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修士論文・博士論文一覧|九州大学 大学院人間環境学府

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31-1

中国寧夏自治区における回民族住居の変容過程について

ー 中衛市海原県関橋村を事例として ー

1はじめに

1-1 研究背景と目的

 寧夏省海原県は黄土高原に位置し、シルクロードが

経由していたので、イスラーム教も早くから伝えられ

た。回民族の集中居住区である海原県の住居に関する

文献は少ないが、昔ながらの住居に受け継がれている

形式や生活様式を知ることは、今後地域の新しい住居

を計画する上で有用である。

 本稿は整備事業が進みつつある関橋村の住居の現状

を記録し、各時代の空間構成及び建築型式の変容につ

いて考察する。現地調査及び既往の文献をもとに、関

橋村の住居及び生活スタイルの変容過程を明らかにす

ることを研究の目的とする。

1-2 既往研究と本研究の位置付け

 既往研究では、中国の伝統的な木造建築や、煉瓦造

建築と閩南の騎楼等についての研究は多く見られる。

それに対して、土壁の住居特に回民族の民家と清真寺

に関する研究は限られている。

 李衛東の博士論文「寧夏回民族建築についての研

究」では歴史学と民族学的視点から回民族集落の社会

構造、建築の空間構成の特徴を抽出し、分類と分析を

行った。燕寧娜の博士論文「寧夏回民族の集落につい

ての研究」では集落の構造、建築の形態、建築技術を

明らかにし、集落の作り方と自然環境の関係を解明し

た。

 本稿では回民族の建築を扱うことを明確にし、空間

的変化、機能的変化、また装飾などの変化を把握し、

その要因を究明することを研究の目的とする。

1-3 調査概要

 現地調査は、2017 年 6 月に予備調査を行い、民家

の形態や空間構成の特徴を抽出した。その後、住宅の

形態に応じて、民家を四つの種類に分け、各種類にお

いて代表的な民家を選定し、空間構成及び歴史的な発

展を考察する。その調査は西安交通大学作成の配置図

をベースマップとし、計民家 16 軒において、聴き取

り調査、実測調査、資料収集等を行った。

2研究地域 2-1 地域概要

 関橋村は大陸性季節風気候に属し、夏が暑くて短く、

冬が寒く、年平均気温 7℃、年平均降水量は 362.6mm

を記録する寒冷乾燥地域である。

 清時代に政府に反対する回民族の武装蜂起が失敗し

たため、本来は長安、関中など地区で生活してた回民

族は、寧夏まで追放され、海原県と固原県で新しい生

活を始めた。海原県が歴史に記録され始めるのもその

頃からである。そのため、昔のヤオトンと平屋の住居

は戦乱の際に中原から関橋村に持ち込まれたと考えら

れる。

2-2 村の概要

 2017 年 3 月に西安交通大学が行った調査によると、

現在関橋村でイスラームを信仰する回民族 1072 人が

198 軒の民家に居住していることがわかる。新築の住

居は基本的にレンガ造であり、瓦の勾配屋根が用いら

れている。一方、従来の工法である土壁と木造屋根を

用いた民家も多数ある。

 墓地は集落の中心にあり、死者は極楽世界に入るた

め、体を土地に復帰するべきと信じ、土葬の伝統があ

る。関橋村ではモスクが三つ配置され、毎日朝礼と晩

礼を含め、五回の礼拝が行われている。

3 住居の概要と型式の変容 3-1 住居の概要

 住居は建設の時代に関わらず、南北を軸とし、母屋

を北に配置するの多く見られる。住宅の中庭を「院子」

といい、それを囲む各部屋は主に寝室、トイレ、厨房、

リビングルーム、倉庫で構成された基本形がある。貯

水技術が普及していない時代には、屋根と庭の雨水を

集めて、地下貯水槽に貯め、雨水の再利用が行なわれ

ていたことが分かった。水道設備は現在建設中である 王 夢瑩

(2)

