメーターは黒ボク土を充填したコン クリート製の枠(縦 2.25m,横 2.25m,深さ 2m)であ り,下端から排出された浸透水のすべてを 300L 容のタ ンクに受け,約 2 週間毎に量水計による水量の計測と浸 透水中の硝酸態窒素濃度を測定した。2004∼2012 年の 9 年間ナシを栽培した結果,収量,生育,果実品質は,施 肥処理に関わらず差異はなく同水準であった。試験期間 中の浸透水の硝酸態窒素濃度は,化学肥料区が 0.0∼3.9 mg L−1の範囲で推移し,平均 0.4mg L−1であった。一 方,慣行区では,化学肥料区と比較して 2006 年 11 月ま で概ね同様に推移したが,12 月以降は 0.6∼45.2mg L−1の範囲で高く推移し,2011 年まで増加傾向を示し た。浸透水の硝酸態窒素濃度に浸透水量を乗じて硝酸態 窒素溶脱量を算出した結果,調査期間の合計値は化学肥 料区 12kg-N ha−1に対し,慣行区で 781kg-N ha−1 著しく高く,化学肥料と堆肥の併用によって硝酸態窒素 の溶脱量が著しく増加し,堆肥施用を継続することによ り堆肥由来の窒素の溶脱量が増加することが明らかと なった。 (2)堆肥の窒素肥効を考慮した施肥法の窒素収支改善効 果 ナシ栽培ライシメーター試験において,施肥および堆 肥由来の窒素が硝酸態窒素溶脱量の増加に強く影響する ことがわかった。そこで,ナシ農家の慣行的な施肥法 (慣行区)によって硝酸態窒素の溶脱パターンにどのよ うな影響を及ぼすか,また本研究で設定した堆肥の窒素 肥効を考慮した新規施肥法(代替区 : 化学肥料の一部を 堆肥で代替)がナシの生育と窒素吸収量および窒素収支 の改善に及ぼす効果を圃場レベルで明らかにするため, 化学肥料区(県施肥基準量を化学肥料で施用)を対照と し,黒ボク土ナシ園における窒素動態を 2004 年∼2012 年の 9 年間継続調査した。その結果,ナシの収量,生 育,果実品質は施肥処理に関わらず同水準であり,ナシ 樹体地上部の窒素吸収量は年間 135kg ha−1程度と推定 できた。また施用した堆肥中の全窒素含量のうち,施用 当年および翌年以降の無機化パターンを明らかにするた め,供試堆肥を圃場に 2 年間埋設して一カ月毎の堆肥中 の窒素残存量を測定した。この測定値を内田のモデル式 (有機物は分解速度の異なる 3 つの画分から構成される とし,各画分は毎年一定の割合で分解すると仮定)に当 てはめて,堆肥施用後の期間別の窒素残存率の予測式 y =0.37×0.01t+0.51×0.63t+0.12×0.955t(t : 年)を得 た。この式に従って堆肥施用後の各年の窒素残存率を算 出し,(100−窒素残存率 %)を窒素無機化率として求 めた。その結果,堆肥施用後 1∼9 年目の窒素無機化率 はそれぞれ 56.2,12.7,7.9,5.2,3.4,2.3,1.6,1.1, 0.8% と推定された。堆肥連用 2 年目の堆肥の窒素無機 化量は,当年に施用した堆肥中窒素の 56.2% と前年に 施用した堆肥中窒素の 12.7% の積算量となり,数年間 堆肥を連用することにより堆肥に含有される全窒素は, 見かけ上,各施用当年に大部分無機化すると推定され た。従って,年間の窒素 200kg ha−1を硫安のみで施用 した化学肥料区に比べて,堆肥由来の窒素量を加算した 総窒素施用量が年間 150∼300kg 程度多い慣行区では, 施用 4 年目以降,無機化の進行によって深さ 1m まで のナシ園土壌中の硝酸態窒素濃度は高まり,その結果, 全期間の硝酸態窒素溶脱量が著しく増加した。さらに, 9 年間の窒素収支を見ると,化学肥料区に対し総窒素施 用量の多い慣行区の硝酸態窒素溶脱量は,ナシによる窒 素吸収量が処理区間で同等であったことから,化学肥料 区と比べて 730kg ha−1増加した。一方,堆肥の窒素肥 効を考慮した代替区では化学肥料区に比べて硝酸態窒素 溶脱量を 62kg ha−1少なくすることができた。このよ うに,総窒素施用量を窒素吸収に見合った量に適正化し て施用することは,窒素収支を改善して地下水への窒素 負荷を低減することに非常に有効であることを明らかに した。 4. 堆肥施用および施肥改善が土壌環境に及ぼす影響 (1)堆肥の窒素肥効を考慮した施肥法が土壌炭素蓄積に 及ぼす影響 長期間の土壌への有機物施用は土壌の全炭素含量を高 めることが報告されており(井上ら,2012 ; 中津・田村, 2008),炭素を土壌中に蓄積することによる温暖化緩和

