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東京医大ありがとう

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(1)

東医大誌 

76

2

: 147

­

157, 2018

最 終 講 義

東京医大ありがとう

〜高精度放射線治療と日本の貢献〜

Gratitude to Tokyo Medical University

─ Contribution of Japan in the Field of High Precision Radiotherapy ─

徳 植 公 一 Koichi TOKUUYE

東京医科大学放射線医学分野

Department of Radiology, Tokyo Medical University

1. は じ め に

放射線治療の歴史は、今から約

120

年前、レント ゲンが

X

線を発見した

1895

年、キューリー夫妻が ラジウムを発見した

1898

年にまで遡ります。X の発見の翌年には鼻咽頭癌に対する疼痛緩和治療 が、ラジウムの発見の

3

年後には皮膚癌に対する治 療が試みられました。当時、不治の病であった結核 や真菌症などの様々な疾患の治療にも用いられまし た。試行錯誤を経て、放射線はがんに対する効果的 な治療法となりうること、その効力は照射された範 囲に限定されることが明らかにされました。がんに 対して照射線量を増加させればそれだけ効果が増強 し、正常組織に対しては照射線量に応じて副作用が 増強するという線量・効果関係が示されました。そ の副作用には治療中に生じる急性期のものと、一旦 急性期の副作用が収束した後に生じる晩期の副作用 があることをキューリー夫人が身をもって示してく れました。また、一回で大量の放射線を当てるより、

何度にも分割して当てることにより、相対的に正常

組織の損傷を少なくして、がんに対して効果的な治 療となること、つまり治療可能比を高めることがで きることが分かってきました。

放射線は五感で感じることができません。このこ とが、痛みも痒みもなく治療を行えるという利点に 繋がる一方で、知らないうちに正常組織に損傷を与 えて、重大な有害事象が生じる要因になります。五 感で感じる事ができない以上、正しくモニターして いく必要があります。高精度放射線治療は、高精度 に腫瘍に対して高線量を投与し、正常組織に対して 照射される線量を最小化することによって効果的で 副作用を低減しようとするものです。時に、日本が 米国を牽引してきた領域であり、自らが歩んできた

30

年を振り返りつつ、この分野における歩みを紹 介します。

2. 高精度放射線治療

放射線治療は手術療法と同様に局所療法であり、

切らずに、形態・機能を温存して根治することを目 標としています。一般にがんに対する放射線の効果

本論文は平成

30

1

19

日に行われた最終講義の要旨である。

キーワード

:

高精度放射線治療 (High Precision Radiotherapy)、強度変調放射線治療 (Intensity modulated radiotherapy)、陽 子線治療 (Proton beam therapy)、定位放射線治療 (Stereotactic radiotherapy)

(別冊請求先

:

160

­

0023 東京都新宿区西新宿 6

­

7

­

1 東京医科大学病院)

(2)

は投与された線量に依存し、その線量を高めれば腫 瘍の制御率は向上します。一方で、腫瘍の制御率を 上げるために線量を上げれば、それに応じて周囲に ある非癌組織の放射線線量が増えて障害の発生率は 上昇するというように、同一の技術では効果と障害 は車の両輪の関係にあります。画像診断技術と融合 することにより、高精度に腫瘍に放射線を集中しつ つ、周囲の正常組織の線量を低減して、効果的で安 全な治療を実現しようとするのが高精度放射線治療 です。その高精度と呼べる水準は時代とともに高く なって来ます。

名古屋大学の高橋信次教授は

1950

年代に

CT

発の先駆けとでも言うべき回転横断撮影法を開発 し、1960年代にはその技術を治療機に応用しまし

1)

。照射ヘッドを回転しながら、常に腫瘍を望む ように照射ヘッドに付設している多段絞りを開閉し て照射するという原体照射法です。これと同時に、

照射ヘッドを回転に合わせて当てたくない重要臓器 を避けて照射するという打ち抜き照射法も考案しま した。これが高精度放射線治療の始まりと認められ る治療法で、世界に冠たる研究と評価され、この分 野において日本が米国をリードしました。この原体 照射の延長線上に、定位放射線治療、陽子線治療な どの粒子線治療、強度変調放射線治療などの高精度 放射線治療があり、それぞれについて記述します。

