自分
に
は
セ ン
ス
が あ
る
、と
い
う
こ
とを
自
分
で
信
じる
セ
ン ス
lBelieve
in
l
Have
a
Sense
後
藤博
史へる す 出 版 編 集 部
GOTOH
Hiroshi
Herusu
Publishing
,
lnc
.
1.
編集者
に とっ て必 要 な
t センス’
と はか れこれ
30
年 以
上 も、
編 集者
と して原稿 執 筆 依 頼
をつづ け てきた。
今回、
岡崎 先 生 から’
原稿 執 筆 依 頼’
をいた だい て、
迷 う ことな く 「快諾
」 の返信
を さ せて いた だいた。 といっ ても書
き た く て書き た く て ウズウズし て、
依 頼を心 待ち に し て い た と い う ことで は決してな く、
断
られ た と きの気 分 を 知 り尽 く して い るから でも あ り、
罪滅 ぼし の意 も ある。
*編
集者
にとっ てな に が 必 要 か・
…・
・
。
ひと言で言 えば
」
センス’
であ る。
[
セン ス’
に尽 き る。
文章
に対 する セン ス、
レ イ ア ウ ト に 対 す る センス、
カバー
デ ザ インな ど 装 幀 に 対 す るセンス、
書
名 や タ イ トルに 対 して のセン ス、
締め切 りを す ぎて も 原 稿が届 か ない、
送っ た と 執 筆 者の言 う校 正 紙 が 戻っ てこない、
など の 督 促 を す るときのセン ス、
いやいや、
そ れ 以 前 に人 に 対 す るセ ン ス、
これ が ないと すべ ては始 まらない。
で も、
それら が まっ た くな くて も、
あるいは ほ と ん ど な くて も 書 籍・
雑 誌 はでき あ が る。
書籍
や雑 誌
は作
る もの では も ち ろ ん あ るが、
同 時 に 書 籍 や 雑 誌 はできてし ま う ものなのだ。
当 た り前 といえ ば 当 た り 前では あ る。
* い ち ば んこだ わっ てき たのはな ん だろう……。
や は り文 章で あ る。
自分の書 く もの では も ち ろ ん な く、
原 稿 ([
玉 稿’
:ぎょ くこ う、
という)。
人さ まの書いた文 章であ る。
数 十 年、
毎 日毎
日、
書
いて いただ
いた 文章
を読
み、
読
み な がら原稿 整
理を 続けてき た。
意 味が通る か、
読 者に通じ る か、
誤 解さ れ な い か、一
文 が 長 すぎ
ないか、
改
行が少
な すぎ
ないか、
誤っ た漢字
を 使っ てないか、
語 句 を 漢 字 に した り平 仮 名 に した り していな いか、
表 と 本 文で言い回 し が 違っていないか、
表と本 文の数 値 が 違っ てはいないか、
カッ コ内の百 分 率 は 正 しいか……。
さ ま ざ ま なことを 考えなが ら赤 字を入 れたり、
著 者 校正時に確 認す る た め 鉛筆
で コメン トを 記 し た り しなが ら、
原稿整
理 や 原稿
と の付 き あ わせ をつづけてき た。 知らず
知らず
の う ち に人を傷つ けて しまっ ている よ う な 言い 回 しなど
に も注 意 を払
う。や
はり
‘
セン ス’
であ る。
著
者校
正時に執 筆
者に確 認 する、
と 記 し た が、
尋 ね 方 に も‘
セ ン ス}
が 問 わ れる。
明 ら か な 誤 記であっ ても、
初 校 に 朱 記 す る の で はなく、
鉛 筆 書 き を する のが 基 本であ る。
気 を 遣う の は、
意
味の通 ら ない文 章
の場合
で あ る。
誰
しも自分
の書
い た文
章
に ケ チ はつけ ら れ た くない。
咎め られた く は ない。
た と え 「文 意 が 通 じ ない箇 所 」 が あっ た と しても、
「文意 が
通 じ ませ ん。再考
を」 と鉛筆 書
き が あ れ ばい い気 持 ち は し ない。
「文 意 が通 じ な い」 こ と は もちろ ん しっ か り伝え、
書 き 手 に ム カッと 感 じさ せ ないよ う な 尋 ね 方 を す る。
*’
