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修士論文の和文要旨 研究科 専攻大学院情報理工学研究科情報 通信工学専攻博士前期課程 氏名長岡俊男学籍番号 論文題目 軌道の視覚的フィードバックによって 綺麗なジャグリングを支援するシステムの構築 要 旨 本研究では, ジャグリングにおけるディアボロを題材とし, 練習動画から軌道の視

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修 士 論 文 の 和 文 要 旨 研究科・専攻 大学院 情報理工 学研究科 情報・通信工学 専攻 博士前期課程 氏 名 長岡 俊男 学籍番号 1331073 論 文 題 目 軌道の視覚的フィードバックによって 綺麗なジャグリングを支援するシステムの構築 要 旨 本研究では,ジャグリングにおけるディアボロを題材とし,練習動画から軌道の視覚的フィー ドバックがおこなえるシステムを作成した.システムではOpenCV の色認識によってディアボロ の位置を取得し,その軌道を描画することに成功した.また,Kinect による骨格の認識を利用し て関節部位の軌道描画も実現した.その他に,距離情報を用いた奥行き表示,速さによる描画色 分け機能も実装した. そして,このシステムを使って実際に被験者実験をおこなった.7 人のジャグリング経験者に 協力してもらい,練習・フィードバックを繰り返す実験をおこない,実験中の練習内容や発話内 容,システムの使い方,実験後のアンケートから考察を行った.結果として,システムのフィー ドバックについて使用感の良さを評価させたところ,5 点満点中平均 4.7 点の高評価を得た.こ のことから,システムの有用性については一定の評価を得た.しかし,奥行き表示での道具の位 置取得において被験者の要望が満たせないなど,システムの精度の問題も明らかになった.また, 本システムによって「想像していた動きと実際の動きが異なること」,「できない技の問題点」,「修 正した動きが無意識のうちに元に戻ってしまっていること」などに対する気付きを促すことがで きることが確認された.特に「想像していた動きと実際の動きが異なること」については,思っ ていたより良い場合・悪い場合があることがわかり,綺麗さのみに収まらず技の派手さについて の気付きも促していることがわかった.システムの使い方については「問題を表面化させるため に確認する」,「綺麗にするために動きを改善する」,「できない技を成功させようと動きを改善す る」,「その他・新しい動きを開発する」などのために使われていることがわかった.被験者全員 の発話・アンケートの中に「綺麗さ」に関する言及が見られ,「綺麗なジャグリング」を意識させ る支援に成功した.これらのことから,軌道を描画することでより学習者の中の運動イメージに より近い映像をフィードバックできている可能性が示唆された.

(2)

平成

26

年度 修士論文

軌道の視覚的フィードバックによって

綺麗なジャグリングを支援するシステムの構築

電気通信大学 情報理工学研究科

情報通信工学専攻 コンピュータサイエンスコース

学籍番号

1331073

氏名

長岡 俊男

主任指導教員 伊藤 毅志 助教

指導教員

角田 博保 准教授

提出日 平成

27

年度

3

6

(3)

目 次

第 1 章 はじめに 3 1.1 本研究の背景 . . . . 3 1.2 本研究の目的 . . . . 3 1.3 本論文の構成 . . . . 4 第 2 章 関連研究 5 2.1 熟達に関する研究 . . . . 5 2.2 ジャグリングに関する研究 . . . . 6 2.3 動画からの情報を処理してフィードバックする研究 . . . . 6 第 3 章 ジャグリング 8 3.1 ジャグリングの定義 . . . . 8 3.2 ジャグリングにおける綺麗さ . . . . 8 3.3 本研究におけるディアボロの位置付け . . . . 9 第 4 章 Kinect 10 4.1 Kinect の概要 . . . . 10

4.2 Kinect for Windows と SDK . . . . 10

4.3 Kinect で取得できるデータ . . . . 11 4.4 Kinect Studio . . . . 11 第 5 章 提案システム 12 5.1 設計方針 . . . . 12 5.2 システム構成 . . . . 12 5.2.1 OpenCV . . . . 13 5.3 機能説明 . . . . 14 5.3.1 道具の認識 . . . . 14 5.3.2 軌道描画 . . . . 15 5.3.3 速度による色分け . . . . 17 5.3.4 奥行き表示 . . . . 17 5.3.5 ノイズ除去 . . . . 18 5.4 操作方法 . . . . 19 5.5 実行例 . . . . 20

(4)

5.6 開発/動作環境 . . . . 23 5.6.1 ハードウェア . . . . 23 5.6.2 OS . . . . 23 5.6.3 開発環境 . . . . 23 第 6 章 実験 24 6.1 目的 . . . . 24 6.2 方法 . . . . 24 6.3 結果 . . . . 29 6.3.1 アンケートによるシステムの評価 . . . . 29 6.3.2 気付きに関する発話 . . . . 29 6.3.3 アンケートによる各機能に関する評価 . . . . 32 6.4 考察 . . . . 34 6.4.1 システムの有用性 . . . . 34 6.4.2 本システムが促した気付き . . . . 35 6.4.3 システムの使い方の傾向 . . . . 37 6.4.4 綺麗なジャグリングの支援 . . . . 41 第 7 章 おわりに 44 7.1 結論 . . . . 44 7.2 今後の課題,展望 . . . . 44 謝辞 46 参考文献 47 付録 i 付録 A 実験後アンケート . . . . i 付録 B アンケート回答 . . . . iii

(5)

1

章 はじめに

1.1

本研究の背景

近年,ジャグリングと呼ばれる曲芸が一般に広まりを見せている.それに伴い,ジャ グリングでのパフォーマンスを競い合うコンペティションの数も増えている.そのため, 難易度の高い技を習得することがジャグリングパフォーマーたちのモチベーションとなっ ているケースが多い.しかし,その高難度な技の習得に傾倒しすぎることで,技におけ る「綺麗さ」というものが疎かになってしまうことがある.この「綺麗さ」とは,技にお ける道具や身体部位の軌道,技をおこなっている最中の姿勢等であると考えられる.日 本最大のジャグリング大会である Japan Juggling Festival のチャンピオンシップにおい ても,審査基準の 1 つに「完成度・ジャグリングのフォーム」という項目がある [1].こ のことからも,魅せることが目的であるジャグリングにおいては,技の難易度だけでな く操る道具の軌道や,身体の動かし方の美しさが重要であることがわかる.その他にも, 効率の良い体の動かし方で実現された綺麗なフォームでの技は,怪我や事故を防ぐため にも有用である.このことは他のスポーツでも言えることである. そういった「綺麗さ」を見失いがちな原因の一つとして,自身がイメージしている体 や道具の動きと,実際のそれらの動きがズレていることに気付いていないことが挙げら れる.こうした問題は,運動の不感性,すなわち客観的に観察される動きと運動実施者 が意図していることとは異なることが多いという問題として認識されている [2].ジャグ リングにおいて技の成功の判断は容易で,道具を落とさないことが主な成功要因である. それに比べて道具や体の動きというのはカメラで撮影して見ることは可能でも,動きそ のものを視覚的に確認することは難しい.そういったことから,動きが綺麗であること やイメージ通りであることを確認する方法は,直感的な感覚であったり経験から判断す る他ないのが現状である.

