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天然抗酸化物質クエルセチンの次亜塩素酸による酸化反応と生成物 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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(1)

酸化反応と生成物

Oxidation Reaction and Products of Antioxidative Flavonoid Quercetin

with Hypochlorous Acid

廣 瀬 裕 子  眞 野 い ず 美  杉 原 知 香  内 山 久 実

Yuko Hirose  Izumi Mano  Tomoka Sugihara  Kumi Uchiyama

1 緒 言

 食品は、生命活動に必要なエネルギーや生体組織を形成するために必須の物質(栄養素)を供給す る一次機能ばかりでなく、嗜好的な機能や生体調節機能をもたらすことが期待されている1, 2)。ヒト をはじめとする好気性生物は空気中の酸素を吸入することにより命を保っているが、酸素は一方では からだをむしばみ、脳血管疾患、心疾患、高血圧症、糖尿病、肥満、ガンなどのあらゆる疾病の原因 になっていることがわかってきた3)。当然、生命体は酸素の害に対する防御の機能を構築し、酸素の 害から身を守っているが、加齢と共にその機能は低下する。そこで、食事成分として酸素の害を軽減 する物質(抗酸化物質)を摂取することは酸化ストレスから身を守るためには有効な手段である4) 酸化ストレス軽減効果を示す食品の生体調節因子の一つとして、ポリフェノールに注目が集まってい る。自然界では植物が二次代謝産物として産生し、紫外線のエネルギーによる障害や、病害虫、菌か ら身を守りあるいは、他感作用(アレロパシー)などの機能を持つ化合物群である。フェノール構造 の多様性に加えて、多くの場合は糖が一つまたは複数個結合した配糖体の形で存在するためその種類 は270万種類にのぼると見積もられているが、植物性食品に普遍的に含まれ、機能性研究がもっとも 進んでいるのがフラボノイド類である。その機能は抗酸化能とタンパク質機能調節作用である5, 6, 7, 8)。  試験管内での実験では、抗酸化活性は水酸基の数に比例し、特にカテコール構造を有するフラボノ イドは強い抗酸化活性を示すことが多数報告されている9)。その代表的なフラボノイドがクエルセチ ン(1)である。1はB環がカテコール構造であり、全結合が共役二重結合であるので、すべての水 酸基が還元因子を放出しやすく、顕著な抗酸化活性を示し、様々な疾病予防に役立つといわれている6, 7)。しかし、抗酸化活性と疾病予防の効果を直接的に証明した報告は、ほとんど見られない。抗酸化 物質が活性酸素等の攻撃からタンパク質、脂質などを防御するためにはいち早く自身が活性酸素と反 応し、酸化生成物に変換されると考えられる。従って、抗酸化物質の酸化生成物をマーカーにすれば 生体内での抗酸化反応を確認することができる。本研究では、白血球が体外から侵入した細菌を攻撃 するために、ミエロペルオキシダーゼなどの酵素によって生成する活性酸素の一つである次亜塩素イ オン(ClO-)に対するクエルセチンの捕捉反応について検討した。細菌に対する免疫反応において 白血球は過剰な次亜塩素酸イオンを生産するため、周辺の組織には炎症が起こり、時にはこれが引き 金となって、活性酸素が原因とされる各種疾病が誘発される。従って、生体内で必要以上に生産され た次亜塩素酸イオンを的確に捕捉することも抗酸化物質に期待されている10)  Schaffer11)らは、心疾患などの因子の一つである酸化LDLの生成に、生体内で発生する次亜塩素 酸が関わっており、これらの予防にポリフェノールを含む植物性食品を摂取すると効果的であると 報告している。Boersmaらは、イソフラボンに次亜塩素酸イオン捕捉効果があると報告している12)

(2)

Binsakらは、1と次亜塩素酸イオンを反応させ、クロル化したクエルセチンを分離・構造決定し、1 より強い抗酸化活性を示すことを報告している13)。本研究では、Binsakらの報告に加えて1の新たな 酸化生成物を分離し、その構造および抗酸化活性を検討したので報告する。