編 集者
に とっ て のセン ス’
につ い てあ れこれ 考 えつづ けてき て、
そのなか で も もっ と も必
要 な’
セ ン ス’
に気づいた。
それ は L 自 分に は セン ス が あ る、
と い う こ と を自 分で信じ る セ ン ス’
。
言いふ ら すこ と では もち ろ んないが、
密
か に自分
の セ ン スを信
じることであ る。
やは り、
こ れ が な い と すべて は始
ま らない。
自
分で自
分の‘
センス’
を信
じ る。 な か な か む ず かし い。 それ もい っ ときで はな く、
信じっづけ る こ と は か な り むずか し い。
それで も、
信じつづ ける。意
地で も信
じつづけ る。
そ のことが 何か を創り出す と き に とっ て も た い せっ なこ と であると、
ぼ く は信
じて いる。
2 .一
枚 の ク ロッキー
新 卒
で入社
し たのが
医学書 専
門出版 社
の書籍 編集 部
。 た ま た ま受かっ た出 版 社が、
医 学 書 専 門の出 版 社だっ た と い う話
で あ る。
入 社 して半 年ころ までは、
慣ら し運転
の よ う な も のだっ た の だ ろ う、
シ リー
ズ書 籍
の編
集に携わ っ た。
装 幀はも ちろん、
目次
か ら本文
の組
み方
まで決
まっ て い て、
そ れ を 踏襲
す る だ け だっ た。
1
年
ほどし て か ら シ1丿一
ズで はない書 籍の編 集に携 わ るよう になっ た。
も ち ろ ん
出
版社
の規模
にもよ
る だろ うが、
ブックデザ インな ど の装 幀は担 当 編 集 者の仕事
の う ち で、
外部
に 発注す る こ と は まっ た くなかっ た。 担当者
が装幀 案
を考
え、
それ を社
長(
ほ と ん ど の出 版社
は規模
が 小さ い の です)
に 見 せ、
検 討し、
最 終 的 に決
め て いた。数
冊の書籍
を作
っ た 後 に、
自分の担 当の書 籍 だ けでは な く、
他
の ス タッフ の書 籍の装 幀 も 任 さ れるよ う に なっ た。小学 生
の頃
か ら図
工が好
きで、
そ れ も何
かのテー
マに 沿っ てあ れこれ 考え、
ポ
ス ター
を創
り あ げ る こ とが 好き で、
そ の書籍
に あっ たブ
ッ ク デザインを考
え る のは楽
し かっ た。
読 者対 象
は ほ と ん ど が 医師
だっ た。
装 幀の良 し悪 しで書 籍の 売り 上 げ が左右
さ れ る こ と はなく、
外 部に装 幀 を 依 頼 する必 要46
デ ザ イ ン 学 研 究 特集号Spacial lssue ot Japanese Seciety for the Science of Design
)ol
.
21・
1 Ng.
81 2014NII-Electronic Library Service
も な く (お 金 を 掛 ける必 要 は な く)
、
社内
で装幀
を 考 え る(
印刷 所
に入稿 す
るた めの版 下
だ け は作 成
しても らった)
、 という自然
の流れだっ た。
*担当者
か ら渡 さ れ た書名
・
執筆
者名
な ど、
表紙
に盛 り込 む 要素
の メ モと初 校
ゲラを前
に、
あれ
これ 思いを め ぐらす。本
文中
に表 紙
に た え ら れ る よ う な 写真
や 図 があ
れば
コピー
をと る。 こ れ はとい う 写 真 や 図がな け れ ば、
た と えば 「泌 尿 器 関 連 」 の書
籍であ れ ば 「腎 盂 や 尿 管 」 のX
線 写 真 を ア レンジ した イ ラ ス ト を ざっ と描 く。
ま た、
書 名 な ど何 本 か 写 植 を 発 注 す る。
そ れ ら を すべて揃 え、
判 型 に 併 せ た 黒 枠 内 に、
福 笑いよ ろ し く並べ て位 置
を決
め、
な ん ど も な ん ど も、
あ あでも ない こ うでも ない と社
長 と検討
した。
具体 的に は書 名 を1
ミ リ左にずら し て み て、
著 者名
を下
に0.
