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(1)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利 得返還義務の範囲

著者 村田 大樹

雑誌名 同志社法學

巻 59

号 3

ページ 311‑333

発行年 2007‑09‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011323

(2)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一一同志社法学 五九巻三号

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲

平成一九年三月八日最高裁第一小法廷判決(平成一七年(受)一九九六号、不当 利得返還請求事件)民集六一巻二号四七九頁 ― 一部破棄自判、一部上告棄却

村 田  大 樹

 (一七〇一)

【事実】

 Xら(原告、被控訴人、上告人)は、平成一二年二月一五日、証券会社Aを通じて、それぞれB株式会社を転

換対象銘柄とする他社株式転換特約付社債を購入し、同年五月一八日、その償還として、Bの株式各二九株(以下、併

せて﹁本件親株式﹂と言う)を取得した。 Xらは、平成一二年一〇月三一日、Aから本件親株式に係る株券五八枚の交付を受けたが、その際、本件親株式につ

き名義書換手続をしなかったため、本件親株式の株主名簿上の株主は、かつて本件親株式の株主であったY(被告、控訴人、被上告人)のままであった。

 Bは、平成一四年一月二五日開催の取締役会において、同年三月三一日を基準日として普通株式一株を五株に分割す

(3)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一二同志社法学 五九巻三号

る旨の株式分割(以下﹁本件株式分割﹂と言う)の決議をし、同年五月一五日、これを実施した。

 Yは、本件親株式の株主名簿上の株主として、そのころ、Bから本件株式分割により増加した新株式(以下﹁本件新株式﹂と言う)に係る株券二三二枚の交付を受けた(以下、これらの株券を併せて﹁本件新株券﹂と言う)。

 Yは、Bから本件新株式に係る配当金として、一万四二三五円の配当を受けた。 Yは、平成一四年一一月八日、第三者に対して本件新株式を売却し、売却代金五三五〇万二四〇九円(経費を控除し

た額)を取得した。 Xらは、平成一五年一〇月一〇日ころ、Bに対し、本件親株式について名義書換手続を求め、そのころ、Yに対し、

本件新株券および配当金の引渡しを求めた。これに対し、Yは、日本証券業協会が定める﹁株式の名義書換失念の場合における権利の処理に関する規則(統一習慣規則第二号)﹂により、本件新株券の返還はできないなどとして、

Xらそ

れぞれに対し、各六一〇五円のみを支払った。 Xらは、Yは法律上の原因なくXらの財産によって本件新株式の売却代金五三五〇万二四〇九円および配当金八万〇

五九〇円の利益を受け、そのためにXらに損失を及ぼしたと主張して、それぞれ、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、上記売却代金の二分の一である二六七五万一二〇四円(円未満切捨て、以下同じ)及び上記配当金の二分の一で

ある四万〇二九五円の合計金額である二六七九万一四九九円ならびにこれに対する訴状到達の日の翌日である平成一六年四月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める訴えを提起した。

 第一審(東京地裁平成一七年二月一七日判決)は、Yは、Xらに対し、それぞれ、口頭弁論終結時における本件新株式の価格相当額である二六八〇万七四八四円及び配当金一万四六七〇円の二分の一である七三三五円の合計額である二

六八一万四八一九円から既払額六一〇五円を差し引いた二六八〇万八七一四円の不当利得返還義務を負うとして、上記  (一七〇二)

(4)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一三同志社法学 五九巻三号 金額の範囲内であるXらの請求をいずれも認容した。 原審(東京高裁平成一七年七月二七日判決)は、本件新株式および配当金についてのYの不当利得返還義務を認めた

うえで、﹁上場株式は、その銘柄をもって市場における投資の対象として大量に繰り返し取引されるものであり、特定の銘柄の株式もそれ自体いわゆる代替物であって、様々な要因によってその価格は常時変動する可能性を有し、しかも、

市場における調達がいつでも可能であることに照らせば、Yが本件新株式を売却して売買代金を取得したとしても、Xらが直ちにその売買代金全額と同額の損失を被ったということはできない。/むしろ、前記の上場株式の属性にかんが

みれば、株式分割による失念株が発生した場合におけるYの利得は株式分割により増加した本件新株式の銘柄及び数量であり、Xらが被った損失も本件新株式の銘柄及び数量であるというべきである﹂との判断から、﹁したがって、Xらは、

不当利得返還請求権の行使の態様として、本件新株式を表章する株券である本件新株券合計二三二枚の返還に代えて、これと同価値の金銭の損失を被ったと主張し、その価額の返還を請求することが許されるものと解して差し支えない

が、その場合にXらが不当利得として返還請求することのできる範囲は、Yの売却時の時価によるのでなければ公平に反するというべき特段の事情のない限り、Yが市場において本件新株式の銘柄及び数量を調達して返還する際の価格、

すなわち、事実審の口頭弁論終結時又はこれに近い時点における同株式の時価によって算定された金額であると解する

のが相当である﹂と判示し、事実審の口頭弁論終結日の前日である平成一七年五月一七日のBの株式の終値である一株一六万一〇〇〇円に一一六株を乗じた一八六七万六〇〇〇円に配当金一万四二三五円の二分の一である七一一七円を加

えた額から既払額六一〇五円を差し引いた一八六七万七〇一二円に遅延損害金の限度でXらの請求を一部認容した。

【上告受理申立て理由】

 ⑴ 大判昭和一一年六月三〇日判決は、無効な契約により得た不動産の転売事例において売却

 (一七〇三)

(5)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一四同志社法学 五九巻三号

代金の返還を命じている。これに加えて、本件では、売却時よりも請求時の方が株価が高く、訴訟中に株価が低下して

おり、原判決の考え方によれば、損失者に﹁訴訟継続中の株価下落リスク﹂を負担させることになる。また、一般投資家にとって株式の最大の属性は﹁株価﹂であり、同一銘柄の株券であっても異なる時点であれば﹁同じもの﹂ではない。

