傾聴の意義と技法
この年齢になって傾聴なんて言葉を初めて耳にしたと思うが、要するに相手の話を聴くこと だ。耳を傾けて聴くので略して傾聴なんだろうねえ。 先に聞く、聴く、訊くの違いを学んでおこう。 ★聞く:とにかくいいかげんだろうが、何であろうが聞くこと ★訊く:尋ねる、問う、取り調べる、責めるという言葉でわかるとおり、これは相手に対して 答えを求める場合に使う「きく」である。 ★聴く:相手の話を熱心に注意しながら聴く。聴く側が努力して積極的に聴く場合に使う「聴 く」である。 先生と生徒の会話例 先生「これから皆に宿題をやってきたかどうか訊きます。」(ちゃんとやってきたか尋ねる) 生徒「え~っ、面倒くさいなあ…」 先生「まずは国語の宿題だけど、国語の宿題は2学期からやってきた漢字の書き取りだった よね…こら!ちゃんと先生の話を聴きなさい!」(注意して熱心に聴きなさい) 生徒「聞いてるよ~」(ところが生徒側は熱心に聴くつもりは無いので、「聞く」になっている) もちろんカウンセリングの傾聴は「聴く」である。彼氏彼女の話、奥さん旦那の話は「聞 く」のではなく、「聴いて」あげましょうね…●傾聴の前提となる考え方
相手の話を傾聴する場合、どんなことを考えて傾聴すれば良いかということが傾聴の前提と なる考え方である。 ○人間は自己成長力を持っている 人間というのは必ず自分で成長するものであることを信じて聴くこと。 ○問題を解決するのはクライエント自身である だからといって「自分で何とかしろよ!」とつきはなすのではなく、「頑張って自分で何 とかしようね。」と願いながら支援する感じで聴いてあげよう。●傾聴の基本的態度
○カウンセラーの基本的態度と心構え ※自己一致 これはクライエント側ではなく、カウンセラーの方が自己一致しているということであり、 ありのままの自分でいられるということ。自分の意識を否定せず、歪曲せず、自分自身 の体験をありのままに受けとめられる状態ということだ。この理論の提唱者であるC.ロジャーズはこの部分をgenuineness(純粋さ)とか transparence(透明)であると表現している。色々なテキストでは自己一致という表現 を使っているが、結局クライエントに対して正直であって、そして純粋であれば良いとい うことがC.ロジャーズの論文では強調されている。 一方で注意しないといけないのが、こうしてクライエントに対して純粋であるがゆえに クライエントの感情にまきこまれてしまう時がある。そうならないように自分で気付く ことが大事であり、冷静であることが必要だ。 ※無条件の肯定的配慮 どんな相手であっても、そしてその人の行動や考え方がとてもとても自分で認められ なくても、それを受け入れるということである。 実践面では、いくら何でもこれは受け入れられないというものがあるかもしれないが、 そういう場合は、とにかく一時的でも良いので一度は受けとめておく。そうでないと 相手が話をしてくれなくなってしまうからである。 例えば、以下は大変厳しい無条件の肯定的配慮の例だ。 この無条件の肯定的配慮では、カウンセラーは価値判断をしない。上左図で、「食欲が なくてやつれてきちゃいまして…」とクライエントが言っているが、カウンセラーは ブクブクに太っている相手を見ても、ここで「何を言っているんだこいつは…どこがやつ れているんだ…」という価値判断をしないということである。 また結論を急がないことも大事だ。上右図では、誰がどうみて外見のせいでこのクライエ ントが人から良く思われていないことはわかるが、結論を急いで相手の悪いところをすぐ に指摘しないことである。まずは相手を受けとめて信頼関係を得なければならない。 いくら肯定的配慮と言っても、極端な肯定はまずいし、極端な否定もいけない。相手の 思っている感情と同程度にこちらが感じていることをあらわしてあげないと、クライエン トが変な方向に進んでしまう 何故か人から良く 思われないところ があって… 何で…ですかねえ… 食欲がなくて やつれてきちゃ いまして… それは…大変 ですねえ…
特に感情の程度を表す表現には要注意だ。 ※カウンセラーがクライエントの感情を極大化して失敗する例 クライエント「上司のいじめがひどくて、毎日がつらくて…」 カウンセラー「上司のいじめがひどくて、死ぬほどつらいのですね…」 クライエント「そうです…いじめられるたびに、もう死にたくなって…」 ここからクライエントは、そこそこつらかった感情が、「死にたいくらいつらい感情」へ 移行してしまうことになる。 ※カウンセラーがクライエントの感情を矮小化して失敗する例 クライエント「上司からのセクハラがひどくて、苦しくて…」 カウンセラー「セクハラが嫌なんですね…」 クライエント「嫌なんてもんじゃありません…ほんとに苦しいんですよ…」 クライエントはカウンセラーに苦しみをわかってもらえなかったと考えている。 