3. 定位放射線治療

私が、1991年に築地にある国立がんセンター病 院に赴任したときは、定位放射線治療の黎明期にあ りました。当時、ガンマナイフが脳動静脈奇型に対 して即効性はないものの有効で安全な治療法として 注目されていました

2)

。ガンマナイフはヘルメット 状の照射ヘッドに

201

個のコバルト­

60

線源が半球 状に配置されていて、そのコバルト線源から放出さ れるガンマ線が三次元的に一点に集まるように設計 されている装置です。これは、脳外科医ラルス・レ クセルがメスの届かない腫瘍に対してガンマ線のメ スを使うことを発想したもので、このようにして照 射体積を絞ることにより耐容線量も上昇することを 示しました

3)

。これと同じことを通常の放射線治療 装置であるリニアックを用いて、リニアックの治療 台の回転とガントリーの回転を組み合わせて、ガン マナイフの同等に線量を集中して、実際に脳動静脈 奇形の治療成績がコロンボらによって報告されまし

3)

。この方法を悪性腫瘍に応用しようという上司 である秋根康之外来医長の考えのもとで治療システ ムの開発、実際の治療を進めました。当時のリニアッ クには、このような使い方は想定されていませんの で、メーカー側は安全性が担保されていないという 理由でこの使い方を推奨しませんでした。そこで、

自前で治療台、照射ヘッドの回転の精度の検証し、

フィルム法を用いてこの二つの回転を組み合わせる ことにより、ガンマナイフと同等の高い線量集中性 が得えられることを確認しました。放射線生物学的 には、何度にも分けて照射する分割照射は、正常の 細胞の回復が腫瘍の細胞回復より大きいため、悪性 腫瘍の治療の基本となります。そこで、高い位置精 度を保ちつつ分割照射を実現する方法として、歯形 と一体となった固定具を開発しました。この歯形と 一体となった固定具により、分割照射を行うときの 再現性を高め、毎回の治療ごとに治療計画用

CT

撮影した結果では、2 mm以内の位置精度が実現で きることを確認しました。ガンマナイフと同様に照 射体積が小さくなり正常組織の耐容線量が上がり、

頭蓋内小病変に対する高線量照射が可能となりまし た。

この方法で高線量を投与しますと、一般には腫瘍 の消失速度は速くなるのですが、中には一時的に増 大するものがでてきました。この現象を評価する方 法として、国立療養所中野病院(国立東京第一病院 と統合されて、国立国際医療センターとして受け継 がれている)に研究目的で設置されていたポジトロ

CT

を使用しました。これは、日本製鋼所と理化 学研究所が共同で開発したベビーサイクロトロン が、日本初の病院内サイクロトロンとして移設され たもので、半減期が短い炭素­

11

を生成していまし た。後に

C

­

11

コリンを開発した担当の原敏彦医長 は、光合成を利用して

C

­

11

二酸化炭素から

C

­

11

­

FDG

を合成するだけでなく、C­

11

メチオニンを合 成していました

4)

。原先生の協力の下で治療の効果 判定にメチオニン

PET

を行うべく、1日がかりで患 者さんを国立療養所中野病院までお連れしました。

1

の上段は、照射後に腫瘍の増大が疑われた髄芽 細胞腫の症例です。この病変は照射後には増大して いますが、メチオニン

PET

では集積はなく腫瘍は 制御されていると判断しました。下段は、上咽頭癌 の再照射後に頭蓋底に出現した腫瘤性病変です。メ チオニン

PET

で集積が認められたため、脳壊死で

(3)

なく再々発と診断して定位放射線治療を施行しまし た。この治療により、腫瘍は消失して再々発である ことは確認されましたが、後に照射野に一致するガ ドリニウム濃染領域が広がっていき、脳外で壊死除 去術を施行し軽快した症例です。当時は積極的に定 位放射線治療を施行し、脳壊死が生じた場合には壊 死除去術を施行するという戦略で治療しました。

このように三次元的に放射線を一点に集中する定 位放射線治療は非常に効果的であり、日米双方とも に何の臨床試験もなしに急速に広まっていきまし

5)

。図

2

は国立がんセンター(現国立がん研究セ ンター)における転移性脳腫瘍に対する定位放射線 治療の治療成績で、87%という高い局所制御率が 得られました。治療開始時に活動性の頭蓋外の病変 が存在する場合としない場合で比較してみますと存 在しない場合の生存率が有意に高く、しない場合に

