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平成26年度
産業経済研究委託事業
(事業再編に係る国内外企業の動向調査)
最終報告書
平成
27 年 3 月
デロイト
トーマツ コンサルティング株式会社
2 1.2. 日本企業における低収益性の要因と事業再編の方向性に関する考察 ... 3 1.3. 調査の全体像 ... 5 2. 国内外の主要企業における事業再編動向の比較・考察 ... 7 2.1. 調査内容 ... 7 2.2. 調査結果 ... 8 3. 好循環を生み出す事業再編とは ... 20 3.1. 事業再編の歴史 ... 20 3.2. 好循環を生み出す事業再編とは ... 23 3.3. 好循環を生み出す事業再編の KFS とは ... 24 4. 政策サイドへの期待 ... 31 5. 日本企業に求められることとは ... 34 6. 終わりに ... 42
3 1.1. 本事業の背景および目的 かねてより、日本企業の収益性は、欧・米企業と比べ、低収益に留まっていると言わ れており、少子高齢化等により国内市場が縮まりつつある中、いかに収益性を確保し、 成長していくかが重要な課題となっている。 そのため日本企業の生産性を向上させることを目的として、平成26 年 1 月に「産業 競争力強化法」が施行された。その中でも、事業再編の促進については、生産性の向上 のための重要な方策の1 つであり、平成 25 年 6 月に閣議決定された「日本再興戦略」 においても、事業再編の強力な推進を国家戦略として位置づけている。 しかしながら、我が国においては、これまで複数の企業における事業再編の実績はあ るものの、欧米各国に比べて事業再編が積極的に行われているとは言えない状態であり、 それが欧・米企業との収益力の差の一因であると考えられる。 本事業においては、日本企業の事業再編の促進に向けた施策の立案に向け、国内外の 主要企業の事業再編の動向を調査し、今後の政策の方向性についての示唆をとりまとめ ることを目的とする。 1.2. 日本企業における低収益性の要因と事業再編の方向性に関する考察 日本企業が低収益に陥っている点については、「日本の「稼ぐ力」創出研究会」でも、 規模と収益性の両観点から世界のトップ企業に対して劣後していることが言及されて いる。また、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係 構築~」プロジェクト(伊藤レポート)においても、日本企業の「持続的低収益性」が 指摘されている。 これらの状況を踏まえ、「日本の「稼ぐ力」創出研究会」では、グローバル経済圏と ローカル経済圏に分けて、日本の稼ぐ力の強化に向けて様々な議論されており、グロー バル経済圏においては事業の取捨選択を含めた課題を挙げている。また、伊藤レポート では、日本企業のイノベーションの創出力や株式市場との関係性などに触れながら、 「ROE 経営」など、日本企業の収益性向上に向けた道筋が提言されている。 これら以外にも、日本企業の収益性の低さは様々な場面で指摘されており、例えば、 デロイト トーマツ コンサルティングが調査した結果では「売上規模が大きく、さらに、 多角化の度合いが高い企業群では、欧・米系企業と比べて日本企業の収益性が大きく劣 る」ことが明らかになっている(図表1-1 参照)。
4 一方、この調査においては、「売上規模が小さく、専業に近い企業では、日本企業の 収益性は欧・米企業と比較して高い傾向1にあり、また、専業に近い企業では、売上規 模が大きくなった場合でも、収益性はさほど劣後していない」ことも確認されている。 もちろん、この結果は日本企業の収益性の特徴を示す一断面に過ぎない。しかしなが ら、総合電機や商社、化学業界などの日本を代表する企業が多く含まれる「大規模な多 角化企業」群が、他国とそれと比較して収益性が著しく劣後していることは、日本全体 にとって考えるべき論点を示しているのではなかろうか。そこで、より詳細な分析を行 うために売上高等の基準で300 社程度に絞り込んだデータセットで日・米・欧州系の各 企業群の多角化度上位50%企業における事業セグメント別の収益性の構成比を分析し たところ、日本企業の事業セグメントの91%が営業利益率 10%未満(2006-2013 年度 平均)であり、米系企業の28%、欧州系企業の 66%、アジア系企業の 59%と比較して も明らかに高い水準となっていた。(図表1-2 参照) 1 欧・米系企業には、スタートアップに近い企業も含まれている可能性に留意が必要である
脚注:調査対象企業は、日本はTOPIX 対象銘柄、米国は NYSE 総合指数構成銘柄、欧州は FTSE 総合指数(イギリス)、CAC 全株指数構成銘柄(フランス)、CDAX 指数構成銘柄(ドイツ) 多角化度としては全体の売り上げから売上高構成比率が最大の事業の売上高構成比率を差し引い たものの2000-2012 年平均。円換算レートは 1USD=100 円、1EUR=130 円、1GBP=130 円 出所:Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コンサルティング作成
5 この状況から、一つの可能性が推察される。それは、売上規模が大きく多角化してい る日本企業では、「数多くの低収益事業を抱えているが、それらからの撤退は遅れてし まっている。これが経営資源の分散に繋がり、勝てる可能性のある事業に十分な資源投 下を行うことができなくなっている。その結果、さらに低収益な事業が増え、企業全体 としての競争力を失っている」という悪循環に陥ってしまっているという可能性である。 競争力のある事業が限られる中で、この悪循環から抜け出すことは容易ではない。し かし、日本企業が高い収益性を伴う、持続的な成長を実現していくためには、「買収の みならず、既存事業の売却・撤退を含め、事業を継続的に組み替えること」を意識して 事業再編を進めていく必要があるのではないだろうか。 1.3. 調査の全体像 ここまで述べた調査の背景や目的、日本企業の収益性の低さの要因や事業再編の方向 性に関する考察を踏まえ、まずは問題意識の根幹となっている、日本企業が事業再編に 消極的であるか否か、事業再編が長期にわたる経営効率の向上と関係するか否かを国内 外の主要企業における直近20 年の事業再編や財務データをもとに確認する。その上で、 事業再編のあり方やそれを喚起する施策を検討するため、同じデータ群を用いて事業再 編の背景や意図を確認する。具体的には、経営者の交代や業績悪化といった経営環境と 脚注1:多角化度については、Bloomberg のセグメントデータを元に、HHI*(ハーフィンダール 指数)を算出 脚注2:HHI は、各セグメントのシェアを 2 乗して合算し算出 (HHI=∑ (𝑆𝑆)n 2 𝑖=1 と定義。 但しSi=セグメントのシェア n=セグメント数) 脚注3:対象セグメントの絞込み方法は、以下の 6 プロセスとなる。