「クライエントの肯定的要素と否定的要素」とあらわすことが多いが、要するに クライエントの肯定的な感情も、否定的感情も同程度に受けとめて極大化したり矮小化し たりしないように気を付けるべきであり、更に肯定的感情、否定的感情のどちらか一方に 偏りすぎないように気を付けるべきであるということだ。 過去に技能検定2級の問題でもあったけど、とにかく相手の感情を変えずに、そのまま受 け止めることが大事である。大げさでも控え目でもいけないのである。 ただ、クライエントが冷静さを失っていると考えられる場合は、それを矮小化したり極大 化したりすることも、時には必要である。 クライエント「上司を殺してやりたい程憎んでます。」 A:カウンセラー「上司にかなりのご不満があるようですね。」 B:カウンセラー「上司を殺したいくらい上司が憎いのですね。」 やはり応答としては、Aの方が適切でしょう。 もう一つ無条件の肯定的配慮で必要なのが無知の姿勢だ。別にバカなふりをしたり、バカ になるということではない。クライエントの心はそう簡単に理解出来るわけではないので 「まあ、だいたいこんな感じだろうなあ」と早合点しない、たかをくくったりしないよう にするということである。 ちなみにたかをくくるとは「高を括る」と書く。物の生産高とか金額の売り上げ高とかそ ういったものの程度(高)を示しており、それを安易に予想したりしてはいけないという 意味である。 この鷹(タカ)は 関係ない
※共感的理解 クライエントの考えや価値観、感情を同じように理解しようとすることである。だから といってクライエントのつらい話を聞いて一緒に泣き出してしまっては困る。 ときには、まったく相手と同様な状態になるが、必要な時にはカウンセラー自身に戻れる ことが共感的理解の重要なところである。 共感的理解とは具体的にどうするか…まずクライエントが言おうとすることの意味を聴き、 気持ちに応えることである。 クライエント「つらくて…苦しいんです…」 カウンセラー「つらくて…苦しいんですね」 クライエント「ひどくて…ダメなんです…」 カウンセラー「ひどくて…ダメなんですね…」 という感情の伝え返しである。 次に共感的理解で気を付けなければならないことは、 カウンセラーの準拠枠で聴いてはいけない カウンセラーの準拠枠で応答してはいけない ということである。 カウンセラーが準拠枠で応答した場合の例をあげておこう。 クライエント「つらくて…苦しいんです…」 カウンセラー「一般的にそれはそんなにつらくもないし、苦しくもないですよ」 クライエント「つらくて…苦しいんです…」 カウンセラー「その程度で苦しいと思う人の確率は統計によれば、45%です」 カウンセラーが準拠枠で応答している場合は、その言葉の先頭に「得てして」「概して」 「一般的に」というのが付くようなことが多い。これは 覚えておくと逐語記録の時に判断しやすい。 クライエント「部下はまだ私より10歳も若いのですが、全然私の話を聴いてくれなくて、 私もそれが悲しくて…」 カウンセラー「若い人ってのはそんなもんですよ…」 クライエント「上司は自分が世界で一番偉いと思っていて、私へのセクハラも悪いと思っ ていないのです」 カウンセラー「偉くなると人はそうなるものですからねえ…」 上記のカウンセラーのどちらの言葉にも「得てして若い人ってのはそんなもんですよ」 「一般的に偉くなると人はそうなるものですからねえ」と、「得てして」「一般的に」 の言葉を付けることができる。これがカウンセラーが準拠枠で応答した場合である。
共感的理解で更に重要なのが、クライエントの言葉以外の様子だ。 一般的に、人は言葉よりも表情や態度や行動の方が正しい場合が多い。 車を運転している男A「君の家って、ここの交差点をどっちに行くんだっけ…」 助手席にいる女B 「私の家はここを左よ…」 よくあるこんな会話で女Bが左と言いつつ、指で右をさしていたらどっちが正しいであろ うか…正解は指でさしている方向が正しいことの方が圧倒的に多いのである。男Aは女Bの 言葉を気にせずに右へ行けば良い。 その人が正直であれウソつきであれ、それは関係なく、自分の気持ちや頭で考えているこ とが表現できないことはどんな人でもある。 クライエントの言葉だけでなく、様子や表情をしっかりと見ることはとても大事である。 実際のカウンセリングでは、メモを取ったりデータを見たりしながら話を聴くこともある けど、その場合であっても、しっかりクライエントが話をしているときはクライエントの 方に体を向け、クライエントの表情を見よう! そしていくら共感的理解をしていると感じても、それが間違っていてはまずい。自分の理 解が正しいかどうかを確認することは大事である。 クライエント「あんなに頑張って、成績を上げたのに、どうして褒めてくれない のかな…」 このクライエントの会話の場合、当然褒めてくれないことを悲しんでいるわけだけど、 頑張ったことを褒めてもらえない 成績を上げたこと(結果を出したこと)を褒めてもらえない どちらが悲しいのかわからない。 上司A「(結果はともかく)よくここまで頑張ったね」 上司B「成績が上がって良かったね」 上司Aと上司Bの褒め方は違う。どちらで褒められてないことを悲しんでいるのか? カウンセラー「成績を上げたのに、褒めてもらえないことが悲しいのですね」 カウンセラー「頑張ったのに、褒めてもらえないことが悲しいのですね」 と、このように確認することが大事である。 で、今日はどんな ご相談ですか… こっちを見て 話してよ…
