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1 社会の変化と学校教育

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(1)

【第1章】学校教育を取り巻く社会の変化

【第2章】石川の学校教育の基本的な考え方

(2)

1 社会の変化と学校教育

 戦後、我が国が新しい教育制度をスタートさせて以来、社会は大きく変貌し てきました。

 これからの学校教育を考える上で、想定する社会像を的確に描くことが必要 であり、以下の(1)〜(7)に示す7つのキーワードをもとに、21世紀初頭の 社会を展望します。

(1)成熟社会への移行

 我が国の経済は、戦後から昭和60年代まで一貫して右肩上がりの成長が続いてきまし たが、近年は、物質的な側面を重視した成長社会の在り方が問われてきており、「モノの 豊かさから心の豊かさへ」「量から質へ」といった考え方が強まり、一人一人の生活の質、

生きがい、余暇活用などが重視される成熟社会へと移行しつつあるといわれています。こ の成熟社会においては、多様なライフスタイルが認められる一方で、利己的な個人主義に 陥る危険性を内包しているともいわれています。このため、私たち一人一人は、社会のル ールを重んじ責任をもった行動をするとともに、個性を生かして心豊かに創造的に生きる ことにより、社会全体としての活力を高める必要があります。

(2)人口減少と少子高齢化の進行

 我が国の合計特殊出生率は、平成13年で1.33となっており、人口を維持することに 必要な水準を大きく下回っています。その結果、我が国の人口は、平成18年の約1.28億 人をピークに減少に向かうと予想されています。

 また、我が国は世界一の長寿を誇っていますが、少子化と相まって高齢化が例を見ない ほど急速に進んでいます。

 本県においても、今後人口の減少と少子高齢化が予想され、これらの傾向を小学生・中 学生に限ってみると、小学生は昭和57年の約11.7万人をピークに減少しており、平成 20年度には約6.8万人となることが見込まれています。

 また、中学生は昭和62年の約6.0万人をピークに減少しており、平成20年度には約 3.5万人となることが見込まれています。

 児童生徒数の減少は、学校教育活動の低下につながるとも考えられますが、見方を変え れば、学校教育施設や学習環境のゆとりの活用により、これまでにない新しい学校教育活

(3)

※合計特殊出生率

 15歳から49歳までの女子の年齢別出産率を合計したもので、一人の女子が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間 に生むとしたときの子ども数に相当する。

40 35 30 25 20 15 10 5 0

【石川県における児童生徒数の推移と将来推計】

【日本の将来推計人口と高齢者率】

130 125 120 115 110 105 100 95

総 人 口 高齢者率

平成8 13 18 23 28 33 38 43 48 53年 資料:「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」国立社会保障・人口問題研究所

14 12 10 8 6 4 2 0

(万人)

昭和53 56 59 62 平成2 5 8 11 14 17 20年度 資料:昭和53〜平成14年度の児童生徒数については「学校基本調査」

平成15年度以降の児童生徒数については、「石川県の人口動態」の年齢別人口から 推計した値

小学生 中学生

(6.8)

(3.5)

(4)

(3)高度情報通信化の進展

 インターネットや衛星通信などに代表される情報技術(IT)の発達は、社会のあらゆ る分野で高度情報通信化を進め、世界が身近になるなど、人々の情報環境やライフスタイ ルを大きく変えようとしているだけでなく、産業構造をも変化させています。

 その一方で、情報技術を利用できる者とできない者との間に生じている深刻な情報格差

デジタル・デバイド)や、個人情報等の安全な管理、大量の情報を取捨選択し活用す る能力の育成などの課題に直面しています。

 本県においては、学校を含めた、県内の情報環境の整備をめざして、平成13年にIT アクションプランを策定しました。今後、学校教育には高度情報通信化の進展に伴う光の 部分と影の部分も踏まえた情報教育の一層の充実が求められています。

6.000 5.000 4.000 3.000 2.000 1.000 0

資料:「通信利用動向調査」総務省

【インターネットの人口普及状況】

(万人)

平成9 10 11 12 13年

100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 利 用 者 数 人口普及率

(5)

※デジタル・デバイド

 インターネットの急速な普及によって情報技術を利用できる者とできない者との間に、深刻な情報格差(デジタル・

デバイド)をもたらしつつある。情報格差が広がっているのは個人間ばかりでなく、企業間や国家間においても、イン ターネットを有効に活用しているかどうかで、競争力に大きな差が生じ始めているといわれている。

※石川県ITアクションプラン

 情報通信技術の飛躍的な進歩に対応して、本県のIT化推進のための具体的施策の行動計画をまとめたもの。5つの 施策の柱のうちの一つとして人材育成が挙げられており、教育のIT化などの取組が組み込まれている。

