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November 1, 2011

青山学院大学図書館報

ISSN 1345−3505

特集 ここまで使える大学図書館

No.91

巻頭エッセイ

 本が誘う東京時空間散歩

     ………三村 優美子 2〜3

展示資料紹介

『国芳東錦絵:武者揃』…………11 図書館広報板………12

「ここまで使える大学図書館」

大学図書館という場所

     …………廣木 一人 4 図書館で辞典を読む

     …………緒方 孝文 5 図書館礼賛 ………金田 由紀子6 図書館はタイムマシン

   ――研究の歴史を訪ねよう      …………松田 憲忠 7 古色礼讃 …………和田 洋典 8 地域社会と大学図書館

     …………矢野 晋吾 9 学術雑誌のカンタン検索術      …………澤田 直宏 10 特 集

(2)

■巻頭エッセイ

図書館長  三 村 優美子

MIMURA Yumiko

趣味は何か? と尋ねられたときには、

旅とまち歩きと答えることにしている。

特に、古い面影を残す個性的な都市や 村々を地図やガイドブックを片手にゆっく りと散策するのが好きである。

トスカーナの丘のまちコルトーナの教区 博物館でフラ・アンジェリコの名画「受胎 告知」に出会ったときの感動は忘れられな い。ピエンツァから眺めたオルチャ渓谷の 風景は穏やかで心に深く染みた。ヨーロッ パには、街道を結ぶ交易拠点として栄え文 化を花開かせた魅力的なまちが多い。

日本にも商業都市として栄え、美しい景 観を残すまちがいくつもある。飛騨高山や 古川、小布施、日田、近江八幡など、今も 残る豪商の屋敷や町家の連なりは、江戸や 京都・大阪を結ぶ全国的な商業のネットワ ークを通した人々の交流と文化的蓄積の豊 かさを感じさせる。

これに対して、巨大都市東京は、日々変 貌を遂げる近代都市であり、古い趣を感じ させるものが少ない。東京オリンピックを 契機とする都市大改造や地名表示の統一な どで、江戸や明治の面影は消えている。便 利ではあるがまち歩きをしたくなるような 趣には乏しい。

このような東京への思い込みを覆したの が、陣内秀信著の『東京の空間人類学』(筑 摩書房、1985年)である。ちょうど高度成 長が終焉し、人々が自分達の日常生活空間 に関心を持ち始めた時期で、近代的で無機

質な都市ではなく、商いや文化など人間的 な営みの空間としての都市を取り戻したい との気運が高まっていた。私の研究テーマ の一つが大型店出店による地域商業の衰退

(中心部の空洞化)にあり、まちづくりに は関心を抱いていたが、多くの著作の中で、

東京を、墨田川と運河が縦横に走る「水の 都」と捉えた陣内氏の視点は極めて新鮮で あった。混沌とした東京もその空間を形づ くっている骨格が見えてくるとその表情が 一変する。

広重の浮世絵にも描かれた日本橋河岸が 江戸一の活気に溢れた商業空間であったこ とは、今の日本橋からは想像もできない。

かつて深川や墨田川河畔の情景はヴェネチ アのそれにもたとえられたという。今はビ ルが立ち並ぶ無味乾燥な地も、都市空間 を読み取る切り口

さえあれば生き生 きとその美しさが 蘇ってくるのであ る。

近代化の中で江 戸の面影が消えゆ く過程を捉え、東 京の空間再発見の 手掛かりを与えて くれたのが永井荷 風である。随筆『日 和下駄』は東京の 時空間散歩の手引

本 が 誘 う 東 京 時 空 間 散 歩

『東京の空間人類学』陣内秀信著

(相 519.8/J2-4)筑摩書房

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書として今も人気がある。1910年代から 1930年代にかけて急速に変わりゆく東京の 情景を写した永井荷風の世界を、『断腸亭 日乗』をもとに描いたのが川本三郎著の『荷 風と東京』(都市出版、1996年)である。

