心身の健康回復過程における勇気づけのコミュニケーションに関する研究
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(2) 心身健康科学. 研究は見られない.勇気は心理状態を表し,勇気づけは. 17 巻 1 号(2021 年). なお,インタビューの協力者は,上記に加え,現時点. コミュニケーションといえ, 心理学的概念と考えられる.. で健康であることを確保するために現在はエピソードに. ところが,本邦の心理学でも勇気を正面から扱っている. 書かれた問題で, 「医療機関にかかっていない人」を条件. 先行研究は多くない.羽鳥は心理学的研究における勇気. とした.. の取り扱われ方を概観して, 「勇気の社会的関心は高い. 3). しかし,心理学者の関心は限定的」と述べている .米. 4.教示内容 1.質問紙とインタビューガイドは同じ内容である.. 国においても「勇気の研究はまれであり,恐怖や関連す. 「あなたがこれまで心や体の問題から回復するときに,. る概念はよく研究されてきたが,ごく最近まで研究のト. 誰かに勇気づけられた体験を一つ思い出していただき,. 4). ピックになっていなかった」と指摘されている . 人は他者から言われたことよって, 人生が好転したり,. ご自由にお書き(お話し)ください.問題は,ストレス, 病気,事故,障害など,どのようなものでもかまいませ. 逆に傷つけられることがある.言葉やコミュニケーショ. ん」 「あなたは,そのことをどのように感じ,あなたの心. ンは心身に深い影響を与える.心身健康科学の知見を一. や体に対してどのような影響があったと考えられるでし. 般社会で実践するために, 「勇気づけ」を研究することは. ょうか」とした.. 有益と考えられる. そのため本研究では,心身の健康回復過程において,. 5.分析方法 1.データは質問紙の自由記述欄の回答と,それを基に. 勇気づけはどのようなプロセスであり,勇気づけを受け. したインタビューから得たエピソードの逐語録をデータ. た人はそれをどのようなプロセスとして体験しているか. とした.インタビューを受けた人の質問紙の回答は使用. を調査し,勇気づけられた体験の要因を抽出し,そのプ. せず,インタビューの回答のみを用いた.. ロセスのモデル化を試みることにした.. Ⅱ.方. 法. それらを質的分析法である修正版グラウンデッド・セ オリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した.MGTA に適する研究の特徴として研究対象がプロセス的. 1.リサーチクエスチョン. 特性を持っていること,ヒューマンサービス分野におけ. 「人は心身の健康の回復過程において,勇気づけをど. る研究結果の実践的活用が期待されることがある.さら. のようなプロセスとして体験しているか」とした.. に M-GTA の特徴として, 「意味の深い解釈」が挙げられ. 2.研究対象者. る 5).本研究では日常語である「勇気」を取り上げるの. 上記のリサーチクエスチョンから分析焦点者として,. で,研究協力者が十分に言語化できないことも予想され. 「心身の健康の回復過程で,勇気づけられた体験をした. る.語られた言葉の意味を分析者が深く解釈する必要が. 人」とした.目的に沿った理論的サンプリングとしては. あること,過去と現在がつながる心理的プロセスを扱う. 心身の健康というテーマに関心のある人が多く,良質の. こと,さらに本研究結果が心身健康科学的支援の場面で. データが得られることが期待される福祉,医療機関,団. 実践的に活用されることを目指すことから M-GTA を採. 体に従事している人を対象とした.. 用した.. 3.調査方法 第 1 段階調査(質問紙による). さらに, 本研究では構造構成的質的研究法 (西條, 2007) を分析方法の枠組み(メタ理論)として採用した 6).一. 「心身の健康の回復過程で勇気づけられた体験」を書. 般に研究では具体例の少ない概念は採用しないことが多. き入れる自由記述の調査票を作成し,X 県内の福祉団. いが,構造構成的質的研究法においては具体例の数がど. 体,医療機関に配布し,記述によるデータを得た.