●傾聴の効果
傾聴の時の留意点や心構えはわかったけど、傾聴することでどんな効果があるのかをここで 学んでいこう! ○信頼関係ができる 聴いてもらえることでクライエントはカウンセラーに理解してもらえたと感じて、カウン セラーを信用するものである。 実際に実技でカウンセリングを行う場合、とにかく「聴くこと」。相手の話がどんなに長 くても基本的には待ち続け、感情や事実の応答だけで基本的には聴くだけに徹する。技能 検定の論述で出てくる逐語記録ではかなり速い展開で話が進むが、実技や実際のカウンセ リングでは、聴くだけでそのカウンセリングは終わってしまうことが多いくらい相手の話 を聴くことに重点を置く。 そしてクライエントが言葉に詰まってきたら、カウンセラーからの質問が始まる。 ○自己理解が進む 一人暮らしが長いと、例えば犬に話しかけたり、家にある人形に話しかけたりする。それ でも話すことですっきりする(後述するカタルシス効果)くらいの効果は得られるから 結構無反応なものに話しかける人は多い。 しかし、カウンセラーは無反応ではない。カウンセラーは反応として、クライエントの話 した言葉を応答する、そして共感するのである。クライエントはそういうカウンセラーを 見て、自分の状態を確認することが出来る。 クライエント「父親が亡くなってから、本当につらい毎日で…」 カウンセラー「お父様を亡くされて、ずっとつらかったのですね…」とカウンセラーも つらそうな表情をして応答する。 そのつらそうな顔をしているカウンセラーの言葉を聴き、カウンセラーの様子を見て、 クライエントの思い「そうか…私は父が亡くなってから、ずっとつらかったんだ…」 と、クライエントが自分の状態を理解することが出来る。これがカウンセリングにおける 自己理解である。 まあ、あまり現実的ではないけど、飼い主がつらそうな顔をして犬に話しかけたりすると 犬もつらそうな表情をしてくれることもある。ドラマとかでよくありがち(それにしても そういう演技が出来る犬ってすごいと思う)だが、そう考えると、たとえペットであって もカウンセリングに役立つこともありそうだね。 何か答えなさいよ…○自己受容の促進 自己理解と似ているが、自己受容は自己を理解した後、それを受けとめることである。 「つらい」「悲しい」という自分自身に対して、 「そうか、つらいのは当たり前なんだよな…」 「悲しいと思っても別に悪いわけじゃないんだよな…」 と自分自身を受けとめることが出来ることである。 ○変容への展開 クライエントは自己受容が進むことで、自分自身を見つめなおして、問題解決へ向かう。 自分の状態がよくわからないとなかなか前に進めないものである。 自分がよくわからなくて、防衛的反応をとってしまう人が、自分を理解して変容していく 展開を例を挙げて説明してみると、 「何でキャリコン技能検定の勉強ってこんなに面白くないのかなあ…」 ↓ 「こんなこと勉強したところで、何の役にも立たねえよ…」 これが防衛的反応だ。合理的な理由(何の役にも立たない)を付けて、勉強をしたいと思わない。 ↓ 「そうか…昨年一度試験に落ちているから、自分は劣等感を感じているんだな…」 自分を理解する。 ↓ 「仲間のほとんどが合格しているから、劣等感を感じるのは当たり前だなあ…」 自己受容をする。 ↓ 「次に合格すれば劣等感は感じなくなるだろう。それならくよくよしないで、ちゃんと今やってい る勉強に目を向けてみよう!」 変容していく。 最初に思っていたキャリコン技能検定の勉強が面白くない、というのは間違いであって、自分に 劣等感があってそう感じてしまうことに気付いた、という展開である。 さすがに私自身はこの手の資格試験に落ちたことはなかったけど…運転免許試験に不合格 だった(しかも2回不合格…)時にこんな状態になったかな… ○カタルシス効果 もともとカタルシスは医学用語で、「薬を使って悪いものを吐き出す」ことを示していた。 心理学でこの言葉を最初に用いたのはS.フロイトで、「自分が嫌だと思っていることを口 に出して吐き出すことでスッキリする」という意味である。 選択肢中の言葉として出題されたことがあるけど、意味がわからないとまずい。 クライエントはカウンセラーに話をするだけで、スッキリして帰っていくことも多い。 これは一人でも出来る。「王様の耳はロバの耳」の話で知られるように、思っていること を叫んでスッキリした経験は誰にでもあるだろう。確かに、異性にフラれて「XXXのバカ ヤロー」と叫ぶとスッキリするかな…今さら居ないかそんな奴は…
