著者 林 永輝
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 3
ページ 277‑292
発行年 2002‑02‑28
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004743
中国の省エネルギー政策
―日本との比較に即して―
林 永 輝
あらまし
省エネルギーは、環境問題、エネルギーの安定 供 給 、 経 済 成 長 と い う 3 者 の ト リ レ ン マ
(trilemma)を解く鍵として重要であると高く評 価されている。
中国は、1980 年から政府主導の省エネルギー 政策を推進してきた。エネルギー対GDPの弾 性値は 1980 年以後、0.53 以下に抑えられ、大き な省エネルギー効果が見られる。しかし、中国に おいては更なる省エネルギーの可能性が残され ている。
日本の省エネルギー政策に関する研究は、母 国の中国では非常に重視されているが、日本で は中国の省エネルギー政策に関する研究はあま り見られない。そこで、本稿では、日本の省エネ ルギー政策及びその経済的な役割を簡単に考察 する上で、中国の省エネルギー政策を(1)直接 規制的手段(Direct Regulatory Instruments)、(2)
経済的手段(Economic Instruments)、(3)普及・
啓発(Information and Consultative Approach)の 三分法に分類して分析してみた。その結果、中国 では、直接規制的手段を重視し、経済的手段を活 用されていないことが明らかになった。更なる 省エネルギーを実現するために、これから、行政 管理に頼る従来の政策をとることなく、日本の ような「ムチ」と「アメ」を組み合わせる省エネ ルギー政策の策定が望まれている。
1 [松岡 95] を参照。
2 日本の省エネルギーについては、図1に示すように、1980 年代後半から、一人あたりエネルギー消費は再び上昇した傾向が見ら れる。また、イギリスの省エネルギー協会は、日本は 1987 年まで世界の省エネルギーの模範であったが、その後だめになったと 発表している。[安藤 97]を参照。
3 [佐和 97] p.134。
1.なぜ省エネルギーなのか
1950 年代末から始まった戦後日本の高度経済 成長の過程において、エネルギー消費は、1955年 の 0.64 億 toe (1次エネルギー総供給量、石油換 算トン、以下同じ)から、オイルショックが起 こった 1973 年の 3.85 億 toe まで、約6倍に増大 した。一方、高度経済成長は、水俣病(1956 年 症例報告)、イタイイタイ病(1959 年カドミウム 中毒認定)、新潟水俣病(1965 年症例発見)、四 日市公害(1959 年コンビナート操業開始)とい う四大公害(裁判)に代表されるように、汚染の
「高度成長」でもあった1。
1973年の秋に突然起こった第1次オイルショッ クは、原油価格を 1973 年 10 月から 74 年1月に かけて約4倍に上昇させ、日本経済及び国民生 活に多大の影響を与えた。省エネルギー推進の 必要性への認識が急速に高まるようになった。
それを契機として、日本は官民を挙げて省エネ ルギー推進に取り組んできた結果、1997 年度の エネルギー消費の対 GDP 原単位は、第 1 次オイ ルショック時に比べ約 30% 改善という著しい成 果をあげた2。省エネルギーの推進はエネルギー コスト削減や生産性・品質の向上を果たすと同 時に大気汚染物質(エネルギー消費と密接に結 びついている硫黄酸化物及び煤塵など)の削減 に大きく寄与することとなった3。
OECD の 1994 年のレポートは、日本の省エネ ルギー経験を、「過去20年間における日本の最も
注目すべき成果の一つは、エネルギー消費及び CO2排出と経済成長の趨勢との切り離し(デカッ プリング)である。これは、経済構造の変化、燃 料の多様化及びエネルギー効率の大幅な向上に 帰するところが大きい」と高い評価を与えた4。 そこで、この章では、経済発展・エネルギー消 費・大気汚染の3つの要素に着目して、日本の経 験を検証する。その上で中国の現実に照らして、
省エネルギーの重要性を述べたい。
1 . 1 日本の経験
日本の経済成長とエネルギー消費及び公害と の関連を、エネルギー消費に起因する硫黄酸化 物(SOX)による大気汚染に焦点をあてて分析す る。日本では省エネルギーを達成すると同時に、
経済成長と公害の解決が両立したことを明らか にする。
経済成長、エネルギー消費、環境汚染の三つの 要素を以下のような式を用いて分析してみよう5。 国民所得(GDP)を Y、人口を P、エネルギー 消費量を E、大気汚染量(SO2濃度)を S とする と、以下の(1)式、(2)式が得られる。
Y/P = Y/E * E/P (1)
G(Y/P)= G(Y/E)+ G(E/P) (1)
Y/P = Y/S * S/E * E/P (2)
G(Y/P)= G(Y/S)+ G(S/E)+ G(E/P) (2)
(1) 式から、1人当たり GDP は、所得・エネル ギー消費比率(1単位のエネルギー消費で生み出 される所得)と1人当たりエネルギー消費量か ら説明できる。それぞれの要素の時系列変化を 図1に示した。
図1により、1973 年まで日本の高度経済成長
はエネルギー多消費型の成長であったが、その 後の成長はエネルギー効率の向上と同時に達成 されていることがわかる。
さらに(2)式から、1人当たりGDP は、所得・
汚染比率(1単位の汚染で生み出される所得)、汚 染・エネルギー消費比率(1単位のエネルギー消 費から発生する汚染)および1人当たりエネル ギー消費量という3要素に分解できる。3要素 の時系列変化を図2に示した。