1 メチオニン PET

による評価

上段左図は、髄芽腫の定位放射線治療によるブースト治療前の

MRI

画像で、中図は治療後の経過観察のために撮 影された

MRI

であり、ガドリニウム造影領域が拡大しているのが分かります。右図のメチオニン

PET

にて集積を 認めず、腫瘍は制御されていると判断しました。経過観察によりこの判断が正しいことが実証されました。

下段左図において、上咽頭癌に対する再照射後に海綿静脈洞にガドリニウム濃染領域が出現しました。中図のメチ オニン

PET

にて集積を認めたため、再々発と診断しました。右図のように、定位放射線治療

1

ヶ月後に腫瘍は消失 しました。このように、メチオニン

PET

による評価は有用と考えられました。

2 定位放射線治療の治療成績

2

年で

87%

という高い局所制御率が得られました。

(4)

おいても脳内の病変は制御され続け、死亡原因は脳 外の病変の状況で決まるという結果でした

6)

。この 治療は局所効果において優れており、今では頭蓋内 小病変に対する有用な治療法として認知されてお り、3個以内の転移性脳腫瘍の標準治療の一つに なっています。また、従来、放射線抵抗性のために 放射線治療の適応と考えられなかった腎細胞癌の脳 転移においても、この方法により高線量を投与する ことが可能となり、腫瘍は徐々に縮小していくこと が分かりました

7)

。このように、本治療法により、

脳転移は長期間制御されますので、これに伴い治療 戦略を変えていく必要があります。転移性脳腫瘍に よって発見された非小細胞肺癌において、転移性脳 腫瘍に対する治療を行った後に

4

期の非小細胞肺癌 であるという考えの基に原発巣の治療をしなかった 群と、転移性脳腫瘍は制御されたために脳転移はな かったものと考えて肺癌の治療を行った群では有意 に後者の生存期間が延長しました

8)

。この成績は、

脳転移を除いて考えた場合の生存期間とほぼ同等で あることから、本治療の存在を考慮した

TNM

分類 を作成することを提唱しています。

4. 陽子線治療

筑波大学では

1983

年より、小林・益川理論でノー ベル物理学賞を取られた小林誠教授が勤めている高 エネルギー加速器研究機構の加速器の一部を借りて 陽子線治療が開始されました。1970年代は、中性 子は殺細胞置効果が強いため、特に放射線抵抗性の 腫瘍に対する新たな治療方法として注目されていた 時期でした。多くの大規模な臨床試験がなされまし たが、腫瘍に対する効果も高い反面、正常組織に対 する毒性も高く、ほとんどの試験で良い結果を得る ことができませんでした

9)

。この中性子治療が期待 された時代にハーバード大学のスゥート先生が筑波 に来られて、ここでは陽子線を行ったら良いのでは ないかというアドバイスを受けました。このアドバ イスがあって、筑波では陽子線治療が始まりました。

陽子線治療は陽子線が持つブラッグピークという 特性を利用するもので、このピークを腫瘍に一致さ せることにより、正常組織に与える線量を最小にし て腫瘍により多くの線量を投与する治療法です

10)

(図

3)。このブラッグピークという特性を治療に応

用できると指摘した最初の人は原爆製造計画である マンハッタン計画に係わった著名な物理学者である

ロバート ウィルソンです。彼は、原爆製造が正当 化されたとしてもあくまでも人を殺す兵器の開発で あり、人を助けるための仕事をしたかったため、こ の提案をしたと述懐しています

11)

。治療の対象は、

欧米では眼球内悪性黒色腫のような稀な腫瘍を中心 に治療がなされ、眼球温存ができて約

3

分の

2

の患 者に視力の温存ができる治療法として、自然に患者 の流れが陽子線治療に向くようになり、手術に代わ る標準治療となっています

12)

。これに対して筑波大 学では、呼吸同期照射システムを開発し、日常的に 多く経験する肝細胞癌などの深部臓器の腫瘍に対し て治療が始められ、優れた成績が得られました。当 初は、物理施設を共同利用しているために、ビーム 時間を使用できるのは

