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(1)

629   − J一  

行動科学と  

L\ 組織におけるモーティベーションの理論  

−アー汐 

リスの所論を中心として−…  

山 口 椿 事  

Ⅰ序  

企業現象ほ,次の2つの側面で人間行動の問題であり,したがって行動科学   の関心対象となる。第1に,企業行動それ自体が,人間行動であるという側面   をもっている。企業行動といえど,実質的にほ人間の行動であることはいう ま   でもないが,この側面の人間行動は企業の目的との関係においてみられるこ  と,さらに,その行動は企業組織を構成する人々に.分蓑化,専門化されて:いる   ことがその特長である。価格設定,生産鼠計画など組織全体を通じて行われる   行臥 また,経営の多角化や設備の拡張なと企業組織とその環境との相互作用   を通じて・行なわれる行動が,それである。鱒2の側面は,物的資源や金銭的資源   とならんで企業経営の資源となる人間の行動である。企業に従事している人間   は,個人的な利害,欲求,動機との関係に・おいて,企業組織に魔樋的に参加・  

真献したり,あるいほ,しなかったりするが,欝2の側面はこのような側面の   人細行動をさしている。それは行動にあたって,個人の人間としての欲求や動   機が働くことを特色としておりト.モ−ティベL−ジョンの問題としてとらえ.ら  

れる。   

以上において注意されなければならないのは,まず,いずれの側面も組織を  

通じて,あるいは組織を媒介とした人間行動であることである。したがって,  

企業現象の解明には,組織論が不可次のものとなる。さらに,2つの側面の人   間行動ほ・,全く別個の現象でなく,相互に密接紅関連している。したがって,  

それらを研究する場合も,2つの側面を−・応別個のものとして研究すること  

や,差異を認識することは大切であるが,可能なら両者を統一・的紅把握するこ 

(2)

算42巻 算6弓   630  

・− 2 −  

とが望ましいであろう。   

周知のように,バ−−ナ・−ド,サィモソ,マ−チ,サイヤ一−トらの−・派ほ,行  

動科学の立場に立ち,意思決定を統劇概念とした組織論を基礎にして,両側面   を統一朝に把握するととに.一応の成功をみせている。とくに第2の側面に関し  

ていえば,組織均衡論や「モーティページョン決定」論として,その成果をみせ  

(1)  

ている。   

ところで,同じく行動科学の立場紅立ちながら,若干異なった理論体系でも   って,とくに上述の欝2の側面に・アプローチしようとするものとしてアージリ  

(2)  

スがあげられる。アージリスの研究デー・マほ−・賞して,個人が組織紅参加し行  

動することを通じて,個人が自らの欲求や動機を満足さしているか否かの問題  

であり,いいかえれば,組織における人間行動を,個人の欲求や動機を中心と   し,それと組織の要請とのコンフリクト(衝突)の現実や両者の統合の可能性   として問題紅するのである。  

(3)   

本稿払おいて,われわれはア−クリスの所論をとりあげ,企業現象のうちモ   ーティベー・ジョンの問題を考察しつつ,その所論の方法論的・内容的特色を明  

(1)サイモンく一派の学説紅ついで検討した代表的な日本の文献として次のものがあげられ   

るであろう。  

占部都美著『近代管理学の展開.』昭和41年    一編著『企業行動科学』昭和43年   

苫原英樹著『行動科学的意思決定論』(占部都美責任編集,現代経営学全集,20)昭   

和44年  

(2)ア−・ジリスの主著として次のものがあげられる。  

〔1.〕Cl・Argyris,Persor)ality andOrgaz7ization:The Conflict between System   and theIndividual,1957  

〔2〕M,Understanding OrganizationalBehavior,1960  

〔3:)M,hterpersonalCompetence andOrganizationalEffectiveness,1962  

〔4〕−,Integrating theIndividual亭nd theOrganization,1964(三隅=ネニ,  

黒川正統共訳『新しい管理社会の探究』昭和44年)  

〔5〕−,0IgatlizatiorlandInnovation,1965  

(3)ア・−ジリスの所論を検討した主要な日本の文献として次のものがある。   

占部都美著『現代企業の人間関係′』昭和42年,算6−9安   

田杉競稿「モ−サィべ−ジョンとり−タンツプ」新経営学全集 貨3巻『人事管理と    行動科学.』昭和42年,算2章 3 ア・−ジリス凍識論の展開   

大友立也著『アージリス研究:行動科学による姐識原論』昭和44年   

(3)

631   行動科学と組織におけるモータイべM・ジョンの理論  

−−3 −   

らかにすることにする。そ・のため,とくにアージリス理論を構放する基礎概念  

を中心にして,これを検討していきたい。この理論を用いた諸現象の説明や,  

それを応用した変数の変革とその予定,およびその検証ほ必要不可欠なものを   最低限とりあげることにする。  

王Ⅰ行動科学的モーティペーション論  

仙−アー汐リスの立場と研究意図−…  

アージリスの所論ほ,モL−ティべ−・ション論である。アージ.リスは次のよう   に・述べている。「われわれの見解は,組織参加者のモーティべ−・ションが個人  

(4)  

と組織との相互作用に.よってくるものであるということで示される」と。   

ところで,ノ、イネス=マッシー紅よれば,モー・−ティべ−ジョンを論ずる場  

(5)  

合,通常2つの方法があるという。   

第1牲,通常「経営者ほ労働者を『動機づける』′(motivate)ことに成功し   ているか」という論じられかたが,直接的になされる場合である。典型的な例  

としては,経営者の労働者対策としての手法・技法が中心的に.論じられる場合  

があげられるであろう。   

第2ほ,『動機』(motive)が強調される場合であ 

に・あって,彼を何らかの行為にかりたてる何ものかであると定義される。個人  

には基本的な欲求があるから,そのようにかりたてられるのであると考えら  

れ,人間の欲求についての分析が中心になる。   

アージリスの所論は.,経営者の目的を所与とした労働者対策の技法を論じる   技術論でほない。しかし,また,−・般欲求論でもない。ましてや,人間はかく  

かくの欲求をもつべきであるということを論じる規範論とも区別されるもので   ある。後に述べるように,アージリス紅おいては,自己発現の欲求が1つの重   要な基礎概念として設定されるが,このことは,人間の幸福ほ.自己発現にある  

(4)Argyris,Op。Cit.,1960,p・21  

(5)W.WいHayness andJ=L.Massie,Management:Analysis,Concepts andCases,  

1961,p.102   

(4)

第42巻 発6号  

_・J._   632  

のであるから,管理はその方向に向けてなされるぺきであるという主張とは区   別されなければなら寧い。   

アー汐リスのモータイべ−レヨン論ほ,実際の組織払おける現象としての特  

定の人間行動が何故生じたのかということを理解するこ≒に償1の主眼をおい  

て構築されるものである。 理論構築の手段として,行動諸科学(behavioral   sciences)の成果が利用される。すなわち,アrtyリスによれば,「■人々は何故あ  