 ⑵ 相手方は悪意であり、民法七〇三条の不当利得としてしか判断していないのは弁論主義違反である。

【 判 決 理 由 】

 ﹁不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、受益者にその利得の返還義務を負担させるものである(最高裁昭和四五年(オ)第五四〇号同四九

年九月二六日第一小法廷判決・民集二八巻六号一二四三頁参照)。 受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益

を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公

平の見地に照らして相当ではないというべきである。また、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではな

く、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。 そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、

原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。大審院昭和一八年(オ)第五二一号同年一二月二二日判決・法律新聞四八九〇号三頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。﹂  (一七〇四)

(6)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一五同志社法学 五九巻三号

【研究】   一  新株式の帰属

 本判決は、株式譲受人が名簿の書換えを失念しまたは怠ったために名義株主に交付された株式の売却処分の事案に関するものである。名義書換が行われない間に名義株主に配当その他の利益が割り当てられた場合、実質株主は会社に対

抗することができず、会社は免責される(会社法一三〇条一項)。そのため、名義株主と実質株主との間での利益調整を考える必要が生じる。

 最判昭和三五年九月一五日民集一四巻一一号二一四六頁は、新株引受権を与えられた名義株主がこの権利を行使し新株を引き受けた事案において、新株引受権が株主総会の決議によって発生する具体的権利であることを前提とし、当該

事案における決議の内容からは新株引受権は名義株主に帰属すべきものであるという理由に基づいて、実質株主からの株式返還請求を否定した

学け判批い強のらか説は受決判のこ、しかし。を 1

請中還返ろしむ、は心の論議、も後以決判、 2

求の対象(株式自体か金銭か、また、その範囲)および返還請求の法律構成に置かれた

が義価格変動によって実質株主と名株株主との間で株式の押し付け合いの新にの株主、新株引受権帰属を認めた場合に 論そこでの議。の目的は、実質 3)

生じるのをどのようにして避けるかであった。現在の有力説は、この場合に名義株主が利得したのは新株引受権自体で

あって、その価値を返還すれば足りるとする

書収六巻四号八六〇頁は、没し集た株式について国が名義一民、日和三五年判決に対して最 判昭和三七年四月二〇昭 。 4)

換を終了する前に配当および新株の無償交付がされた事案において、﹁本件利益配当金及び無償交付の新株(またはその売得金)を不当利得として被上告人︹国=実質株主︺に返還すべき義務のあることは明らかである﹂として、不当利

得に基づく株式の返還請求を認めた。前述の昭和三五年判決と異なる結論となった理由について、昭和三七年判決の調

 (一七〇五)

(7)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一六同志社法学 五九巻三号

査官解説は、﹁︹新株の無償交付が︺実質的には株式の分割に外ならず、新株を株主以外の第三者に割当てることはもと

より、株主間に割当比率に差異を設けることは許されない

をも捐か否かで結論が異なったのしとして両判決を整理しているた ﹂名と述べている。学説も、義出株主が株式の取得に際して 5)

返らに主株質実が式株たれえ与に主株義名で償無。 6

還されるべきであるという結論に異論は見られず、返還請求権の法的性質についても、ほとんど議論はない

る本によるものであるため、判分決は、以上の問題に関す割式れ株上の考え方を前提とすば 、本件での新株発行は以 。 7)

限り昭和三七年判決の判断を踏襲したものである。

( 件。たっかないてれさは別区の上 1はででの決議があれば足り、要法総商の前正改年五二和昭、おな会主、主新株引受権を与える対象が株で株あろうと第) 者であろうと、三

( 九商法務研究一九二号一六頁(一事六書)。どな頁九〇七掲前・内竹)、年 ﹄の問題に法ついて﹂民商念株五失﹁﹃文親田)、年四九一(頁一号誌雑塩三菊〇題問諸るぐめを株念失﹁志﹂原(菅巻号二一頁三一年五五)、九 リスト三九三号一頁(一ジ九ュ株﹂ていつに﹄念失﹃謂所﹁孝三野五義年新三巻七二究研学)、﹂属帰の株法資名増高鳥正﹁夫書換の失念と 有との立場がす力であった(星る属。もる出が判のこ、もそそ前どな)年六七九一帰以決か引に主株質実はら自権受体株、はで中の説学新、 属資新株の帰ひ﹂律のろとば増法株念失﹁吉茂部谷長)、年一六九四一八巻判・堂文弘(頁九(﹄Ⅰ法商例﹃三夫昭内竹)、年一六九一(頁四号一 2頁株〇二究研務法事商﹂属帰の新号と念失の換書義名﹁志菊原菅八八五﹂六六号四巻四四誌雑法商民批頁判﹁夫正鳥高)、年一六九一()  3常る(上柳克郎=鴻夫て編﹃新版注釈会社法いし) 説主として、不当利得と立準事務管理説とが対(

)株式(

( )。るあが)年 九務研究会一)、九〇年亊準事務法三商(頁理三五﹄察省と争論るけお管・に沢七つ九一(号二・一巻九二学法八金雄﹂いは中島史て﹁念株再論失 当利当不の株配・新るよ﹂に得稀服部栄三先生古記念﹃商法学に株主義指に名摘するものとして不当利得、つ株のい渡譲式後﹁て俊関は彦 かし、不当説利得、準事)。し在照参を)年六八九一・閣斐有︺(管務と理相を点のこ(るあが分部るす違は説之論理法民の現、もれずいの助 誠岡松︹下以頁五七一)﹄

4) 竹内・前掲注(

2と加藤雅信﹃財産法の体系不)当利得法の構造﹄六九七、てしと八三頁以下。新株自体の返還は否定される。民法理論  (一七〇六)

(8)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一七同志社法学 五九巻三号 頁(有斐閣・一九八六年)も、この見解を支持する。なお、この説は、新株の価格が下落した場合には返還額も減少するとするが、これに対して、関・前掲注(

