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成分分離型数学モデルによる 船の操縦流体力推定に関する研究

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Academic year: 2021

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     博 士(水産科学)岡野誠司 学位論 文題名

成分分離型数学モデルによる 船の操縦流体力推定に関する研究

学位論文内容の要旨

【研究の背景と目的1

    日本は世界有数の経済水域を持ち,世界3大漁場のーっである北太平洋を包括してい る。また,伝統的に魚食国民であることから漁業は不可欠の産業である。漁船は漁業の生 産手段として重要な役割を担っており,その隻数は商船のものに比べて比較にならない程 格段に多い。その漁船の操縦性能については,一般に商船に比べ舵面積比が大きく船尾ト リムを有することことから旋回性能・進路安定性に優れ,特に操縦性を検討する必要はな かった。しかし,トロール船第5龍寶丸の転覆事故では操舵による旋回性能が転覆の要因 のーっとなっている。また,北欧におけるトロール船のように船幅に比べ船長の短い漁船 船型では進路不安定な船型も存在する。将来このような船型が我が国でも採用されるとな ると漁船の操縦性能の推定は重要な課題になってくる。一方商船においても海難事故の発 生はかなりの数に上っており,海難事故の原因に関して国際海事機関では航行の安全性確 保の観点から船舶の操縦陛に注目し,操縦性能を十分に有する船舶の建造を目指して,設 計の段階においてこの操縦性能を考慮する操縦性基準が採択された。操縦特性を設計段階 から推定する方法には様々あるが大洋航行中の操縦性能は大略推定可能な状況となってき た。しかし,特に問題となるのは出入港時等の低速航行中の操縦性能である。また,港湾 内などの水深が浅い水域では船底の流れが大きく減少し,船体に働く流体カや付加質量が 大きく異なるためである。また,出入港時の低速航行時には風や潮流等による外カが大き

<なる場合があり,この時船の横流れや旋回運動が前進運動より大きくなって,船舶等を 危険な状況にさらすことになる。

  本研究では低速航行時に前進速度が小さくなって斜航角や旋回曲率が増大する場合の主 船体操縦流体カを表現する数学モデルを提案し,それらの流力特性係数を決定するための 適切な実験方法とその解析方法を構築することを目的とする。その際,成分分離型数学モ

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デルの利点を生かした実験方法と解析手法にっいても併せて考案する。また,港湾内等の 浅水域におけるこの成分分離型数学モデルの適用の可能性についても検証し,必要に応じ てこの数学モデルを改良し,より広範な操縦運動に適用可能な数学モデルを確立すること を目的とする。

【方法及び内容】

  本研究に用いる成分分離型数学モデルは,通常航行時の運動を含む横流れ角が大きくな る大斜 航時と旋 回運動を 対象と し,船体 に作用 するSurge,Sway,Yawの3分カを運動変 数 ,v,′と渦の強さ等の係数の関係式によって流体力学的な視点から表現しようとする ものである。この数学モデルは渦モデルで構築され,渦の強さを表す係数を斜航時と旋回 時とで共通で用いることにより,比較的少数の係数で大斜航,旋回の主船体操縦流体カを 推定できる特長がある。さて,このモデルを用いて精度良く低速時の操縦流体カを求める には模型船に運動を強制して流体カを求める拘束模型試験が必要になる。運動を一定に与 える定常試験は斜航角や旋回角速度が一定に保たれるので,多少の実験的なバラっきが発 生しても,平均値の形で解析できるため精度が高い。ただし,一つの試験でーつの運動状 態の流体カしか得ることができないため,一通りの操縦運動をカバーする流体カを得るに は数多くの試験を行う必要がある。また,旋回試験では大きな角水槽も必要となる。一方,

動的な 試験に は,正弦 状に運 動を変化 させて 行うPMM試験があ る。PMM試験で は斜航 角 や旋回 角速度が一定でなく時々刻々変化するために1つの試験データに含まれる情報量が 多く,比較的数少ない試験で広い運動範囲の流体カの特性が得られる利点がある。しかし その反面,強制した運動の履歴が流体カに影響をおよぼす,いわゆるメモリーエフェクト が現れることに注意が必要である。

    本研究の構成は以下のとおりである。第1章である本章において船舶の操縦性能把握,

特に低速航行時の操縦性能を含めた数学的取り扱いの必要性を示し,大斜航角までの操縦 流体カ を表現できる主船体操縦流体カモデルの必要性について述べる。第2章においては まず,本研究の核となる成分分離型数学モデルの詳細について述べる。続いてこのモデル を構成 する流力特性係数を,斜航試験,拘束旋回試験(CMT)といった定常試験から解析す る手法 につい て示す。 第3章ではダ イナミッ クに運 動を強制 するPMM試験な どから 定常 流体カ を抽出する手法を提案し,2章同様の広い運動範囲の主船体定常流体カを推定する 方法に っいて論じる。第4章では港湾内操船等で問題となる浅水影響について成分分離型 数学モデルを用いた低速航行時の流体カへの適用を行い,この数学モデルの妥当性と今後