のように行動するのかということを理解するため把.,行動諸科学の応用がます   ます増大しつつある‥…‥。今日までの行動諸科学の研究成果をもちよることに   よって−,基本的で有用な知識の領域匿ついて体系的な構図ができあがるのであ  

(6)  

る」と考え.られるのである。基本的で有用な知識の領域とは,この場合,組織   紅おける人間行動という問題領域のことをさしている。かくして構築される理   論は,行動科学(abehavioralscience)とよばれる。ア,ジリスは次のよう   に.述べている。「具体的な実際の組織常おける人間行動仙われわれは,それ   を組織行動(organizationalbehavior)とよぶ−−の理解に焦点をあてる新  

(7)  

しい行動科学(a new behavioralscience)という領域が発展しつつある」と。   

要するに.,アージリスの研究意図と立場は,次のように要約されよう。(1)組   織行動のモータイページョンめ問題を,個人と粗相との相互作用として理解す  

ること。(2)行動諸科学の研究成果を応用すること紅よって,組織行動を理解す   るための1つの理論的フレームワL−クの体系を構築すること。   

かくして−,できあがった理論的フレームワークほ,諸々の組織行動ゐ説明と   予定,さら紅は,フレームワ−ク軋含まれる諸変数のコントロ、−ルによる変革  

とその予定紅用い,科学的な検証紅たえられるものにしょうとするのが,アーー  

汐リスなのである。   

分析ほ.,まず,個人と組織,各々の基本的特質を論じるための・一腰的概念構   成をするこ.とからほ.じめられる。  

(6)Argyris,Op.Citり1957,p.2  

(7)ibid..,p.229   

(5)

633   行動科学と組織紅おけるモ−ティべ−・シ′ヨ:/の理論   −5 −  

ⅠⅠⅠパーソナリティの構造とメカニズム  

個人を分析するための概念構成は,アー汐リスにおいてこほノ,心理学のパ−ソ  

ナリティ論の検討によってなされる。そこから,組織行動を理解するために必   要なかぎりの諸概念が選びだされ,相互の関係が明らかにされていくのであ   る。   

パL−ソナリティというのほ,ここでほ,他人との比較に.おいての特定の個人  

の特性を意味しているのではない。それほ,欲求,能力,心理的エネルギーな  

どの諸部分からなる全体をさしている。諸部分は無関係に.存在するのでなく,  

相互に強く結びつこうとしている。各部分は,自らの存在のため紅,1つま−た   はそれ以上の他の部分を必要とするからである。諸部分は,以上のような関係  

を結びながら,パー・ソナ■リアイという全体をシステムとして構成するのであ  

る。   

それでほ,パーソナリティを構成する部分に.ほどのようなものがあり,それ   ら諸部分の関係ないしメカニズムはどのようになっているのであろうか。   

1一 心理的エネルギー(psyd10logiealenergy)   

ア−ジリスによれば,「・エネルギ一概念ほ.,パ−ツナ・リグイ論の柱をなすも  

(8)  

のである。」つまり,パーーソナリティ論紅おいては,人間行動は.エネルギーを  

中心的な概念として説明されているのである。   

アL一汐リスほ・,以上のようなパ−ソナ■リティ論を応用して,とくに,「心理  

的エネルギ−」の概念を設定し,これを中心に理論的フレームワ−クを構築し  

(9)  

ようとす挙0   

心理的エネルギーほ,われわれにとって観察可能な現象として−の人間行動を  

説明しょうとする際,生理的エネルギーではうまく説明できない人間行動を説   明するための構成概念(a costIuCt)である。たとえば,−・口の仕事で疲れは   てたといっていた従業員が,仕事の後,夕方おそく富でテニスに興じていたり  

(8)Argyris,Op。Cit.,1960,pい22  

(9)Argyris,Op。Cit.,1964,p…21   

(6)

第42巻 第6号   634  

− 6 −  

することほ,卑近な例として観察されることである。このような行動ほ,生理  

学的次元のみでほ,説明困難であろう。このような場合,心理的、エネルギーの  

概念で容易に説明されることほ,明らかである。しかし,心理的エネルギ−ほ   構成概念であって,それが客観的経験的にどこに存在し,どのように生じるか   を観察することほできないが,われわれが日常観察している人間の行動の説明   に.役立ち,他の概念と論理的紅一層した関係を保つという役割をほたしてい  

〈】0)  

る。   

さで,他の概念と論理的に−・賞した関係を保つため,心理的エネルギーは,  

(11)  

まず,個人の欲求のなかに存在すると仮定される。欲求のなかのエネルギー   は,ボイラーのなかの圧力にたとえられる。圧力ほ常に潜在的なカをもって存   在していL挙が,ある一億の大きさに・ならないかぎり,ボイラーを活動させるこ  

とはしない。同じように,心理的エネルギ、−ほ潜在的紅は,常に存在するが,  

一億の大きさに.ならないかぎり,欲求は活動しぼ.じめない。こ.のようにL,欲求   ほ.活動しているか,していないかで問題とされる。ま−た,イ也のエネルギ〃・・・・・と同   様把.,心理的、エネル軒−・も不滅である。したがって,−・方で出口を阻止された   心理的土ネルギ叫は,何らかの方法で他方に出口を求める。   

つぎに,欲求が活動しはじめた状恩,すなわち,心理的エネルギーの沸騰状  

(12)  

態を緊張てtension)という。この場合,パーツナ・リティのなかの欲求が,外  

(1Sl  

的環境にある何らかの目標との関係において,緊張状態にほいったものとみる  

こ.ともできる。  

2 能力(atほ1ity aIld(!Ompe加nee)   

欲求と目標との関係としての緊張状態は,何らかめ方法で解消なし軽減され  

るが,それに.よって行動となってあらわれる。そのためには,活動状態にほいっ  

(】αibid。,p.22  

ul)Argyris,Op。Cit.,1957,p..27  

(12)ibid.,p.28  

㈹ 欲求と目標との関係につセ、てアーー■クリスほ次のように述べている。「パ・−ソナーリティ    の内部濫.存在するものとして概念化される欲求は,目標の概念を通じて環境のなか把.あ   

らわれる」(Argyris,Op.Cit小,1960,p.1fn.)。   

(7)

635   行動科学と組織におけるモL−ティベ−ジョンの理論  

− 7−   

J  

た欲求の心理的エネルギーに.何らかの伝達径路を与え目標へと到達させること   が必要Lとなる。つまり,「■能力とは.,欲求に.伝達径路を与えながら,環境との  

(14) 間で作用するものである。」   

アー・汐リスの所論を通してみるとき,大別して2つの能力概念が含まれて   いる。基礎能力(ability)というぺきものと環境対処能力ないし問題解決能   力(competence)とである。   

アL−ジリスによれば,能力ほ,一・方でほ,相互に関連する3つの塾に・分けら  

(15)  

