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George EliotのSilas Marner : 第6章の特異性とそ の役割

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George EliotのSilas Marner : 第6章の特異性とそ の役割

著者 中島 正太

雑誌名 主流

号 51

ページ 79‑93

発行年 1990‑03‑20

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015076

(2)

George E l i o t の S i l a sMarner 

− − 第6章の特異性とその役割一一

中 島 正 太

79 

Silas MarnerはGeorgeEliotの作品の中でも長編としては最も短かく,

またおそらく最も万人に親しまれている作品であると思われる.中でもその 第6章は, GeorgeEliotの小説家としての力量を物語るものとして高く評 価されている町つまり女性である作者が酒場での男達のとりとめない会話 を生き生きとした筆致で描き切っている点は驚嘆に値する,というわけで、あ る.

ところがこの第6章は,一般読者の側からやや評判が悪い.今年(1989年) British Councilでの英文学セミナーでSilasMarnerがテキストとLて取り 上げられた時,参加者の大部分はこの作品の第6章に不満もしくは疑問を抱 いていた.主な不満は「読みにくいj「退屈」といったもので,「作者が何の ためにこの章を用意したのかわからないjという不満もあった.「読みにくい」

という点については,この作品全体,そしてとりわけこの第6章に方言が多 用されているためで,英語を外国語としている人々がこのような不満を抱く のも無理のないことである.さらに「退屈」という不満に関しても,何の先 入観も持たずにこの作品を読み進めて第6章まで来てみると,単に主観の問 題として片づけられるものではないように思われる.第6章の前後関係を簡 単に説明すると次のようになる.第4章でDunstanがSilasの金貨を盗んで、

逃げる.第5章で金貨を盗まれたことに気づいたSilasが青くなって村人に 知らせに行こうと家を出る ところが, S̲ilasが事のてんまつをRaveloe の住人に伝えるのは第7章に入ってからである.第6章は先にも述べたよう に RainbowInnという酒場を舞台とした村人達の気楽な会話に終始して

(3)

80  Silas Marner6章の特異性

おり,物語の展開という点では何ら貢献しておらず,むしろストーリーを中 断させていると言ってもよい.Silas自身も,この章では1度だけ名前が出 てくるが,登場人物としては姿を現わさない.「いったいこの章は何のため にあるのか」という疑問が出てくるのも当然であろう.

そこで本論では, SilasMarnerという作品における第6章の特異性,つま り①Silasが登場しない,②物語の進行がこの章によって中断されている,

という 2点に注目し,すでに高く評価されている価値(当時の地方の人々の 生き生きとした描写)以外のものがこの章に含まれているかどうかを分析し てみたい.

まず最初に,①の「Silasが登場しないjという点について考えて行きた い.この作品全体を読めばわかることであるが,実はSilasが登場しないの はこの章だけではない.作品中には, Silasと同じ位に物語の展開に重要な 役割を果している人物としてGodfreyCassがおり,彼が中心となって物語 が展開されている章では,当然のことながらSilasの出番は少ないか,ある いは全くないというケースも生じてくる.こういった傾向をさらにつきつめ て考えていくと,この作品は, Silas中心の章と, Godfrey中心の章という

2つの要素が組み合わされて構成されていると解釈することもできる.そこ でひとつの試みとして,作中における SilasMarner, Godfrey Cassという 名前の頻出度数を調べ,共に主人公と考えることもできるこの2人の人物の,

作中における支配力の比率を調べてみたい.以下の表はその結果である0

Chapter 

Silas  31  16 

Godfrey 

。 。

22  10 

その他(人物名) 23 (Dunsey)  27 (Dunsey) 

(4)

Silas Marner6章の特異性 81 

Chapter  10  Silas  30 

71  Godfrey 

。 。

20  18 

その他(人物名) 21 (Macey)  16 (Squire Cass) 

Chapter  11  12  13  14  15  Silas 

11  14  50 

Godfrey  31  22  その他(人物名)

Chapter  ,J6  17  18  19  20  Silas  47 

30  Godfrey  22  17  21  その他(人物名)

Ce apter  21  Conclusion  Silas  12 

Godfrey 

図1

その他(人物名) (Eppie) 

この表の結果に関して若干説明を加えておきたい.第3章で最も頻出度数 が高いのは, Dunsey(Dunstan)であるが, Godfreyとの差は1つで,また この章の内容も両者のやりとりが中心なので両者同等,あるいはSilasが1 度も登場しないので,ここから Godfreyをめぐる物語が導入されていると いう意味ではGodfrey中心と考えるべきだろう.これに対して第4章は DunseyがSilasの金貨を盗んで逃げるくだりであり,彼の頻出度数の高さ はそのまま彼がこの章の中心人物である証拠と考えてよい.問題の第6章は,

