カ
ウ
ン セラ
ー評 定
の共 感 性 と ク
ライ
エ ント
の自 己 評定の 共 感 性 と
の 関 連
一
臨 床 場 面 に お け る 共 感 性 と 共 感性 尺 度の 関係
一
橋 本 秀 美
は じ め に
共 感の概念は、これまで心 理 学 全 般に おい て 多義的に用い られて き た。 共 感に は、認 知 的側 面と感 情 的 側 面か らの と ら え方があ り、最近の研究で はそ れ ら を統 合 し て と ら え る方向が み ら れる (Hof丘nan ,1978,1982;Davis,1980,1983な ど)。また、共感とい う複 雑 な現象 を心 理 学 的に研究する と き、それ を どの よ う な形で捉 えて測 定 し てい くか ということ は重 要である。
こ の点につ い て、 その とら え方には、大 き く二つ の立場がある。一つ は その対
象で あ る他者の 体験と して客 観 的に捉 え る立場で あ る。これは、人 格 特性と して の共感性 をみ る場合で あり、
通 常 「共 感 性 」 と呼 ば れる もの で ある。もう一つ の 立
場は、実 際の共 感 を研 究 者や心理治療者 自身の 体験と して扱 う もの である。 これは一般 的 な 意 味
での 「共感性」で は なく、内 省 的 な視 点か ら、治 療 者の体験を通し て論じる 「共 感」とい うことになる。さ らに、 こ の 「共 感 」の中 にも、体 験とし て と ら え られるもの と、そ れ を さら に吟味し た り内省して初 めて得 られる、い わゆ る共 感 的理解と が考えられる。
1.問題 と目的
心理療法に おける面 接 過 程 を とら え る試み は、これまで カ ウン セ リング や遊 技 療 法 な どの実 践 過 程におい て 、 様々 に行 わ れて い る。 しか し、 実際に カ ウン セ ラーがク ラ イエ ン トの共感性 を どの よ う に読み とっ てい るの か につ いて は明 らか になっ て い ない 。 本研 究で は、臨 床 場 面に おけるカウン セラーと クラ
イエ ン トの相 互 関係に お け る共感を、数理統計的な検 討 す ることに より、客観 的に検 証するこ とを試 み る。具 体 的に は、面接過程の中で カウン セ ラーが ク ラ イエ
ン トの共感性の程度を 判 断 する場合、カ ウン セ ラーはク ラ イエ ン トの 共感性の どの よ う な側面 を判 断 材 料に し てい るの かを検討 する。その手 法と し て、 共 感 性 尺 度 (得 点)を用 い る。
とこ ろ で、角 田 (1994)は 「共有経験 因子」と 「共 有 不 全 経 験因子」の 2因 子 を抽 出し て尺 度 化 し、 2下 位 尺 度の値の 高 低の組み合 わせ か ら、共感性の 4 タイプ化 を行っ た (他 者の感情
が共有で きた経 験の値の高低と、他者の感情が共有で き なかっ た経 験の値の高低)。 こ こ で は、 感情の種類 とし て の 肯 定感情や否定感情を分 離するこ と な く扱っ てい る。 しか し、二宮 (1995)
は、共感性の情緒の種類の違い につ い て比 較 し、例えば喜びに対する共感性と悲 しみに対 する 共 感 性で は、発達に違い が ある と述べ て い る。 こ のよう に、感 情の違い 、こ の肯定感情か否定 感情か によ り、共 感 性に違いが み られる可能性がある。そのため、肯 定感情と否定感情に対す
る共 感 性 を別々 に捉え た共感性尺 度が必 要 と考え られる。
本稿に おい て は 、「自他の個 別性の認識の も とに、感 情の種 類に よ り他者の感情を代 理 的に 経験 しあるいは共 有 すること で あ る」と共感 性 を定義する。 共感を、 他者の感 情に一致 する が、 必ずしも同一で はない感 情の代 理 的 経 験あ るい は共有と し、感 情 的側 面 と認 知 的側面 を分離し