3

ヶ月ごとで年間

6

ヶ月、し かもビームが使用できる時間が半日に割り当てられ ていたことで、ビーム時間に合わせて治療をせざる を得ないというのが最大の問題でした。このような 限界を克服するために、病院に付設した治療機器の 要求がなされ、私が赴任した

2001

4

月には病院 付設の最新の陽子線治療装置が設置されて、ビーム 出力試験が行われていました。この装置は小型化さ れたとはいえ非常に大規模なもので、陽子線は

8 m

径のシンクロトロンにより光の速度の

60%

程度ま で加速されます。このビームを体の任意の方向から 照射するために大掛かりな

250

トンもある回転ガン トリーにビームが送られて、目的の方向から照射す るというものです

13)

。この

1 mm

径のビームが腫瘍 全体をカバーできるようにするために、リッジフィ

3 深部線量分布の比較

通常の放射線治療で用いる

X

線と電子線、ならびに 陽子線の深さ方向の線量分布を示します。陽子線には ブラッグピークという特性があり、このピークを腫瘍 に合わせると、腫瘍への放射線の集中性が増加します。

(5)

ルターを用いてビームが届く奥行き幅を調整し、二 重散乱体を用いてビームの広がりを作った後に、

ボーラスを用いて腫瘍の形状にビームを成形し、最 後はコリメータで無駄な照射野を削るという過程が 必要になります。このようにして腫瘍の形状に成形 したビームを正確に照射するために、毎回、治療機 に付設されている透視装置を用いて位置合わせしま す。呼吸により移動する腫瘍に対しては呼吸の位相 に合わせた照射を行えるように、一定の呼吸相がく るまでシンクロトロン内にビームを回転させながら 蓄えて、照射が必要なタイミングを見て照射できる というシステムです。

病院内施設での治療はその年の

9

月から始まりま した。当時は国立がんセンター東病院に次ぐ日本で

2

番目の病院付設の陽子線治療装置であったため、

適応となる疾患は、通常の治療と差別化が期待でき る疾患ということになりました。悪性グリオーマ、

I

期非小細胞肺癌、局所進行肺癌、局所進行食道癌、

肝細胞癌、膀胱癌、前立腺癌を対象疾患として臨床 試験が始められました。疾患別に見ていきますと、

肝細胞癌はその自然歴から肝硬変組織から発生しま すので、必要な条件は繰り返し治療ができることと なります。低下している肝細胞癌周囲の肝予備能を いかに維持しながら治療を行うかが問われます。陽 子線治療の持つブラッグピークという物理的性質 が、非癌組織の線量を最小にしつつ腫瘍に高い線量 を投与する上で有利となります。また、腫瘍は呼吸 性移動するために、無駄な照射を避けるには呼吸に 合わせた照射が必要となります。そのために腫瘍近 傍の非癌肝組織に予めイリジウムマーカーを刺入し

ておき、呼吸周期で最も安定した呼気時に治療計画

CT

を撮影して、それに基づいて治療計画を行い、

呼気時に合わせた呼吸同期照射を施行しました。こ の非癌組織を温存して肝臓の再生能を期待できる陽 子線治療により、優れた長期臨床成績が得られまし

14)

(図

4, 5)。この治療法は、門脈腫瘍塞栓、下大

静脈腫瘍栓などの脈管浸潤を伴うために手術が困難 な肝細胞癌、巨大肝細胞癌、肝予備能が限られてい る患者に特に有効な治療となりました。局所進行肺 癌においても陽子線の特性を利用することにより肺 にあたる線量を減らすことが可能であり、優れた初 期成績が得られています

15)

。食道癌においても高線 量の投与が可能となり、陽子線単独の治療で高い局 所制御率が得られました

16)

。膀胱癌に対しては膀胱 温存療法の中に、化学療法、経尿道的腫瘍切除、陽 子線治療を組み込んだ集学的治療により、膀胱温存 療法を実現しました

17)

。このように陽子線治療は初 期の段階では深部臓器の腫瘍の治療を中心に日本が 米国を牽引し、日本のメーカーが海外に市場を開拓 することにも貢献しました。

5. 強度変調放射線治療

東京医科大学では、特殊な装置を用いずに一般の 放射線機器を用いて、強度変調放射線治療を始める ことが求められていましたし、それを始めることが 自らの高精度放射線治療の仕事を押し進めることに も繋がりました。一般の放射線治療では、試行錯誤 を繰り返して最適な照射門、照射門ごとに最適と思 われる線量を決定します。そして、CT画像上に線 量分布図を重ねるようにして描き、照射される腫瘍、