3)五四九頁は、﹁新株が

、い価額も減少するとうべのは不可解でありき A、でのるえ考とるあのあもの︺主株義名でれそ︹の後市場価値が落ばしたときに返還す下 A自身の持株の市価が下がっても

( わらなくなると思ればる。﹂と指摘する。な A考額利得は利得として一定にえ確定しているとれけのな

5真〇)。年二六九一(頁六四一号一船) 四一報時曹法﹂解判﹁充孝巻

6江有。照参を)年六〇〇二・閣斐(頭) 一〇二﹄法社会式株﹃郎治憲頁

。と請求権の存を前提在すっるいてる行を示説 東月七年六一成平判地京﹂、たま。るいてべ述と五一頁日有還返の式株くづ基に権所金、はな九五号五二二一判いもます出ち持を得利当で 7号八一巻二一九一頁(雑九誌批会協学法﹂五判﹁夫昭内竹、おな六) 年あ不やはも、上以たし示判とるで)のものそ式株が象対の没、﹁は収

二  本判決の意義と問題点

 本件新株式が実質株主に帰属することを前提として、本件の実質的な争点となったのは、名義株主が自身に交付され

た株式を売却した場合に、いつの時点での価値を返還しなければならないかである。判例においても学説においても、不当利得の返還義務は、原則として原物返還であり、それが不可能な場合には価値返還によるものとされている

原。審 8)

が、原則として返還時に最も近い時点、すなわち口頭弁論終結時の前日(以下、たんに﹁口頭弁論終結時﹂と表記する)における本件新株式の価額を返還すべきであるとしたのに対して、本判決は、原則として売却代金相当額を返還すべき

であるとした。この本判決の立場によると、売却時以後の価格変動は考慮されず、売却代金に相当する利益は過不足なく返還の範囲に含まれる。その結果、受益者は、株式の分割を受けなかったのと同じ状態に戻されることになる。

 (一七〇七)

(9)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一八同志社法学 五九巻三号

⑴ 判例

 裁判例において、不当利得返還義務の範囲が争われた事案は多くない

。以のとしては、下の各判例がある たもれ。に返還範囲の基準関さ連する判断が示 9)

 ①大判昭和一一年六月三〇日判決全集三輯七号一七頁 裁判上の和解に基づく代物弁済として、債権者に甲不動産が譲渡されることとなった。ところが、債務者の後見人の

錯誤により、別の乙不動産の所有権移転登記がされ、さらにこれが第三者に売却されそこで登記も完了した。債務者は不当利得の返還を主張したが、その後、乙不動産の価格が上昇したため、不当利得の成否のほか、返還額の範囲が争わ

れた。大審院は、民法七〇三条が﹁利益の存する限度に於て﹂返還義務を負うと規定していることから、﹁其の受けたる利益の限度は特別の事情なき限り其の不動産の売却代金なりと謂ふべく其の後の不動産の価額の昂低に因り左右せら

るべきものに非ず﹂と判示した。本件の上告受理申立て理由において引き合いに出された判決である。 ②大判昭和一一年七月八日民集一五巻一六号一三五〇頁

 数人で共有していた土地について、共有者の一人が、これを第三者に三〇万円から四〇万円の価格で売却する交渉を進めていた。しかし、別の共有者に対しては、二〇万円で買い受ける者が現れたと偽り、このような有利な売却の機会

はないと述べ、この共有者の持分四分の一を五万円で買い取った。結局、土地は三七万五〇〇〇円で売却された。持分を売却した共有者の家督相続人である原告は、詐欺に基づいて共有持分についての売買契約を取り消し、三七万五〇〇

〇円の四分の一から支払済みの五万円を除いた額について不当利得に基づく返還を求めた。大審院は、不当利得返還義務を認めたうえで、﹁其の額は被上告人の受けたる損失の額を超過すべきものに非ず﹂、﹁其の損失の額は特別の事情な

き限り右持分の客観的相当の価額と一致すべきものなるも第三者に対する転売価額は必ずしも常に客観的相当の価額な  (一七〇八)

(10)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三一九同志社法学 五九巻三号 りと謂ふを得ざる﹂と判示した。 ③大判昭和一二年七月三日民集一六巻一六号一〇八九頁

 製紙業を営む原告のもとで働いていた職工が原料のパルプを盗み、同種物品の販売業者である被告に売却した。この時、被告には、パルプの所有権の帰属が職工にあると信じた点について過失があった。被告はこのパルプを第三者に転

売し、パルプはそこで消費された。被告が職工に支払った額の控除の可否が争われたが、大審院は、﹁売買及転売の行為は各独立して存し其の間⋮⋮一連不可分の関係あるものに非ず﹂とし、両行為の責任についても別個に扱わなければ

ならないとして、代金相当額全額を返還すべきと判示した。 ④大判昭和一八年一二月二二日法律新聞四八九〇号三頁

 株式の取引員の資格なしに名義を借用し取引を行っていた被告が、原告から証拠金として株式を受け取り、その後これを売却した。これに対して、原告は、契約の無効を主張して不当利得に基づく株式の返還を求めた。大審院は、原告

が自己の引き渡した株式自体の返還を求めていることを前提とした上で、﹁仮令上告人に於て右差入株を売却処分したりとするも他に特殊の事情なき限り之と同種同量の他の株式の返還を命ずべきものにして其の売却代金に相当する対価

金額を不当利得として返還を命ずべきものに非ず﹂として、同種・同等・同量の物を調達する義務を認めた。この判決

は、返還範囲について直接に判断したものではないが、結果的に、返還時すなわち口頭弁論終結時に算定が行われたのと同じ結果をもたらす。本判決が変更すべきであるとした判決である。

⑵ 本判決の位置づけ

 これまでに返還範囲の基準として判例で示されているのは、売却時から口頭弁論終結時における利得物の価格上昇は

 (一七〇九)

