博 士 ( 工 学 ) 宮 本 剛 志
学 位 論文 題 名
A Study for Revealing the Origins of the Properties of Advanced Functional R/Iaterials
Using Quantum Beams
(量子ビームを用いた機能性材料の特性起源の解明に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
X線等の光子や電子、中性子といった量子力学的挙動を有する粒子束である量子ピームは、物 質の構造、電子状態、磁気状態、化学状態等を明らかにすることが可能次プローブであり、材料科 学、生命科学、環境、エネルギー工学といった広範教研究領域で使用されている。特に、放射光は 高輝度で指向性を持ち、連続エネルギーを有する教どの特徴から、回折、分光、散乱をどの手法に よって物質の高度分析が実現でき、その分析対象は物質の表面、界面からバルク全体にまで多岐に わたっている。他方、放射光以外にもナノテクに代表される微細加工技術やそれに付随する分析 機器の技術的教進歩により、量子ビームをプローブとしたナノレベルの表面分析が可能と誼って いる。このようを背景のもとで私は、放射光X線や電子線等の多彩橡量子ビームを用いて、新規 材料の機能発現メカニズムの解明を行ってきた。本論文では、機能性材料のAg(DM)2が示す、紫 外線によって電気伝導が変化する性質の起源について放射光XAFS (X線吸収微細構造)を用いて 明らかにした。また、試料から放出される光電子により表面組成分布を観察できる顕微鏡である EXPEEM(エネルギー選別型光電子放出顕微鏡)の最適化を行い、性能評価を行ったうえ、それを用 いて新規水素化脱硫触媒であるNi2P単結晶表面の水素吸着特性を調ベ、その活性発現のメカニズ ムを明らかにした。
第1章序論において、バルクと表面のそれぞれについて量子ビームを用いた分析手法について述 べた。バルク分析の手法として、ここでは放射光用いた種々の分析手法を俯瞰し、特にXAFSに関 して詳述した。また、電子線や紫外線といった量子ビームをプローブとした表面分析方法について 言及した。
第2章 においては、種々のAg化合物のXAFSスペクトルを取得し、Ag(DM)2分析の前段階と して、吸収端近傍のエッジピークの起源について明らかにした。AgのL3吸収端のXAFSスペク トルは、Agの価数がI価の多くの化合物において、吸収端付近にAgの内殻である2p3/2軌道か ら4d軌道への双極子遷移に起因するエッジピークが観察される。しかし、Ag原子単独での電子 配置は(Iくj)364d105Slであり、形式的に考えるとAgがI価の化合物では、4d軌道はすべて電子で 占有されていることにをり、パウりの排他律から双極子遷移が生じ顔いと考えられる。この矛盾を 説明するべく、エッジピークが生じる起源について分子軌道法を用いて明らかにし、エッジピーク 強度と物理的、化学的款指標を用いて説明することを試みた。その結果、エッジピークの起源は、
Ag周りの局所構造がTdやOhといった高い対称性のものを除いて、4d軌道とSs軌道との混成に よって4d軌道に非占有の電子状態が形成されることが原因である事が判明した。この4d‑5s混成 軌道の空の成分は、本来Ss軌道から生じるものであるので、形式的には、2p3/2軌道からSs軌道
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へ の遷移 と帰属 すべき である 。また 、この考 察からAgのエッ ジピー ク強度弦、配位子の共有結合 性 が強い ものほ ど強くをることが導かれる。配位子がもつ共有結合性の指標である酸化二量化電位 とエッジピーク強度に独強い相関がある事がこれを裏付けた。
第3章 に お い て は 、 第2章 で 用 い た 手 法 で あ るAgのL3吸 収 端XAFSス ベ ク ト ル やK吸 収 端 EXAFS(広 域X線 吸 収微 細 構 造 )を 用 い て 、電 荷 移 動 錯体Ag(DM)2の 伝 導変 化の性 質の起 源を明 ら か に し た 。Ag(DM)2はAgとDM分 子 か ら 塩 る 導 電 性 を 有 す る 分 子性 固 体 で 、UV照 射 によ っ て 一次元 の金属 伝導性 から半 導体や 絶縁体ヘ 不可逆 変化す る材料 である。この電気伝導性の変化 に つ い て は、Ag(DM)2中 のAgイ オ ン の 酸化 還 元で 説明さ れてい た。