78 函医誌 第40巻 第1号(2016)
Ⅰ.臨床経過および検査所見
【主 訴】食欲不振
【現病歴】
当院循環器内科通院中。食欲不振,体重減少あり,約 2ヶ月経過した頃に当科紹介受診(第1病日)。CT 施 行し多発肝腫瘤を認め(図1),精査加療目的に入院と なる。上下部消化管内視鏡検査を含む各種検査を施行す るも原発巣を同定できず(図2,図3),第6病日肝 S8
腫瘤より生検施行し,小細胞癌の組織像(図4)。原発 不明小細胞癌の診断となる。
【既往歴】
咽頭ポリープ(57歳)
高血圧(62歳)
大腸ポリペクトミー(69歳)
【生活歴】
喫煙5本(20〜60歳)
臨床病理検討会報告
原発不明小細胞癌の一例
臨床担当:田中 友香(研 修 医)
病理担当:下山 則彦(病理診断科)
A case of small cell carcinoma of unknown origin
Yuka TANAKA,Norihiko SHIMOYAMAKey Words:small cell carcinoma−unknown origin
図 1 初診時腹部 CT 図 2 EUS
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飲酒ビール毎日350ml(20〜73歳)
アレルギー(−)
【家族歴】
特記事項なし
【初診時現症】
JCS 0,BT 36.0℃,HR 96bpm,BP 137/75mmHg
<末梢血>
白血球数 6600/μL 赤血球数 398万/μl 血色素 12.2g/dl ヘマトクリット 36.5% 血小板数 18.7万/μL
<生化学>
総ビリルビン 1.9mg/dl 総蛋白 6.7g/dl
アルブミン 3.6g/dl ALP 2352U/L AST 182U/L ALP 160U/L LDH 733U/L γ‑GTP 674IU/L AMY 87U/L アンモニア 104μg/dl BUN 20mg/dl Cre 0.9mg/dl 尿酸 8.8mg/dl Na 134mEq/L K 4.2mEq/L Cl 103mEq/L Ca 8.1mg/dl CRP 0.51mg/dl
<腫瘍マーカー>
CEA 99.6ng/ml CA19‑9 4560U/ml AFP 2.6ng/ml PSA 0.4ng/ml PIVKA‑Ⅱ 14AU/ml SLX 67U/ml SCC 6.4mg/ml NSE 1280ng/ml
Pro‑GRP 28.2pg/ml CYFRA 14ng/ml IL‑2R 749U/ml
【診 断】原発不明小細胞癌 HE 染色:小細胞癌の組織像
免疫染色:NCAM(+)NSE(+)Synaptophysin(−)
ChromograninA(−)CA19‑9(+)CEA 少数(+)
Leu7(−) TTF1一部腫瘍細胞の核内陽性
【治療経過】
原発不明小細胞癌に対して進展型肺小細胞癌の治療に 準じて第14病日から CPT‑11+CDDP を100% dose で投 与開始。→第41病日 CT 評価で PR 判定(図5)。骨髄 抑制強く第42病日から CPT‑11/CDDP80% dose に減量 して継続。
第94病日 CT 評価で PR 判定(図6)。骨髄抑制のた め5コース目から65% dose に減量し継続したが,7 コース目終了時に発熱性好中球減少症となり,第232病 日から CPT‑11単剤で治療継続。
血清 AMY 高値あり,膵周囲リンパ節の膵浸潤が考 図 3 MRCP
図 5 第41病日(1コース後)腹部 CT
図 6 第94病日(4コース後)腹部 CT 図 4 肝生検病理組織像
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えられた(図7,図8)。第367‑401病日から膵周囲リン パ節に放射線治療(50Gy/25Fr)としている。第407病 日から2nd レジメンとして GEM 開始。GEM1コース 後,第437病日 CT で PD 判定(図9)。第442病日から 3rd レジメンで AMR 開始。1コース行うも,胸腹水増 加あり,全身状態悪化し,第475病日永眠となる。
Ⅱ.病理解剖により明らかにしたい点
・原発巣の特定
・膵周囲に対する放射線照射部位の状態
・直接の死因となった病態の特定
Ⅲ.病理解剖所見
【所 見】
身長166cm,体重58.7kg。体格正常。皮膚に黄疸有 り。眼球結膜黄疸有り。体表リンパ節触知せず。胸腹部 切開で剖検開始。腹水は黄色透明で1700ml。腹腔内に は腫瘍の増生がび漫性に認められ癌性腹膜炎の状態。小 網,大網の肥厚,硬化,腸管の癒着が著明。左胸水は血 性で1050ml,右は淡血性で500ml。左胸膜には腫瘤が多 発しており癌性胸膜炎の所見。
左肺 410g。右肺 335g。うっ血水腫の所見。組織学的 には胸膜,肺内に中分化腺癌を認めた。肝臓 1560g。腫 瘤が多発し,組織学的には腫大した核,弱好酸性の胞体 を持つ異型細胞が癒合腺管状に増生している。免疫組織 化学染色では chromogranin A は散在性に陽性を呈する 程度,synaptophysin 陰性,NCAM/CD56陰性である。
神経内分泌分化を伴う中分化腺癌とする。CDX2は陰性 であり腸管由来は否定的である。また,TTF‑1は陰性 であり肺原発も否定的である。膵臓は十二指腸を合わせ て195g。膵頭部尾側,膵体部尾側に小腫瘤を認めるが 膵癌としての所見は見られなかった。また,膵体部に約 1.3mm の神経内分泌腫瘍 NET を偶然発見した。