先ず,. れだけ必要かは,研究目的と関心相関的に決まると考え. 同意が得られた機関に研究者が出向き,所属する人たち. ている.本研究の目的に照らし重要と考えられる概念. に研究協力依頼書と調査票を配布した.調査票に記入し. は,具体例が少ない概念であっても有効性があるとして. た人には研究者へ郵送で返送を依頼した.. 分析を進めた.. 第 2 段階調査(インタビューによる) 自由記述シートには連絡先欄を設け,さらにインタビ. なお実施に当たって,M-GTA による研究歴のある臨 床心理士にスーパーヴィジョンを受けた.. ューに応じる意思のある人に連絡先の記入を依頼し,後. 6.倫理的配慮. 日筆者から連絡し日時と場所を決定した.実施時には,. 本研究の実施に当たっては,人間総合科学大学倫理審. 研究主旨,方法を書面によって説明し同意書を得た.そ. 査委員会の承認を得た(承認番号第 445 号) .研究協力. して質問紙に回答されたエピソードを詳細に聴取するた. 者には,プライバシーは守られること,調査途中いつで. めのインタビュー(半構造化面接)を行った.発言は録. も中止できること,それによって不利益は決してないこ. 音し,逐語録を作成した.. と等を書面も使って丁寧に説明し同意書を得た.研究協. 14(14).
(3) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). 力者の募集協力を依頼する機関にはその長の許可を書面 で得た.インタビュー協力者には同意書を得た.. Ⅲ.結. 果. 1.結果処理 全体で 128 人に調査票を配布し,36 人の回答が得られ た(回答率 28.13%).調査票は男性 8 人,女性 28 人,平 均年齢 44.16 歳(± 10.32) (4 人が年齢の記載なし),男 性平均年齢 39.25 歳(± 9.33) ,女性平均年齢 45.79 歳(± 9.93) (4 人が年齢の記載なし) ,うちインタビュー協力者 は 7 人で男性 1 人,女性 6 人,平均年齢 52.1 歳(± 6.44) (1 人が年齢の報告なし)であった.インタビュー協力者 の質問紙の回答は使用せず,データの重複を避けて分析 した.それらの反応の内容では, 「心理的問題」が主と判 断されたものが 25 人, 「身体的問題」が主と判断された ものが 5 人,両方が関係していると判断されたものが 6 人であった. 分析の手順としては以下のとおりである 5).先ずデー タから分析ワークシートを作成した.分析ワークシート では,得られたエピソードの中で,分析テーマである勇 気づけられた体験に関連すると思われる箇所を抽出し,. 図1. 「勇気づける側」の結果図. 「ヴァリエーション(具体例) 」とした.具体例からその 意味を考え, 「定義」として定義欄に記入し,それを短い 言葉に凝縮したものを「概念」として概念名欄に記入し た.そして生成された複数の概念同士を比較検討し,よ り抽象度の高い「カテゴリー」としてまとめた.このよ うに概念の生成,修正を繰り返し行い,新たな概念が生 成されなくなると「理論的飽和化」に達したと判断して 分析を終了した.そして概念とカテゴリー相互の関係を 比較検討し, 「結果図」と「ストーリーライン」を作成した. 2.各カテゴリーと概念 「勇気づける側」として 15 概念,4 カテゴリー, 「勇気 づけられた体験」として 12 概念,4 カテゴリーが生成さ れた.さらに「勇気づける側」に上位カテゴリーを 2 つ 抽出した.カテゴリーと概念,具体例を表 1,表 2 に示 す.そして,カテゴリー相互の関係から分析結果をまと めた結果図を作成した(図 1,図 2) .それら諸概念の関 係性を元に,簡潔に文章化した(ストーリーライン) .概 念を『. 』,カテゴリーを【 】 ,上位カテゴリーを[. ]. と表記した. 3.ストーリーライン 心身の健康が損なわれた人が回復を図ろうとすると き,先ずその分野の適切な機関や人々を求めることで, 回復に必要な『専門知との出会い』が生じる.そこで『回 復方向の提示』がされ,見通しが与えられる.また『回 復環境の整備』が周囲からなされることで,回復に向か う勇気発動の準備が整う.これらは回復に必要な知識や. 図2. 「勇気づけられた体験」の結果図 (15)15.