①Bloomberg 登録企業②Bloomberg 産業分類基準(BICS)で「金融」「エネルギー」「公益」 に含まれる企業を除外③(M&A 等で)10 年間連続的に全社売上高を取得できない企業を除 外④直近12 か月(LTM)の世界連結売上 Top 500 企業を選出(政府系企業を除外)⑤海外 売上高比率20%未満の企業を除外⑥直近 8 期(FY2006-2013)連続で営業利益が取得可能な 事業セグメントを選出。セクター別売上高・営業利益の両方を、FY 2006-13 の 8 期連続で 取得可能である企業を対象に調査 出所:Bloomberg データを元に、デロイト トーマツ コンサルティング作成
6 は、事業再編を推進すべきかどうかを検討する上では有益であり、その点の確認も行う ものとする。デスクトップリサーチで実施する以上の調査結果は第2 章で報告する。 昨今は、日本でも大型の事業再編などが少しずつ増加している向きもある。そこで第 3 章では、事業再編の時系列の変化を分析し、日本企業の現況や今後目指すべき事業再 編のあり方を、企業へのヒアリング調査も実施した上で検討する。 さらに、事業再編が進展しないのは、独占禁止法や事業再編税制、労働法制などの制 度的な要因も考えられることから、第4 章において、ヒアリング調査で聞かれた企業か らの声を政策サイドへの期待として整理する。最後に、ここまでの調査を踏まえ、高い 収益性や成長性を目指した事業再編の推進に向け、日本企業に求められることを第5 章で考察する。
7 本章では、日本企業は欧・米各国に比べて事業再編に消極的であるか否か、事業再編 が長期にわたる経営効率の向上に寄与するか否かなど、第1 章で述べた問題意識を確認 し、今後の日本企業における事業再編のあり方の考察やその促進に向けた検討材料とし て、国内外の主要企業における事業再編動向に関するデスクトップリサーチによる調査 結果を報告する。 2.1. 調査内容 デスクトップリサーチにおける調査対象企業、調査項目は以下のとおりである。 (1) 調査対象企業 国内外の主要企業における事業再編動向を調査するため、多数の事業を保有し、昨今、 事業再編を含めて事業ポートフォリオの組み替えを行っていることを念頭に、総合電機 業界、化学業界の中から以下の企業を選択した。調査対象企業は日本企業6 社、米系企 業2 社、欧州系企業 3 社の計 11 社としている。 日本企業 : 株式会社日立製作所、東芝株式会社、パナソニック株式会社、 ソニー株式会社、旭化成株式会社、 富士フイルムホールディングス株式会社
米系企業 : General Electronics(以下 GE、ただし金融子会社の GE Capital が実施した事業再編は除く。)、DuPont 欧州系企業 : Siemens、Philips、BASF (2) 調査項目 直近20 年分の事業再編のデータや財務情報 2を用いて、以下の項目を調査する。な お、本調査の結果は、調査対象企業11 社に絞った限定的なものである点に留意が必要 である。 ① 事業再編の件数・金額規模の比較 : 事業の取得や売却の件数、事業再編の金額 2 事業再編データとしては、日本企業についてはレコフ M&A データベース、外資系企業
についてはThomson Reuters が提供する M&A のデータのうち、取引金額が 0 であるもの を除外して使用した。なお、分析対象期間はレコフM&A データベースにおいては 1996 年 から2014 年の 19 年間、Thomson Reuters においては 1995 年から 2014 年の 20 年間とし ている。なお、2.2 の調査結果のうち、特段の記載のないものは本データセットの全データ を対象としている。また、財務情報について為替を換算する際は、Bloomberg が提供する 換算レートを使用している
8 ② 事業再編と長期的な経営効率性との関係性 : 事業再編の件数と一人あたり営業 利益・ROA の成長性の関係性を調査 ③ 大型事業再編と経営環境との関係性 : 大型の事業再編と経営者の交代・業績の 悪化(全社的な営業利益率の低下)との関係性を調査 ④ 大型事業再編と短期業績との関係性 : 大型の事業再編と短期的な業績変動(事 業再編に係るセグメントまたは全社の事業再編実施後3 年程度の期間における ROA または営業利益の成長性)との関係性を調査 ⑤ 大型事業再編と既存事業との関係性 : 大型の事業再編と既存事業との関係性(大 型の事業再編が既存事業において起きたのか、新規事業で起きたのか)を調査 ⑥ 事業売却後の事業の成長性 : 大型の売却案件に関して、売却された事業の売却 後の成長性(売上高の成長)を調査 2.2. 調査結果 2.1 に示した 6 つの項目に関する調査結果は以下の通りである。 (1) 事業再編の件数・金額規模の比較 事業再編の件数・金額規模の比較に関する調査では、日本企業の方が外資系企業より も、企業の売上規模の違いを考慮しても、事業再編の件数が少なく、金額規模も小さい、 特に、事業売却の件数が少なく、金額規模も小さい、という結果が確認された。このこ とから、日本企業では外資系企業よりも事業再編に消極的であり、特に、売却に対して 顕著であることが示唆される。 (事業再編の件数に関する比較) 事業再編件数を比較した結果、日本企業は外資系企業よりも事業再編件数が少な く、特に、事業売却が少ない傾向が見られた(図表2-1 参照)