31-2 ため、村民達は車で県から運ばれた水を買い、生活を

送っている。井戸水と雨水がある場合は洗濯や、家畜

の飼育に利用されている。冷房や電気暖房設備などは

なく。冬になると、ストーブ或いはカンで部屋を暖め

る。住居の装飾は質素で、幾何学紋様と植物をイメー

ジにする紋様が多く見られた。イスラム教は「偶像崇

拝」禁止するため、民家の装飾は動物をイメージする

のが少ない。

3-2 住居の空間構成

 住居の規模は持ち主の経済力により異なっている

が、建設された時代に関わらず部屋の配置は大きくは

「一型」の横長方形、「L 型」の曲尺形「三合院」な

どに分類することができる。

 今回の調査した 16 軒の住居で「一型」は 6 軒、「L 型」

は 8 軒、「三合院」は 2 軒である。「二型」の配置は予

備調査に見られたが数が少ないと考えられる。

 寝室、厨房、収納室をメインの部屋とし、一列で配

置され、家畜小屋、屋外トイレは西方向(西はアッラー

がいる場所とされている)以外に配置される。住居南

側のテラスは日よけ、雨よけの機能を持ち、お茶を飲

んだり、会話する場所とされている。 

 伝統的な民家では、一番広い寝室を「主屋」といい、

広いカンを設置するのが特徴である。家族で年輩の方

が寝るところであり、接客、一家団欒の場所とされて

いる。厨房にはカマドとカンが設置され、食事はカン

の上に「カン卓 kang zhuo」と呼ばれる小さいなテー

ブルをおき、床座で行われる。

 先行文献では、イスラム教の女性は他の男性に顔を

見せないため特別な間仕切りを作り、女性の隠し場所

あるとのことだったが、今回の調査では見られなかっ

た。礼拝空間については、男性達はモスクで行うのに

対し、女性や年輩の方はカンの上や、毛布を敷いた地

面で行い、礼拝のための特別な空間は見られなかった。

3-3 住居型式の分類と規模の変化

 現地調査で収集した図面と写真を基に民家の構造、

平面構成、装飾などの変化及びその要因に着目する。

予備調査で村の中心部にある民家屋根と壁の建設方

法を確認した。屋根を構法の発展に伴って大きく四種

類に分類可能でありそれと同時に、の構法も変化

してきたのがわかる。(図 3-2)