荷風は、住まいのある麻布市兵衛町(現 在、六本木一丁目)から銀座によく出かけ ていたが、ここで登場する昭和初期の銀座 風景は興味深い。1931年(昭和6年)から 1932年(昭和7年)にかけて、松屋、三越、

松坂屋の三つの百貨店が出揃い、尾張町(銀 座四丁目)の角に服部時計店ができて銀座 の新しいシンボルになったとある。銀座線 も開通し、銀座が繁栄していく様が伝わっ てくる。

偏奇館と称した荷風の住居は、六本木ア ークヒルズから飯倉に向かう道を左に折れ た道源寺坂付近という。今は再開発で様相 は一変しており、本の世界を借りて時空間 散歩を試みるしかない。

荷風が描いた大正から昭和初期の東京 は、新しい消費文化が華やかに咲き誇った 時期である。その主役となったのが百貨店 である。今日、百貨店は保守的な小売業と みなされているが、日本の百貨店が世界的 にみて極めて独自性の高い存在であること は理解されるべきである。そのことをよく 示すのが、初田亨著の『百貨店の誕生―都 市文化の近代』(筑摩書房、1999年)である。

初田氏の著書の面白さは、百貨店を経営 的視点からではなく、都市空間と都市の商 業文化との関連で捉えていることである。

近代的百貨店の始まりと言われるパリのボ ン・マルシェ(創業1852年)は、19世紀後 半のパリの大改造と消費文化を背景に成長 していった。パリの有名百貨店の建物は、

今でもベル・エポックと呼ばれた時代の雰 囲気を残している。

三越に代表される日本の百貨店も、大正 から昭和初期の消費社会の変化をうまく取 り入れることで成長した。三越は、1914年

(大正3年)に、日本橋の地に“東洋一”

と謳われた華麗な店舗を建設している。内 部は5階まで吹き抜けで、天井にはトップ ライトが設けられステンドグラスを通して 光が降り注いでいた。“今日は帝劇、明日 は三越”という有名な広告コピーが発信さ れたのは1914年であるが、百貨店は、人々 の社交の場、まち歩きの拠点としての地位 を確立したのである。この本は、日本の百 貨店の歴史と本質を理解するうえでも参考 になる。

読書とまち歩き、一見無関係にみえるか もしれないが、時間を超えたまち歩きには 本の助けが必要である。

図書館で、東京時空間散歩を楽しんでみ てはいかがでしょうか。

(経営学部教授 マーケティング・流通)

『百貨店の誕生』初田亨著 筑摩書房

(青 673.8/H7-2)(相 673.8/H7-2)

(4)

HIROKI Kazuhito

大学図書館という場所

一年ほど前、チェコのプラハを訪れる機会があった。世界的な観光拠点であるプラハ城 から石畳の道をだらだらと登ったところに、ストラホフ修道院がある。中世の重厚な建物 群の中に神学の間、哲学の間と呼ばれている図書室がある。二階ほどの高さのある天井に はフレスコ画が描かれ、部屋の壁全面に書架が据えつけられていて、皮表紙の書籍がぎっ しりと収められている。

ヒトがヒトたるゆえんが何であるのかについては多様な見解があるが、その一つとして、

言語を媒介とした知の蓄積ということが挙げられるのは確かなことだと思う。その目に見 える具体的な表れが書籍である。本を手にした時、われわれは他の動物とは違うことを認 識する。その本の集積に取り囲まれた時、敬虔な思いにとらわれる。

残念ながら現代の学生の多くが書籍に囲まれた自室を持つのは困難なことと思う。しか し、大学の図書館はその渇望を満たしてくれるに違いない。学生にとって大学図書館は自 分の書斎となる。その書斎で熱心に本を読めとだけ言っているのではない。冒頭に紹介し た修道院の図書室でわたしは背表紙を眺めただけである。それでもよいのである。それが 知へ向かう出発点である。厖大な書の中で、居眠りをするのもいいかも知れない。もし、

