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自治体 における教育特 区の導入 と指導主事の役割

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(1)

自治体 における教育特 区の導入 と指導主事の役割

押 田 貴 久

1

.本稿 の 目的 と課題

本稿 は, 自治体 における教育特区の導入 と指 導主事 の役割について,首長部局主導で国際教 育特 区を導入 した神奈川県横須賀市の事例 をも

とに検討 を行 うものである。

地方分権改革 に伴 い,市町村 では地域 におけ る教育課題 に対応す るため,少人数学級 や小 中 一貫教育 な ど, さまざまな教育改革 に取 り組 ん でいる。市町村独 自の教育改革 において,国に よる法制度上の課題 を乗 り越 えるために構造改 革特 区制度 を活用す ることは選択肢の一つであ る。教育特 区の導入, とりわけ市 町村費負担教 職員任用事業 については,少人数学級 な ど自治 体 における多様 な教育ニーズに対応す るため, 徳 島県の旧海部町 (現在の海陽町) をは じめ, 京都市や埼玉県志木市 など,い くつかの 自治体 で活用 されて きた (押 田2008)。 この市 町村費 負担教 職員任用事業 は2006(平成18)年度か ら全 国展 開 され,特 区の申請が不要 となった。

しか し,各 自治体が この教育特 区を何故, どの ように導入 したのか を明 らかに した研究は少 な い1)。 はた して各 自治体 ではこの教育特 区をど の ように受け止め,導入 し,活用 して きたので あろうか。

また, 自治体 の教育改革が学校現場 で着実 に 実施 されるためには,学校 と行政 との橋渡 し役 となる 「指導主事」の役割が重要である。指導 主事 は,上司の命 を受け,学校 における教育課 荏,学習指導その他学校教育 に関す る専 門的事

項の指導 に関す る事務 に従事す る教育委員会事 務局の職貞であ り,専 門的教育職員である (地 教行法第 19条3項,教育公務員特例法第2条

5

項)。

蛭田政弘 (1998)は指導主事の役割 には一般 に大 きく分 けて二つあると指摘す る。一つは, 指導主事が学校や地域社会等 に出向 き,教育委 貞会 を代表 して説明や助言等 を行 う外 の役割で ある。 もう一つは,教育委貞会の中にあって学 校教育の内容 ・方法等 にかかわる専門的な事項 について,施策 として事業化す る内での役割で ある。 また,蛭 田 (1997)は,指導主事 は本丸 教育課程 を中心 に学校 に対 して指導助言す る立 場 にあるが, この ような教育内容 ・方法以外 に, 今 日では少子化,高齢化 国際化等 に伴 う学校 教育の課題 に対 して も積極 的にその対応が求め られているとす る。 こうした課題 に対応す るた め,指導主事 には専 門職 としての新たなスキル が求め られてお り,その一つ として 「教育委員 会 と首長部局が連携 して総合的に施策 を立案す る能力 」 をあ げてい る。従 来 の指導 主事 は, 1956年 の地数行 法改正 以降,文部 (科学)省 一都道府県教委一市町村教委 とい うタテ系列 の 指導行政体制の中で,教員 ・学校への指導助言 活動な らびに指導行政事務 にあたって きた。 し か しなが ら,先の蛭田などの指摘 にもあるよう に,分権改革 によって,従来の タテ系列の教育 政策共同体 に とどまらない, 自治体内部 におけ る教育政策の形成 ・実施が,指導主事 の役割 と してよ り一層求め られているのではなかろか。

(2)

川上 ・橋野 (2006)は,教育政策に関与す る 各 アクターの関係 と,その行動 を枠付 ける制度 的要因に着 目し, 自治体 は どの ような条件 の も

とで新規教育政策の導入 をおこな うのか,教育 特区の提案 と申請 にわけ,計量的手法で分析 を 行 っている。 この中で,指導主事の市町村配分 率 を制度的変数 として投入 し,技術 的な面で教 育政策の企画立案 を担 う人材 の市町村‑の配分 状況 を示す指導主事配分率は,特 区採用では影 響 を与 えていないが,特 区提案では,正の方向 に作用 していることを明 らかに している。従 っ て,指導主事が教育特 区に よる教育改革 におい て,一定の役割 を担 っていることがわかる。そ こで本稿 では, 自治体 の教育改革の中で も市 町 村費負担教職員任用事業 に関す る教育特 区が, 何故, どの ように導入 され,その過程 において, 市 町村 配置 の指導主事 が どの ようなかか わ り