れて:いる。  

1)認琴能力(knowingorcognitiveabilities)−われわれをとりまく   世J界を知るために用いられる能力。   

2)動作能力(doing or motor abilities)−一物事を物理的に為すこ・とを   可能にする能力。   

3)感受能力(feelingabilities)一実生活のなかで多くの複雑な感情を経   験したり,他人の感情を感知したりする能力。   

以上のような能力は,「欲求と隣合わせにあり,多くの場合,欲求から生じ  

(1¢) てくる」といえるものである。いいかえれば,欲求と不可分の関係においてニ,  

いずれのパーソナリティにも潜在的に存在し,発揮されるぺくあるのである。  

こ.のような意味において,以上のような概念内容をもつ能力を基礎能力という   ことができよう。   

他方,アークリスの所論にほ,もう1つ能力概念が含まれている。基礎能力   が伝達径路の−・方の端である欲求との関連において強調されるのに対し,これ   から述べる能力ほ,環境との関係を強調し,明確にするものであり,環境如・処   能力ということができよう。人間は諸々の種類の環境のなかに存在している○  

物や観念(things andideas),さらにほ,人々(people)がそれであるo こ   のような環境の種類にしたがって,アージリスは能力を分析上次の2種に分け  

u4)Argyris,Op.Cit・,1957,p.34  

仕5)ibid.,p..34  

(16)ibid.,p.33   

(8)

難42巻 解6号  

ー β −   636  

(17)  

るこ.ともできるという。   

1)知的・合理的・技術的能力(intellective,rational,teChnicalcom−  

petence)   

2)対人能力(interpeISOnalcompete 

前者ほ物や観念に対処する能力であり,後者ほ人々に対処する能力なのであ   る。また,この環境対処能力は,問題解決能力といえる側面をも,もってい  

(18)  

る。環境のなかの目標が明確な場合ほ.,欲求と目標との間の緊張関係は,目標   到達紅よって,解消される。到達のための伝達径路は,基礎能力で十分であ  

る。ところが,目標は常に明確である 

(19) 大前提として,目標の明確化,すなわち問題解決が必要となる場合がある。環  

境対処能力が強調されるのほ,このように問題解決能力が必要なときである。  

5 自己(self)と自己概念(self−eOlleep七)   

以上ほパーソナリティの一腰的構造とメカニズムである。いずれゐ個人のパ  

ーソナ.リティも欲求や能力から成り,それらが働くことに.よって個人は行動す   るのである。ところが現実として,個人ほその行動に.何らかの個別的な特徴を   みせるのが普通である。人間行動のこのような側面を説明するために,「自己」  

(20)  

という概念がある。パ−・ソナリブイが欲求や能力で構成されているということ  

ほ,叫・般的なレベルでいえることである。ところが,パ−ソナリティを構成す  

(17)Argyris,Op.Cit.,1962,p.16  

(1邸 ア−i7リスは次のように述べている。「人間はできるだけ有能に.(cbmpetently)に    環境に対処しようとしている。能力(competence)とは,問題の再発を防ぐような解    決策を展開し,かつそれをできるだけ少ないエネル単一使用でそうすることによって問    題解決をすることである」(Argyris,OpCit,.,1964,p24)。  

(19)ア・−・汐リスは環境対処能力と目標との関連に.ついては,自尊意識(self−eSteem)と    いう概念を媒介に.して次のようにJ述べてし、る。「自尊意織は個人が問題解決を自分自身    のものとし,自分の能力,努力,さら紅は自分の仕事として環境に有能軋対処すること   

によって発展せしめられる。・個人の自尊意識闇次の要因が増大するにつれて発展す   

る可能性がある。1.自分自身の目標を明確にすることができる。2..それらの目標は    自らの中心的欲求ないし価値感に関連している。3.それらの目標への伝達径路を明確    にすることができる。4.・それらの目梗の遂行が個人にとって現穿的欲求水準であるこ   

と」(Argyris,Op.Cit..,1964,p.26)。  

伽)AIgyris,Op..Cit.,1957,p.35   

(9)

637   行動科学と組織におけるモータイペ・−ジョンの理論   −9 −   

る諸部分の具体的な内容や統合の様式は,個人紅よって,ま\た同劇個人でも成   長するにつれて異なってくるのである。このようなパー・ソナリデイの独自性を  

「■自己」というのである。   

自己は,それをもつ個人にとって,意識的部分と無意識的部分と紅分けるこ  

(21)  

とができる。意識的部分をとく紅「自己癖念」という。自己概念がそれをもつ個   人において,経験に対処する指標あるいは経験の意味を判断するフレームワー  

(22)  

クの機能をほたしてこいることは重要である。個人は,−・方で常紅白らの欲求や  

能力を考慮し意識しつつ,経験の世界に対処しているのである。特定の個人の   経験しつつあるものが,その人の自己概念と合致するものであれば受容され  

る。そしてこ経験は完了するであろう。主に反復的で過去に経験あるような種類   の行動がこれにあたるであろう。これに対して,経験しつつあるものと自己  

概念とが相反するものである場合,それは個人にとって:「脅威」(threat)とな  

(ご3\  

る○得威についてほ後に述べることにん 

ところで,人間は物的,文化的,社会的環境のなかで行動している。パーツ  

ナ・リティ論でほ,自己と環境のバランスをとりながら行勤して:いるとみなされ   る。バランスがとれて:いるか否かの判断は,自己概念紅よるのである。自己概  

念を通して環境の世界がのぞかられるのである0 

(24)  

世界でほありえないのであり,「私的世界1(private world)である。   

かくして:,人間行動を−・般的紅記述する概念用具がととのえ.られてきた。人   間ほ人間共通の行動をとることがあるのほ,生物学的な次元でのパーソナ・リテ  

ィの共通部分があるからである。ある文化的・社会的環境にいる人々がそこで   共通の行動をとることがあるのは,環境檻共通部分があるからである。それで  

も説明されない個別的な独眉の個人の行動ほ,パL−ソナリティの個別的独自性  

による。また,自己の拡大ほ私的世界の拡大をもたらす。  

飢ibid.,pp.35−36;Argyris,Op.Cit。,1964,p..23   C2)Argyris;Op。Cit.,1957,p。36  

C23)ibid・・,p..36;Ar gyris,Op.Cit..,1964,p.25  

24)Argyris,Op…Cit.,1957,p.36   

(10)

第42巻 第6号  

ーJクー  

638   

4 防衛と成長のメカニズム   

経験しつつあるものが脅威となった場合,これに対処するに2つの通があ  

(25)  

る。   

第1の道ほ,脅威を引き起こしているものを直視し,自覚して,それに対応   して自己を変革拡大しで,受容することである。それは,−L方では,新たな欲   求や能力を獲得して,パーソ−サリティを構成する部分の拡大,強化,深化さ   すことによって,他方で,個人の経験する環境憶界である私的世界を拡大さす   ことに.よって成長をもたらすのである。したがって,単なる受容とは区別さ   れる。  

ヽ  第2の道ほ・,脅威を与えているものを無視し,否定することに・よって!自己   を保護し,維持す・るこ.とである。この行動は防衛(defense)とよばれる。防衛   行動は自己の現状維持である。したがって,それほ脅威を引き起こ.している環  