図2は、1973 年を転換点として、それ以後で は1人当たり GDP の上昇は所得・汚染比率と正 の相関を、また、汚染・エネルギー消費比率と負 の相関を示している。すなわち、1973 年以後の 日本では、オイルショックを乗り越えて、経済成 長と省エネルギー、SOX汚染削減が同時に達成さ れていることを示している。
日本における省エネルギーの経験については、
数多くの研究がなされておる6。省エネルギーの 効果については、マクロ経済的には省エネル ギー投資の増大による経済成長効果であり、ミ クロ経済的には省エネルギー技術の開発による エネルギーコストの削減、製品品質の向上など 国際競争力の強化であった。一方、省エネルギー はSOX、NOXなどの汚染物質の低減と直接につな がることはいうまでもない。特に、日本では、省 エネルギーは硫黄酸化物の削減に大きく寄与し た7(図3に示す)。
省エネルギーの効果を達成させる制度として、
低利融資制度、特別償却制度、優遇税制など財 政・税制の促進制度という「アメ」の政策があっ た。こうした「アメ」の政策に対して、厳しい省 エネルギー直接規制があった。例えば、省エネル ギー法に基づいたエネルギー指定管理工場に対
4 [OECD94] p.197。
5 分析に当たっては、[松岡 95]、松岡 俊二「経済発展と環境保全」論文の式を用いることにする。本稿では、1995 − 1997 年のデー タを加えたものを提示する。G( )は変化率を示す。
6 例えば、[山口 00]は、日本の省エネの促進要因をエネルギー資源価格高騰(外的要因)と政策(内的要因)に分けて整理・分析してい る。政策要因は、アメとムチの両方のやり方がある。例えばエネルギー税は企業のコスト引き上げによって企業に省エネ対策を 取らせる「ムチ」の方法である。逆に設備導入に対する補助金や低利融資を企業に与えて省エネを進める「アメ」方法もある。こ の他、企業に一定の規制を設ける方法(直接規制)などさまざまな政策がある。また、[真継ほか 83]は、鉄鋼業を中心にして省エ ネルギー設備投資に関する問題を論じた。
7 この方面の研究について、日本の学者は MERGE モデルを日本用に改良し、硫黄酸化物排出量を削減させる3つのメカニズムが シミュレートできるようになり、日本の過去の硫黄酸化物対策の経過を体系的に再現できるようになった。その結果からみると、
省エネルギーは硫黄酸化物の削減に大きく寄与したことがわかった。([佐和 97] p.89 を参照)
図1 日本における経済成長とエネルギー消費
注:一人あたり GDP は 1990 年価格を基準に算定。エネルギー消費量は一次エネルギー供給量を用いる。
出所:人口、GDP、エネルギー消費量は、総務庁統計局 『日本統計年鑑』各年版、経済企画庁『国民経済計算年報』各年度版、資 源エネルギー庁 『総合エネルギー統計』各年版などより作成。
図2 日本における経済成長・エネルギー消費・汚染
注:人口、GDP、エネルギー消費量データは、図と同じ。汚染は、一般環境大気測定局継続 15 局の年平均 SO2濃度を用いて算定した。
20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
1973=100
0
1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1人当たりGDP(1990年価格)
所得・エネルギー消費比率 1人当たりエネルギー消費量
100 200 300 400 520 640 760 800
1973=100
0
1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1人当たりGDP(1990年価格)
汚染・エネルギー消費比率 1人当たりエネルギー消費量
所得・汚染比率
図 3 日本の二酸化硫黄排出量削減の要因分析 出所:[佐和 97] p.89
して、政府は事業者に対するエネルギーの使用 合理化に関する指導及び助言を行い、エネル ギーの使用合理化が著しく不十分な事業者に対 して、合理化計画の作成及び命令することがで きる。更に、事業者が命令に違反した場合には、
罰則が適用されることとなる。その他、省エネ基 準の設定、エネルギー管理指定工場に対しての エネルギー管理者を選任する規定などの規制を 設けられた。こうした「アメ」と「ムチ」を組み 合わせた省エネルギー政策に、企業が積極的に 反応した結果、省エネルギーが達成されたと考 えられる。
1.2 中国の現実
1978 年末から始まった改革開放によって、中 国は急激な経済成長を遂げつつある。それと同 時に、1人あたりのエネルギー消費も増大し、経 済成長とエネルギー消費は、正の相関関係に なっていることが図4から見てとれる。
中国では、1980年から「省エネルギー重視」と いう方針を打ち出した。省エネルギーの効果を 考察するために、ここでは、エネルギー消費対
GDP 弾性値を用いて、分析してみる。
エネルギー消費対 GDP 弾性値はつぎのように 定義される8。
エネルギー消費対 GDP 弾性値=
エネルギー消費の伸び率 / 経済成長率
表1に示すように、日本の最終エネルギー消 費対 GDP 弾性値をみれば、1973 年度以前は弾性 値が1をこえており、経済成長を上回るペース でエネルギー消費が伸びていたことが示される。
これに対して、1973 年度以後の弾性値は極めて 小さく、エネルギー消費を効率化させつつ経済 成長を達成してきたことが窺える。
一方、中国では、1961〜70年の間、エネルギー 消費対 GDP 弾性値は 1.98 で、70 〜 80 年の間、エ ネルギー消費対 GDP 弾性値は 1.11 であった。し かし、80 年代以後、その値が低く抑えられ、80
〜 90年間のエネルギー消費対 GDP弾性値は 0.53 で、90 〜 97 年の弾性値は 0.42 であった。これは エネルギー利用効率の向上を意味し、省エネル ギーの推進の結果と言えよう。