(関与) を してい るのか,神奈川県横須賀市 の 事例研究 をもとに明 らかにす る。

本稿 の構成 は以下の とお りである。 まず 1で, 本稿 の 目的 と課題 を述べた。2で横須賀市 にお ける国際教育特区の概要 について特 区申請書 を 元 にまとめる。次いで

,3

では国際教育特 区の コンセプ トはいかなる ものであ り, どの ように して策定 されて きたのか。 さらに 4では,企画 部門の発案 によるコンセプ トが具体 的に教育特 区 として申請 され,認定 を受けた後 に,学校 に おいて どの ように展 開 されることとなったのか を当時の担当者か らのインタビュー調査 をもと に明 らかに してい く。最後 に5で, まとめ と今 後の課題 を述べ ることとす る。

2.

横 須 賀 市 に お け る国 際教 育 特 区 教育特 区制度 を活用 した 自治体 の政策形成が どの ように して行 われて きたのか を明 らかにす る事例研究の一つ として,神奈川県横須賀市の 国際教育特 区をと りあげる。横須賀市の場合, 首長 による トップダウンで も,事業課である教 育委員会 ・学校か らのボ トムア ップで もない, 首長部局の企画部門 (都市政策研究所) による

ミ ドル ・ア ップダウン型で政策が導入 された2)。 横須賀市 は,2003(平成15)年8月29日, 21世紀 を担 う個性豊か な国際人の育成 を 目指 す 「国際教育特 区」の認定 を受け,2004(平成 16)年4月か ら英語 を母国語 とす る教員 を市の 職員 として採用 し, よ り実践的な教育 を行 って いる。国際性豊かな地域特性 を生か し,国際理 解教育,ICT教育 を身につけた個性豊かな 「21 世紀型国際人の育成」 を目標 とした国際教育特 区構想 を推進す るものであ り,市域全体の公立 小 ・中学校 の国際理解 ・英語教育の充実 を図る ネイティブス ピーカーの活用 (人材 の確保) と 先駆的モデルである未来人創成塾 (私立小 中高 学校)の創設 を二つの柱 として成 り立 っている。

多様で先進的な新 しい教育事業 を展 開す るため の最初のステ ップとして.地域 における人材 の 活用の観点か ら,児童 ・生徒の外 国語 によるコ ミュニケーシ ョン能力の向上や国際理解教育の 推進 に大いに寄与 している外 国語指導助手等 に 特別免許状 を授与 し,特例の導入 によ り市費負 担の正規教員 (常勤講師) を活用 している。

ネイテ ィブス ピーカー をALTではな く正規 教員 (常勤講師) として採用す ることによ り, 教科担任 として単独 で, 日本語 を一切使わず に, 英語 を英語で考 える習慣 を身に付 けるといった 教授法 を用いた授業 をカリキュラム編成か ら行 うことがで きる。 また,正規教員 (常勤講師) として採用す ることによ り,研究拠点校 による 授業 実践 ・カ リキュ ラム研 究 に留 ま らず,① ALTへ の指導 ・助言,② ALTの活用研 究,

③研修計画策定支援及び研修講師など広範 にわ たる業務 に対 して積極的に関わって もらうこと になる。そ して,非常勤では授業のみの勤務 と なるため,授業以外 の研究指定校 での勤務及び 研究活動 に支障がでる。そのため授業以外 の業 務 については,主な もの として以下の ものを示 し,学校運営 な らびにカリキュラム開発の充実 を図ろうとしている。

ア 英語科教科会へ参加 し,年間カリキュラ ムの作成,単元の指導 ・評価計画の作成,

(3)

テス ト問題及び評価 ・評定の処理等 を行 う。

イ 研究発表 に関す る業務 として,研究紀要 (指導の方針 ・実践記録 ・考察等)の作成, 研究授業の実施及 び研究協議への参加 を行

う。

英語教育 を考 える場合,中学校 だけで完 結す る ものではな く,小学校や高等学校 と の連携が重要である。連携 を進めるにあた って,学校視 察 ・ALT指導 ・研修 ・教育 委員会 との打 ち合 わせ等 を行 う

その他

,

「総合 的 な学習の時間」等 にお ける国際理解教育 など,英語科以外 の授業 を行 う。

また,直接生徒 の教育 に携わる者 として は,朝会 ・生徒会活動 ・体育祭 ・文化祭 ・ 社会見学 ・キャンプなど学校行事 といった 学校 の教育活動全体へ参加 し,生徒理解や 生徒 との関わ りを深めることが必要不可欠 である