境である私的世界にも変化ほない。   

ここでメ 自己紅脅威を与え.る経験にらいて述べておこ.う。アージリスによれ   ば,「しばしば脅威を与え.る経験に,不安,コンフリクト(葛藤),プラストレ  

(26)  

−ション,失敗の4つがある」という。  

1)不安。不安は1つの強い感情の状態であって,それは経験することはで   きるが,それがどこからくるものであるか,何が原因であるか判断でき   ないことを特色とした状磨。   

2)コンフリクト。これほ,同時にほ.充せない2つの欲求を同時に充たそう   とするところ紅原因がある。   

3)プラストレ」−ション。目標紅到達しようとするとき,障害紅ぶっつかり,  

それにうちかつととができないとプラストレーショソに陥る。   

4)失敗。心理的失敗は,欲求に関連さして目標を設定することができなか  

ったり,それほできてもそ・の間の障壁が厚かったり,それを東り越え/ても  

倒ibidりp.36   鍋ibid.,p.37   

(11)

639   行動科学と組織におけるモーティペ−ジョンの理論  

−ユヱ・一   

欲求の充足をおぼえ.ない状態である。   

いずれも,何らかの障害に・よってパ−ソナ・リティと環境の相互作用がうまく   いっていないことに.よることは明らかである。ところで,コンフリクトやプラ   ストレー・ジョンの経験は,−・旦,脅威となるがその場合障害さえ.克服すれば,  

成功の経験になる可儲性をもつものであることは注意されぬほならない。成功  

の経験とは,−・端ほ脅威となるが,その脅成を引き起こしているコンフリクト  

やブラストレーションを直視し,その原因を意識して,自己を変革拡大するこ  

とである。   

脅威は,一・方では,このように克服され成功を経験するこ.とに.よっ′こ成長を  

もたらす。しかしながら,.上に述べた4つの経験ほ,本質的に.は自己の防衛   に結びついてこいる。防衛は,次に述べるような種々の「防衛機酎」(defense   mechanisms)による行動となってあらわれる。次に.述べるのは,「防衛機制」  

(2ア) のうち代表的なものである。  

1)「攻撃」ブラストレ−ジョンの原因となっいる物や人に向けられ,これ   を損い害を与えようとする努力・企てをいい,悪口・侮辱・欺瞞といった  

心理的。社会的傷害の他,あらゆる中傷・傷害が含まれる。   

2)「継続」次善策をとっているが,コンフリクト自体は解決されていない   状態である。この場合,コンフリクトは解決されたのでなく,継続してい  

るのである。   

3)「否定」コンフリクトなど脅威の原因となって:いる事実を意識しないよ  

うにすることをいう。・−・旦,意識し,熟慮の結果としての口実とは区別さ  

れる。   

4)「合理化」失敗や能力のないのを隠すため,それと無関係な口実をもう   けること。   

その他,「逃避」「代償」など,要する紅自己防衛のメカニズムとして働く   ものすべてを防衛機制というのである。  

閻ibid.,pp,L41−45;宮城音弥編 岩波/ト辞典『心理学Jl「防衛機制」の項参照。   

(12)

第42巻 貨6号   640   

−Jヱ−  

5 成長と自己発現の欲求   

成長ほ,脅威の克服である成功の経験によってこもたらされ,成功のつみかさ   ねによって成長ほ続く。成功についてこさらに検討して:みよ.う。アー汐リスは次   のように述べている。   

「心理的成功は,個人が自ら設定した目標にエネルギーを投入するとき経験  

される。その場合,その日標の達成は彼の内面的欲求を充足させる。また,その   目標ほ,大いに『善軌』しなけれげならないはど強固であるやミ,克服して・でき   ないほど強固でない障害をともなっているので,・それを克服して」はじめて達成  

(28)  

される。(いいかえれば,彼は現実的欲求水準をもっているともいえる。)」   

叫般に.行動主体ほ,自ら設定した目的を達成しようとし,同時に,内的には   自らの独立性を維持し,外的には環境に適応して:いこうとする嘩向をもってい   る。この性向をアL−iyリスは,「自己発現」(self−aCtualization)といって:い  

(29)  

る。個人が成功を経験するとき,彼のパ−・ソナリティ内では,自己の欲求との   関連に‥おいて目標が設定され,その間にある障害を克服するため自己概念に含   まれていない自己の潜在能力が発拝されている。このような行動ほ,個人の自   己発現行動といえるのである。   

また,成功ほ欲求の充足をともなう。その欲求ほ皮相な外面的欲求とは区別   される,内面的で基本的な欲求である。この点また後に述べる。   

ところで,成功にかぎらず失敗その他を含めて,すべての経験ほ,防衛紅よ   って自己を維持するか,自己の拡大によって成長するかのいずれかである0縮   小することはないのであるから,パーソナリティは,程度の差こそあれ,成長   をその基本的性向としている。そこで,パ−ソナリティノ、の成長の方向や型が,  

自己によって全く異なるのでなく,パ−ソナリティー叔に通じる成長の方向と   塾があれば,次のことがいえるはずである。自己の独自性はパーソナリティの   成長の度合に.のみ還元すればよいの■であるから,自己発現の様式はパー−ソナリ  

俊8)Argyris,Op.Cit ,1957,ppり40−41   個ibid.,p..49   

(13)

641   行動科学と組織紅おけるモ−ティべ−レヨンの理論  

−J3−   

ティの成長の度合に還元して説明される。   

人間ほ肉体的には,幼児から成人になるにつれ,個人によって程度の差ほあ   っても,人間−・般に共通の成長の型ないし方向をもって:いる。アージリスに・よ   れば,同じようにパーソソナ・リティも,個人が幼児から成人把.なる軋つれて,  

自己によって程度の轟はあっても,共通の一腰的な成長の方向と型をもつので   ある。   

「パ−ソナ・リティに.本質的にある基本的な成長ないし発展の性向」ほ・,アー  

(30)  

ジリスに.よれば,次の7次元で示される。  

〔1〕幼児のような受動的な状態から成人のような能動的になるこ・とが多く  

なる状態へ発展してこいく傾向がある。積極的に多くのことを自決できる   ようになるのである。  

【:2〕幼児のように他人に.依存的な状態から相対的紅独立的な状態へ発展す   る傾向がある。他人紅依存的である状態ほ,幼児の行動が両親の決定に  よっているような状態をさして−いる。相対的独立とは完全な孤立でな   く,創造性を無視しないで,しかも健全な依存関係はもっていることを   意味している。  

〔3〕幼児のように数少ない方式でしか行動できない状態から数多い方式で   行動できる状態へ発展していく傾向をもっている。パーソナ・リティは成   長するにつれて,欲求・能力が拡大すると共に,・それらの連結関係も確   実なものになるのであるから,ある方式でフラストレーションを経験し   ても,他の行動方式へ切り変えることができるように・なる。  