 その後、各型式民家の代表的な住居を選定し、16

軒の実測調査、聞き取り調査を行い、各型式民家の建

設年代を比較した。型式Ⅰの建設年代は 1980 年前、

型 式 Ⅱ は 1980 年 か ら 1995 年、 型 式 Ⅲ は 1990 か ら

2005 年、型式Ⅳは 2005 年から 2017 年までに見られた。

 建築型式と建築規模の変化の関係を明らかにするた

め、民家の間口と奥行きに着目した。(図 3-3)奥行き

変化と建設年代の関係をグラフにまとめた ( 図 3-4)。

 建設年代により間口では徐々に大きくなったのに対

し、奥行きでは屋根の架構技術の進歩に伴って、段階

的に大きくなったことがわかる。母屋の平均奥行きは

型式Ⅰ 5.175m 型式Ⅱ 5.1m 型式Ⅲ 6.08m 型式Ⅳ 6.805m

である。型式Ⅲ以後は切り妻屋根の建設により奥行き

が深い民家の建設が可能になったことが考えられる。

3-4 型式により住居の変容過程

 型式により住居の外観、材料、装飾なども変わって

きた。図 3-5 は各型式の代表的な事例を示す。

 型式Ⅰの民家は、地域で簡単に入手できる土、木、

草を使い、建設していた。壁は土壁と日干しレンガ併

用であり、屋根は木構造の片流れ土屋根が多く見られ

る。住居の装飾は質素で、建具が格子に装飾された。

1955 年から 1978 年頃までは戦争や政策などの原因に

より、農業生産効率が低いため、経済的に余裕がない

地域であり、民家の変化がほとんど見られなかった。

 型式Ⅱの住居は 1978 年「改革開放」政策の影響を

受け、地域の人達の収入の増加と共に、生活水準も向

上した頃に建築された。農村部では人民公社が解体さ

図 3-3 間口と奥行の関係 図 3-1 民家の配置分類

図 3-2 予備調査により民家の分類 木造片流れ屋根木造片流れ屋根

素焼き瓦あり 木造切妻屋根

スチール切妻 屋根

土壁と日干し煉瓦

土壁に煉瓦保護あり

煉瓦壁

煉瓦壁タイル保護あり

型式Ⅰ

型式Ⅱ

型式Ⅲ

型式Ⅳ

(3)

31-3

れ、生産責任制、すなわち経営自主権を保障し、農民

の生産意欲が向上した。関橋村の住民も出稼ぎ労働者

として、都市で働き始め、住民収入も増加した。以前

より高い屋根を作り、その上に素焼き瓦を置き、壁面

は煉瓦で保護され、部屋の防水性を高めると共に、修

繕も容易である。レンガの積み方により幾何学紋様を

使い、壁の装飾とされている。

 型式Ⅲの民家は地域経済の発展に伴い、住居の意匠

に装飾性が高まり、壁が煉瓦保護或いは装飾モルタル

仕上げされ、屋根も素焼きの瓦張りの切り妻屋根と

なった。柱と屋根の棟に装飾が多く見られた。経済と

建築技術が発展し、住居の規模が拡大した。

 型式Ⅳの住居では 2010 年以降政府の補助制度の基

に、民家様式の統一も見られた。2010 年、2013 年関

橋村の経済的に余裕ではない家庭を対象にし、住居の

新築と増築の補助制度を実施した。その制度により補

助金或いは建築材料が政府に補助され、住居の更新が

見られた。住居の施工は職人及び地域住民の協力から

建設会社に変わり、スチール構造の切妻屋根、レンガ

造の壁が多く見られる。屋根の装飾は棟で瓦の積み上

げたものと鴟尾である。2000 年以降に建てられた屋

根に多く見られたハトは神のアッラーを救ったことが

あるため、家族が永遠に幸せで健康であることを祈る

象徴として用いられる。

3-5 小結

 政策によって、経済が発展させ、家族人数の減少に

関わらず、関橋村住居の規模が拡大してきた。建築技

術の発展に伴い、屋根と壁の型式も変化してきた。

4平面構成の変化による住まい方の変化

 「新農村開発」に伴い、従来の農村居住も新しい生

活様式や近代化設備が取り込まれ、民家の増築や新築

により生活様式も変わってきた。各部屋の用途や設え、

接客行為の場所着目し、平面構成の類型化を行った。

( 図 4-1 図 4-2)

 グループ A は伝統的な住居であり、厨房と主屋 ( 母

屋の中心にある最も広い部屋 ) が一列配置され、カン

は寝る場所だけでなく、接客や食事など様々な活動を

行う場所として使われている。主屋は年輩の方が寝室

とし、一家の中心であり、私的なスペースと公的スペー

スが混同していた。主屋にテーブルを置いてある場合

はお客様の食事のためである。

 グループ B の住居は主屋の代わりにリビングルーム

が平面の中心となり、ソファやテーブルを置き、接客

図 3-5 型式により民家図面一覧表

図 4-1 平面構成により住居の分類 リビングルーム

無 有

カン無

新築住居

カン有

新築住居 増築住居

K B L

K

L/B

K

B

L

B

L K

「一型」 6軒

「L型」 2軒

「L型」 4軒

「L型」 3軒

(4)