2 実 験

2・1 試薬  クエルセチン(1)および1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)は シグマ・アルドリッチジャ パン(東京)から、次亜塩素酸ナトリウム溶液および濃塩酸(特級)は関東化学(東京)からそれぞ れ購入した。その他の一般試薬および溶媒は、市販特級品を使用した。メタノールは使用直前に蒸留 して使用した。 2・2 装置   高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー(HPLC) は、 ポ ン プPU-980( 日 本 分 光 ) 2 台 に よ る 高 圧 グ ラ デ ィ エ ン ト シ ス テ ム を 用 い て 行 っ た。 固 定 相 はODS(YMC A-312、 6×150 mm)、 移 動 相 は Water/MeCN/AcOH (A) 90:8:2 v/v/v, (B) 50:48:2 v/v/v とし、移動相 (A) を100 %から0 % へ45 分の 直線溶出とした。流速は1.5 ml/min、検出は290 nm、カラム温度40 ℃とした。紫外線吸収スペクトル (UV) はUV-1700(島津製作所)、質量分析(FAB-MS)はHX-110(日本電子)を用いて測定した。 核磁気共鳴スペクトル (NMR)はAVANCE 400(ブルカー)を用いて、TMSを内部標準として測定し、 DEPTおよびHMQC、HMBCの二次元NMRの測定結果からシグナルの帰属を行った。 2・3 クエルセチンと次亜塩素酸ナトリウムとの反応  クエルセチン (1)の5 mM メタノール溶液100 mlに3 mM 次亜塩素酸ナトリウム水溶液500 mlを 加え、よく振り混ぜたのち1 M 塩酸2.5 mlを添加した。減圧蒸留により溶媒を除去し、食塩20 gを加 えて酢酸エチルで抽出し、減圧濃縮して反応混合物を得た。この操作を繰り返し、クエルセチン3.38 gから反応混合物4.13 gが得られた。 2・4 反応混合物から酸化生成物の分離  反応混合物4.13 g を、Sephadex LH-20(GEヘルスケアバイオサイエンス、ウプサラ・スウェーデ ン、26×800 mm)に吸着し、液体クロマトグラフィーを行い粗分画した。移動相はEtOH/Hexane (8:2 v/v)、およびEtOHを使用し、検出は390 nmで行った。Fr.1~Fr.8に分画し、Fr.4はさらに、固定相: ODS (GL Science Inertsil PREP-ODS、20×250 mm)、移動相:Water/MeCN/AcOH (83:17:0.5 v/v/v)、 検出290 nmとする分取HPLCを行い、化合物2 (13 mg)、化合物3 (56 mg)、化合物4 (50 mg)、化 合物5 (53 mg)が得られた。Fr.7およびFr.8は、固定相 ODS (GL Science、Inertsil PREP-ODS、20×

250 mm)、移動相 Water/MeCN/AcOH (67:33:0.5 v/v/v)、検出370 nmとする分取HPLCを行い、化合物

6 (190 mg)、化合物7 (30 mg)、化合物8 (300 mg)が得られた。

2・5 2,5,7,3,,4,-Pentahydroxy-3,4-flavandione (化合物2)

 褐色粉末;FAB-MS (m/z; 319 [M+H]+;UV λ

max (MeOH) (nm) 210 (log ε=4.39), 225 sh (4.27), 290 (4.38), 325 sh (4.08);IR νmax (cm-1) 3400, 3250, 1700, 1630;1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ5.90 (d, J=1.6, H8), 5.95 (d, J=1.6, H6), 6.80 (d, J=8.1, H5’), 7.54 (dd, J=8.1, 2.0, H6’), 7.56 (d, J=2.0, H2’);13C NMR (100 MHz, DMSO-d 6) δ90.2 (C8), 96.4 (C6), 100.3 (C10), 104.5 (C2), 114.8 (C5’), 117.2 (C2’), 123.7 (C6’), 124.8 (C1’), 144.6 (C4’), 151.3 (C3’), 158.5 (C5), 168.4 (C7), 171.7 (C9), 189.7 (C4), 190.1 (C3). 2・6 5,7,3,,4,-Tetrahydroxy-2-methoxy-3,4-flavandione 3-hydrate (化合物3)  淡黄色粉末;FAB-MS (m/z; 350 [M]+[α]

(3)

293;1H NMR (400 MHz, Acetone-d

6) δ3.05 (3H, s, 2-OMe), 5.46 (br, s, 3-OH), 5.65 (br, s, 3-OH), 6.06 (d, J=2.1, H8), 6.13 (d, J=2.1, H6), 6.86 (d, J=8.3, H5’), 7.11 (dd, J=8.3, 2.0, H6’), 7.23 (d, J=2.0,

H2’), 11.22 (s, 5-OH);13C NMR (100 MHz, Acetone-d

6) δ50.9 (2-OMe), 91.7 (C3), 97.1 (C8), 97.4 (C6), 100.9 (C10), 107.7 (C2), 115.1 (C5’), 117.4 (C2’), 122.0 (C6’), 125.6 (C1’), 145.0 (C3’), 146.9 (C4’), 160.0 (C9), 164.9 (C5), 168.0 (C7), 195.0 (C4).