1.2

本研究の目的

今回は,ジャグリングの練習風景を撮影して,その動画から道具や身体部位の軌跡を視 覚的にフィードバックできるようなシステムの構築を目指した.本システムの目的は技 そのものの習得ではなく,学習者の実際の道具の軌道やフォームをフィードバックして学 習者が理想とするそれらと比較することで,学習者にメタ認知的な気付きを促すことで ある.実験では実際に本システムを用いて練習をおこなってもらい,システムの有用性

(6)

や促すことができた気付きについて考察をおこなう.そして,学習者が本システムを用 いてどのようにフィードバックをおこなっていくかという過程について考察をおこなう.

動画の撮影や身体部位の抽出・追跡は Microsoft 社の Kinect for Windows を,道具の抽 出には画像処理向けライブラリである OpenCV[3] を利用する.今回は題材として,ジャ グリングのディアボロという道具を用いた.ディアボロはお椀を 2 個つなげたようなもの を,2 本のスティックに通した紐で回転させることで安定させて操る道具である (図 1.1). 図 1.1: ディアボロ

1.3

本論文の構成

本論文の構成を以下に示す. 第 1 章 本研究の背景,目的,本論文の構成について述べる 第 2 章 関連する研究について述べる 第 3 章 ジャグリングについて述べる 第 4 章 Kinect というセンサーについて述べる 第 5 章 本システムの仕様や構成について述べる 第 6 章 各実験の目的,方法,結果について述べ,考察をおこなう 第 7 章 本研究の結論と今後の課題について述べる

(7)

2

章 関連研究

2.1

熟達に関する研究

運動技能の習得過程において,Adams(1971) の閉回路理論 [4] や Schmidt(1975) のス キーマ理論 [5] では,運動イメージが重要な役割を果たしているとされる.運動イメージ の中身としては,視覚的・聴覚的・筋運動感覚的な 3 つのイメージが考えられ,運動技能 習得の過程において視覚的・聴覚的イメージを筋運動感覚的なイメージに繋げることが 重要なポイントとされる.そのため,学習者の運動遂行状況に対する効果的なフィード バックが必要となる. さらに,杉原は 2003 年に筋運動感覚的イメージと実際の動きの不一致について,運動 の不感性という問題として認識されているとした [2].特に星野は 1992 年に,動きを学ぶ 人は「自分の身体をこれからこのように動かそうとする努力の予期感とか,今このように 身体を動かしているという努力感を知的な理解でなく感覚的なものとして実感する」と 述べている [6].このことから,学習者の運動イメージが実際の動きの中で動作遂行の手 掛かりになっていることが多いということが指摘されている.これを受けて北村は 2011 年に,「連続する動きの学びを考える際には,顕在的な動作結果と,潜在的な動作意識の 両側面から(あるいはその隔たりに足場かけをすることで)自らの動きの学びに結びつ ける情報を作り出すことが重要である」と述べている. 本研究では,動画や鏡では視覚的に感じ取りづらい道具や関節の軌道を,システムに よって学習者にフィードバックした.これは,学習者の中にある「ディアボロや体がこ う動いているはずだ」というイメージと,実際のそれらの動きとを比較させることを手 助けすることが目的である. また今回目標としている「綺麗さ」というものは,学習者自身が理想としている動き と現状の動きの違いに関して,本人が気付きを得て改善していく必要がある.2005 年に 諏訪は,従来の初心者と熟達者を比較して違いを明らかにする研究ではなく,学習者が 習熟していく過程を明らかにする研究の重要性を示唆した [8].学習者にとって重要なの は,学習者が上達するために必要な要素の発見や過程であり,外部観測によって構築で きる“ 分析の理論 ”ではなく“ 行為者の理論 ”が明らかになるべきだと述べた. 本研究でも,軌道の綺麗な人とそうでない人を比較することで違いを明らかにするの ではなく,学習者本人が理想としている動きと実際の動きを比較することを支援するシ ステムとなっている.このシステムを用いた実験を解析することで,学習者が綺麗な動 きを目指すために本システムをどのように使うのか,何を明らかにして何を改善しよう

(8)

としているのかという点についても考察をおこなう.

2.2

ジャグリングに関する研究

2010 年に田中らは身体知の研究の一環として,ボールジャグリングの学習過程の分析 をおこなった [9].身体知とは自転車の乗り方のような「身体が知っている・覚えている こと」である.その身体知の形成過程の分析を調べるために,カスケードという基本的 な技の成功回数やボールの軌跡の変化を分析した.結果,習得が進むとボールの投げ上 げの高さや落下点が一定の位置に集まり,軌跡はコンパクトに収まるという傾向が見ら れた. この研究を受けて,2013 年に大平らはボールジャグリング習得過程の客観的な分析を 目的として,同様の技をカメラとバランスを検知する台によって分析した [10].結果,さ らに習得が進むと重心動揺が小さくなる傾向が見られた.そして大平らはボールの軌跡 や重心動揺の変化から,学習者を初心者・中級者・熟達者に分類できるのではないかと 示唆した. これらの研究はボールジャグリングの習得過程そのものについて考察したものであり, 本実験の学習支援という目的とは合致しない.しかし,学習者の習熟度の判断や発話の 内容から参考にできる部分が多く存在すると考えられる. 2014 年に磯部らは,ボールジャグリングをおこなっている動画からサイトスワップと いう技の種類を判定するシステムを作成した [11].色分けしたボールの位置を画像解析に よって取得し,身体からの相対的な位置によって技の判定をおこなった.結果,実施し た 37 個の技のうち 16 個の技の判定に成功したとしている. 卒業研究として長岡らは,コンピュータでジャグリングの技を正確に自動判定するこ とを目的としたシステムの構築をおこない,2013 年に修士でそれを改良したものを発表 した [12].技をおこなっている間の関節の動きに関する 3 次元データを Kinect によって 取得してデータベース化し,判定時に関節ごとにマッチングすることで実現した.道具 はディアボロを用いたが,この研究ではディアボロの位置検出はおこなわなかった.

2.3

動画からの情報を処理してフィードバックする研究

より正確に自身の運動遂行状況を把握するため,動画による視覚的フィードバックが 有用とされている. 2.1 節で述べたような運動の不感性の問題がある中で,佐藤らは 2011 年に舞踏教育に モーションキャプチャを活用することで新たな「気付き」や「理解」が得られることを明 らかにした [13].この研究ではモーションキャプチャによる CG で学習者にフィードバッ クをおこなっており,実際の舞踏を見るのに比べ,情報が削られていることが学習者へ

(9)

本研究でも学習者へ与えた気付きについて考察し,気付きが得られた理由について明 らかにしていく. 動画から道具の軌道を抽出した研究には,2008 年に佐川らがおこなった装着型センサ による野球の投球フォームの推定に関する研究や,2012 年に熊田らがおこなったゴルフ スイング時のグリップの軌道追跡に関する研究がある [14][15].しかしこれらの研究は, システムによって抽出した軌道がどれだけ現実のものと近しいかという点のみが語られ ており,そのシステムを使った学習で学習者にどのような影響があるかということにつ いては言及していない. 本研究では軌道を抽出できるシステムを作成し,実際にそれを使って学習者がどのよ うに練習を進めていくかという点について詳しく考察していく.

