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熊本大学教育学部生活科学科卒業生のライフコース

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Academic year: 2021

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熊本大学教育学部生活科学科卒業生のライフコース

八幡(谷口)彩子

・原 田 知 佳

**

Life Course of Graduates of the Living Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University

Ayako Y AHATA- T ANIGUCHI and Tomoka H ARADA

Abstract

The purpose of this paper is to examine the subject of the life course of graduates of the Living Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University, and female teachersʼ career improvements.

For this purpose, we distributed the questionnaire by mail to a total of 274 graduates of 164 two-year courses (1951-1958 graduation), and 110 four-year courses (1954-1967 graduation) of the Living Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University. Recovery rates : 50.0% for two-year courses, 60.0% for four-year courses, with a total of 54.0%. Questionnaire period : July 27 to August 31, 2011. Then, we interviewed 15 persons and 30 persons were asked more detailed questions by mail. Consultation period : September 2 to November 24, 2011 (interviews), November 15 to 30, 2011 (mails).

The results were as follows : 1) Over 95% of respondents became a teacher immediately after graduation, had continued for a long time (25 years or more), and were working as a teacher. The reasons were : they had the low possibility of transfer to a distant place, and they were able to get support from close relatives, since they had environments which facilitate work and a home life, we think. There appear to be three main factors :

“hometown was the same as place of work”, “large percentage live with parents”, and “the spouse having also worked as a teacher”. 2) The teacher skill-training programs of those days inclined towards “training about professional expertise and skills”, the organization for being promoted to management was not prepared, and there was a promotion gap between men and women. Therefore, women teachersʼ promotion was in a severe situation.

Key words : life course, graduates of Living Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University, female teachersʼ career improvements

研究目的

現在,教員免許状更新講習や初任者研修など様々 な教員の研修制度が実施され,生涯にわたって教員 としての専門性を高める制度の充実が求められてい る.

一 方,文 部 科 学 省 の『学 校 基 本 調 査 報 告 書

(2010)』

1)

によれば,熊本県の学校管理職に占める女

涯を通し,その専門性とキャリアを高める上で何ら かの障害があることが予想される.

熊本大学教育学部家政教育学科は,戦後の発足60 年余に及び,熊本県内外へ多数の女性教員を輩出し てきた.本学科で学んだ卒業生が,どのように教員 としてのキャリアを積みながらライフコースを歩ん だのか検討したいと考えた.

熊本県初の女性教員養成機関は,1895年に熊本県

(2)

学生の約3割が生活科学科の専攻であった.1959年 には,ベビーブームによる小学校教員の需要確保を 目的とした2年課程は廃止され,1967年に生活科学 科は家政教育学科と名称変更された.本研究で調査 対象者としたのは,名称変更される以前の生活科学 科卒業生(2年課程を含む)である.

大卒女性や家庭科教師のライフコースに関する先 行 研 究 と し て は,湯 沢・古 谷(1996)

2)

や 伊 藤 ら

(2011)

3)

の研究を挙げることができるが,終戦直後 の教員養成学部に学んだ女性教員に関する研究は,

管見する限り行われていない.

本研究の目的は,熊本大学教育学部生活科学科で 学んだ卒業生のライフコースの特徴を把握し,女性 教師として,仕事と家庭をどのように両立してきた のか,またキャリアアップを果たすためにどのよう な課題があったのかについて検討することである.

研究方法

本研究では,次の方法により研究を進めた.

1)アンケート調査:ライフコースの実態を把握 するため,熊本大学教育学部生活科学科の2年課程

(1953〜1960 年 卒 業)の 卒 業 生 164 名 と 4 年 課 程

(1954〜1967年卒業)の卒業生110名の合計274名を 対象に,郵送法でアンケート調査を実施した.調査 期間は,2011年7月27日〜8月31日,有効回収数(回 収率)は,2年課程82(50.0%),4年課程66(60.0%),

合計148(54.0%)である.おもな調査内容は,①調 査対象者の属性,②大学時代について,③職業経歴,

④教員生活の感想,⑤家族経歴,⑥家庭生活に対す る感想,⑦仕事と家庭生活の両立について,⑧卒業 後,生活科学科での学びが活かされたか,などであ

る.