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調査対象企業には、売上規模が大きく異なる企業が含まれていたため、事業再編 件数を売上高対比で指数化して比較した結果、日本企業は外資系企業よりも事業 再編件数が少なく、特に、事業売却が少ない傾向が見られた(図表2-2 参照) (図表2-2)売上高に対する取得・売却件数指数(20 年累計)*
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
脚注:指数化のため計算結果に100,000 を乗じている
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
10 事業再編の金額別件数を比較した結果、日本企業の事業再編はほぼ100 億円未満 の案件であるのに対し、外資系企業は1 億ドル以上の案件の構成比が高い傾向が 見られた(図表2-3 参照) (図表2-3)取得・売却における金額規模別の件数比較(20 年累計) 調査対象企業には、売上規模が大きく異なる企業が含まれており、売上規模の違 いによる影響を排除するため、事業再編金額を売上高対比で比較した結果、日本 企業の年あたりの事業再編金額は平均して売上高の1%前後であるのに対し、外資 系企業では5%以上となっており、日本企業は外資系企業よりも事業再編金額の売 上高対比が小さい傾向が見られた(図表2-4 参照)
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
11 (事業再編1 件あたりの金額に関する比較)
1 件あたりの取得金額および売却金額を比較した結果、日本企業は外資系企業よ りも取得金額・売却金額ともに小さい傾向が見られた(図表2-5 参照)
(図表2-5) 事業再編 1 件あたり金額
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
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較した結果、日本企業は外資系企業よりも売上高に対する1 件あたりの事業再編 の金額が小さい傾向が見られ、特に、事業売却の金額が小さい傾向が見られた(図 表2-6 参照)
(図表2-6)事業再編 1 件あたり金額の対平均年次売上高比率
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
13 事業再編と長期的な経営効率性との関係性に関する調査では、事業再編の件数と一人 あたり営業利益額および資産効率(ROA)の長期的な成長性との間に一定の相関があ る、という結果が確認された。このことから、事業再編は企業における長期的な経営効 率の向上に寄与することが示唆される。 事業再編の件数と一人あたり営業利益の成長率(CAGR)との相関を分析した結 果、一定の相関が確認された。なお、事業再編の件数を取得件数と売却件数に分 けて相関を確認した結果、取得件数よりも売却件数の方が、一人あたり営業利益 の成長率(CAGR)との間の相関は高かった(図表 2-7 参照) (図表2-7)再編件数と一人あたり営業利益額の成長率(CAGR)の相関* 再編の件数と資産効率(ROA)の成長率(CAGR)との相関を分析した結果、一 定の相関が確認された。なお、事業再編の件数を取得件数と売却件数に分けて相 関を確認した結果、取得件数よりも売却件数の方が、資産効率(ROA)の成長率 (CAGR)との間の相関は高かった(図表 2-8 参照) 脚注:分析対象企業は日立、東芝、パナソニック、旭化成、富士フイルム、Siemens、DuPont、 Philips、BASF の 9 社。なおソニーと GE は金融事業による影響が大きいことから対象からは 除外
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
14 (3) 大型事業再編と経営環境との関係性 大型の事業再編は経営者の交代や業績悪化といった経営環境の変化がきっかけとな って起こる場合が多いという仮説を持っていたが、大型事業再編と経営環境との関係性 に関する調査では、明確な関係性は確認されなかった。このことから、事業再編、特に 大型の事業再編は、経営者交代や業績悪化などのきっかけだけでなく、その他の要因、 例えば、長期展望に基づいた事業再編や事業が売却に出されたタイミングの影響などが 関係しているということが窺われる。 1,000 億円以上または 10 億ドル以上の大型事業再編の件数と経営者交代からの在 職年次との相関を分析した結果、ほとんど相関は確認されなかった(図表2-9 参 照) 脚注:分析対象企業は日立、東芝、パナソニック、旭化成、富士フイルム、Siemens、DuPont、 Philips、BASF の 9 社。なおソニーと GE は金融事業による影響が大きいことから対象からは 除外
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
15 1,000 億円以上または 10 億ドル以上の大型事業再編の件数と営業利益率の変動と の相関を分析した結果、相関は確認されなかった(図表2-10 参照) 脚注1:調査対象企業における 1,000 億円又は 10 億ドル以上の事業再編を対象とし、その年次に おいて各経営者が実行した一人あたりの事業再編の件数から算定 脚注2:外資系の平均在職年数である 9 年目までを表示
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
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- 脚注:調査対象企業における横軸は営業利益率の対前年変化率のレンジを、そして縦軸は各レンジにおける合計件数を表す1,000 億円又は 10 億ドル以上の事業再編を対象として算定。なお、 出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