初 年度 で あ る2004(平成16)年 度 には,2 校 を研究指定校 (拠点校) として指定 し,ネイ ティブス ピーカーを教科担任 の正規教員 (常勤 講師) として配置 した。 この研究指定校 (拠点 校 ) において,指導形 態 (単独,TT等),時 間割,教材 な ど様 々な角度か ら検証 し,市立 中 学校 における一番望 ま しい英語教育手法の開発 が行 われてい る。 そ して,2007(平成19)午 度 までに毎年 1名ずつ増や し,最終的には市内 5ブロックの研究指定校 (拠点校) に5名のネ イティブ教員 (常勤講師) を配置す る計画であ る。

では,横須賀市において, この計画が どの よ うに して策定 され,国際教育特 区 として導入 さ れたのかについて,当時の担当者へのインタビ ュー調査3)等 をもとに次節以降で明 らかに して い く。

3. コンセプ ト策定 (1)基本的 なコンセプ ト

横須賀市の場合 は,開国の地 とい うとことか

自治体 における教育特区の導入 と指導主事の役割

らは じま り,現在 において も米軍基地があ り, 横須賀 リサーチパークには多 くの外 国人研究者 が訪れる。 また,市では国際色豊かな取 り組み が行 われてお り,国際的な都市であるとい うこ とが一つの売 りであ り,強みである。一方,都 市の弱み とい う部分では,特 に教育 に関 して, 横須賀市周辺 には,義務教育課程 を有す る私立 の学校が少 な く,特色ある学校 を選択す る余地 が少ないのが実情であ り,魅力的な教育環境が 整備 されているとは言いがたい状況 にある。 ま た,横須賀 リサーチパークへの通勤者の定住 を 図るために も,横須賀市内に国際性豊かな学校 が必要 なのではないか。 こうした弱みを補 うと い う点か ら,国際教育特 区 とい うコンセプ トが 生 まれたのである。 したがって,最初か ら教育 あーりきではな く,市全体の政策な り,現状 を見 渡 した中で強み と弱み を検討 し,国際教育特 区 というコンセプ トを市 としては取 り上げてみ よ うとい うのがそ もそ もの出発であった。

具体的には,横須賀市の豊かな国際性 を生か して,高度 な国際理解教 育

,I T

教育,社会教 育 といった教育がで きるような環境 を整 え,国 際社会で活躍で きる人材 の育成 を図るとい うこ とが大 きなコンセプ トである。 この コンセプ ト は大 きく二本柱 となっている。一つは 「公立学 校教 育

」 ,

もう一つ は 「私立学校教育」 と,公 と私の両輪で進めなければいけない と両方の コ ンセプ トを考案 した。前者 はファース トステ ッ プとして,ネイテ ィブ教員 を市の職員 として採 用 し,英語教育 を充実す るとい うものである。

横須賀 は米海軍基地などもあって,ネイテ ィブ 教員 とな りうる人材 はほかの地域 よ り豊かであ り,人材 を生かせ るのではないか とい うことで 取 り組 まれた。そ して もうーっ,後者 としては 定住化 を促進す るためにも,で きれば私立の学 校 を呼 び込む とい うものである。横須賀市 とし ては,公立 と私立の両輪でやってい きたい とい う思い もあ り, この二つの コンセプ トがつ くら れた。

二つの コンセプ トの うち, ファース トステ ツ

(4)

プである市費負担教職員任用事業の方 は教育委 員会 において,順調 に進 め られた。市 内

2 5

校 の中学校 を当初 の段 階で5つのブロックに分 け, 最初

2

つのブロックを対象 に して拠点校 とネ ッ

トワーク校 とい う形で,拠点校 に2名配置 した。

そ して段 階的に配置 を進 め,平成19年度 には 5人 目を採用 している。5つのブロ ックにわけ た拠点校 には全 て教員 を配置す ることがで きた。

両輪の もう一つである 「新 しい学校」 につい ては,現在 も交渉や募集 は続け られているが, 具体化 で きない状況 にある4)。当初 の コンセプ トでいえば,国際社会で通用で きる人材 を育成 す るためには.小学校か ら英語 を学べ るような 学校 をつ くろうとい うことで,群馬県大 田市の

「群馬国際 アカデ ミー」 と同等 の もの をイメー ジ していたそ うである。横須賀市では,市立高 校統合後,旧市立横須賀高校 の敷地が空いてい たこともあ り, この土地 と建物の有効活用が課 題であった。土地 と建物 を提供 し,学校 の運営 は学校 に任せ るとい うね らいで導入 を進めて き た。ただ,現実的にはこうした教育 をや って, 学校 の運営 まで とい う合意 まで達 していないた め,今 も模索 している最 中 とのことである。企 画部門では, こうした新 しい学校がで きれば, 市内の教育のプライオリテ ィもあが り,市内の 定住人口の増加 に もな り,活性化 に もつなが る と考 え, この計画は立て られた。む しろ, こち らが メイ ンの コンセプ トであったのだが,教育 委員会の理解 も得 られて,計画がつ くられたの である。