5
ミ リ下
げて み て、
等 々。
そ う した作 業
をつ づ け、
そ の たびにfl
多
正 し、
最終
的 な形
を作
り上 げる……。
パ ソ コ ンな
ど まった く使
って いな
い時代
の こ と であ
る。とい う の が
、
当
時のぼ くの働
いて い た出
版社
での装 幀決
定ま で の や り方 だ
った。 入社
して数年
の編 集 者
と社
長と 「1
対
1
」 で すべ て を す すめ、
決 定 まで こぎ
つ け る。
い くつ もい くつ も 「案
」 を 出 し、
そ れでも 決 ま らず
、
刊 行 期 日 が 迫っ ている と担 当 者 か ら言 わ れ、
そ れ は そ れでか な りの プ レッシャー
では あっ た。
在 職 中 に30
点 ほ どの書 籍のブッ クデザ インを、
そ れこそ 唸 り な が ら絞 りだ し た が、
多 くの こと を 学 ば せても らっ た。
いま だに意 識 して い る のは、
「1
点 を め ざ す 」 とい う こと。
スペー
ス に 「書 名
・
執 筆者 名
・
社 名
」な ど をレイアウ トすると き に、
それ ら が ピタッ と お さ まる のは 「1
点 」の みだ とい うこと。
お そ ら く 「そ の辺 り 」 には お さ まっ ていた か も し れ ないが、
「そ の1
点」 に は お さ まっ てはいな かっ た だろう。
め ざ しつづけて はいた が 叶 わ な かっ た と 思 う。
* そ の年の年 末、
K
市 に越 してき た。
歩い て数 分の とこ ろをT
川 上 水 が 流 れてお り、
雑 木林
に囲
ま れ た 上 水沿
い の遊歩
道 を、
1
歳 を む か え た ば か りの娘 と歩 くのは 気 持 ち よ く、
晴 れ た 朝に はM
美 大 近 く まで足 を 伸 ば した。
毎 年
、
秋
の連休
の頃
に‘
藝祭
’
が あっ た。M
美
大の文化 祭
であ る。
4
日 ほど 通し て開 催 さ れて、
毎 年、
家 族で出 か け た。
図書 館で の特
別 展 示、
教 室で展 示 してある学 生 た ちの油絵
、
日本
画、
エ ッチング、
織 物 な ど を 見てま わ り、
中 庭の屋 台、
フ1丿一
マー
ケット、
焼 き ものに ふ れ るのも 楽 し かっ た。
ある教 室 に 入っ た。
学 生のグルー
プ 展 だっ た。
1
枚のクロッ キー
に 惹 きつけ ら れ た。
同 じタッチの絵
が 数枚
、
展 示 してあっ た。
凄 かっ た。
い い デッサンだ と思っ た。
受 付 にいた 学 生 に、
こ の絵 を 描いた 人 に 会いたい、
と 話 を し た。
し ば ら く して、
彼 が現
れ た。
180
センチ は あると思 わ れる 大 柄 な 男 性。
彼 がN
くん だっ た。
* でき れ ば 譲っ て ほ し い……。
彼
は 身体
を か が めるよ う に ぼ くの話 を 聞い て いた。
笑っ ては いた が、
明 らかに戸 惑っ て い るよ うでも あっ た。
ぼ く は
、
毎 年
、
」
藝 祭
に来
て い るけ ど、
こう 思っ たのは初
め て の こ と、
い い と思っ た から ほ し い と思っ た だ けの こ と、
な ど を話し た。
大 学 近 く の、
上 水 沿いの、
路 地 を 入っ た ところ の アパー
トを 訪 れ たのが、
その 日 だっ たの か、
あ るいは 別の休 みの 日だ っ た のか、
まっ た く記 憶 が ない。
ぼ く か ら
描
いているものが あ れ ば見
て みたい、
と言っ たの か、
N
く んから描いた ものが あるから 見 て くだ さい、
と言っ て くれ たのか、
まっ た く記
憶 が ない。
彼
の ア パー
トの部
屋 に 入 り、
畳の上に積
みか さ ねてあっ た ク ロッキ
ー
(
何 枚 あ
っ たのかわ
からない。 た だ、
70
セ ン チ ほど の高
