日本小児循環器学会雑誌 12巻3号 437〜439頁(199. 6/rTi)
Editorial Comment
バルーン拡大術後の再狭窄について
東京女子医科大学循環器小児科 中西 敏雄
Ji:埜利博他 大動脈縮窄症におけるバルーン拡張術後再狭窄の成因 小児循環器学会雑誌1996 2 428 436に対するEditorial Commelit
内科領域ではバルーン拡張術後再狭窄の成因に関する多くの研究がなされているD.成人冠動脈狭窄に対す るバルーン拡張術後,30〜50%の症例に再狭窄が発生する.そしてそれは2〜3カ月後に認められることが多 い.内科領域の研究の多くは動脈硬化を起こした血管でなされており,必ずしも小児の血管と同じでない可能 性がある.井埜論文は,幼犬を用いてバルーン拡張術後再狭窄の成因について研究した点で意義あると考える.
本稿ではバルーン拡張術後再狭窄の成因についての内科領域の研究をまとめて,読者の参考に供したい.
井埜論文でも述べられている様に,再狭窄の機序として,1)elastic recoil(血管の弾性のため再び縮小して しまう)と,2)intimal hyperplasia(内膜肥厚)が知られている. Elastic recoilを防止するためには,現在 のところステントが最も有効であるが,大動脈に用いるには多くの制約がある.Intimal hyperplasiaについて は今後小児血管での基礎的研究が必要である.また一般に,小児におけるカテーテル治療における中期一遠隔 期の成績は未だ不明の点が多く,今後の課題である.
1.正常の内膜
動脈の内膜は内皮細胞から内弾性板までで,内弾性板は中膜の一部である(図1).正常の内膜の厚さは様々 で,内膜:中膜の比は0.1〜1.0である2).内膜の最も管腔側には内皮細胞が存在し,その機能は周知のごとくで ある.内膜の構造上,内皮細胞の外側は2層に分かれることもある.内腔側はproteoglycan layerで,外側は niug. culoelastic layerである.それらの内膜には平滑筋細胞が存在する.1 roteoglycan layer Cこは粗面小胞体 に富む平滑筋細胞(syllthetic type)が存在し, musculoelastic layerには筋原線維に富む平滑筋細胞(contrac−
tile type)が存在する.
1 i滑筋細胞の間はextracellular matrixが埋め, eXtracellular matrixは内膜の容積の60%近くを占める.
Extracelllllar matrixは, proteoglycan(cholldroitin sulphateなど), collagen(type IとIIIが多い), elastin,
fil)rollectillなどであり,それらは内皮細胞や ド滑筋細胞により産生される.新生児期には内膜の厚さが増加し
平滑筋細胞
図1 正常動脈の構造.内膜は1層の内皮細胞と,そ の外側の平滑筋やextracellular matrixからなる 層で構成される.
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438− (48) 日小循誌 12(3),1996
平滑筋緬胞、
φ φ
平滑筋細胞
血小板付着、血栓形成 平滑筋細胞の遊走
内膜、中膜の損傷、断裂 増殖因子の放出 Extracellular matrixの産生 炎症細胞の遊走 内皮細胞の修復
図2 血管再狭窄の機序.再狭窄は,1)平滑筋細胞の遊走と,2)extracellular matrixの産生に よる内膜肥厚によりおこる.
表1 主な増殖因子
働 き
PDGF 平滑筋細胞の遊走,増殖
TGFβ Extracelhllar Matrixl1の産生増加,内皮細胞増殖 抑制
EGF 平滑筋細胞の遊走,増殖
FGF 内皮細胞の増殖
PDGF:1〔n小板由来成長因子, TGFβ:Transforming成長 因子β,EGF:表皮成長因子, FGF:線維芽細胞成長因子
表2 増殖因子の産生
増殖因子
PDGF FGF TGF・beta EGF
血小板
単球,マクロファージ 内皮細胞
γ滑筋
⊥
十⊥ヰ
:十十
寸⊥斗一 十ニー
略号は表1と同じ,斗:産生あり,一:産生が知られていな い.(文献2)
ていることが知られている.
2.内膜肥厚の成因
成人冠動脈狭窄に対するバルーン拡張術後,ほぼ全例に内膜損傷が認められるという.小児のバルーン拡張 術後も同様であると思われる.また中膜の損傷(過伸展,断裂)も起こる可能性がある.バルーン拡張術後の 内膜肥厚の引き金は,内膜剥離と中膜損傷であると推測されている(図2).
