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日放腫会誌 J Jpn Soc Ther Radiol Oncol 21: 155-158, 2009
塩化ストロンチウム-89投与後に大腿骨頸部病的骨折を受傷し,骨頭
置換術を施行した,乳癌骨転移の 1 例
木谷 哲*1,吉村 真奈*2,新保 宗史*3,山田 崇裕*4,本田 憲業*3
A CASE OF BONE METASTASES FROM BREAST CANCER WITH FEMORAL HEAD REPLACEMENT AFTER INJECTION OF
STRONTIUM CHLORIDE (Sr-89)
Akira KITANI*1, Mana YOSHIMURA*2, Munefumi SHIMBO*3, Takahiro YAMADA*4, Norinari HONDA*3
(Received 27 May 2009, accepted 15 September 2009)
Abstract: We report a case of multiple bone metastases from breast cancer with femoral head replacement
due to pathological fracture of the femoral head 81 days after injection of strontium chloride (Sr-89), radiopharmaceutical for bone pain palliation. Before replacement, the external radiation dose was estimated, and careful attention was paid to reducing the radiation from the exposed bones containing Sr-89 during the surgery. The calculated dose and measured dose with the portable dose rate meter were far below the exposure limits. We think this report will be informative for future occasions of such plastic surgeries.
Key words: Strontium chloride (Sr-89), Bone metastases, Breast cancer
*1東京共済病院乳腺科(〒153-8934 目黒区中目黒2-3-8)(Department of Breast Surgery, Tokyo Kyosai Hospital)(2-3-8, Nakameguro, Meguro-ku,
Tokyo 153-8934, JAPAN),*2 東京医科大学病院放射線科(Department of Radiology, Tokyo Medical University Hospital),*3 埼玉医科大学総合医療
センター放射線科(Department of Radiology, Saitama Medical Center),*4日本アイソトープ協会 医薬品・アイソトープ部技術課(Division of
Radiopharmaceuticals and Radioisotopes, Technical Section, Japan Radioisotope Association)
はじめに
塩化ストロンチウム-89(以下,Sr-89)は,固形癌骨転移に よる疼痛緩和目的にて2007年11月より使用が開始されてい る放射性医薬品である.今回われわれは,Sr-89投与後に左 大腿骨頸部骨折を受傷し,左大腿骨頭置換術を施行した乳 癌骨転移の 1 例を経験し,さらに術者の医療被ばくに関す る線量評価を行ったので,報告する.症 例