(4)国際化の進展

 交通・情報通信システムの急速な整備やボーダレス化の進展により、人、モノ、金、情 報などが国境を越えて自由に行き交う時代を迎え、経済、文化、スポーツ、学術などの様々 な分野において我が国と国際社会との相互連携、相互依存の関係がますます強まっていま す。

 本県の学校教育においても、姉妹校提携など海外の学校との交流が進められているほか、

高等学校での海外修学旅行や語学研修の増加、留学生や外国人児童生徒の受け入れ、語学 指導等を行う外国青年招致などによって国際交流が促進されています。

 このような国際化の進展に対応するためには、コミュニケーション能力の向上だけでな く、ふるさとの伝統や文化を理解し、日本人としての誇りをもつとともに、他国の文化や 習慣などを理解し、尊重し、国際社会の一員として世界的な視野にたって主体的に行動し ていく資質・能力の育成が必要です。

140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0

(人)

【県民の目的別海外出国者数の推移】

平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12年

資料:「石川県の国際化の現況」石川県国際課

観 光 商 用 留学等 その他

(6)

(5)科学技術の進展

 エレクトロニクス、遺伝子工学、超微細技術(ナノテクノロジー)などの科学技術は、

経済、社会の発展や豊かな生活の実現に大きな役割を果たしてきており、知的創造力や優 れた技術を誇る我が国にとっては、科学技術のさらなる発展が求められています。その一 方で、地球環境や人間社会を脅かす負の一面も有していることに留意する必要があります。

 今後は、科学の両面性を正しく見極めながら、科学する喜びや感動を味わうことのでき る学習機会を提供するなど、子どもたちの旺盛な探究心や創造力、科学的なものの見方、

考え方をはぐくむことが大切です。

【20世紀後半における科学技術の主な足跡】

1951 1953 1954 1954 1955年頃 1957 1957 1959 1960 1961 1964 1965 1966 1967 1967 1969 1970 1973年頃 1973 1978 1979 1981 1983 1985年頃 1986 1986 1993年頃 1993年頃 1994 1996 1997 1998 1999 1999

事項(科学分野) 事項(技術分野)

DNAの二重らせん構造の解明(米:ワトソン、英:クリック)

インターフェロン(ウイルス抑制因子)の発見(日:長野泰一、小島保彦)

クォーク・モデルを提唱(米:ゲルマン、ツワイク)

宇宙背景放射を観測(米:ペンジアス、ウィルソン)

エイズウィルス発見(仏:モンタニエ、米:ギャロ)

トップ・クォークを確認(米:フェルミ国立加速器研究所)

ニュートリノに質量を確認(日:スーパーカミオカンデ)

22番染色体解読完了(ヒトゲノム計画:日、米、英)

原子力発電開始(米)

公害が社会的な問題になり始める(日)

日本の原子炉初の臨界到達

人工衛星スプートニク打ち上げ(ソ連)

集積回路(IC)の発明(米:キルビー)

人類初の有人宇宙飛行(ソ連:ガガーリン)

東海道新幹線開業(日)

商業ベースでの原子力発電開始(日)

公害対策基本法公布(日)

アポロ11号月面着陸(米)

日本初の人工衛星「おおすみ」打ち上げ 石油ショック(日)

スリーマイル島原子力発電所事故(米)

スペースシャトル初飛行(米)

チェルノブイリ原子力発電所事故(ソ連)

宇宙ステーション「ミール」の運用開始(ソ連)

「情報スーパーハイウェイ」構想発表(米)

インターネット爆発的に普及 H−Ⅱロケット打ち上げ(日)

国際宇宙ステーションの組み立て開始(日、米、欧、加、露)

ウラン加工工場で臨界事故(日)

世界初の腎臓移植(米)

初のレーザー発振に成功(米:メイマン)

初の心臓移植手術(南ア:バーナード)

オゾンホールの発見(日、英、米)

日本初の脳死者からの臓器移植 クローン羊「ドリー」が誕生(英)

「臓器の移植に関する法律」公布(日)

遺伝子組換え技術の確立(米:コーエン、ボイヤー)

初の体外受精児の誕生(英)

資料:科学技術庁「平成12年度版科学技術白書」から一部抜粋

(7)

