分担研究報告書
大学等における安全教育研究及び実践の現状
−文献調査及び関連団体の動向—
研究代表者 大久保靖司
厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)
分担研究報告書
大学等における安全教育研究及び実践の現状
−文献調査及び関連団体の動向—
研究代表者 東京大学 環境安全本部 教授 大久保靖司 研究要旨:
平成24年度に海外文献をPubMed、Web of Scienceを用いて調査した結果、安全 教育の手法が 4 つに累計されることが示された。本年度は日本における大学の安全教 育に関する研究等の現状を調査することとし、加えて大学の安全管理に関係する団体 における大学の安全教育についての動向も調査した。文献調査においては、J-stage及
び CiNii を用いて、「大学」および「安全教育」をキーワードとして検索を行い 40編
が抽出されたが、安全教育の手法や安全教育のプログラムについて網羅的に検討して いるものはなく、また、安全感度の向上、リスクの認知、リスクマネジメントを検討 することを目的とした研究報告はなかった。関連団体の動向については、国立大学協 会及び国立の大学安全衛生連絡協議会の動向について調査を行った。国立大学協会に は安全衛生に関する部会はないが、平成25年度に教育・研究委員会の下部に位置づけ られる「安全教育に関するワーキンググループ」が設置され、大学のカリキュラムの 中に安全教育に関する科目が含まれていることが確認され、これを受けて、来年度以 降は安全教育のための標準テキストの検討を行うことを予定していた。国立七大学安 全衛生連絡協議会では、事故災害情報の共有、安全衛生管理活動に関する情報交換や 教育資料の共有などが行われており、安全教育の教材の共有化、共同開発等が行われ ていた。文献検索の結果、日本における安全教育プログラム開発の先行研究は殆ど無 いことが明らかとなった。その一方で、安全教育資料の共有化、共同開発、標準化の 動きは実務レベルで進められてきていることが明らかとなった。
研究協力者 なし
A.研究の背景と目的
平成24年度に海外文献を PubMed、
Web of Scienceを用いて調査した結果、
安全教育の手法として、講義形式、グル ープワーク、ブロジェクト型、混合型の4 つについて検討がされていたことが明ら かとなった。
講義形式の安全教育有効性については、
知識の系統的理解には有効であるが、技 術・スキルの習得において有効ではない とする報告がされていた。グループワー クに関しては安全教育として有効である と報告されており、特に、学生が相互に 影響をおよぼすことにより意欲の亢進や 学習効果が高まること、構造的理解が促 進されていた。プロジェクト型安全教育 は、問題解決能力の取得や協調性の育成 に有効とされていた。一方、プロジェク ト型の教育では教員による学生の支援が 必要など運営の負担が大きいことが課題 とされていた。教育テーマが大規模災害、
危機管理等の場合は、複合型として異な る分野を専攻する学生を対象に講義、グ ループワーク更には実地研修を組み合わ せたプログラムも提案されていた。複合 型では、各自の専門の拡充と協調性が向 上し、多元的検討が進められるようにな るとされていた。目的によって適した教 育手法が異なることから安全に強い人材 の育成のためには、受講する学生の能力、
目的に合わせて、講義形式、グループワ ーク、プロジェクト型等の教育手法を組
み合わせたプログラムを企画する必要性 を指摘した。
平成25年度は日本における大学の安 全教育に関する研究等の現状を調査する こととした。また、大学の安全管理に関 係する団体において安全教育の重要性が 認識されるに至っていることからこれら の団体における大学の安全教育について の動向も調査し、これらの現状を明らか にすることとした。
B.方法
文献調査においては、和文雑誌の大学に おける安全教育に関する報告の現状を調 査するために、J-stage及びCiNiiをデー タベースとして用いて、「大学」および「安 全教育」をキーワードとして検索を行っ た。検索の結果得られた文献の内容から 今研究に関連しないものを除外して本研 究の対象となる文献のみを抽出した。
関連団体の動向については、国立大学 協会及び国立の大学安全衛生連絡協議会 の動向についてホームページ及びこれら の団体にて安全教育の検討に関わってい る者に聞き取り調査を行った。
C.結果 文献調査
文献調査では大学および安全教育をキ ーワードで検索を行い、タイトルより明 らかに本研究と関係がないと判断される ものを除外した175 編について抄録を確
認した。本研究の主目的ではない防火防 災や小中学校の安全.犯罪防止について の研究報告は除外した。