症例は50歳代,女性. 左乳癌に対し乳房温存術を行い,その後補助療法を施行 したが,3 年後に多発骨転移と診断された.診断当時は疼 痛がなかったため,全身療法を優先し,化学療法にて治療 が行われていた.しかし,再発診断より 1 年後,右そけい 部の疼痛が増強したため,疼痛緩和目的にてSr-89による治 療を行う方針となり,東京医科大学放射線科に紹介した. そのときの骨シンチグラムでは,骨転移と思われる集積像 が全身の骨に多発性に認められ,疼痛部位である右坐骨部 にも著明な集積が認められた(Fig. 1). 疼痛緩和を目的に,74MBq(2MBq/kg)のSr-89が投与され た.投与後,若干の疼痛の増悪を認めたものの,大きな変 化は認められず推移した.この間,ゾレドロン酸の投与が 併用された. しかし,1 カ月後に右臀部から右大腿部付近の疼痛が増 強した.異常知覚を伴うことから,右仙腸関節より右坐骨 の骨転移を原因とする神経因性疼痛が生じたものと考えら れた.この部位の疼痛緩和を目的に,右仙腸関節・右坐骨 を含む照射野にて,外部放射線治療30Gy/10frを施行した. 同時にオピオイドによる疼痛緩和治療も行い,終了時には 歩行可能な程度にまで回復した. ところが,放射線治療終了より 3 日後に突然の左そけ い部の疼痛を訴え来院.左大腿骨頸部骨折と診断された (Fig. 2).前述の骨シンチグラムにて,左大腿骨頸部に集 積を認めていたことから,病的骨折と診断された.大腿骨 頭部に放射能を有していることが予想されたが,検討の 結果,想定される医療者の被ばく線量は基準を大きく下 回ると考えられたため(詳細は後述),Sr-89投与81日後に 左大腿骨頭置換術を施行した.手術は支障なく終了し た.手術時間は105分であり,大腿骨頭が露出していた時 間はおよそ 5 分であった.摘出した大腿骨頭を線量計(電 離箱式サーベイメータ:アロカ社製ICS-321B)にて,サー ベイメータのキャップをはずし,b線のウィンドウで測定 した際の測定値は17.0eSv/hであった(Table 1).摘出され た大腿骨頭は東京医科大学病院に輸送し,同病院放射線 科で保管している.手術後,左大腿骨の疼痛は消失して いる.156 木谷 哲 他
考 察
Sr-89は固形癌骨転移症例において,疼痛緩和目的で使用 される放射線医薬品である.治療成績として,VAS,また は鎮痛薬のいずれかの減少が72.5%で認められることが示 されている1). さて,今回,大腿骨頸部骨折を受傷したため,大腿骨頭 置換術を施行する方針となったが,手術施行前に,患者の 体内に残留するSr-89による影響が考えられた.今回,われ われが手術前に検討した事項をTable 2 に掲げる. まず,術前に検討した,医療者への被ばく線量の推測に ついて述べる. 患者体内に残存するSr-89の放射能についてであるが,英 国の第 1 相臨床試験にて,Sr-85を用いて求めた全身保持率 は,び漫性の骨転移を有する患者の69∼72日後において 81.4%であった2).これを参考に,物理的半減期(50.5日)に 基づいて,投与からの放射能の減衰(81日後0.33)を考慮す ると,体内に残存する放射能は74(MBq) × 0.814 × 0.33 = 20MBq程度と推定された. Sr-89は,b線(最大エネルギー 1.49MeV,平均エネルギー 0.61MeV)のみを放出する核種であり,そのb線の最大飛程 はFeatherの式からTable 3 のように算出される.この表か ら,その組織内(水中)飛程は平均0.20cm(最大飛程0.67cm) となる.このことから,一般的にSr-89が患者体内に留まっ ている状態においては,医療者への外部被ばくは考慮しな くてもよい範囲と考えて差し支えないと思われる. しかし,空気中での飛程は平均エネルギーでも158cmを 有することから,手術時に大腿骨が露出したときには,医 療者への被ばくが懸念される.このb線による被ばくは,医 療者の体内への飛程を考慮すると,ほぼ皮膚表面に限定さ れると考えられる. そこで,摘出した大腿骨から皮膚への外部被ばくの推定 にあたり,まず,摘出した大腿骨(以下,骨頭部)へのSr-89 の集積率を推定した.はじめに,Sr-89の全身骨での分布 は,同症例の骨シンチグラムにおける放射能分布に比例す ると仮定した.そこで,全身骨シンチグラムの前後面像 に,全身,両腎,大腿部ならびに骨頭部に関心領域(ROI) を設定した.バックグラウンド補正を行った全身,両腎及 び骨頭部のROIのカウントを前面像と後面像で相乗平均 し,全身と両腎のカウントの差を全身骨に保持された放射 能とし,これに対する骨頭部のカウントの比を求めたとこ ろ0.0321となった.