2・7 8-Chloro-5,7,3,,4,-tetrahydroxy-2-methoxy-3,4-flavandione 3-hydrate (化合物4)

 淡黄色粉末;1H NMR (400 MHz, DMSO-d 6) δ2.92 (3H, s, 2-OMe), 6.19 (s, H6), 6.47 (br, s, 3-OH), 6.71 (br, s, 3-OH), 6.77 (d, J=8.3, H5’), 6.94 (dd, J=8.3, 2.0, H6’), 7.11 (d, J=2.0, H2’), 11.29 (s, 5-OH);13C NMR (100 MHz, DMSO-d 6) δ49.9 (2-OMe), 90.6 (C3), 96.6 (C6), 99.6 (C8), 100.0 (C10), 107.4 (C2), 114.3 (C5’), 116.6 (C2’), 120.1 (C6’), 123.7 (C1’), 144.1 (C3’), 145.9 (C4’), 153.1 (C9), 160.5 (C5), 161.9 (C7), 194.5 (C4).

2・8 6,8-Dichloro-5,7,3,,4,-tetrahydroxy-2-methoxy-3,4-flavandione 3-hydrate (化合物5)

 淡黄色粉末;1H NMR (400 MHz, DMSO-d 6) δ2.93 (3H, s, 2-OMe), 6.78 (d, J=8.3, H5’), 6.94 (dd, J=8.3, 2.1, H6’), 7.10 (d, J=2.1, H2’), 11.89 (s, 5-OH);13C NMR (100 MHz, DMSO-d 6) δ50.1 (2-OMe), 90.7 (C3), 100.1 (C8), 101.1 (C6), 101.6 (C10), 107.8 (C2), 114.4 (C5’), 116.5 (C2’), 120.1 (C6’), 123.3 (C1’), 144.1 (C3’), 146.0 (C4’), 151.2 (C9), 156.0 (C5), 157.5 (C7), 195.2 (C4). 2・9 8-Chloroquercetin (化合物6)  黄色粉末;FAB-MS (m/z; 336 [M]+ );UV λ

max (EtOH) (nm) 261 (log ε=4.34), 383 (4.35);1H NMR (400 MHz, DMSO-d6)および13C NMR (100 MHz, DMSO-d6)データはTable-1に示す。 2・10 6-Chloroquercetin (化合物7)  黄色粉末;FAB-MS (m/z; 336 [M]+);1H NMR (400 MHz, DMSO-d 6)および13C NMR (100 MHz, DMSO-d6)データはTable-1に示す。 2・11 6,8-Dichloroquercetin (化合物8)  黄色粉末;FAB-MS (m/z; 370 [M]+;UV λ

max (EtOH) (nm) 264 (log ε=4.35), 388 (4.37);1H NMR (400 MHz, DMSO-d6)および13C NMR (100 MHz, DMSO-d6)データはTable-1に示す。

2・12 DPPHラジカル捕捉活性の測定  DPPHの150 μMエタノール溶液2 mlに抗酸化剤の5, 10, 20, 30, 40, 50, 60, 70 μMエタノール溶液 2 mlを加え、室温暗所で30分間放置後、直ちに517 nmにお ける吸光度を測定し、次式によりラジカル捕捉率(%)を算 出し、DPPHラジカルの50 %を捕捉するために必要な抗酸化 物質のモル数IC50を求めた。   DPPHラジカル捕捉率 (%) = [(B-S)/B]×100   B:抗酸化物質無添加の時の吸光度   S:抗酸化物質を添加したときの吸光度

3 結 果

3・1 クエルセチンと次亜塩素酸イオンの反応  クエルセチン(1)のメタノール溶液に次亜塩素酸ナト リウム水溶液を加え、激しく振り混ぜた後1 M塩酸を加え、 HPLCで分析した。その結果をFig. 1に示す。未反応の1が 21.8分に検出されたが1以外にも多数のピークが検出され、

(4)