31-4

【参考文献】

1) 馬 平 , 頼 存理 「中国穆斯林民居文化」 寧夏人民出版社 , ISBN7- 227-01541-6/G.281

2) 劉 偉  「寧夏回民族建築芸術」 寧夏人民出版社 ISBN7-227-03300-7/J.248 3) 李 衛東 「寧夏回民族建築についての研究」天津大学博士論文集 2009.05 4) 燕 寧娜「寧夏回民族の集落のについての研究」 西安建築科技大学博士論文 集 2015.03

5) 昌司 諏訪 , 趙 沖 , 布野 修司 , 川井 操 「西関大屋地区(広州)の 住居類型とその変容に関する研究」 日本建築学会計画系論文集 第 81 巻 第 726 号 1675-1683

6) 川井 操 , 布野 修司 , 趙 沖  「西安旧城回族居住地区類型とその変容 に関する研究」 日本建築学会計画系論文集 第 74 巻 第 636 号 315-321 7) 倪 琪 , 菊地 成朋  「中国徽州地方の伝統的住居の空間構成とその形態の 特徴」 日本建築学会計画系論文集 第 575 号 7-21

と食事を行う。それに対し、厨房は離れに位置し、中

庭に向け、L 型の配置が見られた。接客スペースと私

的スペースが完全に分離され、プライバシー意識の高

まりが見られた。

 グループ C の住居ではリビングルームは接客と食事

の場所として使われているのと同時に、間仕切りを作

り、年輩の方の部屋としても使われている。それは空

間の節約もあるし、年輩の人達の敬意もあるではない

かと考える。C1 の住居はリビングルームが中心に配

置されている。それに対し、増築の場合リビングルー

ムが離れに配置するのが多い。C2 のリビングルーム

が西側に配置され、厨房が昔のように使われている。

接客の機能は主屋からリビングルームに移行され、リ

ビングルーム横の部屋は年配方の寝室として使われて

いる。C3 の住居は厨房とリビングルームを同時に西

側に増築され、その場合年輩の方は主屋を使い、リビ

ングルーム横のベットは子供達が使っている。

 そのほか、厨房にカンとテーブルを同時に設置する

場合では、食事の場所は冬夏の使い分けも見られた。

冬はカンを温め、その上で食事をするのをに対し、夏

はテーブルを厨房や院子に置き、食事が行われている。

 民家の新築と改修により、カンを取り外してベット

を購入している。それとともに、ストーブや電気ヒー

ターの利用も増えてきた。カラーテレビの購入により、

娯楽や一家団欒の場所は母屋からリビングルームに移

り変わってきた。

5 結

 本稿で明らかにしたこと、重要な点をまとめると以

下のようになる。

 ①経済と建築技術の発展に伴い、住居規模の拡大、

建築材料の更新、装飾の変化が見れらた。 

 ②リビングルームは新しい部屋タイプとし、全体的

な配置には重要な要素とする。リビングルームにカン

を設置するかしまいかのことによって、ライフスタイ

ルの変化が捉える。

 ③若い世代や子供はカンでの就寝を好まない傾向が

あり、カンの代わりにベットを設置するのが少なくな

い。それに対し、将来は新たな暖房方式や住居型式が

必要と考える。

6 おわりに

 今回の調査では関橋村回民族民家の変容過程を明ら

かにするため、施工方法、外観、平面構成についての

分析と分類か行った。宗教に関する特別な空間構成が

見られなかった。それに対し、同じ地域漢民族の住居

についての比較調査が必要と考える。また、経済、文

化の発展に伴い、特に政府の政策や環境整備により、

次の時代の生活スタイルに合わせる民家についての研

究も今後の課題である。

図 4-2 民家平面構成の類型化

増築なし

凡例

増築あり

1955年前後 1962年前後

1982年前後 1987年       1990年

1993年  1995年前後   2002年前後

2009年   2010年    2014年

1978年前後 2012年増築

1975年 1998年前後増築

1995年 2012年増築

1998年 2012年増築

1992年 2012年増築

グループA      グループC2

グループB      グループC3

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