※ナノテクノロジー

 1メートルの10億分の1の極細な単位を扱うことをめざす技術。半導体や機械加工、生物や医学分野に応用される。

ナノテクともいわれている。

※オゾン層破壊

 オゾン層とは成層圏中のオゾン濃度の高い層のことをいい、太陽からの紫外線を吸収する働きをしている。そのオゾ ン層が大気中のフロンガスの影響で、穴があいたようにオゾン濃度が低い部分ができてしまうことをオゾン層破壊とい う。この穴が広がり、ここから太陽の光が地表に届くことがあれば、有害な紫外線を多く浴びることになり、生物に深 刻な影響が出ると予測されている。

(6)環境問題の深刻化

 科学技術や産業社会の発達で豊かな生活を享受できるようになった一方で、大量生産、

大量消費、大量廃棄というこれまでの社会システムやライフスタイルにより、地球温暖化、

オゾン層破壊、酸性雨等の地球規模での環境問題をはじめ、廃棄物の増大、最終処分場 の逼迫等の都市型・生活型の環境問題に直面しています。これらの解決には、国際協力は もとより、国や地方自治体、企業等の積極的な取組が必要であるとともに、何よりも私た ち自身が社会生活や日常生活の中で、手の届く範囲から着実に実践していくことが必要で す。そして、それらが大きな相乗効果を発揮し、環境への負荷の少ない循環型社会へと移 行することが求められています。

 今後、学校においては環境への負荷を減らした施設・設備を整備し、充実することが必 要です。また、子どもたちに対しては、社会全体の生活様式や経済活動を環境に配慮した ものに変え、循環を基調とする環境保全型社会を作っていくことの大切さを理解させると ともに、身近なところから主体的に実践する態度を育成する必要があります。

23,000 22,500 22,000 21,500 21,000 20,500 20,000 19,500 19,000 18,500 18,000

(百万トン)

1980 1985 1990 1993 1994 1995 1996 1997年

【世界の二酸化炭素排出量の推移】

資料:「世界の統計2002」総務省

ひっぱく

(8)

30 25 20 15 10 5 0

(件)

平成11 12 13 14年

【石川県におけるNPO法人設立認証数の推移】 【石川県におけるNPO法人の分野割合】

高齢者・

障害者等福祉 56.7%

その他 16.4%

11.9%

まちづくり・

地域振興 環境 6.0%

芸術・文化 6.0%

国際交流 3.0%

(平成14年9月現在)

【合計 67団体】

資料:石川県NPO活動支援センターあいむ

(7)分権型社会への移行

 経済や社会の成熟化に伴って、中央が主導する方式から、地方の実状にあった取組がで きるような分権型の社会へと移行しつつあります。そのような社会では、NPOや

NGOなどの組織や個人が主体的に自立して活動できる幅が拡大され、施策の決定・推 進の場に直接参画することが多くなると考えられ、それだけに個人としての責任の自覚が 強く求められます。

 そこでは、個性豊かで多様な価値観をもつ人々が共に支え合う地域社会を形成すること になることから、男女や世代の差、障害の有無などに対する旧来からの固定観念や慣習を こえて、互いに人権を尊重し合う意識が求められます。

 学校教育においても、分権化の方向に進むものと思われ、学校の自主性・自律性を重ん じ、地域や各学校の実状にあった教育活動を責任をもって展開できるようなシステムづく りが求められています。

 また、このような分権型社会では、これまで以上に円滑な意思疎通が必要になると考え られます。そのため、学校においては、コミュニケーション能力の育成がますます重要に なるとともに、社会体験活動の場などを通して、人間関係を成り立たせている社会の基本 的なルールやマナーを身に付けさせることが大切です。

(9)

※NPO【Non Profit Organization】

 非営利組織。政府や私企業とは独立した存在として、民間の支援のもとで社会的な公益活動を行う組織・団体のこと をいう。

※NGO【Non Governmental Organization】

 非政府組織。政府間の協定によらずに創立された、民間の国際協力機構。国連憲章は国連の活動に関連する活動を行 う民間団体との協力を規定している。経済社会理事会が認定したこのような団体を国連NGOという。

地域の川を守る活動をする市民団体

(10)

2 想定する社会像

 前項で7つのキーワードをもとに展望した21世紀初頭の社会を、これからの 本県学校教育の在り方を考える観点にたって、以下の3つに整理し想定しまし た。

(1)地域の特性を生かした、創造的で活力ある社会

 これまでの社会では「東京一極集中」に代表されるように大都市に人、モノ、金、情報 等が集中する傾向がありました。

 しかし、一人一人の価値観の多様化や交通・情報通信システムの整備、産業構造の変化 などにより、大都市以外の地方においても様々なライフスタイルやワークスタイルの実現 が可能となりつつあります。