(5)

82  SzsMarner6章の特異性

Silasという名前が1度だけ冒頭に登場するが,先にも述べたように実質的 な内容はRainbowInnにおける村人達の会話が中心で, Silas,Godfrey共 に関係していない.また, 13章ではGodfrey,19章ではSilasがそれぞれ数 の上では相手を上回っているが,共にEppie(13章ではまだ名前が決まって いないが)をめぐる両者のやりとりが中心であり,両者同等と考えることも できる.ConclusionではEppieの頻出度数が最も高いのだが, Eppieの結 婚による SilasMarner一家のハッピー・エンディングという内容を考えれ ば, Silasの章としてよいだろう.その他の章に関しては,頻出度数の上か らも,また内容の点でも, Silasの章と Godfreyの章とに比較的はっきりと 分かれている.では,それぞれの章の配置はどのようになっているのだろう か.以下の表は,前記の表の結果と,上記の説明を元に,作品の各章を Silasの章, Godfreyの章というように振り分けてみたものである.

Chapter 

10 11  12 

Main Character (s)  s  s DIS 

図2 13  14  15  16  17  18  19  20  21  clCuosnion 

GIS 

SIG  EIS 

(S=Silas odf町 内 田 町E=Ep X=neitherof them 0×4

) で

Oが上闘っているが,実質的には両者対等もしくは×が中心と思われる場合

この表から明らかになることは,本作品にSilasMarnerというタイトルが つけられているにもかかわらず, Silasの章が連続するのは,最初(1章←

2章)と最後(21章一Conclusion)の部分のみである,ということだ.そ れ以外の箇所では, Silasの章の次には必ずGodfreyの章か両者とも関係な い章,またあるいは先に述べた13章, 19章のように両者対等と考えられる章 が続いている.特に注目されるのは, 9章からPartOneの終りにあたる15 章までで, Godfreyの章と Silasの章が規則正しく交互に並べられている圃

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Silas Marner6章の特異性 83  この「Silasの章の非連続性」は本作品の大きな特徴であり, WalterAllen  もTheEnglish Novelの中で,やや違った観点からではあるが, h巳[Silas] is  off‑stage rather more often than he is  on. というこの特徴に対する指摘 を行っている.2

このような観点からみると,問題の第6章が「Silasの章(もしくは登場)

の非連続性

J

に貢献していることは間違いない.物語の流れということを考 えれば5章→7章の,「金貨を盗まれたことに気づく→村人に知らせにゆく

J

というプロセスを続けて描いても不自然さはないし,読者の興味をひきつけ るという意味では,むしろそうする方が好ましいようにさえ思われる.にも かかわらず作者Eliotは物語の流れとは無関係な章をあえてはさみ込むこと によって, Silasの章の非連続性を押し通した.作者がそこまでこだ、わった 理由はどこにあるのだろうか.それを考えるために, SilasMarnerに関する 作者自身のコメントを紹介したい.

George Eliotは,彼女の作品の出版者である JohnBlackwoodにあてた 1861年の手紙の中で,この作品に着手したことを次のように知らせている.

I am writing a story which came across my other plans by a sudden  inspiration .ーーItis  a story of old‑fashioned village life, which has un‑ folded itself from the merest millet‑seed of thought.3 

came across\a sudden inspiration,,という言葉からもわかるように,

この作品の構想が突発的に浮かんだことが強調されている.ところが作品の Part Oneを書き上げてから, Eliotは同じく Blackwoodに次のような手紙 を書いている.

It  came to  me first of all,  quite suddenly, as a sort of legendary tale,  suggested by my recollection of hvingonce, inarlychildhood, seen  a linen‑weaver with a bag on his back; but as my mind dwelt on the 

(7)

84  Silas Marner6章の特異性

subject, I became inclined to a more realistic tteatment.4 

ここでもやはり, quitesuddenly,,という言葉が突発性を暗示している.

しかしもっと重要なのは,最初は asort of legendary tale,,として思いつい たこの作品に,最終的には realistictreatment,,を与えたいという作者の願 望が示されているということである.