さ に積み 上 げ られた クロ ッキー
の山 だっ た)
を1
枚
1
枚
み て、
最終 的
に5
枚
のデッサンを 選んだ
。N
くん にい く ら渡
し た の かも 記 憶にない。
・
30
数 年前
の秋の出 来事
。
その後、
年 賀 状のや りと り も せず
、
そ も そ も 名 前 が 本 名 な の か も 分 か らず
、
いや、
その と き に 尋 ね たのか も しれ ないが、
まっ た く 記 憶 に ない。
覚 えて いる 数 少 ない ことの一
つ。
サ インを してほ しいと 話 を したら、
N
くんは表に は いやです と応え、
裏に1
枚1
枚、
名 前 と年 号
C81
)
を記
して く れ たこと。
どうやっ て描
くの ?と い う
間
の抜 け た問
いに 「え ん ぴつ を 回しな がら描
き ま す」 と応
え て くれ たこと。
* 担 当 者 が 定 年で辞 め、
著 者S
先 生 と以 前に仕 事 をしたこと も あっ て、
刊 行 まで の編 集作 業
を 引 き継
いだのが、
今 か ら2
年
ほ ど前。
それ からす ぐに校正刷 りを 読み、
読みな がら装幀
につ い て考
え は じ め、
しば ら く してN
く んのクロッキー
を表紙
に 入 れ たいと思 い 至っ た。
『“
生 きる か らだ”
に向 き 合う ;身 体 論 的看
護の試 み』 という 書 名の看 護 書。
と り あ え ず8
月 に 迫っ た 学 会 のた め にリー
フ レットを作
る こと に し た。 リー
フ レットに はカ バー
デザイ ン も盛 り込 む。
パ ソ コ ン で ク ロッキー
を取り 込 み、
ラ フ デザ イン の リー
フ レッ トを作
り、
S
先
生に流し、
7
解
を求
め た。
S
先 生 から承 諾 も 得られ、
後はN
くん と連 絡 を取れ ばい い段 階 と なっ た。
*その晩
。
タ食
後 に部
屋 に 戻 り、
パソ コ ンを 立 ち 上 げ画 面
を見
て いたら、
急に連 絡し て みよう、
と い う気になっ た。
気 が 重い というの では な かっ た が、
は た して教 えてもらった 連絡 先
にN
くん(
五十
を す ぎている彼
を くん づ け、
とい う のも な ん と な く黼
1
:
1
:
1
∵ ∴
慝
妙
だ が、
ぼ く が出会
っ た と きに は彼
は美大
生 だっ た し、
まあ、
い いだろ う)
は いるの かど うか、
話 を しても あ のとき のこと を 覚えて いる だ ろ う か、
それ よ りもなによ りも 表 紙に使 うことを断
ら れ た ら……
な ど、
さ まざ
ま なこと に思いを め ぐ ら せて、
な か な か 電 話 を か け ること ができ な かっ たの である。
ま あ、
断 ら れ た ら、
そのと き は そのと きで、
別 な 案 を 考 え れ ばい い、
そん な 気 分でも あっ た。連 絡 先 は 友 人の
画
家K
から教え て も らっ た。
た ま た ま7
月の初
めに数 年
ぶ りに銀座
で個
展 を開
くと案 内
が 届 き、
初
日に出
か け、
そ こ でM
美 大卒
のK
に事 情を 話 し、
も し わ か れば 教えて ほ しい、
と頼
ん だのだ。富 凵
」に戻
った その 日にK
は メー
ル で連
絡 先
を教
えて くれた。
三重 県 在 住。
あるいは実 家か。
も ち ろ ん わか ら ない。 * 呼 び 出 し音 が 鳴 りつづける。
い つにな く ドキ ドキ する。
しば ら く して女性
の声。
名乗
っ た 後 に、
N
さ ん はい らっ しゃ いま す か? と 尋 ね た。
いかにも 怪 訝そ うな 声。
M
美 大 卒 業 という こ と を確
認 し、
30
数年
前 に 藝 祭でクロッキー
を5
枚 買
っ たこと、
それ を 現 在、
編 集し て い る単 行 本の表紙
に使いたい こ と、
そ れ でN
さ ん と連 絡
を取
