現代社会科歴 史授業構成論の類型 とその特徴
佐藤 育美 (岡 山大学大学 院教 育学研 究科)・桑原 敏 典 (岡 山大学教 育学部)
本研 究 は,現 代歴 史授 業 の改 善 を 目指 して ,現在 主 張 され てい る多様 な社 会 科歴 史授 業構 成論 を類 型 化 してそ の特徴 を明 らか に しよ うとす る もの で あ るO ‑股 的伝 統 的 な歴 史授 業 につ い て は歴 史的事 象 に 関す る知識 の暗 記 に とどま り社 会認 識 の形成 に至 って い ない こ とや ,価 値 注 入教 育 に陥 ってい る こ と等 が 問題 点 と指 摘 され てい る。 それ らを克 服 す る もの と して社 会 科歴 史 が唱 え られ てい る。本 研 究 で は社 会 科歴 史授 業構 成 論 と して,社 会 科 学 科歴 史論 ,理論 批判 学習 と して の歴 史教 育論 ,解 釈批 判学 習 と し ての歴 史教 育論 ,社 会 的判 断 力育成 を 目指 した歴 史教 育論 ,社 会 形成 力育成 を 目指 した歴 史 教 育論 を取
り上 げて,そ の 目標 ,方法 , 内容 につ いて分析 ・検討 を行 った。
キー ワー ド :歴 史教育,社 会科歴 史,解釈 ,判 断力,意思決 定
∫.問題の所在
我 が国の一般的 な歴 史授業 におい ては,古代 か ら 現代‑ と時間の経過 に従 って事象 ・出来事 を順番に 語 ってい く通史学習 が一般 に行 われ てきた。 その際 に取 り上 げ られ る事象 ・出来事 は,対象 とす る国や 地域全体,そ して政治 ・経済 ・社会 ・外交 ・文化 な ど全分野 にわたってい る。 しか し, この よ うな通史 学習 については,奥 山研 司氏 が 「通 史学習 は網羅 ・ 暗記 ・講義主義 を もた らしてい る とい うその 内容 ・ 方法への批判や,政治史 中心の‑国史 (‑国単位) 的学習 になってい る とい う内容構成論 か らの批判 が ある」 1)と述べ てい るよ うに,様 々な問題点が指摘 されている。
森分孝治氏 は,通 史学習 に よって子 どもにい かな る認識 が形成 され てい るかを明 らかに した うえで, 通史学習 を中心 とす る歴 史教育の原理 に対す るよ り 根本的な批判 を行 った。森分氏 は,通史学習 の前提 には, 「個 々の事象 を知 り,その歴 史的意義 を探 り, 歴 史の流れ をつかむ ことができれ ば,その延長線 上
にわれ われ の ど う生 きるべ きかの決断の方 向 を設定 できる」 2)とい う事実 に反す る誤 った考 え方 がある と,その問題 点 を指摘 してい る。 その うえで,次 の よ うに述べてい る3)。
歴史独立論,通史教授 の基本的問題 は, この よ うに一つ の視点 ・立場 か ら再構成 された歴 史 を 事実 として教授す る ところにあ る。子 どもは歴 史の学習 を通 して,それ と知 らず に一つの生 き 方 を学び とらされ ることにな る。学習指導要領
の 「歴 史」の場合 ,ゆるやかで はあるが一つ の 歴 史発展の傾 向性 を教授す ることによって 「望 ま しい」態度 を形成 しよ うとしてお り,歴教協 , 教科研 の場合 ,科学 の名 に よる思想教育 を行 お
うとす るものになっている。
つま り,通史教授 は,視点や立場 を固定 して子 ども に歴 史 を捉 え させ ることに よって,その生 き方 を方 向づ ける価値注入教 育にな らざるを得 ない とい うこ とである。
この よ うな通史学習 を基本的 な原理 とす る一般 的 な歴 史授業改善の方法 について,先 に引用 した奥 山 氏 は,内容 ・方法‑ の批判 については主に授 業構成 論研究の立場 か ら,内容構成論 か らの批判 について は生活史 ・社会史 ・地域 史 を重視 した り,国境 を外 した移動や交流 の視点 を導入 した りす る立場 か ら, 問題点の克服が模 索 され てい る と指摘 してい る4)0 そ して,奥 山氏が指摘 した授業構成論研究の立場 か らの近年 の取 り組 み として注 目され るのが,歴 史教 育 を社会科 の中に位置づ け社会科歴 史 としての歴史 授業のあ り方 を解 明 しよ うとす る研究であるO通史 学習 を批判 した森 分氏 も,歴 史教育は,歴史的事象 に対す るよ り間違 いのない認識 を通 して現代社会の 認識 を深 め,生 き方の反省 をす ることをね らい とす べ きであ り,そのためには,歴 史学者 が行 ってい る 歴 史認識 の方法 に したが って歴 史 を教授すべ きでは
ないか と主張 している5)0
以上の よ うな批 判 をふ まえて,現在 まで,たんな る歴 史的事象 ・出来事 に関す る知識 の伝達ではな く,
歴 史 を通 しての現代社会 の認識 を 目標 とし,子 ども の 自主的 自立的な判断や意思決 定 を保障す る様 々な 歴 史教育論 が主張 されて きてい る。 問題 は,幾つか の社会科歴 史教育論 が展開 され てい るものの,それ らの うち どれ が最 も優れ た論 なのか を検討す る基準 や ,それぞれの教 育論 が,いかな る条件 の下で最 も 効果的 に機能す るか とい うことが明 白になっていな い こ とであ る。そ こで,本研究 においては,現在 , 学会等 で主張 され てい る社会科歴 史 に相 当す る歴 史 教育論 を幅広 く取 り上げ,それ らを原理や方法 に よ って類型 ・整理 した うえで,各論 に基づ く具体的な 単元 ・授業計画案 を分析 ・検討 し,その特徴や問題 点 を明 らかに してい きたい。本 研究 の成果 は,様 々 な課題 を抱 える学校現場 の授業 に社会科歴 史教育論 を応用す る手がか りとな り,冒頭 で指摘 した よ うな 問題 点 を抱 える現 実の歴 史授業 の改善 を促す もの と なろ う。
Ⅱ.
