大分県獣医師会会報
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号
大
分
県
獣
医
師
第
24
号
2013.12
大分県獣医師会会報
大分県獣医師会会報
会報第24号目次
会長あいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 《各表彰状受賞》 第 62 回九州地区獣医師大会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 獣医師の誓い ― 95 年宣言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 日本獣医師会・獣医師会活動指針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 《特別講演》 「ウィルス中和抗体価と狂犬病ワクチン接種回数の関連について ― 日本における犬の前向き調査 ―」 大分大学医学部微生物学講座 渡 辺 一 平・・・・・・・・・・・・・・ 9 《業 績》 平成25年度獣医学術九州地区学会学会長賞受賞(産業動物獣医学会) ウシ MHC 遺伝子マーカーを指標とした牛白血病発症抵抗性遺伝子保有黒毛和種種雄牛の造成 農林水産研究指導センター畜産研究部 藤 田 達 男・・・・・・・・・・・・・ 17 平成25年度獣医学術九州地区学会学会長賞・フロアー賞受賞(小動物獣医学会) 犬の頚部気管虚脱 Grade4 33 例に対する外科的矯正術の治療成績 末松どうぶつ病院 末 松 正 弘・・・・・・・・・・・・・ 26 平成25年度獣医学術九州地区学会学会長賞受賞(獣医公衆衛生学会) 豚の疣贅性心内膜炎由来 Streptococcus suis の農場別比較解析 大分県食肉衛生検査所 甲 斐 雅 裕・・・・・・・・・・・・・ 29 平成25年度獣医学術九州地区学会九州地区獣医師会連合会会長賞受賞(産業動物獣医学会) マイクロバイオスピンカラムを用いた簡易な IgM 検出法とその応用 大分家畜保健衛生所 長 岡 健 朗・・・・・・・・・・・・・ 32 平成25年度獣医学術九州地区学会九州地区獣医師会連合会会長賞受賞(産業動物獣医学会) 黒毛和種に発生したキョウチクトウ中毒とオレアンドリンの動態 大分家畜保健衛生所 河 野 泰 三・・・・・・・・・・・・・ 36 〈産業動物論文〉 子牛の毛包虫症に関する調査報告 ゆふいん動物病院 立 川 文 雄・・・・・・・・・・・・・ 42 豚流行性下痢ウイルスの関与を疑う事例に関する一考察 大分家畜保健衛生所 壁 村 光 恵・・・・・・・・・・・・・ 52 黒毛和種における牛白血病の経乳感染防除に向けた完全人工哺育の有効性の検討 農林水産研究指導センター畜産研究部 安 達 聡・・・・・・・・・・・・・ 54黄色ブドウ球菌による乳房炎の効率的な検査方法の検討 豊後大野家畜保健衛生所 山 田 倫 史・・・・・・・・・・・・・ 57 〈小動物論文〉 全身性の免疫介在性疾患を疑った犬の1例 隼人どうぶつ病院 穴 井 友加里・・・・・・・・・・・・・ 60 突然の大量出血を呈した兎の1例 みなはるペットクリニック 藤 野 嘉 雄・・・・・・・・・・・・・ 64 インターフェロンγにより分子標的薬の効果が増強された犬の皮膚肥満細胞腫1例 隼人どうぶつ病院 添 田 久仁子・・・・・・・・・・・・・ 67 内視鏡下胃内異物摘出を行った幼齢猫の2例 末松どうぶつ病院 山 城 識 子・・・・・・・・・・・・・ 72 犬の緑内障における眼軸長測定の有用性の検討 大分小動物病院 吉 野 信 秀・・・・・・・・・・・・・ 75 難治性の肛門嚢炎に対して辛島式イオン泳動治療装置 ® による治療が奏功した犬2例 隼人どうぶつ病院 添 田 健 作・・・・・・・・・・・・・ 78 犬のレッグ・カルベ・ペルテス病の内科治療中に大腿骨頸部骨折を発症し、 ペルテス病および頸部骨折を同時に手術により完治させた1治験例 動物整形外科病院 樋 口 飛 鳥・・・・・・・・・・・・・82 犬の尺骨に発生した骨肉腫に対して同種骨移植および抗がん剤を用いた1治験例 わたなべ動物病院 渡 邉 一 仁・・・・・・・・・・・・・ 85 〈公衆衛生論文〉 1生産者から搬入された牛の糞便からの志賀毒素産生性大腸菌検出状況 大分県食肉衛生検査所 西 本 清 仁・・・・・・・・・・・・・ 89 天然ヒラメに寄生した Kudoa septempunctata による食中毒事例 大分市保健所 椎 原 良 子・・・・・・・・・・・・・ 91 東部保健所に寄せられた食品に関する苦情2事例 東部保健所 中 瀬 真 紀・・・・・・・・・・・・・ 95 獣医師会・ボランティアと協働した犬・猫の譲渡推進体制 食品安全・衛生課 小 林 貴 廣・・・・・・・・・・・・・ 99 Arcobacter butzleri のヒト下痢症検体からの検出 大分県衛生環境研究センター 成 松 浩 志・・・・・・・・・・・・102
と畜場の口蹄疫危機管理対策 ~口蹄疫の侵入をどう防ぐか~ 大分県食肉衛生検査所 江 川 英 明・・・・・・・・・・・・105 《千村ギャラリー》・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109 《第62回九州地区獣医師大会並びに平成25年度獣医学術九州地区学会について》・・・・・・・・・・・・・・・・・・117 《資料及びトピックス》 ◦第 62 回九州地区獣医師大会並びに平成 25 年度獣医学術九州地区学会を終えて・・・・・・・・・・・・・・・・121 ◦第 62 回九州地区獣医師大会のオープニングを飾った市民公開講座・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132 ◦動物愛護支援事業の進捗状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・134 ◦平成 25 年度大分県動物愛護フェスティバルについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139 ◦大分市高島におけるウミネコの標識調査報告及び今後の保護に向けて(第9報)・・・・・・・・・・・・・・・・・141 ◦動物愛護関係先進施設視察報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146 《支部活動報告》 ◦日田支部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149 《部会だより》 ◦産業動物部会だより・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・151 ◦小動物部会だより・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153 ◦家畜衛生部会だより・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・165 ◦公衆衛生部会だより・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・168 《会員の声 ― エッセー》 ◦ロードバイクにハマってしまいました!! 大分家畜保健衛生所 長 岡 健 朗・・・・・・・・・・・・171 ◦「世界狂犬病デー」街頭啓発キャンペーンを行いました! 