1の酸化生成物と考えられた。1に対する次亜塩素酸イオンのモル比、濃度、反応時間、反応温度等 を変えて同様な反応を行い、HPLCで分析した。いずれの反応条件においてもFig. 1とほとんど同様な ピークが検出された。そこで、2・5に従って酸化生成物の分離を試みた。1を合計3.38 g反応させ た反応混合物4.13 gから、Fig. 1における7.9分、11.0分、14.8分、18.3分、25.5分、26.3分、29.9分のピー クに相当する酸化生成物が、それぞれ13 mg、56 mg、50 mg、53 mg、190 mg、30 mg、300 mg得ら れた。これらを化合物2, 3, 4, 5, 6, 7, 8と仮称することにし、構造解析を行った。 3・2 クエルセチン酸化生成物の構造  化合物2は、1のA、B、C環全体にわたる共役系の存在を示す370 nm付近のUV吸収が消失し、C 環での骨格変動が推定された。1H および13C NMRスペクトルにおいて1,2,3,5-四置換ベンゼン、1,3,4 -三置換ベンゼンの存在、および二つのカルボニル炭素の存在を示すシグナルなどが観察され、既報 14) 1が脂質の過酸化を抑制したときの酸化生成物のうちの一つである2,5,7,3’,4’-pentahydroxy-3,4-flavandioneであると決定した。  化合物3の1H NMRスペクトルでは、1,2,3,5-四置換芳香環プロトンに帰属できるシグナルとして δH 6.06(d, J=2.1)、δH 6.13(d, J=2.1)が、1,3,4―三置換芳香環プロトンに帰属できるシグナル としてδH 6.86(d, J=8.3)、δH 7.11(dd, J=8.3, 2.1)、δH 7.23(d, J=2.1)が観察された。さらに、 メトキシプロトンδH 3.05(3H, s)および重水の添加によりシグナルが消滅し、プロトン交換が確 認されたアルコール性水酸基に帰属できる二つのシグナルδH 5.46 (br, s)、δH 5.65 (br, s)、水素結 合しているフェノール性水酸基のプロトンシグナルδH 11.22 (s)が観察された。13C NMRスペクト ルでは、16個のシグナルが観察された。このうち、DEPTの測定によりメチン炭素5個、メチル炭素 1個が確認でき、炭素とプロトンの直接結合を確認することが出来る2D NMRの一つであるHMQCス ペクトルから四置換芳香環に帰属できる炭素シグナルはδC 97.1、97.4であり、1,3,4―三置換芳香環 に帰属できる炭素のシグナルはδC 115.1、117.4、122.0であることを確認した。また、遠隔の炭素 とプロトンの相関を観察することが出来る2D NMRの一つであるHMBCスペクトルで、フェノール性 水酸基のプロトンシグナルδH 11.22との相関から、5位の炭素シグナルはδC 164.9であり、6位の 炭素シグナルはδC 97.4で、結合するプロトンシグナルはδH 6.13であると帰属できた。これらをも とに、HMBCスペクトルの解析を行い、四置換芳香環を構成する炭素のシグナルは97.1 (C8)、97.4 (C6)、100.9 (C10)、160.0 (C9)、164.9 (C5)、168.0 (C7)であり、三置換芳香環を構成する炭素 のシグナルは115.1 (C5’)、117.4 (C2’)、122.0 (C6’)、125.6 (C1’)、145.0 (C3’)、146.9 (C4’) であると決定できた。これらの結果から、化合物3には1のA環およびB環に相当する芳香環が保持 されていることが推定された。一方、δC 194.5にカルボニル炭素に帰属できるシグナルが、δC 90.6 および107.4にsp3混成している四級炭素が検出され、このうちのδ C 107.4にはメトキシ基が結合し、 アルコール性水酸基のプロトンシグナルδH 5.46、5.65は、これらの3つの炭素すべてに相関する ことが確認でき、化合物3のC環構造では、2、3位の結合がアルカン結合となり、2位にメトキシ 基、3位に二つの水酸基が結合していることが確認できた。FAB-MSの測定結果は、分子量が350で あることを示したが、これは1の分子式にメトキシ基(-OCH3)および水酸基(-OH)がそれぞれ一 つずつ結合した分子量に一致していた。以上の結果、化合物 3は、5,7,3’,4’-tetrahydroxy-2-methoxy-3,4-flavandione 3-hydrateであると決定した。この結果は、Igarashiらがクローバーの酸化酵素を用いて 1を酸化させたときに得られた化合物として既に報告した化合物15)に一致した。  化合物4の1H NMRスペクトルは、化合物3のスペクトルに近似していたが、A環プロトンに帰属 されるシグナルが一つ消滅していることが確認できた。化合物3のスペクトルとの比較から、δH 7.11 (d, J=2.0)、δH 6.77 (d, J=8.3)、δH 7.66 (dd, J=8.5, 2.0)のシグナルは、B環2’位、5’位、6’ 位のプロトンに相当するシグナルであると帰属することが出来た。一方、A環のプロトンと考えられ