(3)

技術として期待されている。そこで,本県のナシ園で慣 行的な施肥方法(慣行区),および堆肥の窒素肥効を考 慮した新規施肥法(代替区)が土壌表層 0∼20cm の全 炭素含量に及ぼす影響について検討した。その結果,10 年間堆肥を連用しても土壌中の全炭素含量は有意に変化 せず,土壌への蓄積は認められなかった。 (2)ナシ園における樹体の炭素蓄積量の推定 果樹園では光合成により大気から吸収した二酸化炭素 を有機物として固定し,一定期間蓄積する機能を有す る。しかし,日本国温室効果ガスインベントリ報告書 (2014)では,樹体生長による炭素蓄積は見込まれない という理由で樹園地の炭素蓄積をゼロとしている。ま た,樹園地(樹園地へ転用された土地を含む)の樹体の 生長量も計上していない。すなわち,樹園地の炭素蓄積 能を過小評価している可能性が十分考えられる。そこ で,果樹園における樹体を温室効果ガス吸収源として評 価するための基礎資料を得るため,本研究で設定した黒 ボク土ナシ園における樹齢別樹体炭素量を調査した。供 試樹として,2010 年に樹齢 2 年生,7 年生,14 年生, 19 年生,22 年生をそれぞれ 3 樹ずつ用いた。樹齢の異 なる各供試樹において,2010∼2013 年の各年の地上部 (主幹・主枝・配置枝)重量と新生器官(新梢・葉・果 実)重量を後述の方法により測定した。すなわち,主幹 および主枝の重量は,円錐台近似モデルとして枝の基部 および先端直径と枝の長さから体積を求め,これに近接 樹から採取した試料から求めた単位体積当たりの重量 (1.02g cm−3)を乗じて算出した。配置枝および新梢の 重量は,剪定前後の枝長の差と剪定枝重量から単位長さ 当たりの重量を求め,それぞれの枝長に乗じて算出し た。また,黒ボク土で栽培されたナシ「幸水」におい て,葉枚数は側枝密度と正の相関が認められている(長 野県,茨城県,埼玉県,2003)ことを考慮し,本研究で は,供試樹の樹冠面積当たりの側枝密度を果樹栽培基準 (茨城県農業総合センター,2008)に従い一定に配置し, 樹冠面積から葉枚数の推定を試みた。すなわち,近接樹 (樹齢 9,15,23 年生「幸水」,各 3 反復)を供試し, 2012 年 7 月にすべての葉枚数と樹冠面積を計測し,葉 枚数(y)と樹冠面積(x)の関連を単回帰分析した。 得られた回帰式(y=1674.3x−12647,R2=0.946)を用 い,供試樹の樹冠面積から供試樹の葉枚数を推定した。 1 樹当たりの葉重は,平均的な葉 100 枚から求めた葉 1 枚当たりの重量を葉枚数に乗じて求めた。果実重量は, 8∼9 月に収穫した全果実の重量を測定した。これらの 重量に,各器官の水分率と炭素含有率を乗じて樹体地上 部の炭素含量を求めた。地下部乾物重は,小豆沢ら (1983)によるニホンナシ樹体乾物重量の地上部に対す る地下部割合の推定値 0.27 を採用し,地上部乾物重量 に乗じて求めた。地下部の炭素含量は,日本国温室効果 ガスインベントリ報告書(2014)に示された森林の生体 バイオマスの炭素含有率 0.5 を用いて推定した。その結 果,これまでの報告とは大きく異なり,一樹当たりの炭 素蓄積量は樹齢とともに増加する傾向にあり,高い精度 で蓄積量を推定できることが初めて示された。すなわ ち,実測値および推定式により求めた樹齢別の樹体の炭 素蓄積量に栽植密度(10 年生まで 770 樹 ha−1,11 年 生以降 380 樹 ha−1)を乗じて求めたナシ園の樹体の炭 素蓄積の変化量は,年間 1.36Mg-C ha−1増加し,全国 のニホンナシ栽培面積は 13,200ha(農林水産省,2014) であることから,栽培面積に増減がなく既存園を継続す ると仮定した場合,樹体バイオマスとして年間 1.8 万 Mg もの炭素が蓄積されると推定できた。 5. 堆肥施用および施肥改善が大気環境に及ぼす影響 (1)堆肥の窒素肥効を考慮した施肥法が二酸化炭素発生 に及ぼす影響 長期間の有機物施用は土壌の全炭素含量を高めること が報告されているが,本県のナシ園で慣行的に行われて いる施肥法(慣行区)および堆肥に含有される窒素肥効 を考慮した新規施肥法(代替区)では,いずれも土壌へ の炭素蓄積は認められなかった。その要因として,堆肥 由来の炭素施用量と土壌からの二酸化炭素(以下, CO2)発生量が釣合っていることが考えられる。そこ で,施肥法が地表から発生する CO2発生量に及ぼす影 響について検討した。CO2発生速度は,クローズド チャンバー法(八木,1997)で測定した。ガス測定は, おおむね午前 8 時から午前 10 時までの間に行い,3 月 から 11 月は週に 1 回,特に堆肥および施肥直後は週に 2 回の頻度とした。主幹から約 50cm 離れた位置に塩化 ビニル樹脂製の円筒(直径 25cm×高さ 10cm)を 5cm 程度埋まるように設置(各区 3 反復)し,以後これを台 座とした。測定時には,塩化ビニル樹脂製のチャンバー (直径 25cm×高さ 5cm)を装着して密閉し,継時的に チャンバー内のガス濃度を計測した。また,年間の積算 発生量は台形法で算出した。その結果,年間 CO2発生 量は化学肥料区の 4.9±0.4Mg-C ha−1に対し,代替区 で は 7.1±1.1Mg-C ha−1,慣 行 区 で は 9.0±0.8Mg-C ha−1と,年間の炭素施用量が多いほど発生量は高まっ た。堆肥連続施用 9∼10 年目において,堆肥由来の CO2 発生量は年間の炭素施用量とほぼ同等であり,見かけ 上,炭素の施用量と発生量が平衡状態にあることが明ら

