日本小児循環器学会雑誌 14巻3号 424〜425頁(1998年)
<Editorial Comment>
拡張,蛇行を示す動脈管
北里大学医学部小児科 平石 聰 佐藤氏らの論文1)は,動脈管に関する興味深い知見を示すと共に,我々に新たな疑問を投げかけている.著者 らが観察した動脈管の特徴は次のようなものであった.①胎児期より肺動脈分岐部から拡張,蛇行しながら上 行し,大動脈弓部を超えた位置で反転後,下行大動脈に連結した.②出生後1時間目に,動脈管の大動脈端側
より閉鎖に向かう初期変化が出現し,14時間目に機能的に閉鎖した.また,大動脈,肺動脈を含め,心・血管 系に明らかな異常はなかった.
筆者は,本症例にみられた動脈管に関して,若干のコメントと考察を加えてみたい.
1.動脈管瘤(aneurysm of the ductus arteriosus)との関連とおよび拡張,蛇行機転について
動脈管瘤の報告は,文献上70例を超えており,実際の頻度はそれをはるかに上まわるものと思われる.近年,
胎児エコー検査が行われるようになり,動脈管瘤が胎児期に発生することが明らかとなってきた2)3).また,そ の報告例の中に動脈管が蛇行を示すものもみられる.しかも,自然閉鎖が予想より高頻度におこることも示唆 されている.佐藤氏らが観察した動脈管は,従来の動脈管瘤の報告に較べその長径が長く蛇行も強いという印 象をうけるが,筆者は同じスペクトムの病態ではないかと推測する.
それでは,なぜ,拡張,蛇行を示す動脈管が発生するのであろうか.Lundら2)は,動脈管瘤に肝の血管腫(1 例),Galene静脈瘤(1例)を合併した症例を報告し,胎生期の動脈管内血流の増加を示唆している.他にこ の様な報告はみられないが,興味深い仮説であり,特に臨床においては注意すべき報告であろう.一方,肺動 脈閉塞型の先天性心疾患において,大動脈弓部下面から起始する動脈管は,拡張,蛇行を示し肺動脈分岐部あ るいは左,右肺動脈近位部に連結する.この疾患群では,動脈管の位置異常と血流量,血流方向が拡張,蛇行 の機転に関与する可能性をうかがわせる.先天性心疾患のない症例では,佐藤氏らが示唆する如く,左第6鯉 弓末梢部の発生分化過程の異常が先行するのかあるいは同部の血流様式の異常が関与するのか明らかではな い.筆者は,胎児エコー検査による経時的観察がその解明の糸口となることを期待している.
2.閉鎖に向かう動脈管について
動脈管の出生後の転帰として,閉鎖する動脈管(delayed closureおよび未熟児動脈管を含む)と3カ月以降 においても開存を続ける動脈管( 動脈管開存症 )に区別される.GITTENBERGER−DE−GROOT4)は,動脈 管開存症と閉鎖する動脈管の問に内膜下弾性板の存在などの組織学的差異がみられることを指摘したが,いま だ追試の報告はない.一方,筆者らがドプラ心エコー法を用い,動脈管の閉鎖過程について検討したところ5)〜8),
閉鎖に向かう動脈管は,初期変化として動脈管壁の一部に内腔への突出像が観察された.この変化は成熟児,
未熟児,先天性心疾患に共う動脈管のいずれにも共通する所見であった.その変化の出現部位は,動脈管の肺 動脈端側から中央部にかけてみられるものが多かったが,正常新生児,先天性心疾患の一部の症例で中央部か ら大動脈端側に観察されることもあった.また,初期変化の出現時期と管内血流速度波形の関連性を検討した が,正常新生児では,管内右一左短絡血流の減少・消失,左一右短絡の増加が始まる頃に初期変化を認めること が多かった.しかし,少数例で右一左短絡有位の両方向性短絡を認める時期に大動脈端側からの閉鎖過程の進行 例も観察された.後者の機転は,大動脈縮窄などにおいて,右一一左短絡有位の時期にも閉鎖が進行しうる機転に 類似し興味深い.佐藤氏らの症例は成熟児であり,両方向性短絡のみられる生後1時間目に動脈管の大動脈端 側に初期変化像が観察されている.一方,動脈管瘤の症例では,初期変化が肺動脈端側より始まり自然閉鎖に 向かう報告が多いようである2)3)9).筆者は,拡張,蛇行を示す動脈管の自然閉鎖の機転も,正常新生児等にみ
られる動脈管と同じではないかと推測する.
3.臨床との関連について
Presented by Medical*Online
日小循誌 14(3),1998 425−(37)
動脈管瘤の症例の合併症として,瘤破裂,塞栓症,感染さらに気管支,反回神経,横隔神経圧迫による咳微,
嗅声を含む呼吸障害などが知られている9).したがって,同疾患の管理において,動脈管が自然閉鎖に向かうか どうか,心エコー検査による経時的な観察が必要であり,瘤の増大をみる場合あるいは症状が出現する場合,
手術適応といわれている2)3)9).筆者は,現段階においては,拡張が強く蛇行を示す動脈管を認めた場合,動脈 管瘤に準じた観察が必要と考える.
文 献
1)佐藤恭子,西 猛,正岡 博:特異な走行を呈した動脈管理の1例.日小循誌 418−423
2)Lund JT, Hansen D, Brocks V, Jensen MB, Jacobsen JR[Aneurysm of the Ductus Arteriousus il/the Neonate :Three case reports with a review of the literature. Pediatr Cardiol 1992;13:222 226
3)Better DJ, Timchak DM, Allan LD:Prenatal diagnosis of aneurysm of the arterial duct:postnatal management and literature review. Cardiol Young 1997;7:160 162
4)Gittenberger−De Groot AC:Persistent ductus arteriosus:Most probably a primary Congential malforma−
tion. Br Heart J 1977;39:608−618
5)Hiraishi S, Misawa H, Oguchi K, Kadoi N, Saito K, Fujino N, Hojo M, Horiguchi Y, Yashiro K:Two−
dimensional Doppler echocardiographic assessment of closure of the ductus arteriosus in normal newborn infarlts. J Pediatr 1987;111:755−760
6)平石 聰,三沢仁司,斉藤幸一,門井伸暁,小口弘毅,藤野宣之,堀口泰典,縣陽太郎,北条みどり,八代公夫:ド ップラー心エコー法による新生児動脈管の閉鎖機転の検討一動脈管の形態と管内血流速度波型の関連性一.日小児 会誌 1988;92:1259 1263
7)Iliraishi S, Fujino N, Saito K, Oguchi K, Kadoi S, Agata Y, Iloriguchi Y, Hozumi H, Yashiro K二Responsive−
ness of the ductus arteriosus to prostaglandin El assessed by combined cross−sectional and pulsed Doppler echocardiography. Br Heart J 1989;62:140−147
8)平石 聰,小口弘毅,斉藤幸一,三沢仁司,広田浜夫,門井伸暁,縣陽太郎,藤野宣之,堀[泰典,八代公夫,中江 世明,河田政明:ドラプ心エコー法による未熟児動脈管の閉鎖および再開大様式の検討.日小児会誌 1992;96:
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9)Malone PS, Cooper SG, Elliott M, Kiely EM, Spitz L:Aneurysm of the ductus arteriosus. Arch Dis Child 1989;64 1386−1388