この legendarytale,,に realistictreatment,,を与えようという作者の試 みは,作中におけるSilasの章と Godfreyの章の配置と無関係ではない.作 者自身が legendarytale という言葉を使っていることからもわかるよう に, Silasを中心とした物語はrealisticな要素が弱い.12章でSilasが小屋 の戸を閉めようとして,突然発作に襲われて動けなくなり,その聞にEppie が入ってくる場面などとても自然とは思えないし,最後になって盗まれた金 貨までが戻ってくるというのも話ができすぎている というように,

realityの面からみて不都合な箇所は多い.これに対して, Godfreyの物語 はどうだろうか.彼の最初の結婚に対する後悔,その結婚がもとでDunstan にゆすられたために生じた金銭的な悩み,さらに,暗い過去を背負ったまま,

Nancyとの結婚を続けていく苦しみ……というように,彼をめぐる物語に は現実的な「重さ」がある.彼が欠点はあっても 根っからの悪人でないこ とはDunstanとの対比から読み手に容易に伝わるようになっており,それ が彼を一層 realisticな登場人物に仕立てあげている.このことからもわか るように, Godfreyの物語(もしくはGodfreyという人物)には,作者の 手によって実に入念に realistictreatmentがほどこされている.

このような2つの物語の特質を考えてみると,作者が,先に引用した手紙 が示すようにこの作品を realistic なものにしたいと望むのならば,配置の 際にGodfreyの章の連続は許せても, Silasの章の連続は避けたいと考える のは当然であろう.物語の始まりと終わりは最初の構想通り alinen‑ weaver を中心におくが,途中の部分はこの linenweaverの legendary‑

(8)

Silas Marner6章の特異性 85  tale,,を全面的に押し出さず,別のより realisticなcharacterの物語を同時 進行的に展開させることによって作品全体のrealityを保とうという作者の 試みが,この作品の構成から読みとられるのである.おそらく 2番目に引用 した手紙の直後に書かれたPartTwo において, Godfreyの章の比率が急上 昇している(図2参照)という事実は,作者の意図を裏付けるものと考えて よいだろう. realistictreatment,,を完全なものにするという点で, Silas Marnerの登場しない第6章は,作品の構成上どうしても必要なものだ、った のである.

I I  

さて,「Silasが登場しないjという第6章の特異性を,全体の構成と関 連づけて考えてみたが,次に第6章のもう一つの特異性「物語の進行性がこ の章によって中断されている

J

という点について考えてみようと思う.その ためにまず,第6章の内容を検討してみたい.

最初にも少し述べたように,この章は実にとりとめのない会話に満ちてい るのだが,内容的には次の4点が中心となっている.①牝牛をめぐる屠殺屋 と獣医の言い争い,②日曜の教会合唱をめぐるTookeyと,Winthropの言い 争い,③Mr.Maceyが語るLammeter家(つまり, Nancyの両親)の結婚 式のエピソード,④同じく Maceyが語る Cliff'sHoliday,,と呼ばれる幽霊 の話,である.このうち①についてはRainbowInnの亭主が Thetruth  lies  atween you [butcher and farrier]:  youre  both right  and both wrong  

(97)と意見を述べており,②に関してはMaceyが theresallays two  pin‑ ions; theres the pinion a man has of himsen, and theres the opinion other  folks have on him.(98)とコメントしている.この2人に共通しているの は,「物事には2つの意見(もしくは考え方,見方)があるものだ」という ことである.しかし2人の意見の内容をよく調べてみると,その意味合いは 微妙に違うことがわかる.Rainbow Innの亭主は「2つの意見はどちらも

(9)

86  Silas Marner6章の特異性

正しいかもしれないし,どちらも間違いであるかもしれない」という,いわ ばjudgementというもののambiguity,さらに言えばimpossibilityを指摘し ているのに対し, Maceyは「その人が自分に対して持っている意見と,他 人がその人に対して持っている意見とがあって,この2つは違うのだ」とい うdichotomyを指摘しているのである.このような「『2つの意見』に関す る『2つの意見

J J

がRaveloeの住民達の口から発せられたことは,後で詳 しく述べるが,物語の今後の展開に少なからず関係しているのである.

③のエピソードもまた,Raveloeという村の性格的な一面を象徴している.