  本県には、世界に発信できる伝統産業に加え、先端産業やベンチャービジネスなど新し い多様な産業を創造する豊かな土壌があります。また、美しい自然環境や重厚な伝統文化、

温かい人情など心なごむ恵まれた生活環境を有しています。

  そこで、ふるさと石川にはぐくまれ、また、ふるさと石川の良さを守り、発展させると ともに、一人一人が自分の個性を存分に発揮し、創造性あふれる取組を続けることのでき る社会を想定します。

(2)互いに個性を発揮しながら、共に生きる社会

 一人一人の価値観が多様化するこれからの社会では、自らの個性に誇りをもち、創造的 な生き方をめざすとともに、互いに切磋琢磨し競い合いながら、生き方や考え方、行動様 式、男女、世代などの違いをよく理解し、個性を認め合い、尊重し合うことが大切です。

また、経済活動や文化活動などが世界を舞台に行われ、情報技術(IT)革命によって個 人と世界が直接結ばれるような時代においては、国や民族などの違いを乗り越えることも 大切です。

 そこで、社会の一員としての責任を自覚し、人権尊重の理念の下、互いに自らの個性を 存分に発揮しながら交流を図ることによって、新たな文化や価値観を生み出していく真に 豊かな社会を想定します。

(11)

社会の変化

想定する3つの社会像

・成熟社会への移行

・高度情報通信化の進展

・科学技術の進展

・分権型社会への移行

・少子高齢化の進行

・国際化の進展

・環境問題の深刻化

地域の特性を生かした、

創造的で活力ある社会

人と自然が共生する 豊かな社会 互いに個性を発揮しながら、

共に生きる社会

(3)人と自然が共生する豊かな社会

 本県の文化は、先人たちによって長い年月をかけ磨き上げられてきた質の高いものであ り、また、石川の四季折々の豊かな自然やその恵みの中でこそはぐくまれてきたものとい えます。私たちは、本県のすばらしい文化を継承するとともに、その根底にある、自然と 共生し自然の恩恵を受けて生きているという思いをこれまで以上に大切にする必要があり ます。

 自然というものは、私たちの生活の基盤であるばかりではなく、心を暖かく包み込み癒 してくれたりします。また、自然の驚異や摂理は、私たちに畏敬の念を抱かせたり、もの ごとをありのままに見る心や科学的探究心をはぐくんでくれたりもします。

 今、地球規模の様々な環境破壊により、自然は深刻な状況に陥っていますが、近年、環 境保護の意識の高揚もあり、国レベルばかりではなく、世界各地で民間団体や個人による 積極的な環境保護活動が展開されています。

 そこで、自然は今生きている私たちだけのものではなく、子孫に伝えるべき貴重な財産 であることを理解し、自然を守り、自然の中で心豊かに暮らす社会を想定します。

いや

(12)

1 学校教育の課題

(1)自ら学び、自ら考え、総合的に判断し、的確に表現する能力の育成

 我が国にはこれまで中国や西欧など海外の学問や芸術・技術等の導入に積極的であった 時期と、反対に外の世界との交わりを避けて独自の文化を洗練させた時期とが交互にあり ました。特に、明治以降の100余年間は、科学技術に代表される西欧の優れた先行モデル を急速に取り入れる必要があり、そのため、それらの知識をできる限り早く、できる限り 大量に自分のものとする学習が優先されました。そして、その努力の結果、今日、世界で も有数の経済的発展を成し遂げるに至っています。

 もとより、この成功は、我が国の人々の生来の勤勉さによるものであり、教育の面につ いていえば、江戸期の寺子屋で多くの庶民が学んだことからもわかるように、全体に知識 欲が旺盛で平均的知的水準が極めて高かったことに支えられてのものであったともいわれ ています。とりわけ、本県は「天下の書府」と呼ばれた加賀藩の伝統の下、文化や芸術が 今に息づき、高等学校への進学率も全国の最上位を占めるほどに、「学ぶ」ことに前向き な風土が醸成されています。 

 しかし、科学技術の進展や経済のグローバル化等が一段と進み、価値観がますます多様 化するこれからの新しい時代においては、先人が営々と積み重ねてきた学問や芸術文化・

技術を確実に継承するとともに、その基盤の上に創造性豊かな個性を発揮することが求め られています。すなわち、知識を単に吸収して終わりとするのではなく、それらを自然や 社会でのさまざまな体験を通して、生きた知恵や真の教養へと昇華させるとともに、自ら 新しい課題を見付け、自ら学び、考え、総合的に判断し、的確に伝え合いながら、よりよ く問題を解決する能力を育成する教育が求められているのです。