(10)

3

章 ジャグリング

3.1

ジャグリングの定義

かつてジャグリングとは,複数の物を空中に投げ,それを取るという動作を繰り返し, 常に 1 つ以上の物が浮いている状態を維持し続ける技術を指してきた.しかし,近年の ジャグリング人口の増加や道具のバリエーションの増加に伴ってその意味は拡大され,現 在は一概に「投げる・取る」だけの定義では表現することが難しくなっている. 一般的にジャグリングで用いられる代表的な道具には,ボール,クラブ,リング,ディ アボロ,デビルスティック,シガーボックス,ポイ等がある.ボール,クラブ,リングは 前述の通り「投げる取る」を主とする道具であり,ジャグリングの中でも「トスジャグリ ング」と呼ばれる技術である. ディアボロは中国ゴマとも呼ばれ,お椀を 2 個つなげたような道具を 2 本のハンドス ティックに通した紐で回すことにより安定させ,操る道具である.デビルスティックは両 手に持った 2 本のハンドスティックでセンタースティックという細長い棒を叩くことによ り,センタースティックを浮かせる,回す,飛ばすなどして操る道具である.シガーボッ クスは 2 個の箱で 1 個以上の箱を挟んで持ち,箱を入れ替えたり投げたりしつつ落とさ ずに操る道具である.ポイは紐の先にボールのような球がついており,両手に 1 個ずつ 持って回すことによりその軌道を操る道具である.これらの他にも,水晶やボールなど を体から離さずに浮いているように見せたり意のままに動かすコンタクトジャグリング, 高反発のボールを使い,投げ上げるのではなく地面に叩きつけて跳ねかえってきたとこ ろをキャッチするという動作を繰り返すバウンスジャグリングなども存在する.ジャグリ ングの世界においてこれらの「投げない」道具も,ジャグリングであると認識されてい るのが現状である. 現代において,ジャグリングの定義を 1 つに絞ることは難しいが,「道具を用いた修練 が必要な特殊な技能・芸」であったり「落とす・絡まる等のリスクを伴って道具を扱う技 術」であると考えられている.

3.2

ジャグリングにおける綺麗さ

ジャグリングには落としてはいけない・失敗してはいけないというリスクが伴うもの が多い.そのようなリスクを意識しすぎると,技自体は成功するものの綺麗さや見せ方

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より小さくしたり,結果的に歪になってしまっているような状態である.こういった事 態を防ぐために,普段から自分の演技をカメラで撮影して見直したり,簡単な技であれ ば鏡で確認しつつ練習するというフィードバックが一般的である.

3.3

本研究におけるディアボロの位置付け

ディアボロはお椀を 2 個繋げたようなものを,2 本のスティックに通した紐で回転させ て安定させて操る道具である.ディアボロはボールやシガーボックス等と違い,道具を 直接的に操作するのではなくスティックと紐を介して間接的に操作するため,思ったよう に動かせないことがある. また,ここ数年でディアボロ専門の大会が多く開かれるようになったり,それに伴い 多くのトッププレイヤーによる新たなディアボロの開発・発売がおこなわれたりと,ジャ グリング界においてもディアボロは今なお人気な道具であると言える. 以上のことから,本研究ではディアボロを用いて実験をおこなうこととした.

(12)

4

Kinect

4.1

Kinect

の概要

Kinect とは Microsoft 社が発売している,家庭用ゲーム機用のコントローラーである. Kinect はハードウェア機能として RGB カメラ,距離カメラ,4 つのマイクアレイ,チル トモーターを持っている.この中でも特に距離カメラを使用して,Kinect ではプレイヤー の認識,プレイヤーの骨格認識が可能である.骨格を認識,追跡することによってプレイ ヤーの動きを 3 次元データとして知ることができる.Kinect の大きな特徴は,身体にマー カー等のセンサーを付けることなくこれらのデータを比較的手軽に取得できる点である. そのため今日では Kinect はゲームコントローラーとしての枠を超え,研究やアミューズ メント利用としても世界中で広く活用されている. 図 4.1: Kinect 本体

4.2

Kinect for Windows

SDK

前節のような Kinect を研究に用いる流れから,Microsoft 社は Windows で開発できる SDK,Kinect for Windows SDK を 2012 年 2 月にリリースした.これによって,Kinect の すべての機能がコンピュータから利用可能になった.正式版の SDK のとともに Windows 用の Kinect である Kinect for Windows が発売された.これにより,本来コンピュータ用 ではなかった Kinect であったが,Windows PC への接続がサポートされた Kinect も入手 が可能となった.今回の実験で使用したのはこの Kinect for Windows である.

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4.3

Kinect

で取得できるデータ

Kinect では以下のデータを取得できる. • RGB カラー画像(撮影画像) • 深度画像 • プレイヤーのインデックス(認識した人間に割り振った識別番号のこと) • 人間の関節位置 20 箇所 – 頭 – 両肩とその中心 – 両肘 – 両手首 – 両手 – 脊椎 – 両股関節とその中心 – 両ひざ – 両かかと – 両足 • 音声 • 音源位置 Kinect センサーは最大 6 人までを同時に識別することができる.そのうち 2 人の関節 を同時に追跡できる.

4.4

Kinect Studio

Kinect では公式から提供されているツールの中に Kinect Studio というものがある. Kinect Studio は録画機能を持ったツールであり,Kinect によって取得できる RGB 映像 と深度情報を記録して映像として保存し,再生することが可能である.

(14)

5

章 提案システム

5.1

設計方針

ジャグリングの練習動画に情報を付与し,綺麗な演技の習得を支援するシステムを目 指した.付与した情報は,道具の軌道・8 つの関節の軌道・道具の速度による色分け・奥 行き情報である.奥行き情報とは,要は「体を上から見た時の体・道具・両手の相対的な 位置情報」である.道具や関節の軌道描画の間隔は可変にし,軌道は同時に複数描画で きるようにした. これらの機能については 5.2 節で,また 5.3 節で機能別に分けて実装法も含めてさらに 詳しく説明する.

5.2

システム構成

本システムの開発は C#でおこなった.システム構成の概略図を図 5.1 に示した. 動画の撮影には Kinect を用いた.Kinect によって,実際の映像である RGB 画像・画 面内の人間を認識して関節の位置等が取得できるスケルトン情報・画面内の各ドットに 対する Kinect からの距離情報が得られる. 道具の軌道描画のために,RGB 画像から OpenCV の 2 値化による色認識で画面内の道 具の位置を取得する.得られた道具の位置を用いて,映像に道具の軌道を描画する.関 節の軌道描画についても同様にして,Kinect によって得られたスケルトン情報から画面 内の各関節の位置を取得して描画する. また,奥行き情報の表示のために距離情報を利用する.道具の軌道描画のための過程 で得られた画面内の道具の位置と,画面内のドットの距離情報を照らし合わせることで, 認識した道具までの距離情報が得られる.この情報とスケルトン情報から得られた各関 節の距離情報を組み合わせて,胴体・両手・道具の相対的な位置関係を上から見たよう なものを表示する.

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図 5.1: システム構成図

5.2.1

OpenCV

OpenCV(Open Source Computer Vision Library)はインテルが開発・公開している オープンソースのコンピュータ・ビジョン・ライブラリである [3].このライブラリには 画像処理や構造解析,パターン認識など,画像や動画を扱うための様々な機能が実装さ れている.また,BSD ライセンスで配布されていることから,学術用途や商業目的で幅 広く利用されている.

(16)

5.3

機能説明

本システムで実装した各機能について詳しく説明する.