〔4〕幼児のよう紅,たえず移りかわる,偶発的な,浅い,すぐ消えてなく   なるような興味のもちかたから成人のように.深い興味をもつよう紅.な  

(31)    る。興味とほいくつかの欲求の融合したものである。深化した興味から  

(30)ibid.,pp.49−51;Argyris,Op..Cit,,1960,ppL8−10   飢 AI・gyI・is,Op.Cit.,1957,p.33   

(14)

第42巻 第6号  

ーJ4−  

642  

生じる行動は,とどまることを知らない−・連の挑戦として特徴づけられ   る。  

〔5〕幼児のように.,時間的視野が短かくて,行動をもっぱら現在的視野で   決定していく状態から,成人のように,時間的視野を長くし,過去や未   来のことも考慮紅入れて行動が決定さ叫る状態へ発展する傾向がある0  

〔6〕幼児のように家庭や社会に.あって従属的地位紅ある状態から,自らの   同僚に対して同等もしくはそれ以上の地位を得ようと望む状態へ発展し   ていく傾向がある。  

〔7〕幼児のように自己紅ついての意識が欠除している状態から,成人のよ   う紅自己紅ついての意識と自己紅対するコントロールができる状態へと   発展する。自らの決定がその結果を左右できる領域が拡大していくので   ある。   

さて,こ.の成長方向を示す7次元は,われわれにとって,次のような意義を  

もっている。すなわら,「この成長方向のモデルは,研究者が成長の基本的な次   元を理解し,特定時点に.おける特恵個人の成長の度合を測定するため紅設けら  

く82)  

れた」ものである。個人はいかなる時点に.おいても,これらの7つの次元に.そ  

って発展していることが示されている。また,7つの次元ほ,発展の度合を測定   する尺度でもある。その尺度は7つの次元における連続線であって,個人がど  

こ軋位置を占めるかは,人紅よって,また同じ人でも時によって異なるであろ   う。かくして,自己発現行動は,特定個人について7次元の連続線上にプロッ   トされた点数(ないしその全体的なプロフィール)でもって説明されるであろ  

(3き)  

う。   

以上ほパーソナリティの構造とメカニズム紅ついて述べたものである。とこ   鋤ibid.,p.53  

脚ibid・,p・51なお,アージリスは,成功とさきに・述べた対人能力 

次のよう紅述べている。「m戎功』ということは対人関係紅よって人間が……・自己の意識    と受容を拡大することである(したがって)対人関係は・・・・‖心理的生活と人間の成長の    源泉であると仮定される」(Argyris,Op Cit.,1962,p.21)。このような立場からア・−   

ジリスは自己発現度測定尺度紅かえて対人能力測定尺度も開発しでいる(詳細について   

はArgyris,Op.Cit.,1965,Ch.1参照)。   

(15)

643   行動科学と組織に.おけるモータィページョンの理論  

−・ヱ∂−   

ろで,われわれはパーソナリティを構成する重要な部分として,欲求があること   にふれながら,それが具体的にどのようなものであるか明らかに・しなかったb   そ・こで,最後にそのことにふれておきたい。ア−汐リスに.よれば,人間ほ一・生   のうち多数の欲求をもつことほ事実であるし,その分類・体系化ほ有益である   が完全なものとなることはない。しかしながら,そのなかでも比較的有益なもの  

($4)  

として,内面的欲求と外面的欲求の分類があることを述べている。内面的欲求  

(き5〉  

とは,パ−ソナリティの中心的な位置をしめる基本的な欲求である。この基本   的な内面的欲求が成功の経験によって二充足されるものであることほ前に・ふれ   た。いいかえれば,このような基本的欲求の充足をめざして自己発現行動がと  

られるのである。したがって二,この基本的欲求は「自己発現の欲求」ともいえ  

るのである。このように,ア、−・ジ.リスは,自己発現の欲求を人間の基本的欲求  

(ぎ6)  

と考えて:いるのである。   

自己発現の欲求ほ次のような性質をもっている。すなわち,アージリスに・よ   れば,「個人は,ひとたび心理的成功を経験し欲求水準を達成して−しまえば,  

つぎには,ヨリ高い新しい現実的欲求水準を設定しにかかるものである。これ  

(:汀) も達成されると,さらにまた別のヨリ高い現実的な目棲が設定される」という  

ように無限に.続くのである。この場合,−・旦目標に・投入された・エネルギー償,  

成功の経験によって新たなエネルギーとして自己にフィードバックされると仮  

定される。  

6 自己発現の欲求の意義  

以上のよう忙して,自己発現の欲求は,アー汐リスのモータイベーージョン論   の理論的プレ▲−・ムワ−クのなか紅設定される。ここで,この自己発現の欲求の   方法論上の意義特色を明らかにするため,他のモーーティページョン論との比較   において,これを考察しておこう。  

64)Argyris,Op.Cit.,1957,ppり32−33   脚ibjd.,p.32  

鯛 占部前掲書,昭和42年,116貫  

(37)Argyris,Op.Citい,1964;p.29   

(16)

籍42巻 籍6号  

−∵加トー  

644   

ハイネス=マッシーは,モーティペーシ  ョン論を,単一・の欲求を仮定する   ことに・よって理論構成する「モーテ・イべ⊥ショソ甲単数理副(a monostic  

theory of motivation)と,人間を多角的な複数の欲求をもつものであると把  

握する「モータイペーV  。ンの複数理論」(a pluralistictheoryofmotivation)  

(38) に分類している。後者にはマズローなどに代表される「欲求階層説」も含めら  

れる。   

最初に,諸欲求の1つとして自己発現の欲求をあげてこいるマズロ−の欲求階   層説をとりあげよう。マズローほ.,人間の欲求が生理的欲求,安定の欲求,自   己発現の欲求の3つの階層から成る,また低階層の欲求がある程度充たされる   まで次の高階層の欲求を充たそうとしない,さらに相対的紅充たされている欲  

(89) 或はもはや行動を動機づけることはないという仮説をおく。さらに,マズロL⊥ 

は,低階層2つの欲求は,自己保護に関するもめであり,最高階層の欲求は個   人の現在の潜在能力を十分に発揮し,それを拡大してこいこうとする欲求,すな  

(40)  

わち「成長的モーティベ−・ション」であると指摘して:いる。   

自己発現の欲求それ自体の意味内容においては,アー汐リスの場合ときわめ   て類似し■た点をみせている。ところが,それのもつ方法論上の意義という点か   らみると差異がある。アー汐リスの場合,個人の自己ほ.幼児のような状態か   ら成人のような状態まで連続線上に位置づけられる。連続線上を左から右へ進   んでいくことが成長であり,質的にみれば,それほ基本的に自己発現の傾向に   ある。そのことを自己発現の欲求によるものとしたのである。しかし,すべて   の経験が自己発現をもたらすものでほない。個人ほ,自己発現という基本的傾   向紅そいながら,自己保護的な防衛行動をとることに.よって自己を維持するこ   ともある。そ・して,この防衛行動は自己保護ないし安定の欲求によるのでな   く,自己発現の欲求が充たされないこと紅よるものと考えられる。この点紅マ  