 幸い、本県には、豊かな自然や伝統に根ざした本物の文化があり、地域社会の絆を大切 にする人情篤い人々が暮らし、また、高等教育機関も多く集積しており、いわば、これか らの教育に必要な条件の大部分が備わっているといっても過言ではありません。

 これら石川のもつ教育環境の特性を最大限に活用して、他者との関わりの中で試行錯誤 を繰り返しながら、自ら学び、自ら考え、それらを総合し、的確に表現する力をはぐくむ 教育を展開し、次代を切り拓くたくましい人材を育成していく必要があります。

きずな

(13)

(2)子どもたちの多様な個性の伸長

 戦後、我が国の初等中等教育は、6・3・3制を基本とする単線に近い学校体系を軸に、

教育における平等性を重視しながらその普及を図りつつ、教育水準の維持・向上をめざし、

全国どこの地域・学校においてもほぼ同質の内容・方法による教育を展開してきました。

その結果、今や、高等学校への進学率は96%を超え、また、大学等への進学率は45%近 くに達しており、戦後教育は、幅広い知識や専門的技術を多くの人に提供し、我が国の発 展に大きく寄与してきました。

 しかし、近年、学校教育の在り方にも大きな影響を与えるほどに、社会が急激に変化し、

教育に対するニーズも変化しています。そのため、これまでの教育システムでは必ずしも 十分な対応ができないのではないかと指摘されており、子どもたち一人一人の個性や能力、

興味・関心の多様化に対応した学校づくりが求められています。さらに、今後、成熟社会 への移行とともに多様な人生観や価値観をもつ人々が共に生きる時代を迎えると想定され、

ますますこの傾向が進むものと考えられます。

 このため、現在進められている、一人一人の能力・適性等に応じた教育をさらに推し進 め、教育システムの工夫改善はもとより、個性と魅力にあふれた特色ある学校づくりやカ リキュラムの編成、教材・指導方法の研究開発などに取り組み、子どもたちの多様な個性 を伸長させる必要があります。

 また、少子化の進展も予想される中、社会全体として各分野に活力ある人材を得るため にも、一人一人の子どもたちが自らの個性を生かし、それぞれの道を創造的に切り拓いて いくことが求められています。

 そして、豊かで多様な個性は、基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得を基盤にして、

各自が社会生活を営む人間としての責任を自覚し、主体的に学ぶことによってはじめて伸 ばせるものであることから、子どもの発達段階に合わせて確実に基礎・基本が身に付くよ う、各学校段階で連携を図りながら適切に指導していく必要があります。

(14)

(3)生涯学び続ける学習意欲の確立

 「学び」は、いつの時代にあっても、学校教育のみで完結するものではなく、社会人と なった後も、それぞれの家庭や職場などの様々な場面で続けられてきました。これからの 社会を展望するとき、国際化や情報化など、ますます社会は急速に変化することが予想さ れ、新しい知識や技術を継続的に学習していくことが不可欠になってきており、どこで学 んだかという「学歴」よりも、生涯の各時期において何を学んだかという「学習歴」が一 層重視される時代を迎えると考えられます。

 また、豊かな人生を送るには、家族や友人とのつながりを大切にしながら、余暇を活用 して、精神的な豊かさを求めて学習したり、様々な学習活動それ自体を楽しんだりする機 会をもつことも必要です。

 そのため、学校教育が生涯学習の基盤であることを踏まえ、各教科の基礎的・基本的な 内容の確実な習得を図るとともに、体験的な学習や問題解決型学習を通して、自ら学ぶ楽 しさや達成感を味わわせ、学習意欲を高めることのできる教育活動を展開する必要があり ます。

中学校の授業風景

(15)

(4)安心して心豊かに学べる学校づくり

 学校は子どもたちが安心してありのままの 自分を表現できる学習の場であり、また、生 活の場でなければなりません。学校教育は、

このような空間の中で、様々な課題に立ち向 かい、困難に挑戦しようとする子どもたちが、

教師の支援を受けながら、自由にのびのびと 自分の良さを発揮し、多くの友人たちと切磋 琢磨することによって成り立っています。子 どもたちは、こうした切磋琢磨を繰り返して こそ、互いに尊敬する心や思いやる心、助け 合う心など真に豊かな人間性を身に付けてい くことができるのです。

 しかし、近年、いじめや暴力行為をはじめ、

学校外からの侵入者が増加するなど、安心し

て学べる教育活動の場が脅かされる事件も相次いで発生しています。また、性描写や暴力 シーンなどの有害情報の氾濫、覚醒剤等の薬物乱 用など子どもたちを取り巻く社会環境の悪化の影 響も懸念されています。