(2)発案者 と検討組織

この国際教育特 区は,学校現場や教育委員会 か らの提案や懸案 とい うものではな く,当時の 都市 政策研究所 にお ける,「都市 ・横須賀市 と しての強み を生か し,弱み を補 うには何が必要 なのか」 とい う検討か ら始 まった。特 区制度が 国で立ち上が った際 に,横須賀市 として も是非 この制度 を活用 して,地域 の活性化 に繋 げよう とい うことで,元 々,教 育特 区あ りきではな く,

横須賀市 にとって,何が一番 この制度 をいかせ るか とい うところか らコンセプ トづ くりが行 わ れた。最初 は都市政策研究所内に緩やかなワー キ ングチーム (WT)を作 り,特 区制度はどう い うものか,横須賀市は政策的にどういったこ とをやっていけばいいのか と,当時の都市政策 研 究所 のメ ンバーが中心 となって,検討が なさ れた。WTの段階で,特区提案について庁内各 部局か ら募集 もしたが,相談 はあっものの,実 現 に向けての具体的な ものはなかった。そ して,

「教 育でい こう」 とい うコンセプ トを出 したの はWTであ り, この国際教育 とい うアイデ ィ アは市の企画部門主導でつ くられた ものである。

WTで 「教育で行 こう」 とい うコンセプ トが出 た段階で,教育委員会のメンバーや財政のメ ン バ ー を入 れた プロジェク ト ・チーム

( P T)

が 発足 した とい うこ とであ る5)。す なわち

,P T

をつ くった段階で,教育委員会か ら当初 は企画 担当,途中か ら指導主事が加わったのである。

「国際教 育特 区」 とい う基本的なコンセプ トづ くりは企画担当が行 ったが,その後,実施過程 においては,英語 ・国際理解教育の指導主事が 担当 した。担当指導主事へのインタビューで も

「横須賀で特 区を申請 しようとい うのがあって, 国際教育 とい うのが決 まって,その うえで入 っ た」 とい うことである。 また,すでに原案作成 の段階で,ネイティブス ピーカーを採用す る事 業 とす ることも決 まってお り, どち らか とい う とソフ トの部分 をどうしようか とい うところで 教育委員会がかかわっていった とのことである。

したが って,実施 に向けた具体的な詰めの段階 で指導主事がかかわっていたのである。

ところで,特 区の提案 については,首長の強 い リーダーシ ップの もとで導入 された事例が多 い。 しか し,横須賀市の場合 は,最初か ら市長 が 「これをやるのだ」 とい う公約や指示があっ た訳ではない。都市政策研究所か らボ トムアッ プで提案 を して,最終的に市長の承認 を得 る流 れだった との ことである。市長による トップダ ウ ンの場合 では

,

「や ることあ りき」でチーム

(5)

等 もつ くられるが,市長 は提案 を受 けた段階で, 横須賀市の特性 も生かせ るとい うことで,応援

を して くれた とのことである。

この ように横須賀市 における教育特 区の コン セプ トは,市長か らの トップダウンではな く, また,学校現場や教育委員会か らのボ トムア ッ プで もな く,市 の企画部 門である都市政策研究 所の中か らの発案であった。す なわち,首長部 局主導の ミ ドル ・ア ップダウン型の政策形成で ある。 したが って,企画部門で教育 によるまち づ くりとい うアイデ ィアが出た段階で,教育 委 員会の担当 も具体 的なコンセプ トづ くりに参与 し,実施段階では,指導主事へ と受け継がれた のである。

4.実施 に向 けて (1)特区申請

教育特区の実現 に向け,国に対す る申請等 は 基本的に当時の都市政策研究所が直接,交渉や 折衝 を した。一方,教育委員会事務局お よび学 校現場 に対 しては,教育委貞会学校教育課の指 導主事が調整す る とい う役割分担であった。

都市政策研究所 の担 当は,当時の副所長 (担 当課長) と実務的には主査 1名の2名であった。

政策的な部分が強いこともあ り,副所長が精力 的に動いた

。PT

は実務者 レベ ル とい うよ りも, 部長 ・課長 を頭 としたス タッフで行 われた。実 務 は副所長 と主査 と,忙 しい ときには研究所職 員がサポー トにつ くといった状況だった。