Maceyの話によると, Drumlowという牧師がLammeter家の結婚式の時に,

問答をあべこべにしてしまう Wilt thou have this  woman to thy wed‑

ded husbandγ

Wilt thou have this man to thy wedded w俳? (101,斜字 体筆者)という具合にである.ところが,式が終わった後でMaceyがその ことを指摘すると, Drumlowは全く気にせずに Pooh,Pooh, Macey, make  yourself easy ... its nitherthe meaning nor the words  its the regester  does it‑thats the glue" (101  102)と答える.そして結局のところその 結婚はうまく行ったというのである(妻のほうが早くに亡くなってしまっ、た という点を除いては).つまり Drumlowは形式だけで何らの意味を持たな い 問答 よりも,少なくとも法的には有効な register のほうに価値があ ると考えていることになる.しかしそのことは直ちに,人間的な感情を無視 して紙切れだけに頼るということを意味するものではない.このエピソード にMaceyiJ parsons and doctors know everything by heart,  like,  so as  they arent worreted wi thinking whats the rights and wrongs o things 

(102)というコメントをつけ加えていることからもわかるように,最終的 に何が正しくて何が間違っているか(この場合は,結婚がうまくいくかいか ないか)ということは register でも判断できない,結局本人達の気持ち次 第でよくも悪くもなるものだし,それを牧師がどうこうできるものではない という感慨が込められているのである.法律を重んじ,また人心をも重んじ

(10)

Silas Marner6章の特異性 87  るという考え方が, MaceyのみならずRaveloeという共同体社会の中に深 く根づいているということは, Maceyが話を終えたあとの村人達の反応か らもうかがえる.

Every one of Mr. Maceys audience had heard this story many times,  but it  was listened to as if  it  had been a favourite tune, and at certain  points the puffing of the pipes was momentarily suspended, that the  listeners might give their whole minds to the expected words. (102)  many timesという言葉や, afavourite tune,,という直職によって,こ のような話が何度も繰り返され,しかも親しまれてきたかということがうか がえる.このようなパックグラウンドが, 7章でもMaceyに letshavno accusing o'  the innicent. That isnt thlaw Theremust be folks to swear  again a man before he can be taen up.(109)と言わせているのである.

特に Thatisnt the law という一言は, Raveloeにおける law のあり方 つまり人を護るためのものであって,束縛したり,無実の罪におとし入 れるためのものではない が端的に示されている.

法律を重んじ,またある事物に対する異なった意見の存在を認め,これを 許容するという Raveloeの住人の基本姿勢は,この土地でSilasが人生への 希望をとり戻したことと無関係ではない.なぜなら,彼が前にいたLantern Yardという土地には,このような考え方は決して存在しなかったからであ る.Lantern Yardで起きた例の窃盗事件でも,法的な審議は拒否され,く じを引くことで彼は有罪を宣告された.Raveloeではいかなる人間もそのよ うな扱いを受けないということは先に引用した7章でのMaceyの発言から も明らかである.

さらに, Godfreyに関して言えば,彼がるしMaceyのように「2つの意 見の存在

J

を認識していたなら, 19章で、図々しくも Eppieを引きとろうと はしなかっただろう.その認識が欠落していたため,彼はEppieを引きと

(11)

88  Silas Marner6章の特異性

ることが自分にとって最善の策であり,他の者もそう思っているに違いない,

と思いこんでしまったのである.

ごのように, SilasとGodfreyという 2人の登場人物をめぐる物語の, 7 章以降の展開を示唆するようなパックグラウンドが, Reveloeという共同体 社会には存在しているのだということが第6章においてすでに如実に示され ているのである.Silasが希望を取り戻し,新しい生活を手に入れることが できた第一の要因はEppたであるし, Godfreyの失敗も,彼の性格そのも のに深い要因があることは言うまでもない.しかし, 2人の物語の結末に,

Raveloeという舞台もまた大きな影響を与えているのである.

4番目のエピソードである Cliff'sHoliday,,に関しては, Penguin版の IntroductionでQ.D. Leavisが非常に有益な分析を行っている(20‑23). Leavisはこのエピソードの中でも特にCliffという男が①別の土地(Lon‑

don)でだまされてRaveloeに来たこと,②馬に乗れないのに無理に乗ろう とし,息子にも無理に乗らせようとしたこと,③その理由は,自分が仕立て 屋(tailor)であることを恥じ,息子をgentlemanにしようとしたためである こと,④結局息子は病死し,自分も気が狂って死んでしまったということ,

の4点に着目し,それぞれをSilas,Godfrey, Maceyと比較することができ ると指摘している.①は境遇的にSilasと似ているし,②は父親という権利 を利用して,Eppi巴をSilasから強引に引き取ろうとしたGodfreyと重なる.