Agイ オンが 光によ って還 元 さ れるこ とでキ ャリア が消失 し、半 導体や絶 縁体へ 変化す るとい うものである。しかし、L3吸収 端XAFSスベ クトル測 定の結 果、半 導体お よび絶 縁体の 光生成 物は両 者ともに、バルクはもとより 表 面 に お いて もAgイオ ン は 還 元さ れ て い をい こ と が 判明 し た 。 一方 、K吸収端EXAFSの結 果か ら 、 半 導 体で はDM分子 とAgイオ ンの結 合距離 が一部 短くを ってい ることが 明らか に誼っ た。こ の 結果か ら、新 しい伝 導変化 のメカ ニズムを 提案し た。す をわち 、UV照射によって構造が一部変 化 し、新 しい相 が形成 される 。そし て、その 新しい 相と元 々の構 造との境界でDM分子の兀軌道の 重 教りが 小さく 叔る。 その結 果、そ の境界が1次元電気伝導の活性化障壁と教ることで伝導性が半 導 体的顔 挙動が 発現する、というメカニズムである。また、絶縁体についても、新しい伝導変化の メ カニズ ムを提 案した 。す極 わち、DM分子の 構造が アモルフ ァス化 するこ とで、1次元の 伝導経 路が消失したために絶緑化する、というメカニズムである。
第4章 に おい て は 、 表面 顕 微 手 法の ー つ で あるEXPEEMの最適 化を行 い、現 状での 空間分 解能 お よ び ェ ネル ギ ー 分 解能 に つ い て議 論 し た 。EXPEEMは 、 実験 室 に お いて 高輝度 のAlka線を 試 料 ヘ照射 し、そ こから放出される光電子を使って結像を行う顕微鏡である。元素固有のエネルギー を もつ内 殻の光 電子を使って結像することで、表面の組成分布を拡大像として得る事ができる。光 電 子のエ ネルギ ーを選 別する ために 独自に開 発した 多極子 のWien Filter(WF)と呼ば れるエ ネル ギ ー 分 析 器が 備 わ っ てい る が 、WF型 の ア ナラ イザ ーと実 験室系 のX線を 使って 内殻光 電子選 別 像 を 報 告 し た 例 は 無 か っ た 。 そ こ で 、 私 はSi基 板 上 にAuとCuの50ルm四 方 の アイ ラ ン ド パ タ ーンが 描かれ た試料 を用い て、Auの4fおよびCu2p3/2光電 子で結 像を行っ た。そ の結果 、空間 分 解能は およそ10ロniであ ること が分か った。 また、 エネル ギー分 解能では、パスエネルギーが lOOeVに おい て 約2eVであ り 、 一 般的 款 エ ネ ルギ ー分析 器の半 球型ア ナライ ザーの4eVよりも 高 い性能が得られることが分かり、WFの有用性を証明することができた。
第5章にお いては 、新規 水素化 脱硫触 媒のNi2P単 結晶を 用い、 その(0001)表面 をモデ ル触媒 と して水 素と表 面の相 互作用 を、4章 で開発 したE瓢 )EEMおよ び昇温脱離法(TPD)で明らかにし た 。n}Dは 試料に 予め吸着させておいた気体を一定速度で昇温させて脱離させ、その脱離による圧 力 変化カ ーブか ら気体 の吸着 様式や 脱離エネ ルギー 教どが 求まる 手法である。実験の結果、467K 付 近 に 水 素由 来 の 脱 離ピー クが観 測され、 更に曝 露量を 約400L以 上にする と、120℃以下 でPD3 の 脱離が 観測さ れるこ とが分 かった 。脱離の 活性化エネルギーは低被覆量で192土7kJ/m01、高被 覆量で148土8kJ/molであり、Ni(111)表面での水素における吸着エネルギー(66‐96kJ/In01)より も 安定し て吸着 するこ とが判 明した 。Ni2Pの表 面Ni原子 が水素 吸着サイトであるが、表面に存在 す るPの効 果によ り水素 吸着が 安定化 される ことで高 い触媒 機能が 発現す るもの と考え られる。
第6章では、本論文を総括した。
以 上要す るに、 私は博 士課程 におい て、量子 ビームをプロ←プとしてAg(DM)2の伝導変化メカニ ズ ムの解 明並び に、水素化脱硫触媒Ni2P(0001)表面の水素吸着特性の解明を通して、バルクから 表 面まで 分析範 囲を横断した研究を行い、それぞれの機能発現のメカニズムを解明してきた。この 研 究 の 成 果 は 、 今 後 の 応 用 研 究 に 有 用 縁 情 報 を 与 え る こ と が 期 待 さ れ る 。
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学 位論文審査の要旨