社会科歴史教育論の原理第 Ⅰ章で論 じた現在 の歴 史授業批判 か らも分 か る よ うに,社 会科歴 史 とは,社 会科 とい う教科 の中で な され てい る歴 史教育 をたんに指す わけではないO それ は,歴 史その ものの理解 や歴 史的事象 に関す る 知識 の伝達 を 目標 とす る歴 史教 育 と異 な り′,現代社 会 の認識 を 目標 とす ることや子 どもの認識 を閉 ざさ ない こと等 の性格 をもつ もので ある。 ここで は,ま ず ,社会科歴 史教 育論 に分類 され る歴 史教育論 の性 格 を明 らかに していきたい。
社 会科歴 史の原理や方法 を明 らかに した研究 とし て は, まず小原友行氏 に よる もの を挙 げるこ とがで き よ う6)。小原氏 は,戦後 の初期社会科 にお け る社 会科歴 史 を,戦前 の歴 史科歴 史 と比較 してそ の歴史 的意義 を明 らかに してい る。小原氏 に よれ ば,社会 科歴 史 と しての初期社会科 の意義 は次 の5点 にま と め られ る7)。
①社会認識 を通 して市民的資質 を育成す る とい う 市民教育の原理 に基づいてい ること。
②知識 ・理解 の習得 のみで はな く,技能‥思考力 ・ 判断力や 関心 ・態度の育成 をも目指 した こと。
③ 国際化 ・情報化 とい った社会 の変化 に対応 した ものであること。
④子 どもが問い を発 見 し,教師 の指導 の下で回答 を探求す る探求型 の学習方法 に よって,子 ども の主体性 を保障 してい ること。
⑤暗記 中心,教科書 を活用 できない,技能 ・能力
を育成 しない,知的好奇心 を喚起 にない とい っ た伝統的歴史授業の問題点を克服 し得 ること。
この よ うに,社会科歴 史においては,歴史的事象 ・ 出来事 に関す る知識 ・理解 が 目的ではな く,それ ら は社会認識 を通 して市民的資質 を育成す るた めの手 段 である こと,認識形成 に とどま らず技能 ,思考 ・ 判 断,関心 ・態度等の育成 も 目指 され る とい うこと
が言 える。
小原氏 が初期社 会科 を手がか りに社会科歴 史の特 徴 を明 らかに したのに対 して,先 にも引用 した森分 氏は,社会科歴史のね らいや原理 を解明 してい る。
森分孝治氏 に よる と,歴 史教育は
,
「科学 を基盤 に, す なわち,学 問の世界 にお ける歴 史研究 の位 置 と機 能 に対応 し,歴 史 の学問的研究方法 に依拠 して構成 され なけれ ばな らない」 ものである8)。つ ま り,磨 史教育は,子 どもが,歴 史学者 と同 じよ うに歴 史 を 科学的 に認識 で き る串 うに構成 され なけれ ばな らな いので ある。また,山田秀和氏 に よる と,
「歴 史的事 象その ものには意 味はない。歴 史教育 は,個 々の歴 史的事象その ものの教授 か ら脱却 し,科学的社会認 識 形成 の た めの手段 と して機 能 しな けれ ばな らな い」のである9)oすなわち,歴 史事象 を手段 として, 諸科学 の研究成果 である概念や法則 を,歴 史学者 と 同 じよ うに子 どもに探求 させ よ うとす る歴 史教育が 社会科歴 史なので ある。また,社会科歴 史は,
「実質 的な態度形成 か ら引き下が り,知的側 面の教授 に教 育の 目標 を限定す ることに よって,子 どもの 自主的自立的な思想形成 を保障す る」10)もの となる。
森分氏や 山田氏 の主張す る社会科歴 史の原理 をま とめる と
了
社会認識形成 のために歴 史事象 を手段 と して用 い るこ と上 「実質的な態度形成 をね らい とせ ず,知的側 面の教授 を 目標 とす ること上 「自主的 自 立的思想形成 を保 障す るもので あること」の3点 と な る。これ らの原理 を持つ社会科歴史教 育論 として, 本研究では,山 田氏の社会科学科歴 史論11),原 田智 仁氏の理論批判学習 としての歴 史教育論12),児玉康 弘氏の解釈批判学習 としての歴 史教育論 13),溝 口和 宏氏 の社 会的判 断力育成 目指 した歴 史教育論14),そ して,池野範男氏 の社会形成 力育成 を 目指 した歴 史 教育論 15)を取 り上げ,分析 ・検討 してい くこ とにしたい。
Ⅲ.社会科学科歴史論の原理 と方法
社会科学科歴 史論 については, 山田秀和氏 のホル ト ・デー タバ ンク ・システ ム 『ア メ リカ史
』
を取 り上 げた研究 を手がか りに,その原理 と方法 を明 らか に してい くことに しよ う。
ホル ト・デー タバ ンク ・システ ム 『ア メ リカ史
』
は,初等教育の第五学年 で行 われ るものであ り,12 の単元か ら構成 され てい る。そ の うち,第5単元 ま では 「合衆国前史」,第6単元以降は 「合衆国史」と なってい る。前者 は,歴 史学 の探究方法の習得過程 であ り,後者 は,政治学の概念習得過程 であ る。 山
田氏は後者の 「合衆国史」に注 目してい る。
「合衆国史」で は,政治学の概念習得 をめ ざ して い る。政治学 の概念 を子 どもに習得 させ る理 由は 「子 どもに政治的判断 の拠 り所 とな る知識 を習得 させ , 知的市民 として政治 に参画 して ゆ くことので きる能 力 を育成す るため」である16)。価値や利 害の対立な どに対す る合意形成 を行 う為 の政治制度 ・機構や合 意形成 にむ けて市民が どの よ うに関与す るか とい う, 市民に とって不可欠 な事象 を研 究す る学 問が政治学 であ り,そのため 「合衆 国史」 は市民性教育 をね ら い としてい ると言 えるのであるQ
「合衆国史」で は,ア メ リカの歴 史 を手段 として 教 えてい る。それ は,ア メ リカの歴史が 「民主主義 政治 の伝統 を有 してお り,市民 に よる政治 を具体的 に提示す る ことがで きるか ら」である 17) 。 「合衆国 史」の単元設定の特徴 は次の三点である。第一 は,
「年代史的な 自国史編成」であ る こ と18),第 二 は,
「民主政治の研究 を行 わせ るこ と」 をね らい として い ること1g),第三は
,
「社 会問題 を各単元 に配列 し, その克服過程 を描 くことに よって」内容 を構成 して い ることである20)。また,それぞれ の単元 は,開か れた政治過程 と民主的問題解決方法 の科学的探求 と い う二つ の原理 に基づいて構成 されてい る。前者 は,「‑単元 のま とま りが,民主主義社会 におけ る問題 解決 のプ ロセ スを例示 してい る」21)とい うことであ り,後者 は
,