(11)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二〇同志社法学 五九巻三号

考慮されず(①判決)、利得物の売却額自体ではなく客観的価額が返還義務の上限になる(②判決)という二点である。

なお、①判決は、売却額が返還義務の上限であるとしているが、事案との関連で見れば、価格変動の生じていない場合にもこの基準が常に妥当するとまでは言えない。例えば市場価格よりも安く売却された場合に、その額が返還義務の上

限になるかといった点は、①判決の射程から外すべき問題である

る代・等同・種ち替量物であ同場合に同の、ら決判④(るれめ物認が務義還返のは 利わ上の基準に加えて、得。物が不特定の株式すな以 10

返で値価もてっあ物替代、方他)。 11

還が否定されるわけではない(③判決)。 ①判決は、価格変動が問題となった点で、本判決と類似する問題を扱っており、売却時の価格を基準とした点でも共

通する。しかし、そこでの論拠が、本判決にそのまま当てはまるわけではない。①判決の論拠が民法七〇三条の﹁利益の存する限度 00﹂の要件に求められているのに対して、本判決は、返還の﹁限度﹂の問題ではない。本件では株式の価格

が売却時よりも下落しているのであり、このような場面は、①判決の射程外である。他方、②判決および③判決は、価格変動が問題となった事案ではない。客観的価値を算定する基準時については何も判断していないため、仮に本件原審

のように客観的価値の算定基準時を口頭弁論終結時に置いたとしても、これらの判例とは矛盾しない。 問題は、利得物が代替物である場合に同種・同等・同量の物の返還義務を認めるという、④判決のルールである。こ

のルールを前提にした場合、価値算定の基準時に関して二通りの可能性が考えられる。ひとつは、同種・同等・同量の物の返還義務を価値返還の算定基準時にも影響させ、基準時を常に返還時すなわち口頭弁論終結時とする可能性であ

る。もうひとつは、同種・同等・同量の物の返還義務とは無関係に、価値返還の算定基準時を売却時など口頭弁論終結時以外の時点とする可能性である。本判決は、後者の立場に立ち、売却時を算定の基準時とした。この立場に立つとき、

同種・同等・同量の物の返還義務を主張する余地を残しておくと、利得物に価格変動が生じた場合に、どちらの返還が  (一七一〇)

(12)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二一同志社法学 五九巻三号 選択されるかによって受益者は常に重い負担を課せられる危険が生じる。本判決が④判決を変更したのは、そのような事態を避けるためであると考えられる。もっとも、そうであるとすると、価格変動が生じていない場合にも常に同種・

同等・同量の物の返還義務が否定されるとまでは、現段階では言えない

務影・同量の物の返還義の同認否が価値算定の基準等・になるあでとこういとたっく種なはとこるえ与を響同時 こ、かし、少なくともこ。で指摘できるのはし 12

13

 以上のように、本判決以前には、利得物が売却処分され、その後にその物の価格が低下した事例について価値算定の基準時が直接に判断されたことはなかった。本判決は、このような場面について、売却時の価格を基準とし、その後の

価格変動は不当利得返還義務に影響を及ぼさないことを示した点で、判例理論に新判断を加えたものと評価することができる。

⑶ 本判決の問題点

 しかし、本判決が結論に至るまでの論拠は、明確には示されていない。判旨の構成は、口頭弁論終結時を基準時とする原審の立場について売却時以後の価格の下落・高騰という二つの局面を想定し、いずれの場合においても﹁公平の見

地に照らして相当ではない﹂結果が生じると断じるものである。このうち、価格が上昇した場合に受益者が現に保持す

る利益を超える返還義務を負担することになるという指摘は、上述の①判決の判断と共通する点を含む。もっとも、この部分は、本件原審のように口頭弁論終結時の価格を返還させる立場を否定する論拠にはなっても、すでに

⑵で述べた とおり、本判決の結論を積極的に基礎づける論拠ではない。この指摘が本判決の積極的論拠となるには、本件原審の立場と本判決の立場が二者択一の関係になければならないが、そのような論証はされていない

14

 本判決にとって実質的な理由となる部分は、事案との対応関係から言っても、価格が下落した場合に受益者が全部ま

 (一七一一)

(13)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二二同志社法学 五九巻三号

たは一部の返還を免れることへの批判である。しかし、このような結果を否定する根拠は、判旨中には述べられていな

い。これでは、結論を示したのみで、本来行われるべき法的な論証を欠いていることになる。そもそも、受益者の手元に利益が残ることが、誰の目にも明らかなほどに不相当な結果であるかについては、疑問の余地がないとは言えない。

この結果を損失者である実質株主の側から見ると、本件原審の判断であれば、返還を受けられる利益は、株式自体が返還されたと仮定した場合の利益に一致するのに対して、本判決によれば、その場合よりも大きな利益が与えられる結果

となる

。何っなと拠根な的定決がてのっとに決判本、くし乏たか素いたっましてっなとままなはれ取み読らか文決判、も 要論うるな異と決判本、によ慮るす述後、もに中の説結を。中考るいてれさ討検で旨と判。るれら見がのもる学 15

( 一原藤)、店書波岩・年二七九(則下以頁四五〇一﹄一巻下論正﹃権・。照参をどな)年二〇〇二社不山信(頁九二一﹄法得利当各 8妻巻昭判大)、論傍(頁九〇三号四二一一集民日三月三年八和昭判大和一) 五﹃債我、はで説学。どな頁〇三年一号六一巻五一集民日八月七栄