大分市保健所 荒 川 和 洋・・・・・・・・・・・・176 ◦僕の趣味 永野どうぶつ病院 永 野 克 洋・・・・・・・・・・・・179 《病院紹介》 ◦庄の原どうぶつ愛護病院・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181 ◦かく動物病院・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・183 ◦なた海岸動物病院・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・185 《新入会員紹介》 ◦清 田 友(玖珠家畜保健衛生所)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187 ◦江 川 和 孝(大分県食肉衛生検査所)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187 ◦藤 井 章 子(北部保健所)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187 ◦中 出 圭 祐(大分家畜保健衛生所)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187 ◦西 田 清 実(玖珠家畜保健衛生所)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・188 ◦猪 原 明 子(大分県畜産振興課)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・188 ◦伊 藤 由布子(大分県農業共済組合連合会)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・188
《お知らせ》 ◦平成 25 年度日本獣医師会獣医学術学会年次大会(千葉市)について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・189 ◦自動車共済(西日本自動車)共済協同組合について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・193 《会務通信》 ◦事務局日誌・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・195 《広 告》 《大分県獣医師会館周辺見取図》 《表紙写真》―『豊後大野市(原尻の滝、出會橋・轟橋)・姫島(観音崎)』 《裏 表 紙》―『姫島・観音崎』
ご 挨 拶
公益社団法人 大分県獣医師会
会 長
麻 生 哲
明けましておめでとうございます。
会員の皆様方には、ご家族お揃いで清々しい新春をお迎えのこととお慶び申し上げま
す。
日頃から本会の運営や事業推進にご理解とご協力をいただき厚くお礼申し上げます。ま
た、昨年は、第62 回九州地区獣医師大会並びに獣医学術九州地区学会を新装されたホルト
ホール大分等で900 名を超える参加者を得て、大成功裡に開催できましたのも、会員の皆
様のご支援、ご協力の賜と心より感謝申し上げます。
さて、最近の社会情勢は、政権の交代等により政治、経済情勢は大きく変化しようとして
います。2年前の東日本大震災とそれに継発した原発事故により未だ不便な避難生活をさ
れている被災者の方々も多く、動物の救護活動も長期化を余儀なくされています。
一方、昨年国内では重要な家畜伝染病の発生はなかったものの、口蹄疫や高病原性鳥イ
ンフルエンザの侵入危機が増す中、台湾で52 年ぶりに狂犬病が発生し、25 年11 月末日ま
でにイタチアナグマ250 頭、ジャコウネズミ1頭、犬1頭の計252 頭に感染が確認されて
います。感染動物から人への咬傷事故も起こるなど、その対応に追われていると聞いてお
ります。日本では昭和31 年以来発生していませんが、グローバルな時代を迎え益々侵入リ
スクが高まってきております。11 月に韓国では豚コレラの発生報告もありました。
このような中、昨年、日本獣医師会会長に就任された藏内勇夫前福岡県獣医師会長は、①
獣医療を提供する体制の整備、②獣医学教育の改善・充実、③勤務獣医師の処遇改善等を
喫緊の課題とし、中でも従来から懸案となっていた狂犬病予防事業の適正化について、ス
ピード感を持った対応と、日本獣医師会と地方獣医師会が連携し一丸となって対応するこ
とが必要と強調されています。日本医師会と日本獣医師会で「学術協力の推進に関する協
定書」が締結されたところでもあります。
私たち獣医師は果たすべき社会的役割を考えながら、第62 回九州地区獣医師大会の
テーマであった「九州地区から実現しよう! 人と動物が共生できる豊かで健全な社会
を」を肝に命じ、動物の健康の確保や動物福祉の増進を基本に、越境性感染症等に対する防
疫体制の強化を図り、安全な畜産物の提供に努め、動物愛護精神の高揚と普及を図り、か
つ、獣医学術と人間性の研鑚に励まなければなりません。
今年の干支は60 年に一度の「甲午(きのえうま)」です。甲午(こうご)の年は、新しい
時代に入りガラリと変わる重要な年と言われており、将来を決める節目の年になりそうで
す。
本会も会員の皆様方のご意見、ご指導を仰ぎながら益々の発展を目指します。今後とも、
ご支援、ご協力をお願い致しますとともに、会員各位のご健康とご家族のご多幸を祈念申
し上げ、新年のご挨拶と致します。
末 次 由 和
浅 井 省 三
日本獣医師会会長褒章
九州地区獣医師大会
第62回
表 彰 状 受 賞
小 野 讓
飯 田 昌 昭
九州地区獣医師会連合会
会長表彰功労者
九州地区獣医師大会
第62回
表 彰 状 受 賞
久 木 義 一
木 原 滋 陽
平成 25 年度獣医学術九州地区学会
学会会長表彰
九州地区獣医師大会
第62回
表 彰 状 受 賞
獣医師の誓い−95年宣言
人類は、地球の環境を保全し、他の生物と調和を図る責任をもっている。
特に獣医師は、動物の健康に責任を有するとともに、人の健康についても
密接に関わる役割を担っており、人と動物が共存できる環境を築く立場に
ある。
獣医師は、また、人々がうるおいのある豊かな生活を楽しむことができる
よう、広範多岐にわたる専門領域において、社会の要請に積極的に応えて
いく必要がある。
獣医師は、このような重大な社会的使命を果たすことを誇りとし、自らの
生活をも心豊かにすることができるよう、高い見識と厳正な態度で職務を
遂行しなければならない。
以上の理念のもとに、私たち獣医師は、次のことを誓う。
1 動物の生命を尊重し、その健康と福祉に指導的な役割を果たすとと
もに、人の健康と福祉の増進に努める。
2 人と動物の絆を確立するとともに、平和な社会の発展と環境の保全
に努める。
3 良識ある社会人としての人格と教養を一層高めて、専門職としてふ
さわしい言動を心がける。
4 獣医学の最新の知識の吸収と技術の研鑽、普及に励み、関連科学と
の交流を推進する。
5 相互の連携と協調を密にし、国際交流を推進して世界の獣医界の
発展に努める。
(1995年6月27日、社団法人日本獣医師会・第52回通常総会において採択) ヒューマン・アニマル・ボンド獣医師の誓い−95年宣言
人類は、地球の環境を保全し、他の生物と調和を図る責任をもっている。
特に獣医師は、動物の健康に責任を有するとともに、人の健康についても
密接に関わる役割を担っており、人と動物が共存できる環境を築く立場に
ある。
獣医師は、また、人々がうるおいのある豊かな生活を楽しむことができる
よう、広範多岐にわたる専門領域において、社会の要請に積極的に応えて
いく必要がある。
獣医師は、このような重大な社会的使命を果たすことを誇りとし、自らの
生活をも心豊かにすることができるよう、高い見識と厳正な態度で職務を
遂行しなければならない。
以上の理念のもとに、私たち獣医師は、次のことを誓う。
1 動物の生命を尊重し、その健康と福祉に指導的な役割を果たすとと
もに、人の健康と福祉の増進に努める。
2 人と動物の絆を確立するとともに、平和な社会の発展と環境の保全
に努める。
3 良識ある社会人としての人格と教養を一層高めて、専門職としてふ