人間とは何か、人生をどう生きたらよいか等々、勿論、勉学に関しても、思い悩んだ時に は図書館に籠ればよい。本の背表紙が何かを示唆してくれるに違いない。忙しい日々に疲 れた時にはゆりかごになることであろう。人類の英知がいやしてくれる。

そのためには、図書館は文字どおり知の「やかた」たるべきである。現在のわが校の図 書館はその点では物足りない。ストラホフ修道院ほどとはいかなくとも、せめて一部屋で も重厚な、人類の歩みに慄然とするような雰囲気を持つところを作り、学生の贅沢な知の ゆりかごにしてほしいと思う。書香の家という言葉がある。書の香りのする家ということ である。学生は図書館でその香りに浸ってほしい。大学の方はそのような香りのする場所 を是非とも学生に提供してもらいたい。

(文学部教授 日本中世文学)

廣 木 一 人

HIROKI Kazuhito

大学図書館という場所

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特集 特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館 こ こ ま で 使 え る

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OGATA Takafumi

図書館で辞典を読む

フランスやイタリアに遅れること約一世紀、イギリスで編纂されたはじめての本格的な 辞典は、サミュエル・ジョンソンの『英語辞典』(1755年)であった。十八世紀イギリスの 帝国主義的発展のなかにあって、イングリッシュネスを堂々と主張できる主要な辞典がな いことは致命的で、デフォーやスウィフトをはじめとする作家や知識人たちは、国を挙げ てアカデミーを創設する気配が一向にないことを憂いていた。スポンサーや写学生をかろ うじて確保したとはいえ、実質的にはジョンソンひとりで完遂した『英語辞典』の執筆と 編纂は、単なる個人的偉業ではなく、国家的威信をかけた大事業だったのである。

後に出版されたジェイムズ・ボズウェルの『サミュエル・ジョンソン伝』から受ける奇 人のイメージや、辞典のなかに見られる数々の独断と偏見に満ちた語義の記述などから、『英 語辞典』の滑稽な点ばかりがよく語られるが、辞典作りにおけるジョンソンの一貫した主 張は、教育的で教養に富む例文を厳選しようとする姿勢に窺える。『英語辞典』が「本格的」

な所以は文学・哲学・科学・医学などありとあらゆる分野の莫大な量の著作から抜粋した 例文にあるが、それらは美的かつ道徳的であるべきという確固とした趣旨に基づいている。

その結果、イギリス国内外の近代作家・執筆家の多くにとって、『英語辞典』はただ意味を

「引く」だけのものではなく、引用文例集、名文集、箴言集たるべく「読む」文学としての 扱いを受けた。

どこの図書館でも各国語の辞典・事典類の書架が入口近くにあるのは、利便性だけのた めではない。文化・社会・国家(個人的レベルで言えば人格)形成のもっとも基礎となる 言葉の宝庫が、図書館の入口近くにあることは極めて象徴的である。電子辞書という近代 の名機を携えるのもよいが、たまには図書館まで足を運び、数ある紙の辞典を手にして暫 し例文を渉猟する法悦に浸ってみたい。客観的であるべきとされる辞典にもそれぞれ顔が あり、時代の、社会の、編集者の主張があることに気づくはずである。

(教育人間科学部教授 イギリス文学)

緒 方 孝 文

OGATA Takafumi

図書館で辞典を読む

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特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館

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特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館

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子供の頃から本好きだった。地方の小学校では、図書館は大きな部屋ひとつだったかもし れない。『赤毛のアン』、『秘密の花園』、『小公子』、『ビルマの竪琴』、『海底2万マイル』、『キ ュリー夫人』(伝記)等々愛読し、きわめて健全な小学生だった。図書館の司書のお兄さんは、