一方,教育委員会事務局では, コンセプ トに ついては企画担当 も関与 したが,実務的な もの については英語 ・国際理解教育担当の指導主事 が

1

名で行 った。特 区申請 にかかわる国 との交 渉や書類作成 については, コンセプ トづ くりを して きた都市政策研究所 の担当者が行い,教育 委員会事務局の指導主事 は都市政策研究所か ら の要請 に基づ き,関連資料 を提供 したに過 ぎず, 実質的な関わ りを持つのは,特 区認定後 とのこ

とである。 また,教育委員会や学校 か らす ると 首長部局か らの トップダウンとも言 えるのだが,

自治体 における教育特区の導入 と指導主事の役割

担 当指導主事 は

,

「英語教育 の推進 とい う観点 か らたいへ んあ りがたい」 と受け とめていたの である。

なお,結果的に横須賀市で特 区申請 をしたの はこの国際教育特区だけである。他の 自治体で は首長が特 区を必ず何本 とるのだ と, トヅプの 指示 により,提案 をい くつ もした りす るところ もあったが,横須賀市の場合 は必要であればこ の制度 を使 うとい う姿勢で,何が何で も特 区を た くさん取 るとい うス タンスではなかった。各 部局か ら相談 も提案 も受 け,実際に提案段階で はいろいろ国に も提案 したが,特区のプログラ ム としてなかなかメニュー化 されなか ったそ う である。

( 2)

国 との交渉

先 に も述べ たが,国 との折衝 は,都市政策研 究所の担当者が行 った。特 区を申請す る段 階で の大 きな課題や壁 は結果的にはなかった とい う。

国,特 区推進室の理解が非常 によ く,対応 もよ か った。国 と直接や りとりで きるとい うことで, 事務的な煩雑 さなかった。やは り県や組織 を通

してではな く,直接交渉がで きるとい うことで 非常 に良い制度だった と担当者 は振 り返 る。

文科省か らは, 中学校

2 5

校 すべて に配置 し て欲 しい とい う要請があったが,市の正規職員 となると,定数や予算的な面か らも困難であっ たため5人が限度であった。 この5人 とい う人 数の決定 に関 しては,教育委員会‑ も話 はあっ たそうだが,基本的には都市政策研究所 と国 と のや りとりの中で,決定 された とのことである。

文科省 としては,教育の機会均等 とい う観点か ら自治体 内で差が ない ようにとの指摘ではあろ うが,一方で,研究開発学校 の ような財政的支 援 をせず に, 自治体 における試行的な取 り組み を通 じて,少 しで も研究 させ ようとす る姿勢 も 窺 える。中で も特区制度の評価 に当たっては, 英検の取得率 とい う数値 による評価 を提示 して きた とい う。担当指導主事 としては,英検 はあ くまで も生徒が任意で受験す るものであるため,

(6)

これ を評価指数 として用いるのには抵抗 もあっ たそ うだ。一番の効果は授業 を見 て もらうこと であるが,それは数値化で きるものではないの で,意識調査 を行 うことを提案 したそ うである。

こ う した交渉 を経 て,2003(平成15)年8月 の教育特 区の認定 を受けた。横須賀市の場合 は, 特区申請書の作成 も都市政策研究所主導で行 わ れた。 この背景 には,国際教育特 区は単 に公立 学校 でのネイテ ィブ教員 を任用 した英語教育 に とどまらず,公設民営 による 「新 しい学校」の 創設 とい うセカン ドステ ップが,次の戦略 とし てあったことも影響 していると考 えられる。

(3)特区認定後の担当指導主事の動 き

特 区認定 を受けて,教育委員会事務局 は,市 の校長会で国際教育特区について説明 を行い 募集 を行 った。初年度 は 2校 の枠 に 4校か ら手 があが った。教育委員会事務局 としては,初 め ての取 り組み とい うこともあ り,単 に英語教育 が進 んでいるとい うだけではな く,学校 におけ る研究体制がで きている学校 を選 んだ。