(38)Hayness&Massie,Op.Cit.,pp.102−105  

(39)マズロ−著,原年広訳『自己穿現の経営:経営の心理的側面』昭和42年;AI・gyI・is,   

Op.Cit.,1964,p.32  

(4α 上掲邦訳,序文16真   

(17)

645   行動科学と組織紅おけるモー・ティべ−レヨソの理論  

−∫7−   

ズロL−との第1の相違をみることができる。つぎに,マズロ−ほ自己発現の欲   求を固定的に最高階層におくのに対して,アー汐リスに・おいてこほ右に終点のな   い自己発現の度合を測定する尺度を設定し,それ軋応じて∴無限に自己発現の欲   求の水準ほ上昇するものと考えられるのである。この点虹両者の自己発現の欲   求の第2の相違がみられる。  

以上ほ,ア一汐リスのモ−ティページヨン論がモーティベーション論の−・つ   である欲求階層説,とくにそのなかに含まれる自己発現の欲求の概念のほたす   役割に.おいて異なっていることを指摘したものである。   

同様に,その他のモーティべ、−レヨンの後数理論と区別されるとこ.ろがある。  

とくに.,諸欲求を単に羅列的に.仮定するものほ,理論として欠陥をもちやす   い。その場その場で事後的紅現象を説明することはできてこも,一・般的な概念   構成をしながら,なぜ現象が生じるかを説明したり,変数のコントロールと   その予定を行なっていくにほ不十分であるからである。ア一汐リスも次のよう  

に述べて.いる。「自己発現の概念が重要に.なって:くるのほ.,著者が経営者紅そ  

れを強調して:もらいたいからでほない。この概念が中心的なものになるのは,  

スキー・ム  

それが現存の(行動諸科学の)豊富な研究成果を統合するような図式を構成す  

(41) るのに.役立つからである」と。つまり,自己発現の欲求を基本的であるとする  

のは,それが現象を説明するための−・般的概念構成をするのに有益であるかち  

である。   

アージリス理論は,伝統的なモ−ティべ−ジョンの・単数理論とも区別される   べき点がある。伝統的なモL−ティペ−ションの単数理論の典型的な例は,「経   済人」の仮説紅基づいたモ−ティべ−ジョン論にみられる。それは人間の行動   を規定する諸々の欲求のなかから,1つだけがとりだされ,これが直ちに普遍   化され,いずれの人間紅も通じる人間の実体そのものと同一・視ざれて/いる点に  特徴がある。と一ころが,ア−ジリスの「自己発現」人モデルは,同じく多くの   欲求のなかから1つが強調されていても,それを人間・一・般の実体とするのでな  

(41)Argyris,Op.Cit..,1960,p.22   

(18)

第42巻 第6号  

646  

−Jβ−  

く,個人差が説明されるように尺度化される点,伝統的な単数理論と区別され   る。また,アージリスほ科学的管理法紅対して1「それは,人間のモーティベ  

(42)  

−ションについて−・定限の狭い仮説に基づいた」理論になってしまってこいると  

批判している。このよ一うに,−・般的概念構成をしていくという点からも,伝統   的単数理論より相対的にすぐれて言いるといえよう。後にみるように,アージリ   スにおいては,経済的欲求の仮説をおくことな,くして物的・金銭的報酬を求め   る行動が説明され,社会的欲求の仮説をおくことなくしてインフォ・−マル・グ   ループ行動が説明されるのである。かくして,伝統的に・は別個のものとして説   明されがちであった行動が自己発現の欲求の概念で統一・的紅説明されようとす  

(4さ) るので奉る0  

ⅠⅤ 社会的組織要因と組織行動の説明   一一個人と組織とのコンフリクトー    1 社会的組織の本質   

組織行動とほ,組織的環境における人間行動である。したがって,組織行動   を科学的に説明するために,人間そのものの本質と共に明らかにされなければ   ならないのは,組織の本質であり,さらには組織的要因が人間行動におよぽサ   インパクト,あるいほその逆のインパクトである。 

それでほ.−・体,アー汐リス紅おいて組織の本質とほ何であろうか。   

まず,アージリスが次のようにいっていることに注目しなければならない。   

「人間は欲求充足的,目標達成弥ユニットである。人間ほ.欲求充足および目   標達成のため様々なタイプの戦略を工夫している0最も重要な戦略が人々を組  

(44) 織化することである。」  

舶 Argyris,Op.Cit.,.1964,p.229  

㈲ なお,占部教授は,ア一汐リスが自己発現の欲求を強調するところに初期の人間関係    論やマ1−チ=サイモソ理論紅.対して癖徴があることを指摘されている。とく紅,初期の    人間関係論の「依存的人間の仮説」に対して,ア−ジリスは「自立的人間の仮説」に基    づいているといわれる(占部前掲審,昭和42年,116−117京)。  

舶 Argyris,Op.Citu,1960,p..1   

(19)

647  

行動科学と組織におけるモータィページヨソの理論   −ヱ9−  

ここに,われわれは,組織に関する基本的仮説が含まれていると考える。第   1に・,組織ほ人間にとっての何らかの目標ないし目的達成のための戦略なので  

(45)  

ある。算2に,戦略の本質は,それが目的達成のため設引・されることにあるの   であるから,目的合理的なこものである。ところが,その合理性ほ,現実に目的  

を達成す−る以前の設計の段階でいえるに.すぎない。したがって,組織のもつ合  

(46)  

理性は,「意図された合理性」(intended rationality)である。   

要するに,組織とは何らかの目的達成のため意図された合理性をもつ戦略な   のである。したがって,軸織とほ,単にア−ジリスのいわゆる「フオ・−マル組  

織」構造を意味するだけでほない。アー汐.リスによれば,「『組織』ということ   ばが用いられるとき,それは構造以上のものを意味して言いる。管理統制技法,  

(47)  

リーダシップ……など,戦略としての意味をもつものすべてが含まれている」  

のである。   

なお,以上のように概念規定される組織を,後にみるような人体組織・神経  

組織などの自然的組織と区別するため,とくに.社会的組織とよんでおこう。ア  

(48)  

−汐リスにおいては,次のようなものが社会的組織要因としてあげられる。  

1)組織構造。その典型ほ,科学的管理法以来の伝統的組織論の「諸原則」   

紅基づいた「フか−マル組織」構造,これほ「命令系統」の原則により上   

下の階層をつくるので「ピラミ.ッド型組織構造.」ともいわれる。その他   

伝統的なピラミッド型階層を維持しながら,上下関係にリッカートのいわ   

ゆる「連結ピン.」関係を設定した「修正フォ−マル組織」構造,さらに偲,   

プロジ.ェクト・チ−ムにみられるような「職能的貢献に応じた権限」構造  

などがある。   

2)り一−グレップ。「 命令的リーダシップ」「参加的リーダシップ」などの   

ノ型がある。   

3)人員配置計画と職務設計。  

個ibid.,pp.、10−11  

(46)ibid.,pp.11L12  

断)Argyris,Op.Cit。,1962,pp.27−28  

(48)Argyris,Op・Cit.,1964,Part Three参照   

(20)