(4) 心身健康科学. 表1 カ テ ゴ 概念名. 17 巻 1 号(2021 年). 生成された「勇気づける側」のカテゴリーと概念,具体例. 具体例(抜粋). リー名 【新しい 『専 門 知 と の 出 会 知 識 と い』 配慮】 『回復方向の提示』 『回復環境の整備』. カウンセリングにより自分の考え方の癖に気付き,別の視点からの物事の見方を提案されたこ とにより意欲を回復していった。 新しい職場で中間管理職的立場で…不眠や意欲低下を起こしていった。…医師から回復に向け て方向性が示され安心することができた。 職場の上司がやさしく声をかけてくれ,通院がスムーズにいくように休みやすい環境を作って くれたり…. 【つなが 『回復途上の仲間の いろんなガンの重い方を目の当たりにして,逃げることなく明るく戦っている姿,その方たち り の 維 姿』 の姿と経験と話を聴きまして,私は「…そんなことでうろたえていてはいけないか」とすごく勇 持】 気づけられました。 『普段と変わらぬ何 授業で教えているだけの私にわざわざ遠くから声をかけてくれて親切というか,優しいなあ, 気ない存在,関心』 思いやりがあるなあと感じた。 『忘れずにいてくれ る人』. 部署が変わってからも気にかけてくれ,相談に乗ってくれた。とても助かった。ありがたかっ た。心が楽になった。. 『見守り,待つ姿勢』 薬の副作用で体力,精神的に気が滅入り,仕事においても職場に迷惑をかけていた時,上司より 励ましと温かく見守って下さった体験。 『孤独時に協力を示 仕事が忙しくて間に合わなくて行き詰まった時に,職場の先輩が仕事を手伝ってくれ,終わっ す』 た後に食事に誘ってくれた。 【認 め 『受容,傾聴的態度』 自分の思ったことをそのまま話を聴いてもらった。…ただ自分の話を聴いてくれた(問題はス る・肯 トレス)。安心,満足と感じ,元気になった。 定する】 『共感を示す』 女性の教頭先生が気持ちをわかってくれて声をかけてくれた。…「先生の言葉で勇気づけられ ました」と素直にいうことができ,がんばろう,やってみようという気持ちが持てた。 【解決の 『適切な考え方を示 方 向 性 す』 創り】 『具体的助言』. 自分の思いを聞いてもらい「大丈夫,誰もそんなことは思っていない…」と励まし…行動を起こ す勇気をくれた,と同時に過去を悩んでも何もプラスの変化は起きないことに気づかせてくれ た。現状を認め,受け入れる心構えができた。そしてこれからどうすればいいか,未来を考え る気持ちが生まれた。 ある方は,どうしたらよいのかとか,こんなことをしてみよう,とか,できる努力をしましょ う,と言っていただきました。それから頑張れました。前向きに誰かと関わろうと思えました。. 『信頼,期待を示す』「あなたならそうできると信じていますよ」この言葉は私に勇気を与えてくれました。 『肯定的な面,プロ 状態は最悪だった。同じ机のシマのリーダーの方が毎日根気よく「よく頑張っているね」 「あな セスの評価』 たの仕事ぶり,本当はみんなよく分かっているよ」とプラスの言葉をかけ続けてくれた。 『がんばらない,楽 体調を崩して休職中に社長の奥さんから 1 通のお手紙をいただきまして,その中に頑張らなく に生きようメッセ てもいいんだよという言葉が書いてありまして,ゆっくりでもいいから,少しずつでもいいか ージ』 ら,良くなったらいつでもいいから職場に戻ってきてねというお手紙をいただきました。. ケアを受けることであり, 【新しい知識と配慮】の段階で ある.. なる.以上は勇気づけの効果を高める状況を整備する [勇気づけ文脈創り]である.. 併せて生活場面では,さまざまな人との【つながりの. [勇気づけアプローチ] そこからの具体的な方法である. 