5.3.1

道具の認識

Kinect によって得られた RGB 画像から,OpenCV の機能を使い道具の位置を検出した. Kinect の RGB カメラからは映像として 640 × 480pixel の画像が取得できる.画像の 各ピクセルには RGB 値と α 値の計 4 つの値が配列として格納されている.RGB 値はそ れぞれ 0∼255 の値をとり,その 3 つの値の組み合わせですべての色が表現されている. 例えば,赤色は (R, G, B) = (255, 0, 0),緑色は (R, G, B) = (0, 255, 0),青色は (R, G, B) = (0, 0, 255),黄色は (R, G, B) = (255, 255, 0),白は (R, G, B) = (255, 255, 255),黒は (R, G, B) = (0, 0, 0) である.この 3 つの値についてそれぞれ閾値を設定することによって,赤い道具・ 青い道具・緑色の道具を検出する. まず得られた RGB 画像を OpenCV で処理できる形へ変換する.この変換によって,も ともと RGB 値と α 値の計 4 つの値が 32byte で格納されていた配列から,α 値を除いた 24byte の配列に変換される.そしてそれぞれを 8byte ずつの配列 3 つに分解し,2 値化処 理をおこなう.2 値化処理とは,設定した閾値によってそれぞれの値を一定の値に変換し, 各値の AND をとることで特定の範囲の色を検出する手法である.例えば赤色を検出する 場合は, • R 値が 100 以上の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • G 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • B 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 という条件で 2 値化をおこなう.すると,上記の赤色は (255, 255, 255),緑色は (0, 0, 255), 青色は (0, 255, 0),黄色は (255, 0, 255),白色は (255, 0, 0),黒色は (0, 255, 255) となる.こ の中で唯一,赤色だけがすべて 255 になっているので,AND 処理をすると赤色が 255,そ れ以外は 0 となる.実際には光の当たり具合やカメラとの距離によって本来の色と異な る値で取得されることがあるが,2 値化であればある程度の範囲を設けて処理するので, 一定の色値を指定して取得するより効率よく認識ができる. 2 値化処理によって道具とそれ以外の部分が明らかになるので,道具の部分の重心を求 めてその点を道具の位置とした.OpenCV の機能で,2 値化画像から重心の座標を求める ことができる. 図 5.2 の右画面が,赤色を検出している時の 2 値化画像を出力している様子である.赤 色の部分が白く,それ以外の部分が黒くなっていることがわかる.また,重心の座標を 計算して左画面ではもとの RGB 画像に緑色の点を,右画面にはその重心を中心にした白 い円が表示されている.

(17)

図 5.2: 赤色を認識した時の 2 値化画像 (右画面) と得られた道具の位置 (左画面:緑の点) 今回は上記の手法で道具を認識することとし,赤・緑・青色の道具を使って位置の検 出をおこなうこととした.基本的に赤色を検出する場合は上記の条件で,緑色を検出す る場合は, • R 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • G 値が 100 以上の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • B 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 という条件で,青色を検出する場合は, • R 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • G 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • B 値が 100 以上の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 という条件で認識をおこなった.なお,デフォルト状態ではこれらの設定であるが,閾 値は実行画面で 0∼255 の範囲で変えられるようにしている. また,実際には 2 値化処理と重心計算の間に,ノイズ除去の処理をおこなっている.ノ イズ除去については 5.3.5 節で説明する.

5.3.2

軌道描画

5.3.1 節で述べた方法で得られた座標や,Kinect の機能で得られた関節の座標を用いて, 動きの軌道を描画した.図 5.3 は軌道描画に関するフローチャートである. 得られた座標をもとに,まずその座標に点を描画する.そして正しく座標が取得され ていれば,1 つ前の座標と今得られた座標を繋ぐ線を描画し,今回の座標を保存する.正 しく座標が取得されていない場合とは,色認識で何も認識していない状態や,Kinect に

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よる人間の認識が成功していない状態である.途中で座標がうまく取得できない状態に なった場合はその値は保存しないため,最後に正しく座標が取得された値が保持され続 け,次に正しく座標が取得された時に線の始点として使われる. これをフレームが更新される度に繰り返すことで,道具や関節の軌道の描画を実現し ている. 道具の軌道はデフォルトで緑色,関節の軌道はデフォルトで赤色で描画される.描画 色は変更が可能で,赤・橙・黄・緑・青・紫の 6 色から選ぶことができる. 図 5.3: 軌道描画のフローチャート

(19)

5.3.3

速度による色分け

軌道の描画において,速さによって色を変化させるようにした. 速さの判定には軌道の線の長さを用いた.線を描画する際の座標間の距離を計算し,そ の距離が長ければ長いほど線の色が白くなるようにした. なお,この機能は道具の軌道のみに適用可能であり,また道具の軌道を緑色で表示し ている場合のみ機能する.

5.3.4

奥行き表示

奥行き表示とは,Kinect によって得られる距離情報を用いて,学習者を上から俯瞰し たときの体・両手・道具の関係を相対的に表示するものである. Kinect から道具までの距離については,5.3.1 節で得られた画面内での座標と,Kinect によって得られる距離情報を組み合わせることで取得する.Kinect からは RGB 画像と同 様に 640 × 480pixel の各ピクセルについて距離データを格納したデータが取得できる.た だし,実際には 320 × 240pixel を拡張したものである.この距離データと画面内の道具の 座標を照らし合わせ,道具の距離情報を取得する.体と手の距離情報については,Kinect から得られる関節のデータに含まれているためその値を使用する. 得られた距離情報をもとに,動きを俯瞰したような表示をおこなう.まず体を中心と して手と道具の値(距離情報と x 値)を正規化する.そして体は緑色の円,両手は赤色 で体より少し小さめの円,道具は白色のディアボロのマークで,上が前になるように表 示した. 図 5.4 はサンという技をおこなっている際の奥行き表示の例である.サンは,両手に 持っているスティックを軸にディアボロを大きく 1 周回すように動かす技である.これは 右手が大きく前に出て,左手が横にあり,その間にディアボロがあるように表示されて いる. 図 5.4: 奥行を表示した実行例

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5.3.5

ノイズ除去

5.3.1 節で得られた 2 値化画像をそのまま使うと,ノイズが多く正しい道具の位置が認 識できないことがある.図 5.5 の左画面は,図 5.2 の 2 値化画像からノイズを除去しない 場合のものである.これを見ると,赤色のディアボロ以外にも小さな点を多く取得して しまっており,重心を用いた円の位置もディアボロからずれていることがわかる.この 問題を解決するため,ノイズ除去をおこなった. 図 5.5: そのままの場合(左画面)とノイズを除去した場合(右画面)の 2 値化画像 図 5.6 はノイズ除去のイメージ図である.ノイズ除去には OpenCV の縮小と膨張とい う機能を使う. まず得られた 2 値化画像に縮小という処理をおこなう.これはターゲットとなるピクセ ルが黒いピクセルと接している場合は,自身を黒に置き換えるという処理である.結果 として,塊では周りのピクセルが削れて,小さなノイズは自身が削れて無くなる.それ に対して膨張とは,逆にターゲットとなるピクセルが白いピクセルと接している場合に, 自身を白に置き換えるという処理である.結果として,塊の周りのピクセルが膨らむよ うに増加する.これらを組み合わせることで,小さなピクセルはノイズとして除去され, 大きく認識されたピクセルの塊は維持される.当然,認識された塊は元通りにはならな いことが多いが,重心の計算はノイズ除去前よりそれらしいものとなる. ノイズのサイズが大きい場合は縮小の回数を増やし,同じ回数だけ膨張の処理をおこ なうことで除去できる.この回数が増やせば増やすほど大きなノイズを除去できるが,そ れだけ本来認識したかったものの形が歪になってしまうため,縮小・膨張は最低限の回 数に留めておくべきである.本システムでは 2 回ずつに設定した. 図 5.6: ノイズ除去のイメージ