第42巻 第6号  

−20−   648   

4)予算制度,報酬・懲罰制度,刺激姶制度などの管理統制技法。   

5)人事考課,業績評価などの評価手続。  

2 フォーマル組織   

ところで,アー汐リスほ組織行動を理解するための理論的フレームワークを   構成していく際,「分析は人間のパ−ソナリブイとフか−・マル組織の基本的特  

(49)  

質を論ずることからはじまる.」といっている。しかし,なぜ「フォーマル組瀞  

」が,まず第1紅問題になるのであろうか。前節にみたような多くの組織要因   のうち,なぜ組織構造なかでもフォーマル組織がまず論じられなければならな   いのであろうか。   

以上のことに.関してわれわれほ,次の2つのことを指摘して∴おかなけれぼな  

らない。   

第1ほ,アー汐リスの分析方法,あるいほ組織行動の説明の方法ないし手続  

に.ついてである。アー汐リス咋.組織行動を説明するにあたって,「時間という  

(50)  

ディメン1ンヨソを考慮紅入れ」ることに.よって,「進化論的」思考( evolutio−  

(51)  

naI・y thought)方法をとろうとい、うのである。すなわち,アー汐リスによれ   ば,組織は現在ほなるほど複雑なものとなっているが,その創生期に.おいては  

1つか2つかの変数からなっていたのであり,それらの相互作用が新しいいく  

つかの変数を生み,それらがさらに.相互作用して…‥・というふうに.進化してき  

(∂2) たものなのである。このような観点から,「組織の創生期にはフか−マル組織  

(53)  

(という組織構造)があった」という仮定がなされるのである。さきに.みたよ   うた,組織ほ人間に.とって:の目的達成のための戦略であるが,そこでいう目的   ほ.一人ないし少人数でほ達成されえない性質のものである。したがって,その   目的達成のためには個人の職務とか部門の目標という部分に.分割されねばなら   ない。分割された諸部分単位は,めざす目的達成のためには・−・定の関係とノミタ  

(49)Argyris,Op.Cit.,1957,p。229   伍0)Argyris,Opn Cit.,1960,p.11  

(51)ibid.,p.6   餓ibid。,pp..5−7  

63)Argyris,Op.Cit.,1964,i).14   

(21)

649   行動科学と組織匿おけるモーティべ−ショソの理論  

−2J−   

−ンをもって:統合されねばならない。かくして設計されるのが組織構造なので   

(64)  

ある。   

第2に.指摘されねばならないのほ,考えられる多くの組織構造のうち,なぜ伝  

統的組織原則に基づいた「フか−マル組織」がまずとりあげられるかということ  

に関して:である。ア−ジリスほ.伝統的躯織原則について次のように・述べて:いるo  

「こ.れらの原則ほ行動科学者たちによって攻撃されてこきたとほいえ.,本吉では,  

今日までヨ.り有益な一・連のフカ「・マル組織原則を明確に・した人ほいなかったと  

(ら5) いう仮定に且ってこいる」,つ革り「今日,大部分の組織はその創生期の構造とし  

(56)  

て,『科学的管理法』学派という建築家の設計による構造をもっていた」のであ  

ると。いいかえれば,われわれが今日観察できる現象としての組織行動の大部分   は,伝統的組織原則に.基づいた組織構造に周を発していることになるのであろ   う。つまり,伝統的フォ・−マル組織ほ現存の組織構造の典型なのである。アー   汐リスは次のように.述べている。「−・般化を行なう場合,われわれほ特定の個  

人と特定の細織をとってみなければならない。単に例示のために,われわれは  

比較的成長した個人と科学的管理法の諸原則に最もよく基づいたフォ・、−マル観  

(5r)  

織の場合を事例としてとることに.なろう」と。要するに組織,あるいは組織構  

造という変数の具体値として「フォ・−マル組織」がとりあげられるのである。  

なぜなら,それが具体的にあまりに.も普遍的に.存在するものだからである。   

さて,フォ・−マル組織とは,ア−ジリスによれば,次の4つの「原則」紅基  

(68)  

づいて設計された組織構造である。  

1)職務の専門化(task or work specialization)。この原則にしたがって   組織目的達成のための部分への分割がなされる。これほ「狭い範囲に努力   を集中すれば生産の質と盈を高める」という経済学の基本的仮説を根拠に・  

しているといわれる。  

(54)ibidい,p.35  

(55)Argyris,Op.Citい,1957,p=58 以下「フ*・dマル組織」という場合,伝統組織諸原    則に.基づいた組織構造をさしている。  

66)Argyris,Op.Cit。,1964,p..35(傍点は山口)  

67)Argyris,Op.Citl,1960,pp。1−14(傍点は原文では斜字体)  

爛 Argyris,Op。Cit.,1957,pp.59−66;Argyris,Op。Cit.,1960,p 12−13   

(22)

難42巻 第6号  

ー22−−  

650   

2)命令系統(Chain of command)。分割された諸部分が共通の組織目的   の達成に貢献するよう紅,専門化の論理を推し進めてさきの諸部分を調整   するためもう一つ新しく職能驚理職能 【 が形成される。この管理職   能と他の部分との関係が「命令系統」の原則によって上下関係として関係   づらナられる。   

3)指揮の統一・(unity of direction)。指揮の統叫・の原則とほ,アーiyリス   に.よれば,専門化されている各人の仕事ほ嘩一・ないし同質の活動であるよ   う上司により討画され命令されるなら,組織の能率が上ることを志味して  いるという。   

4)管琴の巾(spanofcontrol)。これほ,−・^の上司に・対する部下の数   を5,ないし6人以下に.制限することを意味している。  

5 フォーマル組織と個人の自己発現の欲求との衝突   

合理性を意図された4つの原則紅基づいて\設討された戦略としてのフオ−マ   ル組織は,現実に個人というもう1つの変数と相互作用すると,どのような事態   が生じるであろうか。ア−ジリスは,まず,4つの原則紅ほ個人の自己発現を  

(59) さまたげる暗黙の仮定が含まれていることを指摘する。   

第1紅,専門化の原則にほ次のような仮定が内在しているという。①個人は   担.当する職務が専門化されていればいるはど能率的紅行動する。④職務がヨリ   迅速に達成されるよう職務を設定するために唯−最善の方法を発見できる可能   性がある。⑨技能と思考をできるだけ機械に移転するこ.とによっていかなる個   

(59)Argyris,OpいCit.,1957,ppl58−66 なお,さきにあげた「フ*・−マル組織」の定    義,それが4つという限定された原則に基づいていること,それらの原則が科学的管理    法に.由来するものであること,さらに各々の原則の意味内容など紅ついては疑問の余    地があり,またそのことに.ついて二多くの論者の言及しているところである。クーンツ   

はそれを端的紅次のように評している。「ア−クリスが引用する4つの『原則』のう    ち,1つほ全く組織原則ではなく,経済学の専門化の原則であり,他の3つの原則は誤    って解釈され,その他の適用可能な組織原則や管理原則は考慮に入れられていない.」  