(5)

るシグナルは、δH 6.19 (s)に一つだけ検出された。さらに、水素結合している5位の水酸基のプロ トンシグナルδH 12.29、アルコール性水酸基のプロトンシグナルδH 6.47 (br, s)、6.71 (br, s)、メト キシ基のプロトンシグナルδH 2.92 (3H, s)が観察された。13C NMRスペクトルにおいては、16個の シグナルが観察され、DEPTおよびHMQCの測定結果から、δC 116.6は2’位に、δC 114.3は5’位に、 δC 120.1 は6’位に、δC 96.6はA環6また8位に帰属できることが確認できた。HMBCスペクトルで、 カルボニル炭素と水素結合している5位の水酸基のプロトンとδC 96.6、100.0、160.5との相関が観 察され、従って、A環に保持されているプロトンδH 6.19は6位のプロトンであると決定することが 出来た。以上の結果から、化合物4は、化合物3のA環6位に水素が保持され、8位は塩素に置換さ れた構造である8-chloro-5,7,3’,4’-tetrahydroxy-2-methoxy-3,4-flavandione 3-hydrateであると決定した。  化合物5の1H および13C NMRスペクトルには、化合物3または4に近似したシグナルが観察され た。しかし、1H NMRスペクトルにおいて芳香環プロトンはδ H 7.10 (d, J=2.1 Hz)、δH 6.94 (dd, J= 8.3, 2.1 Hz)、δH 6.78 (d, J=8.3 Hz)に3個だけ観察され、B環のカテコール構造は保持されているが、 A環の芳香環プロトンは二つとも失われていることが推定できた。  13C NMRスペクトルにおいて、16個の炭素のシグナルが観察され、DEPT、HMQC、HMBCの測定 結果から各シグナルの帰属を行ったところ、化合物4に比較してA環炭素のシグナルは5、7、9位 では高磁場シフト、6、8位では低磁場シフトしているなど、6、8位に電子求引性の塩素が置換し ていることを示唆する結果が得られた。  以上の結果から、化合物5は6,8-dichloro-5,7,3’,4’-tetrahydroxy-2-methoxy-3,4-flavandione 3-hydrate であると決定した。化合物4、5は、新規化合物であった。  化合物6、7、8のNMRスペクトルデータを帰属し、1の帰属結果とあわせてTable-1に示す。  化合物6のMSスペクトルの測定結果および1H NMRスペクトルから、クエルセチンの水素が一つ塩 素に置き換わった化合物であると推定された。1H NMRスペクトルにおいて芳香環のプロトンに帰属 できる4個分のシグナルは、結合定数およびクエルセチンのスペクトルとの比較から、δH 7.80 (d, J=1.9)、δH 6.93 (d, J=8.5)、δH 7.66 (dd, J=8.5, 1.9)のシグナルは、クエルセチンのB環2’位、5’ 位、6’位のプロトンに相当するシグナルであると帰属することが出来た。一方、A環のプロトンδH Fig.�2��Structures�of�Quercetin�(1)and�the�Oxidation�Products�(2~8)

(6)

6.41 (s)の結合位置を決定することは出来なかった。また、 水素結合しているフェノール性水酸基のプロトンに帰属 できるシャープな一重線がδH 12.46 に観察された。13C NMRスペクトルにおいては、15個のシグナルが観察され た。DEPTおよびHMQCの測定結果から、B環2’位、5’位、 6’位とA環メチン炭素のシグナルを帰属した。HMBCス ペクトルを解析し、AあるいはB環を構成する水素シグナ ルと炭素シグナル間の相関を確認した。その結果を、Fig. 3にまとめて示す。  以上の結果より、化合物6はA環6位に水素が保持さ れ、8位は塩素に置換された8-chloroquercetinであると決 定した。Binsackらは同様な反応によって得られるモノ クロロクエルセチンは6-chloroquercetinであると報告している13)。化合物6とBinsackらの決定した 6-chloroquercetinの1H NMRスペクトルデータは完全に一致していた。2次元NMRスペクトル等を測 定した結果からシグナルの帰属を行わなかったため、Binsackらは誤った結論に至ったものと考えられ た。  化合物7は、化合物6と同様な道筋で構造を決定することが出来た。A環に保持されていると考 えられるプロトンのシグナルδH 6.63はδC 93.5に直接結合していることがHMQCで確認できた。 HMBCにおいては、このδC 93.5に対して5位の水酸基のプロトンとの相関が観察されなかった。 従って、化合物7は8位の炭素にプロトンが保持され、6位の水素が塩素に置換された構造である 6-chloroquercetinであると決定した。  化合物8は、MSスペクトルから、1の二つの水素が塩素に置換した分子式であると推定できた。 1H NMRスペクトルにおいて、芳香環プロトンが3個だけ観察され、δ H 7.82 (d, J=2.1)、δH 7.68 (dd, No. Quercetin (1) 8-Chloroquercetin (6) 6-Chloroquercetin (7) 6,8-Dichloroquercetin (8)