(4)

かとなった。従って,土壌の炭素含量が比較的高い本試 験圃場においては,堆肥を施用しても土壌への炭素が蓄 積しないことが明らかとなった。 (2)堆肥の窒素肥効を考慮した施肥法が一酸化二窒素発 生に及ぼす影響 農耕地から排出される温室効果ガスは,CO2に次い で一酸化二窒素(以下,N2O)が多い。土壌からの N2O 発生量は,窒素施肥量や地温,土壌含有水分に影響され ることが明らかになっているが,作物や土壌の種類,有 機物施用による影響は十分に検討されていない。そこ で,慣行的な施肥法(慣行区),および堆肥の窒素肥効 を考慮した新規施肥法(代替区)が N2O 発生量にどの ような影響を及ぼすかを検討した。N2O 発生速度は, CO2測定と同様に,クローズドチャンバー法(八木, 1997)で測定し,年間の積算発生量は台形法で算出し た。その結果,9∼10 年の堆肥連用条件における年間 N2O 発生量は,慣行区 3.14∼3.55kg-N ha−1,代替区 1.24∼1.35kg-N ha−1,化学肥料区 1.33∼1.52kg-N ha−1 無窒素区 0.14∼0.22kg-N ha−1であり,土壌への総窒素 施用量が高まるほど増加した。従って,窒素施肥に伴う N2O 発生を低減するためには,堆肥に含有する窒素肥 効も考慮する必要があることが明らかとなった。 6. 総 括 茨城県のナシ園では,県施肥基準量と比較して過剰な 施肥が行われ,同時に有機物として施用している堆肥中 の肥料成分は施肥成分に全く考慮されていなかった。先 ず,このような慣行的な施肥法(慣行区)と県施肥基準 量による栽培(化学肥料区)を,ナシ生産性と環境負荷 に及ぼす影響から比較検討した。その結果,生産性は同 等であった。また,堆肥施用による土壌中の炭素含有量 の増加も明確でなく,地表から発生する CO2は施用堆 肥の炭素施用量に応じて増加した。これらのことから, 今後土壌への堆肥施用量を増加させても炭素の蓄積効果 は期待できないものと考えられる。一方,地下水への硝 酸態窒素溶脱量や大気への N2O 発生量が顕著に増加し, 地下水や大気環境への負荷が高まった。この現象は,堆 肥由来の窒素量が上乗せされ土壌内の硝酸態窒素量が多 くなった結果と考えられ,堆肥等の有機物に含有される 窒素を十分に考慮した総窒素施用量に基づく施肥設計が 必要であることが実際に証明された。 次に,堆肥中の窒素肥効を考慮した新規施肥法(代替 区)によるナシ生産性と環境負荷を検討した。その結 果,生産性はこれまでの慣行方法と同等で,土壌炭素の 増減は認められなかった。従って,堆肥由来の炭素量 (年間 1.3Mg-C ha−1程度)は,黒ボク土ナシ園におけ る土壌炭素を維持できる量と判断された。また,大気へ の N2O 発生量に変化はみられず,地下水への硝酸態窒 素溶脱量は著しく低下した。このように,堆肥中の窒素 の肥効を考慮した新規施肥法は,窒素収支を改善し,地 下水への窒素負荷を低減し,大気への温室効果ガスを増 加させることなく有機物を施用する方法として有効であ ることが実証できた。 樹園地土壌における炭素蓄積量は,果樹が永年性作物 であることから,樹体を含めて捉える必要がある。そこ で,生長に伴う樹体の炭素蓄積をモデル化し,ナシ園の 炭素蓄積量を推定した。その結果,一樹当たりの炭素蓄 積量は樹齢に応じて増加する傾向にあった。また,一樹 当たりの炭素蓄積量に栽植密度を乗じてナシ園の樹体の 炭素蓄積の変化量を求めた結果,年間 1.39Mg-C ha−1 増加すると推定できた。日本の森林が固定する平均的な 炭素量は,1 齢級(1∼5 年生),2 齢級(6∼10 年生),3 齢級(11∼15 年生),4 齢級(16∼20 年生),5 齢級(21 ∼25 年生)について,スギ人工林でそれぞれ 0,2,18, 34,41Mg-C ha−1,広葉樹天然林でそれぞれ 2,15, 21,28,32Mg-C ha−1とされている(森林総合研究所, 2014)。ナシ園の樹体炭素量は,樹齢 6∼10 年のスギ人 工林の値を上回り,11∼25 年で同等かやや低い値で あった。これらのことから,これまで注目されていな かったナシ園が森林と同様に温室効果ガスの吸収源とし て十分に機能することが明らかになった。そのため,ナ シ園を適切に管理し,栽培面積を新たに増やすことが温 暖化緩和に大いに寄与すると考えられる。 以上のことから,黒ボク土ナシ園における堆肥含有窒 素の肥効を考慮した新規施肥法は,ナシの生産性を維持 しつつナシ園の窒素収支を改善し,土壌炭素および温室 効果ガス排出の維持に効果的である。また,ナシ園も森 林と同様の温室効果ガス吸収源機能を有することが初め て明らかになった。 本研究で確立した「施肥量の一部を堆肥で代替する施 肥法」は,平成 24 年の茨城県主要研究成果として採用 された。また,ナシ栽培における基本技術の一つとして 果樹栽培基準に記載された。さらに,普及センターと連 携して本施肥法の現地実証圃の設置や講習会を実施して 生産現場への普及を図った。その結果,県内の先進農家 の多くで取り組まれ,環境にやさしいナシ栽培方法とし て拡がりつつある。 本施肥法の普及においては,堆肥の品質を安定させ, 耕種農家が安心して利用できる堆肥を生産することが重 要である。そのために,畜産農家,耕種農家および指導