りたい こと を手
短に伝
えた。
女 性
は妹
さ んだ
っ た。
兄 は東 京
に住
ん で いると応
え、
連 絡 先
を教
え て く れ た。
ぼ く の自宅 と局 番が同じで、
住 所を伺う と、
そ う 遠 く ない地 域
と い う こ とが わかっ た。話し て い る う ち に
、
N
氏 が 「あ のN
く ん 」 と い う こ と を確信
し た。 すぐ に電 話 をか け る。
なんどか の呼 び 出し音。……
女 性 が 出 る。名 乗
り、
「お 主 人 」(
とい っ てから 「N
さ ん 」 と本 名
を告
げ る)
お出で で しょう か ?と 言 い
、
手 短に 電話を し た 要件、
経緯
な ど を話
した。
しばら く し て
N
く んが 電話
に出
た。「へ るす
出 版
の後 藤
で す。 久し ぶ り で す。覚
え て い らっ し ゃ います
か?」「あ あ
、……一
度
、
お宅に伺い ま し た よ ね」N
く んの第
一
声
。 クロッキー
を 表 紙に使 わせ て も ら う こ と はあっ さ り了解 がと れ た。校
正紙
を 送る こと、刊 行
したら見本
を 送る こと、
な ど を 伝えた。
個 展
の予
定 が 近 々 あ れ ば、
案 内
が欲
しい こと、
そ のと きに で もゆっ くり話
をし ま し ょ う、
と言い、
互い の連 絡 先
を教
え合
い、
「あ り が と う 」 と言っ て 電話を 切 っ た。
満
た さ れ た感 覚
。穏
や か な 気持
ち。嬉
しくて、
楽
しくて、
誰
彼 なし に、
伝えたく てた まらな かっ た。
* 住 所、
電 話 番 号、
メー
ルア ドレスを 伝 え あっ た。
携 帯 電 話 は48
デ ザ イン学 研 究 特 集 号Speclal Issue DfJapanese Socletyforthe Sc[ence et Design
Vol
.
21・
1 No.
81 2014持
っ て いないんで す、
と尋 ね る前
にN
くんは 言い、
ら しいね、
とず
っ と会っ ていない の に応 え、
メー
ル も 滅 多 に み ま せ ん か ら 期 待 し ない で待って く だ さい、
と遠 慮 が ち にっづ け た。
「表 紙 」 と 「1丿一
フレッ ト1 の初 校 が 印 刷 所 か ら 出 た その晩。
自宅 か らN
くん あてに、
初 校 が ま と まっ たこと、
郵 送 する つも り だっ た け どバタバタ して送 れ ず、
来
週 にでも直 接持 参
して そ の場
で初 校
をみ て いた だ け ないだろ うか、
と書
き、
そ の後
に 長々 と こ れ ま で の経 緯
などを記し た メー
ル を流し た。
N
くん か らは 翌 日に返信
が 届い た。 その一
節
。・
これで、
先 日の 「電話」 に 至 る までの経 緯が概
ね 理解
で き るよ
う に な り ま した。突 然
の、
数十 年
ぶり
の 「電話
」 に驚
い たこ と は事 実 (当た り前です ね )ですが、
なぜ か、
どういう わ け か、
左 程 驚 き を 感 じ な かっ た 気 分 も 混 在 していま した。
予 感 や 霊 感では な く、
そこに 出 来 した 「事 件 」 が、
日 常の延 長にすっ ぽ り とパズル のピー
ス のよう に うま く八 マっ て し まっ た と。(
こ の言
い方で伝
わるとい いんです が)
五十 年 以 上 も 生 きていると最 早 驚 くこと も ない、
と 達 観 して おる ぞ と自慢
したいとこ ろ です が、
不
思議
な 事柄
が 不 思議
でな かっ たこ と に 不 思議
がっ てお ります……。
*い く ら か 早 く
会 社
を出
て、
K
駅 に向
か う。約 束
の10
分
ほ ど 前に着く。
ほ ど な くこち ら を み な が ら 近 づい て く る 大柄
の 男性
。N
く んだっ た。 駅近く の コー
ヒー