( 判と件本、は例の関られこ。しとのた係義。いなたもでを意のてしと例先は の損害に於をて不当に利益産上に財の人他﹁てっよ為行の母、し得獲るし於たあできべす還返をれこ﹂てるに利場合には其益の存する限度 た、﹁親権者める母が子の為頁が民一七三輯一二録日三一月三年四其にで対子価とるあ﹂べす属帰に産財のき亦も受領したをるときは其収益 成年子務の債にを未、ずら知とうそを地土済弁てすおい正大判大、はいにる案事たし却売で的目たてめかしと認た。他人ら預かり登記を移 録月三〇日民判一一一七三一一お年八三治明大、てい頁に案事た〇輯は利のも、﹁なの因原の上律法が﹂益いるりた其売に因却破財団得産が 任よって委ま(たは産託寄に判破。るあが例なうよの次、て関し)に係物案し却売を)物寄受はたま(託が委が人財管産破、後たし了終と 9事が同と決判本はで点たし生発務で義還返値価れさ却売が物得利様あたのれわ争が係関的法るなと提前立る成得利当不はてしと訟訴、が) 

10まい。るあで題問の別も扱た) 益利用使や実果、の

がはべす為を還返物原は人告同て義於にるな能可とこす戻取を之き上務還あ積見に銭金は合場るな能不り返し物るべきも若人然ずして原ら 上にY人告、﹁に現すは院審存はるか又既に他、移転したるも同に大て消告的とする賃貸借契約が取りさいれた場合の原物返還の可否につ上 11) の、てしと例判たれわ争が界限還目返物原で案事るす関に物定特大判昭和を券株定特。るあが頁三一三一巻〇二集民日五二月〇一年六一  (一七一二)

(14)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二三同志社法学 五九巻三号 価格返還を為すべきものと解するを妥当とすべく⋮⋮﹂と述べた。(

12④務)自体に否定的である。判達決に対して、我妻・前掲注義調) 種ただし、学説の多くは、同・(同等・同量の物の返還義務(

()、〇〇一年二藤・前掲注原 )、九七三年﹃澤井裕テキ・一二閣斐有(頁一ト︺﹄版新︹得利当ス六ブ為ッ・閣有(頁三三︺﹄版三第︹斐行・法事ク管理務不不利得・当 ﹃増訂日権本債法各論(雄そ秀山鳩、他の。う言とる)﹄な下年八松と不・理管務事﹃一佐坂)、三四二九一・店書波岩(頁六にこす課を﹂ 当同年)は、同種・八等・同一・九一の院書林青(頁五七﹄得不量利物受を担の上以還返の益受に者益負、﹁を達調する務義負わせることが 存ときは、現す利益を返還べるがいてしりが上値式株、﹁は頁八不六きる当同一・理管務事﹃夫和宮、四に様。利すと﹂るす反に論理の還返得〇 88す各権債﹃男佳見潮。る定)否を務義達調が頁六三一論

( 年のられこ、しかし。るあが五解六九一・閣斐有(頁六九二見)がい、。るあで明不はのるいてか置の価変動をど格程度念頭に 弘しては、末郎厳太の﹃債権と同もるす定肯を務義還返の物の量論各閣﹄口九︺﹄版再︹究の得利当不﹃平知研谷斐九)、一頁(有・一九一八年 をれのこ、らか由理すとるなにとこ課を定担否同す他の・等同・種、方。べたいてしとるあでき負上合は以の場の原物還返受益者に利益返還 )﹄究(第二巻け五四頁以下の研﹂﹃題問殊特る於に法民弘囲範其び(二文五こ堂が))年〇二九一(号四巻、叢年論・九二四一)(出、学法初 対却処分の特象が定物、であ売もたま。か旨同)社スンエイ場サる性面博年及質の務義還返得利当不﹁川に末にです、がるあはでてし関・ I五当約法・事務管理・不利〇得﹄二七七頁(二〇契

( 更ほるす言宣を変でてえ敢、れすどばはかな。なれしもいるか言とたっえ じても不当なに過重負担をを命等還返の物量同・同・種同、とい強のる、こか理整なうよたべ述に文本らりつあとなるかににい問は疑もて 価値返還をじ命たために決受がの判原てし対にため求を還返の者で益を自事るすうそ。るあ身性殊特の案がう返いが原物ので還主張したと 、た。しかもて損失者が原物いっ一方価の方と昇上格価の、低りあで類数二は式な格他下三と円七六四七にか円九ら八よ七の時却売、てっ 口頭弁論終の時の株式価ける結おに決判④、おな。るきで解理は格問、事株たっなと題る。たっあで案た売いてし下低もりよ格価の時却と 13あ務ベレの否可の還返物原、は義で還返の物の量同・等同・種同ルのでもつとひの素要るす定否をれこ動み変格価、りあで題問るれわ扱) 

( 。るあで問疑に様 判中村心﹁リ解﹂ジュる。はあで問疑トのるいてべ述にうス号一も同、りあでうよの場立じ同)三年七〇〇二(頁六八の四四よかなれらい 14法の範囲﹂ミ学セ義ナー六務得還返四利当不﹁淳田高、で点のこ三) 号最え考かしり通二の場立の裁高と一審原、が)年七〇〇二(頁一一 却一本、﹁は)年七〇〇二(頁〇号決六五八LBN﹂八・三・九一判は平合売、がるあでのものていつに場名たし却売を券株が主株の上簿成判 15で、がるな異は点視で点るあ叙述判たしと提前を論結の決判本本) 一当最囲範るす立成の還返得利不のと株念失﹁博田野るあで介紹決

 (一七一三)

(15)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二四同志社法学 五九巻三号

していない場合どうか。不当利得の範囲は当該株券ということになるであろうが、売却した場合の解決との整合性からは、少なくとも株式分割のような場合、株価が下落したことによるX︹実質株主=不当利得返還請求権者︺の損失の回復を別途考える余地はないかなど、難しい問題がなお残るように思われる﹂と述べる。ここでも、原物返還がされた場合との不均衡が懸念されている。

三  価値算定の基準時に関する学説

 本判決を上記のように位置づける場合にその判断がどのような意味をもつのかを検討するため、価値算定の基準時に関する学説との比較を行う。学説には本判決と異なる見解に立つものも多く、以下のような構成が主張されている。本