 そのため、心の教育や健康・安全にかかわる教 育などを充実させるとともに、生徒理解に努め、

様々な自己表現の機会を設けて子どもたちの良さ を引き出すなど、学校を挙げた取組が求められて います。さらに、バリアフリーや外からの犯罪防 止を念頭に置いた安全な学校づくりを進めるとと もに、ゆとりと潤いのある空間を備えた学習環境 を整備する必要があります。

 また、家庭や地域社会と連携して、学校の安全 性を一層高める工夫も必要です。

バリアフリー(スロープの設置)

ゆとりある空間

せい

(16)

(5)よりよく生きようとする主体的な態度や意欲を育てる教養教育の充実

 大きな社会的変動が進行している今日、私たちは、社会や時代の進もうとしている方向 性をとらえ、自らがその中のどの地点に立っているのかを見極めることが大切です。そし て、豊かな人間性や正義感、自国の歴史や言語、伝統・文化など、時代を超えて変わらな い価値あるもの(「不易」)を踏まえて、獲得した「知」を統合して、今後どのような目標 に向かって進むべきかを考え、目標の実現のために主体的に行動していく力、すなわち「教 養」を身に付けることが求められています。

 この「教養」とは、私たち一人一人が社会とのかかわりの中で経験を積み、体系的な知 識や知恵と感性を融合させながら人格形成を図ろうとする過程ではじめて醸成される、様々 な価値観の総称であると考えられます。具体的には、知識のみならず、規範意識と倫理性、

感性と美意識、体力と精神力、主体的な行動力などのほか、礼儀・作法などの修養も含め た全体であると考えられます。また、グローバル化時代に生きる世界市民としては、宗教 の違いなども含め、他者や多様な文化に対する適切な理解、コミュニケーション能力も含 めた教養が必要です。

 教育とは、子どもたちが「自分さがしの旅」を続けながら、人格を形成していくことを 扶ける営みであるといわれています。それは、乳幼児期の親子の絆を基盤として人間性を 培い、生活習慣や行動様式などを身に付けさせる家庭教育に始まり、基礎・基本はもとよ り体系的専門的な知識・技能を教える学校教育、さらにまた、地域における社会性をはぐ くむ教育など多様な場面で行われていますが、それらが連携協力し、相乗効果を発揮させ て、子どもたちの成長を支えることが求められています。

 学校教育においては、児童生徒の発達段階に即して、学ぶ意欲を喚起するとともに、知 性や感性を高め、それらを融合させ、未知の事態や新しい状況に的確に対応していく基盤 となる力や構想力をはぐくむ「教養教育」の充実が重要となっています。そして、幅広い 視野から物事をとらえ、高い倫理性に裏打ちされた的確な判断を下し、よりよく生きよう とする主体的な人間を育成することが期待されています。

たす きずな

(17)

※自尊感情

 自分に対して誇りをもち、自分自身を大切にしようとする気持ちのこと。

(6)家庭や地域社会の教育力向上への支援と連携

 かつて、私たちは豊かな自然にはぐくまれ、篤い信仰心に支えられるとともに、地縁や 血縁関係を大切にする家庭や地域社会の中で暮らしてきました。そこでは、子どもも居場 所をもち、家庭や地域社会の一員としてさまざまな役割を担うことによって、自己存在感 や自尊感情が育てられ、また人とのかかわりあいを通して、共に生きるための社会のル ールやモラルを身に付けることができました。このように家庭や地域社会は、子どもたち が様々な体験を通して基本的な人間関係を築き、社会に適応する基本的な能力を培う場と して極めて重要な役割を担っていました。そして学校は家庭と地域社会の教育力に支えら れ、教育の場としての機能を最大限に発揮してきました。

 しかし、今日、核家族化や少子化、都市化や過疎化などの進行にともない、家庭もその ありさまを変貌させ、地域社会も地縁的な結びつきや連帯意識を希薄にしています。その ような変化の中で、子どもたちは集団で遊ぶことが少なくなり、地域への帰属意識も薄れ、

基本的な人間関係を築きにくくなったといわれています。これが家庭や地域社会の教育力 の低下と呼ばれている現象であり、その結果、学校が担う役割が増大し、学校の教育活動 にも限界が生じつつあります。

 完全学校週5日制の導入により、家庭や地域社会においては、一人一人の子どもが主体 的に使うことができる時間が拡大し、ゆとりのある生活の中で社会性を身に付けたり、豊 かな感性、創造性を培ったりす