維持】が重要となる.例えば病室などで『回復途上の仲. としては,『受容,傾聴的態度』で接し,『共感を示す』. 間』が勇気を持って回復に向かっている人としてのモデ. ことで,対象者を【認める・肯定する】ことが基本とな. ルになったり,周囲が『普段と変わらない何気ない存在,. る.だがそれだけでは不十分で【解決の方向性創り】が. 関心』を示して接することで,対象者を『忘れずにいて. 必要である.例えば『具体的助言』で指針を得たり, 『適. くれる人』となる.対象者が孤独で辛い時には, 『見守り,. 切な考え方を示す』ことで混乱したり不適切に陥ってい. 待つ姿勢』と『孤独時に協力を示す』ことは勇気づけに. る思考を整理し,方向づける.同時に『信頼,期待を示. 16(16).
(5) 心身健康科学. 表2 カ テ ゴ 概念名. 17 巻 1 号(2021 年). 生成された「勇気づけられた体験」のカテゴリーと概念,具体例 具体例(抜粋). リー 【勇気の 『重 荷 か ら の 解 放 気持ちが楽になりました。娘のことで夫婦げんかもなくなり,自分なりに行動に移すことがで 身 体 感 感』 きるようになりました。 覚】 『緊張の緩和,和み』 障害が明確になり始め落ち込んだ。その際に読んだのが漫画「浮浪雲」だった。救われたし勇 気づけられた。緩やかになった。 『温かい感覚』 【つなが 『孤独感の解消,仲 っ て い 間意識』 る感覚】 『大 切 に さ れ て い る,肯 定 さ れ て い る感覚』 『人々への感謝』. そういう関わりが私は「大切に思われている」とじんわり思えました。 抑うつ状態の際,長く付き合う友人がたわいもない会話をするために訪ねてきてくれ「ほっと」 した。一人ではない安心感。 そういう関わりが私は「大切に思われている」とじんわり思えました。…「私の存在を否定され るわけではない」という少々消極的ですが,そういう自分の存在を認めてくれる体験となって いて…困難があってもなんとかそれをエネルギーにしているのかもしれません …で,今ここに来られたんで,ホントに仲間がいてくれてホントにありがたかったなっていう ところですね。. 【新しい 『困難克服モデルの 意 味 の 獲得』 獲得】 『意味づけの変容』. 手足のない乙武さんがそれ程できるのなら、私にも出来る,努力は裏切らないと必死に生きて. 『自己理解の促進』. カウンセリングにより、自分の考え方の癖に気付き、別の視点からの物事の見方を提案された ことにより意欲を回復していった。. 【回復へ 『自 分 の 課 題 の 理 踏 み 出 解』 す】 『他者への関心の生 まれ』 『未 来 志 向 の 芽 生 え』. いる。 うまくできないことに対して「ま,いっか」という視点が持て,楽になりました。. 相手の気持ちや自分にできることは何かを深く考えるようになりました。 それから頑張れました。前向きに誰かと関わろうと思えました。 現状を認め受け入れる心構えができた。そしてこれからどうすればいいか,未来を考える気持 ちが生まれた。. す』ことや『肯定的な面・プロセスの評価』によって, 相手の意欲を高め, 上手くいっているところを強化する.. Ⅳ.考. 察. しかし時には『がんばらない,楽に生きようメッセージ』. 1.分析結果から. を発することで,相手の焦りや不安を和らげることが必. 「心身の健康の回復過程で勇気づけられた体験」を集. 要である. これらにより勇気づけを受けた人は, 『重荷からの解 放感』や『緊張の緩和,和み』 , 『温かい感覚』といった. め質的に分析した結果,勇気づける側と勇気づけを受け る側合せて 27 の概念と 8 つのカテゴリー,2 つの上位カ テゴリーが見出された.. 