4 門脈腫瘍栓を伴った肝細胞癌の陽子線治療例

腫瘍部に限局して陽子線治療を行いますと、腫瘍は徐々に縮小して消失しました。5年後に照射部の非癌組織は萎 縮し痕跡を残すのみとなりましたが、非照射部位の線量はゼロにできたために同部は再生し、肝機能は保たれまし た。

(6)

正常組織の線量・体積ヒストグラムを求めてその妥 当性をできるだけ客観的に評価して治療を開始する という方法が行われます。これに対して、強度変調 放射線治療はさまざまな方向から腫瘍部分へ放射線 を当てるという点ではこれまで広く行われてきた三 次元照射と同様ですが、治療法の考え方が異なりま す。すなわち、標的体積に投与する処方線量、危険 臓器の線量制約を最初に設定し、従来とは逆にその

設定値の条件を満たす治療方法をコンピュータによ り最適化計算させるという方法です。これまでの方 法ですと、各照射門から均質な放射線を照射します が、強度変調放射線治療で得られた各照射門の放射 線は非常に不均質です。この不均質な放射線を全部 足し合わせると結果として設定した条件に近い線量 分布が得られるという方法です

18)

(図

6)。これに

よって、従来法ではできないより理想に近い線量分 布を作ることが可能となり、腫瘍に対してより高線 量、周辺の非癌組織には低線量の照射が可能となり ます。強度変調放射線治療がもたらしたものはこれ までの三次元原体照射よりさらに優れた線量分布で あり、線量集中性を高めようとする放射線治療の歴 史の延長線上にありますが、その中には放射線治療 の革命的な概念が含まれています。すなわち、従来 の放射線治療は放射線を当てた時に実際にどの程度 当たっているのかをシミュレーションして、評価す るのに対して、強度変調放射線治療は必要な線量の 処方と正常組織の限界線量を規定すると言う考え方 です。治療方法を決めて結果を評価する方法から理 想に近い結果を得るための方法を求めるというもの で、治療計画のコペルニクス的転回です。放射線治

6 強度変調放射線治療の原理

前立腺癌に対する強度変調放射線治療。腫瘍(前立腺)に対して必要な処方線量、重要臓器(直腸)に対する線量 制約を数字で入力します。これを最適化アルゴリズムによって繰り返し計算して、結果として優れた線量分布が得 られます。これを実現する照射強度地図を描き、照射強度地図の通りに放射線を投与しますと、当初妥当と考えた 線量分布が実現できます。

5 肝細胞癌に対する陽子線治療成績

87%

という高い

5

年局所制御率が得られて、手術に代 わりうる治療と考えられました。

(7)

療は外科療法と同様に局所療法であり、外科医の手 術のごとく腫瘍の存在範囲を治療計画上で示し、そ こに投与する線量並びに危険臓器の線量制限を具体 的に明示するということが求められます。腫瘍に対 する線量効果関係、正常組織の耐容線量についての 知識は積み上げられてきましたが、さらに詳細な線 量効果関係の把握が求められてきます。一方で、線 量を集中する治療である反面、広範囲に低線量の放 射線をばらまく治療であり、放射線誘発癌を含め低 線量放射線の影響に対する理解が求められます。

このような治療を実現するためには、治療計画の 高精度化が必須です。東京医大で強度変調放射線治 療を開始するときに問題となったのは、治療機器の 精度でした。実際にフェンステストを行うと治療機 の多段絞りの動きがスムーズでなく、再現性が確保 されないことが分かりました。通常の強度変調放射 線治療は何重にも多段絞りの開閉を繰り返しながら 行うものですので、このままでは不可能でした。そ こで、米国放射線腫瘍学会で知ったベンチャー企業 であるドット・デシマル社が開発した補償フィル ターを使用することとしました。新しい治療機が導 入されるまでの便宜的なものという考えで始めまし たが、結果としてはこの補償フィルターにも多くの 利点があることが分かりました。つまり、呼吸性に 移動する腫瘍に対して補償フィルターは動きません ので、安定した照射ができることであり、補償フィ ルターを通過することにより、放射線の低エネル ギー部分がより多く吸収されますので、皮膚面の線