現在の問題は、この十数年に連続的な省エネ ルギーが達成された現在、省エネルギーの潜在
8 [エネルギー・資源学会 96] p.40;[室田 84] p.67 によるものである。但し、本稿では GNP のかわりに GDP を使う。
0 1960 5 10 15 20 25 30 35 40
1964 1968 1972 1975 年度
1980 1984 1988 1992 1995 二 酸
化 硫 黄 排 出 量 ︵ 百 万 ト ン ︶
実際の排出量
産業構造の転換に よる削減分
省エネによる削減 分
燃料転換による削減分
排煙脱硫による削減分
力がどのくらい残っているかということである。
そこで、ここでは、省エネルギー先進国の日本と 比べ、中国の省エネルギーの潜在力を分析する。
エネルギー消費に関する国際比較を行う際、一 人当たり消費、GDP 当たり消費、製品当たり消 費の三つの指標がよく用いられる。前者は消費 水準、後者の二つは利用効率、あるいは省エネル ギーの潜在力を示すものである9。
1997 年における一人当たりの一次エネルギー
消費量は、中国は 0.75toe (石油換算トン)で、日 本は 4.43toe であり、中国は日本の 17%(アメリ カの 8.5%)に過ぎない。人口平均の消費水準か らみると、中国は相変わらずエネルギーの低消 費国であると言えよう。
一方、エネルギー利用効率は、指標によって大 きく異なる。為替レート換算の GDP を用いる場 合、GDP百万ドル当たりのエネルギー消費量は、
日本は 163.4toe/ 百万ドルで、先進国の中では最 図 4 中国における経済成長とエネルギー消費
注:GDP は全国小売物価指数を用いて 1978 年価格に換算した。
出所:中国国家統計局編 『中国統計年鑑』各年版より作成
表1 中日一次エネルギー消費対 GDP 弾性値の比較
9 [李志東 99] p.212 を参照。
50 100 150 200 250 350
300 400 450
1978=100
0
1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1人当たりGDP(1978年価格)
所得・エネルギー消費比率 1人当たりエネルギー消費量
も低い水準となっている。中国では 1384.8toe/ 百 万ドルで、利用効率は日本の 12% にすぎない
(1995年)。しかし、中国のGDPはドルで換算され た場合は過小に評価される可能性があるので10、 これに対して、国際購買力平価を用いて換算す れば、1997 年中国の百万ドル当たり GDP のエネ ルギー消費量は266toe/百万ドルで、日本は172toe/
百万ドルである。購買力平価で表示された中国 の利用効率は日本の 65% に相当する11。また、物 量ベースの比較は表2に示す12。物量ベースの利 用効率をみると、中国は日本などの外国先進水 準の4から8割に相当する。どちらの指標がよ り現実的であるかは一概に言えないが、総合す ると、利用効率については、中国が日本より遥か
に悪い。つまり、日本と比べると、中国における さらなる省エネルギーの実現の可能性は大きい と言えよう。
現在、中国の SOX除去率は 22.9% に過ぎなく、
SOXによる酸性雨の被害が増大しつつある13。ま た、1997 年 12 月に京都で開かれた気候変動枠組 条約第三回締約国会議(COP3)の結果から見れ ば、CO2の削減についての中国の主張は、積極的 ではなかった。省エネルギーを行えば、燃料の燃 焼にともなって発生する大気汚染物質の排出が 減る。さらなる省エネルギーの可能性のある中 国では、省エネの一層の推進は、大気汚染物質の 排出の削減とエネルギー不足の解消に大きな役 割を果たすことが期待できる。
表2 物量生産のエネルギー原単位に関する国際比較(1994)
10 [浅井ほか 98]を参照。
11 為替レート:8.62 元/ドル。
12 欧州を中心として、省エネルギー指標を国際的に標準化しようという動きが進んでいる。金額ベースのエネルギー消費原単位の みならず、できるだけ物理的な生産量や世帯数・普及器具・その効率といった技術的な指標を中心に 1000 あまりのデータを用い ようというものである。[木船 96] p.20-22 を参照。
13 [池田ほか 98]
2.省エネルギー政策の形成背景とその変遷
省エネルギー政策の国際比較をする場合には、エネルギーの需給構造の特徴を解明することが 不可欠である。エネルギー需給構造において、中 国と日本にはそれぞれ大きな特徴がある。ごく 簡潔にまとめると、第一に、日本は石油主体の輸 入依存型14、中国は石炭主体の自給自足型であ る。第二に、両国とも産業部門のエネルギー消費 の比重が高いことである15。省エネルギー政策 は、このようなエネルギー需給構造の特徴に大 きく左右された。日本のエネルギー需給構造と 価格及び省エネルギー政策の問題はすでに論じ 尽くされている。ここでは、中国におけるエネル ギー需給構造、価格及び省エネルギー政策の形 成と変遷を整理することにする。
2.1 石炭主体、自給自足の中国エネル ギー需給構造
1997 年現在、中国では一次エネルギーの生産 量は 9.2 億 toe で、消費量は 9.9 億 toe である。エ ネルギー消費量は、アメリカに次いで世界第2 位である。ロシア、日本はそれぞれ第3位、第4 位のエネルギー消費大国である。
エネルギー源別需給構造をみると、図5に示 すとおり、石炭の比率が極端に高い。1997 年現 在、石炭比率は一次生産ベースで 74.3%、一次消 費ベースで73.5%である。それに次ぐエネルギー 源は石油である。その比率はいずれのベースで も2割弱となっている。中国においては、1950年