さわしい言動を心がける。
4 獣医学の最新の知識の吸収と技術の研鑽、普及に励み、関連科学と
の交流を推進する。
5 相互の連携と協調を密にし、国際交流を推進して世界の獣医界の
発展に努める。
(1995年6月27日、社団法人日本獣医師会・第52回通常総会において採択) ヒューマン・アニマル・ボンド「獣医師の誓い−95年宣言」について
(説明)
この「獣医師の誓い」は、世代や獣医師の職域を越えて、しかも実行性のあるものとして、すべ ての獣医師に受け入れられるよう、獣医師倫理の総論的、最大公約数的な事項を集約したもので、 基本理念としての前文と5項目からなる各論で構成されております。 この誓いは、新しいセオリーや意見を述べるものではありませんし、また、高邁な精神訓話をし ようとするものでもありません。当たり前のことを羅列しただけです。この当たり前のことを折に 触れて改めて考え、そして自分自身の認識として、普段の行動の拠りどころとしていただきたいと 願うものです。 また、「95年宣言」という副題は、この誓いを獣医師自らが内に向かって誓うということだけ でなく、外に向かって、社会に対して宣言することにより、獣医師の責任を一層明確にすると同時 に、これを尊守しなければならないという気持ちが喚起されることを期待して特に付したものであ ることを強調しておきます。 前文について: 獣医師とは何か、獣医師の役割は、そして獣医師のありようについての議論の集約です。また、 獣医師としての誇りをその職務の遂行と表裏をなすものとして位置付け、さらにプロフェッショナ ルとして自らを厳しく律するよう求めるとともに、獣医師自身の豊かさの追求にも触れております。 各論について: 前文の理解と前提にたって、より具体的な目標として、次の5項目にわたる事項をとりあげまし た。獣医師の任務、職域が広範多岐にわたることから、盛るべき内容は多く、その集約、整理、表 現などに苦労いたしましたが、より明快な主張となるよう工夫しました。 1は、獣医師の幅広い任務を象徴的にとりあげたもので、動物の生命に直接関わるだけでなく、 公衆衛生分野あるいはバイオメディカル分野などにおいて人の健康にも密接に関わる専門職として の社会的な使命をこのような形で常に認識するよう、獣医師の自覚を促すものです。 2は、近年、重要となっている人と動物との関係−ヒューマン・アニマル・ボンドをより良く築 くことについて、獣医師が両者に関わる専門職としてその職責を果たしていくことを通じて、平和 な社会の発展と環境の保全に寄与するよう求めるものです。 3は、獣医師が社会性、広い市民性を身につける必要を述べたもので、獣医師に限らず職業的科 学者、専門家に往々にして見られる内面的な知性の狭隘性、社会性の欠如に対し、より幅広く教養 を身につけるなど、専門分野以外のことに関する自己研鑽についても一層の努力を呼びかけるもの です。 4は、科学者としての獣医師が、当然のこととして、日進月歩の獣医学術の研鑽に常に努め、あ わせて医学や生物学などの自然科学さらには社会科学を含む関連科学との交流を積極的に推進する ことにより、獣医学術のみならず、獣医学術と密接に関連する科学の発展についても貢献するよう 願うものです。 5は、独善的な傾向がみられがちな専門家−獣医師に対して、全体的なまとまりを強く呼びかけ るとともに、国際的にも獣医師相互が広く交流し、様々な関係情報の交換・伝達を積極的に図って いくことによって、日本だけでなく、世界の獣医界が発展するよう期待するものです。 いのちみつめる。いのち育む。 社団法人日本獣医師会
ウイルス中和抗体価と狂犬病ワクチン
接種回数の関連について
― 日本における犬の前向き調査 ―
渡 辺 一 平
大分大学医学部微生物学講座
要 旨 日本では過去 60 年間にわたり毎年大規模な犬の狂犬病予防接種が行われてきた。現時点における犬の狂 犬病ウイルス中和抗体(VNA)獲得状況と現在の予防接種方法の合理性を評価するために、我々は迅速蛍 光フォーカス抑制試験を用いて動物病院を受診した 756 頭の犬の中和抗体価を調査した。1回だけワクチ ン接種した犬の 51.1%が感染防御できる中和抗体価(≧ 0.5 IU/ml)を獲得し、その中和抗体価の幾何平 均は 0.61 IU/ml であった。一方、2回以上予防接種した犬の 97.8%が感染防御できる中和抗体価を獲得し、 その中和抗体価の幾何平均は 7.86 IU/ml であった。さらに、2回以上予防接種した犬の 97.9 ~ 100%が、 最後の予防接種から2年間、感染防御できる中和抗体価を保持していた。2回以上予防接種した犬の中和抗 体価が最後の予防接種から2年後に減少する傾向はあるが、その 78.9%は依然として感染防御できる量の 中和抗体を保有していた。このように、現状の狂犬病ワクチンの予防接種スケジュールにより十分な感染防 御が確保されているが、狂犬病の予防接種した犬の数をさらに増加させるには登録システムと予防接種スケ ジュールに改善が必要であろう。 はじめに 狂犬病は、狂犬病ウイルスにより急性の致死的脳炎を起こす。世界でおよそ 55,000 人の人が毎年狂犬 病で死亡している。その 99%が犬から感染している。多くの国で狂犬病は依然として流行しているが、日 本を含むいくつかの国では根絶されている。1950 年に日本政府は狂犬病予防法を制定し、犬の登録、義務 的な犬の予防接種、野犬対策、迷子犬対策、海外から輸入される犬の検疫やその他を実施している。結果と して、1954 年から日本では国内感染した人の狂犬病の報告は無く、国内感染した犬や猫の狂犬病発生もそ れぞれ 1956 年と 1957 年から報告は無い。 国際化により狂犬病が流行している発展途上の国々から人や動物の交流が増加し、日本に狂犬病が侵入す る可能性が増加している。自然災害もその危険性を増加させている。例えば、1923 年の関東大震災後の数 年にわたって狂犬病発生数は日本で増加し、これは多数の迷子犬が発生したことが原因であった。東日本大 震災として知られている 2011 年3月 11 日の巨大地震と巨大津波の後にもやはり迷子犬が増加した。もし、 狂犬病にかかった動物が偶然に持ち込まれたら、狂犬病の予防接種をしていない多くの迷子犬の存在するこ とが原因で、狂犬病が急速に拡がるであろう。これにより、日本の現在の狂犬病がいない状況が脅かされる。 狂犬病に対する犬の大規模な予防接種により都市型狂犬病の自然循環を断ち切ることは、非常に合理的な 政策である。世界保健機関(WHO)によると、少なくとも 70%の犬に狂犬病の予防接種を行えば狂犬病 地域流行の危険度を最小限にできる。しかしながら、日本で感染防御できる中和抗体価を保有している犬の 頭数は、現在不明である。さらに、現在毎年行っている狂犬病予防接種事業が充分であるかどうかを明らか にしようとした研究は、ほとんど無い。そこで、我々は、予防接種の回数と予防接種間隔が日本のペット犬 の血清中和抗体価に与える影響を評価するため、前向きで、病院を起点とした研究を行った。 材料と方法 (血清の収集と保存) 総計 756 件の犬血清を 2010 年5月から 2011 年 11 月にかけて 30 カ所の動物病院(大分県 28 ヶ所、東京都 2 ヶ所)から集めた。生年月日、狂犬病予防接種回数、最後の予防接種からの 日数、採血日の情報も集めた。756 件の血清の内訳は、649 件に予防接種歴があり、107 件が予防接種を 受けていなかった。犬の平均年齢は 6.2 歳(5 日~ 19 歳)であった。予防接種歴のある 249 頭はオスで あり、280 頭はメスであった。そして、120 頭は性別不明であった。予防接種歴のない犬(0 ‐ 12 カ月) は全て性別不明であった。これらの母犬が狂犬病に対し感染防御できる中和抗体価を保有していたかは確認 することはできなかったが、狂犬病の予防接種を複数回受けた公的な証明があるため、大部分の母犬が感染 防御できる中和抗体価を持っていたと推定された。