学校一の知識人だと小学生ながらに感じ、とても尊敬していた。本をたくさん読んでいる方 で、教室の勉強以外の話が聞けたせいかもしれない。

初めてのアメリカ留学では、図書館の書棚を見て感動した。英文学専攻で、本場なのだ から参考文献が全部そろっているのは当然だったかもしれない。しかし、30年近く前のこと で、アマゾンもインターネット検索もなく、日本で外国文学を専攻するために、コツコツと 専門書を集めるのが大事業の時代だった。

同じ留学時、英語漬けの大学院生活は、時に気が狂いそうになった。乾いた喉が水を欲 しがるように、日本語に焦れた。図書館の日本学コーナーで目ぼしいのは、まだ『日本文学 全集』だけで、これを片端から読むことになった。就寝前の一時間、母国語に包まれ抱かれて、

そのまま眠りに落ちた。この癒し読書は、後に、図らずも私の知的財産になった。

10年程前、先輩教授に「地元公立図書館はいいよ」とお教えいただいてから、自宅から 徒歩圏内の市立図書館を時々愛用している。学生さんにも、住民票のある地元公立図書館 をお勧めしている。コンパクトな空間に、全集、各専門書、文庫本、各種雑誌など並べられ、

使いやすい。文庫本一冊でも、買わずに借りられるのは、エコ・ライフでもある。

前書きが長くなったが、本命は、わが青山学院大学図書館である。この夏、本学図書館に、

(というよりは正確に言えば)参考係の方々に、大変お世話になった。改めて図書館の有り 難さが身に沁みて、自分のささやかな図書館遍歴を思い出した。

専門分野の論文執筆には、現在では、データベースと電子ジャーナルは不可欠だ。パソ コン上に本学図書館のページを開くと、「データベース」または「電子ジャーナル」という 項目があり、自分の ID とパスワードを入れると、お目当ての学術論文や関連記事が、自宅 からでも抜出印刷できる。大学院生以上の研究者は、日常的に使っているシステムで、今更 かもしれない。しかし、案外、電子ジャーナルから簡単に資料を取り出せないケースがいく つかあり、参考係の方々の技能に、大いに助けていただいた。大変親切に丁寧に対応して いただき、わが大学の有能な図書館スタッフの方々に感謝の夏であった。

図書館に入ると、真正面奥に「レファレンス・カウンター」があり、そこにいらっしゃるの が参考係の方々である。データベース等以外の件でも、図書館の使い方に関して、何でも 相談に乗っていただけるとのことである。大学院の学生さんはもちろんのこと、学部生の学 生さんにも、大変に心強い味方である。

近年の IT 革命のおかげで、図書館の書棚に直に行かなくても、また外国の大学に出向か ないでも、かなりの情報と資料が入手しやすくなった。しかし、活字文化は、消滅しないで あろう。書棚から、直接、手に取ってみる本の感触は格別だ。IT 資料を管理・提供するの も図書館だが、紙媒体の本物の本が並んだ昔ながらの図書館の存在価値も、for ever である。

(経済学部教授 アメリカ文学、アメリカ美術、比較文学)

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特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館

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特集 こ こ ま で 使 え る

図 書 館 礼 賛

金 田 由紀子

KANEDA Yukiko

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松 田 憲 忠

MATSUDA Noritada

学生の皆さんは、ゼミ等において各自関心のあるテーマについて研究する際に、研究に おける重要なステップとして「先行研究のレビュー(確認・整理)」を耳にしてきたことで しょう。先行研究のレビューとは、研究の歴史を訪ねることに他なりません。あるテーマ をめぐる研究の歴史を辿ることは、そのテーマに関してこれまで見落とされてきた重要な 謎(リサーチ・クエスチョン)の発見を促します。また、過去の研究の成果は、次の研究 における主張を支える根拠・論拠としても機能します。

では、先行研究はどのように見つけ出せるのでしょうか。この問題の解決策の1つが、

図書館の利用です。多くの図書館では蔵書のデータベースが公開されており、例えば、キ ーワード等によるデータベース検索を活用して、そのテーマを研究した書籍に出会うこと ができます。