代初期、エネルギー生産と消費は石炭型であっ た。石油の開発と水力発電等の開発により、60年 代からエネルギー生産と消費構造は大きく変 わってきたが、70 年代半ばからエネルギー生産 と消費の構造は安定している。量で見ると、70年 代半ばから 97 年にかけて生産・消費量とも3倍 に増えているが、構成比は一貫して、石炭7割強、
石油2割前後、天然ガス 2 〜 3%、水力5 % 前後 で推移してきている。石炭が極めて大きな部分 を占めることには変わりない。
石炭主体のエネルギー消費構造は、エネル ギー利用効率問題、環境問題などをもたらす構 造的な要因となっている16。
石炭主体の自給自足型需給構造をもたらす原 因は主に二つあると考えられる。第一に、冷戦時 代の背景のもとで、自給自足という戦略をとら ざるを得なかったことである。第二に、中国にお けるエネルギー資源量の天然分布構造に求めら れる17。このような構造が経済発展とエネルギー の安定供給に大きく寄与したことは否定できな い。しかし、中国経済の飛躍的な発展に伴い、エ ネルギー需給は絶対的供給不足状態に陥って、
このような自給自足需給構造が崩壊しつつある。
1992 年に、初めてエネルギー消費量が生産量 を上回った。石油は 1992 年までに純輸出であっ たが、1993 年から純輸入に転じ、定着している。
当年の石油純輸入量は 988 万トンであったが、
1997 年に、石油の純輸入量は製品 1661 万トン、
原油 1564 万トン、合計 3225 万トンとなった。石 油純輸入の増加率が石炭純輸出の増加率より遥 かに速い。中国は近い将来、エネルギーの自給自 足国から純輸入国に転じる可能性が非常に大き いであろう18。これまで経験したことのなかった エネルギー安全保障の問題が顕在化することが
14 通商産業省編 『総合エネルギー統計』(1998 年度版)には、原子力を自国産のエネルギーとして取り扱われている。しかし、原 子力を輸入エネルギーとして計算すれば、1997 年度の日本のエネルギー自給率は 5.9% である。この点については、[北野 96] p.147 の表 26 を参照。
15 日本の最終エネルギー消費を占める産業部門の比率は、1970 年代に7割弱に達していた。近年、民生・運輸部門を中心に、エネ ルギー需要は高い伸びを示しており、1997 年に産業部門の最終エネルギー消費量の割合は 49.4% になったが、他の OECD 諸国と 比べると依然に高い水準である。一方、中国は、1996 年現在、最終エネルギー消費は 6.6 億トンである。部門別構成比を見ると、
産業・非エネルギー部門が 66.8%、運輸が 8.7%、民生が 24.6% であり、日本の 70 年代に似ていると思われる。
16 石炭は、石油、天然ガス及び他のエネルギーと比べると、各種主要大気汚染物質の排出係数が高い。例えば、純発熱量ベースの 二酸化炭素排出係数は、石炭が1.096T-C/TOE の対し、石油が 0.903T-C/TOE、天然ガスが 0.632T-C/TOE となっている。また、
燃焼効率において石炭が石油と天然ガスより低い(ここで T-C は炭素換算トンの意味)。
17 1995 年末、中国における石炭の確認可採埋蔵量は 1145 億トン、石油は 32 億トン、天然ガスは 1.7 兆 m3、水力開発可能量は 3.8 億 kW である。その比率をみると、石炭は 67.3%、水力は 30.7%、石油と天然ガスは合わせて2 % となっている。[閻長楽 97]を参 照。
18 [李志東 99] ; [茅原 96]
予想される。
このような背景の下で、中国では省エネル ギーがますます重要になっている。省エネル ギーは、環境問題とエネルギー需給問題を同時 に解決する最も有効な手段として位置付けられ、
強力に推進されている。
2.2 エネルギー価格
中国では、エネルギーは国家戦略物資として 位置付けられており、政府がその価格を決定す ることになっている。そのため、価格の長期間の 据え置き、エネルギーコストとの乖離、国際価格 との乖離、エネルギー源別相対価格の歪みがか なり存在していた。例えば、93 年の石炭価格シ ステム改革以前、石炭生産企業を「政策性赤字企 業」と指定していた。つまり、石炭の低価格を維 持するために、石炭生産企業の赤字経営を認め、
赤字部分を財政で補填していた。このようなエ ネルギー低価格政策は、企業の省エネルギーの 推進を阻害した。中央政府はいくら省エネル ギー重視の政策を施行しても、企業にとっては、
エネルギーコストが安いため、省エネルギーの 設備への投資意欲が弱い。
1993 年から、中国政府は石炭の価格体制を管 理価格から市場価格へと改革した。それは石炭 産業の活性化をもたらした一因である。同様の
改革は、石油、天然ガス、電力すべてのエネル ギー産業にとっても必要であろう。
2.3 省エネルギー政策の形成とその変遷
1973 年のオイルショックは、日本など石油輸 入国に大きな衝撃を与えたが、中国に対しての 影響はほとんどなかった。その原因としては、そ の時期中国では文化大革命の最中であり、経済 は非常に閉鎖的なものであったことが考えられ る。1978 年末からの改革開放により、急速な経済 成長にともない、長年国家の集中管理にもとづ いて経営されてきたエネルギー産業も、改革開 放政策が始まるころには問題が露呈し、不振産 業になった。70 年代末には、石炭生産は停滞し 石油生産は減退した。この時期には、エネルギー 供給不足の問題はあまりにも深刻化していた。
「開四停三」(一週間の内3日は停電)、「関閘限 電」(スイッチを切って電力使用を制限するこ と)は、この時期のことであった。
こうした現実に対処するために、1980 年に国 務院は「エネルギー節約を重視する」方針をたて た。1981年11月の第5回全国人民代表会議では、
「エネルギーの開発と節約を同時に重視し、目下 節約を首位に置く」ことをエネルギーの長期戦 略方針として立てた。1988 年には「電力開発を 図5 中国における一次エネルギー消費構成
1955