量を抑えることができる点でした。また、精度管理 も動かないものが相手ですので、より容易に安全に 行うことができました。図

7

は強度変調放射線治療 を施行したときの計算上の線量分布と実測値とを比 較したものです。このような複雑な治療についても 実測と計算は良く一致しており、この高い精度が、

強度変調放射線治療の前提となっています。このよ うな照射技術の進歩と画像診断技術の進歩により強 度変調放射線治療は実現しました。

この方法を用いて、様々な疾患に対して治療を行 いました。前立腺癌に対しては、強度変調放射線治 療により、計画上では直腸を避けるような照射が可 能となりました。毎回の照射において正しく照射す るために、膀胱内の尿量を一定化し、三次元エコー を用いて治療計画の時と前立腺の位置関係が同一と なるように毎回位置を調整しました。その結果は直 腸に当たる線量が減り、明らかに治療中の有害事象 が低減しました。治療中と晩期の有害事象とは別物 であるというのが放射線治療の常識でありますが、

直腸の線量が減ったのですから、晩期の直腸有害事 象も低減すると予想されます。肺癌では、I期非小 細胞肺癌に対して、現在手術に代わる放射線治療と して有効性が認められている体幹部定位放射線治療 にこの強度変調放射線治療の技術を付加した非共通 面強度変調放射線治療を用いた第二相試験を開始し ました。この試験に登録された患者は、高齢、肺気 腫などをベースに呼吸器疾患、心疾患を抱えている ために外科手術ができないあるいは手術を拒否した

7 治療計画で得られた線量分布と実際の線量分布との比較

実線が計算によって得られた線量分布で、点線が実際の測定で得られた線量分布です。このような複雑な治療計画 にもかかわらず、両者が高精度で一致しているのが分かります。

(8)

患者

49

名、50腫瘍でした。全体として

3

年生存率

88.3%、3

年無再発生存率が

87.9%

と外科治療に 遜色のない成績でした(図

8)。特に高度な肺気腫

の患者における放射線肺臓炎の発生頻度が少ないと いう知見が得られ、単純に照射される肺実質が少な いためと解釈しています

19)

(図

9, 10)。このように

自然に手術療法との棲み分けができてきています。

世界的には手術可能な患者に対する手術療法と体幹 部定位放射線治療との二つの比較試験がなされてい ますが、両者とも患者登録が進まず、中止となって います。しかし、この二つの試験を統合したプール 解析において、体幹部定位放射線治療は手術と遜色 のない治療であることが示されました

20)

。2017 に改訂された

TNM

悪性腫瘍の分類第

8

版の新分類 に従って、再解析しますと、T分類で

T1b(腫瘍の

充実性成分が

2 cm

以下)ではほぼ

100%

の局所制 御が得られますので、これまでの治療を継続します。

腫瘍の充実性成分が

2 cm

を越える

T1c

以上につい ては局所制御率が下がるために線量増加するなどの 治療を行うことにより、更なる成績の向上が期待さ れます。上咽頭癌については耳下腺の線量を耐容線 量とされる

26 Gy

に線量制限を設けることによっ て、1年後の唾液腺機能が温存されることが唾液腺 シンチで示されています。

現在の治療機は

X

線と電子線が使用できますが、

電子線の扱いが難しいため、ほとんどの高度な治療

X

線を使用しています。しかし、電子線には

X

線と異なった深部線量分布特性がありますので、電 子線の線量集中性が増す表層部に近い腫瘍に対し

9 肺癌に対する強度変調定位放射線治療の症例

計画した照射体積の

95%

75 Gy

以上が照射されるように線量処方し、肺に

20 Gy

以上照射される体積を線量制約 として入力して得られた照射方法を用いて

30

回に分割して治療しました。高線量の投与にもかかわらず、画像上 に放射線による肺の繊維化は軽微であることが分かります。

8 I

期非小細胞肺癌に対する強度変調定位放射線治療の 成績

3

年無再発生存率が

87.9%

と手術に匹敵する治療成績 が得られました。手術が標準治療であることに変わり ありませんが、心筋梗塞、糖尿病などの疾患のために 手術ができない症例、手術を拒否された患者さんに対 する有効な治療と考えられます。

(9)