そして③は, tailorという職業に関して Im proud on it.(103)と述べてい るMaceyと対照的である.さらに,①でCliffがSilasと似たような境遇で あるにもかかわらず,④でSilasと対照的に悲劇的な最期を遂げるのは,

SilasにEppieがいたのに対して, Cliffが子供を亡くして childlessであっ た点に大きな原因があると Leavisは述べている.逆に言えば, Cliffの人生 は,もしEppieという子供がいなかったらSilasもこうなっていたかもしれ

(12)

St Marner6章の特異性 89  ないということを示唆する anawful warning(21)なのだ,というわけで ある.

このCliffが死後も幽霊となって,真夜中に厩舎に現れるのだ,とMacey は語る.そこで再びその幽霊 Cliff'sHoliday,,を信じるか信じないかで村 人達の談議が始まるわけだが, Leavisが指摘したこと以外に,このエピソー ドには第6章で中断された物語の流れを第7章で再び元通りにするための

「つなぎ」の役割があるという点は見逃がせない.幽霊が本当にいるのかい ないのかという意見が一通り出たあとで(ちなみにRainbowInnの亭主は この問題に関してもどちらにも味方すると述べており,彼の態度の一貫性が うかがえて興味深い),幽霊の存在を信じようとしない獣医が Ifghoses  want me to believe in  em, let  em leave off skulking i'  the dark and i'  lone  places‑let  em come where theres company and candles" (105)という無茶 な意見を述べる.それに対してMaceyが,"Asif  ghos'es ud want to be  believed in by anybody so ignirantl(105)というやや皮肉めいた返答をす るーーというところで第6章は終わっている.そして第7章は次のように始 まる.

Yet the next moment there seemed to  be some evidence that ghosts  had a more condscendingdisposition than Mr. Macey attributed to  them;  for  the  pale  thin  figure  of  Silas  Marner was suddenly seen  standing in the warm light (106) 

the next moment,,という言葉が示すように,幽霊というモチーフを媒介 として,中断されていたstoryは何の異和感もなく Silasの物語へとつなが れてゆく.つまり幽霊の話をしていた所に,いきなり幽霊のような形相の Silasが現われるというわけである.

この場面がもたらす劇的効果はどのようなものだろうか.それを探るため に,少しさかのぼって考えてみたい.先にも述べた通り, 5章では,金貨を

(13)

90  Si Maier6章の特異性 盗まれたSilasがそのことに気づいて仰天する場面がある.

The sight of the empty hole made his heart leap violently, but the b

lief that his gold was gone could not come at  once‑only terror,  and  the eager effort to put an end to the terror. (92) 

金貨がなくなっていることに気づいたSilasの気持ちが terror という言葉 で表現されている点に彼の金貨に対する思い入れの深さがうかがえる.この terrorを打ち消そうと, Silasは部屋のあちこちを探し回るが,金貨は見 つからず,ついに探す所はもうないとわかった瞬間,彼は絶望の叫ぴ声をあ

』アる.

Again he put his trembling hands to his had,and gave a wild ringing  scream,  the  cry  of  desolution.  For a few moments after,  he  stood  motionless;  but the  cry  had relieved  him from the  first  maddening  pressure of truth. (93) 

この描写からもわかるように,金貨を失った(盗まれた) Silasの苦しみは 非常に克明に描かれている.彼は使うためにではなく,失われた心の支えの 代わりに金貨をためていたのであり,このことからもSilasの wildringing  scream は一層痛切な印象を与える.

ところが,嘆き悲しむSilasは第6章で突然姿を消す.そして第7章で幽 霊のような形相とともに再登場する.先ほど述べた「幽霊の話をしていた所 に幽霊のような顔つきのSilasが現れる」という状況は,確かに村人達にとっ ては恐ろしい体験だ、ったに違いない(最後までCliff'sHolidayを信じなかっ た獣医までもがSilasを幽霊と間違えてびっくりするという記述がある) . 

しかし同時に,読者としてこの場面を外から眺めている我々には,どことな くユーモラスな,爆笑とはいかなくても失笑を誘うような要素がそこにある ことがわかる.この意味で第6章は物語の進行のみならず,金貨を盗まれた

(14)

Silas Marner6章の特異性 91  Silasの悲しみが読者に伝わるのも中断させている.しかも物語を「つなぐ」

際にも,幽霊と Silasを重ね合わせてユーモラスな効果を出し,ほんの一瞬 ではあるがSilasの悲しみがどこか宙に浮いてしまったような印象を与えて いる.作者がこのようにSilasの悲しみを薄めようとすることは,物語の今 後の展開,ひいては作品の主題と無関係で、はない.