したがって,摘出した骨頭部でのSr-89 の残存放射能は約0.64MBq(20MBq × 0.0321)と推定された. Sr-89が残存する骨頭を半径 1cmの球状線源に相当すると 仮定すると,70em線量当量率H70emは『被ばく線量の測定・ 評価マニュアル』3)に基づき,以下の式にて示される. H70em = 10–2・A・D(Emax, h)・C ここで,A:放射能面密度,D(Emax, h):b線の最大エネル ギーEmax及び線源から距離hに応じた単位放射能面密度あ たりの皮膚の吸収線量率(mrad・h–1/eCi・cm–2),C:皮膚の 吸収線量から線量当量への線質係数(=1)である. Aは,骨頭部にSr-89が0.64MBq集積した半径 1cmの球状 線源と仮定すると, 0.64 × 106Bq/37000/(4f × 12) = 1.38eCi/cm2 Dは,b線の最大エネルギー 1.49MeV,線源と皮膚の距離 を10cmとして,『被ばく線量の測定・評価マニュアル』3)(図 4.3-4)から読み取り,13(mrad・h–1/eCi・cm)とすると, H70emは,H70em = 0.01(mrad/mGy) × A(eCi/cm2) × D(Emax, h) × C
= 0.01 × 1.38 × 13 × 1 = 0.18mSv/h このように,今回のように露出した骨頭部を線源として 10cmの距離で,1 時間作業したとしても,皮膚への線量当 量は0.18mSvと推定され,皮膚等価線量限度500mSv/年をは るかに下回る値であると考えられた. 実際に今回摘出した大腿骨頭より10cm離れてのサーベイ メータの指示値は17.0eSv/hであった.このサーベイメータ は 1cm線量当量率サーベイメータであり,bウィンドウを使 用することでb線感度を有する(ただし,指示値の保証はな Fig. 1 Bone scintigraphy at injection of Sr-89.
157 Sr-89投与後に大腿骨頭置換術を施行した,乳癌骨転移の 1 例 い)が,この測定により,実際のb線放出が確認され,b線 による被ばくに対する配慮が必要であることが確認され た.なお,Schramlら4)は,Sr-89 162MBq投与 5 日後に病理 解剖を行ったところ,病理医の線量計はカウントできない 程度であったと報告している. 一方,制動放射線による外部被ばくについて,当該患者 から 1mの距離における実効線量率は,Sr-89のb線のター ゲットが原子番号20である場合の制動放射線による実効線 量率定数(0.00118(eSv・m2・MBq–1・h–1)5))を用いて,20 (MBq)・0.00118 = 0.0236(eSv/h)と計算された.なお,医療 従事者がこの患者から 1mの距離で,1 日 8 時間滞在すると 仮定した場合,1 日の被ばく線量は実効線量として0.19eSv となり,1 年間における被ばく線量は,一般公衆に対する年 間線量限度である 1mSvを超えることはないと考えられる. Fig. 2 A pelvis radiograph. Left femoral head replacement for pathological fracture of the femoral head.
(a) Before surgery. (b) After surgery.
Table 1 The value measured by survey meter (ICS-321B, ALOKA) during surgery 手術開始時(大腿骨頸部まで約 1m) 大腿骨頸部切断時(同,約 1m) 切除後の大腿骨頭(同,約10cm) 手術終了時(置換部位より約 1m) 0.5eSv/h 2.3eSv/h 17.0eSv/h 0.1eSv/h
Table 2 The list of subjects considered before surgery ・医療者への被ばく線量の推測
・手術室内でのb線の測定
・医療者への,骨の取り扱いに関する周知 ・摘出した骨の保管・管理
Table 3 Feather’s method
エネルギー(MeV) エネルギー(MeV) 飛程(cm) 飛程(cm) 空気中 ガラス 上質紙 コンクリート ポリエチレン アルミニウム 水中 鉛 アクリル タングステン 密度(g/cm3) 最大エネルギー 平均エネルギー 密度(g/cm3) 最大エネルギー 平均エネルギー 0.00129 523 158 2.50 0.27 0.082 1.49 0.61 1.49 0.61 0.7 0.96 0.29 2.40 0.28 0.085 0.93 0.73 0.22 2.70 0.25 0.076 1.0 0.67 0.20 11.3 0.060 0.018 1.20 0.56 0.17 19.3 0.035 0.011 R = (0.542Emax–0.133)(g/cm2)/密度(cm3(ただし,Emax > 0.8MeV))