最終的に 40 編が本調査と関係がある と判断した。しかし、これらの文献にお いても安全教育の手法や安全教育のプロ グラムについて網羅的に検討しているも のはなく、大きく分けて 5 つの分野に分 けられた。(1)安全教育活動の報告、(2) 安全教育教材やツールの開発、(3)諸外 国の動向、(4)安全に関する事例検討、(5) 安全教育に関する総説であった。
安全教育活動の報告には12編が、安全 教育教材やツールの開発には 9 篇が、諸 外国の動向には 7 編が、安全に関する事 例検討には 4 編が、そして安全教育に関 する総説には8編が分類された。
これらの文献における安全教育の対象 となるものは化学実験、理科教育、機械 工学の安全教育が主なものであり、いわ ゆる安全感度の向上、リスクの認知、リ スクマネジメントを主たるテーマとする 研究報告は見当たらなかった。
関連団体の動向 国立大学協会
国立大学協会には安全衛生に関する部 会はない。しかし、平成25年度に協会に 安全衛生について検討するワーキングが 設置されることとなった。これは教育・
研究委員会の下部に位置づけられる「安 全教育に関するワーキンググループ」で
ある。
このワーキングは、大学における安全 衛生の基礎となるものは安全教育と考え られたため、大学の安全を確保するため の安全教育を検討することを目的として いる。そのため、安全教育であっても本 研究での安全講習に該当するものを対象 としている。しかし、安全講習と安全教 育は関連、重複するところも多く、結果 として安全に強い人材の育成にも寄与す ることが期待されるものである。
ワーキングは熊本大学学長を座長とし て、学長及び大学において安全衛生に関 わる教員で構成されている。
平成 25 年度は大学のカリキュラムの 中における安全教育に関する科目の調査 をワーキングメンバーの大学に対して行 うことと海外の大学における安全教育の 現状の調査を行うこととしており、その 結果、大学の中にシステマティックでは ないが安全に関する教育科目は含まれて いることが確認された。しかし、大学を 横断的に見た場合は安全教育としてシス テム的にほぼ満たされるが、各大学にお ける科目は限定的であり共通点は少ない ことがわかった。
これを受けて、来年度以降は安全教育 のための標準テキストの検討を行うこと を予定している。
国立七大学安全衛生連絡協議
平成16年4月の国立大学の法人化が行
われたが、大学間での安全に関する情報 共有の機会がないことから、七大学(北 海道大学、東北大学、東京大学、名古屋 大学、京都大学、大阪大学、九州大学)
の副学長会議の決定を受けて安全衛生担 当者を対象とする国立七大学安全衛生連 絡協議会が平成19年5月に開催され、現 在まで年 2 回開催されている。協議会で は、事故災害情報の共有、安全衛生管理 活動に関する情報交換や教育資料の共有 などが行われている。また、平成20年度 より全国を 7 つのブロックに分けてブロ ックごとに国立大学法人を中心に安全衛 生に関する情報交換のための研究会・協 議会が開催されている。
これらの協議会を通じて、安全衛生管 理の実務の向上が進められ、担当者の意 識向上やスキルアップのための研修だけ でなく、新任の担当者の教育研修も目的 の一つに含められるようになった。
この協議会では安全教育の教材の共有 化も進められており、また各大学で行わ れている安全講習、安全教育についても 意見交換や教育資料の共有化、教育用の ビデオの作成等が行われている。
さらに、これらの活動や作成されたツ ール等は国立七大学だけでなく、全国を7 つのブロックに分けてブロックごとに国 立大学法人を中心に安全衛生に関する情 報交換のために設立されている研究会・
協議会を通じて全国で共有するための準 備が進められている。
D.考察
安全教育が大学の安全の確保また社会 に役立つ人材の育成に影響することは疑 いの余地はない。
しかし、日本において大学の安全教育 プログラムについての検討、また教育手 法についての検討を行った研究は少なく、
本研究の主題である大学における安全教 育プログラムの開発に参考となる先行研 究は得られなかった。その一方で、大学 における安全教育の試料やツールの開発 の必要性は認められており、実務のレベ ルでの情報の共有や共同開発は進められ てきている。
特に大学における安全な活動を確保す るための安全教育(安全講習)について は、標準化の動きもあり、これの推進に よって大学の安全管理の向上は期待でき る。
E.結論
文献検索の結果、日本における安全教 育プログラム開発の先行研究は殆ど無い ことが明らかとなった。
その一方で、安全教育資料の共有化、
共同開発、標準化の動きは実務レベルで 進められてきていた。
F.研究発表
大久保靖司,黒田玲子,山本健也,梅景正.
