第 6 章 実験 24
6.4 考察
6.4.3 システムの使い方の傾向
被験者がシステムをどういった目的でどのように使用し,何を明らかにしようとした かという点について考察をおこなう.システムの使い方を,それぞれの目的・用途によっ て4種類に分類した.
⃝1 確認・発見
これは,「ディアボロの動きがどうなっているのか」ということを調べ,問題を表面化 させるための使い方である.多くの被験者が,まずこの目的で本システムを使っていた.
練習における初期の段階であり,問題があるか否かを明らかにするために道具の軌道を 描画してフィードバックをおこなっていた.また,本人が気にしていない部分でも問題に 気付くことがあった.例えば,スピードループが円形でなく斜めな楕円であったことを 修正した後,別の技を練習している時に何気なくおこなった回転をかけるためのスピー ドループが修正前のものに戻っていることに気付く,といったケースである.
この使い方に関する発話に,次のようなものが挙げられる.
• 動画とかと違って汚さがばれるって言いますか,汚さが露呈しますね
(被験者A)
• カメラとかだと,普段はもやっとできてないってことだけわかるんで こうやってはっきりわかると直すとこわかるんでいいですね (被験者G)
このフィードバックの結果,ディアボロの軌道が自身が理想としているものに近しい と判断すれば他の技の練習に移り,そうでなく自身が理想としているものではなかった 場合は⃝2,⃝3 のような改善へと移る.
⃝2 綺麗にしようと改善
これは「軌道を確認した結果,理想としていたものと違ったので修正する」という目 的での使い方である.多くの場合に「綺麗」・「汚い」という言葉が使われており,理想通 りであることが「綺麗」である,もしくは綺麗な軌道を理想の形としているということ であると考えられる.
この使い方では,主に道具の軌道描画を用いてフィードバックをおこなっており,自
身の中で様々な修正をおこなって確認をおこなっていた.例えば,被験者Gは足回しの 軌道を楕円形から円形に修正する際に,右手での操作を意識した場合・左手での操作を 意識した場合・両手での操作を意識した場合の3通りを順番におこない,それぞれの軌 道を比較することで軌道の修正をおこなっていた.結果として,両手で操作した場合が 最も理想に近いという結論に至り,修正に成功した.他にも,被験者Fが足回しでディ アボロを上げる高さを修正しようとしていた際に,頭の軌道を描画して頭より低い場合・
頭のあたりまで上げる場合・頭より上まで上げる場合の3通りを試してその軌道を確認 していた.この時は,高くすることで体の使い方が不自然になってしまったため,下手 に高くしない方が良いという結論に至った.
この使い方に関する発話に,次のようなものが挙げられる.
• 腰を落とすと自分が目指してる形になりましたね
(被験者A,腕回しシーケンスについて)
• 低めで回すとやったやつが一番やりたいものに近かったです
(被験者B,腕回しについて)
この使い方では主に道具の軌道描画が用いられ,まれに指標や物差しとして関節の描 画が用いられていた.たいてい理想としている形ははっきりしているため,どの方法が 最も理想に近い軌道を再現できるかということを明らかにするためにフィードバックを おこなっていることが多かった.
実験中に被験者がスピードループの練習中に,綺麗ではないと判断して修正した例を 図とともに次に示す.
図6.3は,フィードバック中に被験者が「斜めになってて汚いですね」と発話した際の スピードループである.被験者が言ったとおり,軌道が斜めの楕円形になっている.そ れに対して,図6.4は,その後の練習で修正をおこなった際のスピードループである.
斜めだった軌道が修正されており,幅が大きくなり卵型の軌道になっている.この際,
「他の人のを見ると,上向きに細長いので」という発話がされており,その軌道を目指し て修正が為されたものであると考えられる.
図 6.3: 汚いと判断されたスピードループ
図 6.4: 修正されて綺麗だと判断されたスピードループ
⃝3 成功させようと改善
これは「できない技の問題点を解明する」という目的での使い方である.「できない技 ができるようになるのが楽しい」というモチベーションを持った被験者によく見られた 使い方であった.
この使い方では関節の軌道描画がよく用いられており,右手や左手といったスティック の操作を明らかにしようとすることが多かった.例えば,被験者Dがインテグラルの練 習をしていた際に,右手の軌道を描画することでスティックを放してから紐を持つまでが 遅いということを発見していた.
この使い方に関する発話に,次のようなものが挙げられる.
• ディアの軌道がわかれば,それをどうカバーすればいいのかわかるので,
こうやって線が出るのは便利だと思います (被験者F)
• 思ったとおりに体が動いてないっていう改善点がわかるんでいいですね
(被験者E)
このように,問題点の解明がこの使い方の大きな目的であるが,ディアボロについての 知識が足りない場合は何を直せば良いのかということがわからないことが多いので,こ のシステムによって問題が解決できない場合もある.
⃝4 その他・新しい動きの開発
この使い方は特殊なもので,本システムの軌道描画という機能を使って新しい技・動 きを開発するというものである.被験者Gが,ディアボロで三角形の軌道を表現しよう とした.このときは道具の軌道を描画してフィードバックをおこなっていた.
この使い方に関する発話に,次のようなものが挙げられる.
• せっかく軌道が出るんで,ちょっと遊んでみようかと
(被験者G,三角形の軌道)
• 跡が出ると,もうただ落ちるだけでも面白いですね
(被験者A,落ちて跳ねるディアボロを見て)