「市民 の政治 を証拠 に基づいて子 どもが 探求できるよ うに構成 され てい る」 22)とい うことで ある。以上の考察 をふ まえて,社会科歴史論 の特徴 とし て次 の二点 を指摘す ることがで き よ う。 第一 は,カ リキュラムは歴史 を手段 として社会諸科学 の理論 の 獲得 を 目的 としてい ることであ る。『ア メ リカ史』で は,政治学の概念 である民主政治の要素 を, アメ リ カ合衆 国の歴 史の時系列 に従 って探求 してい た。 第 二は,示 され る理論 を科学的に探求 させ てい る こと である。『ア メ リカ史』では生徒 が問題 に対 して仮説 を立て,それ を検 証 し,理論 の修正 を行 ってい く過
程 となっていた。社会科歴史 に基づ くカ リキュラム は,歴 史 を手段 として社 会諸科学 の理論 の獲 得 を 目 指 し,また,その理論 を科学的 に探求す るこ とで獲 得 させ ,子 どもの知識 を成長 させ よ うとす る もので
あるといえる。
Ⅳ.理論批判学習 としての歴史教育論
原 田氏 は,カール ・ポパーの科学論 に基づいて, 科学的知識 の成長過程 を明 らか に し,歴 史教授 に よ る子 どもの知識成長 も同様 であ る とした うえで,理 論批判学習 の原理 を設定 してい る。 それ は,次の三 点である23)0
①歴 史学習 にお いて科学的知識 の成長 を保証す る ためには,理論批判的活動が不可欠なこと
②歴 史学習 で探求す る理論 は,社会 に関す る トー タル な説 明 を求 め るものではな く,社会の一局 面に限定 され た理論 ,す なわち中範囲の理論 で なけれ ばな らない こと
③理論 の発 見 と吟 味は,問 (問題) にもとづいて な され ること
つま り,社会認識 教育にお ける歴 史教育では,客観 的知識 の成長 を 目的 としてお り,それ を保証す るた めには,問い に基づ いて 中範 囲の理論 を批判 的に学 習 してい く理論批判学習が有効なのである。
理論批判学習の方法原理 は,三点にま とめ られて い る。 第‑ に 「理論批判学習 は理論の学習 を 目的 と
す る」 24)ことで ある。理論批判学習 に基づ く歴 史教
育では
,
「歴史 を学ぶ 」ことを第一義 とす るのではな く,理論 を獲得す るために 「歴 史で学ぶ」 ことにな るのである。第二 には,
「理論批判学習 は理論 の仮説 性 を受 け入れ る」 25)ことが挙 げ られ る。理論 が事象 を説 明す るための仮説 にす ぎない ことは これ まで述 べ られてきたが,理論批判学習 では この よ うな姿勢 を受 け入れ,理論 を子 どもに注入す るのではな く批 判す ることを保 証 しなけれ ばな らない。 第三の原理 は,
「理論批判学習 は,理論 を批判的 に吟味 ・検証す る過程 として組織 され る」 26)ことである。第二の原 理で述べ られてい た よ うに,理論批判学習 では,理 論 の仮説性 を受 け入れ るので,子 ども自身が理論 を 批判す ることに よって理論 を獲 得す るよ う授 業 を構 成 しなけれ ばな らない。そのための学習過程 として, 原 田氏は以下の よ うな段階を示 している27)。① 主題 に関わ る事実認識 を通 して,問題 を把握す る。
②問題 の解答 を直観的 に予想 し,あるい は何 らか
の歴 史的事例の分析 を通 して,理論 (説 明的仮 説) を発見 ・創造す る。
③発 見 ・創 造 した理論 を,別 の歴 史的事例で検証 し,場合 によっては修正す る。
④検 証 ない し修 正 した理論 を,新 たな歴 史的事例 に応用 し,理論 の発展 を図る。
以上の よ うな学習方法によって授業 は構成 され る。
理論批判学習 に もとづ く教授 ‑学習モデル として, 原 田氏 に よって開発 され た単元 「イ ス ラム世界の形 成 と発展」 を取 り上 げ,理論批判学習 に基づ く世界 史が どの よ うな ものであるか考察 してい こ う28)。本 授業モデル は, 中範 囲理論 と してイ ス ラム国家理論 を用い,理論批判 学習 の方法原 理 に よって授 業 が作 成 され てお り,理論批判学習 に基づ く教授 ‑学習面 モデル として理解 しやすい ものであると考 える。
授 業 で はイ ス ラム国家理論 を探 求す ることを 目的 として三つ のパー トか ら構成 され てい る。パー ト1 は理論 の発 見 ・創 造 の段階で あ り
,M Q
「なぜ ムハ ン マ ドは短期 間にア ラ ビア半島 を支配 下 に置 くことが できたのか」 とい う問い を探求す るこ とで 「ウンマ を中心 とした シャマ‑アは,納税 と引換 えに信仰 の 自由 と安全保 障 を約す る柔軟 な国家 の構造 を有 した ために,短期 間で アラ ビア半島 を支配下 に置 くこと ができた」 とい う理論 を発 見す るよ うに構成 され て い る。 パー ト2ではM Q
「なぜ ア ラブ人 は短期 間に大 帝 国 を建設す るこ とができたのか」, 「なぜ ア ラブ人 に とって代わ ったア ッパース朝 は大帝 国を長 く維持 す る ことがで きたのか」 とい う問い を生徒 に投 げか け,パー ト1で発 見 したイ ス ラム国家理論 を正統 カ リフ時代 か らア ッパース朝 までの時代 で検証 してい く。 そ して,理論 を検証 し 「イ スラム法 の施行 を職 責 とす るカ リフを中心に,全 ムス リムが対等 に ウン マ を構成 し,異教徒 に対 しては租税 と引換 えに安全 保 障 の盟約 を と り結ぶ とい う柔軟 な構造 を もつ のが, イ ス ラム国家 であった」と修正す るのである。 パ ー ト3は理論 の応 用 ・発展 の段 階で あ り 「なぜ オス マ ン帝 国は大帝 国の再現 に成功 し,それ を長 く維持 す ることができたのか」をM Q
として,オスマ ン帝 国 の国家体制 を事例 に獲得 した理論 をオスマ ン帝国の 場合 に応用 してい る。以上の よ うに授 業 は,イ ス ラム国家体制理論 とい う歴 史学 の中範 囲理論 を獲得 させ るもの とな ってい る。 これ は,ムハ ンマ ドの時代 か らオスマ ン帝 国ま での間のイ ス ラム国家体制 の事 例 を用いて,理論 を 発見,検証,応用 させ る授業 として評価できよ う。
原 田氏 は,歴史教育は子 どもの開かれた社 会認識 形成 を保証す る社会認識教育 としての歴 史教 育であ るべ きである とい う立場 を とってい る。 その ために は,子 ども自身 が社会 を説 明す る理論 を批判 的 に吟 味す るこ とで獲得す る,理論批判学習 が効果 的であ る。理論批判学習 では,問いに対 して子 どもが仮説 を立て,それ に対す る反駁 に よって理論 を修正す る 中で理論 を成長 させ てい くとい う学習過程 を とって お り, これ に よって開かれた社 会認識形成 は可能 と なるのである。
Ⅴ.