判決の論証に対する疑念は、このように様々な見解が存在することからも裏付けることができる。

⑴ 受益者が善意の場合 ⒜ 谷口説

 谷口知平博士は、損失者が自己の意思に基づいて原物を引き渡した場合とそうでない場合を分けて扱う。自己の意思に基づいて引き渡した場合には、不当利得返還の請求時までは損失者がその財産を処分することを考えていなかったは

ずであるとし、返還請求時の原物の客観的価値を返還額とする。このとき差額が受益者に残ることについては、﹁多少問題﹂であるとしながらも、受益者の手腕や特別の取引関係に基づくものと解してこれを肯定する。次に、自己の意思

で引き渡したのではない場合には、損失者が常に処分しえたのを妨げられていたと言えることから、返還請求時に固定することは﹁価額が上下した場合には時に酷であることもある﹂として、返還請求時まで受益者が占有していた間の客

観的価値の中で最高額を請求できるとする。また、いずれの場合にも、売却額が客観的価値を下回るときには、売却額  (一七一四)

(16)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二五同志社法学 五九巻三号 の返還を請求できるにとどまる

 ⒝ 我妻説 。 16

 我妻栄博士は、まず、受益者が利得物を﹁消費﹂した場合の価格算定の基準時について、﹁返還する時の原物の相当価格﹂や﹁消費して原物返還が不能となった時の相当価格﹂なども考えられるとしながら、そうではなく、﹁取得した

時の時価﹂を基準とする。このとき、﹁返還すべき時における目的物の価格の高低などは、返還すべき範囲を増減するファクターとして斟酌することが適当﹂と考えられている

い合つに求請還返得利当不の場たし﹂売転、﹁でえうのそ。 17

ても、返還範囲を、﹁B︹受益者︺が取得した時の時価に相当する額﹂と解し、取得した時の時価より高く転売したときは、﹁その差額は―Bの才能の結実として―Bの利益に帰し﹂、安く転売したときは、﹁その不足額は―Bは自 分の財産の管理を誤ったものとして―Bの不利益に帰する

に求そび及否成の権請内還返得利当不、の容と、物得利の者得利てをっ当にるす定決がこのすうそ、﹁ばれよに述記る よ解にうてのこ。るするす、理由につい﹂消費の箇所でと 18

ついての管理・利用、不当利得の原因たる事実についての両当事者の関与の大小・態様などを考慮して公平の原則に従って判断しようとするのに適当だから﹂としている

19

 ⒞ 四宮説

 四宮和夫博士は、まず、利得物が売却された場合に関して、売却額を返還義務の基準とせず、﹁当初取得したものの客観的価格を限度として返還すれば足りる﹂と考えたうえで

格の価、﹁てし関に時準基価評格価的観客のそ、にらさ、 20

償還は﹃受ケタル利益﹄の返還に代わるものだから、評価は原則として不当利得成立時⋮⋮を基準とすべき﹂とする

 ⒟ 藤原説 。 21

 以上の各見解に対して、藤原正則教授は、売却時の価値を基準とすべきであるとし、本判決と同様の立場に立つ。給

 (一七一五)

(17)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二六同志社法学 五九巻三号

付利得に関する叙述において、﹁不当利得が発生したのが給付時だという点を重視すれば、算定基準時は給付による利

得移動時﹂であり、﹁反対に、原物返還が可能な時点までは利得債権者はその価値を保有していたと考えると、価値賠償が成立した時が算定の基準時﹂になるとしたうえで、両見解の分岐点を﹁有体物が給付されたときに、価値賠償義務

の発生までの物の価格の上昇・下落が給付者・受領者のいずれに帰属すべきかという評価﹂の点にあると捉え、﹁価値賠償を原物返還の効果にできる限り近いものとしようと考えるなら、それまでは原物返還が可能であったのだから、価

値賠償義務の発生時点が算定の基準時とさるべき﹂とする

するうろあできべ い解と時害侵、﹁はてつけ。題問の時準基るにおに得利害侵 22

。しいなは述記い詳でみのるすと﹂ 23

⑵ 受益者が悪意の場合

 ⒜ 谷口説 売却代金が原物の客観的価格より低いときは、価値返還時の時点での原物の価額であり、原物の価額より高いときは

売却代金相当額が返還額になるとする

説説 ⒝ 我妻、四宮説、藤原 て。るいっる。と拠根が難非なす対に者益受 24

 基本的に善意の場合と変わらない

。定いなし響影はに題問の時準基の算値価、は意悪・意善の者益受。 25

⑶ 整  理 微修正の余地を残している学説もあるが、単純化してそれぞれが考える基準時を整理する。我妻博士と四宮博士は利

得物の取得時、藤原教授は売却時(原物返還不能時)、谷口博士は返還請求時(悪意の場合を除く)をそれぞれ主張し  (一七一六)

(18)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二七同志社法学 五九巻三号 ており、これに口頭弁論終結時を基準時とする本件原審の立場を加えると

。るなに 挙とこるいてっがてしと補候が点時のつ四、 26

 谷口博士の見解は、受益者が善意の場合、両当事者の態様等を顧慮する立場から、損失者の利益取得の現実的可能性を考慮に入れるものと言える。本件は、損失者の意思によって株式が受益者に移転した事例ではないため、谷口説によ

れば取得時以後の最高価格が返還額となりそうであるが、名義の書き換えを失念していたという事情を考慮すれば、少なくとも名義書換を行った時点以前を基準とすることは困難であると考えられる。受益者が悪意の場合は、本判決の事

実関係からは、請求時の価額が返還されるべきことになる

余両ことに着目し、その後の当い事者の態様等を加味するるて得っ我妻説は、受益者が取時からすでに返還義務を負  。 27

地を残したものと見ることができる。四宮博士の見解も、返還義務自体の発生を重視したものである。我妻博士が、価格の高騰した時点で売却できたことを受益者の手腕と評価する点は、本件が株式すなわち投機性を有している物に関す