専門店に 入 る。
30
数年
ぶ りの再 会
。 こ の 間 の突 然の連 絡の話か ら は じまっ た。
「ふ つ うだ とx×さ ん から電
話
っ て言
わ れて、
そ の人 を 思い 出す の に時間がか か る じゃな い で す か、
え え と、
誰 だっ け か な みたいに。
で す け どこ の間
、
ゴ トウ さん からっ て受話 器
を 渡 さ れた と き に、
あ あ、
あの ときのゴトウ さんっ てす ぐに そ う思い ま し た」あの とき ぼく は
、
電 話
口 に出
たN
くんへ 「覚
えてい らっ しゃ い ま す か ?」 と問い か け、
「お 邪魔
し て食 事を い ただき ま した よ ね」 がN
く んの返事
だっ た。
「意 外で はな か っ た?」「な か っ たです ね」 *
それ か ら
、
藝祭
で の こと、
N
く んの アパー
トで の こと、
ぼ く の自宅
で夕飯
を食
べたこ と……
い ろいろな話
をした。
そ のすべ て が、
N
く ん の覚え て い る こ と とぼく の覚え て い る こ とが 微 妙 に違っ た。当
た り前
といえ ば当
た り前
で、
た だ、
そ のず れ を二 人 と も 面 白 がっ た。
「ア パー
トで何 枚 も の クロ ッキー
を 見せてもら っ て、
そ れで5
枚、
選 ん だ ん だ け ど……
」一
NII-Electronic Library Service
「そ う で した っ け ?
藝 祭
で選んだん じ ゃあり ま せ ん で し た か?」アパ
ー
トに伺
っ てた く さ ん の クロッキー
を み せても らっ たこ とを、
N
くんは まっ た く覚 えていな かっ た。
これ は ま ち がい な い。
ぼ
くの 完 勝1
「ア パー
トに 伺 っ てクロ ッキー
を 見 せても らっ たこと は ま ち がいないん だ け ど、
ぼ くか ら 見 せて欲 しいっ て言った と 思 う ? そ れとも 見 に きてく だ さい っ て言
っ てく れ た?」「ぼ く か ら お 話しする ことはあ りえない で す ね 」
「そう か
、
や っ ぱ りこっ ち からか。昔
はか なり強 引
だっ た ん だ ね え」 と二 人で笑う。
*「初 日 に 選 んで
、
最 終日 に 函 を お 持 ちに なっ た ん で す よ J「う ん ?
……
」まっ た く記
憶
に な い。
藝祭
は4
日 間で、
初 日 に話 を して選 ん で、
4
日 目にクロ ッ キー
を収
める た めの函 を 持 参 して持 ち 帰っ た、
と いう。
「ゴ ッホの 画 集の ?」 (何 と な く思い出 した が……
)「そ うで した ね
、
大 型 本の外 函でし た ね」 *「作 品 に お 金 を 渡 す
、
ということ に な ん とな く抵抗
が あっ て、
そ れで呑 むのな らt い いお酒 (
ウ イスキ
ー
)
’
で も渡
そ うと考
え て呑 む か ど う か を 尋 ねて、
呑まないっ て聴
いて、
それでお金を 渡 し た ん だ け ど……
」「あ く まで作 品 を
[
買
うっ て い う よ り も、
将来
の きみの た め の応
援 金’
のよ う なことで いた だいた よ う に 思います
」 「当 た り前 だ け ど 値 が 上 がると か、
まし て装 幀の た め に と か では まっ た く な くて、
た だ、
欲 しい、
ど う しても欲
し いと 思っ た んだ よね」 *その
N
く ん と会
っ てか ら、
あっ と い う ま に1
年
が すぎ
た。
た だ、
残 念 な がら いま だに刊行
に 至っ て い な い。事 情
があ り、
ス トップし た ま まである。
ま あ、
年 内
に は できるだろ う。 でき あ がっ た らN
く ん に 会 う。
*追 記:お か げ さ まで、
2014
年
1
月 に な ん と か 上梓
でき ました 。3 .