解釈批判学習 としての歴史教育論山田氏や原 田氏 が,歴 史的事象 を捉 える理論 の習 得 を歴 史教育の 目標 として位置づ けてい るの に対 し て,児玉氏 は,理論 に よる事象の解釈 を重視 し,異 なった理論 に基づ く複数 の解釈 の教授 に よって,歴 史に対す る多様 な捉 え方 を保障 しよ うとす る解釈批 判学習 を提唱 してい る。児玉氏 は開かれた解釈学習 の原理 を二点挙 げてい るO第‑ は 「歴 史に対す る生 徒の選択権 を可能 な限 り保 障す るこ と」 29)である。
従来の閉 ざされ た解釈学習では, ある一つ の解釈 を まるでそれ が真実 であるかの よ うに生徒 に無批判 に 注入 していた。 しか し,開かれた解釈学習 で は複数 の解釈 を示 し,生徒 がそれ らの解釈 か ら説 明力のあ る解釈 を主体的 に選択す る場 を保 障す ることで,坐 徒の認識 を開いてい くのである。児玉氏 は, この こ とをフランス革命 のバ ステ ィーユ牢獄襲撃 を例 に説 明 してい る。 この事例 に対す る解釈 としては 「政治 犯 が収容 され てい たので圧制の象徴 を倒すた めに民 衆 が襲撃 した」, 「武器 弾薬庫が あったので,財産 を 守 りたい 市 民 が手 に入 れ て武 装す るた め に襲 撃 し た」 とい う二つ の解釈 が考 え られ る。 この解釈 それ ぞれ に対 して生徒 が批判 的に吟味 してい くこ とで, よ り科学的な知識 が獲得 され て,開かれ た歴 史観形 成 を保障 され るのである。
開かれ た批判学習 の も う一つの原理 は 「歴 史学習 を近現代史 を中心 とした社会 問題学習 として構成す
る」 30)とい うことである。現在 の歴 史授業 では過 去
その もの を学ぶ歴 史授 業 となってお り,子 どもに と って歴 史 を学ぶ意義が見出 しに くい。歴史 を学ぶ 目 的 を,児玉氏 は森分氏 の論 をふ ま えて 「歴 史 を現代 生活 の理解 の手段 とし,過去 を前進 のために利用す ること,歴 史 を生 徒 に よって社会生活 を改善 し社会 を改革す る武器 とす ること」31)である と述べてい る。
つ ま り,今 ,我 々が生 きてい る現代社会 を批判 的に
理解 し, よ りよい もの を変 えてい くことであ る。そ のためには近現代史 を中心 とした主題史学習 が効果 的である。その理 由は以下の通 りである32)。
過去の社会 に も現在 のわれ われ が抱 えてい る困 難 な社会問題 と構 造的 に類似 した諸問題や,現 在 の問題 の起源や雛形 とな る諸 問題 があ るか ら であ り,その研 究 が生徒 に とって間接的 に現代 の社会問題 を解決 し, よ りよい社会 を形成す る ための練習 となるか らである。
つま り,紛 争や戦争 の よ うな問題 であれ ば,過去 の 問題 を理解す るこ とで現在 の問題 を解 明す る手がか りとな る し,環境 問題や人権 問題 な どの よ うに現在 起 こってい る社会 問題 を歴 史的 に さかのぼって原 因 を究 明す ることに よって現代社 会 の諸問題 を理解す るこ とができ, さ らによ りよい もの‑ と変 えてい く ことが可能 とな るのである。 また,近現代史 による 主題学習 であれ ば 「生徒 の必要性 や興味関心 に基づ いて歴 史授 業 を構成す る」 33)ことが可能 である。紛 争や環境 問題 な ど現在 の社会問題 は,生徒 自身 の興 味関心 も高 く, この よ うな問題 を批判 的 に理解 し, 解決策 を模 索 してい くことで,生徒 自身 が歴 史 を学 ぶ意義 を兄いだす ことができると期待 され る。
以上の よ うに開かれた解釈学習 では,生徒の選択 権 を保 障す ることと近現代史 に よる社会問題 学習 を 原理 とす る。それ に よ り,生徒 に批判精神 を育成 し, 歴 史観 を開かれた ものに してい くこ とが可能 とな る のである。
児玉氏 は,開かれ た解釈学習 を,生徒 自身の選択 権 の保 障 とい う点か ら二つ に分類 してい る。 一つ は
「歴 史家の生産す る複数 の解釈 その もの を批判 の対 象 とし,優劣 を比較検討 させ る ことに よ り,歴 史 に は様 々な説 明の可能性 と選択 に対 して開かれ てい る とい うことを認識 させ る」 34)方法 であ り,これ は解 釈批判学習 とされ てい る。解釈批判学習 では,歴 史 的事象 に対す る様 々な解釈 を示 し,それ らに対 して 生徒 の選択権 を保 障す るので ある。 も う一つ は 「歴 史家 の記述 した事実的知識 の 中にあ る人 々の選択や 意思決定に関わ る内容 を批判 の対象 とし,起 こ り得 た様 々な出来事 を描 くことで事実の選択 と可能性 を 開いてい く」 35)方法であ り,これ が批 判的解釈学習 であ る。 この方法論 では,歴 史的事象 のなかで,人 物 が どの よ うな判 断 を したのか, も しその判 断を し なかった らどの よ うな結果 になっていたか を批判的 に吟味す ることで,歴 史が必然的 な流れ でその よ う な結果 になったのではな く,そのほかの可能性 があ
ることを示 し,生徒の選択権 を保障 しよ うとす る。
解釈批判学習 は,解釈 を複数 用意す ることで生徒 に歴史 に対す る選 択権 を保障 し,開かれ た歴 史観形 成 をめ ざす もので あった。 また,現代の社会的問題 を理解す るため近現代 の主題学習 を行 うことで歴 史 を学習す る意義 を明確 に していた。 この よ うな二つ の原理 を とる解釈批判学習 は子 どもの社会認識の事 実認識 を成長 させ る ことで社会科の 目標 である市民 的資質の育成 にかかわ っている。授 業では,現代の 社会的問題 を理解 す るために過 去 の社会事象 に対す る複数 の解釈 を批判的 に吟味す る。 そのため授業 を 組織す る際 には 「なぜ」「どの よ うに」といった歴 史 の原 因や本質 を問 う問い を組 み合 わせ て組織 され た。
複数 の解釈 の提示 に よって子 どもの認識 を開かれ た ものに し,批 判的 に獲得す ることで社会認識 の形成 , 市民的資質 の育成 を 目指す解釈批判学習 は,現代歴 史授業改善に とって重要な意義 をもってい る。
Ⅵ.社会的判断力育成 目指 した歴史教育論
これ まで検討 した歴 史教育論 がいずれ も子 どもの 社会認識体系の事実認識 にのみ関わ ろ うとす るのに 対 して,以下 に取 り上げ る歴 史教育論 は価値認識 に まで踏み込む ものであるO ここでは,まず,溝 口氏 の社会的判 断力育成 を 目指 した歴 史教育論 を取 り上 げて検討 してい くことに したい。