2)追加調査:1)のアンケート調査実施時に追 加調査への協力依頼状を同封し,追加調査への協力 に同意が得られた卒業生47名を対象に,職業生活と 家庭生活のより詳しい実態を把握する目的で実施し た.郵送法により32名(調査期間:2011年11月15日

〜11月30日),面接法により15名(調査期間:2011年 9月2日〜11月24日)を対象に実施した.

研究結果および考察

調査対象者について

調査対象者の属性について表1に示した.これに よると,熊本県の出身者が大半を占め,卒業後はほ ぼ全員が教職に就き,勤務地も熊本県のみという割 合が高かった.勤務した学校種は,2年課程は主に

表1.調査対象者の属性 (%)

表2.入学理由(自由記述,複数回答) (%)

(3)

小学校教員,4年課程では小学校教員に次いで高校,

中学校の割合が高かった.平均年齢は73.7歳である.

アンケート調査

大学時代 1)入学理由

表2によると,熊本大学教育学部生活科学科への

入学理由は, 「家庭科が好き・興味がある・楽しそう」

26.4%,次いで「身内のすすめ・意向」20.3%であっ た.

2)大学生活について

表3によると,

「大学生活の感想」としては,約8 割が「楽しかった」と回答し,大学の授業の満足度

は,「非常に満足」と「まあ満足」を合わせると約8 割に及んでいる.

職業生活 1)職業経歴

表4によると,大学卒業後教職に就いた卒業生全

体(N=145)の勤務年数の平均は26.4年,退職年齢 の平均は46.8歳で,大半が長期間にわたって教員と して勤めていることがわかる.

表5によれば,退職理由としては,

「定年」に次い で, 「夫の管理職昇進に伴う配偶者の退職」の割合が 高くなっていることに注目できる.

2)教員生活について

表6によると,教員生活の感想としては,「忙し 表3.大学生活について (%)

表4.教職勤務年数・退職年齢 (%)

表5.退職理由 (%)

表6.教員生活について (%)

(4)

かった」,「充実していた」,「楽しかった」,「自分に あっていた」の順に回答した割合が高かった.「仕 事が充実していたと感じた時期」は「40代」,「仕事 に困難さを感じた時期」は「なし」,次いで「30代」

と答えた割合が最も高かった.30代は,妊娠・出産・

子育ての時期と重なる時期であり,40代は,子育て が一段落し,学校の中で熟練教員として活躍する時 期であることが推察される.

家庭生活

家庭生活の状況を示した表7によれば,大半が結 婚し,平均結婚年齢は25歳前後,夫の職業は「教員」

が約6割を占めている.6割以上は親と同居し,子 ども数の平均は2.3人であった.「教員」が仕事を継 続しやすい職業であったことに加え,夫が「教員」

であったこと,親との同居が高かったことも,仕事 を継続しやすい要因になっていたと推測される.そ うした中でも,家庭生活上「困難だった時期」が「あ り」と答えたのは約6割に及ぶ.表8によれば, 「家 庭生活で困難だった時期」として挙げられたのは,

「30代」が高かった.仕事と子育てとの両立がその 一因と考えられる.

ライフコース全般について

表9によると,

「仕事と家庭のバランス」について は,全体では「仕事重視」,「仕事も家庭も同じ」の 順に高かったが,2年課程の方が「仕事重視」の割 合が高く,4年課程では「仕事も家庭も同じ」と答 えた割合が最も高く4割に及んでいた.

また,

表10によれば,

「生活科学科の学びは活かさ れたか」については,全体を通して,仕事と家庭の

「両方で活かされた」が約6割であった.

追加調査

ここでは,追加調査の結果を,⑴ 学生時代,⑵ 就職後,⑶ 20歳代後半〜30歳代,⑷ 40歳代後半

〜,⑸ 全般,についてまとめる.

学生時代

大学時代,印象に残っている授業科目としては,

食物や被服の実験・実習に関する内容が多く挙げら れた.また,当時のカリキュラムは,1年次から卒 業まで,2年課程・4年課程ともに,通年で食物あ るいは被服の実習が行われており,技能科目に重き を置いたものであった.

卒業論文は,2年課程では行われておらず,4年 課程のみ行われていた.その内容は,被服学か食物 学に関するもので,衣類の害虫,スカートのダーツ のとり方や,栄養分析,腐敗(菌)等,実験による ものが多く,科学的な内容が中心であった.また,

当時は卒業製作として衣服の製作が課されており,

スーツを製作したという人が多かった.