犬の予防接種は 6 種の商業的に供給される動物用狂犬 病ワクチンが使用されており、全て RC-HL 株である。 血液は、予防接種やその他の理由で動物病院を訪れた犬から採取した。これらの犬は、免疫系に関連した 疾病にはかかっていない。検査法の詳しい説明をした後に犬の飼い主から口頭で同意を得た。通常のガラス 試験管に全血 10ml を採取した。室温に 15 分間置いた後、2,000g、4℃、10 分間の遠心で、血清を分離 した。血清は- 20℃で保管し、大分大学の我々の研究室に送られた。冷凍した検体を溶かし、中和抗体を 測定する前に 56℃ 30 分間加熱して、血清中の補体を不活化した。この研究は大分大学の倫理委員会の承 認(M010003)を得て行った。 (中和抗体価の測定) 狂犬病中和抗体価は迅速蛍光フォーカス抑制試験(RFFIT)で行った。最初に、血清 を階段希釈したものと狂犬病ウイルス標準株(CVS-11)を、96 穴マイクロプレートで 37℃で 90 分間反 応させた。それぞれの穴に BHK-21 細胞を加え、37℃で 18 時間反応させた。最後に、培養液を除き、細 胞を 90%アセトンで固定し、抗狂犬病ウイルス N モノクローナル抗体(富士レビオ)を結合した FITC(蛍 光色素)で 37℃ 45 分間反応させた。そして、蛍光顕微鏡で観察した。中和抗体価は、WHO の標準血清 と比較して算出した。WHO によると 0.5 IU/ml 以上の中和抗体価があれば、狂犬病を十分に予防できる。 この値は、犬についても国際獣疫事務局により同様であると勧告されている。 (統計分析) マン・ホイットニーの U 検定を用いて、中和抗体価の統計分析を行った。変数間の相関性は スピアマンの順位相係数で検定した。グラフはデルタグラフ v1.5 プログラムで作成した。 結 果 (中和抗体価と狂犬病予防接種回数の関係) 我々は日本の動物病院で集めた犬血清の中和抗体価を測定した。狂犬病を予防できると認められている 0.5 IU/ml 以上の中和抗体価を、この研究では感染予防できる抗体価と考えた。表1に中和抗体価と狂犬病 予防接種の回数の関連を示す。107 頭の予防接種をしていない犬(0 ‐ 12 月齢)について、1頭のみが感 染予防できる中和抗体を保有していた。1回予防接種歴のある 92 頭の犬の幾何平均中和抗体価は、0.61 IU/ml であり、51.1%が感染予防できる中和抗体を持っていた。一方、複数回予防接種歴のある 557 頭の 犬の幾何平均中和抗体価は 7.86 IU/ml であり、97.8%の犬が感染予防できる中和抗体を持っていた。 (狂犬病予防接種後の感染予防可能な中和抗体価持続期間) 次に、我々は1回、もしくは複数回狂犬病予防接種歴のある犬の中和抗体価の持続期間について分析した。 それぞれの条件での中和抗体価の分布をよりよく理解するために箱ひげ図を作成した。図1A と図1C に示 すように、1回予防接種した犬の 33.3 ~ 57.7%が予防接種してから 12 ヶ月以内に感染予防可能な中和 抗体価を保有していた。これらの犬の幾何平均中和抗体価は 0.43 ~ 0.83 IU/ml であった。しかし、予防 接種して 13 ヶ月では、1回予防接種歴のある犬の 76.9%が感染予防可能中和抗体価を保有していた。 これとは対照的に、複数回予防接種歴のある犬の 97.3 ~ 100%が、最後の予防接種から 24 ヶ月以上経 過後も感染予防可能中和抗体価を保有していた(図 1B、1C)。幾何平均中和抗体価は最後の予防接種から 18 ヶ月以内では極めて高く、7.56 ~ 8.78 IU/ml であった。中和抗体価は、最後の予防接種から 12 ヶ月 以内のそれぞれの期間(0~3、4~6、7~9、10 ~ 12 歳:)に単独、又は複数回予防接種を受けた 犬それぞれによりかなり異なっていた。一方、複数回予防接種を受け犬のうち、最後の予防接種から 25 ヶ 月後の中和抗体価は低下していた。これらの犬の幾何平均中和抗体価は、2.12 IU/ml であり、78.9%は感 染予防可能中和抗体価を保有していた。これらのデータより、2 回以上予防接種した犬では最後の予防接種
から2年間は中和抗体価が十分に維持されていることが明らかとなった。 複数回予防接種した 557 頭のうち 12 頭が感染予防可能な中和抗体価を保有していなかった。この不十 分な中和抗体価の犬の詳細は、最後の予防接種からの時期が短い順に表2に示している。この中で、5 件の 血清(Nos 1-5)は最後の予防接種後1年以内に採取され、7件の血清(Nos 6-12)は最後の予防接種か ら1年以上経過後に採取された。これらの犬に免疫異常は無かった。低中和抗体価と性別には直接的な相関 は無かった(スピアマンの順位相係数検定)。 (予防接種をしていない犬の母子免疫の可能性) 予防接種をしていない犬の 107 件の血清のうち、72 件は生後 90 日以内の犬から採取したものであり、 35 件は生後 91 日~ 365 日に採取したものである。前に述べたように、我々は予防接種していないわずか 1頭の犬のみが感染予防可能な中和抗体価を保有していたことを見つけたが、多くの予防接種していない犬 は不十分な中和抗体価である。予防接種をしていない子犬に中和抗体を検出できた原因は母イヌからの移行 抗体由来ではないかと考えられた。これらの中和抗体価は狂犬病を予防するには十分な量ではない。母イヌ からの移行抗体を確かめるために、我々は中和抗体のカットオフ値を 0.25 IU/ml に設定した。これらの子 犬の中和抗体価を表 3 に示す。生後 90 日以内の予防接種していない子犬 72 頭のうち、11 件(15.3%)は 0.25 IU/ml 以上の中和抗体価を保有していた。一方、生後 90 日以上(2.9%)で予防接種をしていない 35 頭の 子犬の内わずか1頭が 0.25 IU/ml 以上の中和抗体価を保有していた。 考 察 WHO は、狂犬病の再流行の危険性を最小限にするには、少なくとも地域の 70%の犬に免疫をつけるべ きであると勧告している(1)。狂犬病がずっと排除されている日本で、これはとても重要なことである。 毎年、日本では大規模な狂犬病予防接種が行われているが、犬の中和抗体価の現状と毎年の予防接種事業の 合理性については評価してこなかった。そこで、我々は日本の動物病院を受診した犬の現在の中和抗体価を 測定した。 我々は、1回予防接種した犬の約 50%が、予防接種してから1年以内では血清中に感染予防できる中和 抗体価が無いことを発見した。つまり、1回のみの予防接種では集団免疫状態を確立するには不十分である ことを示している。以前の研究においても狂犬病ワクチンの1回接種した犬の 50%が 120 日以内に中和抗 体価が 0.5 IU/ml 以下に低下していた(11)。しかし、今回の研究では、1回のみ予防接種した犬の中和抗 体価は 13 ヶ月後のほうが、12 ヶ月以内よりも高かった(図 1A、1C)。この理由は不明である。違う個体 から血清を採取し、同じ犬から時間を変えて繰り返し採取していないところが、我々の研究と以前の研究 (11)が異なっている。さらに、予防接種 13 ヶ月後と予防接種 12 ヶ月以内の犬の中和抗体価には大きな 違いが無かった(p>0.05, マン・ホイットニーの U 検定)。 これとは対照的に、2回以上予防接種した犬のほとんどが感染予防可能な中和抗体価を持っており、その 中和抗体価は 1 回のみ予防接種した犬よりはかなり高かった。これらの結果は、以前の報告と矛盾しない(6, 12)。我々はまた、2回以上予防接種したほとんどの犬について、その中和抗体価が最後の予防接種から 2 年持続することを見つけ出した。2回以上予防接種した 557 頭の犬の中で、わずか 12 頭(2.2%)の犬が 感染防御可能な中和抗体価を持っていなかった。これらの犬はワクチンに対して低応答性であり、次第に中 和抗体価が減少していったのであろう。しかし、これは重要な問題点では無い。なぜなら、その頭数は少な く、大規模な犬の予防接種事業は人の公衆衛生を守るための集団免疫を目的で行われているからである。総 合的に言うと、大部分の犬が登録され、予防接種を受ければ、現在の日本における狂犬病の大規模な予防接 種計画により、十分な集団免疫を得ることができる。 我々は、2回以上予防接種歴のある犬は、最後の予防接種から2年経過後も感染予防可能な中和抗体価を 保持していることを確認した(図 1B)。つまり、現在の毎年の予防接種スケジュールは狂犬病予防には十 分であるが、2年に1回の予防接種スケジュールに変えることもできるであろう。テキサス州では予防接 種スケジュールは毎年から3年毎に変更されつつある。これにより、犬と猫の予防接種率は著しく増加し た(13)。将来、日本で義務的な予防接種スケジュールを変更するにはいくつかの要因について慎重な検討