17 大型事業再編と短期業績との関係性に関する調査では、大型の取得・売却ともに、短 期的に業績が良化または悪化するケースの件数にはほとんど差がない、という結果が確 認された。このことから、大型の取得や売却は、短期的な業績改善を意図したものもあ るが、事業ポートフォリオの組替えなどの長期的な目的を持って実施されているものも 相当数存在することが示唆される。 1000 億円以上または 10 億ドル以上の大型の事業再編では、取得・売却直後の該 当セグメントまたは全社の収益性(事業再編後2 年間の営業利益率・営業利益・ 売上高のいずれかで測定)はやや悪化するケースが多いものの、良化と悪化のケ ースがほぼ同数であり、再編による短期的な収益性への影響に顕著な傾向は見ら れなかった(図表2-11 参照) (図表2-11)大型事業再編と短期業績の関連性* 脚注:日本企業は1,000 億円、外資系企業は 10 億ドル以上の再編のうち、自己株式取得等の グループ内再編を除外。再編後 3 年間の該当セグメントまたは全社の ROA または営業利益率 CAGR が増加した場合良化、減少した場合悪化と判定し、件数を集計
出所:各社アニュアルレポート、有価証券報告書、Thomson Reuters、レコフ M&A データ ベースを元にデロイト トーマツ コンサルティング作成
18 大型事業再編と既存事業との関係性に関する調査では、事業取得は、既存事業との関 連性が強いものが多く、事業売却には、既存事業との関連性が弱いものが多い、という 結果が確認された。このことから、事業再編、特に大型の事業再編は、既存事業との関 連の低い事業からの撤退を進め、既存事業を強化する意図があることが示唆される。 1000 億円以上または 10 億ドル以上の大型事業再編においては、事業の取得は、 既存事業との関連性が強いものが多く、事業の売却は、既存事業との関連性が低 いものが多かった。なお、既存事業との関連性の定義は、以下のとおりである (図表2-12 参照) 事業の取得:開示上、取得に伴って事業セグメントが増加していれば「既存 事業との関連性が弱い」、事業セグメントに増減がなければ「既存事業との関 連性が強い」としている 事業の売却:開示上、売却に伴って事業セグメントに増減がなければ「既存 事業との関連性が強い」、事業セグメントが減少していれば「既存事業との関 連性が弱い」としている (図表2-12)大型事業再編における再編事業と既存事業の関連性* (単位:件) 脚注:日本企業は1,000 億円、外資系企業は 10 億ドル以上の再編のうち、自己株式取得等の グループ内再編を除外して件数を集計
出所:各社アニュアルレポート、有価証券報告書、Thomson Reuters、レコフ M&A データ ベースを元にデロイト トーマツ コンサルティング作成
19 事業売却後の事業の成長性に関する調査では、事業売却の対象となった大型案件は、 売却先において、一定数(今回の調査では過半数)成長する傾向にあるという結果が確 認された3。このことから、売却された事業も、一定数は売却先での成長事業として価 値を高めていることが示唆される。 事業が売却された場合、売却された事業が売却先において成長しているかを確認 するため、日本企業の100 億円以上および外資系企業の 10 億ドル以上の売却案 件を確認したところ、売却対象となった事業についての売却先における成長性(売 却先企業における売却事業にかかる事業セグメントまたは売却先企業の全体売上 の2 期間分の成長性)は、50%超の割合で売却先において売上が成長していた(図 表2-13 参照) (図表2-13)売却対象事業の売却後の事業成長傾向* 3 開示情報の制約から、売却対象となった事業そのものの売却先における売却後の成長性を 確認できている訳ではない点に留意が必要である 脚注:外資系企業における10 億ドル以上の売却案件及び日本企業における 100 億円以上の売却 案件を母数とし、買収後1 年目と 2 年目の売上高を比較。また、売上高比較にあたっては売却先 企業のセグメント情報が明らかな場合には事業取得後のセグメント売上高の推移、不明な場合 には全社売上高から傾向分析
出所:各社アニュアルレポート、有価証券報告書、Thomson Reuters、レコフ M&A データ ベースを元にデロイト トーマツ コンサルティング作成
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本章では、前章の調査結果を踏まえた上で、日・米・欧州系企業の事業再編の動向を 時系列的に確認し、それぞれの企業群における事業再編の歩みを整理する。その後、高 い収益性と持続的な成長に向けた事業再編のあり方とその実現に向けた KFS(Key Factor for Success)を検討する。
3.1. 事業再編の歴史 前章では、直近20 年間の累計で見れば、欧・米系企業に比べて日本企業の事業再編 の件数は少なく、金額規模は小さい、特に、事業売却において、その傾向が顕著に見ら れるという結果が確認された。ここでは、電機・電子部品業界に焦点をあててサンプル 数を増やし4、事業再編の時系列的な変化を確認するとともに、日・米・欧州系企業の 事業再編の歩みについて述べる。 (1)事業再編の時系列的な変化 米系企業は、日本・欧州系企業に先駆け、1980 年代前半から事業再編に取り組み、 当時から事業の売却も一定の金額規模で実施していたことが確認できる。1990 年代に 入ると一気に事業再編は加速し、事業の取得は2000 年代前半に、事業の売却は 2000 年代後半にピークを迎える。昨今は落ち着きを見せているものの、30 年以上にわたり、 事業再編に積極的に取り組んできたと言える。 次に欧州系企業を見ると、1980 年代後半頃から事業再編に取り組みはじめ、1990 年 代に入ると事業売却を含めた再編を積極的に進めていたことが分かる。1990 年代後半 には、事業の取得金額では米国企業に及ばないものの、事業の売却金額では、米国企業 と同程度の水準となっていた。2000 年代に入っても事業の取得・売却ともに継続的に 進めていたが、2010 年代に入ると落ち着きを見せている。 最後に日本企業に目を向けると、1980 年代後半頃から事業再編に取り組みはじめる ものの、1990 年代は事業の取得・売却ともに積極的であるとは言えず、その動きは 2000 年代からようやく本格化する。そして、2000 年代後半から 2010 年代は、欧州系企業 よりも積極的な事業再編を展開し、欧・米系企業とは対照的に事業再編の金額規模が取 得・売却ともに右肩上がりとなっている。(図表3-1)