研究の歴史の把握には、書籍を当たるだけでは不十分です。最新の研究成果はジャーナ ル(学術雑誌等)の掲載論文のなかで公表されることが多く、さらに学問領域によっては、

研究成果は論文での公開に止まり、書籍として出版されることは稀な場合もあるため、ジ ャーナル掲載の論文を調べることが必要となります。しかしながら、刊行されるジャーナ ルの数は膨大であり、しかも先述の蔵書のデータベースには論文検索の機能は通常含まれ ません。そこで今日広く活用されているのが、電子ジャーナルのデータベースです。それは、

紙媒体ではなく電子ファイルとして保存されたジャーナルをデータベース化したものです。

電子ジャーナルのデータベースの利用料は一般に高額であるため、個人が利用契約を結ぶ のは現実的に難しいのですが、近年、大学図書館等で複数の電子ジャーナルのデータベー スが利用できるようになってきています。電子ジャーナルのデータベースでは、蔵書のデ ータベースと同様に、キーワード等による検索によって、研究テーマに関連する論文が抽 出されます。また各ジャーナルの目次や概要もデータベース上で確認できることも、先行 研究の概観を容易にします。私自身、アメリカの大学院留学中に、教授のリサーチ・アシ スタントとして、電子ジャーナルの目次や概要に一通り目を通す作業をしたことは、研究 の歴史の確認や整理に大きく役立ちました。

このように、図書館は研究の歴史の世界へと誘うタイムマシンとしての役割を果たすの です。青山学院大学のタイムマシンには、蔵書のデータベースは勿論のこと、多くの電子 ジャーナルのデータベースも搭載されています。さらに、これらのデータベースには、図 書館からだけでなく、家や外出先からでもパソコン等を使ってアクセスすることができる ようになっています。好きな時間に好きな場所から青山学院大学のタイムマシンに乗り込 んで、研究の歴史を訪ねてみましょう。

(法学部准教授 政治学)

特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館

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特集 こ こ ま で 使 え る

図書館はタイムマシン

―― 研究の歴史を訪ねよう

大 学 図 書 館

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和 田 洋 典

WADA Hironori

大学図書館に求めるもの。そういうと、ふつうは今後ま すます進展する IT 化に対応した書籍・論文データベース や各種情報機器といったものが筆頭にあがってくるだろ う。だが、それらの効用を否定するつもりはないものの、

図書館のベクトルは未来ではなく過去に向いていてほしい と思う。

学生時代のバイト先にいた本学大学院生の修士論文が所 蔵されていると知ったときは感激したものである(さすが に悪趣味と思い閲覧はしかねたが)。文学作品に描かれる 図書館をみても、その本質的な役割の一つが世間の時間の 流れから隔絶した空間を保つことだという思いを強くす る。村上春樹の『海辺のカフカ』における甲村図書館。カ フカ少年の母親の役割を引き受けているかにみえる佐伯さ

んという中年女性が、いわれのない暴力により若くして亡くなった恋人との時間を過ごす 場所である。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の夢を貯蔵する神秘的な図 書館。そこで時間の流れは止まり、あるいは逆流している。夏目漱石『三四郎』で主人公 が図書館の本に昔の学生がヘーゲルについて熱く語った書込みを見つけるくだりも印象的 だ。東京の目まぐるしさに食傷した三四郎も、図書館に束の間の安寧を見出したのではな いだろうか。

大学の研究生活について僧院に喩えられることがよくあるが、図書館こそ修行の中核た るべき場所だろう。入った瞬間から、俗念に別れを告げさせ、静けさの中で神聖な研究に いそしむことこそわが人生という気分に、たとえ一時にせよさせてくれなければならない。