2 3 4 5 6 7 8 9 10 1’ 2’ 3’ 4’ 5’ 6’ 146.7 135.6 175.7 160.6 98.1 163.8 93.3 156.0 102.9 121.9 115.0 145.0 147.6 115.5 119.9 6.21 (2.0) 6.43 (2.0) 7.70(2.2) 6.91 (8.5) 7.56 (8.5, 2.2) 146.8 135.9 175.6 158.4 98.2 159.5 96.9 151.0 103.4 121.8 114.9 145.1 147.9 115.6 119.9 6.41 (s) 7.80(1.9) 6.93 (8.5) 7.66 (8.5, 1.9) 147.3 135.6 175.4 155.9 101.9 159.1 93.5 153.6 103.1 121.6 115.0 144.9 147.8 115.5 120.0 6.63 (s) 7.70(2.2) 6.91 (8.5) 7.57 (8.5, 2.2) 147.5 136.1 175.4 154.2 103.3 155.1 98.7 149.0 103.9 121.6 115.0 145.1 148.1 115.7 120.1 7.82 (2.1) 6.95 (8.5) 7.68 (8.5, 2.1) Table-1��NMR�Spectral�Data�for�Quercetin�(1)and�Chlorinated�Quercetin�(6,7�and�8)in�DMSO-d6 Fig.3 Results�of�HMBC�of�Compound�6

(7)

J=8.5, 12.1)、δH 6.95 (d, J=8.5)は1のB環2’位、6’位、5’位に相当するシグナルであると帰 属できた。従って、1のB環のカテコール構造は保持されているが、A環の2つの芳香環水素は失わ れていることが推定できた。また、水素結合しているフェノール性水酸基のプロトンがδH 13.24に 観察された。13C NMRスペクトルにおいて、15個の炭素のシグナルが観察され、1のスペクトルと比 較して、近似した炭素骨格を有することが推定できた。DEPTおよびHMQCの測定結果から、δH 7.82 (H2’)とδC 115.0、δH 7.68 (H6’)とδC 120.1、δH 6.95 (H5’)とδC 115.7との直接結合が確認 できた。さらに、HMBCの測定結果において、5位の水酸基のプロトンからの相関が観察されること により5、10、6位の芳香環炭素を決定することができた。HMBCにおいてプロトンからの相関が観 察されない残りの4級炭素を1および上記の化合物6または7の帰属結果と比較し、A環を構成する 7、6および9位の炭素シグナルを帰属することが出来た。また、2’位のプロトンとの相関などか らδC 147.5、δC 136.1のシグナルはC環2および3位の炭素であると決定できた。以上の結果から、 化合物8は6,8-dichloroquercetinであると決定した。 3・3 クエルセチンおよびその塩素置換生成物のDPPHラジカル捕捉活性  抗酸化物質の水溶性媒体におけるラジカル捕捉活性を簡便に測定する方法として提案されている 16)DPPHラジカルに対する捕捉活性を測定し、50 %のDPPHラジカルを捕捉するために必要な抗酸化 物質のμM濃度(IC50)を算出した17)。結果をTable-2に示す。比較のために、1のB環水酸基の結合 位置が異なるモリン、フラボノイド骨格は1と同様であるが3位に2単位の糖が結合したルチン、C 環構造が異なる(+)-カテキンおよびビタミンEの水溶性誘導体であるトロロックスについて同様な活 性を測定した。DPPHラジカル捕捉活性の強さは、1>6>8=rutin> (+) -catechin>morin>troloxの順で あった。1および1の炭素骨格とカテコール構造を保持している化合物が強い活性を示し、これらに 比べてトロロックスの活性は、2/5からほぼ同等であった。