社会的判断力の構造 を明 らか にす るために,溝 口 氏 はまず価値 的知識 の構 造 を明 らかに してい る。価 値的知識 は 「当該社会 において歴 史的 に受容 され て きてい る実践的原 理 ・原則 を核 として,その原理 ・ 原則の適 用範 囲 を定 める一仮定的 な結論 ,及び,その 結論 に対す る例外規定 を設 けるた めの補助仮説 (留 保条件), とか らな る論 理 的セ ッ ト」 36)で ある と溝 口氏 は述べ てい るOここでは,「表現の 自由」が例 と してあげ られ てい るので,それ を用いて価値的知識 の構造 を明 らかに してい くこ とに しよ う。「表現の 自 由は保障 され なけれ ばな らない」 とい うのは一般 に 認 め られ てい る原 理原 則である。そ して この原理原 則の適用範囲 を定 める仮 定的結論 1として 「マスコ
ミの表現活動 は 自由であ るべ き」 とい う価値 的知識 ができる。 しか し, こ こでマス コ ミの活動がプライ バ シー の権 利 を侵 害 す る とい う問題 が 出て きた ら
「私人のプライバ シー を侵 害 しない限 り,その表現 活動 は 自由であ るべ き」 とい う留保条件が加 え られ てい くのであ る。 この よ うに,価値的知識 は,仮定 的結論‑ 問題‑留保 条件一仮 定的結論2・・・とい
う過程 を繰 り返 しなが ら形成 され る体系的な知識構 造 になってい るのである。
次 に,溝 口氏 は,価値的知識 の も う一つの特徴 と して価値 的知識 が 「社会的紛争処理 の過程 を通 して 形成 され てゆ く」 37)とい うことをあげてい る。先 に 示 した よ うに,仮 定的結論 にたい して社 会的 問題 が 生 じた とき,留保 条件 を加 えるのは社会 的集 団の次 元 であって個人 の レベル ではないのである。先 の 「表 現 の 自由」 の例で言 えば,マス コ ミの活動 とプ ライ バ シーの権利 がぶつ かった ときには,裁判や 監督官 庁 に よる監視 の強化 な ど社会的集 団で問題 に対す る 留保 条件 をつ けてい くのである。 そ して溝 口氏 に よ る と 「こ うした社 会的次元 で成 立 した価値判 断 は, その後 の社会 のあ り方 を規定 してゆ くことになる」
38)ので ある。つ ま り,あ る留保条件 が社 会的次元 で 付 け られ る とそれ は社会 の構成員 の間で新 たな価値 として共有 されてい くので,そ の後 の社会 の あ り方 を決定す る際の基準 とな るのである。
価値 的判 断 は以 上の よ うに体 系的な知識構造 で, しか もこれ は社会 的次元で成長 してい る。 この よ う な特徴 を もつ価値 的知識 を社会科 で扱 うために,港 口氏 は 「社会的判 断 を,再び個 人 の判 断の次元 に戻 して,子 どもに認識 させ るこ とが必要 とな ろ う」 39)
と述べ てい る。社 会科 では,社 会的次元 で決 め られ てい る価値 的判 断 を個人 の レベ ル で扱 うことで,社 会的判 断力 を育成すべきである とい うことである。
溝 口氏 は,R.H.ラ トク リフ,Ⅰ.ゴー ドン,E.W.マ イ ル スな どに よって開発 され た 『vitalIssuesof theConstitution(合衆 国憲法 の重要 問題)』 (以下
『vIC』)とい う歴 史教育単元 か ら,社会的判 断力育 成 を 目指す歴 史教育原理 を明 らかに してい る。
単元作成者 であ るラ トク リフは,司法 の重要性 を 指摘 してい る。それ は,溝 口氏 に よる と 「『表現の 自 由は保 障すべ きで ある』『権 力 は分 立 させ るべ きであ る」]とい った原 則 については,立法行為 に よ り憲法 の規定な どに盛 り込 まれ,そ うした原則 の具体化 が, 立法過程や行政過 程 を含 めた広義 の政治過程 におい てな され て」40)い くか らである。つ ま り,立法府 は, 価値的知識 の構造 で示 した原理原 則やそれ に基づ く 仮 定的結論 を具体 的 に提示す るの に重要 な役割 を担 ってい る場所 であ る とい える。 この よ うに して決 め られ た一般 的原則 の 中で社 会 の構成員 は多様 な価値 実現 を してい く。 しか し,個 人 の実践 と一般 的原則 が矛盾す る場合 もあ る。 この とき 「司法 の機 能 に よ りそれ らの調停 が図 られ る」 41)とい え る。 司法 は,
原則 を具体化 す るだけでな く問題 が生 じた場合 に調 停 を行 い,留保条件 をつ ける役割 ももってい る。 こ
の よ うな司法 の機 能 を歴 史教育 のなかで学習 してい こ うとす るのが『vIC』の 目的である とい える。歴 史 教育で行 うのは 「民主主義社会 においては, 司法府 に よる歴史的な紛 争処理過程 を通 じて,実践的原理 の適用 され る境 界 が漸進 的に明示 されてゆ く」 42)と 考 えてい るか らで ある。 司法府 の社会的紛争処理 に 一よって歴 史的 に原 理原則が具体化 し,適用範 囲が制
限 され てきて現在 の形ができあがってい るの である。
その過程 を考察す るのが授業である。
また,授業 では 「過去 にお け る司法 の判 断 を もと に,なぜ その よ うな制約 が妥 当で ある と判断 された のか,なぜ その制約 が妥 当でない と判 断 され たのか を,検討す る」 43)ことも求め られ る。司法 が処理 し た制約 その ものの妥 当性 を吟味す ることは,判例主 義 を とるア メ リカ合衆国におい ては意 味があ るか ら である。 それ に よ り 「子 どもが, 自らを と りま く今 の社会 の あるべ き姿 を 自覚的 に探 って ゆ く」 44)こと を 目的 としてい るのである。
以上の よ うに『vIC』は,司法 の原則 の具体化 ,逮 応範 囲の制約 な どの過程 を考察 し,またその制約 そ の ものの妥 当性 を吟味す ることで社会的判 断力の育 成 を 目指 してい るもの となってい るのである。
社会的判 断力育成 を 目指す歴 史教育 は,価値判 断 を価値 的知識 の構 造 として とらえ,その成長 を 目指 す ものであった。価値 的知識 は,社会的紛争 が起 き た とき社会的集 団の次元で解決す るこ とに よって成 長す る。 溝 口氏 の立場 は,歴 史上の社会的判 断過程 を個人 の判 断の次元 に して子 どもに認識 させ ること で,社会判断力の育成 しよ うとす るものである。
Ⅶ.