たうえ で、 両者の 関 係 を 明 確に し、その うえ で、 単な る他 者 理 解とい う認知過程で はな く、感 情の種 類による共感性の違い とい うの が、共 感 性の本質的な属性である と認 識 す る。
先の研究 (橋本 ・塩 見、2002b)で は、角田 (1994)の尺 度 を改 良し、新たな 共感性 尺度の 構成を試みた。本 研 究で は、作 成された尺度を用い て 、実 際に カ ウンセ ラーが評 定する共感 性
とク ライエ ン トの自 己 評定の共 感 性の 関 係につ いて検 討 する。
2. 共感性 尺度の作 成
予 備 調 査より選考され た共感 性に関 する30項 目の質問を もと に共感 性 質 問 紙が作 成 された。
こ の質問紙を 用い て中 学 生 ・高 校 生 ・大学生 を対象に調 査 を行い、欠 損値の ない 870名分のデー
タ を収 集した。こ の データを因子 分 析 (主 成 分 法 ・プロマ ッ クス回転)し、固 有 値の推 移 や 因 子 解 釈の可 能性の高さか ら因 子 数 を決 定し た。 次に、それ ぞ れの 因 子の 解 釈に用いた項目 の素 点 を 平 均し て因 子 得 点と し た。 そ し て、870名の分 析 対 象 者の 中の 223名に対し て 、第 1回 目の 調 査 を実施し て か ら4週 間 後に第 2回 目の 調 査を行っ た。1回 目の調 査 結 果 を もと に算出し た 因子得点 と、 2回 目の調 査結果を もと に算 出した因 子 得 点との相関を求め、下位尺 度 得 点の安 定 性 を検 討し た。
因子分析を行っ た結 果、 4 因子解 を採用すること が 妥 当と考え られたので、4因子解を採用
し た。共感性に関 する30の 調 査項目の 中で、 4つ の項目 が 2つ 以 上の 因 子に大 きな負 荷 量 を示 し た た め、こ の 4項目 を除 き、残 りの26項 目を用いて再度因子 分 析 を 行っ た。 その結 果、前回
の 因 子 分 析 と同 様に 4因子解を採 用 するこ と が妥 当と考え られた の で 4因 子 解 を 採 用した
(Tal)le l)。
第1因 子は、「相 手が喜ん でい て も、自 分は うれし い 気 持 ちに な ら なかっ た こ と が ある」な ど、
〈相 手の 肯定的感情を共有で き ない経 験〉項目か ら成り、“
肯定 感 情 共 有 不 全 因 子”
と命名し た。
第 2因子につ い て は 「相 手があること に満足 し てい ると語ると き、その 人の 体験し て い る満 足 を感 じとっ た こと が あ る」など、〈相 手の肯 定 的感情の共有経験〉 に関連し た項 目か ら成 り、
“肯定 感情共有因子” と命名 した。第3因子につ い ては、「何か に失 望 し て い る相手の気持ち を感 じとろ う と し て、 自分 も 同じよ うな 気 持 ちに なっ た こ と が あ る」な ど、〈相 手の否 定 的 な 感 情の共 有 経 験〉項 目か ら成 り、“否定感 情 共 有 因 子”
と命 名 した。第4因子は、「相手が あ る
こと に失 望し てい る と語っ て も ど うして そ ん な に失望 するのか、同じよ う な 気 持 ちになら な か
っ たこと が ある」などの よ うに、〈相 手の否 定 的 感 肩 を共有で き ない経験〉項目か ら成 り、“ 否 定感
1
青共 有 不 全 因 子”と命 名した。
ところ で、共感性の因 子構造が男子と女子 と で は異な る可 能 性があ る。そこで、データを男 女に分 けて因子分析を行っ た。 その結 果、男 女共、4因子解を採用する こ と が妥 当と考 え られ、
4因 子 解 を 求 めた結 果、ほ ぼ類似し たパ ターン行 列が得
られた。 こ うし たこ と か ら、共 感 性 に 関する因 子 構 造は、男 女 間で類 似 し てい る と考え られ、以 降の分 析 は 男 女 を 分 けずに行っ た。
