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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:金井 修一郎

博士の専攻分野の名称:博士(獣医学)

論文題目:イヌのホスホフルクトキナーゼ-1の活性調節

グルコースは,生体を構成する様々な細胞に取り込まれ,ATP 産生のための基質となる重要な栄養素で ある。グルコース輸送体により細胞内に取り込まれた1分子のグルコースが2分子のピルビン酸まで代謝 される経路が解糖である。解糖は嫌気的な反応であり,ここでは2分子のATPが産生される。さらに嫌気 的条件下では,ピルビン酸は乳酸にまで代謝される。一方,好気的な条件下では,ピルビン酸はミトコンド リア内に輸送され,クエン酸回路,電子伝達系を経てCO2にまで完全に酸化され,多くのATPが産生され る。そのため,解糖調節はあらゆる細胞においてATP産生の重要な初期代謝過程となっている。

解糖系は,細胞質に存在する酵素により触媒される代謝系である。ホスホフルクトキナーゼ-1(PFK-1 は,解糖系の代謝速度を担う重要な律速酵素の1つであり,フルクトース6-リン酸 (F-6-P) ATP依存的 にリン酸化し,フルクトース1,6-ビスリン酸 (F-1,6-P2) ADP生成を不可逆的に触媒する。哺乳類のPFK- 1には筋肉型PFK-M,肝臓型PFK-Lおよび血小板型PFK-P(脳型PFK-C)の3種類のアイソフォームが存 在し,それぞれの遺伝子によりアイソフォームがコードされる。様々な組織において,3種類のアイソフォ ームは4量体を形成し,活性制御に関わり,組織特異的な解糖系の調節を行っている。

近年,獣医療においてイヌにはヒトの医学領域に遜色のない診療の提供が求められている。しかし,ヒト とイヌでは,解剖学的構造,食性,行動様式が異なることから,代謝調節についても異なる点があると考え られる。本研究では,イヌのグルコース代謝を明らかにする目的の1 つとして,解糖系律速酵素のPFK-1 について,主要臓器における比活性,アイソフォーム構成,活性調節について検討した。

1. イヌの各種臓器におけるPFK-1の比活性およびアイソフォーム構成

PFK-1の筋肉型(M),肝臓型(L型)および血小板(脳)型(P型)の3種類のアイソフォームは特性 や活性が異なる。各種臓器において組み合わせが異なる4 量体を構成し,PFK-1活性調節に関わるとされ ている。本研究では,糖代謝の異なる主たる臓器,骨格筋,肝臓,脳におけるイヌPFK-1について,比活 性の違いを検討し,また,アイソフォーム構成について,タンパク質発現はウェスタンブロッティングによ り,mRNA発現はreal-time RT-PCRによりてそれぞれ検討した。また,肝臓には糖新生能があり,F-1,6-P2

からF-6-Pへの脱リン酸化反応を触媒する酵素フルクトースビスホスファターゼ-1(FBP-1)が存在するこ

とから,肝臓においては,FBP-1の比活性,タンパク質発現およびmRNA発現についても検討した。

イヌの骨格筋,肝臓および脳のPFK-1の比活性 (U/mg protein) は,骨格筋0.309±0.044,肝臓0.038±0.0078,

0.290±0.033であった。肝臓におけるFBP-1の比活性は0.057±0.0132 U/mg proteinであった。PFK-1のア イソフォームは,骨格筋ではM型のみ,肝臓では主にL型で少量のP型,脳ではM,P,L型の順で構成 されていた。肝臓ではFBP-1タンパク質およびmRNA発現が確認された。

以上の結果から,イヌにおいて,骨格筋および脳ではPFK-1の比活性が高いことから,骨格筋は運動状 況等に応じた活性調節を必要とすること,脳は常に好気的な多量のエネルギー消費が必要となることなど,

臓器の特徴がPFK-1 のアイソフォーム構成に反映されていると示唆された。また,肝臓のPFK-1の比活性 は低いが,アイソフォーム構成に大きな違いがあること,また,糖新生能を有することから,解糖と糖新生 のバランスを調節する因子により活性調節がなされることが示唆された。

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2 2. イヌ骨格筋PFK-1の活性調節

PFK-1の各アイソフォームはそれぞれに酵素触媒部位,活性促進部位,活性抑制部位が存在し,基質であ

ATPF-6-P,活性促進因子であるAMPやフルクトース2,6-ビスリン酸(F-2,6-P2,活性抑制因子であ るクエン酸が結合することと,異なった4 量体を構成することで臓器の機能に合わせた調節がなされてい る。しかし,骨格筋だけはM型のみで構成されている。そこで,イヌの骨格筋から部分精製されたPFK-1 を使用して,活性調節因子による効果について検討した。