る事案であることを考えれば、一考に値する見解であったと言える

。評の投機判断を手腕とは価株しなかったとも言える主義 、名うすると、本判決は株。式の売却時に関するそ 28

 谷口説、我妻説、四宮説、および本件原審が、それぞれ異なる結論に達しながらも、いずれも原物返還の場合との対

比から考察を進めているのに対して、藤原教授はそうではない。その見解は、損失者の利益を出発点とする点で谷口説と共通するが、その利益が抽象化され、かつ、法的評価の段階が二つに分かれている点に特徴がある。すなわち、まず、

原物が受益者のもとに留まっている間は損失者の権利による価値把握を基礎に置いてその価格変動の影響を損失者に帰属させ、次に、原物返還が不可能となった時点で、物の価格変動を考慮要素から除外する。これは、価値返還の問題を

原物返還の問題と切り離して法的に評価するものと言える。受益者のもとに利益を残すべきではないとの本判決の価値

 (一七一七)

(19)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二八同志社法学 五九巻三号

判断は、背後に、このような意味をもちうる。

 これら各見解の相違は、受益者が原物返還に代わって価値返還義務を負うことの理論的根拠から解きおこされるべき問題であると考えられる。もっとも、本判決を含む判例理論の拠って立つ不当利得法像がいまだ解明されていないこと

からすれば、各見解の優劣を論じることは本判決の評釈の域を超えることになる。ここでは、この問題には立ち入らず、本判決の理解の一助として用いるにとどめる。

16) 谷口・前掲注(

12)二九八頁以下。 17) 我妻・前掲注(

8)一〇八一頁以下。 18) 我妻・前掲注(

8)一〇八七頁以下。 19) 我妻・前掲注(

8)一〇八二頁。 20) 四宮・前掲注(

12)八五頁。 21) 四宮・前掲注(

( もたし分処却売、もとっ)。例頁七七(るすとるあで時事に判る。いくにえ考はのういとれつらめ認が滅消の得利てい定益利 12消の得利ていつに者益受意の善、しだた。下以頁六七滅)にに存現を時定算、はていつ合る場るれらめ認が限制任責よ 22) 藤原・前掲注(

8)一三八頁。 23) 藤原・前掲注(

8)二五七頁 24) 谷口・前掲注(

( を。るすときべす証立 12場でい場合は、損失者の側損も害の者前。下以頁七九二低り面物において、返還時の原のよ価額が受領時)後の価額以 25) 我妻・前掲注(

8)一一一一頁、四宮・前掲注(

12)八五頁、藤原・前掲注(

8)一五八頁を参照。

( 立。るす持支を決判審原、らか場 26ナミ両端として制限されるとのセ失学法﹂批判﹁一恭山鳥、たまを損ー年六二九号一二五頁(二〇〇七)とは、不当利) 返還義務が受益得

27も、請求時の方が売却時より価) 格が高かったようである。はで件本民集六一巻二号四八六頁の上告受理申立て理由によれば、  (一七一八)

(20)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三二九同志社法学 五九巻三号 ( 28、(二〇〇七年)もこ七のような見解に立つ頁〇) ﹂弥永真生﹁失念株法一学セミナー六三二号。

四  本判決の射程

 本判決が判断の根拠を明確に示していないことから、判決の射程もまた分かりにくいものとなっている。本判決の射

程を限定し、その射程の外では、売却時からの価格低下を考慮して口頭弁論終結時(または、原物の取得時から売却時までの価格上昇を考慮して取得時)の価額を返還させると考える可能性も、理論的には残されている。以下では、主と

して本件の事実関係に対応した複数の分析視角を設定して、本判決の射程を検討する。

⑴ 価値算定の基準時 本判決は、文面上、原審の採る口頭弁論終結時説のみを否定するかたちとなっている。しかし、受益者が売却代金と

算定基準時の価格との差額を取得しまたは負担することを否定するのであるから、我妻説・四宮説のような取得時を基準時とする考え方に対しても、本判決の射程は及び、これらの見解は否定されると考えられる。

⑵ 利得物の代替性 本判決は、利得物が代替物であることを判旨中に明示しており、非代替物や特定物(以下、両者を﹁非代替物﹂で代

表させる)と区別しているように読める。しかし、本件において代替物であることが結論に影響したのか否か、そして、今後もこの区別が維持されるのかは、明らかではない。

 本判決は、利得物が代替物である場合について、売却時を基準として価格低下(および上昇)を考慮しないというル

 (一七一九)

(21)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三三〇同志社法学 五九巻三号

ールを示したと考えられる。仮に判例を代替物と非代替物とで区別するとすれば、現段階で、それぞれ次のような規範

が定立されることになる。まず、利得物が代替物である場合、価値の算定基準時は常に売却時で固定されることになる。他方、利得物が非代替物である場合には、本判決の判断は及ばず、口頭弁論終結時における価額の返還義務は否定され

ていないことになる。つまり、代替物と非代替物に共通して、原則的には売却時が価値算定の基準時となり、客観的価値相当額(②判決の射程が代替物に及んでいないと考えるならば、代替物の場合には売却代金相当額)が返還されるべ

きルールがあり、利得物が非代替物である場合にのみ、価格低下の場合のルールを欠くということになる。 しかし、このような区別を行うべき理由があるかは疑問である。学説でも、利得物の代替性が問題になるのは原物返

還の許否との関係においてのみである。したがって、利得物の売却処分における価値算定の基準時の問題に関しては、代替物・非代替物の区別なく、いずれにも本判決の射程が及ぶと考えられる。

⑶ 株式の特殊性

 代替物・非代替物の区別を採用せず、本件の特殊性を、利得物が株式であった点に求めることも考えられる。株式は、有体物としての株券自体に価値があるものではなく、一般の投資家にとっては投機を主たる目的として取得するもので