(21)

5.4

操作方法

実行画面フォームの説明画像を図 5.7 に示した. 図 5.7: 本システムのフォーム解説 1 ⃝ の画面に Kinect によって得られた映像と,道具や関節の軌道が描画される.⃝ では2 道具を認識する場合の色の選択と,RGB 値の指定ができる.⃝ では道具と関節の軌道描3 画の ON/OFF が切り替えられる.また,軌道描画時間を 0.1∼10 秒間で 0.1 秒間隔で指 定することができる.現在描画している軌道のリセットも可能である.⃝ では奥行きが4 表示される.練習者を俯瞰したような映像で,体の中心が緑,両手が赤,道具が白のディ アボロのマークで表され,上が前として表示される.⃝ では奥行き表示・色の選択・ノ5 イズ除去・速さの色分けの ON/OFF を切り替えられる.⃝ では色の選択を ON にした場6 合のみ,次に選択した描画物の色を指定できる. 道具の軌道を描画する場合は,⃝ の「Tool Track」を ON にすれば良い.色を変える3 場合は⃝ の「Red」「Green」「Blue」の中から選ぶことで変えられる.関節の軌道を描画2 する場合は,⃝ の「Joint Track」を ON にするとその下の 8 つの関節が選択可能となる3 ので,描画したい関節を ON にすれば良い.色を指定して軌道を描画する場合は,上記 の設定を ON にする前に⃝ の「色の選択」にチェックを入れ,5 ⃝ で描画したい色を指定6 すれば良い.速さの色分けをおこなう場合は,⃝ にて「速さ色分け」にチェックをす入5 れれば良い.なお,これで色分けできるのは道具の軌道のみである.奥行きを表示する

(22)

場合は,⃝ にて「奥行き表示」にチェックを入れれば良い.5

5.5

実行例

システムを使用した際の実行画面を図 5.8∼5.10 に示した.それぞれ図 5.8 は道具の軌 道描画・奥行き表示を ON にした実行画面,図 5.9 は道具と右手の軌道描画・速さによる 色分けを ON にした実行画面,図 5.10 は右手と左手の軌道描画を ON にした実行画面で ある. 図 5.8: 道具の軌道と奥行を表示した実行例

(23)
(24)
(25)

5.6

開発

/

動作環境

5.6.1

ハードウェア

開発環境 • 64 ビットプロセッサ • 4 コア 3.30GHz • RAM: 8.00GB 動作(実験)環境 • 64 ビットプロセッサ • 4 コア 2.30GHz • RAM: 4.00GB

5.6.2

OS

• Windows 7

5.6.3

開発環境

• Microsoft Visual C# 2012 Professional • Microsoft .NET Framework 4.5

(26)

6

章 実験

6.1

目的

ジャグリングの練習動画から,道具や関節の軌道・奥行き,速さを表示できるシステ ムを作成し,その有用性を明らかにする.また,その際に学習者が本システムを使って, どういった点に着目し,どのように改善していくかという過程についても考察をおこな う.以上の 2 点が,本実験の目的である.

6.2

方法

本実験の流れを図 6.1 に示した.実験の始めに,被験者に本実験の大まかな流れとシス テムについて説明をおこなった.説明の内容は以下の通りである. • システムの紹介 – 道具と関節の軌道が描画できる – 軌道描画の時間幅は 0.1∼10 秒の間で調整できる – 軌道描画の色は変更できる – 道具の軌道描画は速さによって色分けができる – 道具・関節の軌道描画は同時にいくつでも表示できる – 奥行き表示で自分を俯瞰したイメージが確認できる • 本システムを使って普段通り練習をしてもらう • 練習中に任意のタイミングで本システムによるフィードバックをおこなう • 見たい軌道等も被験者が任意に決められる • フィードバック時の録画映像の再生やシステムの操作は筆者がおこなう • 練習中はなるべく考えていることを発話するよう努めてもらう • 30∼40 分程度を目安とし,任意のタイミングで練習を終了して良い • 練習後はアンケートに記入をしてもらい,その後で口頭質問にて詳しく話を聞く この説明を終えたら,被験者には練習に入ってもらう.

練習中の映像を Kinect によって撮影し,Kinect Studio によって録画する.被験者から 自分の映像を確認したいという旨の発言が出たら,練習をストップして映像によるフィー

(27)

図 6.1: 実験の流れ の表示は確認するか等は被験者が任意に決められることとした.何も描画せずに,ただ の映像を見ることも可能である.フィードバックが終わったら,被験者は練習に戻るか 練習を終了するかを選ぶことができる. 上記のことを繰り返し,被験者から練習を終了したいという旨の発言が出たら,練習 を終了してアンケート記入に移る.アンケートの内容は以下の通りである(アンケート 用紙については付録 A を参照). • 性別・年齢 • 基本的な質問 – ジャグリング歴 – 普段使用している道具 – 練習頻度 • 普段の練習に関した質問 – 普段のフィードバック法(動画・鏡・人に見てもらう・その他) – 普段目指している演技 – 普段の練習中に知りたいと思う情報

(28)

• 本システムについての質問 – システムによるフィードバックについて ∗ システムの使用感の良さ(5 段階) ∗ 道具の軌道描画について ∗ 関節の軌道描画について ∗ 奥行きの表示について ∗ 速さの色分けについて ∗ その他の機能について ∗ こういったシステムがあったら使いたいか – システムにどういった機能が欲しいか – システムの仕様前後で自身の中で変わったこと このアンケート回答後,練習中の発話やアンケート内容について詳しく口頭で質問を おこない,実験終了とした. 道具はディアボロ(ソアリン ハードタイプ グリーン [18])を用意し,スティックにつ いては被験者に持参してもらった.緑色のディアボロを使用した理由は,赤色・青色の 道具より誤認識が少なく最も正しく位置を認識できたためである.スティックを持参して もらった理由は,こちらで用意したものを使わせることで普段通りの練習ができなくな ることを防ぐためである.一般的にスティックの紐の長さは練習者の身長や好みによって 異なるため,統一することは被験者にとって障害になると判断した. 被験者は電気通信大学ジャグリングサークル Passage(ぱさーじゅ)の 18 歳から 22 歳 のメンバー 7 人(男性 6 名,女性 1 名,平均 20.4 歳)を対象とした.被験者とジャグリ ング歴の一覧を表 6.1 に示した.被験者の選択は,ディアボロが操作可能であること,後 述の指定シークエンスに含まれる技ができること,の 2 点によりおこなった.被験者は 全員右利きであった. 表 6.1: 被験者の一覧 A B C D E F G 性別 女性 男性 男性 男性 男性 男性 男性 ジャグ歴 3 年 2ヶ月 2 年 9ヶ月 1 年 8ヶ月 10ヶ月 2 年 3ヶ月 10ヶ月 3 年 10ヶ月 実験は大学内の共用スペースにておこなった.実験環境のイメージを図 7.2 に示した. この場所は自主的なジャグリングの練習としてもよく使われている場所であり,本実験 をおこなうにあたってディアボロの練習ができる十分なスペースであると判断した. 本実験では,最初にこちらで指定したシークエンス(技をいくつか繋いだ流れのこと)

(29)

図 6.2: 実験環境のイメージ 際に使って慣れてもらうためのものである.シークエンスの内容と簡単な技の説明を表 6.2 に示した.指定したシークエンスの内容はどれも簡単な技であり,ディアボロを練習 した人たちがおそらく最初期に練習したであろう基本的な技を選定した.また,これら は簡単であるがゆえに道具の軌道が重要な技が多く,本実験の導入としても適切である と判断し,シークエンスとして組み込んだ. 本システムは「綺麗なジャグリング」を支援するためのシステムであるが,本実験で は被験者への説明時にこのことを伝えないようにした.本システムの真の目的は「被験 者に気付きを促す」ということであり,綺麗なジャグリングを意識させた上で実験をお こなうことは被験者に対して恣意的な誘導になってしまうと判断した.被験者協力のお 願いや実験内容の説明の際には,「本システムを使って普段通り練習して,フィードバッ クをおこなってもらう」という旨で説明をおこなった.