●傾聴の限界
カウンセリングが傾聴だけをやって成り立つかというと、そうではない。傾聴にも限界が あってそれだけではダメだということである。機械的な面接になってしまう危険もある。●傾聴の技法
技法と言うと専門的に聞こえるけど、その通り専門的なテクニックのことだ。といってもそ れを使いこなすにはある程度経験が必要だし、その意味や意義を知る必要がある。 身に付けるとはどういうことか? 技法の意味や役割をよ~く知った上で使う場合、それが自分なりの使い方(主体的な使い 方)になることがある。それが身に付いた状態である。 例えば英語のNOは「いいえ、違います。」と意味することは誰でも知っているだろうけど、 これを単に知っているのと、身に付いて使うのとは違う。 アメリカ人と300gのステーキを食べた直後に、アメリカ人からこう聞かれたとする。 「Are you still hungry?」(まだおなかすいてる?)これに対して無表情で「No」と答えたとする。確かにこれで「おなかすいていない」という 意味だから、意味は相手に伝わるけど、英語での言い方が身に付いた言い方ではない。 上の質問に対して「No」と答えながら「とんでもない(今食べたばかりだからおなかいっぱ いに決まってるよ!)」というような表情をしながら、更に手の平を左右に振りながら言う ことが出来たら、それは英語での「No」の言い方が身に付いていると言える。聞いた方のア メリカ人もそれを見て「冗談で聞いてみた甲斐があった」と満足そうに微笑むだろう。 このNoと言うとき、手の平を左右に振ったり、とんでもない、という表情をしたりするのは 個人の主体的な行為である。Noという意味がはっきり分かった上で、相手に伝えようとする ための主体的な行為である。 同じように技法を覚えた場合、その意味や意義を知った上で使えば、それが主体的であって も構わないのである。 試験の選択肢でこんなものがあったとする。「傾聴の技法はカウンセリングの長い歴史の中 で研究されたものであるので、決して主体的な使い方をしてはならない。」これは×である。 技法の意味や意義を分かった上で、それを自分なりの主体的な使い方で使うことは別にかま わないことであり、むしろそれが身に付いたということなのである。 では、どんな技法があるのかを勉強していこう!
○かかわり行動 クライエントに対して真剣で温かい接し方ということである。 足を組んでいたり、腕を組んでいたりすると何だか偉そうに見えて話しづらいものであ る。相手が話しやすい態度や環境を整えることすべてがこれに該当する。大抵の人が常 識的に身に付けているものだから簡単に書くと以下のようなこと。 場所 :暑いのでクーラーを付けてあげる 清潔感のある部屋でカウンセリングを受けさせる 椅子も座りやすいものを用意する 表情・態度・姿勢 やさしい表情/きちんとした服装/やや前傾で、少し身を乗り出す/自然にゆった りとした身振り 視線 :凝視というかソフトに視線を向ける/目だけでなく体も相手に向ける 声かけ:やさしく温かい語調/きれいな言葉づかい 注意! わざとらしくならないように…右は、やりすぎ例 ○クライエントの観察 前述のように人は言葉より行動の方が正直なことが多いから、クライエントの観察を しっかりしておかないといけない。 言葉と行動が一致していない場合は、それに気付いても急いで対応せず、クライエント の安全感を醸成した上で(つまりクライエントが少し落ち着いてから)、自己理解を すすめることが大事である。 ただし、クライエントの緊張サインや憂慮(心配事や思いわずらい)すべきサインに気 が付いたときは急いで対処する。 葛藤や心理的な不一致がある時は言語表現に矛盾が生じることもある。 クライエント「あんな上司、さっさと居なくなってしまった方がいいです!」 しばらくして… クライエント「どうして、上司は転勤する前に私に一言言ってくれないのかなあ…」 上司にむかつきながらも親しみを感じているクライエントの事例はよく見られる。論述 で出される逐語記録の場合は、クライエントの観察は出来ないが、「…」であらわす ため息や沈黙からクライエントがどんな様子か想像するようにしよう。 何をお悩みですか? 何で背景がバラ…