ある。この点で、価格変動が常態ではない通常の物とは異なる性質を有している。本判決が株式の投機性を重視して売却時を基準時としたとの説明も可能であり、そう理解すれば、投機性をもたない通常の物であれば、原物返還とパラレ

ルに考えて口頭弁論終結時を基準とする可能性も残されることになる。 しかし、すでに谷口説や我妻説を紹介する箇所で述べたことからも分かるように、投機性があることから直ちに売却

代金相当額が返還額になるとは言いがたい。逆に、価格の高い時点で売り抜けたことを、偶然ではなく利得者の手腕・  (一七二〇)

(22)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三三一同志社法学 五九巻三号 能力と評価することも可能になるからである(もっとも、売却時以後も価格が上昇し続けた場合等を考えると、この場合の利得者の﹁手腕﹂の価値が、新株式の取得時から売却時までの値上がり益と常に一致するのかは疑問である)。と

りわけ、本件は、Xらに親株式が交付された時点からYが新株式を売却した時点までに約二年、さらにこの時点から名義書換請求時までに約一年を経過している事案である。このような場合、株式の価値というものをかなり抽象化して捉

えなければ、本判決のような結論には達さない。したがって、株式の投機性が本判決の結論に影響したと考えるのは困難であり、本判決の射程にも関係しないと考えられる。

⑷ 受益者の善意・悪意

 本件のYは、交付された新株式が少なくとも自己の物でないことについては悪意であったと考えられる。しかし、このことは、上告受理申立て理由でも主張されているにもかかわらず、判旨中に明示されていない。仮に、本件でYの悪

意が考慮されたのだとすれば、受益者が善意である場合には、利得物の価格低下を考慮して返還範囲を定める余地が出てくることになる。このように考えた場合、本判決を悪意者に対する制裁的考慮を行ったものと理解することになるが、

善意者の算定基準時を変えることも含めて、本判決からそこまでを読み取ることは困難であるし、②判決と矛盾する。

 なお、学説上、本件のような名義書換の失念ないし懈怠による株式取得の場合の善意・悪意については、単純な知・不知の問題を超えて、様々な要素を考慮した実質的判断が主張されている

29

⑸ 処分・消費・滅失

 本件は、利得物が売却処分された事案であり、過去に判例に現れた事案も、すべて売却によって返還が不可能となっ

 (一七二一)

(23)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三三二同志社法学 五九巻三号

た(または同種・同等・同量の物の返還が問題となった)事案である。利得物がたんに消費された場合や、滅失した場

合にも、価値返還義務は生じるとされているが、学説は、価値算定の基準時に関してはこれらを区別していない

。はるれらえ考とるす当妥に係関無とは態のられこ、様程射の決 。判本 30

⑹ 不当利得の類型

 本判決は、不当利得法の類型論に従えば、侵害利得の事案である。しかし、判例が類型ごとの区別を採用していないことや、ここまでに見てきた判例の考え方からは、少なくとも判例理論を考える上では基準時に関する問題を給付利得

の場合と区別する必要はないと考えられる。むろん、類型論に立つ場合に本件のような問題をどのように説明するのかは、別途考察すべき問題である。しかし、これは本件の評釈の域を超える。

29) 弥永・前掲注(

28一の。照参を献文掲〇)びよお頁九緒 30) 谷口・前掲注(

12)二九七頁以下、我妻・前掲注(

8、注掲前・宮四、下以頁九八〇一下)以頁七八〇一、下以頁一八〇一(

下以、藤原・前掲注( 12)七六頁 8、照参れぞれそを)下以頁六三一。

五  「公平の見地」と不当利得法理論

 これまでにも主に類型論に立つ学説が何度も述べてきたことであるが、一般論として、不当利得をめぐる裁判において﹁公平﹂の観念を判断の根拠とすることには、裁判官の恣意的な判断という危険が常にともなう。仮に不当利得法が

﹁公平﹂を目指すものであることを強調するとしても、それはあくまでも﹁指導原理

的が﹂である。具体示な判断要素 31  (一七二二)

(24)

不当に利得された物が売却処分された場合の不当利得返還義務の範囲三三三同志社法学 五九巻三号 されなければ、結論を導くまでの法的な思考過程が示されたことにはならない。 ここまで検討してきたことからも、本件において考慮しえたと考えられる事実や検証すべき見解は、少なくなかった

ように思われる。本判決は、それらに触れることなく結論を示しているが、これは、法理論としては丁寧さを欠いたと言わざるをえないのではないだろうか。このような最高裁の態度は、判決の冒頭に、いわゆる﹁騙取金弁済﹂という特

殊問題についての最高裁判決の一文を引用するという無配慮さにも現れているように感じられる。騙取金弁済の問題が、不当利得法理論の内部において、本判決で争われた問題とは異質なレベルの問題であることは、疑いようがない

32

それにもかかわらず、本判決では、それらが﹁公平﹂という共通項で括られてしまっている。これでは、これまで学説が積み上げてきた不当利得法理論の精緻化への試み(これ自体は衡平説か類型論かといった立場の違いに左右されな

い)に対して、理論の内容ではなく出発点の段階で逆行することになってしまいかねない。 なお、本件のような紛争について不当利得法上どのような解決が指向され理論構成されるべきであるかについては、

別稿において検討を試みる予定である。

31) 松坂佐一・前掲注(

12)五九頁。

)。・︺﹄八一頁(有斐閣二二〇〇五年)を参照版 32得も得・不法行為︹第利当不もそそ当がれそ、は題問の済弁金取騙利不法わの問題であるかどうかすら疑れ・ている) 加藤雅信﹃事務管理(

* 本評釈の脱稿後に接した本判決の評釈として、平田健治﹁判批﹂判例評論五八七号一八頁(判例時報一九八四号一八〇頁)(二〇〇八年)がある。

 (一七二三)

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16)a)最内コルク層の径と根の径は各横切面で最大径とそれに直交する径の平均値を示す.また最内コルク層輪の

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