(30)

表 6.2: 指定したシークエンスの内容と技の説明 技順 技名 説明 1 スピードループ 紐を 1 周巻いて円を描くように動かし加速させる 2 アウトサイドインサン ディアボロを横に大きく振り,向かってくる ディアボロを両腕の間に収めるように回収する 3 インサイドアウトサン ディアボロを両腕の間から持ち上げ,外側へ 降って回す 4 オーバーヘッドサン ディアボロを横に大きく振り,体の後ろを通して 回転させて再度前へ戻す 5 ビッグサン ディアボロを横に振り,体を回転させながら ディアボロを 1 周回す 6 腕回し ディアボロを腕の周りで回す 7 足回し ディアボロを足の周りで回す 8 チャイニーズ 紐を 1 周巻いてディアボロを上下に動かし アクセラレーション 加速させる 9 エレベーター ディアボロに紐を 1 周巻いて強く引くことで ディアボロが上に登っていく 10 トスキャッチ 投げ上げたディアボロを手でキャッチする

(31)

6.3

結果

6.3.1

アンケートによるシステムの評価

被験者の一覧とジャグリング歴・実験をおこなった時間・実験後のアンケートによる本 システムの使用感について 5 点満点による評価の結果を表 6.3 に示した.実験をおこなっ た時間には,実際にディアボロの練習をしていた時間と本システムでフィードバックをお こなっていた時間の両方が含まれている.この結果を見ると,実験時間は 30 分∼40 分を 目安に終了して良いと伝えたにも限らず被験者 7 人中 5 人がそれをオーバーしても実験 をおこなっていた.システムの使用感の評価については被験者 7 人中 5 人が 5 点満点,平 均 4.7 点と高い評価が得られた.また,実験後アンケートの「こういったシステムがあっ たら使いたいか」という項目については,被験者 7 人全員から「使いたい」という回答 が得られた. 表 6.3: ジャグリング歴・実験時間・評価の一覧 被験者 ジャグリング歴 実験時間 システムの評価 (5 点満点) A 3 年 2 か月 36 分 5 B 2 年 9 か月 48 分 5 C 1 年 8 か月 30 分 5 D 10 か月 56 分 5 E 2 年 3 か月 1 時間 22 分 4 F 10 か月 48 分 5 G 3 年 10 か月 1 時間 6 分 4 平均 2 年 2ヶ月 52 分 4.7

6.3.2

気付きに関する発話

本実験において,被験者が何らかの気付きを得た際の発話を,気付きの種類に基づい て分類した.気付きは大きく分けて 3 つの種類に分類した.代表的な発話を交えつつ以 下で紹介する.

(32)

1 ⃝ 想定していた動きと実際の動きの差異に対する気付き これは,被験者自身が想像していた動きと実際の動きが異なったことに対する気付き である.実験中に得られた気付きの中で,この気付きが最も多かった.実験中に特徴的 だった発話として,次のようなものが挙げられる.   • 円じゃなくて三角形になっちゃってますね (被験者 A,スピードループについて) • もっと丸みを帯びてると思ったんですけど,思ったより細かったです (被験者 F,スピードループについて) • もっと横の楕円みたいになってるかと思ったけど,そうでもないですね (被験者 B,腕回しについて) • 意外と楕円.うん,思ったより楕円 (被験者 C,スピードループについて) • もっと下でスティック離してるつもりだったのに (被験者 E,2 ディアボロ台南ジェノサイドについて) • この技,派手にやってるつもりだったんですけど,意外に小じんまりと してるんですね (被験者 G,アラウンドザボディのマジックノットターンシーケンスについて)     被験者 A の発話は,スピードループについてディアボロの軌道を描画してフィードバッ クしている時のものである.スピードループはディアボロを安定させるために加速をか ける基本的な技である.この発話では,被験者自身は円形の軌道を描いていると思って いたが,実際は三角形の軌道になっていたことに対する驚きが表れていた.被験者 F の 発話も同様にスピードループに関するもので,自身が想定していた軌道より細い軌道に なってしまっていることに気付いたものであった.これらは「自身が思っていた軌道で なく,理想的ではない軌道になってしまっていた」という気付きである. 被験者 B の発話は,腕回しの練習についてディアボロの軌道を描画してフィードバック している時のものである.腕回しは腕の周りでディアボロを回すように動かす技である. この発話では,横の楕円になっていると本人は思っていたが,円形に近い形になっていた ことに気付いたものであった.また,被験者 B の発話は,被験者自身は楕円のスピード ループを理想としており,実際に軌道が楕円になっていることに対する気付きであった. これらは,「自身が思っていた軌道ではない,または自身は理想的ではない軌道を描いてい ると思っていたが,実際には理想に近い軌道になっていた」ことに対する気付きである. 被験者 E の発話は 2 ディアボロ台南ジェノサイドの練習について,右手の軌道を描画 してフィードバックしている時のものである.2 ディアボロ台南ジェノサイドは,2 つの

(33)

を放すことでもう 1 つのディアボロを一度浮かせ,回転してきた紐でまたそのディアボ ロを巻き取って回収する技である.この発話では,被験者自身は真下のあたりでスティッ クを手から放しているつもりだったが,実際にはもっと早く横のあたりで手を放してし まっていることに気付いた際のものであった.これは「自身が思っていた軌道でなく, 理想的ではない軌道になってしまっていた」ものであるが, :::::::::::::::::::::::::::::: 綺麗かどうかが目的ではなく ::::::::::::::::::::::: 技の成功のためのものである. 被験者 G の発話はアラウンドザボディのマジックノットターンシーケンスの練習につ いて,ディアボロの軌道を描画してフィードバックしている時のものである.マジック ノットとは,紐をうまくスティックやディアボロに巻くことで絡まっているように見える が実際には簡単にほどけるようにするトリックのことである.このトリックを,体の前後 を反転させながら繰り返して技を繋ぐのがマジックノットターンシーケンスである.こ の発話では,被験者自身は派手に見せているつもりだったが,マジックノットの紐を巻く ことに集中しすぎてディアボロの動きがおざなりになっており,自身が理想としていた ほど大きく動いていなかったというものである.これは「自身が思っていた軌道でなく, 理想的ではない軌道になってしまっていた」ものであるが,::::::::::::::::::::::::::::綺麗かどうかが目的ではな :::::::::::::::::::::::::::: く技の派手さのためのものである. 2 ⃝ 問題部分に対する気付き これは,できない技における問題部分に対する気付きであった.関連する発話に次の ようなものが挙げられる.   • 外からのサンをよくミスするんですけど,あー,これもしかしたら 手の動きが連動してないのが良くないのかな (被験者 D,アウトインサンについて)     これはアウトインサンの練習について,右手と左手の軌道を描画してフィードバック している時の発話である.この被験者はアウトインサンでディアボロに紐が 1 周巻かれ てしまうというミスの原因を探しており,このフィードバックによって右手と左手の動 きがバラバラになっているということに気付いた. 3 ⃝ 修正した動きが再現できていないことに対する気付き これは,一度は気付きを得て軌道を修正したものの,無意識に元に戻ってしまってい ることに対する気付きであった.関連する発話に次のようなものが挙げられる.   • 急いでやろうとすると汚いっすね (被験者 A,スピードループについて) • 意識しないと斜めになっちゃいますね (被験者 F,スピードループについて)