大学における安全教育の有効性に関する
文 献 的 研 究 . 日 本 産 業 衛 生 学 会 , 岡 山,2014
・大久保靖司. 化学物質の健康リスク教
育. 日本予防医学リスクマネジメント学 会, 東京, 招待講演 (2014).
別紙 文献検索結果一覧 安全教育活動の報告
1. 京都工芸繊維大学における環境安全教育と環境安全教育デーの取組み 山田 悦, 布施 泰朗,柄谷 肇 環境と安全, 4(3), 2013
2. 国立高等専門学校における防災・安全教育を重視した原子力教育の現状 (人材問 題特集 原子力人材育成の現状と課題) 佐東 信司 Atomoσ : journal of the Atomic Energy Society of Japan, 55(5), 2013‑05
3. 高等専門学校における環境安全教育の現状 : 化学薬品を使用する現場での安全 教育と廃液・廃棄物への対応 荻野 和夫, 片岡 裕一, 川越 みゆき 環境と安全, 4(1), 2013
4. 高等専門学校における環境安全教育の現状:– 化学薬品を使用する現場での安全 教育と廃液・廃棄物への対応 – 荻野 和夫, 片岡 裕一, 川越 みゆき, 雑賀 章浩, 星井 進介 環境と安全, 4(1), 2013
5. 大学の環境・安全の向上に向けた産学の交流と必要に応じた連携の提案 瀬田 重 敏 安全工学, 52(3), 2013
6. 大学生の自動車整備における安全作業の認識度と整備技術 中島 守, 川村 貴裕, 平野 博敏, 小野 秀文, 吉田 昌央 工学教育, 59(4), 2011‑07‑20
7. ヒューマンエラー防止対策としての安全教育 広兼 道幸, 小西 日出幸 土木學會 誌, 96(3), 2011‑03‑15
8. 東京工業大学・化学系専攻における安全教育 岡本 昌樹 Catalyst, 52(1), 2010‑01‑15
9. 野外活動における安全教育の試み(1) 粥川 道子, 杉岡 品子 北翔大学北方圏生 涯スポーツ研究センター年報, 12010
10. 東京工業大学における安全管理と環境安全教育 日野出 洋文, 岡本 昌樹 安 全工学, 47(6), 2008‑12‑15
11. 工学系高等教育機関での安全管理と安全教育 飯野 弘之 工学教育, 55(2), 2007‑03‑20
12. 東京工業大学における COE 化学・環境安全教育(講座:化学実験での事故防止の た め に ‑ い く つ か の 事 故 例 と 安 全 教 育 3) 友 岡 克 彦 化 学 と 教 育 , 53(8), 2005‑08‑20
安全教育教材、ツールの開発
13. 青年期における安全教育の課題 : 自己理解のための教育的アプローチと教材 開発 小川 和久 北工業大学紀要. 2, 人文社会科学編, (33), 2013‑03
14. 事故シミュレータによる実体験を導入した機械工作実習での安全教育 中澤 剛, 金井 三十男, 川島 俊美, 松原 雅昭 工学教育, 59(1), 2011‑01‑20
15. 大学の学生実験における作業評価基準と作業工程との関連性に関する統計学 的解析 主原 愛, 大島 義人 環境と安全, 2(2), 2011
16. 学校教員養成課程の化学学生実験における安全教育の開発および実践 西山 桂, 高須 佳奈 島根大学教育学部紀要. 教育科学・人文・社会科学・自然科学, 442010‑12‑24
17. e‑ラーニング教材により講義と連携させた実習安全教育 中澤 剛, 松原 雅昭, 三田 純義, 斉藤 勝男 設計工学, 45(4), 2010‑04‑05
18. 機械工作での安全教育における e ラーニング教材の開発 中澤 剛, 三田 純義, 松原 雅昭, 高島 武雄, 田中 好一, 伊澤 悟, 川村 壮司 工学教育, 57(6), 2009‑11‑20
19. 大学生を対象とした理科実験用安全教材の行動階層モデルに基づく分析 行場 絵里奈, 岩崎 信 日本教育工学会論文誌, 31(0), 2008‑02‑10