4 考 察

 クエルセチン(1)と次亜塩素酸イオンとの反応により得られた化合物2~8の構造をFig. 2に示す。 1の次亜塩素酸イオンとの反応では多数の生成物が得られたが、生体内での次亜塩素酸の酸化反応を 1が抑制したときのマーカーとしてはメタノールが関与しなくても生成する2、6、7、8が使用で きると考えられた。Binsackらは、1のメタノール溶液を緩衝液でpH7.3に調整したのち、次亜塩素酸 イオと反応させた溶液についてHPLCにより分析したところ、6および8のみが検出されたと報告し ている13)。BinsackらのHPLCによる分析では、反応生成物の検出を365 nmで行ったため、今回分離・ Antioxidant IC50* Quercetin (1) 8-Chloroquercetin (6) 6,8-Dichloroquercetin (8) Morin Rutin (+)-Catechin Trolox 14.6 18.2 24.0 33.4 22.2 28.4 37.4 Table-2�Radical�Scavenging�Activity�of�Quercetin�and�its�Analogue

(8)

構造決定した化合物2、3、4、5は検出波長付近に吸収がないため、検出できなかったのではない かと思われた。  次亜塩素酸イオンの攻撃により、1はC環骨格の酸化を経て、化合物2および3に変換された。同 時に、1および3のA環水素の塩素置換生成物が得られたが、B環で塩素置換が起こった生成物は得 られなかった。この結果からは、メタ位に水酸基が結合しているフェノール類が、次亜塩素酸イオン を捕捉しやすいと考えられた。多くのフラボノイド類のうち、様々な植物性食品に普遍的に存在する 1およびカテキン類などはA環5、7位に水酸基を結合しているため、生体内での白血球の防御機能 により必要以上に産生され、漏れ出した次亜塩素酸イオンを捕捉し、次亜塩素酸イオンの攻撃により 起こる炎症等から組織を防御することができると推定された。1は、植物では多くの場合配糖体とし て存在し、消化吸収される際には加水分解を受けて遊離体になるが、吸収後はグルクロン酸抱合体な どに変換される体内動態が最近明らかにされた19)。抱合化反応を受ける水酸基は1分子あたり1カ所 か2カ所程度であるため、次亜塩素酸イオンを捕捉することが可能な水酸基は十分に残存していると 考えられる。Binsackらの検討において、1の3位に糖が結合しているルチンも同様に次亜塩素酸イオ ンを捕捉し、A環における塩素置換生成物に変換されることを報告している13)。従って、グルクロン 酸抱合体に変換された後も、少なくとも3位の抱合体は次亜塩素酸イオンの捕捉活性を保持している と予想できた。  塩基性物質である次亜塩素酸イオンの存在下で1および3は、A環に存在するフェノール性水酸基 の水素を放出し、その結果、イオン化した酸素原子から芳香環に電子が供与され、求電子置換反応の 活性が増大し、塩素置換反応が進行したものと推定された。6に比べて7の生成量が低いことは、6 位における負電荷の偏りが8位に比べて少ないことを示唆していると考えられた。また、B環3’、4’ 位にもフェノール性水酸基が存在するにもかかわらず、B環における塩素置換生成物は得られなかっ た。B環では、カテコール構造であるため、脱水素してイオン化した酸素原子は隣接する水酸基と静 電気的に引き合うため、芳香環への電子供与は殆ど起らないため、求電子置換反応は起りにくかった と推測された。これまでに、A、C環構造は1と完全に一致するが、B環は2’および4’位に水酸基 が結合しているモリンを対象として次亜塩素酸イオンを用いた同様な反応について検討し、生成物の 構造を明らかにした18)。モリンでは、1に比較して多数の塩素置換生成物が得られ、A環での塩素置 換生成物ばかりでなくB環3’、5’、6’位におけるモノ、ジ、トリ塩素置換生成物も著量生成するこ とが確認できた。1のすべての水酸基は還元因子を放出しやすいと言われている7)が、水酸基の結合 位置により活性は異なることが明らかになった。1のA環骨格が保持されている2の塩素置換生成物 が得られなかった。2の生成量が比較的少量であったため、今回は、塩素置換生成物が分離できなかっ たと考えた。  フラボノイド類が抗酸化活性を持つためにはカテコール構造が重要であると言われている9)。水溶 性媒体における抗酸化活性の指標であるDPPHラジカル捕捉活性の測定結果においても、カテコール 構造を有する化合物がより高い活性を示した。生体内抗酸化物質として知られているビタミンEの水 溶性誘導体であるトロロックスのラジカル捕捉数に比べて、1は約2.5倍のラジカルを捕捉し、優れ た抗酸化活性を示した。塩素化誘導体である6および8の活性は、1に比べてやや劣る結果となった が、トロロックスに比べると1と同様に優れた活性を示すことが確認できた。DPPHは1モルあたり 1個のラジカルを生成する。従って、トロロックスは1モルあたり約2個のラジカルを、1は5個の ラジカルを捕捉すると見積もられた。6および8の活性が1に比べて若干劣る結果になったことは、 電子求引性置換基である塩素がA環に結合したことにより、A環への電子の流れ込みが起こったため ではないかと推論された。しかし、Binsackらの検討においては、銅に誘導されるLDLの酸化を1およ び6,8が濃度依存的に抑制すること、さらにその活性は塩素置換体が1より遙かに強く、8>6>