が必要である。例えば、中和抗体価の持続性の確認、血清調査用の簡単な検査法の導入、免疫の付きにくい 犬を保護する手段等。我々は、予防接種が必要か調べるため毎年犬の中和抗体価を確認すべきであると提案 する。しかし、狂犬病に対する中和抗体価を測定するウイルス中和試験、ELISA などの方法は使いにくい。 これらの方法は、専門的な検査室や機器、訓練された人々が必要である。最近、我々は迅速、安全、安価な 狂犬病の中和抗体試験法を開発した。これは、中和モノクローナル抗体を用いたイムノクロマトの技術と競 合的免疫試験法を組み合わせたものである(14, 15)。この半定量的検査法により、生きたウイルスや高価 な機器を使わず 60 分以内に犬が感染予防できる中和抗体価を持っているかを判定できる。この方法は、犬 に追加免疫が必要かを判断するのに便利な方法であろう。 日本の厚生労働省は、688 万頭の犬が 2009 年に登録され、その 74.3%が狂犬病の予防接種を受けて いると報告している(16)。しかし、日本ペットフード協会は日本の飼い犬の数は 2009 年では 1,232 万 頭と報告している(17)。もし、登録していない犬を総数に加えると、わずか 41.5%の犬しか狂犬病の予 防接種を受けていない。これは、地域で狂犬病の流行を防ぐのに推奨されている予防接種率 70%を押し下 げることになる。日本の農林水産省は約 500 万回分の狂犬病ワクチンが 2011 年に生産されたと報告した (18)。つまり、日本の全ての犬に行き渡るだけの量のワクチンが無いことを示している。そこで、我々は 日本で狂犬病の流行が起きたら、2 回以上予防接種した犬よりも先に、まだ予防接種をしていない犬や 1 回 しか予防接種をしていない犬にワクチンを配布すべきであると提案する。 日本では、約 50,000 頭の迷子犬が毎年、動物健康センターに持ち込まれ(16)、おおよそ 5,000 件の 犬咬傷例が報告されている(19)。これらの予防接種を受けていない迷子犬は、狂犬病の蔓延と人間への伝 染の危険因子となるであろう。迷子犬の狂犬病に対する血清疫学は、日本における狂犬病の再流行の危険性 を正確に判断するのに重要であるが、本研究では調べられていない。小川らによると、2006 年と 2007 年 に狂犬病予防員により兵庫県立動物愛護センターに捕獲され搬入された迷子犬のわずか 27.7%しか、感染 予防可能な中和抗体価を保有していなかった(20)。日本の現実的な免疫状況を明らかにするため、別の地 域で迷子犬の血清疫学調査を行うべきである。 我々は、3 月齢以下の予防接種していない犬の 15.3%に狂犬病に対する母子移行抗体があり、3 月齢以 上の犬ではわずか 1 頭しか検出されなかったことを見出した。日本で犬用に作られている狂犬病ワクチンは、 不活化ワクチンである。子犬では母子移行抗体は不活化狂犬病ワクチンへの免疫応答に影響しない(21)。 しかし、母子移行抗体は弱毒狂犬病生ワクチンに対する免疫応答に影響する。そこで、将来もし生ワクチン が大規模な犬の予防接種に導入されたら、子犬への予防接種の時期を考慮する必要がある。この研究の結 果により、現行の年 1 回の犬への予防接種体制は、もし全ての犬が登録され毎年予防接種を受けるならば、 完全に十分なものである。しかし、わずか約 50%の犬が登録され、約 40%の犬が狂犬病の予防接種を受 けていると推定されている。狂犬病予防法が日本に導入されて 60 年以上経過した。そして、この 60 年間 に日本人の生活スタイルと人間とペット犬との関係も劇的に変化した。従って、今が狂犬病予防体制を新し いものに更新することを考える丁度良い時期であろうと考える。 謝辞:検体の収集にご協力いただきました須田動物病院、大分県獣医師会、共立製薬株式会社に感謝します。 迅速蛍光フォーカス抑制試験(REFIT)については、野口賀津子氏に感謝します。この研究の一部は日本 学術振興会の補助金 #23406014 で実施されました。
図 1 狂犬病予防接種後の犬の中和抗体価の持続期間 1 回予防接種を受けた犬(A)と2回以上予防接種を受けた犬(B)の、最後に予防接種した後のいくつ かの時点での中和抗体価の箱ひげ図。アスタリスクは最後の予防接種を受けてから期間で、1回のみ予防接 種を受けた犬との中和抗体価の重要な相違点を示す(p<0.01, マン・ホイットニーの U 検定)。(C) この表は、 犬の感染予防可能な中和抗体価の詳細な持続期間である。0.5 IU/ml 以上の中和抗体価を持つ犬の数と各時 点の幾何平均(GM)中和抗体価を示す。 予防接種回数 検体数 平均年齢 予防接種後平均日数 幾何平均 中和抗体価 (IU/ml) 中和抗体価 0.5 IU/ml 以上ある検体数 (%) 0 107 0.22 ― 0.12 1/107 (0.9%) 1 92 2.25 156 0.61 47/92 (51.1%) 2– 557 8.08 233 7.86 545/557 (97.8%) 2 78 4.09 239 7.49 75/78 (96.2%) 3 71 5.76 187 10.59 69/71 (97.2%) 4 59 6.36 268 9.53 58/59 (98.3%) 5 67 7.06 246 10.17 65/67 (97.0%) 6 56 8.30 238 8.82 56/56 (100%) 7 42 8.14 274 8.35 40/42 (95.2%) 100 vaccination: once
Months since the last vaccination
vaccination: >_2 times 10 1 0.5 0.1 100 10 1 0.5 0.1 0-3 4-6 7-9 10-12 13- 0-3 4-6 7-9 10-12 13-18 19-24 25-90(percentile) 75 50 25 10 A C B VNA(IU/ml )
Vaccination once >_2 times
0-3 4-6 7-9 10-12 13-26 24 15 14 13 0.83 0.50 0.43 0.61 0.69 15 (57.7) 0-3 74 8.32 72 (97.3) 4-6 83 7.56 81 (97.6) 7-9 51 8.17 50 (98.0) 10-12 172 8.78 172 (100) 13-18 145 8.37 142 (97.9) 19-24 13 5.05 13 (100) 25-19 2.12 15 (78.9) 10 (41.7) (33.3)5 (50.0)7 (76.9)10
Months since the last vaccination
No. VNA >_0.5 IU/ml (%) GM of VNA level
(IU/ml) Total no.