1953 1957 1959 1961 1963 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 0%
100%
80%
60%
40%
20%
水力 天然ガス 石油 石炭
出所:『中国統計年鑑』1998 年版より作成
エネルギー産業の中心とし、石炭生産をその基 礎とする」という方針をたて、1996 年に、全国 人民代表会議で可決した「中国経済・社会発展第 九次五ヶ年計画及び 2010 年までの長期綱要」に は、再び「節約を優先させつつ、エネルギーの開 発と節約を共に重んじる」というエネルギー方 針を打ち出した。
具体的な政策としては、第6次五ヶ年計画
(1981〜85 年)から、全国省エネルギー計画を編 成し、その省エネルギー計画は国民経済・社会発 展の計画の一部分として立案された。1982 年か ら、全国各地で省エネルギーセンターが設置さ れ始めた。1986 年に「省エネルギー管理暫定条 例」を制定し、これはあとの「省エネルギー法」
につながっていくことになった。長期の審議を 経て、1997年の11月1日には「省エネルギー法」
が可決され、1998 年1月1日より同法が発効さ れた。省エネルギー法では「国の役割」、「省エネ 技術の開発・普及」などについて定められてお り、省エネルギーを、「経済発展のための長期的、
戦略的方針」と位置付けた。また、省エネルギー の目的には、「環境保全と持続的経済発展のた め」という概念も織り込まれており、画期的な内 容である。
省エネルギー法は、過去十数年間の省エネル ギー政策の総括に基づいて成立した法律であり、
「省エネルギーの憲法」と呼ばれている。この法 律を中心にして、現在、関連法律、条例の整備を 行っているところである。
3.省エネルギー政策の分析
ここでは、中国の省エネルギー法に基づいて19、 中国の省エネルギー政策の根幹内容を取り上げ て、省エネルギー政策を、(1)直接規制的手段
(Direct Regulatory Instruments)、(2)経済的手段
(E c o n o m i c I n s t r u m e n t s )、(3 )普及・啓発
(Information and Consultative Approach)の三分法 に分類して分析する。
3.1 直接規制的手段
3.1.1 エネルギー消費重点管理工場
中国では、省エネルギー法に基づき「エネル ギー消費重点管理工場」を指定する制度がある。これは日本のエネルギー管理指定工場と同じよ うなものである。
指定基準:
Ⅰ、 総合エネルギー消費量が年間 1 万トン標 準炭以上(原油換算およそ 7000kL)の事業者は、
省エネルギー法によってエネルギー消費重点管 理工場と指定される20。
Ⅱ、 総合エネルギー消費量が年間 5000 トン 以上、1万トン標準炭未満(原油換算 3500 − 7000kL)の事業所に対して、国務院の関連省庁 または省、自治区、直轄市の地方政府は、強化管 理の需要に応じて、エネルギー消費重点管理工 場を指定することができる。
省エネルギー法は、エネルギー消費重点管理 工場に対して監督と立ち入り検査を行い、計測 機関に委託して省エネルギーの計測と評価を行 うことを規定している21。
現在、Ⅰ種のエネルギー重点管理工場は約1万 あり、これらのエネルギー消費量は工業部門全 体の消費量の6割を占めており22、省エネルギー 強化は全体の省エネルギーの促進に対して非常 に重要な意味を持っていると考えられる。
3.1.2 エネルギー管理責任者制度
中国では、日本のような厳密な形でエネル ギー管理士資格及び試験制度が成立していない。エネルギー消費重点事業者に対して、エネル ギー管理者の設置の義務は省エネルギー法に定 められている。エネルギー管理者について「省エ ネルギーの学識及び経験を有して、技師以上の
19 日本と比べると、中国の省エネルギー法が時期的に 18 年も遅れているのであるが、「省エネルギー管理暫定条例」は既に 1986 年 から施行された。
20 総合エネルギー消費量とは石炭、石油、電力などのすべてのエネルギー消費量を標準炭に換算した量である。また、電力につい て中国では当量値熱功換算と等価値熱功換算の中に当量値熱功換算をよく使うのである。
21 省エネルギーの計測機関はこれまで省エネルギーセンターであった。近年、省エネルギー監測センターの設立が検討されている。
22 [曹康泰 98]
資格を有する者とし」と規定されている23。エネ ルギー管理者の選任を県以上の行政機関に届け 出なければならない。
エネルギー管理者は、エネルギー利用状況に 対して、監督と検査を行うべきである。
中国では日本と同じくエネルギー管理責任者 の設置が義務づけられているが、詳細において は中日間に大きな相違が見られる。中国では、第 一に、エネルギー管理士が一種の国家の資格と してまだ成立していない。第二に、指定工場に対 するエネルギー管理責任者の選任の人数が決め られない。第三に、エネルギー管理責任者の権限 の規定が不十分である。つまり、指定工場と指定 工場の従業員に関するエネルギー管理者の職務 に対しての規定がないということである。以上 の3つの差異は、中国のエネルギー管理者制度の 問題点であるといえよう。特にエネルギー管理 者の権限が十分に規定されないということは、
エネルギー管理者制度が有名無実と化する可能 性があり、エネルギー管理者の役割は高く期待 できない。特に、近年中国では、企業の再編、人 員の削減が行われている。一部の企業がエネル ギー管理者のポストを撤廃した24。筆者は、中国 の現地調査を通じて、中国におけるエネルギー 管理者制度の一層の強化の必要性を痛感してい る。
3.1.3 設備淘汰制度