編
集者
と は……
ぼ く が 中 途 入 社で現 在の出 版 に入 っ た と き
30
も半
ばを すぎ て いた。
そ の 年の正 月 休 み 明 け が 初 日 と なっ た。
10
歳
ほ ど年
上の痩せ型の、
物 静 かで、
動 き も ど ち ら か とい うとゆ
っ たり
と し た 編集
者 が 同 じ編 集 部 にいた。
H
氏である。
先輩
の編集 者
で あ る が、
仕 事につ い て 打 ち合 わ せ を し た り、
確 認
した り する こ とも な く、
朝 晩 に 挨 拶 を 交 わ す 程 度で、
仕 事も私 的な こ と も ほ と ん ど 知 ら ない仲 だっ た。
その
H
氏 が5
月 の 連 休 明 け に 自 宅で療 養
生活
に 入 る、
そ ん な 話 を 聴いた。
膵 臓 が んの手 術 をし た後に 退院
し、
自
宅に戻る と いうこと だっ た。 「が ん末期 医療
に関 す
るケア の マニ ュ ア ル」 とい う小冊 子が厚生省 (
当 時)
で ま と め ら れ、
発 行された頃。
MS
コ ンチンが発 売
さ れて しばらく たった 頃。 平成
の初
めの頃 である。
ほ と ん どの人 が病院
で 亡 く な る、
そ んな 時 代だっ た。
H
氏
の評判
は芳
しくな
かっ た。
校
正 漏 れの赤 字
を1
本でも 見 つ け ると、
棘
のあ る物
言いで、
嫌 味 を 長 々 と 言 う。
けっ して部
下に慕わ れ る人 柄で はなかっ た。
少 な くとも 勤 め は じめて半 年 が たっ て、H
氏 に 対 す るスタッフ のそ ん な 思いを 感 じて いた。
*H
氏と会社
をつな ぐ メッセンジャー
に な ろ う……。
そ う 思い は じ め たの は ゴー
ルデン ウィー
ク も 終 わ り、
H
氏 が自
宅で生活
を は じ め た 頃 だっ た。
H
氏 も 編 集部
の スタッフ も 互 い に知りす ぎていて、
さ ま ざ ま な感情
が あるため に素直
に思いを伝
え るこ とができ ないだろ う。
H
氏はぼく を知らず、
も ち ろ ん編 集 者と して の力 量 を 知らず
、
ぼ くはぼ くでH
氏
の編集 者
としての 腕 も 人柄
も知ら な い。
だか ら返っ て メッセンジ ャー
にな れ る。
そ ん なこと を考
えた。会社
の会議
室。 あ る朝、
上司に そ の話を した。
お話 が あ り ます
、
と言
い、
二人 だ
けで会 議 室
に 入っ た。
思って い る こと、
思 いつづ けて いること を 話 す。
話 を 聴 き お えて、
「あ りが とう 。 そ う 言っ て く れて、
ぼ く と しては あ り が たい。
ぜひ メッセ ン ジャー
に なっ てほ しい。
も し会社
の誰
か が、
それ を咎
め るよう なことが あっ た ら、
ぼ く が きみを 守る」 と 言っ た。
長 い間、
H
氏
のもと で働いてき たW
氏の言 葉 だっ た。
*「あの手
紙
は 親 切の押 し売 りだ な……
」、
初め て訪 れたH
氏 宅。
ぼ くを見たH
氏の第一
声 だっ た。
上 司 に 話 を 通 してか ら
、
ぼ くはH
氏に手 紙を書い た。
定期的 に メッセンジャー
と して伺いたい こと、
前
日に連絡
をし て体
調 を 伺い、
そ れ か ら 伺 うことな ど、
手 紙に記した。
そ の手紙
に対 す るH
氏 の 感 想 だっ た。
水 曜 日の午 前 中。
自 宅 か ら会 社 に 寄 らず 直 接 伺 うことになっ た。 *自宅
で、
ベ ッ ドの上で死 を 迎 える人 は、
いっ たい何
を想う の か……。
ぼ くは個 人 的 にH
氏 に 尋 ね た かっ た。 「あ な たに と っ て死と はなんです か ?」。
も ちろんい き な りそれ を 尋ね る わ け にはいか ない。
当 た り前であ る。
い くつかの質 問 を 考 え た。