【勇気の身体感覚】を得る.同時に人から勇気づけを受. 「勇気づける側」としては,問題に関する専門的知識に. けることで【つながっている感覚】を体験する.そして. より見通しを得て回復しやすい環境を得ること( 【新し. 『孤独感の解消,仲間意識』を持て, 『大切にされている,. い知識と配慮】)と,日常における肯定的な人間関係(【つ. 『人々への感謝』がわく. 肯定されている感覚』を得て,. ながりの維持】 )が,勇気づけが成立するコミュニケーシ. そして『困難克服モデルの獲得』によって,困難を乗. ョンの文脈になることが示唆された.. り越えるための具体的な行動を知ることと,『自己理解. その中で,受容的,共感的な関わり( 【認める・肯定す. の促進』がなされることで,病気や障害,自己に対する. る】 )と,積極的に解決に向かっていく関わりである(【解. 『意味づけの変容』が生じる.これらは今までの考え方. 決の方向性創り】)が勇気づけの方針になることが見出. とは違う【新しい意味の獲得】の体験となる.. された.これらは,一見相反するアプローチのように見. そして自分がなすべき『自分の課題の理解』を得るこ. える.20 世紀半ばまでの心理的支援の理論においては,. とで,『未来志向の芽生え』や『他者への関心の生まれ』. 指示や助言を中心にした方法と,それに批判的な立場で. が生じ, 「回復へ踏み出す」 勇気が発揮されるようになる.. あ る「非 指 示 的 ア プ ロ ー チ」の 違 い が 強 調 さ れ て い (17)17.
(6) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). た 7), 8).指示的アプローチには応用行動分析学や認知行. これらの先行研究と本研究で抽出された諸概念に共通. 動療法,非支持的アプローチの代表は Rogers らのカウ. 性が認められたことにより,本研究のサンプルは限定的. ンセリングのアプローチが知られている.本研究の結果. であるが,妥当性や一般化可能性を示唆していると考え. からは,どちらも当事者にとって勇気づけになり得ると. られる.. いえる.むしろ双方を相互補完的に,状況や文脈に応じ. 3.本研究の意義と実践上の留意点. て適宜使い分けることが適切ではないかと考えられる.. 本研究の独自性としては,先行研究にある一般的な社. 勇気づけを受ける側の体験としては,身体に肯定的な. 会状況的場面での勇気づけではなく,その人が心身の健. 感覚が生じ,対人関係において所属感や信頼感,感謝の. 康回復という課題に直面している状況に焦点を絞ったた. 思いが生じることが見出された( 【勇気の身体感覚】【つ. め,より臨床的な場面での具体的な態度や方法として提. .そして認知面の変化が生じ,これ ながっている感覚】). 示できたことと,勇気づけられる側の体験のプロセスが. まで否定的にとらえてきたことへの意味づけが変わり,. より明確になったことが考えられる.しかし,本研究で. 自身の課題が明確になり,回復に向けて必要な決断や行. 見出された勇気づけの要因は多く,プロセスも複数あっ. 為ができるようになることが見出された( 【新しい意味. た.そこから,勇気づけは多義的で複雑な現象であり,. の獲得】【回復へ踏み出す】 ) .これらの一連のプロセス. 単純な因果関係でとらえることは困難と考えられる.心. が当事者にとっては, 「勇気づけられた体験」になると考. 身の健康の回復を目指す人に対しては,そのための適切. えられる.. な勇気づけが必要であるが,実際の場面では慎重さも求. 2.先行研究との比較から. められよう. 