○簡単受容 これはクライエントに対して「ちゃんと聞いてますよ」のサインを出すうなずきや相槌 のことだ。これには「はい」「ええ」「なるほど」「うん」以外に相手の言葉の一語程 度を応答するものも含まれる。 「残業が160時間になってしまいまして…」 「160時間…」 ○場面構成 場面構成は、厳密に言うとカウンセラーとクライエントの間で、カウンセリングの特質 やカウンセリングの関係について合意を得ることだから、カウンセリングをやるときの 同意や守秘義務について話すことになるけれど、それだけじゃなくて、普通の最初のご 挨拶も含まれる。これはクライエントをリラックスさせるための行為も含まれる。 ○事柄への応答 クライエントが話した事柄(事実、出来事、状況)のキーワードをとらえてクライエン トに伝え返すこと。クライエントの話した内容の確認に役立つ。 クライエント「私の家は会社から電車とバスを乗り継いで1時間半かかります。」 カウンセラー「家から会社まで1時間半ですか…」 要点で無いところを言ってしまうと間抜けな応答になってしまう。 クライエント「私の部下はバカなので、一度印刷したものをまた印刷してしまったり、 大事な書類を捨てたりしてしまうことがあります。さすがに最近はその 頻度が高くなっているのでちょっと心配なんです。」 カウンセラー「バカなので、心配ですか…」 と、このようにクライエントの言いたいことからはずれていたりすると、クライエント はカウンセラーがちゃんと聞いてくれていないと判断してしまいます。 ○感情への応答 クライエントの気持ちや感情をとらえて伝え返すことである。 中でも特にクライエントの感情表現を受け止めて伝え返すことを「感情の反射」という。 葛藤の両価的な反応は、両方ともうけとめて伝え返す必要がある。 葛藤の両価的な反応というのは(あれもやりたいし、これもやりたい)、(あれはやり たいけど、これはやりたくない)、(あれもやりたくないし、これもやりたくない)の 3種類のパターンがある。 クライエント「やりがいのある仕事で楽しいけど、会社が安定していなくて、会社の 将来性が不安なのです。」 カウンセラー「仕事は楽しいけど、会社の将来性が不安なのですね。」 そしてクライエントが言いにくい又はなかなか表現出来ない感情を伝え返すことを「感 情の明確化」という。
感情の明確化は、カウンセラーの方でそれを正確に感じ取った結果を伝え返すので、頭 を使って考えないといけないし、ある程度の予測や予想がそこに入ることもあるけど、 気をつけなければいけないのは深読みしすぎることである。また「読みはずし」をやっ てしまうと不信感を与えてしまう。 クライエント「私はこれまで一生懸命やってきました。係長から課長にもなり、嫌いな 上司との接待も積極的に参加し、休みたい休日を削ってお客さんとの接待 ゴルフにも参加し、部下の失敗にも目をつぶって苦しい残業を続けてきま した。それなのにうちの妻は給与が低いことばかりを責める…今のご時勢 はきちんと毎月あれだけの給与が出て賞与も出ている会社なんて少ないん ですから…」 上のクライエントの言葉に対して、 カウンセラーA「頑張ってきたのに、それを奥さんが理解してくれないことがつらいの ですね…」 これはまあ、良い感情の明確化と言えるでしょう。 カウンセラーB「奥さんと離婚したいのですね…」 これは、たとえそうであっても深読みしすぎです。 カウンセラーC「会社が忙しくてつらいのですね…」 これは読みはずしですね。つらいとクライエントが確かに言っているのですが、 クライエントが言いたいことは、彼の奥さんにわかってもらえないことですから… ○要約 クライエントの述べた内容の要旨をまとめて伝え返すこと。 クライエント「生命を維持し、且つ活動し成長するために必要な栄養素を摂取する行為 が十分に出来なくてつらいです…」 カウンセラー「要するに、おなかがへってつらいのですね。」 まあ、何か食べたいという行為をここまで面倒くさく説明する人はいないと思うが… この要約を使うタイミングは、話がひと段落したとき、面接が終わるとき、次の面接が 始まるとき、話がわかりにくいとき、話が脱線しているとき等である。要約する時は、 事柄の要約だけでなく、クライエントの感情もしっかり勘案してあげること。 ○質問(閉ざされた質問) 質問はクライエントの話に強い興味をもっていることを示してくれるけど、その一方で 質問することでクライエントを誘導したり、拘束したりする行為になってしまうリスク があるので、的外れな質問をしないことである。 閉ざされた質問は「はい」「いいえ」で答えさせる質問のこと。 緊張や動揺であまり頭の働いていないクライエントに対しては有効な手段だ。しかし これを多用しすぎると、カウンセラーが中心となって話を進めてしまうことがあるので 注意が必要だ。