(34)

• あー,どんどん戻っていくー (被験者 G,スピードループについて)     これらはみなスピードループが想像していたものと違ったため,一度修正して理想の ものに近づけた後に得られた発話である.スピードループは基本的な加速技であるため, 他の技をおこなう前にとてもよく用いられる.その際,次の技に入ることに集中しすぎ ることで,修正したスピードループの軌道についての動きが再現できず,無意識のうち に元の軌道に戻ってしまっている場合に得られた気付き であった.

6.3.3

アンケートによる各機能に関する評価

各機能の評価について,アンケートの回答結果から特徴的だったものを以下に示した. 道具の軌道描画の評価については,次のような回答が得られた. 道具の軌道描画について: • ディアボロという道具の特性上きれいな円になっているか見えたのがとても良かった (被験者 B) • 普段は道具が目で追い切れないのに対して,自分のイメージと照らし合わせなが らなので,さらに効率が良いと感じた (被験者 C) • 今まで軌道について意識したことはあったが,今回のシステムのように画面に表 示してみることが出来ると客観的な判断が行えて非常に良かった (被験者 G)   やはり,単なる動画ではディアボロの軌道を目で追いかけることは難しく,視覚的に表 示できるようにした点が評価された.被験者 7 人のうち,ほぼ全員が最も多く使った機 能であった. 関節の軌道描画の評価については,次のような回答が得られた. 関節の軌道描画について: • 手とかに意識できた.今まで見つけられなかったことを見つけられた (被験者 A) • 手の動き方が明確になって新しい発見があった (被験者 D) • 手の位置描画はスピードループの円軌道の中心とする指標として役立った (被験者 G)

(35)

  特に手の軌道を描画することが多かった.被験者 7 人のうち 4 人がこの機能を使用し, 主に失敗する技の原因解明に用いられていた.被験者 G はスピードループを円軌道にす る際に,円の中心を見つけるためにこの機能を使用していた.他にも,頭の軌道を短時 間で描画しながら,その高さまでディアボロが上がっているかという物差し的な使い方 も見られた. 奥行きの軌道描画の評価については,次のような回答が得られた. 奥行きの表示について: • 今回使用はしなかったが,あると便利だと思った (被験者 C) • あまり見ていなかったが,やる技によっては重要だと思う (被験者 D) • 良いと思う.特に手の奥行きはよかった (被験者 E)   この機能を使ったのは被験者 7 人のうち 3 人で,それぞれ使用回数は 1 回と少なめで あった.被験者 E は 2 ディアボロのサンでディアボロに紐がかかってしまう問題を解決 するためにこの機能を使用していた. 速さの描画色分けの評価については,次のような回答が得られた. 速さの描画色分けについて: • 面白かった,スピードループが理論通りになっていることが確かめられた (被験者 A) • 緩急がひと目でわかるので良いと思った (被験者 C) • 道具を早く動かしているタイミングがわかって面白かった (被験者 D)   この機能は被験者 7 人のうち,4 人が使用していた. その他の機能の評価については,次のような回答が得られた. その他の機能について:

(36)

• 色々な部分の軌道が同時に見れて良かった (被験者 E)   道具や関節の軌道を同時に見ることができる点が評価された.

6.4

考察

6.4.1

システムの有用性

本システムのジャグリング練習支援としての有用性について考察をおこなう.6.3.1 項 で述べたとおり,システムの評価は平均 4.7 点であり,「こういったシステムがあったら使 いたいか」という問いに対しては,7 人の被験者全員が使いたいと答えた.以上のことか ら,本システムはジャグリングの練習を支援するシステムとして有用であったと考えら れる. では逆に,本システムに 4 点という評価を与えた 2 人について,5 点満点ではなかった 理由を考察する. 1 人目として,被験者 E が本システムに 4 点の評価を与えていた.この被験者は,アン ケートの各項で次のように回答している. 普段練習中に知りたい情報: • 演技の見え方,スティックの軌道,手の位置 道具の軌道描画について: • ディアボロよりはスティックの軌道が見たかった システムに欲しい機能: • スティックの軌道表示,スロー再生,複数のディアボロの軌道表示   このアンケートの内容からは,特にこの被験者がスティックの軌道に注目していること がわかる.この被験者がスティックに注目して練習していた技はインテグラル,2 ディア ボロ台南ジェノサイドという技であった.インテグラルは,片手のスティックを放しても う片方のスティックとディアボロの間の紐を持ち,ディアボロに紐を巻いたりほどいたり を繰り返しながら放したスティックを回転させて落とさないよう維持する技である.どち らも片方のスティックを手から放し,ディアボロを軸に回転させて操る技である.この被 験者は,このインテグラルと 2 ディアボロ台南ジェノサイドという技の練習をおこない, その中でディアボロの軌道よりはスティックの軌道が知りたいと思ったため,4 点という

(37)

なお,アンケートでスティックの軌道が知りたいと回答したのはこの被験者も込みで 4 人であった.スティックを手から放す技は,ディアボロに加えて放したスティックと紐の 動きを考慮しなければならず,難易度の高い技や見栄えの良い技が多い.このことから も,スティックの軌道は練習者にとって関心のあるポイントの 1 つであると言える. 2 人目として,被験者 G が本システムに 4 点の評価を与えていた.この被験者は特にア ラウンドザボディのビハインドザネックという技を練習していた.アラウンドザボディ とは,ディアボロと紐を体の後ろ側へ回し,脇の下からディアボロを上げ,お腹の上あた りを通過してもう片方の脇の下へ収めるように回し,腰あたりを中心にディアボロが動 くように回す技である.さらにビハインドザネックは,体の上を通すのではなく頭の後 ろを通す技で,右脇の下から上げ,右肩の上,頭の後ろ,左肩の上を通って左脇の下に落 ちる技である.この被験者はこの技の練習中に奥行き表示の機能を使用した.ディアボ ロが体の後ろを通る際にどのような経路をたどっているかを調べようとしたのだと考え られる.しかしこのシステムの性質上,ディアボロが体に隠れると認識できず,思ったよ うに情報が得られなかったことがあった.このことが,4 点の評価の原因であると考えら れる. 結果として,本システムはジャグリングの支援システムとして有用であったが,軌道 の描画という点ではまだ改良の余地がある.

6.4.2

本システムが促した気付き

実験中に本システムで被験者に促すことができた気付きについて,実験中の発話とア ンケートの回答から考察する.6.3.1 項で示したとおり,発話は 3 種類に分類した. 1 つ目は,被験者自身が想像していた動きと実際の動きが異なったことに対する気付き であった. また,実験後アンケートでも次のような回答が得られた. 道具の軌道描画について: • とても面白い.良い意味でも悪い意味でも,自分で思っていたものと違った (被験者 A) • 普段見れなかったからよかった.思ってたことと違っていた (被験者 F)   被験者 A が述べているように,「思っていたものと違った」という気付きの中でも,想 像以上に理想的ではないという悪い意味での違いと,想像以上に理想に近いという良い 意味での違いについての気付きを促すことに成功していた.さらに,綺麗だけでなく技 の成功のための違いや,派手さや地味さに関する違いについても気付きを促すことがで きていた.