表7.家庭生活の状況 (%)

表8.家庭生活で困難だった時期(%)

表9.仕事と家庭のバランス (%)

表10.生活科学科の学びは活かされたか (%)

(5)

就職後

就職後,教員としての専門性を高めるための取り 組みとしては,「研究会や研修会に参加して勉強す る」というものが最も多かった.研究会や研修会は 文部省や教育委員会が実施する官制研修会のほかに,

組合や自主的に立ち上げた研究会やサークル活動も あった.次に「教室や講習会に通うことで,実践能 力の向上に努めた」が多かった.個人経営の和裁や 料理教室に通ったり,夏休みなどの長期休業期間に 開催される実技講習会等に参加したりしていた.

研究会・研修会の内容としては,主に小学校教員 の経験者からは,各教科内容,生徒指導,カウンセ リング等が挙げられた.各教科の内容については,

小学校では全教科を教えなければならないので,特 に何の教科が多かったということはなかったようで あるが,所属学校や地域で主任や指導員となった経 験がある人は,その担当の特定の教科について特に 研修を積んだ.一方,主に中学校や高校の教員経験 者は,研修内容として,家庭科,生徒指導等が多く 挙げられた.研究会・研修会では,大学時代に学ば なかった内容や学習指導要領改訂に伴い新しく家庭 科に登場した内容について研修を行っている.

20歳代後半〜30歳代

20歳代後半から30歳代には,仕事と家庭生活を両 立する上で困難だったこととして子育てに関するこ とが多く挙げられた.その内容を整理すると,以下 の3つにまとめられる.

1つ目は,「身内も保育施設も子守さんも見つけ ることができず預け先がない」ということである.

これは特に核家族世帯に多い意見であった.2つ目 は,「協力者がいても気を使う」ということである.

毎日のように長時間世話を見てもらうためにいたた まれないという気持ちのほかに,協力者が見ず知ら ずの他人である場合は,どのように自分の子どもを 育てているかは分からないし,相手にも気を使うと いう声もあった.3つ目は,子どもの病気や突発的 な呼び出し等,「子どもの緊急時に対応ができない」

ということであった.当時は,育児休業制度や乳児 保育・延長保育ができる施設が少なく,特に子ども が乳幼児期に困難さを感じていたようである.

一方,仕事と家庭の両立が円滑にできた理由,円 滑にする為の工夫について尋ねたところ,最も多

学校に残っていたが,女性教師は定時と共に帰宅し,

家庭の家事・育児を行うことが一般的で,早めに帰 宅しやすかったようである.

40歳代後半

1)管理職昇進の実態

管理職昇進の状況について挙げられたのは,1つ 目に「昇進機会がそもそも不平等だった」というも のであった.「管理職昇進の声が女性にはかからな かった」,「管理職になる前になるような役職(主任 など)にも女性はなかなかなることができなかった」

などの声があった.2つ目に,「夫婦で教師だった 場合,一方が管理職へ昇進する時はもう一方が退職 しなければならないという不文律の存在」が挙げら れた.配偶者の退職である為,必ずしも女性が退職 しなければならないわけではないが,当時退職する 多くは女性で,「内助の功についてどう思うか」と いった肩たたきが学校長の方からされていたようで ある.この不文律の存在は潮谷知事の登場で1990年 代頃から改善されていったとのことである.

次に,管理職へ昇進した人・しなかった人にそれ ぞれその理由について質問した.昇進した理由は,

「所属する学校長などによる強いすすめがあったか ら」という声が最も多かった.次いで, 「所属する地 域の女性管理職者率を上げようとする風潮があった から」であった.しかし,昇進を果たしたものの,

「正直な気持ちとしてはあまり管理職になることは 気が進まなかった」という声も多かった.その理由 としては,管理職昇進の機会はおよそ40歳代後半以 降になるため,その年齢になると身内の入院や介護 といった問題が発生しやすい時期と重なり,気が進 まなかったとのことだった.昇進しなかった理由は,

「昇進することをそもそも考えたことがなかった」

という声が最も多く,その他には「直接子どもと関っ ている方が好きだったから」,「身内の病気等で忙し かったから」という声があった.