主 査 教 授 朝 倉 清 高 副 査 教 授 鬼 柳 善 明 副 査 教 授 古 坂 道 弘
副 査 准 教 授 内 藤 俊 雄 (理 学 研究 院 )
学位論文題名
A Study for Revealing the Origins of the Properties of Advanced Functional h/Iaterials
Using Quantum Beams
(量子ビームを用いた機能性材料の特性起源の解明に関する研究)
X線等の光子や電子、中性子といった量子力学的挙動を有する粒子束である量子ビームは、物質 の構造、電子状態、磁気状態、化学状態等を明らかにすることが可能をプロープであり、材料科学、
生命科学、環境、エネルギー工学といった広範を研究領域で使用されている。現在では量子ビーム をプローブとした物質のナノレベル構造や機能の解明が可能と教っている。一方で、ナノ領域の構 造解明には、電子顕微鏡が有カを手法とをっているが、サンプルダメージを与え、有機機能材料や 表 面の吸着種研究には、あまり向いてい顔い。そこで、著者は放射光X線や光放出電子線等の新し い、サンプルダメージの少をい量子ビーム解析手法を開発し、新規材料の機能発現メカニズムや触 媒 反応機 構の解 明を行 った。 本論文 では、 機能性材 料のAg(DM)2が示す、紫外線によって電気伝 導 が変化 する性 質の起 源につ いて放射光XAFS(X線吸収微細構造)を用いて明らかにした。また、
試 料から 放出さ れる光 電子に より表 面組成 分布を観 察できる顕微鏡であるEXPEEM(工ネルギー選 別型光電子放出顕微鏡)の最適化を行い、性能評価を行ったうえ、それを用いて新規水素化脱硫触 媒 であるNi2P単結 晶表面の 水素吸 着特性 を調ベ 、その 活性発 現のメ カニズ ムを明らかにした。
第1章序論において、バルクと表面のそれぞれについて量子ビームを用いた分析手法について述 べ ている 。バル ク分析 の手法 として、ここでは放射光用いた種々の分析手法を俯瞰し、特にXAFS に関して詳述した。また、電子線や紫外線といった量子ピームをプローブとした表面分析方法につ いて言及し、こうした手法がサンプルダメージを受けやすい物質に最適であることを述べている。
第2章 に おい て は 、 種々 のAg化合 物 のXAFSス ペ クト ル を 取 得し 、Ag(DM)2分 析 の前段階 と し て、吸 収端近 傍のエ ッジピ ークの 起源に ついて明 らかに して、AgのXAFSスベクトルの新解析 法 を 提 案 し た 。AgのL3吸 収 端 のXAFSスベ ク ト ル は、Agの 価数 がI価 の 多 くの 化 合 物 にお い て 、吸収 端付近 にAgの内 殻であ る2p3/2軌 道から4d軌道への双極子遷移に起因するエッジピーク が 観察さ れる。 しかし 、Ag原子 単独で の電子 配置は(Kr)364d105slであり、形式的に考えるとAg がI価の化 合物で は、4d軌 道はす べて電 子で占 有され ていることにをり、パウりの排他律から双 極子遷移が生じ蘊いと考えられる。この矛盾を説明するべく、工ッジピークが生じる起源について 分子軌道法を用いて明ら舟にし、エッジピーク強度と物理的、化学的を指標を用いて説明すること
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を 試み た。 そ の結 果、 エッ ジ ピー クの 起源 は、Ag周りの局所 構造がTdやOhといった高い対 称性 の もの を除 い て、4d軌 道とSs軌道 との 混成 によって4d軌道に 非占有の電子状態が形成され るこ とが原因 である事が判明した。この4d―5s混成軌道の空の成分は 、本来Ss軌道から生じるもので あるので 、形式的には、2p3/2軌道か らSs軌道への遷移と帰属す べきである。また、この考察から Agのエッ ジピーク強度は、配位子の 共有結合性が強いものほど強 くをることが導かれる。配位子 がもつ共 有結合性の指標である酸化 二量化電位とェッジピーク強度には強い相関がある事がこれを 裏付けた 。