Silasは前の土地LanternYardで友人に裏切られ,また神前でのくじヲ|

きによって有罪を宣告されたという点で信じていた神にも裏切られ,失意の まま Raveloeにやってきた.そしてその地での心の支えを金貨に求めた.

その金貨までもが盗まれてしまったのだから, Silasの悲しみは当然のもの なのだが,ここで思い出さなければならないのは,彼がLanternYardで着 せられた無実の罪のことである.それは,教会の執事が死んだ時,看病をし ていたSilasが執事の財布を盗んだ というものであった.つまり Lan‑

tern YardでのSilasの失意には,間接的にではあるが金銭がからんでいる.

従ってSilasの行為は,金銭が原因で生きる望みを失った男が,別の土地で それを金貨に求めたということになる.金貨がSilasに与える希望が一時的 なものでしかないということは,それがあっさりと盗まれてしまうという事 件が雄弁に物語っている.Silasが本当に失意から立ち直るには,金銭では

なく人間的なつながりカ手必要なのであり,またこの作品のエピグラフ

A child, more than all other gifts  That earth can offer to declining man, 

Brings hope with it,  and forward‑looking thoughts. (47) 

がいみじくも示すように,彼が人生に希望を抱くようになるためには,

E即日の登場を待たねばならないのである.その意味で金貨の盗難は,より 確かな心の支えをSilasに与えるために起こるべくして起こったと言っても 過言ではない.George Eliot自身は,この作品の前半部分を読んで、 very sad, almost oppressive"6  と感想、を述べたJohnBlackwoodに対して次の

(15)

92  Silas Mamer6章の特異性

ように答えている.

But I hope you will not find it  at  all  a sad story as  a whole, since it  sets一一一oris  intended to set −一一ina strong light the remedial in‑ fluence of pure, natural human relations.7 

sad story ではなく theremedial influences of pur,巴naturalhuman rela‑ tions,,を描くことがこの作品の目的であるとEliotは述べている.それゆえ,

sad storyの誤解を避けるために, Silasの悲しみは中断され,また一時的 に薄められる必要があったのだろう.この点でも第 6章と,第 7章の冒頭は 大きな役割を呆たし,作品の sadstory 的イメージの一時的軽減に貢献し

ているのである.

以上SilasMarnerにおける第6章の役割を,先に挙げた2つの特異性から 分析してみたのだが,もはやこの章が単にRaveloeという村の住人達を生 き生きと描きながら読者に紹介しているというだけのものではないことが明 らかであろう.それどころか,以後のストーリー展開を暗示する手がかりが 全てこの章の中に隠されていると言ってもよい.目的に合うように物語を進 めていこうとする作者の強烈な支配力がこの章に疑縮されている,と読むの は考え過ぎだろうか.全体を読み通して, SilasMarnerはやはり legendary tale,,であると受け止める人があっても不思議ではないし,そのような側面 を否定することが本論の目的ではない.しかし少なくとも第6章には,この 作品をより realisticな,そしてより自分の目的にあった物語にしようとす る作者Eliotの意欲的な試みが読みとれる.そしてこの意欲的な試みは,彼 女が後に生み出すことになる作品群 例えばFelixHoltの第7章における Debarry家の召使い達の会話などーーに受け継がれ,発展させられて行くの である.その意味で, SilasMarnerの第6章は以後のストーリー展開のみな らず, GeorgeEliotが,この作品以降もさらに小説家としての手腕を高め

(16)

Silas Marner6章の特異性 ていくことをも暗示していると言えよう.

93 

作品本文およびQD. Leavisによる Introductionからの引用に際しては,

George Eliot, Silas Maur(Harmondsworth, Middlesex; Penguin Books, 1983 使用し,()内にページ数を示した.

表の作成に関しては,固有名詞のみを対象とし,代名詞は除外した.また所有格 (Silas Marners cottageなど)も除外した.なお姓もしくは名のみで登場する場合 や,明らかにその人物を指す別の呼び名(NewSquire Cassなど)は有効とした.

2 WaltrAllen, The Eη,g[ish Novel (Penguin Books, 1984), p.  227 

3 G.  S.  Haight (ed.),  The George Eliot Letters (London: Oxford University Press,  1945  55. 171.

4 Ibid., III,  382. 

5 The long pipes gave a simultaneous movement, like the antennre of startled in‑ sects, and every man present, not excepting even the sceptical farrier, had an im‑ pression that he saw, not Silas Marnrin flesh, but anpparision .(106)  6 Haight, III,  379. 

7 Ibid, III,  382. 

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