社会形成力育成 を目指 した歴史教育論池野氏 の主張 してい る社会形成 の原理 に基づ いた 社会科教 育の 目標 , 内容,方法 は次の よ うになって い る。
社会形成 の原理 に よる社会科 で 目標 とされ るのは 社会形成 力の育成 である。 その社会形成 力 とは 「批 判 とい う不断の吟 味検討 と正統性 の構築 であ る正 当 化 にも とづいて社 会 の諸事 に関す る 自律的判 断 と合 理的共 同決 定の能 力 と技能」45)である。社会科 では, 社会的問題 に対 して,批判 的に理解 し,正 当化 を行 うことで 自律的 に判 断 し,合理的共 同決定す ること のでき る力である社会形成力が 目標 とされ るのであ る。さらに,社会形成 力育成 に伴 って,「意見形成や
意思決 定の方法,お よびそのル ール」や 「方法やル ール の根拠 となる基準,規範や価値」 47)まで も捉 え させ よ うとす る。社 会形成原理 としての社会科 では
「社会問題 の解決 における妥協 ,調整 を基本 的な内 容 にす る」 47)と池野氏 は述べ てい る。社会形成 の過 程では,社会 問題 を認識 し,討論 を通 して妥協,調 整 を行 い,解決策 を模索 してい くことにな るが,未 だ解決 され てない社 会問題 を扱 い, この よ うな討論 に よる解決過程 を,子 ども自身 がた どることによっ て社会形成 の意義 を兄いだす こ とができる と言 えよ
う。
また,社会形成原 理 による社会科 では,方法 とし て 「議論 の論理 」 を用い る。 社会形成 の上で重要 と な るのは討論 であ る。 その討論 の方法 として用い ら れ るのが 「議論 の論理」である トウール ミン図式で ある48)。 この議論 の構造 に基づ くと,議論 はまずデ ータか ら始 まる。 ここか ら主張 が導 き出 され る。 そ して, この主張 を理 由づ けは,デー タか ら主張‑の 飛躍 を防 ぎ説 明す る役割 を持 ってい る。 さらに, こ の理 由付 けの信 悪性 を保 障す るのが理 由づ けの裏づ けである。裏づ けは,池野氏 に よる と 「主張 の妥 当 範囲 を限定す る」49)ためにつ け られ る もので ある。
以上の よ うに,社会形成原理 としての社会科では, 社会形成 力の育成 を 目標 とし,社会 問題 の解 決 にお
ける妥協調整 を内容 として扱い ,議論 の論理 に よる 方法 を もちいて授 業 を構成す る もの となってい る と いえる。
社会形成原理 にお ける社会科 では,実際 に どの よ うにカ リキュラム編成 がな され ,授 業が構成 され て い るのか。池野氏 らによって開発 され てい る世界史 単元 『武 力行使 は許 され るのか』 の授業 を手がか り に,社会形成原理 に基づ く社会科の授 業 は,具体的 に どの よ うな もので あるか明 らかに してい くことに
しよ う50)0
「武 力行使 は許 され るのか ?」とい う単元 は,「武 力行使」 とい う社 会問題 を疑問視 し,問題 を批判 的 に理解す ることで,武 力行使 に関す るフ レー ム ワー クを獲得す るこ とができること,それ を トウール ミ ン図式 で整理 し,活用す ることができる ことであ り, 社会形成 力の育成 を 目標 としてい る51)。武 力行使 に
関 して 自らの信念 を再構築 し,議論 に よって クラス の中での合意 を 目指すのである。
単元 は,導入,展 開 Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ,終結の5つのパ ー トか ら構成 され てい る。以下ではそれぞれ の時 間 について考察す る。
導入 では,ア メ リカが 同時多発テ ロの報復 として ア フガニスタンに武 力行使 が行 われた事例 を手がか りに 「他 国か らの攻撃 を受 けた場合 の武力行使 は許 され るのか許 され ないのか, あなたはなぜそ う考 え るのか」とい うことをMQとして,問題提起 と信念 の明示化 を図 るパー トである。ここではMQに対 し て 「個別 的 自衛権 に基づいた武 力行使 は許 され る上
「国家単独 ではな く集 団的 自衛権 に基づいた武 力行 使 であれ ば許 され る上 「武 力行使 は許 され ない」,と い う三つの信念があることを確認 させ る。
展 開Ⅰ〜Ⅲでは,導入で明示 され た三つの信念 が どの よ うな理 由で正 当化 され たか解 明 し,それがア フガニスタンの場合 に適用でき るか検討 し,信念 が 支持 され る一般 的 な理 由を解 明 してい く。それぞれ のパー トで先 の三つ の信念 を事例 に基づいて検討 さ せ ている。
終結 では,展 開Ⅰ〜Ⅲ を通 して これ らの信念 を検 討 し, トウール ミン図式 にま とめ整理 し,再びMQ である 「他 国か らの攻撃 を受 けた場合 の武力行使 は 許 され るべ きか否 か,なぜ あなたはそ う考 えるのか」
とい う問い を子 どもに投 げかけ,北朝鮮 が 日本 に攻 めてきた場合 日本 の武 力行使 は許 され るか」 とい う 状況 を例に討論 し授業 を終 了 している。
授業 では,「武 力行使 は許 され るのか」とい う問い を生徒 が疑問視 し,それ に関す る三つ の信念 を明確 に し, さらにそれ らの信念 の理 由 と根拠 を検討す る ことで, これ まで前提条件 とな り疑問視す る ことの なか った武 力行使 に関す るフ レー ム ワー クを獲得 さ せ ,それ を生徒 自身 が活用で きるよ うに してい る。
また,武 力行使 に関す る信念 を トウール ミン図式で 整理 し,それ をも とに討論 させ ることで社会形成 の ために必要な力を育成 しよ うとしていた。
社会形成 力育成 を 目指 した歴 史教育の特徴 は,二 点挙 げ られ るO 第一 は,内容 と して社会 問題 を扱 っ てい る点である。『武 力行使 は許 され るのか
』
では,現代社会 の問題 で ある 「武 力行使 は許 され るか」 と い う信念 を対象化 し根拠 に基づ いて討論 させ ていた。
第二 は,「議論 の構 造」に基づいて,生徒 自身 に問題 に関 して討論 させ ることで クラス としての合意形成 を行わせ ,社会形成 の追体験 を行 わせ ている ことで ある。『武 力行使 は許 され るか』では, 「武 力行使 は 許 され るか」 とい う問題 に対 して異な る三つ の立場 か らの答 えを トウール ミン図式 で整理 し,討論 させ てい る。社会形成原理 に よる社会科 では討論 に よっ て意思決定できるよ うになることを目指 していた。