中国では、陳腐化エネルギー設備に対して淘 汰制度を実施している25。1982 年から、国務院は 16回に分けて、計300余りの種類の電機製品を淘 汰設備に指定した。事業者は指定された淘汰設 備の使用を停止しなければならない。このよう な行政の強制的な手段は、省エネルギーの促進 に大きな役割を果したと考えられる。特に、中国 では、旧式設備の割合が高く、しかも、設備の減 価償却の期限が非常に長い(これについては後
述する)。このような現状に対して、設備淘汰制 度は省エネルギーの促進に大きな役割を果たし ていると考えられる。
淘汰設備の目録は、国務院の関係省庁によっ て制定・公表される。
3.1.4 定額管理制度
中国の省エネルギー法は、「省」26レベル以上の エネルギー管理部門が、「エネルギー多消費の製 品」に対して、「エネルギー消費定額」27を制定す ることを規定している。「エネルギー多消費の製 品」とは、生産のプロセスにエネルギーが多量に 消費され、かつ物量原単位のエネルギー消費が 多い製品を指す。例えば:鉄鋼、化学肥料、セメ ント、電力、コークス製造等。「エネルギー消費 定額」は、物量原単位の総合エネルギー消費を用 いて計算される。公表されたエネルギー消費定 額は、法的な拘束力を持ち、事業者はその基準を 守らなければならない。その定額を超える場合 は、エネルギー浪費とみなされ、一定の罰則を受 ける可能性がある。
このような定額管理制度は 1981 年から実施さ れ、それと同時にセットされた操作制度が「節奨 超罰」制度である。「節奨超罰」とは、エネルギー 消費量が定額管理の基準を超える事業者に対し て罰金を課するものである。逆に、政府の決めた 省エネ基準より下回る事業者に対しては表彰ま たは賞金を与える28。
1981 年に国務院は「電気を節約する指令」29を 発布し、初めて重点製品の電気消費定額を規制 した。同年、自動車等に対しガソリン消費定額を 設定した。さらに、1987 年3月には電解アルミ など9種類のエネルギー多消費製品に「エネル ギー消費定額」を設定した。定額を超える企業に 対して、政府の指導のもとで、電力会社から電気 供給を停止する措置を講じた。1998 年1月1日 には、省エネルギー法の実施以来、エネルギー定
23 中国省エネルギー法、第 29 条関連。
24 [李洪 99]
25 中国省エネルギー法、第 17 条関連。
26 中国の省は日本の県に相当する。
27 「定額」はノルマという言葉の中国語の表現である。
28 「節奨超罰」制度はあくまで直接規制の補完物として存在している。
29 「電気を節約する指令」は省エネルギー第2号指令ともいう。
額を超える場合は、違法エネルギー消費とされ るようになった。
3.1.5 省エネルギー計画編成制度
中国では、第6次五ヶ年計画期間(1981 〜 85 年)から、省エネルギー計画を編成し続けてき た。さらに、この制度は「中国経済・社会発展第 九次五ヶ年計画及び 2010 年までの長期綱要」に 盛り込まれた。この制度は、国家計画委員会及び国家経済貿 易委員会によって、毎年の全国の省エネルギー 総量を計画する。その総量は各省・自治区・直轄 市ごとに決められており、それに基づいて各省・
自治区・市はそれぞれが管轄する企業の省エネ ルギー量を決定する。注目すべきなのは、省エネ ルギー計画は指令的なものではなく、指導的な 方策であるという点である。しかし、実際には、
それぞれの企業の省エネルギー量は、各企業の 省エネルギーの努力の指針になるというよりも、
むしろ、企業の任務であるといえる。その原因 は、省エネルギー計画が達成されるかどうか、地 方幹部と工場の責任者の業績とつながることに ある。実際に、企業は新たな省エネルギー投資を 行わない限り、管理の強化だけしなくてはなら ないことによって、省エネルギーの限界をきた す。こうした状況のもとでは、企業が水増しした 省エネルギー達成量を報告する可能性が十分予 想される。これは、この省エネルギー計画編成制 度の大きな問題点と考えられる。特に、国有企業 に属しない企業に対しては、例えば、外資系企 業、合弁会社などに対する、この制度の拘束力が どれほどのものかを検討する必要がある。
3.2 経済的手段 3.2.1 財政金融支援策
中国では、省エネルギー促進のための直接的 な財政支援策も実施されている。省エネルギー 法の第 11 条には、「国務院及び省、自治区、直轄
市政府は基本建設工程及び技術改造工程に対し て、財政予算から省エネルギー資金の予算をつ けなければならない」、「市、県政府は状況に応じ て財政予算から省エネルギー資金の予算をつけ るべきである」と規定している。つまり、こうし た省エネルギー資金は財政からの無償支援資金 である。
第6次五ヶ年計画から、省エネルギーの促進、
新エネルギー及び農村エネルギーの開発のため、
国家及び省、市は重点プロジェクトに一定の資 金を支給した。しかし、こうした財政支援資金 は、金額が少ないので、主に先進モデルの樹立に 使途する。
中国では、予算工程の規模と投資回収期間に よって、予算工程を基本建設工程と技術改造工 程の2種類に分類している。おおむね省エネル ギーの基本建設工程は国家計画委員会によって 審査される。それに対して省エネルギーの技術 改造工程は、国家経済貿易委員会によって審査 される。
利子補給政策は、以上の省エネルギー基本建 設工程と技術改造工程に対して、政府関係の投 資会社を通じて実施された30。通常、現行1年定 期の利子率の半分を事業者に補給されることに なっている31。中国では、98 年初の利子率の調整 を行うまでは、高い利子率水準を維持してきた。
例えば、1年定期の利子率は 10.98% で、半分の 利子率(5.49%)の補給は、企業にとってかなり 魅力的な政策であった。しかし、1994年から、こ うした利子補給政策は廃止されたので、企業の 省エネルギー設備投資の意欲はそがれることに なった。
3.2.2 税制優遇政策
省エネルギー法第33条は、「国家が優遇政策を 制定し、省エネルギー先進工程及び省エネル ギー普及工程を支持する」と規定している。