ネイティブ教員の採用 に関 しては,募集 をホ ームページ等で行 い,教職員課 に英語の指導主 事がいなかったため担当指導主事が中心 とな り 採用 を行 った。関連 して,条例整備 な ども教職 員課の職員 と共 に行 った。県への特別免許状の 申請 に関 しては,英文の書式等 も他 に例 のない ものであ り,担 当指導主事が独 自に作成 した と い う。ルーティンであれば,他の教育委員会事 務局や学校 の状況 を参照す ることも可能である が,横須賀市の国際教育特 区は他 の教育特 区 と も性質が異 な り,全 く独 自の ものであったため, すべて手探 りで行 わざるを得 なか った。学校教 育課 には課長 を筆頭 に,指導主事 と事務職員が いるが,それぞれがそれぞれの教科 ・領域 を担 当 してお り, また,事務 を しなければな らない ため,必要 に応 じ相談は したが,基本的には担 当指導主事一人で, この仕事 を行 った との こと である。

横須賀市の場合,県費負担教職員ではあるが,

多 くの教職員が市内 を異動す る慣例 となってい るため,市独 自の施策 も行いやすい面はある。

担当指導主事 も横須賀市の状況 を十分 に熟知 し てお り, この国際教育特区を契機 に教職員の力 量形成 を図 りたい と考 えているとの ことであっ た。先述の通 り,担当指導主事 は企画部 門か ら の特 区の提案 については,唐突ではあるものの, 英語教育の推進に とってはあ りがたい ものであ

るとの受け止め方 を している。 したがって,過 常の指導業務 に加 えて,新たに仕事が増 えたの だが, この教育特区を学校現場 において,上手

く実現 したい と考 えていた ようである。そ して, 2004年4月か ら2校,2005年度 か ら 1校 ず つ 追加 とな り,2007年度 には予定 どお り,5校へ 配置 されている6)

導入後 もネイティブ教員だけの会議 を月に 1 回開催 し,拠点校で授業 をみて,研究協議 を開 き,そこで情報交換,指導法の検討 を している。

また,年 に 2回ほど拠点校の連絡会議 をネイテ ィブ教員 と各拠点校代表の教員で,情報交換, 研究協議 も行 って きた。 ときにはネイテ ィブ教 員 と学校 との関係が うま くいかない こともあ り, 学校‑ 出向 き,校長 に話 した り,英語科 の先生 方 を集めて指導や問題の解決 を図った りとフォ

ローアップ も担当指導主事が行 っている。

(4)小結

これまでみて きた ように,横須賀市 における 国際教育特 区は,首長部局である都市政策研究 所が特 区制度 を活用 した新 しい まちづ くりの観 点か ら創 出 したコンセプ トがベース となった も のである。市費 によるネイティブ教員 とい う発 想やその人数な どについて も企画部門で発案 さ れた ものであって,担当指導主事か らの提案で はなかった。 しか し,担当指導主事 は, こうし たアイディアは英語教育の充実 とい う観点か ら も重要であ り,積極 的に活用 した。教育特区の 導入の中で も,発案や申請の段階での指導主事 の関与 はあ ま り多 くはなかった。特 区認定後か ら実施 に至 るまでの準備段階では,配置校 の募

(7)

集 と決定やカリキュラムなどの相談,条例整備, ネイティブ教員の募集 と採用 な らびに各種書式 等の作成 な どを一手 に担 うこととなる。 また, 導入後はネイテ ィブ教員や学校‑の フォローア ップ等 を行 っている。 この ように指導主事 は基 本的なコンセプ ト創 出段階でのかかわ りはあま りなかった ものの,実施 に移 る具体 的な段階で は,学校 や事務局内部での調整等 において,中 心的な役割 を果た して きたのである

5. まとめ と今後の課題

横須賀市 における,国際教育特 区の政策形成 では,市長の トップダウンで も,事業課である 教育委員会事務局か らのボ トムア ップで もない, 企画部門によるコンセプ トづ くりがベース とな って,導入が行 われた ミ ドル ・ア ップダウン型 である。企画部 門 としては,国際教育特 区を実 現す るファース トステ ップとして,教育委員会 事務局,学校 の協力 を得 る必要があった。教育 委員会事務局や学校 か らすれば,今 回の特区構 想 は, トップダウンの施策であることには変わ らない。 しか し,ネイテ ィブス ピーカーによる 英語教育は,学校現場 における重要 な課題で も あ り,それ までの ALT に よる TT に限界 を感 じていた担当指導主事の理解 と協力 を得 られた ことは大 きい。つ ま り,国際社会で通用す る英 語教育の実現 とい う政策理念で企画部門 と教育 現場サ イ ドでの一致がみ られたのである。 この 企画部門の計画 な しに,教育委員会事務局側か ら同様の政策 を首長部局 に提案,交渉す るとな れば,財政負担の大 きい この政策の実現 は厳 し かったか もしれない。 したが って,担当指導主 事 は企画部門で決定 された計画の枠組みにおい て, 自身の専 門で もある英語教育の充実 とい う 観点か ら教育委員会事務局内部 と学校現場 との 調整 に終始す ることが可能であった。教育委員 会や学校 にとって,今 回の新 しい教育施策の導 入手法は,従来の研究指定校方式 を敷術 させ た ものであ り, また,3年間 とい う時間をかけて 段階的,試行的に導入 してい ったことで,受け