イヌ骨格筋上清から熱処理とBlue-Sepharose吸着クロマトグラフィーにて部分精製したPFK-1について,

Vmaxを求め,生理的条件下で活性調節因子の効果を検討した。

その結果,VmaxpH 8.2で得られた。生理的条件下(pH 7.3)では,基質であるATPは,低濃度(0-1 mM)では活性を亢進し,高濃度(5 mM以上)では活性を抑制した。もう1つの基質であるF-6-Pは用量 依存的にATPによる活性阻害を抑制した。活性化因子F-2,6-P2は用量依存的にATPによる活性阻害を抑制 した。AMPATPによる活性阻害を緩和し,cyclic AMP(cAMP)もAMP同様に作用した。活性抑制因子 のクエン酸は用量依存的に活性を抑制した。ウリジン三リン酸(UTP)はより低濃度で活性を亢進し,ATP に比べ高濃度で活性を抑制した。

以上より,イヌ骨格筋PFK-1ATPにより活性調節がなされること,F-6-P,F-2,6-P2,AMP,cAMP 活性調節因子として,また,クエン酸は抑制因子として機能することが示された。これらの因子が活性調節 部位に結合することで制御されていることが考えられ,また,UTPATPと同じ活性調節部位に結合する が,酵素触媒部位にはより容易に,活性抑制部位には結合しにくいことが考えられる。

3. イヌ肝臓PFK-1の活性調節

肝臓は,取り込んだグルコースからグリコーゲンを合成,貯蔵し,また,貯蔵グリコーゲン分解や糖新生 により血糖維持の重要な役割を担う。第1章においてイヌ肝臓PFK-1 は比活性が低く,アイソフォームは 主にL型と少量のP型で構成されており,骨格筋PFK-1とは大きな違いがあることが示されたことから,

イヌ肝臓PFK-1の活性調節について検討した。

イヌ肝臓上清から骨格筋と同様な方法で部分精製したPFK-1 について,Vmaxを求め,生理的条件下で 活性調節因子の効果を検討した。

その結果,VmaxpH 8で得られた。生理的条件下(pH 7.3)では,基質であるATPは,低濃度(0-0.3 mM)では活性を亢進し,高濃度(5 mM以上)では活性を抑制した。F-6-PおよびF-2,6-P2は用量依存的に ATPによる活性阻害を抑制したが,骨格筋と比べより低濃度のF-2,6-P2はで有効であった。骨格筋では活性 化が示されたAMPは,ATPによる活性抑制を解除しなかった。クエン酸回路の中間体であるクエン酸は抑 制効果を,また,コハク酸でも若干の抑制効果が認められた。

以上より,イヌ肝臓PFK-1 においては,ATPは骨格筋 PFK-1以上に調節因子としての役割が大きいこ

と,F-2,6-P2は活性促進因子としての役割が大きいことが考えられる。また,AMPは活性化因子とならない

こと,コハク酸は弱いが抑制因子として作用することが明らかとなった。

4. イヌ脳PFK-1の活性調節

脳は,機能亢進時にグルコース消費が高まることから,エネルギー産生における解糖系の関わりは重要 と考えられている。第1章において,イヌ脳PFK-1の比活性は高く,3種のアイソフォームが混在して構 成されることが示されたことから,イヌ脳PFK-1の活性調節について検討した。

イヌ脳上清から骨格筋と同様な方法で部分精製したPFK-1について,Vmaxを求め,生理的条件下で活

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3 性調節因子の効果を検討した。

その結果,VmaxpH 8で得られた。生理的条件下(pH 7.3)では,基質であるATPは,低濃度(0-0.3

mM)で活性を促進するが,5 mMでは抑制は認められず,10 mMで抑制が認められた。F-6-Pおよび比較

的高い濃度のF-2,6-P2は用量依存的にATPによる活性阻害を解除させたが,骨格筋で認められたAMPによ る活性阻害抑制は認められなかった。活性抑制因子であるクエン酸による抑制効果は認められなかった。

以上のことから,脳PFK-1では,骨格筋や肝臓に比べATPによる抑制は弱く,また,活性調節因子の効 果を受けにくいことが示された。このことは,脳では常に好気的なエネルギー産生に共役した解糖調節が なされていると考えられる。

総括

本研究では,獣医学領域において重要なイヌを対象に,グルコース代謝における解糖の調節機構をより 深く理解するため,特徴的なグルコース代謝を有する骨格筋,肝臓および脳におけるPFK-1について,比 活性とアイソフォーム構成について検討し,さらに,代表的なアイソフォーム発現を有する骨格筋,肝臓お

よび脳のPFK-1の活性調節について検討を行った。その結果,骨格筋PFK-1のアイソフォーム構成は哺乳

動物で広く保存されているが,肝臓PFK-1は肝臓型が主たるアイソフォームであり,脳PFK-13種のア イソフォームで構成されており,さらに,基質レベルと代謝物が促進および抑制因子として調節に関わっ ているが,活性に影響を示す濃度や分子が臓器により異なっていることから,各臓器におけるエネルギー 代謝の特徴を反映していること考えられる。本研究は,イヌの代謝の一端を明らかにしたものであり,イヌ の代謝性疾患の解明などに役立つことが期待される。

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