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の改良に向けての方策について論じる。第5章は本研究のまとめを述べる。

【結論及び考察】

1)  成分分離型モデルの流力特性係数の解析方法については,各係数の特性を考慮した   上で分類し,これを精度良く解析する手法を確立した。

2)  小斜航角範囲で解析を行っても,流体カの大略の推定ができることがわかった。こ   れは,本数学モデルが流体力学に基づいた構造となっていること・によるもので,本数   学モデルの利点と言える。

3)  動的な 運動を 強制するPMM試 験では,一度の試験で多くの流体カのデータが得られ   るこ とに注目 し,PMM試験結 果から 定常流体 カを抽 出する手 法を確立した。その際,

  PMM試験から 得られ る計測カ から加 速度に比 例する 流体カを 特定し,その後これを慣   性カ とともに 差し引 くことに よって非線形項を含んだ定常流体カの抽出を行う手法で   ある 。このよ うにし て得られ た定常 流体カを 斜航試 験や拘束旋回試験,CMT結果と比   較し た結果, 十分小 さい周波 数を選ぶことで精度良い定常流体カの抽出ができること     を明らかにした。

4)Pure Sway Motionから 斜航の 線形係数,Pure Yaw Motionから純旋回の線形係数を求     め,周波数の十分小さく最大斜航角が大きいCombined Motionから斜航の非線形係数を   求め ることに より, 幅広い運 動範囲の流体カの精度の良い同定が可能になることが明     らかになった。

5)  通常のPMM試 験では運 動が最 大加速度で始まるため,初期の実験データの精度が落   ちる。そ こで, 速度と加 速度が0から 始まる新 しいPMM試験方 法を開発 した。 この新   しい試験方法の採用によって,計測精度の向上と小規模水槽での実験が可能になる。。

6)  浅水域の定常流体カに成分分離型数学モデルを適用した結果,小斜航角流体カを利   用す ることで 大斜航 角を含む 浅水域流体カを精度よく表現出来る事がわかった。ただ     しN, 〃 の ロ>40° に つ い て は精 度 的 に 不十 分 で この 点 は 今後 の 課 題に な る 。 7)  浅水影響として喫水・水深比に対する成分分離型数学モデルの流力特性係数の変化   傾向 を把握す ること ができた 。この傾向をデータベース化することによって,将来,

  深 水 域 の 流 体 力 特 性 か ら 浅 水 域 の 流 体 力 特 性 を 推 定 で き る 可 能 性 が あ る 。 8)  深水および浅水域にかかわらず船尾横力y゛ロは斜航角に比例して直線的に変化する   傾向 をっかん だ。成 分分離型 数学モデルを浅水域の流体カに適用するに際しては,理   想流 体カのム ンクモ ーメント に偶カモーメントの補正を加えることで浅水域流体カに   適用できる可能性を示した。

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学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

芳村 天下井 蛇沼

康男     清 俊二

     学 位論文題 名

   成 分 分 離 型 数 学 モ デ ル に よ る 船の操 縦流体力 推定に関する研究

  本 研 究 は, 漁 船 を含 む 船 舶の 操 縦 性 能を 推 定 する に 際 し, 特 に 港内 操 船 や漁 労 中 の操 船 の よう に , 低速 航 行 時で 前 進 速度 が小さ くなって ,斜航 角や旋回 曲率が 増大する 局面の主 船 体 操縦 流 体 カの 数 値 的表 現 方 法、 及 び そ の実 験 ・ 解析 方 法 につ い て それ ぞ れ 新し い 手法 を 構 築し た 。 具体 的 に は, 操 縦 流体 カモデ ルとして 従来に はない, 可能な 限り流体 力学的根 拠 に 基づ い た 成分 分 離 型の 数 学 モデ ル を 提 案し , そ れら の 流 力特 性 係 数を 決 定 する た めに ,

「one shot PMM試 験」といった新しい模型実験方法を開発して,船舶操縦運動シミュレーション を 行う た め の流 体 カ の数 値 的 表現 につい て研究を 行った 。その主 要な研 究成果は 以下のと お りであ る。