自治体における教育特区の導入 と指導主事の役割

入れる学校現場 にとって も結果的に抵抗が少 な か った と思われる

人口42万人の中核市 である横須賀市 では, 都市政策研究所 とい う全庁的なまちづ くりを構 想す る企画部門が存在す ることもあ り, こうし たマクロ的な視点か らそれぞれの領域 について 検討す ることが可能である。 また,

WT

での コ

ンセプ ト創 出は,単 に事業課 レベルの問題解決 にとどまらず, 自治体全体の まちづ くりに関わ るアイデ ィアが結集 した もの ともいえる。実際 に今 回の教育特区構想 の中で もセカン ドステ ッ プについては教育委員会事務局内部か らは提起 されに くい事案であった と思われる。同様 に指 導主事 も各教科 ・領域 に応 じた人数だけ配置 さ れている横須賀市の規模 であれば,国や県,首 長部局か らの トップダウンの施策であって も, より学校 に適 した施策へ と調整す ることがで き るだろう。今 回の教育特 区導入では,企画部門 と実施部門のそれぞれが専 門的な事項 に集中す ることでハ イ レベルかつス ピィデ ィーな政策形 成が可能 となった。つ ま り,政策理念が一致 し た上に,企画 と実施 との役割分担 とコラボ レー シ ョンが上手 く機能 したためにこの教育特 区が 横須賀市 において導入 され得 た と考 えられる

規制緩和 ・地方分権改革 に伴 い, 自治体独 自 の教育改革が活発化 している。今 回の横須賀市 の事例で もみて きた ように, こうした教育改革 は首長や首長部局 による課題設定 を受 けて,敬 育委員会 (事務局)が具体的な政策案 を策定 し, 実施 をす るとい う政策展 開が少 な くない。 これ

らの政策過程 において,専 門的教育職である指 導主事 は,学校教育 に関す る専 門的知識 と学校 現場 とのネ ッ トワークをフ)i,活用 し,学校現場 で定着 しうる施策 を提案す ると共 に,実施 に向 けた環境整備 を進めてい く役割 を担 っている

これ ら一つ一つの仕事 自体 は,一般行政職で も 可能か もしれないが,やは り,教育課程や学習 指導な どの学校教育 に関す る専 門的知識や,学 校現場 とのネ ッ トワークを有す る専 門的教育職 である指導主事が担 うことによって, よ り学校

(8)

現場 に適 した もの として実現で きるのではない か と考 える。特 に地方分権 によって,首長 (部 局)や議会 ,教育委員会 (事務局) な ど,様 々 なアクターが影響力 を及 ぼそ うとす る中で,描 導主事が行政 と学校 との間に立 ち,学校現場 の 状況 に応 じた施策 を選択 し,導入 していかなけ れば,政策 の 目標 を達成す ることは難 しいので はなか ろ うか。 この点 については,担 当指導主 事 も

,

「今 回 も行 政主導 で入 って,いか に学校 に合 うように 『変圧』 を して,子 どもに届 くよ うなシステムをつ くってい くか。ついては指導 の中身 をどう してい くか とい うことが一番 の課 題」 で あ り

,

「現場 が実行 可能 な,実現可 能 な もの を見 きわめ なが ら体制 をつ くってい くこと が大切」である と指摘 している。横須賀市で も 政策実施段 階 において,英語教育 の専 門家であ り,学校現場 を熟知 した指導主事 の果 た した役 割 は大 きか った。

2 0 0 7

(平成

1 9 )

6

月の地数行法改正 に よ り, 市 町村教育委員会‑ の指導主事 の配置が求め ら れるようになった。教育領域 において,首長や 議会 な ど地方政治の影響力が増 してい く中で, 地域住民の要求 を学校現場 で適確 に受 け入 れて い くために も,行政 と学校 との橋 渡 し役 として の指導主事 の役割 は大 き くなる と考 え られる。

なお,本稿 で は首長部局主導 の教育特 区の導 入事例 として横須賀市 を取 り上 げたが,首長や 学校現場 な ど発案者 に よる違いが政策形成 な ら びに実施へ どの ような影響 を及 ぼすか について は,事例研究 を重 ね,比較分析 が必要 となる。