そうした図書館が備えていてほしいのは、にぎやかな外部世界と内部空間を隔てる鬱蒼 と茂った樹木(この点は正門からの銀杏並木を経て大きな欅の木がエントランスで迎えて くれる本学の図書館は満点といえようか)。古い本の醸すかび臭い匂いも必須だ。ないもの ねだりを承知でいえば、敷地内に天気のよい日にちょっと本を読めるような人通りの少な い木陰のベンチがあればいうことはない。

(国際政治経済学部助教 政治経済)

『海辺のカフカ』村上春樹著

(青 913.7/M40-22/1〜2)新潮社

(相 913.6/MU43U/V.1〜2

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古 色 礼 讃 特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館

(9)

「調査は図書館から始まる」。地域研究者が、しばしば口にするフレーズである。図書館 に籠もり、徹底的な資料の収集・吟味をした上で現場に入ってこそ、初めて実りある成果 が得られるという意味が込められている。

多くの地域研究者と同様と思うが、初めて訪れた街で、図書館に立ち寄るのが癖となった。

地域資料の棚を覗き、その地域をテーマに書かれた短い記事や論文までひとつひとつ複写・

製本を行い揃えられている光景に出会うと、その地の文化の深さの一端に出会った感慨に 浸ることが出来る。時には、ある時期まで丹念な収集をしているにも関わらず、近年の資 料が未収集となっていることがある。かつて地域資料収集に熱心だった司書の方がおられ たが、その仕事が引き継がれなかったのであろう。地域資料は時間をかけながら、幅広い 視野で目配りをして、根気よく集めなければならない、やっかいな資料でもある。

昨年度から「社会調査実習」の一環で、大学近隣の町内会でフィールドワークを開始した。

総合文化政策学部では、社会調査の知識や技術を身につけた「社会調査士」資格の取得プ ログラムを設置している。その学びの“肝”が社会調査実習で、学生が現場で調査を企画・

実施し、報告書執筆までを行う。私が担当するクラスは、主として町会行事等の参与観察 とインタビュー調査を中心に行っている。

昨年、今年と授業開始時には、「調査は図書館から始まる」ということで、学生に渋谷に 関する資料収集を課した。ところが、学生からまず発せられる言葉は「大学図書館に資料 がない」というものである。当初、渋谷の地で130年もお世話になっている学校なのだから、

膨大な資料の蓄積があるに違いないと思っていたのだが、行政資料さえ揃っていないこと に驚かされた。

これは、教育効果からすれば、ありがたいことであった。というのは、学内に資料がな いため、否が応でも地域や他大学の図書館、区役所などに足を運ばざるを得ないからだ。

自分の足で歩き、棚に目を凝らし、担当の方に話しかけて資料を探すことは、貴重な体験 となった。

とはいえ、永年にわたって大学が本拠としてきた地域についての資料は、何らかの形で 整備するべきであろうとも思う。地元町内会の方と交流するなかで、地域の人々が本学に 対して親近感を持って下さっていることがよく伝わってくる。その“片思い”に、大学図 書館が応えられることもあるのではなかろうか。

他大学では、大学所在地域の在住者に開放するなど一般公開を始めた例も少なくない。

一定の基準を定めたうえで、地域住民の方々に大学の知的資産を活用していただくような 仕組みも、将来的には考えてもよいのではなかろうか。そうした交流の中で、地域と大学 が共有すべき資料を蓄積してゆくことも、大学図書館の役割の一つかもしれない。

(総合文化政策学部准教授 村落社会学・環境社会学)

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地域社会と大学図書館

矢 野 晋 吾

YANO Shingo

特集 こ こ ま で 使 え る 大 学 図 書 館

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澤 田 直 宏

SAWADA Naohiro

インターネットの検索サイトで有名な Google Inc.ですが、単なる検索サイトにとどまらず 様々な革新的サービスを提供しています。今回ご紹介するのは「Google Scholar」という 学術文献の検索専用サイトです。