左腎臓 175g,右腎臓 220g。左右とも嚢胞を認めた。
組織標本では右腎臓の一部に領域性を呈する壊死が見ら れ腎梗塞とした。左睾丸 18.2g。陰嚢水腫を認める。右 睾丸 26.9g。右精索に4×1cm の腫瘤を認め神経内分 泌分化を伴う中分化腺癌の像であった。
癌死として問題のない所見であった。組織型は神経内 分泌分化を伴う中分化腺癌とする。剖検では化学療法後 のためか小細胞癌の成分は確認できず,原発臓器の断定 は困難であった。
【病理解剖学的最終診断】
主病変
原発不明癌 化学療法・放射線療法後 中分化腺癌(神経内分泌分化を伴う)
腫瘍存在部位:胸膜,肺,心嚢,腹膜,後腹膜,肝臓, 脾臓,大動脈周囲リンパ節,右精索
副病変
1.浮腫(胸腹水(腹水1700ml,左胸水1050ml,右胸 水500ml)+足背部浮腫+左肺上葉肺水腫)
2.肝内胆汁うっ滞+黄疸 3.慢性膵炎
4.陳旧性心筋梗塞
5.腎嚢胞+右腎梗塞(一部分)
図 7 第365病日 CT
図 8 第379病日 MRCP
図 9 第437病日 胸腹部 CT
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6.粥状動脈硬化症 7.両肺下葉無気肺 8.食道炎
9.膵体部神経内分泌腫瘍(NET)1.3mm
Ⅳ.臨床病理検討会における討議内容のまとめ
・この症例の生存期間は平均と比較してどうだったか。
原発不明癌の平均生存期間は6〜9ヶ月とされ,本 症例の生存期間は約1年半となり,比較的長期生存で きたと考えられる。
・この症例に対して行った治療は標準的であったか。
本症例は当初 NSE の上昇を認めていたが,時間が 経つと NSE の上昇がみられなくなった。このため, 原発巣として膵癌の可能性も高いと考え,GEM や AMR といった化学療法を選択した。いずれも原発不 明癌治療に用いられる一般的な化学療法である。
・当初の病理検査で CDX-2の染色を行っていない理由 は。
一般的にあまり鑑別を行わないため,本症例も行っ ていない。
・小細胞癌であるのに NSE が陽性となっているが,病 理学的検査はもう一度行ってもよかったのではない か。
化学療法の途中で,もう一度生検を検討しても良 かったかもしれない。
Ⅴ.症例のまとめと考察
本症例は原発不明癌の診断で化学療法を行い,放射線 治療によって局所コントロールが得られた症例である。
組織型は小細胞癌であり,肺小細胞癌に近い経過を示す ことが知られているため,肺小細胞癌の化学療法(プラ チナ製剤を含む)に準じることで長期予後を期待できる とされる。
原発不明癌の発生頻度は癌全体の2%とされ,男女差 はないといわれている。診断時平均年齢60歳原発不明癌 と診断された患者のうち,最終的に原発巣が同定される のは30%未満。さらに20〜50%患者は剖検後も原発巣が 同定されないままとされる。半数以上の患者で複数の部
位に病変が認められ,最も頻度高いのは肝臓,肺,骨, リンパ節である。一般的な予後は6〜9ヶ月であり,予 後不良因子としては,男性,複数臓器への多発性転移を 認める腺癌という病理学的診断,非乳頭型の悪性腹水
(腺癌),多発性脳転移(腺癌 or 扁平上皮癌),肺 / 胸膜 の多発性腺癌,骨病変が知られている。また,原発不明 癌の予後良好因子として,正中線上に分布する低分化癌 の患者,腹腔にみられる乳頭状腺癌の女性患者,腋窩リ ンパ節のみに転移した腺癌女性患者,頸部リンパ節に転 移した扁平上皮癌患者,孤立性の鼠径リンパ節腫脹を認 める患者,低分化型神経内分泌癌の患者,造骨性骨転移 と前立腺特異抗原の上昇を認める男性患者,単発で切除 可能な小径腫瘍の患者などがある。
本症例は臨床的には低分化型神経内分泌癌に分類され る。低分化型神経内分泌癌は原発不明癌の約1%を占 め,予後良好因子のひとつである。肺小細胞癌に近い経 過を示し,肺小細胞癌の化学療法(プラチナ製剤を含 む)に準じることで長期予後を期待できるとされてい る。本症例も原発不明癌としては比較的長期生存を得ら れている。
進展型肺小細胞癌の一般的レジメンとしては1st レジ メンとして PI 療法,2nd レジメンとして AMR 療法が選 択されることが多いが,本症例に対するレジメンは2nd レジメンで膵原発の可能性を否定しきれなかったため, 遠隔転移を有する膵癌の化学療法に準じて治療すること として,AMR ではなく,GEM を選択している。
また,本症例では放射線治療を行っている。リンパ節 転移による膵浸潤による高アミラーゼ血症をきたし,化 学療法による骨髄抑制が強く,放射線治療による局所コ ントロールが選択された。放射線治療によって腫瘍縮小 認め,高アミラーゼ血症は改善みられ,その後同部位腫 瘍増大なく,局所コントロールできたと考えられた。
本症例は原発不明癌であり,原発巣の特定のために剖 検となった。病理学的に剖検では小細胞癌の組織は認め ず,中分化型腺癌の組織像であったことから小細胞癌の 成分については化学療法の効果があった可能性もあると 考えられる。病理解剖で原発巣の同定には至らなかった が,放射線治療の効果や化学療法の反応から,今後の原 発不明癌に対する治療を考慮する上で貴重な症例であっ たと考えられた。