それにこの閉ざされた質問を繰り返すと、クライエントがせっかく言いたいことも言え なくなってしまう可能性がある。 彼氏彼女の間でも質問の方法が閉ざされた質問だと、相手に制限を与えてしまい、 うまくいかないことがある。 男A「五右衛門のスパゲッティ食べたい?」 女B「食べたくない…」 この男Aは閉ざされた質問をしたので、女Bの回答から女Bの本心を聞き出すことに失敗 している。この場合女Bの考えていることは以下のようにたくさんある。 「そもそもおなかがすいていない」 「スパゲッティは食べたいけど、五右衛門のスパゲッティは嫌だ」 「おなかはすいているけど、スパゲッティは嫌だ」 「五右衛門のスパゲッティを食べたいけど、その程度の女と思われていることが嫌だ」 「おなかもすいていて食べたいけど、あなたとは食べたくない…」 あまり感情的な間柄には多用しない方が良い。だから感情的になる必要がない警察の 取り調べなんかは、この閉ざされた質問が多いんだよね。 ○開かれた質問 クライエントに、考えや感情などを自由に語ってもらう質問である。 「どのように、どんな」と聞いた場合 クライエントの感情や行動の意味などを知るのに有効。 クライエントに対して、もっと良く自分の内面を探索させるのに有効だ。 「プロポーズされた時にどんな気持ちになりましたか?」 「何」と聞いた場合 クライエントの体験した事実や事柄に関する情報を知るのに有効。 また、クライエントに客観的なものの考え方をさせるのに有効だ。 「何がそんなに怖かったのですか?」 「どうして」と聞いた場合 クライエントに理由や意味を尋ねるのに有効。 この場合、直接的な表現にすると、責められているようなイメージになるので、 表現に注意することが必要である。 「どうして、その仕事をやろうとは思わなかったのですか?」 開かれた質問の注意点 ※質問に自由度があるため、答えを考えるのに苦労してしまうことがある。 そういう時は少しだけ答えやすい工夫をする。 「新しい職場はどうですか?」それよりも、 「新しい職場での人間関係はどうですか?」の方が答えやすい。 ※質問に答えてくれたら、その答えについてもきちんと受容、共感してあげることを 忘れずに…
○沈黙への対応 クライエントの沈黙の意味 ★自分を語ることへの抵抗、ためらい、不安 ★ためていたことを言うことによってスッキリしたときの安堵感 ★自分の考え、感情などを探索している状態 ★自分を理解してくれないカウンセラーへの不満、怒り、反発 沈黙の対応として正しいものは? ●クライエントが話すことについて決心がつかない様子の場合は「話しづらい感じなの ですか?」と声をかける。 ●クライエントが次にどう話すかを考えているときは、黙って待つかあるいは「話やすい ところからどうぞ」というように声をかける。 ●あまりに長い沈黙の場合は、クライエントの言葉を使って要約したり、クライエントの 感情を伝え返してクライエントの言葉を待つ。 ということで上記はすべて正しいということになる。 カウンセラーとしての沈黙への対応 ★気まずい、と思っても急いで沈黙を破るような動きをしてはいけない。 ★カウンセラーは、沈黙している本人とともに、じっと沈黙を持てる耐性を もたなくてはならない。 ★クライエントが一応話終わった小休止や、次にどう話すかを考えている ような時には、カウンセラーは黙って待つ。 ★明らかにカウンセラーの言葉を待っている時は応答する。 ★クライエントが緊張している時、または話すことについて決心がつかない 様子の時は、クライエントの気持ちを伝え返して話しやすくする。 ★クライエントが話すことについて拒絶や抵抗をあらわしているような様子 の時は、その気持ちについて話し合う。
あまりにわからない人が多く、実は私もモヤモヤした状態だったのでC.ロジャーズの原文と 彼が実際に話している動画から以下のような解釈をした。 かなり大事なところです。 これにはまず、あとでたくさん登場してくるC.ロジャーズの 説明から始めないといけない。彼はアメリカの心理学者であり、 来談者中心療法というカウンセリング理論を提唱した。 そうですね…この来談者中心療法が産業カウンセラー協会 が実技で指導しているカウンセリング理論である。 彼によれば、カウンセリングによってクライエントが スッキリするという仕組みは以下のようにして説明 出来る。 これは自己理論というものだ。左上図がクライエントの最初の状態だとする。クライエント が「もう!会社が嫌で仕方ありません!」とカウンセラーに言ってきたとする。これがこの 時のクライエントの自己概念(クライエントが頭の中で考えていること)である。そしてカ ウンセラーが話を傾聴し、理解し、共感していくうちに、実は「上司に評価されていない」 ことをクライエントが嫌だと思っているとする。この上司に評価されていないということは クライエントが体験してきたことである。やがてクライエントは「別に自分は会社が嫌なの ではなく、上司に評価されていないことが嫌なんだ」と気付く。ここで右上図のように自己 概念と体験が一致している部分が広がる。これはクライエントの自己概念と体験が一致して いなかった状態から、カウンセリングによってそれが一致してきたことを意味する。こうし てクライエントは自分が会社を嫌がっていた原因を認識してスッキリする。 体験 体験 自己概念 自己概念 一致している 部分 一致している 部分 「上司に評価 されていない」 「会社が嫌だ!」 「会社が嫌なのは上司に評価されて いないから」 自己概念と体験が一致していない状態 心理的不適応の状態 自己概念と体験が一致している状態 心理的適応の状態 カウンセリング 終了後