近年、多くの学術雑誌が電子化され、「電子ジャーナル」 として PC から PDF ファイル にて閲覧・ダウンロードすることが可能になりました(日本の学術雑誌は電子化が遅れて いるのが残念ですが…)。本学でも図書館ホームページである「AURORA e-resources」に 本学が契約している 「電子ジャーナル」 の一覧が掲載されています。本学における電子ジ ャーナルの契約は多岐に及び、私の専門分野である経営・経済系の主要な学術雑誌はほぼ網 羅されています。

では、電子ジャーナルを閲覧する際に大学構内の PC にて「AURORA e-resources」にア クセスし、いちいち雑誌のタイトルと掲載された論文名を見ながら読みたい雑誌を探す方 法しかないのでしょうか。ここで「Google Scholar」が威力を発揮します。Google Inc. は

「世界中の情報を整理」 することを使命としておりますが、学術雑誌の世界でも 「整理」 を 進めています。

「Google Scholar」にて調べたい内容のキーワードを入力すれば、キーワードに最も関連 性が高いと判断された順番で学術雑誌が自動的に検索されます。学内であれば、同サイト から検索された電子ジャーナルにリンクが貼られているので、簡単に目的の論文を読むこ とができます。さらに本学のネットワークにリモートアクセスすれば、自宅からでも電子 ジャーナルを PDF ファイルにて閲覧することが可能です。

とても便利な機能ですのでレポートや卒業論文の執筆の際に利用してみてはいかがでし ょうか。なお、情報技術のイノベーションはとても速いので、新たな手段が開発されるか もしれません。生産性を高めるためにも時々自分で確認したり、詳しい人に聞いてみるよ うにしてください。また、ここでは、一例として「Google Scholar」を紹介しましたが、

その他にも、収録されている論文件数がより多い「CiNii」や「ProQuest」などの便利な検 索システムがありますので、積極的に活用してください。最後に、学術雑誌はあくまで著 作物ですので引用のルールを必ず守ってください。

※自宅から AURORA e-resources にアクセスする方法

図書館 HP → My Library Portal にログイン→データベース一覧の A-Z リストの“A”から“AURORA e-resources”を選択する

(国際マネジメント研究科准教授 経営学、経営戦略論)

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学術雑誌のカンタン検索術

特集 ここまで使える大学図書館

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『国芳東錦絵:武者揃』

1冊37㎝折本(出版者・刊行年など詳細不明)

錦絵とは版画としての名称で多色摺り の華麗な木版画です。この資料には、4 人の作品が収められています。二代目歌 川豊国(国貞)15枚、歌川国芳91枚、

国輝3枚、芳虎3枚の合計112枚の色鮮 やかな浮世絵の数々です。ご存知の人物 が た く さ ん 描 か

れていますので、

想 像 し て い た 姿 と 比 較 し て み て はいかがですか。

本館1階の展示ケースに11月から 来年1月まで展示いたします。なお、

以前に「AGULI73号」でも紹介して いますので、図書館ホームページを ご覧ください。

(本館広報タスク)

源 義経

上杉謙信

武田信玄

武蔵坊弁慶

手越の少将

大礒の虎御前

鞆繪女

平 重盛

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図 書 館 広 報 板

ガイダンスのお知らせ

編 集 後 記

 私が愛読しているユダヤ系文学より図書館利用に関するエピソードを一つ。アメリカに移民した ばかりのユダヤ人の母親は、英語を一言も話せなかったが、急いで公立図書館へと向かい、指を1、

2、3本と立てて、彼女の3人の子供用に図書館利用カードが欲しいと訴えたという。(佐川和茂)

青山学院スクール・モットー 地の塩、世の光 The Salt of the Earth、The Light of the World 青山学院大学図書館報 AGULI 第91号 2011年11月 1 日発行

編集 青山学院大学図書館報編集委員会・大学図書館広報担当 TEL.03-3499-1402 FAX.03-3407-4472 発行 青山学院大学図書館 〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25 http://www.agulin.aoyama.ac.jp/