内膜損傷により血小板が付着し,血栓が形成される.血小板や単球から増殖因子が放出される.増殖因子に は表1に示すごとく,多種あり,しかも作用は重複しているがPDGF, TGF一βなどが重要視されている.増殖 因子が産生される細胞も単一ではなく,血小板,内皮細胞,平滑筋細胞,炎症細胞などで産生される(表2).
刺激に反応して中膜の平滑筋細胞がcontractile typeからsynthetic typeに変わり,中膜からsyntheticタイ プの平滑筋細胞が内膜側へ遊走してきて増強する(図2).また内皮細胞や平滑筋細胞によるextracellular matrixの産生が増加する.増加するおもなextracellular matrixは, proteoglycanやcollagenである3) ).内 皮細胞が損傷部位を覆えば,平滑筋細胞の増殖は止るが,extracellular matrixの産生はしばらく続く.平滑 筋細胞の増殖と,extracellular matrixの増加が内膜肥厚の原因で,内膜肥厚により再狭窄がもたらされる.
内膜損傷が小さな領域に限局すれば,すぐ(数日で)内皮細胞は修復され,内膜肥厚は起こらない場合もあ る.しかし内皮細胞は距離的には10mm位しか延びないという報告もある.大動脈縮窄症に対するバルーン拡 大でどれだけの内膜損傷が起こるか不明であるが,2cmのバルーンを用いれば,少なくともそれだけの内膜剥 離が起こる可能性がある.
3.予防,治療
大動脈縮窄症に対するバルーン拡張術後,再狭窄は1/3位の症例に起こる可能性がある.これは成人の冠動脈 における統計に類似している.その機序は井埜論文でも完全に明らかになったわけではない.大動脈縮窄症に
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}勺※i8イト5戊]llI 439 (49)
表3 成人における冠動脈再狭窄予防の試み
薬物 Placeboと
の有意差 抗血栓
抗血小板
抗炎症
平滑筋細胞増殖
Aspirin なし Dipyridamole なし S. teroid なし 魚油(EPA) あり?
ヘバリン なし ACE阻害剤 なし 抗アレルギー薬(トラニラスト) あり?
効果あり,なし については,文献から私見として判定した
大雑把なものである.
対するバルーン拡張術後の再狭窄が予防できるのかは今後の課題である.成人冠動脈狭窄で,薬物による再狭 窄予防の試みがなされている(表3)5).決定的な薬物治療はないと言ってよいであろう.内服による予防のみ ならず,カテーテルによる遺伝子導入による予防の試みもなされている.その主な標的は,内膜肥厚の抑制あ るいは内皮細胞修復の促進である6).
また薬物療法や遺伝子治療の研究のみならず,現在行なっているバルーン拡大術の方法の検討も行なう必要 がある.即ち,再狭窄を少なくするための至適なカテーテルの大きさ,至適な内膜一中膜損傷の大きさなどを 検討する必要がある.
4.結論
小児におけるカテーテル治療における中期一遠隔期の成績を明らかにする必要がある.バルーン拡大後の再 狭窄の頻度と再狭窄の機序の研究をすすめる必要がある.また予防の臨床的,基礎的研究をすすめる必要があ
る.
文 献
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2)Stary HC, Blankenhorn DH, Chandler B、 Glagov S, Insull WJr、 Richardson M, Rosenfelt ME, Schaffer SA,
Schwartz CJ, Wagner WD, Wissler RW:Adefinition of the intima of human arteries and of its atherosclerosis−prone regions、 Circulatioll 1992;85:391−405
3)Casscells W:Growth factor therapies for vascular injury and ischemia. Circulation l995;91:2699−2702 4)Kariln MA, Miller DD, Farrar MA, Elefther{ades E, Reddy BH, Breland CM, Samarel AM:Histomor−
phometric and biochemical correlates of arterial procollagen gene expression during vascular repair after experimental angioplasty. Circulation 1995;91:2049−2057
5)梅村和夫:PTCA後の再狭窄:薬物治療の可能性.血管と内皮 1996;6:56 63 6)上野 光:PTCA後再狭窄の遺伝子治療.医学のあゆみ 1995;172:599605
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