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Academic year: 2021

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まえがき

電子移動は化学反応としては最も小さい単位粒子である電子が, ある分子(ここで原子やイオンを含め,代表として分子とする)か ら他の分子へ移動する過程であるが,この電子移動過程が多くの物 質変換の基礎であり,自然界および科学・技術の多方面で重要な役 割を果たしている.電子移動は化学反応の基本となるものであり, 電子移動反応の理論が化学反応論の基礎となっている.電子移動反 応においてはその素過程の反応速度をかなりの精度で測定する方法 が確立しているので,理論的に提案された化学反応論を検証しなが ら進めることができる研究分野でもある. 本書では電子移動過程が実験的にも理論的にも取り扱いやすい溶 液中の均一系の電子移動過程を主として取り扱うが,固液界面など へも容易に応用することができる.ある分子の組合せでは,混合し ただけで電子移動を起こすことができる.この場合,高速電子移動 反応を追跡することは困難であるが,化学反応論の基本である平衡 と速度の知識が得られる.混合しただけでは電子移動が起き難い分 子の組合せの場合は,外部から電子を注入したり取り出したりして ラジカルアニオンやラジカルカチオンとし,それらから電子や空孔 を別の分子などへ移動させる反応(電子シフト反応や空孔(ホー ル)シフト反応ともよぶ)を開始させることもできる.さらに, 次々と電子が移る電子伝達反応も起こる.混合しただけでは電子移 動が起きない場合でも,光によって一方の分子を励起すると電子移 動をひき起こすことが多い.しかも電子移動後の結合開裂や結合組 換えを起こす化学変化は光合成の基礎としても重要である.また, 新しい太陽電池を設計して,光エネルギーによって電子を外部へ取

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り出すことも電子移動の重要な課題になっている. 本書では,溶液中の電子移動理論において重要な Marcus(マー カス)理論をできるだけ平易に記述したが,この理論を検証するた めにはその適用範囲を見極めることが重要であるとともに,電子移 動反応速度の測定を理想的な条件で広範囲に行うことが要求され る.今ではそのような例が多数報告されるようになってきたが,さ らに多くの課題が残されている. 電子移動をひき起こす連結分子の設計も急速に進展し,長距離の 電子移動を可能にする連結分子の研究も増えてきているのでいくつ かの例を紹介する.さらに,ひとつの分子系に光を吸収させて励起 状態にすると,電子を供与する部分と連結した別の分子系がその電 子を受け取って,長寿命の電荷分離状態が出来上がる,いわゆる, 人工光合成モデルの研究も紹介する. 読者がこの本によって電子移動の基礎を学び,さらに専門的な分 野に踏み出すステップに利用してくれることを期待している. おわりにあたり,担当編集委員,編集者の多くの助言に謝意を表 する. 2013年 1 月 伊 藤 攻 vi まえがき

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