4因 子 そ れ ぞ れにつ い て α 係数 を 求め た ところ0.8以 上の値が得ら れ、4つ の因 子の 内 的 整 合 陛が確認された (Table l)。さら に、4週 間の間 隔 をおい た再検査法により、 4つ の 因 子 得 点の相 関係数 を求め た ところ、r旨0.4 (pく.OOI)以上の相関が認めら れ、4つ の因 子の安 定性が
Table 1 共 感性尺度の因子分析結果 (主成分 法 プロ マ ックス回転)
因子 負荷 量
項 目 内 容 FI F2 F3 F4 F1:肯定 感情 共有 不全 因子(α=.89)
19:寛大 な気分の相 手の気持ち にならな かった こ とがある 17:満足 して いる相 手の気持ちにならなかった ことがある 15:相手が興奮して いても同じようには ドキ ドキ しなかったことがある 21:壮快 な気分の相 手と同じようには壮快にならなかったことがある 16:相手が何か に期 待していても同じようにはわ くわくしな かったことがある 18:相手 が喜 んで い ても自分 は嬉しい気 持ちになら な かった ことが ある 20/相手がびっ(りしても自分 は同 じような気 持ちにならなかったことがある
.80 .12 . 一.09 .04
.章80 .05 −.04 −、01
ttt、i6 −.08 ρ1 −.17
.73 −.02 .04 .05
、72 −.03 −.04 .02
.70 −.09 .15 .T4
.68 二.10 .08 .14 F2:肯定 感情 共有 因子(or=.88)
1:相手 がびっくりしたと聞いて自分も同じような気 持ちになったことがある 2湘 手 が喜んで いるとき自分も一循に嬉しい気持ちにな
ったことがある 3.相手 の驚きに 自分 も同 じように驚いたことがある
4:相手 が期待 して いるときにわ くわくした気持ちを感じとった ことがある 1:相 手 が興奮して いるときにそのドキ ドキした気持ち を感じた:とがある 6.相 手が 満足 して いるときにその満足を感じとったことがある
.05 −.10 −.05
.04 −.10 −.11
.00 −.01 .04
−.04 .OO .04
−、10 .09 .12
−.i9 23 」1 F3:否定 感情共有因子 〔α=.83)
12疲労して いる相手の気持ちを感じとっ て自分も疲 労を経験 したことが ある 13退 屈な相 手の 鼠持ちを感 じて自分も同様 な気持 ちになったこ とがある
8:恥 ずかしがる相手 の気持ちを感じて自分も同じ気 持ちになったことが ある 11孤独 な相 手の気持ちを感じとって自分 も孤 独な気持ちを経験した ことがある 14:不 安な相 手の気持ちを感じとって自分 も同様 な気 持ちになったことがある 9決 望して いる相 手の気 持ちを感 じて自分も同じ気 持ちになったことがある
10湘 手が何 か に嫉妬 して いるときにその人の嫉妬を感じとったことが ある 5.相 手が 何か ができない ときにその 劣等感を 自分も感じとった二とがある
一.09
−.05
−、09
.13
.06
.10
.15
.OO
一.24 .10
−、20 ’.75 ,04
.04 .68 .14
.04 、63 −.17
.13 .63 −.04
.20 ・「58. 一,11
.20 −.13 26 .01 F4:否 定感情 共有 不全 因子 (α=.92)
24.相 手が孤 独な 気持ちで いるときに 同じような気持ちにならなかった : とがある 2ヨ.相 手が嫉妬してるときに同 じように嫉 妬が 感じられ なかったことが ある 22:相 手が失 望 して いるときに同じような気持 ちにならな かったことがある 25.相手が退屈して いるときにその人 の退 屈が感 じられ なかったことが ある 26.相 手が何 かできないときに そ の劣等感が感じられ なかった ことがある
一.07 −.04 .02 .S6
−.02 .00 .00 、81
.09 .03 .04 .Z5!