省エネルギー先進工程とは、国内(または国内 外)では前例がないまたは成熟しない技術で、成 功すれば普及させる価値と指導の意義のある省 エネルギー工程である。省エネルギー普及工程
30 例えば、国家計画委員会に属するエネルギー投資公司。
31 中国語の表現で「半貼息」である。
とは、技術が成熟し、省エネと経済効果及び環境 保全効果を同時にすすめる都合のよい工程であ る。
中国では、以上の省エネルギー工程に、税制の 優遇制度を講じてきた。具体的には、主に三つの 税制優遇制度が実施された。まず、すべての省エ ネルギー設備投資に対して、固定資産投資方向 調節税が免除されている。中国の固定資産投資 方向調節税は、0 %、5 %、10%、15%、30% の 5つの税率に分けられる。0 % の税率を適用す る条件は、国家が急務工程であり、例えば、農業、
林業、水利、交通、エネルギー、電信、教育など である。2つ目は、1994年には税制改革以前、「税 前還貸」(税金を納める前に、銀行に借金を返す こと)の実施がなされていたことがあげられる。
3つ目は、1992 年以前、外国の先進的な省エネ ルギー設備を輸入する場合、関税が減免される 制度である。以上の三つの税制優遇制度につい てみると、1番目の固定資産調節税の0 % 税率 政策は、まだ有効であるが、2番目と3番目の
「税前還貸」、「関税減免」優遇制度はすべて廃止 されている。その原因としては、1994 年に改革 された税制に適さないと考えられる。
日本と比較して、中国では、税制優遇政策が活 用されていないといえよう。特に、日本のような 特別償却政策はいまだに実施されていない。日 本では、省エネ設備投資に関しての税制優遇政 策が 1975 年以来、ほぼ毎年見直され、拡充など が行われている。中国では、税制の活用政策があ まり見られなかった。実際、中国では、日本のよ うな特別償却を含める税制の活用措置は実行の 余地が大きい。例えば、中国の設備の償却期間は 日本と比べて長すぎる。鉄鋼業界についてみる と、中国の鞍山鉄鋼会社の平均償却率は 2.92%
で、償却年限は30年以上である32。日本の鉄鋼業 界の機械装置の法定耐用年数は、鉄鋼熱間圧延 設備関係が 15 年、製銑・製綱・鉄鋼冷間圧延・鉄 鋼冷間成形・鋼管製造の設備関係が 14 年、連続 的鋳造綱片製造設備関係が 12 年である33。 税制が活用されない原因は、中国の税制改革 に求められる。中国の税制改革は建国以来5回 の重大改革を行い、試行錯誤を繰り返した。1994
年の税制大改革は「税制の第2次革命」といわ れ、税制を大きく変えた。省エネルギーに関する 優遇税制の策定は税制の頻繁な変化に対応しき れず、困難であったと思われる。特に、94 年の 改革で、国税、地方税、国・地方共同税の3種類 に分けた34。個人所得税、企業所得税(法人税)
が地方税であるなど日本と違う点も多い。国税 は関税、中央直轄国有企業の企業所得税、贅沢品 にかかる消費税などがある。増殖税は共同税に 属する。徴収機関は 94 年以後、国家税務局と地 方税務局に分けたが、同じ建物の場合も多く、上 海市では今も一体で徴収している。このような 税制体制のもとで、省エネルギー税制促進制度 へ の 取 組 み に つ い て 国 と 地 方 政 府 の 間 に は ギャップを生じることが考えられる。つまり、中 央直轄企業以外の企業の法人税が地方税であり、
その税金が地方政府のものになる。そのため、中 央政府は省エネルギーの税制促進制度を推進し ているが、地方政府は既得利益を守るために、法 人税の控除を惜しむことなる。1994 年の税制改 革以後、税制が安定している現在、省エネルギー の優遇税制政策の策定を急ぐべきである。
3.3 普及・啓発
日本の省エネルギーが進んでいるその理由と しては、いくつかあげられるが、その中で、問題 意識の強さを挙げることができる。日本はその 大きな経済規模と比較すればエネルギー希少国 である。第1次および第2次石油ショック時にそ れをいやというほど思い知らされ、その結果の 問題意識の強さはどこの国にも負けないもので あったといえる。これが、省エネルギーを促進し た原動力となったのである35。
一方、中国では、省エネルギー促進政策の一環 として、省エネルギーの普及と啓発活動が行な われてきた。1980 − 1984 年の毎年 10 月に「省エ ネルギー宣伝月間」キャンペーンを行った。1991 年から、毎年 10 月第一週を「省エネルギー宣伝 週間」と定め、全国の各地で省エネルギー講演 会、省エネ知識のコンテスト、シンポジウム、省
32 [孫冶方 98] p. 5
33 [真継 83]を参照。
34 この税制体制は中国語で「分税制」という。
35 [真継 83]を参照。
エネルギー功績者及び優良工場の表彰などを実 施し、また、テレビとラジオを通じて、省エネル ギーの宣伝を展開してきた。1982 年から、各地 で省エネルギーセンターが設立され、現在全国 には130の省エネルギーセンターがあり、5000人 以上の技術者を有する。省エネルギーセンター は主に省エネルギーの宣伝、省エネルギー技術 の普及の役割を担っている。しかし、中国の省エ ネルギー推進は、前に述べたように、日本より10 年ほど遅れ、かつ国民全体の省エネルギー意識 が薄い。これは、伝統的な教育と関係があると考 えられる。筆者は、小中学校で「中国は地大物博
(土地が広く、資源・物産が豊富であること)」と いう教育を受けたことを覚えている。しかし、1 人当たりのデータを比較すると、中国の1人当 たりのエネルギー消費量は 0.75toe で、世界の平 均水準の半分にすぎず、世界の89位にある36。「総 量豊富、人均不足(総量が豊富で、1人当たりが 不足)」のは、中国の現実である。省エネルギー の重要性と知識を小学校・中学校の教育の内容に 盛り込むことは、今後、ますます重要となるであ ろう。