8 30 9.57 267 9.71 30/30 (100%) 9 42 10.38 238 5.44 42/42 (100%) 10 42 11.22 209 8.55 42/42 (100%) 11 25 12.11 241 4.34 24/25 (96.0%) 12 19 12.96 236 4.71 19/19 (100%) 13– 26 14.43 177 3.04 25/26 (96.2%) 犬種 性別 生年月日 年齢 予防接種 回数 予防接種 後日数 中和抗体 (IU/ml) 1 ミニチュア・ダックスフンド オス 5/1/2005 5 3 76 0.40 2 ラブラドール・レトリバー メス 4/22/2001 10 11 77 0.35 3 紀州犬 メス 1/1/2003 8 5 98 0.26 4 雑種 メス 4/1/2008 2 3 122 0.35 5 雑種 メス 6/1/1996 14 15 214 0.40 6 スコティッシュ・テリア メス 4/1/2003 7 4 377 0.19 7 ミニチュア・ダックスフンド オス 5/7/2001 10 7 404 0.48 8 雑種 メス 4/10/2009 1 2 445 0.46 9 ミニチュア・ダックスフンド 不明 9/1/1997 13 5 745 0.14 10 ケアーン・テリア オス 7/15/1999 11 7 1252 0.27 11 雑種 オス 1/11/2001 10 2 1281 0.31 12 ラブラドール・レトリバー オス 8/14/2005 5 2 1329 0.13 年齢幅 (日) 検体数 中和抗体 (IU/ml) < 0.25 ≧ 0.25 1–90 72 61 11 91–365 35 34 1 参考文献
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ウシ MHC 遺伝子マーカーを指標とした牛白血病
発症抵抗性遺伝子保有黒毛和種種雄牛の造成
平成25年度獣医学術九州地区学会学会長賞受賞(産業動物獣医学会)
【背景及び目的】 牛白血病は家畜伝染病予防法に定める届出伝染病 のひとつであり、牛白血病ウイルス(BLV)に感 染したリンパ球がアブ、サシバエなどの吸血昆虫等 により媒介される水平感染と、母から子に感染する 垂直感染とがある。感染牛の多くは不顕性感染であ り、病態が進むと 30%がリンパ球増多症、2 ~ 3% が 2 ~ 10 年以内に発症する2)。治療法が確立され ていないため、致死的であり農家の経済的損失は大 きい。これまでに抗体陽性牛と陰性牛の隔離飼育に よって水平感染を抑え、清浄化に成功した事例など が報告されているが、十分なスペースや施設などを 要するため、効果的な防疫ができないことが課題で ある。 理化学研究所 Aida ら1)は、牛白血病発症に対 する抵抗性遺伝子が、主要組織適合複合体(MHC) にあることを突き止めた。MHC のクラスⅡ遺伝子 群にある DRB3 遺伝子の 78 位アミノ酸がバリンで ある対立遺伝子をホモまたはヘテロで有するウシは 発症抵抗性が高く、78 位アミノ酸がチロシンのホ○藤 田 達 男
大分県農林水産研究指導センター畜産研究部
安 達 聡
大分県農林水産研究指導センター畜産研究部
倉 原 貴 美
大分県農林水産研究指導センター畜産研究部
竹 嶋 伸之輔
(独)理化学研究所
松 本 有 生
(独)理化学研究所
間 陽 子
(独)理化学研究所
要 旨 牛白血病ウイルス感染に起因する地方病性白血病は、届出伝染病に指定されており全国的に増加傾向にあ る。効果的な防疫対策がないため、対策に苦慮している。Aida ら(2000)は、地方病性牛白血病の発症の 難易に関連するウシ主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)のクラスⅡ遺伝子群にある DRB3 遺伝子を同定・ 解析し、発症抵抗性(R)アリルと感受性(S)アリルを見出した。演者らは、これらの MHC 遺伝子マー カーを指標として、発症牛と抗体陽性健康牛を調査するとともに、本マーカーを用いた黒毛和種種雄牛造成 に着手した。県内の食肉処理場で 2009 年に摘発された牛白血病発症牛群(黒毛和種 14 頭)と1年1産で 10 産以上連産した健康な BLV 抗体陽性繁殖雌牛群(黒毛和種 38 頭)を比較した結果、Rアリルは発症牛 群で頻度が低く、健康な BLV 抗体陽性牛群で高く、逆にSアリルは、発症牛群で高く、抗体陽性健康牛群 で低かった。また、Rアリル保有牛は感染していても発症しにくい、いわゆる発症抵抗性を示す傾向がある ことが示唆され、これらの結果は、Aida らの同定・解析結果と一致していた。一方、S アリルと脂肪交雑 などの肉用牛経済形質との関連性を解析した結果、関連性がないことが判明した。そこで、本県の黒毛和種 集団を「牛白血病が発症しにくい集団」とするため、Sアリルの排除とRアリルの増殖を目指した種雄牛造 成に着手した。育種価情報、受精卵移植技術を応用し、牛白血病発症抵抗性遺伝子 RR 型の候補種雄牛の作 出に成功した。 (キーワード:牛白血病、発症抵抗性遺伝子、経済形質、種雄牛造成)モ型接合体であるウシは発症の可能性が非常に高く なることを報告している。Aida らは、この研究を さらに進展させ、DRB3 領域にある 100 以上のア リルの検出とそれらの発症抵抗性、感受性との関連 性を明らかにした。 本研究はこれらの成果をもとに、MHC 遺伝子型 を指標として県内の発症牛及び育種集団の実態調査 を行うとともに、遺伝子型と枝肉関係経済形質との 関連性を明らかにし、肉用牛育種改良への利用方法 について検討した。この結果をもとに「牛白血病が 発症しにくい黒毛和種育種集団」造成を目指して、 発症抵抗性遺伝子を保有する種雄牛造成を目的とし た。 【試験方法】 (1)牛白血病発症牛と BLV 抗体陽性健康牛の遺伝 子型調査 県内の食肉処理場で 2009 年に摘発された牛白 血病発症牛群(黒毛和種 14 頭)と1年1産で 10 産以上連産した健康な BLV 抗体陽性繁殖雌牛群(黒 毛和種 38 頭)の遺伝子型を調べた。牛白血病発症 牛のサンプルは、県食肉衛生検査所が血液検査、病 理検査、抗体検査(受身赤血球凝集反応)等を基に 牛白血病と診断した牛を供試し、発症牛の腎周囲脂 肪組織から抽出した DNA を遺伝子型検査に使用し た。一方、BLV 抗体陽性健康牛は、全国和牛登録 協会大分県支部の繁殖記録から1年1産で 10 産以 上連産した繁殖雌牛を抽出し、血液検査により白血 球数が 12,000 未満で異型リンパ球の見られない もの、かつ BLV 抗体(受身赤血球凝集反応)陽性 のものを選定し、血液から抽出した DNA を遺伝子 型検査に使用した。 (2)遺伝子型と経済形質との関連性調査 県有種雄牛の中からSアリルを持つヘテロ型種 雄牛6頭の後代去勢肥育牛 350 頭の遺伝子型を調 べた。取り上げた経済形質として、BMS ナンバー (BMS.No)、枝肉重量(CW)、日増体量(DG)、ロー ス芯面積(REA)、バラの厚さ(RT)、皮下脂肪の 厚さ(SFT)について解析を行った。発症抵抗性遺 伝子型と経済形質との関連性の解析は、GLM プロ シジャー(SAS institute Japan)による最小二乗 分散分析により行った。 (3)発症抵抗性遺伝子保有候補種雄牛の作出 本県基幹種雄牛の中から、Rアリルを保有する 種雄牛KおよびTを選抜した。種雄牛Kの娘である 繁殖雌牛 400 頭から、BMS ナンバーと枝肉重量の 両形質を加味した育種価評価上位8頭を選抜し、遺 伝子型検査により目的のアリルを保有する雌牛2 頭を選定した。この2頭を供胚牛として、定法に従 い過剰排卵処理後、発情を確認して種雄牛Tの凍結 精液を人工授精した。人工授精後7日目に子宮から 採取した胚を新鮮または凍結融解後、黒毛和種受胚 牛に移植した。誕生した雄産子の遺伝子型を調べて 候補種雄牛を選抜した。以上の遺伝子型検査は、独 立行政法人理化学研究所が実施した。本報告では、 Aida らの報告に従い、ウシ MHC のクラスⅡ遺伝 子群にある DRB3 遺伝子のアリルタイプ 「0701」、 「0101」 および 「1101」 アリルを発症抵抗性(R) アリル、「1601」 アリルを発症感受性(S)アリル、 その他(O)アリルと分類した。 【結 果】 (1)牛白血病発症牛と BLV 抗体陽性健康牛の遺伝 子型調査 ア)牛白血病発症牛の遺伝子型 と場で摘発された黒毛和種の牛白血病発症牛 14 頭の遺伝子型、BLV 抗体価を表1に示した。供試 した 14 頭全てのゲノム DNA から BLV プロウイル スを検出し、地方病型牛白血病であることを確認し た。発症牛の遺伝子型をみると、一方に 1101 ア リルをもつ抵抗性ヘテロ型が2頭(RO と RS)い たものの、一方に 1601 アリルをもつ感受性ヘテ ロ(SO)型が 6 頭、両方とも 1601 アリルをもつ 感受性ホモ(SS)型が3頭と、1601 アリルが多 く確認された。