4 Bloomberg 上の BICS 分類 2 で electrical equipment manufacturing(電力設備、電子
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脚注:以下の企業の事業再編金額(日本:日立製作所、三菱電機、東芝、ダイキン、パナソニッ ク、三菱重工、村田製作所、古河電工、富士電機、住友電工 米州:GE, United Technologies, Emerson Electric, Honeywell, Johnson Controls, Eaton, Ingersoll-Rand, Danaher, AMETEK, Rockwell Automation 欧 州 : Siemens, ABB , Schneider Electric, ALSTOM, Philips Electronics, Schindler, KONE, ThyssenKrupp, Nexans, Assa Abloy)
出所:Thomson Reuters、レコフ M&A データ、Bloomberg データを元にデロイト トーマツ コ ンサルティング作成
22 限られたサンプル数での分析結果ではあるが、事業再編は米系企業を起点として進ん できたと考えられる。1980 年代前半に GE のジャックウェルチ氏が提唱した「No.1/ No.2 戦略」はあまりにも有名であるが、当時の日本企業の攻勢を中心とした競争の激 化を背景に、米国企業は不採算事業や将来性の低い事業を整理する一方、コア事業の強 化や将来の有望事業の獲得などの目的で事業を買収し、今日に至るまで積極的な事業再 編を展開してきたのではないだろうか。 この流れに追随したのが、SiemensやPhilipsなどを含む欧州系企業である。1980 年 代前半こそ日本企業と同様に事業再編はほとんど行っていないが、1980 年代後半以降 は事業の売却を含めた事業再編を積極的に進めてきた。自国の市場がそれ程大きくない 欧州系企業は、早くからグローバルベースでの厳しい競争にさらされていたこともあり、 そのような環境下における自社の競争力を高めるために、事業再編を推進していたと考 えられる。このことを端的に示すものとして、2001 年から 2011 年までPhilipsのCEO であったクライスターリー氏のコメントを、日本経済新聞のインタビュー記事5を引用 して紹介する。同氏は、インタビュー記事の中で、事業再編の必要性について、「時代 が大きく変わったからだ。グローバル化のうねりは世界を覆い、市場は短期間で急激に 起こっている」と述べ、さらに、「もはや総合電機の時代は終わったと断言できる。そ れぞれの企業が強みを生かせる分野に事業を集中し、競争力を高めるしかない」と語っ ている。 一方、日本企業の動きは、欧・米系企業から少し遅れている。もちろん、日本企業も、 1990 年代から「選択と集中」が叫ばれ、事業再編を進めようとしていた。しかし、バ ブルが崩壊したとは言え、一定限の売上規模や収益性・成長性を維持している中、制度 的な足枷も影響し、事業売却を含めた事業再編には積極的とまでは言えない状態が続い た。ようやく2000 年代に入り、経済環境の悪化や事業再編に関連する法改正6、資本 コストに対する意識の芽生えなどを背景に、事業再編に着手し始めた。この事業再編の 動きは、ますます厳しくなる経済環境に加え、リーマンショックなどの危機を経て、 2000 年代後半から 2010 年代にかけて本格化してきていると考えられる。 今回の調査を通じて、リーマンショックの影響を受けた大幅な業績悪化、欧・米系の グローバル・ジャイアントはもちろん、アジアの新興企業群とのさらなる競争の激化な どを背景に、経営の目標を抜本的に見直し、大型の売却を含め、意図を持って事業ポー トフォリオの組み替えを進めている日本企業を複数確認できた。まさにいま、日本企業 は高い収益性と成長性を維持できる企業へと変革を遂げるための事業再編に取り組ん でいるのではないだろうか。 5 2007 年 3 月 7 日の日本経済新聞 6 企業結合法制や会計制度などの改正を意図している
23 ここまでは、日・米・欧州系企業の事業再編の歩みを振り返った。日本企業における 事業再編が本格化してきていることを踏まえ、ここからは日本企業にはどのような事業 再編が求められているのかを考察してみたい。考察にあたっては、第1 章で述べた問題 意識や日本企業における低収益性の要因、第2 章で整理した国内外の主要企業の事業再 編動向の分析結果に加え、ヒアリングなどで収集した意見も参考にしながら議論を展開 する。 第1 章において、「多角化している日本企業は、数多くの低収益事業を抱えているが、 それらからの撤退は遅れてしまっている。これが経営資源の分散に繋がり、勝てる可能 性のある事業に十分な資源投下を行うことができなくなっている。その結果、さらに低 収益な事業が増え、企業全体としての競争力を失っている」、という「悪循環」に陥っ ている可能性を指摘した。この悪循環から抜け出し、日本企業は「好循環を生み出す」 とでもいうべき事業再編を進めていく必要があると考えられるが、それはどのようなも のであろうか。 営業利益がマイナスとなっている事業も含め、低収益事業を数多く抱えている日本企 業が世界と伍していくためには、不採算事業の売却や建て直しなど、いわば「止血をす ること」により、企業の収益性を改善することが急務であろう。しかし、今回実施した ヒアリングでもしばしば指摘されたことであるが、収益性の低い事業を建て直すために は、相当の投資が必要となり、また、買い手にとっての魅力に乏しいために売却は難し く、清算するしか選択肢がないこともある。収益事業の売却や清算などの再編は必要で はあるものの本質的には「後手」であり、これを繰り返すだけでは、結局、低収益の状 態から抜け出せない可能性がある。 したがって、高収益性をともなった持続的成長という観点から考えると、「自社の掲 げる長期的なビジョンや長期戦略などの定性的な基準、目標とする収益率や成長性など の定量的な基準に合致しない事業、また、仮に市場が成長していても自社では成長させ られる可能性が低い事業は、黒字事業で一定の収益性や成長性などがあっても売却を進 める。そして、そこで得たキャッシュを自社の中核事業の強化や将来の収益の柱となる 新規事業に振り向ける。そして、企業全体としての収益性を高め、成長性を維持してい く」ことが、「好循環を生み出す」事業再編のあり方と言えよう。 もちろん、一定の利益を生み出している事業を売却対象とするような事業再編を進め ていくことは難しい。特に、足元で収益性の低い事業が数多くある中、いわゆる「黒字 事業の売却」に関しては経営課題としての優先度が低くなるといった指摘もヒアリング では挙げられた。中には、事業ポートフォリオを組み替えるために黒字事業でも売却し、 そこで得た原資を将来に向けた投資に振り向けている事例を語ってくれた日本企業も あったが、まだまだごく少数に限られている。 しかしながら、非常に印象的であったのは、このような事業再編は、売買の当事者で