表 社会科歴史授業構成論の類型
社 会 認 識 体 制
への関わ り方 歴史教育論 / 原理 と方法
社
AE 読明を 社 会 科 学 科 と しての歴史教育 ・社会科学の理論習得 を 目標 とす る○
・理論 の仮説性 を認 め,授業では仮説 を立て,それ を批判的に吟味す る
認
警 琶 ことで修正 し,獲得 してい く○
理論 批 判 学 習 と ・社会 を説明す るための理論の うち,中範囲理論 の提示 し,獲得 を 目指 原
哩と しての歴史教育 ・理論 の仮説性 を認 め,授業では仮説 を立て,それ を批判的に吟味す るすo
晶 ろ
鷲 妾認読 す磨史る 解釈 批 判 学 習 としての歴 史教育 ・歴 史的事象 を説明す る歴 史解釈 を提示,獲得 をめざす○ことで修正 し,獲得 してい く○
・現代社会の問題理解 を目的 として近現代史による主題学習で授業 を棉
敬 成す るo
育 ・複数の解釈 を提示 し,それぞれ を批判的に吟味す ることで,生徒に選
の 択権 を保障 し,開かれた歴史観形成 を 目指すo
要 撃 垂 歴 定教 原 社 会 的判 断 力 の ・史 をる 決意忠 社会的に形成 された価値判断 を個人の次元に引き戻 して,認識 させ るO 育成 を 目指 す歴 ・価値判断の基準 となった価値 的知識 の形成過程 を退体験 させ ること 史教育 で,体系的な価値的知識の習得 とそれ に基づ く意思決定を行わせ るo
社 会 形成 力 の 育 ・社会科 を社会の論理 ‑社会形成力に基づいて構成す るo・社会の問題 を内容 として扱い,議論 の構造に基に討論す ることで,社
I
軍 蓋
孟
育 理 成 を 目指 す 歴 史す 教育と ・意思決定力の育成だけでな く,意思決定の際の基盤 となる基準や規範,会的合意形成 をめざすo社会形成 の育成 を 目指 した社 会科 で は,社会 の論 理 ‑批判 的デモ クラシーの論理 を社会科 の 目標, 内 容,方法 に採用す るこ とで社会 科 と社会 の関係 を兄 いだ してい る。子 どもに社会科 で育成すべ きは社会 を作 ってい く社会 形成 の力で あ る と考 え,そ のため の討論 で きる能力が市民的資質 である と考 え られ て い る。社会形成 力 の育成 だけでな く社会的判 断 をす る際 の基盤 とな る基準や規範,価値 も目標 と して扱 い, 内容 では社会 の問題 の妥協修正 を扱 うこ とで問 題 に対す る判 断過 程 を追体験 させ る よ うに し,方法 として議論 の論理 である トウール ミン図式 を用い る こ とで,討論 に よって子 ども自身 に社会的判 断 を さ せ る もの となっていた。 これ に よ り, 子 ども 自身が 社会 を作 ってい く能 力 を身 につ けることがで きる も の となってい ると言 える。
Ⅷ.社会科歴史授業構成論の類型
本研究 において は,以上の5つ の社会科歴 史授業 構成論 を,説 明 を方法原理 とす るもの と,意 思決 定 を方法原理 とす る ものに大別 した。山田氏,原 田氏, 児玉氏 は前者 であ り,溝 口氏 と池野氏 は後者 である。
社会認識 は事実 に対す る認識 と価値 に対す る認識 か ら成 ってい るが, 山田氏,原 田氏 ,児玉氏 の論 は子 どもの社会認識体制 の うち事実認識 の部分 のみ にか かわ り,溝 口氏,池野氏 の論 は,事実認識 だ けでは
(筆者作成) な く価値認識の部分 にまで踏み込 も うとす る。
説 明を原理 とす る社会化授業構成論 の特徴 として は, 2点指摘す る こ とができる。 第‑ は,説 明 を原 理 とす る歴 史教育 は社会認識体制の うち事実認識 の 側 面 にのみ関わってい くこ とで,子 どもの市民的資 質の育成 を 目指 してい る点であ る。社会科学科 とし ての歴 史教 育では社会諸科学の理論 を,理論批判学 習では中範 囲の理論 を,解釈批判学習では複数 の理 論 と解釈 を生徒 が獲得す ることに よって社会認識体 制 を成長 させ るこ とを 目指 し,価値判 断は個 々の生 徒 に委ねてい る と言 える。 第二 は,理論 の仮説性 を 認 め,授業 では理論 を批判的に吟味できるよ うに構 成 され てい る点で あるO いずれ も,理論 の仮説性 を 認 め,授 業 で生徒 自身が理論 を発 見 検証,修 正, 応用 でき るよ うに していた。社 会諸科学 を基盤 とす るか歴 史学 を基盤 とす るか,最 も間違 いの少 ない一 つ の理論 の習得 を 目指すか複数 の理論 に基づ く解釈 の比較 に重点 をお くか とい う違 い はあるが,いずれ も開かれ た社会認識 を保障す る社会科歴 史の授業構 成論 として優れた ものであると言 えよ う。
意思決定 を方法原理 とす る歴 史教育の うち,意思 決定 を手段 とす るのが社会的判 断力の育成 を 目指 し た歴史教育であ り, 目的 とす るのが社会形成 力の育 成 を 目指 した歴史教育であると言 える。
社会的判断力の育成 を 目指す歴 史教育では,社会
的判断の基準 となってい る価値 的知識 について分析 し,社会的に決 定 され成長 してい る価値判 断 を個人 の次元 に戻 して意思決定 を行 わせ よ うとす る もので あった。それ によ り体系的な価値判断 を習得 し,社 会的判断力の育成 を行お うとしていた。
一方,社会形成 力の育成 を 目指 した歴 史教育 は, 社会形成 の論理 に基づ き社会 問題 を扱い,議論 の論 理 に基づいた討論 を行 うことで社会的な合意形成 を め ざす ものであった。 それ に よ り,合意 の基盤 とな る価値 の習得や合意形成 力 を育成 しよ うとしていた のである。両者 は,市民的資質の育成 とい う点 では, 事実認識 のみでな く,価 値認識 や意思決定過 程 に も 積極 的に関わってい こ うとしてい る。意思決 定 を手 段 とす るか 目的 とす るかによって,価値認識や意思 決 定‑ の関わ り方 は違 うものの,授 業では生徒 に意 思決 定 を行わせ ,市民的資質 を育成 しよ うと してい
る点で社会科歴 史 として意義がある と言 えよ う。
最後 に,以上の考察 を表 に整 理 した ものを示 して お くこ とにす る。社会科歴 史 と しての歴 史授 業 を開 発す るに当っては, これ らの各授業構成論 の特徴 を ふ まえて,学年,学校段階 にお け る子 どもの特性や , 設 定 した教育 目標 ,取 り上げ る教材 によって適切 な
ものを選択 してい くことが求め られ るであろ う。
[注]
1)奥 山研 司 「通史学習 」森分孝治 ・片上宗二編 『社 会科重要用語300の基礎知識』明治 図書,2000年 , p.227.