4.まとめ
以上、日本と比較しながら中国の省エネル ギー政策の背景、変遷及び内容について考察を 試みた。中国における省エネルギー政策の要点 とその問題点は表3に示すとおりである。
前述したように、中国において、省エネルギー の推進政策はエネルギーの長期戦略として位置 付け、重視されてきている。国は省エネルギー管 理の全般(重点企業、責任者、設備、ノルマ、計 画)をコントロールしてきた。これまでの第二次 産業の省エネルギー促進を重点において、行政 管理(直接規制)を中心とした政府主導的政策は 大きな効果を収めたといえる。しかし、この十数 年連続して省エネルギーを遂げた現在、省エネ ルギー政策は新たな課題を迎えていると思われ る。
現在、社会主義市場経済を目指している中国 では、経済分野の全般で市場原理の導入を行な われている。省エネルギーについて、これまで、
財政投融資など経済的な手法は使われているが、
まだ不十分と言わざるをえない。特に、税制優遇 政策についてみると、中国ではあまり活用され ていないことが現実である。
経済的手段が十分に採用されていない原因は、
長期間に施行された計画経済体制に求められる。
1978 年に取り入れた「改革開放」政策以前のほ ぼ 30 年間、中国のエネルギー政策は計画経済全 体の一部にすぎなかった。エネルギーは国家戦 略物資として位置付けられており、中央集権的 な開発体系と政策的な低価格体系に置かれた。
エネルギーコストが安いため、企業にとっては、
省エネルギーによるコスト削減というインセン ティブが働きえなかった。
中日両国では、政治体制、経済制度、文化背景 ともに異なっているにもかかわらず、日本の経 験は中国に対して、良い示唆を与えてくれると 考えられる。さらなる省エネルギーを実現する ために、これから、行政管理に頼る従来の政策を とることなく、日本のような「ムチ」と「アメ」
を組み合わせる省エネルギー政策の策定が望ま れている。特に、特別償却制度の導入は急いで検 討すべきであろう。
中国の省エネルギー法は 1998 年から実施され て、現在、関連法律、法規、条例を整備している ところである。この法律の施行により、省エネル ギーの一層の促進が期待できる。今後、中国で は、日本と同様に事情に応じて省エネルギー法 の改正を行なうことが予想される。その際、エネ ルギー管理責任者の権限の明確化、建築材料の 製造の事業者に対しての規制などの内容を盛り 込むべきであろう。しかし、現在、中国において は、市場経済が未発達で社会契約としての法律 を守ることになじんでいないため、法律が厳正 に実行されていないことも事実である。以上の ような中国の特異性は、中国の問題を研究する ときに念頭に置かなければならない。その意味 で、法律意識の教育は、省エネルギーの普及・啓 発をすすめていくうえで、重要になるといえよ う。
日本や欧米諸国など経済的に成熟した国々の エネルギー消費がほぼ飽和傾向であるのに対し て、中国の著しい経済成長と低いエネルギー消 費水準は、エネルギー需要の増加をもたらして
36 [李洪 99]
いる。省エネルギーによってエネルギー需要の 絶対量まで削減することは、中国が急速に発展 するかぎりほとんど不可能であろう。また省エ
ネルギー自体は「takeback 効果」37が存在する可 能性がある。但し、このような理由を強調し中国 のエネルギー利用効率の低さを無視し、エネル 表3 中国における省エネルギー政策の要点とその問題点
37 Takeback効果とは省エネルギー技術の導入がもたらす増エネルギー効果のことである。例えば、軽自動車の方が燃費が良いと解っ ていても、消費者は大型車を選好する場合もあるし、かりに軽自動車を購入したとしても、より長距離ドライブをする場合もあ るからである。また、この問題について、経済学者の先哲のジェヴンズ(William Stanley Jevons, 1835-82)が既に論述した。彼の 著書『石炭問題』(The Coal Question-1865 年初版)には、「個々の機械、ないしは装置の熱効率、ないしはエネルギー効率が上昇 すると、そのような装置は使い勝手がよくなり、たくさんの人が利用するようになる。つまりそうした機械(装置)の総数は社 会全体として増え、その結果、一つ一つの機械使用についてみる限りはエネルギー消費は減るのに、社会全体でのエネルギー消 費量は以前より大きくなる」と述べた。([室田 79]を参照。)
ギー開発だけに全力をあげることは妥当ではな いであろう。
ここ数年、省エネルギーに関する投資額がエ ネルギー産業全体投資額に占める割合は、1980
− 1985 年の 6.8% → 1985 − 1990 年の 4.9% → 1990−1995年の2.9%→ 1996年の2.1%→ 1997 年の1.88%になっており、一方的な減少の傾向が 見られる38。 総体的に言えば、中国はまだ貧しい 国である。旧式設備の改善、省エネルギーの投 資、技術の開発にはいずれも資金が莫大にかか る。その資金が絶対的に不足しているのが現状 である。エネルギーのボトルネックの制約問題 と環境問題に直面して、エネルギーの開発と節 約の二つの選択肢に対して、中国政府は節約を 優先させるという明確な政策方針を打ち出して いる。この政策方針に従って、有限な資金をバラ ンスがよく、エネルギー開発と省エネルギーに あてるべきであろう。
本研究では、中国における省エネルギー政策 は、経済的手段が十分に活用されていないとい う問題点を明らかにした。しかし、具体的に財政 投融資、税制優遇政策などの経済的手段は、実際 にどの程度の政策効果が得られるか、との議論 ができなかった。定量的分析を通じて、政策の具 体的な効果を求めることについて非常に興味深 いので、今後の研究課題にしたい。
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