24 ある事業の売却では、雇用条件の継続やその継続期間など、売却先との従業員の待遇の 交渉がしやすい」、さらには、「売却の話が持ち上がった当初は従業員も不安に思ってい た。しかし、自社に置かれたままでは優先的な投資対象事業にはならないが、売却先は、 その事業を伸ばすためのノウハウを持つ上に、投資対象のコア事業として、飛躍の機会 が与えられると理解し、売却先に希望して転籍した従業員も数多くいた。そして、実際、 売却された先で非常に活き活きと働いている」といった声が寄せられた。 日本企業に先駆けて事業再編に積極的に取り組んできた欧・米系企業からも同様の声 が挙がっている。ヒアリングでは、「自社において、収益性はあっても「キャッシュカ ウ」に位置づけられた事業は、投資の対象にはならない。しかし、その事業が売却対象 となり、売却先では中核事業として扱われる場合には、当事者である担当役員や従業員 は切り出されることに悲壮感はなく、前向きに捉えている。さらに、売却形態がスピン オフとなると、完全に裁量権も与えられるので、転籍するメンバーのモチベーションは 上がる」といった声が寄せられた。また、先ほど取り上げたPhilipsのクライスターリ ー氏は、同じインタビュー記事を引用すると、十分に利益を創出していたオーディオ部 門の売却に触れ、「オーディオ部門を売却したときには、利益が出ているのになぜと社 員に問い詰められたことがある。利益も重要だが、企業の戦略に合っているかはもっと 重要だ。当該部門にとっても、必要とする企業に移った方がいい。結果は売却後に事業 が大幅に伸び、社員の待遇はよくなった。今は感謝されている」と語っている7。 もちろん、事業が一定の収益性や成長性を持つ優良な状態での売却とは言え、売却先 との交渉の中で決定される売却対象とされない部門や、転籍の対象とならずに解雇され るメンバーの処遇など、負の側面に光を当て切れていないことは否定できない。しかし、 限られたリソースを適切に配分し、持続的に高収益・高成長を維持するためには、収益 性が落ち込んでから売却や撤退を判断するのではなく、自社の長期的なビジョンや長期 戦略にあわない事業は「収益性がある」、「成長性が見込める」といった優良な状態でも 売却を進める、ということも一考に値する事業再編のあり方ではないだろうか。 3.3. 好循環を生み出す事業再編のKFS とは 前節において、自社の長期ビジョンや長期戦略にあわない事業は、収益性があり、成 長性が見込める状態でも売却を進め、自社の中核と位置づける事業や将来性の高い新規 事業にリソースを振り向けるという「好循環を生み出す事業再編」について考察してき た。前述のとおり、黒字事業をも売却対象とするような事業再編は決して簡単ではない が、一方で様々な利点もある。そこで、ここではその実現に向けたKFS について、ヒ アリングなどをもとに整理する。 7 2007 年 3 月 7 日 日本経済新聞インタビュー
25 えておく。 (1)長期的な観点からの戦略構築・事業ポートフォリオの選択 1 つ目は「長期的な観点からの戦略構築・事業ポートフォリオの選択」である。 企業によっては、「メガトレンド」といったキーワードを使いながら、社内外に自社 が注力していく方向性を示し、それに沿うかたちで事業領域や戦略を選択している 8。 このようなケースの他にも、経営者の交代や中期経営計画の策定などのタイミングに、 中長期的なマクロ環境を分析した上で、事業ポートフォリオの再定義やそれを実現する ための戦略構築を実行するケースが確認された。長い時間と莫大な投資を要する事業ポ ートフォリオの組み換えは、中長期的な観点なしには成り立たないことが伺える。以下 に、ヒアリングで挙げられたコメントを紹介する。 長期的な自社の方向性を考える際、そのベースとして長期のマクロトレンドが活 用され、自社が重視する価値や市場・技術的な強みなどを踏まえて事業ポートフ ォリオが絞り込まれている。なお、黒字事業を売却する際も、自社が重視してい るマクロトレンドや経営の根幹にある企業ビジョンが社内に浸透しているため、 売却対象の事業のメンバーも抵抗感は低いと感じている 数年前に長期的なビジョンを策定したが、全社として大きな意思決定を行う場合 には、このビジョンに立ち返るようになった。現状のポートフォリオもこのビジ ョンからは外れていないものと認識しており、事業再編を進める場合においても 重要な判断要素となっている 将来に起こり得る環境の変化を読んで、ビジネスモデルや事業機会への感度を上 げていくことが、目先の収益性指標を追うことよりも重要であると考えている。 ただし、将来の予測には着手しているが、社内組織を増やすのを良しとしない風 土もあり、社内シンクタンクのような専門組織は存在しない 中期経営計画を毎年ローリングで策定し、この中で各事業の戦略を見直し、経営 方針を組み立てる。そして、それに沿った形で事業の買収や売却の検討を行って いる。なお、事業再編は戦略ありきで実行する面もあるが、大きな再編機会が生 じた際には柔軟に経営戦略の見直しを行うという面もある (2)多面的な事業の評価・判断 次に挙げられるのは「多面的な事業の評価・判断」である。調査を通じ、事業ポート 8 東芝や Siemens、DuPont などの HP にはメガトレンドに関する記載が見受けられる