自己一致についてもう少し詳細に…
C.ロジャーズ先生 さすがカウンセラーと言える。 素晴らしくわかりやすい英語を 話している。自己一致についてもう少し詳細に…
ここで注意しなければならないことは…カウンセラーがクライエントの傾聴を行う時の態度 である受容、共感、自己一致の「自己一致」と前ページの「自己概念と経験の一致」は違う ものであるということ! ここでもう一度自己一致を復習しておこう。 カウンセラーはクライエントにカウンセリングする時は、カウンセラー自身が自己一致して いないといけない…と、これはどういう意味か? 試験対策用としては、これは前述したよ うに何と何が一致しているかを深く考えないようにしましょう。本当のことを知りたい場合 は試験に出題される範囲以上の深い理解が必要だ。(詳しく調べたい人は私に別途聞いてく ださい。) では試験対策用の自己一致はどうやって覚えるか?単に自己一致という言葉で表現されただ けで意味としてはクライエントに対して純粋であり、ありのままであり、うわべで話したり 見栄を張ったりしないこと、ということである。その状態では、カウンセラーは自分が体験 していることが正確に意識されている。そしてクライエントに対して正直で、純粋であると いうことである。 ここで矛盾を感じるであろう。無条件の肯定的配慮(受容)で共感的理解をしなければなら ない状態で上述のように自分に素直で純粋でないといけない。じゃあクライエントがもし… 左の図のような状態で接してきたら… 「どう考えても太っているだろ…」と思って いても、それは「そうなんですね」と受容 すべきである。そして彼が何かにつらくて やつれてきてしまったとしたらそれを共感 すべきである。それじゃあ、カウンセラーは 自分を偽っていることになるから純粋じゃな いのでは?と思うかもしれないが、ここで自 己開示をして思っていることをぶつけて、 「いや、やつれていないだろ、太ってるだ ろ」と言ってはならないのである。クライエ ントに対して純粋であっても素直であっても クライエントを傷つけてはまずい。カウンセ リングの関係を良好に保つ方が優先だからで ある。 もう一つ、大事なこと。産業カウンセラー協会やその他のテキストを見てみると、今までカ ウンセラーのことをカウンセラーとして書いてあったのに、C.ロジャーズの理論や説明にな るとそれがセラピストになっている。え? セラピスト? カウンセラーとどう違うの?と 考えると思うけど、C.ロジャーズの説明や理論の中でセラピストと出てきたら、セラピスト =カウンセラーと考えて間違いない。C.ロジャーズは日本で言う「カウンセラー」を「セラ ピスト」という言葉で表現していると考えてほしい。 食欲がなくて やつれてきちゃ いまして… それは…大変 ですねえ…来談者中心療法
産業カウンセラー協会のカウンセリング指導、実技指導の根本となる理論がこの来談者中心 療法だ。そしてキャリコン技能検定でもこの療法が頻出である。 では、そもそも何故このカウンセリング理論を重視されているかというと、 ※カウンセラーの基本的態度があらゆるカウンセリング実践にとって共通していること ※クライエントを尊重し、独特で複雑なステップに沿ってセラピーを展開していること が大きな特徴となるからである。 ここでまたC.ロジャーズさんに登場してもらいましょう。右の写真は せっかくなので前ページとは違う表情にしてみた。彼が1940年代 はじめに提唱したのがこの来談者中心療法である。彼はその当時米国で ウィリアムソンがやっていたカウンセリングを指示的方法と呼んで 批判し、カウンセリングは傾聴を中心として非指示的に行うべきである と主張した。 ではその非指示的な方法とはどんなものか… ●非指示的応答 1:場面構成 カウンセリングを行う場の設定や構造化のことであるが、カウンセラーがクライエント を迎える時の行動や態度も含まれる。カウンセラーがクライエントを迎える温かく 応答的な態度、感情の自由な表現の許容、明確な制限(時間、責任等)の設定、圧力や 強制からの解放等が重視される。厳密に言うとカウンセラーとクライエントの間で、 カウンセリングの特質やカウンセリングの関係について合意を得る(つまりこれは明確 な制限に該当する)ことだから、カウンセリングをやるときの同意や守秘義務について 話すことになるけれど、それだけじゃなくて、普通の最初のご挨拶も含まれる。これは クライエントをリラックスさせるための行為も含まれる。 