(5)

機関それぞれが,堆肥を「土づくり効果を持った肥料」 として位置づけて,堆肥の肥料効果について共通認識を 持つことが必要である。 審 査 報 告 概 要 本研究は茨城県ナシ園の施肥および堆肥施用が環境に 及ぼす影響について(1)施肥体系,土壌,地下水水質 の実態調査(2)慣行的施肥法(化学肥料と堆肥の併用) が硝酸態窒素の溶脱,二酸化炭素と一酸化二窒素の発生 に及ぼす影響(3)堆肥の窒素肥効を考慮した新規施肥 法が,ナシの生育,窒素の吸収量と収支,炭素の土壌蓄 積,温室効果ガス発生に及ぼす影響(4)樹体炭素蓄積 量の推定によるナシ園の温室効果ガス吸収源機能から検 討した。その結果,新規施肥法はナシ生産性を維持し, ナシ園の窒素収支を改善し,温室効果ガス排出抑制に効 果的であり,生産と環境に配慮した施肥法であること, ナシ園に温室効果ガス吸収源機能があることを初めて明 らかにした。本研究における施肥の一部を堆肥で代替す る新規施肥法の確立と現場への普及効果を高く評価し た。 よって,審査員一同は博士(農芸化学)の学位を授与 する価値があると判断した。

参照

関連したドキュメント

このような環境要素は一っの土地の構成要素になるが︑同時に他の上地をも流動し︑又は他の上地にあるそれらと

発電機構成部品 より発生する熱の 冷却媒体として用 いる水素ガスや起 動・停止時の置換 用等で用いられる

「二酸化窒素に係る環境基準について」(昭和 53 年、環境庁告示第 38 号)に規定する方法のう ちオゾンを用いる化学発光法に基づく自動測

二酸化窒素については、 「二酸化窒素の人の健康影響に係る判定条件等について」 (中 央公害対策審議会、昭和 53 年3月 22

環境基本法及びダイオキシン類対策特別措置法において、土壌の汚染に係る環境基 準は表 8.4-7 及び表 8.4-8

2-2 に示す位置及び大湊側の埋戻土層にて実施するとしていた。図 2-1

IMOでは、船舶からの窒素酸化物(NOx)及び硫黄酸化物(SOx)の

環境影響評価書で区分した地域を特徴づける生態系を図 5-1-1 及び図 5-1-2