2)森分孝治
「
『歴 史』独 立論 の問題性‑原理 的考察‑ 」全国社会科教 育学会 『社会科教育論叢』第34 集,1986年,p,85.
3)同上,p.86.
4)奥 山,前掲書,p.227.
5)森分,前掲書,p.87.
6)小原友行 「初期社会科 にお ける歴 史授 業論‑ 『歴 史科歴 史』か ら 『社会科歴 史』‑‑」『広島大学学 校 教育学部紀要 第 Ⅰ部』第12巻,1989年,pp.59
‑72.
7)同上,p.70.
8)森分,前掲書,p.87.
9)山田秀和 「社会科歴 史の教材構成 」社会系教科 教育学会 『社会系教科教 育学研究』第15号,2003 年,p.29.
10)山田秀和 「市民性教育のた めの社 会科学科歴史
‑ ホル ト・デー タバ ンク ・システ ム 『ア メ リカ史』
の再評価」全 国社 会科教育学会 『社会科研究
』
第 54号,2001年,p.ll.ll)山田秀和氏 の歴 史教育論 は既 に挙 げた ものの他 に,以下の文献 を参考 にま とめてい く。
・山田秀和 「社会 システ ム論 を基盤 とす る世界史 課程編成‑B.G.マ シャラス『探求に よる世界 史』
を手がか りとして」 中国四国教育学会 『教育学 研究紀要 第二部』第46巻,2000年,pp.159
‑164.
12)原 田智仁氏 の論 については,以下の文献 に基づ いてま とめてい く。
・原 田智仁 『世界 史教育 内容開発研究一理論批判 学習‑』風間書房,2000年.
13)児玉康 弘氏 の論 については,以下の文献 に基づ いてま とめてい く。
・児玉康 弘 『中等歴 史教育内容 開発研究一 開かれ た解釈学習‑』風間書房,2005年.
14)溝 口和宏氏 の論 については,以下の文献 に基づ いてま とめてい く。
・溝 口和宏 「歴 史教育 に よる社 会的判 断力の育成 (1)一 法的判 断力育成 のための歴 史教材例‑ 」 全 国社 会科 教 育学会 『社 会科研 究』1999年 , p.212.
・溝 口和宏 『現代 ア メ リカ歴 史教育改革論研究』
風間書房,2003年 .
15)池野範男氏 の論 については,以下の文献 に基づ いてま とめてい く。
・池野範男 「批判 主義 の社会科 」全国社会科教育 学会 『社会科教育』第50号,1999年,pp.61‑
70.
・池野範男 「社会形成 力の育成 一市民教育 として の社 会科」 日本社 会科教育学会 『社会科教育研 究 別冊 2000(平成12)年度 研究年報』2001 年,pp.47‑53.
・池野範男研究代表 『現代民主主義社会の市民を 育成す る歴 史授業 の開発研究』 (平成13年度〜
平成15年度科学研究費補 助金基盤研究(C)(2) 研究成果報告書)2004年 .
16)山田秀和,前掲書 (2001年),p.12.
17)同上,p.13.
18)同上,p.13.
19)同上,p.14.
20)同上,p.15.
21)同上,p.16.
22)同上,p.19.
25) ~J:, p.150. 40) ~J:, p.213.
26) [PJJ:, p.150. 41) ~J:, p.213.
27) ~J:, p. 151. 42) ~J:, p.213.
28) [PJJ:, pp.312-351. 43) ~J:, p.214.
29)
yr.3i, lWm:t:, p.27. 44) ~J:, p.214.
30) ~J:, p.30. 45) ?IJ1Jf,
lWm:t:
(2001iF), p.49.31) ~J:, p.30. 46) ~J:, p.49.
32) ~J:, p.31. 47) ~J:, p.50.
33) ~J:, p.31. 48) ~J:, p.50.
34) ~J:, p.33. 49) [PJJ:, p.50.
35) ~J:, p.31. 50) ?IJ1Jf,
lWm:t:
(2004iF), pp. 194-216.36) 1.l=l,
lWm:t:
(1999iF), p.212. 51) ~J:, p.195.37) [PJJ:, p.212.
Title : A Typing the Theories of Teaching of History as the Social Studies in Secondary School
Ikumi SATO (Graduate School of Education, Master's Course) Toshinori KUWABARA (Faculty of Education, Okayama University)
Abstract:
The Purpose of this study is to type the theories of teaching of history as the Social Studies in Secondary School, which is today discussed in the Japan Social Studies Research Association. A common traditional strategy of teaching of history has a lot of problems, that is to force students to memorize many information about historical events and to infuse a particular concept of value into the student's mind. In this paper I analyze five strategies as the theories of teaching of history as the Social Studies, that is the teaching history as social sciences education, the history study based on theory criticism, the history study based on interpretation criticism, the approach to counter-socialization through teaching history and the teaching history as social construction.
Keywords: history teaching, teaching history as the social studies, historical interpretation, sense of judgment, decision making