26 具体的な事業評価の観点としては、定量的なものでは「成長性」「収益性(営業利益 率などの損益ベースのもの、資産効率を考慮したもの、資本コストの概念を取り入れた ものなど)」「市場シェア」など、定性的なものでは「戦略との適合性」「差別化の要素 の有無や強さ」「技術的な優位性」「他事業とのシナジー」「産業の中での位置づけ」な どが見られた。 また、事業の売却や撤退を判断するにあたって、自社が保有する全ての事業を一律の 観点や基準で横並びに評価することには、肯定的な意見も否定的な意見も寄せられたが、 現在の事業評価のあり方を見直し、評価基準の再整備に取り組んでいる企業もあった。 以下に、ヒアリングで挙げられたコメントを紹介する。 (事業評価の観点・基準等) 事業評価は、営業利益やEBITDA 等の収益性指標、利益成長率等の成長性指標、 資本と負債の構成比やキャッシュコンバージョン等の資金的な観点などの定量指 標に加え、会社の方向性との適合度合いなどの定性的な戦略基準を組み合わせ、 多面的に判断する。なお、定量基準のみで事業の参入や撤退を決めるということ はない 事業の選別は、規模、収益性、成長性、技術優位性、マーケット優位性、人材、 環境適合性などを多面的に判断して実行している。なお、判断の前提として、自 社で実施している事業もいつかは成熟し、永続的に続く事業はないという考え方 がある 収益性やシェア、成長性など、10 程度の観点から多面的に事業を評価し、投資や 撤退などを判断している。特に、全ての事業に関して「差別化で拡大できるかど うか」という観点が重視されている。なお、判断の指標自体は随時見直され、過 去と比較すると、現在の事業評価指標の数は増えている 市場の成長性とその中で自社がいかに利益を稼ぎ出せるかという軸を持って事業 を評価している 数値基準のみに基づく事業ポートフォリオ経営は投資会社には適するが、事業会 社には馴染まない。再編に係る事業評価においては、財務的な数値面のみならず 技術面などの非定量評価も必要と考えている (撤退等の基準策定への考え方:肯定的な意見) 事業ポートフォリオ入れ替えの明確な基準がなく、現在基準を検討中である。定
27 (撤退等の基準策定への考え方:否定的な意見) 事業再編は事前に整理されたロジックや数値基準による一律判断ではなく、機会 に応じて個別の案件毎に検討を行っている。なお、明確な基準はなくとも、経営 課題の認識や事業の将来性の見通しにより、撤退候補事業の優先順位付けのよう なものは暗黙的に存在している (3)高い収益目標 3 つ目は「高い収益目標」である。事業売却等を判断する際、長期的な観点をベース として多面的に事業を評価していることは前述のとおりであるが、その大前提として、 高い収益目標が設定されていた。だからこそ、赤字や低収益性の事業を数多く抱え込む ことがなく、また、高い収益性を維持するために、自社の長期的な方向感や戦略に合致 しないと判断した事業からは売却を含めた再編を行うことが出来ていると考えられる。 株式市場に上場している公開企業にとっては、当然と言えば当然の話ではあるが、この 高い収益目標が好循環を保つことに繋がっている。 なお、ヒアリングでは、自社の収益基準では売却対象の事業となっても、買い手には 十分に魅力的なケースもあることが指摘され、それが前述の「売り手」「買い手」「売却 事業に係わる従業員」の3 者にとっての「Win-Win な状態」をもたらす結果になると 考えられる。以下に、ヒアリングで挙げられたコメントを紹介する。 数値基準のハードルは、他の企業と比較して高いと思われる。自社の高い収益基 準をもとにすると、売却対象とした事業であっても売上も利益も十分に出ており、 買い手にとっては魅力的な事業となっているため、複数による競争入札となるこ ともある EPS のような短期の定量指標は重視せず、長期的な収益性や成長性を重視してい るものの、株主のプレッシャーは強く、単年の収益目標も高いと考えている 現在策定している中期経営計画では、従来の倍近くに収益目標を上げる見込みで ある (4)多様性を持ったガバナンス体制 4 つ目に挙げられるのは「多様性を持ったガバナンス体制」である。前述の「高い収 益目標」と対になる項目でもあるが、事業再編の推進にあたっては社外取締役を中心と したコーポレートガバナンスのあり方への言及も多かった。もちろん、事業再編に関す
28 株主を意識した観点から非常に厳しい議論が展開される」、「取締役会の説明ストーリー が社外を意識した分かりやすいものになった」、という声が寄せられ、第3 者的な観点 と多様な経験を有する社外取締役の存在が事業再編を推進していることが伺われた。以 下に、ヒアリングで挙げられたコメントを紹介する。 社外取締役の増加に伴いガバナンスが強化され、事業再編に関して交わされる議 論も想像以上に活発化したという認識である。中期計画や事業再編に関しては社 外取締役から非常にストレートな議論が投げ掛けられ、専門知見をもった社外取 締役に経営企画が意見を求めに行くこともある。ただし、社外取締役によるガバ ナンス強化は多分に社外取締役の経験や資質による部分が大きく、導入すれば効 果があがるというものではない 社外取締役の存在により議論が活発化し、社内の説明におけるストーリーの判り 易さが向上したと認識している。社外取締役の選定にあたっては、官僚経験者、 学識者、女性等、産業界以外の多様性を意識している
取締役会は、社内メンバーはCEO(Chief Executive Officer)のみで、他は全て 社外取締役で構成されている。事業再編に関しては経営陣に対する権限委譲の閾 値が低く、相当数の事業再編の案件が取締役会において議論されている 個人のリーダーシップを前提にせずとも、組織としてポートフォリオ経営が可能 になるためには社外取締役数は増えたほうが良いと考えている (5)従業員への配慮 5 つ目として「従業員への配慮」を挙げる。前述までの 4 つの観点により、事業の取 捨選択が出来たとしても、従業員への配慮なくして「好循環を生み出す事業再編」を実 現することは難しい。前節でも触れたとおり、今回の調査を通じ、日本企業と比べて雇 用を重視しないと思われがちな海外企業においても、様々な形での従業員へ配慮してい ることが確認できた。 具体的には、法的な要請に基づいているということもあるが、「転籍にあたっては十 分な説明を行い、同意を得ること」「売却前と労働条件が変わらない契約形態とするこ と」などはいずれの企業においても見られた。さらに、一定期間は株式を保有し、雇用 の維持を見届けることにより、移管される従業員の安心感を醸成しているケース9もあ 9 2007 年 3 月 7 日におけるフィリップス元 CEO ジェラルド・クライスターリー氏に対す る日本経済新聞のインタビュー記事および2013 年 7 月 15 日における日本経済新聞「フィ リップスの復活の教訓」を参照している