【つながりの維持】 や【つながっている感覚】. 本研究結果と先行研究との比較を若干行う.コミュニ. にあるように,日常の関係性が勇気づけに重要な役割を. ティ心理学とアドラー心理学に基づいて, 一般人への「勇. 果たすことが示されたが,これは相手との良い関係性が. 気づけられた体験」全般を調査した浅井の研究. 9), 10). と. できないまま,安易に人を勇気づけようとして失敗する. 比較すると,浅井の「解決の見通しを志向する関わり」. ことを避けるためには必要な視点と考えられる.心理療. は本研究の【解決の方向性創り】と, 「内的リソースの認. 法の有効要因の研究では,「関係性」の寄与する割合が. 識を志向する関わり」は『肯定的な面・プロセスの評価』. 40%と最も大きいとされている 13).勇気づけも同様に,. に概念的に近いと考えられた.. 支援者が対象者との日頃の関係性を良好にすることを努. 岩井が提案するアドラー心理学による勇気づけの 7 つ 11). めることでその効果が増すと考えられる.. との比較では, 「聴き上手」と本研究の『受容・. 人は勇気づけという他者からのサポートを得ること. 傾聴的態度』,『共感を示す』 , 「プロセス重視」と『肯定. で,自己への気づきが増し,他者との関係性がより強く. 的な面・プロセスの評価』 , 「人格重視」と『信頼・期待. なり,たとえ困難があっても心身が健康になることを目. を示す』が概念的に近いと考えられる.またアドラー心. 指すことができるようになる.その結果として,その人. 理学では「相手の関心に対する関心を持つこと」を「共. が「よく生きる」ようになると期待される.. の方法. 同体感覚」と名づけて,精神的な健康のバロメーターと しているが, 『他者への関心の生まれ』がこの共同体感覚. Ⅴ.結. 論. と関連すると考えられる.心身の健康の回復過程で,人. 心身の健康回復過程で勇気づけられた体験のデータを. は勇気づけられることで他者や所属する共同体への関心. 質的に分析し,その要因とプロセスを抽出しモデル化し. が生じ,回復に向けた動機づけが高まると推測される.. た.勇気づけは多義的で複雑な現象であるが,勇気づけ. レジリエンスの研究では,レジリエンスを高めるため. ようとする人の留意点,勇気づけられた人のプロセスが. には「ソーシャル・サポートを求める」や「ロールモデ. 明らかになり,勇気づけによって他者との関係性の質と. ルを手本にする」,「認知と感情を柔軟にする」 ,「人生の. レジリエンスが高まり,心身の回復を進めることができ. 意味,目的を知る」等が重要であることが明らかになっ. ることが示唆された.. 12). .これらは本研究のモデルにおける【つながっ. 本研究の意義として,これまでその意義が自明視され. ている感覚】や【新しい意味の獲得】のカテゴリーや『困. ながらも十分に対象化されていなかった勇気づけに焦点. 難克服モデルの獲得』 , 『意味づけの変容』等の概念と共. を当て,意味とコミュニケーションのプロセスを明らか. 通していると考えられる.したがって人は勇気づけられ. にしたことである.それにより本研究結果は,心身健康. ることで,心身のレジリエンスを高めることができると. 科学的支援を考える際に参照することが可能である.. ている. 推測される.勇気づけは,対象者のレジリエンスを高め. 本研究の課題として,サンプル数が少なく,ある傾向. るためのソーシャル・サポートの一つになると期待でき. の集団に対して,M-GTA でいう「方法論的限定」14)を. る.. 行った研究であるため,一般化はできない.今後は調査. 18(18).