第3章 に お い て は 、 第2章 で 用 い た 手 法 で あ るAgのL3吸 収 端XAFSス ベ ク ト ル やK吸 収 端 EXAFS(広域X線 吸収 微 細構 造) を用 いて 、 電荷 移動 錯体Ag(DM)2の伝 導 変化 の性 質の 起 源を 明 ら か に し た 。Ag(DM)2はAgとDM分 子 か ら を る 導 電 性 を 有 す る 分 子 性 固 体 で 、UV照 射に よっ て一次元 の金属伝導性から半導体や 絶縁体ヘ不可逆変化する材料 である。この電気伝導性の変化 に つい ては 、Ag(DM)2中のAgイ オン の酸 化 還元 で説 明さ れ てい た。Agイオンが光によって 還元 されるこ とでキャリアが消失し、半 導体や絶縁体へ変化するとい うものである。しかし、L3吸収 端XAFSス ベクトル測定の結果、半導 体および絶縁体の光生成物は両者ともに、′ヾルクはもとより 表 面に おい て もAgイオ ンは 還 元さ れて いを いこ と が判 明し た。 一方 、K吸収 端EXAFSの 結果 か ら 、半 導体 で はDM分子 とAgイ オン の結 合距 離がー部短く教っ ていることが明らかに謡った 。こ の結果か ら、新しい伝導変化のメカ ニズムを提案した。すをわち 、UV照射によって構造が一部変 化し、新 しい相が形成される。そし て、その新しい相と元々の構 造との境界でDM分子の兀軌道の 重をりが 小さくをる。その結果、そ の境界が1次元電気伝導の活 性化障壁とをることで伝導性が半 導体的な 挙動が発現する、というメ カニズムである。また、絶縁体についても、新しい伝導変化の メ カニ ズム を 提案 した。すをわち 、DM分子の構造がアモルファ ス化することで、1次元の伝 導経 路が消失 したために絶縁化する、と いうメカニズムである。
第4章に おい ては 、 表面 顕微 手法 のー つ であ るEXPEEMの 最適 化を 行い、現状での空間分 解能 お よび ェネ ル ギー 分解 能に つ いて 議論 した 。EXPEEMは 、実 験室 にお い て高 輝度 のAlka線を 試 料ヘ照射 し、そこから放出される光 電子を使って結像を行う顕微鏡である。元素固有のエネルギー をもつ内 殻の光電子を使って結像す ることで、表面の組成分布を拡大像として得る事ができる。光 電 子の ェネ ル ギー を選別するため に独自に開発した多極子のWien Filter(WF)と呼ばれるエ ネル ギ ー分 析器 が 備わ っているが、WF型のアナライザーと実験室系 のX線を使って内殻光電子選 胃IJ 像 を 報 告 し た 例 は 無 か っ た 。 そ こ で 、 著 者 はSi基 板上 にAuとCuの50pm四方 の アイ ラン ドパ タ ーン が描 か れた 試料を用いて、Auの4fおよびCu2p3/2光電子 で結像を行った。その結果、 空間 分 解能 はお よ そ10皿mであることが 分かった。また、エネルギ ー分解能では、パスェネルギ ーが lOOeVにお いて 約2eVで あり 、 一般 的を エネ ルギ ー 分析 器の 半球 型ア ナライザーの4eVより も高 い 性 能 が 得 ら れ る こ と が 分 か り 、 WFの 有 用 性 を 証 明 す る こ と が で き た 。 第5章に おい ては 、 新規 水素 化脱 硫触 媒 のNi2P単 結晶 を 用い 、そ の(0001)表面をモデル 触媒 と して 水素 と 表面 の相 互作 用 を、4章で 開 発し たEXPEEMお よび 昇温 脱離 法(TPD)で明 ら かに し た。TPDは試料に予め吸着させておい た気体をー定速度で昇温さ せて脱離させ、その脱離による圧 力変化カ ープから気体の吸着様式や 脱離エネルギーをどが求まる 手法である。実験の結果、467K 付 近に 水素 由 来の 脱離 ピー ク が観 測さ れ、 更に曝露量を約400L以上にすると、120℃以下 でPD3 の 脱離 が観 測 され るこ とが 分 かっ た。 脱離 の活性化エネルギ ーは低被覆量で192土7kj/molであ り、Ni(lll)表面での水素の脱離エネ ルギー(66‑96kj/mol)よりも 大きいことが判明した。Ni2Pの 表 面Ni原子 が 水素 吸着サイトであ るが、表面に存在するPの水 素吸着に対する効果が高い触 媒機 能を発現 する原因であると結論した 。
第6章 では、本論文を総括した。
以上要す るに、著者は博士課程にお いて、自ら開発した量子ピーム解析手法を用いて、ダメージを 受けやすい′ヾルク有機伝導体や表面吸着系への量子ビームの適用可能性を広げ、量子ピーム科学の
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進歩に大いに貢献した 。よって、著者は北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるもの と認める。
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