て、電子線を用いて強度変調を行う強度変調電子線 治療も試みています。内胸リンパ節領域と胸壁を含 める照射では、従来の方法ですと肺に過度な線量が 入るために放射線肺臓炎の危険度が高くなり、反対 側の胸壁にも照射されるために、反対側に乳がんが 生じた場合の治療を困難にします。強度変調電子線 治療を用いますと、肺に当たる照射線量を減らせる と同時に対側の乳房に照射する必要がなくなります ので、対側に新たに乳がんが発生した場合にも治療 ができる余地を残していることになります。

6. 高精度放射線治療の未来

高精度放射線治療とは放射線の集中性を高めて局 所の効果を最大限まで引出し、正常組織の照射を避 けて有害事象を減らそうとするものです。この進歩 に貢献したのは、照射技術の進歩とともに画像診断 の発達でした。原体照射は日本が欧米を牽引し、陽 子線治療をはじめとする粒子線治療も日本に多くの 粒子線治療施設が設置されたことも手伝って、日本 がリードしていきた領域です。しかし、強度変調放 射線治療の時代になるとマンパワーの不足から欧米 に比べて普及率は低迷し、出遅れた感は否めません。

日本の企業も放射線治療機器の生産から撤退する企 業が相次ぎ、このような逆風に呼応するように、日 本発の論文数も減少してきました。この状況を克服 するために、医工連携を強めると共に、医療機関同

士の連携を密にして、大規模な臨床研究を可能とす る土壌が必要と思われます。

現在、アブスコパール効果が注目されています。

これは、原発巣を照射しその効果が出ると同時に、

何も治療を加えていない転移巣が縮小してくる現象 です。放射線は局所療法であり照射した場所以外に は何らの効果もないという最初の前提を否定するよ うな現象です。この稀な現象は国内において

30

ぐらい前から指摘されていましたが、あまり取り上 げられませんでした。しかし、この現象が免疫チェッ クポイント阻害剤と関連で

New England Journal of Medicine

に紹介されますと

21)

、急に注目されてきま した。今後の方向の一つは、無駄な照射を避けると いう意味で高精度放射線治療と免疫チェックポイン ト阻害剤との併用は有効と思われますので、アブス コパール効果は放射線治療のキーワードの一つにな るかも知れません。残念なことは、古くからこの現 象に気がついていた日本人がこの現象の発信源にな らなかったことです。今後は日本初の知見を大切に する風土を育てる事が必要でしょう。

7. 最 後 に

思いがけずに、還暦祝いを行っていただき、記念 品として、東医のロゴ入りワイングラスと生まれた 年の赤ワインをいただきました。このワインの年代 を以下の方法で測定しました。通常の状態では大気 中の窒素から宇宙線による核反応により、一定量の 炭素­

14

が生成されます。炭素­

14

の半減期が

5700

年であることを利用すると、考古学的な年代測定が 可能となります。原爆実験が世界規模で行われて、

多量の炭素­

14

が生成されたために、大気中および 土壌に一定であるべき炭素­

14

量が大きく変動しま した

22)

。考古学の調査には大きな支障となっていま すが、ワインの炭素­

14

と炭素­

12

の比を土壌の検 量曲線と対比すると年代の推定の推定が可能とな り、このワインは

1953

年のものと矛盾しないこと が判明しました。このように、赴任時には知り合い は誰もいない中、皆様に受けいれていただいきまし た。先代の阿部公彦名誉教授にはことあるごとにお 声掛けいただき、先々代の網野三郎名誉教授とは国 立がんセンターを通じて様々なご縁があることが分 かりました。臼井正彦理事長、鈴木衞学長のもと教 授会のメンバーの方々、教職員の方々には大変良く していただきました。この間、私を支えていただき、

10

 肺気腫のグレードによる照射後の肺の変化の検討

治療前に高度の肺気腫を呈していた症例において、

照射後の周囲の肺組織の変化が少ないことが分かり ます。このような症例は、手術の適応になりにくく、

強度変調定位放射線治療との棲み分けが自然にでき てきます。

(10)

飲み友達でもあった赤田壮市教授が急逝するという 悲しいこともありました。しかし、医局のメンバー の全面的な支援と多くの方の支えにより、勤め上げ ることができました。このように、東京医大には大 変感謝しており、今後の益々の発展を祈願していま す。あらためて、東京医大ありがとう。

文   献

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参照

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