20. 東北大学自然科学総合実験向けの安全教育デジタル教材に関するアンケート 調査結果の分析と考察 行場 絵里奈, 陳 輝, 小林 弥生, 岩崎 信 教育情報学研 究, 52007‑03
21. 大学生のための理科実験用安全教育デジタル教材の開発 小林 弥生, 陳 輝, 行場 絵里奈, 岩崎 信 東北大学高等教育開発推進センター紀要, (2), 2007
諸外国の動向
22. リスクコミュニケーションに関する学校教育の必要性 刈間 理介 安全教育学 研究, 6(1), 2006
23. スウェーデン王国における学校安全の取り組み ― ストックホルム市および ダンデリード市の学校を訪問して ― 豊沢 純子, 藤田 大輔 学校危機とメンタ ルケア, 42012‑03‑31
24. 米国の大学の教育・研究における安全教育 刈間 理介 安全工学, 47(6), 2008‑12‑15
25. The concept of organizational safety culture and the consideration into the course of action of safety education in schools for the contribution to
the promotion of the culture 刈間 理介, 井上 隆康 The Japanese Journal of Safety Education, 7(1), 2007
26. 化学プロセスの技術者安全教育に関する米国の現状 和田 有司, 新井 充 安 全工学, 42(4), 2003‑08‑15
27. 化学プロセスの技術者安全教育に関する欧州の現状 若倉 正英, 高木 伸夫, 田村 昌三 安全工学, 42(4), 2003‑08‑15
28. アメリカにおける学校安全教育 沢田 孝二 山梨学院短期大学研究紀要, 131992
安全に関する事例検討
29. 危険予知訓練シートの調査から読み取る大学生の危険意識の傾向 : 理科(化 学・地学)の場合 延原 尊美 静岡大学教育実践総合センター紀要, 142007 30. 化学実験で起こる事故と対処法 : 大学学部学生実験の場合(講座:化学実験で
の事故防止のために‑いくつかの事故例と安全教育 4) 中森 建夫 化学と教育, 53(9), 2005‑09‑20
31. 身近に見聞きした事故と"危ない体験"(講座:化学実験での事故防止のために‑
いくつかの事故例と安全教育 2) 川泉 文男 化学と教育, 53(7), 2005‑07‑20 32. 『実験マニュアル』依存主義からの脱却(講座:化学実験での事故防止のために
‑いくつかの事故例と安全教育 1) 川泉 文男 化学と教育, 53(6), 2005‑06‑20
安全教育に関する総説
33. <論考>環境安全教育の一層の充実を 中田 真一, Na 秋田大学教養基礎教育研究 年報, 32001‑03‑31
34. 大学における化学安全教育 (安全を考える化学<特集>) 田村 昌三 化学と工 業, 44(3), 1991‑03
35. 安全教育情報システムの設計と建築その 1 : 安全教育における見直しの視点と その例 飯塚 健, 木暮 正雄, 久保 信行, 長井 正夫 群馬大学教育実践研究, 71990
36. 電気に関する安全教育の研究 III 田中 啓勝, 久保 武豊, 加藤 栄一 三重大 学教育学部研究紀要. 教育科学, 381987
37. 化学の安全教育と標識(周期律) 吉田 俊久, 下沢 隆 化学教育, 34(6), 1986‑12‑20
38. 電気に関する安全教育の研究 (II) 田中 啓勝 三重大学教育学部研究紀要.
教育科学, 371986
39. 電気に関する安全教育の研究 田中 啓勝, 堀場 義平, 岩間 和人 三重大学教 育学部研究紀要. 教育科学, 341983
40. 安全教育に関する一考察 : 沼津教養部における車輛通学を中心に 中見 隆男, 村上 繁, 飯沼 稔 東海大学紀要. 学生生活研究所, 111981