この点 については今後 の課題 として,別稿 に期 したい。

1 )

押田

( 2 0 0 8 )

を参照のこと

2)ミドル ・アップダウン (・マネジメン ト) と は,野中 ・竹内

( 1 9 9 6 )

で提案 された組織的 知識創造が起 こるための最良の環境 を提供 し,

トップダウンとボ トムアップという二つの伝 統的なモデルの一番良い ところを統合 した も のである。 この新 しいモデルは, ミドル ・マ ネージャーを知識マネジメン トの中心 に据 え,

トップと第一線社貞には新 しい役割を与える ものであ る (野 中 ・竹 札

1 9 9 6 ,1 8 2

頁)。

横須賀市場合,市長等の自治体の トップか ら で もな く,学校や事業課か らのボ トムアップ で もない, ミドル層の結集 した企画部門が政 策立案過程における中心的な担い手であった ことか らミドル ・アップダウン型 と位置づけ た。教育委員会事務局組織で考えた場合,描 導主事が ミドル ・アップダウン ・マネジメン

トの担い手になることも十分 に考 えられるが, 今回のケースは担当指導主事の発案ではない。

なお,筆者の調査では トップダウン型 として は,埼玉県行田市があ り,ボ トムアップ型 と しては,静 岡県磐 田市がある (押 田

2 0 0 8

, 押田

2 0 0 9 ) 。

3 )

担当者‑のインタビュー調査 は

,2 0 0 7

1 0

月24日に前都市政策研究所の主査 な らびに

2 0 0 7

年11月

7

日に学校教育課の担当指導主 事に行 った。

4 )

市議会では現在 も,セカン ドステ ップの展開 に関する議会質問がなされている。

5)この二つの検討組織の違いは,研究所の前担 当者 による とWTは緩やかなグループ組織 であるが,それをPTにすると1つの組織 と

しての位置づけになる

6)なお,地方政治の重要なアクターである市議 会においては,実際に学校現場へ視察などを 通 じて, ファース トステップに対する評価 は 高い。 しか し,職員定数や財政的な問題等か ら事業拡大 を強力に推進するまでには至って いない。

参考 文 献等

・押 田貴久

( 2 0 0 8 )

「市町村費負担教職員制度の 導入 と全 国展開に関す る一考察

『東京大学大 学院教育学研究科教育行政学論叢』第

2 7

号,

p p . 6 9 ‑8 0 .

・押 田貴久

( 2 0 0 9 )

「市費負担教員制度の導入 と 課題」 (日本教育制度学会 『教育制度学研究

1 6

,p p . 1 1 6 ‑1 2 9

.

・金森岩男 ・横須賀市都市政策研究所編

( 2 0 0 3 )

『自治体の政策形成 とその実践』 ぎょうせい.

・川上泰彦 ・橋野晶寛 「教育政策の導入過程 にお けるアクター間関係 と制度一構造改革特区を題 材 に

」 (日本教育社会学会 『教育社会学研究』

7 8

,p p . 2 3 5 ‑ 2 5 5 ).

・黒川理美

( 2 0 0 5 )

「横須賀市国際教育特区

S t e p

I 一年 目の成果」横須賀市都市政策研究所編

『政策研究 よこすか』第8号

p p

.100‑115.

(9)

自治体 における教育特区の導入 と指導主事の役割

竹 内英樹 (2003)「横 須 賀 市 国際教 育 特 区一 外 国人 を英語教 貞 に採 用‑」横 須賀市都市政策研 究所編 『政策研 究 よこすか』 第6号pp.26‑29.

野 中郁 次郎 ・竹 内弘高 (1996)『知識創 造企業』

東 洋経 済新報社 .

蛭 田政 弘 (1997)「指 導 主事 の 資 質形 成 を図 る 研 修 プ ログ ラムの在 り方一 指導 主事 の ライフス テー ジに応 じて

」 (『学校 経 営』 第42巻11号 , pp.16‑23)

蛭 田政 弘 (1998)

「地 方分 権 」 「権 限委 譲 」 を 受 けて これか らの指導 主事 に期待 され る 「力 」 と 「役 割 」 (特 集2教 育改 革 の 時代 の (新 ・指 導主事)請 )」 (『総合教 育技術』 第53巻2号 , pp

. 5 4‑5 7 )

.

横 須賀 市 (2003)「国際教 育 特 区構 造 改 革 特 別 区域計画」.

横 須賀市 議会会議録検 索 システム(http://www、

city.yokosuka.kanagawa.jp/council/tyukei/

kensaku.html).

参照

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