(9)

1の順であると報告している13)。活性の測定系が同じでないためBinsackらの結果と一致しなかった のではないかと推定したが、今後、さらに異なる活性測定系を用いて、塩素化による抗酸化活性への 影響について比較・検討する予定である。

5 文 献

1)篠原和毅、鈴木建夫、上野川修一編「食品機能研究法」pp. 1-5、光琳 (2000). 2)大澤俊彦、機能性成分の現状、化学と生物、44, pp. 406-412 (2006). 3)日本化学会編「活性酸素」pp. 1-40、丸善 (1999). 4)菊川清見著「からだが錆びる」丸善 (1999). 5)荒井綜一、阿部啓子、金沢和樹、吉川敏一、渡邉 昌編「機能性食品の辞典」pp. 199-239、朝倉書店 (2007). 6)吉川敏一編「フラボノイドの医学」pp. 96-147、講談社サイエンティフィク (1998). 7)金沢和樹、植物性食品の非栄養性機能性成分ポリフェノール、オレオサイエンス、7, pp. 317-325 (2007). 8)寺尾純二、芦田 均、機能性ポリフェノール、化学と生物、44, pp. 688-698 (2006).

9) C. A. Rice-Evans, L. Packer edt., “Flavonoids in Health and Disease”, pp. 199-295, Marcel Dekker, INC., New York (1998).

10) L. Selloum, H. Djelli, L. Sebihi, J. Arnhold, Scavenger Effect of Flavonols on HOCl-induced Luminol Chemiluminescence, Luminescence, 19, pp. 199-204 (2004).

11) S. Schaffer, G. P. Eckert, W. E. Muller, R. Llorach, D. Rivera, S. Grande, C. Galli, F. Visioli, Hypochlorous Acid Scavenging Properties of Local Mediterranean Plant Foods, Lipids, 39, pp. 1239-1247 (2004).

12) B. J. Boersma, R. P. Patel, M. Kirk, P. L. Jackson, D. Mussio, V. M. Darley-Usmar, S, Barnes, Chlorination and Nitration of Soy Isoflavones, Arch. Biochem. Biophy., 368, pp. 265-275 (1999).

13) R. Binsack, B. J. Boersma, R. P. Patel, M. Kirk, C. R. White, V. Darley-Usmer, S. Barmes, F. Zhou, D. A. Parks, Enhanced Antioxidative Activity After Chlorination of Quercetin by Hypochlorous Acid, Alcoholic Clin. Exp. Res., 25, pp. 434-443 (2001).

14) Y. Hirose, T. Fujita, S. Matsugo, Oxidative Products from Quercetin during Lipid Peroxidation, ITE Lett. Batt. New Tech. Med., 2, pp. 825-828 (2001).

15) K. Igarashi, M. Akai, An Oxidation Product of Quercetin Catalyzed by a Crude Enzyme Preparation from Red Clover (Trifolium pratense L.); Its Isolation and Identification, Agric. Biol. Chem., 54, pp. 2143-2144 (1990).

16) Y. Hirose, T. Washizu, Y. Uchida, S. Matsugo, Structural Determination and Antioxidative Activity of Oxidation Products of Flavonoids with Reaction Oxygen Species, Oxidative Stress and Disease, 21, pp. 333-337 (2006). 17)M. S. Blois, Antioxidant Determinations by the Use of a Stable Free Radical, Nature, 181, pp. 1199-1200 (1958). 18) M. Kano, T. Takayanagi, K. Harada, K. Makino, F. Ishikawa, Antioxidative Activity of Anthocyanins from Purple

Sweet Potato, Ipomoera batatas Cultivar Ayamurasaki, Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, pp. 979-988 (2005).

19) K. Murota, J. Terao, Antioxidative Flavonoid Quercetin: Implication of its Intestinal Absorption and Metabolism, Arch. Biochem. Biophy., 417, pp. 12-17 (2003).

参照

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