る様々な活動や体験の場を設け ることができるようになりまし た。そこでは、家庭と地域社会 の教育力の向上が今まで以上に 強く望まれています。

 このため、学校は、今後、家 庭や地域社会の教育力向上をさ らに支援するとともに、学校の 様々な教育活動において積極的 に連携を図ることにより、学校、

家庭、地域社会の互いの教育力 がよりよく発揮できるよう努力 する必要があります。

【家庭や地域社会が担うべき役割はどれだと思いますか。(いくつでも)】

教職員 6.1%

2.4%

92.7%

4.7%

41.1%

77.1%

17.2%

19.0%

61.0%

6.9%

32.4%

23.3%

53.8%

41.7%

2.1%

保護者 12.8%

6.8%

86.0%

14.7%

45.4%

74.8%

36.9%

16.3%

47.7%

6.3%

49.4%

31.6%

33.6%

31.8%

1.6%

県 民 12.9%

4.1%

91.4%

16.2%

39.9%

77.7%

32.6%

19.3%

43.9%

6.6%

42.5%

30.3%

46.4%

43.2%

1.6%

企 業 10.1%

1.6%

91.0%

22.8%

42.3%

63.5%

36.0%

20.1%

56.6%

7.9%

49.2%

30.7%

51.9%

32.8%

1.1%

基礎的な知識・学力や技能の習得 進学就職に必要な学力・能力の育成 社会生活を送る上での必要な基本ルールやマナーの習得 学問や勉学の楽しさ、喜びを教えること 困難を克服し解決する力の育成 弱者に対するやさしさや思いやりの心の育成 個性やそれに応じた能力を伸ばすこと 基礎的な体力の育成

価値観や人生観の育成 進路指導

自ら考え自主的に判断する力の育成 社会変化に柔軟に対応する力の育成 地域文化や伝統行事の継承 養育放棄・家庭内暴力の早期発見 無効回答

※最も多い項目■ 2番目に多い項目■ 3番目に多い項目■

資料:「平成13年度学校教育に関する県民意識調査」石川県教育委員会

(18)

 石川の教育資源を生かした石川ならではの学校教育を展開し、時代の変化に対応した人 材の育成をめざすために、石川の学校教育振興ビジョンがめざす基本理念を、

とします。

 これは、本県が誇るべき、恵まれた自然や重厚な歴史と風格ある文化、生活に根ざした 伝統産業、さらにそれらを守り育ててきた人々に触れるという体験を通して、石川の子ど もたちが心豊かに成長するとともに、学ぶ喜びや楽しさを味わい、学ぶ手応えを実感して ほしいという思いを込めています。

 また、困難に打ち勝ち、自らの将来のみならず、ふるさと石川の次代、さらにまた日本 や世界、地球の未来をも切り拓こうとする気概あふれる積極果敢な人づくりをめざすこと を示しています。

2 基本理念

(19)

(1)確かな学力を身に付け、個性や創造性に富む人間

 これからの社会では、多様な価値観やライフスタイルが認められると同時に、人々がそ の個性や創造性を存分に発揮して活力ある社会を作り上げることが求められてきます。

 そのため、生涯学び続ける意欲に満ち、基礎的・基本的な能力を培いながら、自ら学び 自ら考え、それらを総合し、主体的に判断する力を身に付けることを基盤として、自らの 資質を生かし、個性や創造性をさらに伸ばすことのできる人間であることが求められます。

(2)責任とモラルを重んじ、人を思いやる心豊かな人間

 今日の社会は、多様な人生観や価値観をもつ人々から成り立っており、またグローバル 化の進展に伴い、人種、文化、言語等の異なる人々が互いに大きな影響を与え合うようにも なっています。

 そのため、社会のルールやモラルを重んじつつ、自らの課題の解決に向け積極果敢に行 動し、その結果に責任をもつとともに、互いに相手を理解し、敬意と思いやりをもって接 することのできる自律的で心豊かな人間であることが求められます。

(3)健康や体力の増進に積極的に取り組む、活力ある人間

 充実した人生を送るためには、心と身体が共に健康であることが重要です。

 少子高齢社会への移行や核家族化、環境問題の深刻化等が一層進んでおり、また、人々 の生活様式も多様化していることから、一人一人が自分の健康や体力を管理し、その維持 増進に努める必要があります。

 そのため、健康に配慮した生活習慣を身に付け、運動・スポーツに積極的に取り組むと ともに、安全で快適な生活環境づくりを進める人間であることが求められます。

(4)ふるさとに誇りをもち、広い視野にたって社会に貢献する人間

 情報化や国際化の進展、経済のグローバル化や産業構造の転換など、時代や社会がます ます急激に変化することが予想され、新しい事態に柔軟に対応するための資質や能力が求 められています。その一方で、「ローカルはグローバルに通じる」とも、「地方の時代の到 来」ともいわれる今日、自らの住む地域の伝統や文化を大切にし、住みよいまちづくりに 積極的にかかわることも重要です。