最 初の質 問 は 「編 集 者と はなん で すか ?」。 *H
氏
の自宅
に は、
6
月 半 ば か ら 師 走の半 ば 頃 まで、
毎
週水
曜繍
鞭
∵ ∵
鉱
鰾
日の
午 前 中
に伺っ た。
会 社
か ら の伝 言
や 書 類 が な くて も、
あ るい はH
氏
か ら会社
に伝
え る、
ある いは手渡
す書類
な ど な くて も、
当 日 の 朝 に 体 調の確
認の連 絡
を し、
伺
っ た。H
氏
は12
月 半 ば に 容 態 が 悪 化 し た が、
数え年で50
歳の 正月を向
か え、
そ の月の終
わ り に 亡 くなった。
葬 儀 の 朝 は、
東 京 は何十 年
ぶ りと い う大 雪 が 降っ た。
今でも 雪 が 振ると金 沢 生 ま れ だっ たH
氏を 思い出 す。
あ るシ
ー
ン。H
氏 宅
の2
階居 間
。 身体
を 起こ して、
ベ ッ ドに 何 枚か の 写真
を並べ、
そ れ を か わ るが わる手に取 りな が めてい るH
氏
。H
氏
の肩越
しから奥
さ ん がそ の写真
を 見て いる。
「こ の写 真の ほ う が い い じ ゃ な い」、
奥
さ んが 話 す。
「お 前 はセ ン ス が ない。
これのほ う がい い に決
まっ て い るだろ う」 「そう ? でも やっ ぱ りこっ ち じ ゃ ない ?」。
ぼく は そ ん な 二 人 の や り と りを 苦 笑 しな が ら 聞いていた。
写 真 は、
ぼ くの友 人のカ メ ラマ ンの作 品。
ヨー
ロッパ の風 景 と 人 々 を 写 したモ ノクロの写 真。
H
氏の選んだ1
枚
を オリジナ ルプリ ント に してプ レゼン トす るつも りだっ た。
や がて奥 さ ん は 写 真 を 選ぶこと に 飽 き たのか、
隣の部 屋で新聞
を広 げ
、
読
みは じ め た。H
氏 は ま だ 広 げ た 写 真 を な が めてい る。
ぼく は、
ベ ッ ド の 足 元 の畳の上に大 型 本 を 広 げ、1
ペー
ジ1
ペー
ジ括 り
つづ けて い る。
そ の本
は、
H
氏の友 人 が 数 日 前 に 届 けてく れた と い う、
あ る前 衛華
道家
の作 品集
。
H
氏 が 「見て みな」 と今 朝いっ て く れ た のだ。
そ れ ぞ れが まっ た く
別
なこ とをしな がらも、
それでも 互いに どこかで つ な がっ て い る こ とが わ かっ て い て、
といっ ても そ ん なこ と は お くびに も出
さ ず、
そん な 素 振 りも まっ た くみ せ ず、
ただ、
解
け合っ て い るような、
そん な 静 か な 時 間 だっ た。
*そ の質 問を いつ し た の か
、
覚
え て いない。
も ちろん 伺いは じ めて しば
ら く経
っ た 頃にま ち がいないが、
そ れ がい つ頃 だっ た か は まっ た く覚
えて いな
い。おそらく唐 突な
質
問 だっ た のだろ う と 思 う。
あ ま りに青 臭 く、
ダ
イレク トす ぎて、
今
思う ど セ ン ス’
のか けらも ない問い で あ る。
「
編集 者
って、
な んです か ?」H
氏は まっ た く考
え る こ と もなく、
言い よ ど むこと も な く、
ひ と言、
ある言葉
を 口 に した。 「あ あ、
そ う な ん で す か……
」。
H
氏の答
え に、
そ んな返事
を 返 し たことだ け は 覚 えている。
H
氏 が 亡 く なっ た後
も何
か の ときに、
ふとH
氏の その答 え を 思い出 した。
答え が な ん と な く しっ くりこな かっ た。
とい う よ り、
腑 に 落 ち な かっ た。 と い うよ り、
正直
、
そ の言 葉の意 味が わ か らな かっ たの だ と思う。 *50
デザイ ン学研 究 特集 号Special lssueofJapaneseSocletyf 〕rtheScienceofDes 「gn VDI