(7) 心身健康科学. 人数を増やしたり,調査対象者を疾患や障害別等に限定 したり,尺度を併用するなど,様々な角度から勇気づけ について研究することが必要である. 謝. 辞 本研究のご指導をいただいた小岩信義先生,丸井英二. 先生,調査にご協力いただいた機関の皆様,M-GTA に ついてご指導をいただいた臨床心理士の舩木紫音先生に 深く感謝申し上げます.. 引用文献 1)井原裕:激励禁忌神話の終焉,日本評論社,東京,317,2009. 2)平木典子:子どものよさに気づく‐ほめるための基本, 児童心理,金子書房,東京,1-10,2013. 3)羽鳥健司:勇気に関する心理学的研究の概観,東京成 徳大学臨床心理学研究,11 号,136-143,2011. 4)Pury, C & Lopez, S:Introduction, The Psychology of Courage, American Psychological Association, Washington, 3, 2010. 5)木下康仁:ライブ講義 M-GTA 実践的質的研究法修 正版グラウンデッド・セオリー・アプローチのすべて, 弘文堂,東京,66-68,101,182,186-222,2014. 6)西條剛夫:ライブ実践講義 質的研究とは何か,新曜 社,東京,99-100,179-180,2008. 7)佐治守夫・岡村達也・保坂亨:カウンセリングを学ぶ. 17 巻 1 号(2021 年) 理論・体験・実習 第 2 版,東京大学出版会,東京, 31,2007. 8)フリーマン.A:認知療法,遊佐安一郎訳,星和書店, 133-134,1990.(Freeman A:The Practice of Cognitive Therapy, Seiwa Shoten Publishers, Tokyo, 1989) 9)浅井健史:人はどのように勇気づけられるのか,日本 臨床・教育アドラー心理学研究会第 5 回大会配布資料, 2015. 10)浅井健史・箕口雅博:勇気づけが生じるプロセスの研 究(3)-受け手の認知に焦点を当てたプロセスモデル の作成,第 31 回日本心理臨床学会秋期大会,配布資料, 2012. 11)岩井俊憲:勇気づけの心理学 増補・改訂版,金子書 房,東京,5,25-28,66,2011. 12)スティーブン・M・サウスウィック,デニス・S・チャ ーニー:レジリエンス 人生の危機を乗り越えるため の科学と 10 の処方箋,岩崎学術出版社,東京,2015. (Steven M. Southwick, Dennis S. Charney:Resilience:The Science of Mastering Life`s Greatest Challenges, Cambridge University Press, 2012) 13)ミラー.S:心理療法・その基礎なるもの‐混迷から抜 け出すための有効要因,金剛出版,東京,36-37,2000. (Miller S, Duncan B and Hubble M:Escape from Babel:Toward a Unifying for Psychotherapy, W.W. Norton, & Co Inc) 14)木下康仁,前掲書,82-83,2014.. (19)19.
(8) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). A study on the communication of encouragement in the process of mental and physical health recovery 1). Takayuki FUKASAWA , Hiroko NAKANO. 1) 2). 2). Office Ruhe. University of the Sacred Heart. There are numerous reports of people describing the positive influences they have received from others as “encouraging” in the process of restoring their mental and physical health. The importance of encouraging others is often mentioned, but the content is not always clear. The purpose of this study was to clarify the factors and processes of encouragement from others in the process of recovery from a difficult mental and physical state, and to consider appropriate encouragement. Episodes of encouraging experiences in the mental and physical health recovery process collected through open-ended questionnaires and interviews which were analyzed using a modified grounded theory approach(M-GTA) . As a result of the analysis, 27 concepts, 8 categories with 2 top categories were generated. Therefore a result chart and story line were developed. It was found that the process of encouragement requires contextualization and methods on the part of the encourager, and that the recipient of the encouragement has bodily sensory arousal and positive cognition. Encouragement was considered to be one of the social supports that enhances the quality and resilience of interpersonal relationships. Encouragement is an important attitude and method to promote the recovery of mental and physical health of subjects. The results of this study suggest that it can be used as a reference in the field of mental and physical health scientific support. Key words:recovery of mind and body health, encouragement, modified grounded theory approach, Adlerian Psychology, Health sciences of mind and body. 20(20).
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