 そのため、自らの住むふるさとの自然や歴史・伝統・文化に学び、ふるさとを愛し、ふ るさとに誇りをもつとともに、それを通して日本人としての自覚を深め、真の教養を身に 付けた広い視野にたって活躍できる人間であることが求められます。

3 めざす人間像

(20)

 石川の学校教育の振興に向け、ビジョンの基本理念や4つの「めざす人間像」

の実現を図るため、次の6つを基本目標とします。

 このうち、基本目標1〜3については、基礎的・基本的な学力や社会性、人 間性などの涵養と、多様な個性や創造性、総合力の育成など、石川の子どもた ちをどのように育てるかということに関する目標を掲げました。

 また、基本目標4〜6については、学校と家庭・地域社会との連携をはじめ、

一人一人の教職員の力や組織体としての学校の力の向上、さらに教育システム の改善など、子どもたちの学習を支え、伸ばす教育環境をどのように整備・充 実するかということに関する目標を掲げました。

4 基本目標

 本県の豊かな風土や、そこで培われた多彩な文化、歴史など、石川にしかない固有の教 育資源を活用し、子どもたちが様々な体験活動を通して学ぶ喜びや楽しさ、手応えを実感 するとともに、郷土石川を愛し、誇りに思う意識をはぐくむ教育を展開します。さらに、

石川を自己存立の基盤としながら、多様な文化が織りなす世界の国々や地域の中で、主体 的に活躍できる視野の広い行動力のある人づくりをめざします。

 基礎的・基本的な学力の定着を図り、生涯学び続ける意欲をはぐくむことはもとより、

子どもたちの発達段階に即して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断 し、それらを総合し、よりよく問題を解決する力を育成するとともに、科学技術、環境、

福祉等の今日的課題に関する学習や発展的な学習を通して、個性や創造性をさらに伸ばし ます。

 また、子どもたちがコミュニケーション能力を身に付け、人と積極的に交わることを通 して、社会の中で共に生きる実践的な態度や資質を育成します。

石川の文化や風土を生かしながら、

世界に通じる人づくりをめざします

基本目標1

基礎・基本を大切にし、

一人一人の個性と創造性を伸ばす教育をめざします

基本目標2

(21)

 学校での様々な集団活動等を通して、子どもたちに基本的な生活習慣や社会的規範意識 はもとより、自らの存在価値を見出す自尊感情や責任感、また、美しいものや自然に感動 する心、他人と協調し、他人を思いやる心などの豊かな人間性をはぐくむとともに、生涯 にわたる健康や体力の保持増進に努め、困難に挑戦し自らの力で乗り越えようとするたく ましい人づくりをめざします。

 各学校ごとに、めざす人間像や教育目標、教育活動計画、実施状況、教育成果の評価等 を公開するとともに、すべての教育の出発点である家庭や子どもたちの活動の場である地 域社会と連携し、様々な形で学校の教育活動に協力を得、これらを通して、相互理解と信 頼を深め、互いの教育力を高め合い、共に子どもを育てる開かれた学校づくりをめざしま す。

 子どもたちの多様な個性や進路希望、時代や社会のニーズ等に適切に対応した教育を展 開するために、様々な研修を通して、専門的な知識・技能や指導力、豊かな人間性などを 高め、子どもの良さを最大限に引き出すことのできる教師を育成するとともに、校長のリ ーダーシップの下、全教職員が組織的、機能的に取り組み、生き生きとした教育活動を展 開できる学校を実現します。

 少子高齢化、高度情報通信化、国際化等の進展や、成熟社会、分権型社会の到来など、

時代や社会の変化が急速に進む中、子どもたちのニーズも多様化しており、それらに対応 した様々な学習活動が可能で、高機能・多機能な施設を備えた魅力ある学校づくりを進め るとともに、学校選択幅の拡大や入学者選抜の改善など、子どもたちの個性をより生かす ことのできる教育システムの改善を進めます。

豊かな人間性をはぐくむとともに、健康や体力の増進に努め、

たくましい人づくりをめざします

基本目標3

家庭や地域社会から信頼され、

共に子どもを育てる開かれた学校をめざします

基本目標4

子どもたちの教育に責任をもてる教師の育成に努め、

活力ある学校づくりを実現します

基本目標5

時代の変化に対応した、

魅力ある学校づくりや教育システムの改善を進めます

基本目標6

(22)

参照

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