日野直之 論文内容の要旨
主 論 文
Treatment of Hepatitis C Virus Infection with Direct-acting Antiviral Agents Elevates the Serum Small-dense Low-density Lipoprotein Cholesterol Level
直接作用型抗ウイルス薬によるC型肝炎ウイルス感染症の治療は血清小型高密度低 比重リポ蛋白コレステロール値を上昇させる
日野直之、佐々木龍、高橋洋一、小池真章子、福島真典、原口雅史、本田琢也、
三馬聡、小澤栄介、宮明寿光、市川辰樹、中尾一彦
(Internal Medicine, in press)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻
(主任指導教員:市川辰樹教授)
緒 言
C 型慢性肝疾患に対して直接作用型抗ウイルス薬(Directacting Antiviral Agents;
DAA)治療が行われるようになり、多くの症例で持続的ウイルス陰性化(Sustained Virological Response; SVR)が得られるようになった。しかし、近年 C 型肝炎に対し て DAA 治療を行い低比重リポタンパク質コレステロール(LDL)の上昇が見られること が報告されており、今後は LDL 上昇が動脈硬化性疾患発症に及ぼす影響が懸念される。
LDL はさらに亜分画があり、中でも小型で比重が重い分画は small dense LDL(sdLDL) と呼ばれている。sdLDL はより動脈硬化を惹起しやすく、冠動脈疾患のリスク因子と して報告されている。
これまで DAA 治療後の脂質の変化を長期的に評価した報告はなく、今回当院と関連 施設で DAA 治療を行った C 型慢性肝疾患症例で sdLDL を含め脂質の変化を検討した。
対象と方法
当院で 2014 年 9 月から 2016 年 3 月まで DAA 治療を導入後、2 年以上経過観察を行い、
sdLDL 測定が可能であった 67 例を対象とした。ダクラタスビル/アスナプレビル 32 例、ソフォスブビル/レディパスビル 14 例、ソフォスブビル/リバビリン 21 例。sdLDL を含めた脂質の変化を治療前から 2 年後まで半年ごとに評価した。sdLDL は血液検査 時の保存血清から測定した。
近年 sdLDL が 35mg/dL 以上の患者において有意に心血管イベント発症が多いと報告 されており、sdLDL 35mg/dL 以上への上昇に寄与する関連因子の検討を行った。関連 因子には年齢、性別、既往歴、治療前の検査所見に加え、CT 画像から画像解析ソフト ウェア Slice-O-Matic を用いて骨格筋と脂肪組織の CT 値と面積を算出し、それぞれ の因子について sdLDL 上昇との相関を検討した。
結 果
治療前の LDL 中央値は 91.0mg/dL、HDL 57.0mg/dL、TG 100.0mg/dL、sdLDL 12.8mg/dL だった。LDL は 2 年後には 114.0mg/dL に上昇(p<0.001)、HDL は 59.0mg/dL、TG は 91.0mg/dL と上昇は見られなかった(NS)。sdLDL は半年後より 19.5mg/dL に上昇し (p<0.001)、2 年後 25.4mg/dL と高値は持続した(p<0.001)。
治療開始 2 年後の sdLDL を 35mg/dL で 2 群に分けると、高値群では治療前 LDL 値が 低値群より有意に高値だった(p<0.001)。
sdLDL 35mg/dL 以上への上昇に寄与する因子を検討すると、単変量解析では LDL 高値、
アルブミン高値、骨格筋 CT 値(muscle attenuation; MA)高値、内臓/皮下脂肪面積比 高値が抽出された。Cox 比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、治療前の LDL 高値(≥91.0mg/dL, HR 4.768(95%CI:1.524-14.91), p=0.007)と MA 高値(≥33.7HU, HR 2.735(95%CI:1.092-6.848), p=0.032)が DAA 治療後の sdLDL 上昇(≥35.0mg/dL)に寄 与する因子として抽出された。
考 察
sdLDL は DAA 治療後から 2 年間持続的に増加した。C 型肝炎ウイルスはリポ蛋白と結 合し、肝細胞表面の LDL レセプターを介して肝細胞に感染する。脂質代謝系を利用す ることにより肝細胞内で増殖することが明らかになっており、LDL 上昇に関して DAA 治療によりウイルスが排除され脂質が血中に余剰することが原因として考えられて いる。sdLDL ≥35mg/dL への上昇は動脈硬化の高リスク因子であり、これらの C 型肝炎 患者は将来心血管イベント発症の可能性があるため、慎重な経過観察が必要である。
sdLDL 上昇に関して、治療前の LDL と MA 高値が治療後の sdLDL 上昇に寄与した。慢 性肝疾患では二次性サルコペニアをきたしやすく、近年肥満患者も増加している。骨 格筋への脂肪蓄積、筋肉の質の低下も認めやすく、筋肉内の CT 値(MA)や面積で評価 されている。今検討では MA 高値、即ち筋肉内脂肪蓄積が少ない群が sdLDL 上昇と関 連した。DAA と LDL 上昇、将来的な心血管イベント発症リスクに関してはさらなる検 討が必要である。