イ)BLV 抗体陽性健康牛の遺伝子型 1年1産を 10 産以上繰り返し、BLV 抗体陽性 で健康な黒毛和種雌牛 38 頭の遺伝子型および血液 検査所見を表2に示した。1601 アリル-ホモ(SS) 型が 2 頭、1601 アリル-ヘテロ(SO)型が 6 頭 認められたものの、0101 アリルまたは 1101 アリ ルをもつ抵抗性ヘテロ型(RO と RS)が 17 頭確 認され、発症牛群と比較して抵抗性(R)アリルが 多く確認された。 ウ)牛白血病発症牛群と BLV 抗体陽性健康牛群の 遺伝子頻度 牛白血病発症牛群(黒毛和種 14 頭)と1年1産 で 10 産以上連産した健康な BLV 抗体陽性繁殖雌 牛群(黒毛和種 38 頭)の遺伝子型頻度を表3に示 した。「0101」 および 「1101」 アリルを抵抗性(R) アリル、「1601」 アリルを感受性(S)アリル、そ の他(O)アリルと分類した。牛白血病発症牛群の 遺伝子頻度は、抵抗性アリルが 7.2%、感受性アリ ルが 46.4%、その他が 46.4%であり、14 頭中3 頭が感受性ホモ(SS)型であった。一方、BLV 抗 体陽性健康繁殖雌牛群 38 頭のアリル頻度は、抵抗 性アリルが 22.4%、感受性アリルが 17.1%、そ の他が 60.5%であり、38 頭中 17 頭に RO 型が存 在した。これら両牛群を比較すると、R アリルは発 症牛群で頻度が低く、BLV 抗体陽性健康牛群で高 く、逆に S アリルは発症牛群で頻度が高く、抗体 陽性健康牛群で低く、この差は有意(P=0.0022) であった。 表1 と場で摘発された黒毛和種の牛白血病発症牛14頭の遺伝子型 No. 品 種 性別 月齢 遺 伝 子 型 (受身HI)BLV 抗体価 BLV プロウイルス 診断名 1 黒毛和種 去勢 21 1501/1601 SO 1024 + 牛白血病 2 黒毛和種 ♀ 57 1501/1601 SO 512 + 牛白血病 3 黒毛和種 ♀ 63 0201/1501 OO 2048 + 牛白血病 4 黒毛和種 ♀ 73 1001/1501 OO 512 + 牛白血病 5 黒毛和種 ♀ 99 1601/1601 SS 2048 + 牛白血病 6 黒毛和種 ♀ 126 1501/1601 SO 512 + 牛白血病 7 黒毛和種 ♀ 128 1601/1601 SS 512 + 牛白血病 8 黒毛和種 ♀ 132 0801/1601 SO 512 + 牛白血病 9 黒毛和種 ♀ 133 1201/1501 OO 1024 + 牛白血病 10 黒毛和種 ♀ 138 1101/1201 RO 1024 + 牛白血病 11 黒毛和種 ♀ 155 1501/1601 SO 2048 + 牛白血病 12 黒毛和種 ♀ 165 1601/1601 SS 4096 + 牛白血病 13 黒毛和種 ♀ 166 1101/1601 RS 4096 + 牛白血病 14 黒毛和種 ♀ 179 1501/1601 SO 4096 + 牛白血病
表2 1年1産を10産以上連産BLV抗体陽性健康繁殖雌牛38頭の遺伝子型 表3 牛白血病発症牛群とBLV抗体陽性健康牛群の遺伝子頻度 No. 品種 年齢 分娩間隔 (日) 産子数 遺 伝 子 型 (× 10WBC2)(× 10RBC4) (受身 HI)BLV 抗体価 1 黒毛和種 17.7 360 11 1501/1601 SO 52 600 1,024 2 黒毛和種 17.7 361 13 0101/1501 RO 57 519 1,024 3 黒毛和種 16.9 365 13 0201/1001 OO 56 663 64 4 黒毛和種 16.8 358 11 0201/1302 OO 70 626 1,024 5 黒毛和種 16.7 355 11 1101/1501 RO 55 728 512 6 黒毛和種 16.7 338 11 1302/new OO 72 759 1,024 7 黒毛和種 15.9 360 10 0101/1501 RO 74 706 256 8 黒毛和種 15.9 341 10 1001/1601 SO 88 700 256 9 黒毛和種 15.8 344 10 1101/1201 RO 92 542 1,024 10 黒毛和種 15.7 349 11 1001/1101 RO 54 650 16 11 黒毛和種 15.7 364 11 1001/1501 OO 105 769 1,024 12 黒毛和種 15.5 357 10 1101/1601 RS 62 567 1,024 13 黒毛和種 15.5 355 11 1001/1501 OO 81 501 1,024 14 黒毛和種 15.0 349 13 0201/0601 OO 76 650 128 15 黒毛和種 14.9 357 12 1302/1601 SO 60 655 256 16 黒毛和種 14.9 345 11 1601/1601 SS 114 578 1,024 17 黒毛和種 14.6 360 13 1302/1501 OO 86 519 256 18 黒毛和種 14.5 350 10 1501/20012 OO 68 571 128 19 黒毛和種 13.8 333 10 1001/1601 SO 118 784 1,024 20 黒毛和種 13.8 346 12 1101/1601 RS 49 701 512 21 黒毛和種 13.7 360 10 0201/1101 RO 62 611 1,024 22 黒毛和種 13.6 340 11 0101/1501 RO 66 719 64 23 黒毛和種 13.6 362 10 0101/1201 RO 81 639 1,024 24 黒毛和種 13.3 356 11 0201/1201 OO 93 871 512 25 黒毛和種 13.2 358 11 1101/1501 RO 72 688 1,024 26 黒毛和種 13.0 361 10 0201/1001 OO 61 917 1,024 27 黒毛和種 12.9 358 11 1601/1601 SS 57 670 1,024 28 黒毛和種 12.7 361 10 0801/1501 OO 76 602 1,024 29 黒毛和種 12.7 361 11 1101/1501 RO 81 588 1,024 30 黒毛和種 12.7 356 10 1302/1501 OO 70 630 1,024 31 黒毛和種 12.6 361 10 1501/1501 OO 91 692 1,024 32 黒毛和種 12.5 364 10 0201/1101 RO 82 624 1,024 33 黒毛和種 12.5 365 10 1101/1501 RO 57 431 1,024 34 黒毛和種 12.0 355 10 1101/1601 RS 109 739 1,024 35 黒毛和種 12.0 359 10 1501/1601 SO 83 469 1,024 36 黒毛和種 11.9 360 10 1001/1101 RO 73 595 256 37 黒毛和種 11.8 350 10 1101/1302 RO 94 730 512 38 黒毛和種 11.4 337 10 1501/1601 SO 118 609 1,024 アリル型 発症牛群 (14 頭 ) 抗体陽性健康牛群 (38 頭 ) 度数 頻度(%) 度数 頻度(%) 抵抗性 (R) 2 7.2 17 22.4 感受性 (S) 13 46.4 ** 13 17.1 ** その他 (O) 13 46.4 46 60.5 ** P=0.0022