(H。Koontz, Makiz]gSerlSeOf Managemsnt Theory, iz一Ⅹ00ZltZed.,Toward a    Unified Theory of Management,1962,pp.13−14)。また,各々の原則の具体的な  

「誤解」や「混同」についてほ,占部教授の指摘がある(占部前掲書,昭和42年,188−  

190頁)。なお次も参照のこと。田杉前掲稿,66頁。大友前掲害,205京。   

(23)

651  

行動科学と組織に.おけるモー・ティページョソの理論   −23一   

人もパ、−ソナリデイにおいて差異があることは無視されうる。ところが,このよ   うな仮定は自己概念の無視であり,その成長である自己発現をさまたげるもの   であることを意味している。さらに専門化の原則ほ多くの個人にとってそ・の能   力の使用を動作能力に限定する傾向がある。これも能力の拡大をさまたげ,行   動様式の数が限定されることであるから,自己発現を阻止する傾向をもつこと   を意味している。要するに,専門化の原則に.内在的に暗黙に含まれている合理   性ないし能率についての仮定にほ,個人の自己発現を阻止する性質が含まれて   いるのである。   

第2に,命令系統の原則にほ,組織全体の能率は,上司が部下を命令し,コ   ントロールするための権限の階層に.よって高められるという仮定が含まれ乞い   る。部下が上司の命令を受容するようにするため,部下の解雇,賞罰の権限が   上司に.与え.られるのである。ところが,このような事態は個人が上司に.対して  受動的,依存的,かう従属的把.なることを要請するものである。要するに・,命   令系統の原則も個人の自己発現を阻止するものとして働ぐ性質を内在的にもっ  

ていることになる。   

第3に・,指揮の統一・の原則とほ,管理者の部下である個人ほ,管理者に・よっ   て計画され命令された単一・ないし同質の活動をもつことであった。したがっ   て,そこでほ個人の仕事,目標に到る径路,さら紅ほその間にある障壁の克服   法は管理者に.よって定められることになる。さらに,仕事目標は個人の自己な   いし欲求と無関係に定められることでもある。これらほ個人を心理的失敗紅導  

く条件紅他ならない。   

最後に,管理の巾の原則には.,ア′−汐リスによ叫ば,部下の数をできるだけ   少なくすることによって詳細にわたる監督を強調すべきであるという仮定が含  

まれているという。詳細にわたる監督は.,部下である個人が上司に対して依存   的,受動的,従属的になることを要請する。   

以上要するに,フ・五、−マル組織の諸原則に含まれている暗黙の仮定(それほ   主に能率ないし合理性に.関するものである)は,自己発現を阻止する方向鱒働  

ぐ性質を内在的にもっているのである。   

(24)

第42巻 算6号  

−24−  

652   

ところで,自己発現を阻止され,心理的成功を経験することができない個人   ほ,パ−ソナリティ論によれば,プラストレーレヨン,コンフリク†,心理的   矢数を経験しているということである。つまり,  

1)自己を表現することを阻止されているのであるから,フラストレーショ  

ンを経験する。   

2)自己の欲求,能力との関係で目標を設定することが阻止されてノいるので  

あるから,心理的失敗を経験する。   

3)以上のようにして,フラストレ−ション,失敗を経験せざるをえ.ないに   かかわらず,個人が自己発現の欲求をもっている場合,をれちの経験をき  

(8D)  

らうこ.とになるので,心理的コンフリクトをも経験する。   

以上のように.して経験されるブラストレー・ジョン,コンフリクト,心理的失   敗ほ,パーソナリティ論で明らかに.されたように,個人に.とって脅威を与える   経験である。この場合,成長への遺はとざされているのであるから,それは防   衛機制によって自己防衛的行動をとること紅なる。  

4 防衛のメカニズムによる組織行動現象   

防衛機制紅よって現象面にあらわれてくる組織行動として次のようなものが  

(81) あげられる。  

1)組織離脱。個人がコンフリクトやブラストレー・ジョンを経験する場合,  

−・つの道はそれらの経験を与え.ている状況,つまり組織から逃避することであ   る。・−L時的な逃避である欠勤や永久的な労働移動がそれである。その他の逃避   の道として空想への逃避がある。仕事が単純であるから,仕事をしながら他の   事を考えるという現象である。   

2)組織階層の昇進。フオ−マル組織は命令系統の原則によってピラミッド  

型をなしている。それは,下層になるに.したがって自己発現を困難紅してい   る。そこで,これも・一・種の逃避と ̄して上階層への昇進を強調し努力する行動が  

(醐 Argyris,OpハCitり1964,p,40  

61)Argyris,Op.Citい,1957,Chap.v;ArgyIis,Op∴cit.,1964,pp,57v−・67   

(25)

653   行動科学.と組織におけるモ・−ディべ−・ジョンの理論   −25・一    観察されることに.なる。   

3)組織常対する冷淡と無関心。企業や組織に対する忠誠心の欠除,無意識   的怠業ほ.,個人紅.対してコンフリクトやプラストレー・ショソを与えているフォ 

−マル組織の心理的否定である。   

4)生産制限と管理者批判。防衛機制の代表的な一つである攻撃は,フラス  

トレーションの原因となっている組織目的やピラミ.ッド型構造の上層を占める  

管理者に向けられ,これを損い害を与えるという,生産制限や管理者批判とい  

う現象になってあらわれてくる。   

5)物的・金銭的報酬の重視。もともと自己発現の欲求ほ心理的成功に.よる  

心理的エネルギーのフイ−ドバックという心理的報融を得るものである。と   ころが,フか−・マル組織浸よって自己発現を阻止された個人は,心理的エネル  

ギー・のフィー・ドバックという心理的報酬を得られないのであるから,その代  

償として物的・金銭的報酬を求めるようになる。   

6)インフか−マル・グループの形成。以上5つは,個人の自己発現がフォ  

−マル組織に.より阻止され,心理的成功を経験することができないので防衛機  

制による個人の適応として甲組織行動の例である○ ところで,ア、一汐リスによ  

れば,このような個人の適応行動を持続させるためにインフォーマル・グル−  

プが形成されるという。つまり,上に述べた個人の行動がグル−・プ・ノルムと  

化し,そのノルムに従う個人は報いられ,反するものほ罰せられることによっ  

て個人のレベルの行動が今やグル▲−プのレぺルの行動となるという働きをして   いる。   

7)労働組合の形成。アージリスに・よれば,労働組合ほ上述のインフォ−・マ  

ル・グループにフオ−マルな構造が与えられたものである。この2つのグルー  

プ活動は,−・部管理者たち紅対する受動性,依存性,従属低からの解放である   から自己発現が−・都連成されたかにみえ.るが,依然,フォーマル組織のなか紅   いるのであって防衛機制の−・つである継続によっての行動である。また,労働  

組合ほ周じくフォーマル組織であるから,同じような防衛行動を強化する働き  

さえ.する性質をもっている。   

参照

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