本館 青山キャンパス

◆後期オリエンテーション

2011年度卒論・修論・博論提出予定者を対象に個別講習会を行います。参加される方は、事前予約時 に、ご要望などを担当者へご相談ください。※申込みは、予約希望日の2日前まで受け付けます。

個別講習(予約制)

EBSCOhost ProQuest

11/8(火)

11/10(木)

11/1(火)〜11/5(土)

集合場所:図書館 1 Fマルチメディア室 9:30〜20:00

(1日3組限定)

集合場所:

図書館1Fレファレンスカウンター

15:00〜16:30 卒論対策!資料の探し方個別講習

2011年度後期 大学図書館データベースマラソン

万代記念図書館 相模原キャンパス

レポート・プレゼンに役立つ情報探索ナビ

レポート作成やプレゼンテーションに役立つ情報や資料の探し方を説明します。基本的な資料の 探し方の他、論文・記事、企業情報、統計データ、新聞記事の5つのテーマごとに説明します。

所要時間は45〜60分です。

・基本的な資料の探し方 レポート作成の手順と、図書、雑誌論文、新聞記事の探し方を説明し ます。全体の流れを知りたい人にオススメです。 

・論文・記事の探し方  授業の課題で「論文を参考にする事」と言われたことはありません か? 論文や雑誌記事の探し方と入手方法を実習しながら説明します。

・企業情報の探し方   授業の課題にはもちろん、就職活動にも活用できる企業情報の探し方 と、便利なデータベースを紹介します。

・統計データの探し方  プレゼンやディベートで根拠となる数値が必要になることはありませ んか? 知っているととても便利なのが統計情報です。

・新聞記事の探し方   最新情報を得るなら新聞記事です。

      戦前の古い記事から最近まで、時系列で情報を追うこともできます。

11月14日(月)

11月15日(火)

11月16日(水)

11月17日(木)

11月18日(金)

11月19日(土)

※ 各回、定員8名です。2階レファレンスカウンターにお申し込みください。定員になり次第、締め切ります。

  なお、席に余裕があれば当日参加も可能です。

基本的な資料 企業情報 新聞記事

統計データ 論文・記事

基本的な資料

基本的な資料

新聞記事 企業情報

統計データ 論文・記事 企業情報

基本的な資料 統計データ 新聞記事

企業情報 論文・記事

11:00〜 13:00〜 15:00〜 17:00〜

会場:万代記念図書館 3 階グループ学習室A

図書館で不要になった本および雑誌を利用者に無料で提供します。

青  山キャンパス

開催日時 12月 1 日(木)〜12月 7 日(水)

     平日/9:30〜21:00 土/9:30〜20:30 日/12:30〜18:30 会  場 図書館 3 階グループ閲覧室B

リサイクル・ブック・フェアのお知らせ

13:30〜14:30

◆後期データベース講習会

各データベースの提供元から講師を招いて、データベースの操作方法、検索のコツなどをご紹介し ます。学生、教職員はどなたでも参加できます。開始時刻までに集合場所へお越しください。

基本的な資料

編 集 後 記

編 集 後 記

参照

関連したドキュメント

平岡正明氏の『山口百恵は菩薩である』 (講 談社、昭和 54)をいつ読んだのかは、とても

必ず、 『たくさん本がありますね。先生は全 部読んだのですか?』と尋ねる。 そのとき

従って、運慶(?− 1223 年)が生存していたとき には護国寺(1681

いる」 (石塚,2005)と説明される。  さらに「幻の札幌大学文化学部

 私の修士論文の研究テーマをお話してもしかたないのですが、ジェームズ・フォレス

ノーベル化学賞受賞者・野依氏の危惧

 幸いにして、 わが関西大学図書館は、 これまでにも、 そうした学術上きわめて意義深い

私たちが行っているのはカウンター業務だと申し上げましたが、ではカウンター業務とい