(2)遺伝子型と産肉性経済形質との関連性解析 本研究では、「1601」 アリルの相同遺伝子が多 数存在し、多くの遺伝子型があるため、アリル型ま たは遺伝子型の2通りのアプローチから、経済形質 に及ぼす効果について解析を行った。当場が保有す る肉用牛経済形質解析用データベース及び DNA サ ンプルの中から、「1601」 アリル-ヘテロ型種雄牛 6頭を選抜し、表7に示したように BMS ナンバー 上位および下位、各々 10 ~ 32%の後代去勢肥育 牛合計 345 頭を抽出し、調査対象牛とした。 調査対象牛 345 頭の遺伝子型は、「1101/1601」 (52 頭 )、「1501/1601」(39 頭 )、「1601/1601」 (35 頭 )、「0201/1601」(18 頭 )、「1302/1601」 (18 頭 )、「1201/1601」(17 頭 )、「0201/1101」 (14 頭)、「1101/1501」(12 頭)、その他合計 54 種類。アリル型(度数)は、「1601」(243)、「1101」 (104)、「1501」(101)、「0201」(69)、「1302」 (48)、「0502」(35)、「1001」(31)、「1201」(23)、 「0701」(14)、「1103」(5)、「0902」(5)、「0801」 (2)、「14011」(2)、その他合計 22 種類であった。 遺伝子型と経済形質との関連性の解析には、2通 りの手法を試みた。1つは、肥育牛サンプル 345 頭の遺伝子型の中で少なくとも2頭以上にみられ た遺伝子型(30 種)を要因として、1つは、肥育 牛 345 頭にみられたアリルの中で、頻度の高かっ たアリル上位9種(「0201」、「0502」、「0701」、 「1001」、「1101」、「1201」、「1302」、「1501」 および 「1601」)を要因として解析を行った。 解 析 項 目 は、BMS ナ ン バ ー(BMS)、 枝 肉 重 量(CW)、日増体量(DG)、ロース芯面積(REA)、 バラの厚さ(RT)、皮下脂肪の厚さ(SFT)につい て解析を行った。 表5にアリル型を要因とした解析結果、表6に遺 伝子型を要因とした解析結果を示した。いずれの解 析方法においても、全ての項目で種雄牛を要因とす る効果は有意(P < 0.0001)であったものの、ア リル型または遺伝子型を要因とする有意な効果は認 められなかった。 表4 「1601」アリルヘテロ種雄牛6頭と各後代肥育牛のBMSナンバーを指標としたサンプル構成 種雄牛名 遺伝子型 サンプル数後代 BMSNo. 育種価による抽出 検査頭数 下位頭数 上位頭数 F D 0201/1601 116 30 30 60 T N 0502/1601 414 41 40 81 I H 1302/1601 107 27 27 54 S 4 1001/1601 82 26 26 52 I K 1101/1601 73 23 23 46 T S 1501/1601 81 26 26 52 合 計 - 873 173 172 345
(3)発症抵抗性遺伝子保有候補種雄牛の作出 遺伝子型と産肉性経済形質との関連性解析結果か ら、「1601」 アリルおよび 「1601」 アリルを含む 遺伝子型は、肉質等の経済形質に影響を及ぼさない ことが示唆された。このことから、本県の肉用牛育 種集団から感受性アリル 「1601」 を排除しても育 種改良上の問題はないと推察された。そこで、感受 性アリル 「1601」 の排除と抵抗性アリルの増殖を 目指して、抵抗性アリル-ホモ型種雄牛の造成に着 手した。 本県基幹種雄牛の中から、抵抗性アリル 「0701」 を保有する種雄牛 K「0701/1601」および抵抗性 アリル 「0101」 を保有する種雄牛 T「0101/1601」 を選抜した。種雄牛 K の娘である繁殖雌牛 400 頭から、BMS ナンバーと枝肉重量の両形質を加 味した育種価評価上位8頭を選抜し、遺伝子型検 査により目的のアリルを保有する雌牛2頭(D1: 「0701/1101」、D2:「0701/1601」)を選定した。 この 2 頭を供胚牛として、定法に従い過剰排卵処 理後、発情を確認して種雄牛 T の凍結精液を人工 授精した。人工授精後7日目に子宮から採取した 15 胚を新鮮または凍結融解後、黒毛和種受胚牛に 移植した。その結果、8頭が受胎し、5頭の雄産子 が誕生した。これらの 5 頭の遺伝子型は、D1 の産 子 2 頭 が「1601/1101」、「0101/1101」、D2 の 産子3頭が「0101/1601」、「1601/0701」および 「1601/0701」であった。この中で、2013 年2月 2日に誕生した D1 の産子「0101/1101」は、抵 抗性アリル-ホモ(RR)型であったため、これを 候補種雄牛として選抜した。 【考 察】 牛白血病に対する治療法はないことから、本病の 対策については、発生地域での定期検査、吸血昆虫 の駆除、抗体陽性牛の分離飼育、生産子牛の隔離、 陽性牛の初乳の子牛への給与中止、抗体陽性牛の早 期摘発・淘汰等が挙げられる。それらは疾病清浄化 のための有効な方法となるが、現実には必ずしも実 施されているとは言い難く、発生頭数の増加傾向は 続いている(村上ら10)、2009)。このような背景 から、間らは、この慢性感染症を克服するためには、 その病態を制御する疾患責任遺伝子を同定し、その 抵抗性に関わる対立遺伝子を有する家畜を選別して、 感染症になりにくいウシを作出するという戦略が有 効であることを提唱している。 そこで我々は、Aida らの研究成果に注目し、ウ シ MHC 遺伝子マーカーを指標とした牛白血病発症 抵抗性遺伝子保有黒毛和種種雄牛の造成に取り組 んだ。まず最初に、MHC 遺伝子マーカーを指標と して、大分県の黒毛和種における牛白血病発症牛と BLV 抗体陽性健康牛の遺伝子型およびアリル頻度 の調査を行った。県内の食肉処理場で摘発された牛 白血病発症牛群 14 頭の遺伝子型を調べた結果、ア リル頻度は R=7.2%、O=46.4%、S=46.4%であり、 14 頭中3頭が SS 型であった。一方、一年一産 を 10 産以上繰り返した健康な BLV 抗体陽性黒毛 和種繁殖雌牛群 38 頭のアリル頻度は、R=22.4%、 O=60.5 %、S=17.1 % で あ り、38 頭 中 17 頭 に RO 型が存在した。これら両牛群を比較すると、R アリルは発症牛群で頻度が低く、BLV 抗体陽性 健康牛群で高く、逆にSアリルは発症牛群で頻度 表5 アリル型と経済形質との関連性の解析結果 要 因 自由度 不 偏 分 散 BMS CW DG REA RT SFT 種雄牛 5 4.31 ** 3.29 ** 21.86 ** 36.95 ** 56.58 ** 59.65 ** アリル型 8 0.39 0.04 0.38 2.39 1.54 3.44 残 差 645 - - - - - - ** P < 0.0001 ・BMS:BMSナンバー、CW:枝肉重量、DG:日増体量、REA:ロース芯面積、RT:バラの厚さ SFT:皮下脂肪の厚さ 要 因 自由度 BMS CW DG不 偏 分 散REA RT SFT 種 雄 牛 5 2.00 ** 1.23 ** 8.67 ** 18.28 ** 19.92 ** 18.31 ** 遺伝子型 29 0.26 0.08 0.43 1.95 1.84 3.22 残 差 320 - - - - - - ** P < 0.0001 ・BMS:BMSナンバー、CW:枝肉重量、DG:日増体量、REA:ロース芯面積、RT:バラの厚さ SFT:皮下脂肪の厚さ 表6 遺伝子型と経済形質との関連性の解析結果