2:シンプルな受容 相槌やうなずきで相手の話を受容すること 3:表現内容の繰り返し クライエントの言った言葉をそのまま伝え返すこと 4:感情の反射 クライエントの感情を共感的に鏡映すること、例えばつらいです、と言ったらつらいの ですね、と返すことである。 5:感情の明確化 もやもやとしていたり曖昧なクライエントの感情を明確にすること といっても、これは相手の感情をズバリ当てることではない。相手の感情に焦点をあて ようとすることである。 「あなたはAさんが好きなのですね。」というより「あなたはAさんのことが何か気に なるのですね。」と言ってあげる方がこの感情の明確化に近い。 もともとこの来談者中心療法は、従来の指示的な方法と区別するため、非指示的療法、非指 示的カウンセリングと呼ばれていたが、受身的に話を聞くだけというイメージがついてし まったため、ロジャーズは来談者中心という用語を使用するようになった。 やや落ち着いた C.ロジャーズ先生体験 体験 自己概念 自己概念 一致している 部分 一致している 部分 「上司に評価 されていない」 「会社が嫌だ!」 「会社が嫌なのは上司に評価されて いないから」 自己概念と体験が一致していない状態 心理的不適応の状態 自己概念と体験が一致している状態 心理的適応の状態 カウンセリング 終了後 ●来談者中心療法の人間観 この来談者中心療法の人間観は人間性心理学の考えに基づいている。人間は自らが成長や健 康、適応へと向かうと考えている。 ここでロジャーズが特に重視したのが実現傾向と言うものである。この実現傾向とは「人間 が自らをよりよく実現していこうとする潜在的な力のこと」であり、それは適切な環境の下 では成長していくとされている。 ●来談者中心療法ではどんな状態のクライエントを支援してどんな状態にするのか? これは既に前ページでも説明しているが確認のためもう一度… これは自己理論というものだ。左上図がクライエントの最初の状態だとする。クライエント が「もう!会社が嫌で仕方ありません!」とカウンセラーに言ってきたとする。これがこの 時のクライエントの自己概念(クライエントが頭の中で考えていること)である。そしてカ ウンセラーが話を傾聴し、理解し、共感していくうちに、実は「上司に評価されていない」 ことをクライエントが嫌だと思っているとする。この上司に評価されていないということは クライエントが体験してきたことである。やがてクライエントは「別に自分は会社が嫌なの ではなく、上司に評価されていないことが嫌なんだ」と気付く。ここで右上図のように自己 概念と体験が一致している部分が広がる。これはクライエントの自己概念と体験が一致して いなかった状態から、カウンセリングによってそれが一致してきたことを意味する。こうし てクライエントは自分が会社を嫌がっていた原因を認識してスッキリする。
●人格変化の必要十分条件(うまくクライエントを変化させるための条件) C.ロジャーズは前ページのように「クライエントがうまく自己概念と経験を一致出来るよう になるにはどんな条件が必要なのか?」ということについて、以下の6つを述べている。 1:カウンセラーとクライエントが心理的接触をもっていること。 2:クライエントは不一致の状態にあり、傷つきやすく、不安の状態であること。 3:カウンセラーはクライエントとの関係の中で一致しており、統合していること。 またまたここで一致という言葉が出てきた。ここも何と何が一致していると深く 考えずに、偽りなく純粋で素直で正直であると認識しておこう。 4:カウンセラーはクライエントに対して無条件の肯定的配慮を経験していること。 5:カウンセラーはクライエントの内的照合枠を共感的に理解しており、この経験をクライ エントに伝えようとしている。内的照合枠とはクライエントが内部で保有している独自 の考え方のことである。 6:カウンセラーの共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最低限クライエントに伝わってい ること。 ここで共感的理解について復習しておくと、共感的理解とはクライエントの考えや価値観、 感情を同じように理解しようとすることである。だからといってクライエントのつらい話を 聞いて一緒に泣き出してしまっては困る。ときには、まったく相手と同様な状態になるが、 必要な時にはカウンセラー自身に戻れることが共感的理解の重要なところである。つまりカ ウンセラーもクライエントもお互いの違いや独自性は認識されているということである。 ここで、例題(過去問の選択肢より) クライエントに対するカウンセラーの共感的理解とは、クライエント への感情的な同情や癒着、同一視と同じようなことである。○か×か? 答えは×。共感的理解は感情的な同情や癒着、同一視とは質的に異なるものである。 共感:賛成しなくても良いが、相手の言っていることを受け止める。 同調:賛成した上で、相手が言っていることを受け止める。