R = (0.407Emax1.38(g/cm) 2)/密度(cm3(ただし,0.8 > Emax > 0.15MeV))
158 木谷 哲 他 また,Sr-89の適正使用マニュアルでは,Sr-89の生物学的半 減期を100日(実効半減期33.6日)とし,141MBq投与された 患者から 1mの距離で,1 日 8 時間,週 5 日滞在した場合の 年間の外部被ばくは0.046mSv/年と算出されている6). 手術時には,骨露出後摘出まではアルミニウム箔を二重 にして遮蔽し,摘出後速やかに 1cm以上厚みのあるアクリ ル製の容器に収容した.術者,助手,直接介助の看護師 は,手袋を二重に装着した.また,手術時に骨片が飛散す る可能性があり,吸入による内部被ばくを防止するため, 術者,助手,直接介助の看護師だけではなく,麻酔科医 師,間接介助の看護師にもガウンテクニックを行い,マス クを二重にして装着した. この大腿骨頭の医療用放射性汚染物としての廃棄措置 は,放射性同位元素によって汚染された物の廃棄の委託を 受けた業者として国から指定を受けている,日本アイソ トープ協会への引き渡しが考えられるが,このように,人 体からの排泄物や血液などの体液が付着したものは,バイ オハザードの面で集荷できないとされている.また,オム ツと同様に取り扱うことの是非についても判断できなかっ た.そこで,Sr-89を投与していただいた東京医科大学病院 で保管することとした.
結 語
今回,Sr-89治療後の病的骨折に対し,大腿骨頭置換術を 施行した症例を経験したので,報告した.今後,緩和医療 目的にSr-89の使用は増加すると考えられ,Sr-89治療後に骨 折等の治療のために,観血的に骨の手術を行う症例も今後 増加していくと推察される.今回,可能な限り,『有痛性骨 転移の疼痛治療における塩化ストロンチウム-89治療の適正 使用マニュアル第三版』6)に則ったが,現行のマニュアルで は対応困難な部分もあり,マニュアルのさらなる充実が必 要であると考えられる. 謝辞:今回の手術施行及び本稿の執筆にあたり,日本アイソ トープ協会 池渕秀治先生,群馬大学大学院医学系研究科腫瘍 放射線学 髙橋健夫先生,日本メジフィジックス株式会社,日 本化薬株式会社より,数多くの助言・指導をいただきました. 深く感謝致します.文 献
1) 西尾正道,佐野宗明,玉木義雄,他:疼痛を伴う骨転移癌 患 者 の 疼 痛 緩 和に 対 する塩 化 ストロンチウム(Sr-89) (SMS.2P)の有効性及び安全性を評価する多施設共同オープ ン試験.日本医放会誌 65 (4):399-410,2005. 2) 医薬品インタビューフォーム.メタストロン®注,2007. 3) 被ばく線量の測定・評価マニュアル.原子力安全技術セン ター,2000.4) Schraml FV, Parr LF, Ghurani S, et al.: Autopsy of a cadaver containing strontium-89-chloride. J Nucl Med 38 (3): 380-382, 1997. 5) 放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル2000.原子力安 全技術センター,2000. 6) 有痛性骨転移の疼痛治療における塩化ストロンチウム-89治 療の適正使用マニュアル─安全管理編─第三版.日本核医 学会,日本医学放射線学会,日本放射線腫瘍学会,日本緩 和医療学会,2008. 要旨:今回われわれは,疼痛緩和目的に,塩化ストロンチウム-89(Sr-89)を投与した後に大腿骨頸部病的骨折を受傷し,投与81日後 に大腿骨頭置換術を施行した乳癌多発骨転移の症例を経験したので,報告する.手術施行にあたっては,事前に放射線量を推定 し,Sr-89を含む骨からの被ばくを減らすため,十分な注意を払った.術前に推定した線量ならびに,線量計を用いて計測した線量 は,ともに線量限度に比べ,低値であった.今回のわれわれの報告は,今後の同様の症例に対し,参考になる報告であると考えら れる.