2)教師の男女間の格差について

アンケート調査で,教師として働く中で「男女間

の格差を感じたことがあるか」という質問に対し「あ

る」と回答した人を対象に,格差を感じた内容・場

面は何だったかという質問を行った.その結果,格

差を感じた内容は,管理職昇進に関連する内容が最

も多かった.前項で述べたように,昇進の機会の不

(6)

学校内での男女の役職・役割に関するものと, 「家事 や育児の負担が女性の方が大きい」といった男女の 家庭責任の重さの違いについてであった.

全般

「生活科学科での学んだ内容は仕事上で活かされ たか」という質問に対し,主に中学校や高校の教員 経験者は「学びの内容は活かされた」と回答してい たが,主に小学校の教員経験者は「学校現場では家 庭科の授業を受け持つ機会や教師に指導する機会

(実践として用いる機会)があれば役に立ったが,な ければそれほど役に立つことはなかった」という意 見が多かった.これは,小学校では家庭科に関わる 機会が高学年の学級に偏っていることと,生活科学 科の授業内容が専門性の高い衣食の科学的な知識と 技術中心であったことから,家庭科を他教科や生活 と関連させることが難しかったのではないかと考え る.

また, 「家庭生活上で活かされたか」という質問に 対しては「活かされた」という人が多く,その内容 は「食物分野」という回答が最も多かった.調理実 習で学んだ調理技術や献立,栄養学で学んだ栄養バ ランスが食生活の充実に役立ったという.次いで,

「被服実習で学んだ技術を用いて家族,特に子ども の衣服を作った」,「衣服の購入の際に商品を目利き することができた」という意見が多かった.ただし,

「高度経済成長に伴い,衣服が流通し簡単に手に入 るようになってからはそれほど活かされなかった」

という人や,「もともと裁縫は得意ではなく大学で 学んだ専門的な技術は使うことがなかった」という 人もいた.また,生活科学科で一通り家庭に関する ことを学び,技術的にも体験したことそのものが,

自分自身に対する家庭生活に対する自信や,楽しく 家事・育児をこなそうという気持ち,新しい知識や 問題に出会った時に抵抗感を感じないといった精神 面の充足を挙げる人も多かった.

要 約

以上,本研究では,アンケート調査及び追加調査 を通し,熊本大学教育学部生活科学科の卒業生のラ

イフコースの特徴と仕事と家庭生活の両立の実態を 把握し,女性教師としてキャリアアップを果たすた めの課題について検討した.おもな結果は次の通り である.

まず,生活科学科への入学理由は,「家庭科が好 き・興味がある・楽しそう」,「身内のすすめ」など が多かった.大学の授業に対しては「満足」と答え た割合が高かった.

次に,職業生活に関しては,回答者の95%以上が 卒業後すぐに教職に就き,25年以上にわたり継続し て教員として勤めており,仕事に充実を感じた時期 は「40代」,仕事に困難さを感じた時期は「30代」と 回答した割合が高かった.

仕事と家庭が両立できた要因は,勤務地が出身地 である熊本県に勤めた人が多く親との同居率が高い こと,配偶者の職業も教員が多かったことから,遠 方への転勤が少なく,近親者の支援を得ることがで きやすい環境があったことが考えられる.

管理職昇進に関しては,昇進機会の不平等や夫の 管理職昇進に伴う退職といった不文律が行われ,女 性教員の昇進は厳しい状況があった.管理職に就い た場合は,その理由に「周囲の強い勧め」を挙げる 人が多く,昇進時期が介護等身内の問題を抱えやす い時期と重なるため,自らの積極的な意思によって 昇進したとの声は少なかった.管理職昇進について は男女間の格差を感じる要因が最も大きかった.

以上より,女性教員がキャリアアップを果たして いくためには,研修制度の体制整備と昇進への道筋 を関連させて作っていくことが必要である.特に,

女性教師はライフコース上に,仕事と家庭生活の両 立が困難な時期を抱えるため,サポート体制の充実 も求められる.

引用文献

1) 文部科学省(2010)『学校基本調査報告書』日経印刷 2) 湯沢雍彦・古谷恵子(1996)『戦時女高師卒業者のライフ

コース』地域社会研究所

3) 伊藤葉子・鶴田敦子・高野 俊(2011)「家庭科の男女共 修に取り組んだ教師のライフヒストリー」『日本家庭科 教育学会誌』54(2),73-84

参照

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