1. 操縦運動 数学モ デルの開 発

通 常航 行 時 の操 縦 運 動に 加 え 、低 速 航 行 時で 船 の 斜航 角 や 旋回 曲 率 が大 き く なる 局 面の 操 縦運動 を対象 とし,船 体に作用 するSurge,Sway,Yawの3分カを 運動変 数u,v,rと渦の強さ等 の 係数 の 関 係式 に よ って , 流 体力 学 的 な 視点 か ら 操縦 流 体 カを 表 現 する 目 的 で、 成 分分 離 型 数学 モ デ ルを 構 築 した 。 こ の数 学モデ ルは渦モ デルで 構築され ,渦の 強さを表 す係数を 斜 航時と 旋回時 とで共通 で用いる ことに より,比 較的少 数のパラ メータ で大斜航,旋回の主船体 操縦流 体カを 数値的に 表現でき る特長 がある。

2. PMM試験に よる操縦 流体力 解析法の 開発

こ のモ デ ル には14個の 流 力 特性 係 数 が 必要 に な るが 、 こ の係 数 を 求め る に は模 型 船 に運 動 を 強制 し て 流体 カ を 求め る 拘 束模 型試験 が必要に なる。 本研究で は,動 的な運動 を強制す る PMM試 験 が一 度 の 試験 で 多 くの 流 体 カ のデ ー タ が得 ら れ るこ とに着 目し, この試験 結果か ら 定 常流 体 カ を抽 出 す る手 法 を 確立 した。 その際, 計測カ から加速 度に比 例する流 体カを特 定 し,そ の後こ れを慣性 カととも に差し 引くこと によっ て非線形 項を含 んだ定常流体カの抽出を 行う手 法を開 発した。 この方法 は,運 動履歴の 違いに よって生 じる流 体のメモリー影響を最小

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限に抑えることが可能である他、Pure Sway Motionから斜航の線形係数,Pure Yaw Motionから 純旋回の線形係数を求めるという各係数の特性を考慮した上で適用試験を分類し,これを精 度良く解析する手法を構築した。

3.新しい「one shot PMM試験」による操縦流体力解析法の開発

  通 常のPMM試験 では運動 が最大加 速度で始ま るため, 初期の実 験データ の精度が落ち る。そこで,速度と加速度が0から始まる新しいPMM試験方法を開発した。この新しい試験方法 の採用によって,従来のPMM試験では解析できなかった試験開始直後の計測データに対して も 適 用 が可 能 とな り 、 流体 計 測精 度 の 向上 と 小 規模 水 槽で の 実 験が 可 能に な った。

4.浅水域の操縦流体カヘの適用

  成 分分離型 数学モデ ルを浅水 域の定常流 体カに適用した結果,小斜航角流体カを利用 することで大斜航角を含む浅水域流体カを精度よく表現出来る事がわかった。特に、深水およ び浅水域にかかわらず船尾横カが斜航角に比例して直線的に変化する傾向をっかんだ。ま た、成分分離型数学モデルを浅水域の流体カに適用するに際しては,理想流体カのムンクモ ーメントに偶カモーメントの補正を加えることで浅水域流体カに適用できる可能性を示した。ま た、浅水影響として喫水・水深比に対する成分分離型数学モデルの流力特性係数の変化傾 向を把握することができた。この傾向をデータベース化することによって,将来,深水域の流体 力特性から浅水域の流体力特性を推定できることも明らかにした。

審査員一同が評価した点は以下の通りである。

1)PMM試験といった動的な運動を模型船に強制することによって,これらの試験結果から定   常流体カを抽出する手法を確立した。その際,PMM試験によって得られる計測カから,慣   性カと加速度項を差し引くことによって非線形項を含んだ定常流体カを抽出し,これに本   研究で構築した成分分離型数学モデルを適用することによって,幅広いレンジの操縦流体   カを数値的に表すことを可能にした点。.

2)従来のPMM試験は,しかし,運動が最大加速度で始まるため,初期の実験データの精度が   落ちる。このため本研究では,速度,加速度共にOから始まる新しい「one shot PMM試験」

  方法を開発し,この試験方法の構築によって,計測精度の向上と小規模水槽での実験を   可能にした点。

3)本研 究で構築 した成分分離型数学モデルは,浅水域の定常流体カについても適用を試   み,その結果,船の喫水の1.5倍までは,大斜航角を含む浅水域流体カを精度よく表現出   来る事がわかった。また,数学モデルの主要な流体力係数の浅水変化についても明らか   にすることができ,また,この傾向をデータベース化することによって,深水域の流体力特   性から浅水域の流体力特性を推定できる可能性を示した点。

審査員一同は本研究が、漁船を含む船舶の設計段階において,操縦性能の推定及び船型

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を評価し,改良を行う上で有用な手法になることが期待され,船の航行の安全性確保に資する ものと高く評価し、本論文が博士(水産科学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

参照

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