(38)

これらの気付きを促せた理由は,単なる映像では得ることのできない軌道を視覚的に フィードバックすることができたからであると考えられる.練習者は「ディアボロをこ う動かしているはずだ」という理想像があるが,単なる映像ではディアボロのみに集中 してその跡を追いかけることは難しく,理想と現実の比較があいまいになってしまうこ とが多い.本システムではその現実のディアボロの動いた跡を,軌道描画という手法で はっきりと視覚的に提示することができるため,理想と現実の比較が容易になり,こう いった気付きを促すことができたと言える.被験者 A が「汚さが露呈しますね」という 発話をしており,これはまさに軌道が視覚化されたことで,これまであいまいな判断で 済ませていた理想と現実の比較をはっきりすることができるようになったということで ある. 2 つ目に,できない技における問題部分に対する気付きがあった.この気付きに関して は次のようなアンケート結果も挙げられる. 関節の軌道描画について: • 手の動き方が明確になって新しい発見があった (被験者 D) システムの使用前後で自身の中で変わった点: • 安定感がなかった技のダメだった点がわかり改善することができた (被験者 D) • 技の中の手の位置が修正できた.自分の技を見て課題点がわかった (被験者 E)   このように軌道から自身の問題点を探し出し,改善につなげていくための気付きを促すこ とに成功していた.この気付きが促せた理由は,軌道の描画によって手が動いた範囲がはっ きりと視認できるようになったためであると考えられる.また,ある程度ディアボロを動か せるようになると,逆算的にディアボロの軌道から身体部位の問題点を割り出すことができ る場合がある.被験者 D が「ディアの軌道がわかれば,それをどうカバーすればいいのか わかるので,こうやって線が出るのは便利だと思います」という発話をしている.このこ とからも,軌道を描画することで間接的に問題点発見への道を示すこともできるという ことが言える. 3 つ目は,一度は気付きを得て軌道を修正したものの,無意識に元に戻ってしまってい ることに対する気付きであった.この気付きが促せた理由は,軌道を描画することで理 想通りの動きとそうでない動きの違いを視覚的にはっきりと提示できるからであると考 えられる. 以上のとおり,大きく分けて「想像していた動きと実際の動きが異なることに対する気

(39)

てしまっていることに対する気付き」の 3 種類の気付きが本システムによって促すこと ができた.特に「想像していた動きと実際の動きが異なることに対する気付き」は,思っ ていたより良い場合・思っていたより悪い場合の両方に対応しており,綺麗さのみに収ま らず地味さや派手さ,技の成功のための体の動きなどについても気付きが得られていた.

6.4.3

システムの使い方の傾向

被験者がシステムをどういった目的でどのように使用し,何を明らかにしようとした かという点について考察をおこなう.システムの使い方を,それぞれの目的・用途によっ て 4 種類に分類した. 1 ⃝ 確認・発見 これは,「ディアボロの動きがどうなっているのか」ということを調べ,問題を表面化 させるための使い方である.多くの被験者が,まずこの目的で本システムを使っていた. 練習における初期の段階であり,問題があるか否かを明らかにするために道具の軌道を 描画してフィードバックをおこなっていた.また,本人が気にしていない部分でも問題に 気付くことがあった.例えば,スピードループが円形でなく斜めな楕円であったことを 修正した後,別の技を練習している時に何気なくおこなった回転をかけるためのスピー ドループが修正前のものに戻っていることに気付く,といったケースである. この使い方に関する発話に,次のようなものが挙げられる.   • 動画とかと違って汚さがばれるって言いますか,汚さが露呈しますね (被験者 A) • カメラとかだと,普段はもやっとできてないってことだけわかるんで こうやってはっきりわかると直すとこわかるんでいいですね (被験者 G)     このフィードバックの結果,ディアボロの軌道が自身が理想としているものに近しい と判断すれば他の技の練習に移り,そうでなく自身が理想としているものではなかった 場合は⃝,2 ⃝ のような改善へと移る.3 2 ⃝ 綺麗にしようと改善 これは「軌道を確認した結果,理想としていたものと違ったので修正する」という目 的での使い方である.多くの場合に「綺麗」・「汚い」という言葉が使われており,理想通 りであることが「綺麗」である,もしくは綺麗な軌道を理想の形としているということ であると考えられる. この使い方では,主に道具の軌道描画を用いてフィードバックをおこなっており,自

(40)

身の中で様々な修正をおこなって確認をおこなっていた.例えば,被験者 G は足回しの 軌道を楕円形から円形に修正する際に,右手での操作を意識した場合・左手での操作を 意識した場合・両手での操作を意識した場合の 3 通りを順番におこない,それぞれの軌 道を比較することで軌道の修正をおこなっていた.結果として,両手で操作した場合が 最も理想に近いという結論に至り,修正に成功した.他にも,被験者 F が足回しでディ アボロを上げる高さを修正しようとしていた際に,頭の軌道を描画して頭より低い場合・ 頭のあたりまで上げる場合・頭より上まで上げる場合の 3 通りを試してその軌道を確認 していた.この時は,高くすることで体の使い方が不自然になってしまったため,下手 に高くしない方が良いという結論に至った. この使い方に関する発話に,次のようなものが挙げられる.   • 腰を落とすと自分が目指してる形になりましたね (被験者 A,腕回しシーケンスについて) • 低めで回すとやったやつが一番やりたいものに近かったです (被験者 B,腕回しについて)     この使い方では主に道具の軌道描画が用いられ,まれに指標や物差しとして関節の描 画が用いられていた.たいてい理想としている形ははっきりしているため,どの方法が 最も理想に近い軌道を再現できるかということを明らかにするためにフィードバックを おこなっていることが多かった. 実験中に被験者がスピードループの練習中に,綺麗ではないと判断して修正した例を 図とともに次に示す. 図 6.3 は,フィードバック中に被験者が「斜めになってて汚いですね」と発話した際の スピードループである.被験者が言ったとおり,軌道が斜めの楕円形になっている.そ れに対して,図 6.4 は,その後の練習で修正をおこなった際のスピードループである. 斜めだった軌道が修正されており,幅が大きくなり卵型の軌道になっている.この際, 「他の人のを見ると,上向きに細長いので」という発話がされており,その軌道を目指し て修正が為されたものであると考えられる.

(41)

図 6.3: 汚いと判断されたスピードループ

図 5.1: システム構成図
図 5.2: 赤色を認識した時の 2 値化画像 (右画面) と得られた道具の位置 (左画面:緑の点) 今回は上記の手法で道具を認識することとし,赤・緑・青色の道具を使って位置の検 出をおこなうこととした.基本的に赤色を検出する場合は上記の条件で,緑色を検出す る場合は, • R 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • G 値が 100 以上の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 • B 値が 100 以下の場合 255 へ,それ以外は 0 へ変換 という条件で,青色を検出する場
図 5.9: 道具の速さと右手の軌道を表示した実行例
図 5.10: 両手の軌道を表示した実行例
+5

参照

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情報理工学研究科 情報・通信工学専攻. 2012/7/12

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社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課