.09 ,04 、03
.21 .11 −24
Flとの因子間相関 F2との因 子間相関 F3との 因 子 間 相 関
一.26 −.15 .49
.48 −、16
−.26
確 認された。 ま た、他の 尺度との併存妥当性につ い て検討した (橋本 ・塩 見、2002b)。こうし た結果か ら、4つ の因 子 得 点の 信 頼 性と妥当性が確認され た。な お、共感 性 を構 成 する 4つ の
因子をそれ ぞ れ共感性の 下位尺度と考え、4つ の因 子に0.4以 上の負荷量をもつ 項目で 4つ の下 位 尺 度 を構 成 し、各下位尺度項目の平 均 値 を下 位 尺 度 得 点と し た。
そ こ で、本研究では、新た に作 成された共感性尺度の こ の 4下位尺 度 得 点 を 用い て、カウン
セラー評定の共感性とク ラ イエ ン トの 自己評定の共感性の関 連 を 検 討 する こ と に し た。
3. カウン セ ラーとクライエ ン トの評定値の関係
方 法
調査対象 :A県内の大 学 生 女 子35名で あっ た。
調査時期 :2000年7月および2001年1月で あっ た 。
調 査 項 目 :
学生 (以 下、ク ラ イエ ン ト と記 す)35名
・本 共感性質問紙 :「い つ もそ うで ある」か ら 「いつ も そ うで ない 」ま での 5件法の回 答 形 式 で ある。
カウン セ ラーである心 理学教 員 (以 下、カ ウン セ ラーと記す)2名
・共感性 7段階の評 定 用 紙 :「最 も高い 」 「か な り高い 」 「や や高い ほ う」「中くらい」「や や低
い ほ う」 「か な り低い」 「最も低い 」の 7段階の評 定 形 式である。
面 接 場 面で は、 肯定感情共有 不 全、肯 定感情共有、否定 感情共有、否 定 感 情 共 有 不 全の各 因 子につ いてのエ ピソードな どを
、 カ ウ ンセラーか ら ク ラ イエ ン トに話 をす る形で提示 し、 クラ イエ ン トの 言葉 、話の内容、表 情 な どの 反 応 を総 合 的に判断し て、カ ウン セ ラー評 定 を記入す
る。 面接中に気づい た点などにつ い て は、評 定 用 紙の記入欄にメ モ をと る よ う に し た。 評 定に あたっ て は、Gendlin(1972)の体 験 過 程スケール (EXP ス ケール )の評 定 基準 (池 見、1995) な ど を参 考に した。
手 続 き
(1)実 施 法
意 識 調 査とい う説 明で、3 ク ラス 136名につ い て、授 業 中に集 団 実 施法に より共感性 質問紙 を 実 施し た。 調 査終了後、 さ らに面 接 法に よる調 査へ の協力を依頼し、協 力 を 申し出た学 生に
つ い て、翌 週か ら、放 課 後に 1 日あ た り3〜5名程 度の個 別 面 接 法 を実 施し た。 な お、調 査を 担 当したのは、筆者の 他に、カウン セ ラーで 大学の心 理学の教員 1名の計 2名で あっ た。学 生
35名に対し て、2名の 心 理 学の教 員が それぞ れ別室で面接を 実 施 し、 2人の得 点の平均値を データと し て使用し た。実 施 方 法は、学 生との面 接 を 実 施し、面接直後に カ ウン セ ラーがク ラ イエ ン トー人ひ と りの 評 定 を7段階評定用紙に評定 した。な お、評 定の考 慮に時 間 を要 する ケー