29 ピンオフし、対象事業のマネジメント層やメンバーに完全な裁量権を与えることで、モ チベーションを高めているケースも見られた。以下に、ヒアリングで挙げられたコメン トを紹介する。 自社において、収益性はあっても「キャッシュカウ」のように位置づけられた事 業は投資対象とはなっていないが、その事業が売却対象となり、売却先で中核事 業と扱われる場合には、当事者の担当役員や従業員は切り出されることに悲壮感 がなく、前向きに捉えることもある。また、売却形態もスピンオフとなっており、 完全に裁量権が与えられるので、移管対象人員のモチベーションは上がっている 事業売却の際、原則として人員は社内で再配置または売却先に転籍されると認識 している。同じような事業を営んでいることもあり、雇用条件も大きく変わらず、 売却に伴う転籍の際に、売却先での雇用条件の変更により従業員が辞めたという 話は聞いた事がない 事業売却に伴い人員は原則として転籍する方針であると理解している。なお、事 業売却に先立って、必要に応じて配置転換や希望退職募集も行っている 再編に際して雇用問題は相当注意深く意識しており、事業の売却時も雇用維持が 前提となっている 売却に際しては従業員からは売却先への転籍同意を取る。ただし、買い手との合 意事項に移管人員数が定められる場合やもともとの事業の建て直し計画に人員削 減が含まれている場合には、転籍同意に先立って従業員のリストラや配置転換が 行なわれる場合もある (6)強いリーダーシップ 最後に挙げるのは「強いリーダーシップ」である。自社のビジョンや戦略を見据え、 必要に応じて黒字事業の売却も行いながら、高収益・高成長の事業ポートフォリオに組 み替えていくには、強いリーダーシップが求められるのは想像に難くないが、今回の調 査でも、事業再編は非常に強力なリーダーシップのもとで行われていることが確認され た。また、グローバル化が進展した現在のような不確実性の高い環境下においては、事 業再編を含めて、従来的なボトムアップ型の意思決定ではなく、強いリーダーシップに もとづいたトップダウン型の意思決定のスタイルが必要との考えから、継続的にリーダ ーを育成する仕組みを整備している企業も見られた。以下に、ヒアリングで挙げられた コメントを紹介する。
30 再編はリーダーと側近のみが関与し、非常にスピーディーに意思決定される 経営陣が交代したタイミングで、大型の事業売却を含めて事業ポートフォリオを 転換しており、リーダーが事業再編に及ぼす影響は非常に大きいものがあると認 識している 収益基準等ではまったく問題のなかった黒字事業の売却を経験しているが、自社 の将来像を見据えた上で、CEO がトップダウンで進めたという理解である。CEO のビジョンで事業ポートフォリオが決まるなど、CEO のリーダーシップが経営の 中核をなしている部分がある (リーダーの育成) 不確実性が高まると従来のような合議的な意思決定でなく、強いリーダーシップ を持った個人の意思決定の比重が高まってくると考えており、階層毎に社内人材 プールを形成して、リーダー教育を実行している。事業や技術には詳しい事業部 長であっても、会社をマネジメントした経験がないままに昇進して社長になって も経営が上手くいくという保証はなく、経営者としての適切なスキルセットの追 加が必要であるという認識が社内で共有されつつある。なお、本社からグループ 会社に一旦出て、外部の経験を積んだ人材が経営トップになるケースが近年は多 く、外部の経験がなければ変革の担い手になるのは困難という意見を持つメンバ ーもいる
31 本章では、前章で考察した好循環を生み出す事業再編をさらに推進させるための政策 的インプリケーションの検討に向け、ヒアリングを通じて挙げられた政策サイドへの期 待を整理する。 ヒアリングにおいては、日本の事業再編に関する法制や各種制度は基本的に整備され ているという認識が大半であったが、事業再編を推進するための政策サイドへの期待と して、法制度や支援策に関する以下の5 つの項目が挙げられた。 (1)一貫した法整備に対する期待 全般的な意見として、事業再編に係る法制、会計・税制の改正や新設において、一貫 した制度設計と適切なタイミングでの周知が必要である点が挙げられた。 事業再編に関する会計制度と税制度に一貫性がなく、実務上、苦労している。法・ 税制については、関連法制を五月雨式で公開し施行するのではなく、一定限の時 間がかかっても構わないので、一貫した法体系に整理されてから公開して欲しい (2)独占禁止法および公正取引委員会に対する期待 日本の独占禁止法自体が大きな障壁となるケースは稀であり、また、監督機関である 公正取引委員会に関しても、事前の調整段階におけるさらなる見解の提示などへの期待 はあるものの、対応に大きな問題はないという意見が多数を占めた。 一方で、諸外国、特に新興国においては、法制度や現地の監督機関による運用が不安 定であり、事業再編の際に大きな障壁となっているという声があった。このような状況 に鑑み、日本の公正取引委員会が、各国の監督機関との交渉や連絡を積極的にサポート することを期待する意見が挙げられた。 独占禁止法については、日本の公正取引委員会との間で企業結合審査前から綿密 なやりとりを行うため、大きな問題が生じた事はないと認識している。ただし、 新興国の公正取引委員会の認可に非常に時間を要し、また再提出に伴う費用(専 門家報酬等)が非常に大きいため、海外と日本の公正取引委員会の連携があると 望ましい 独占禁止法の影響は大きいが、日本の公正取引委員会はリーズナブルであるとの 認識である。ただし、予見可能性の向上(事前の見解提示など)に関しては対策 を願いたい。一方、海外の公正取引委員会は理不尽な要求を突きつけてくる場合 があり、そのような場合に日本の公正取引委員会として意見を表明してサポート して貰えるとありがたい
32 いうケースがあると認識している (3)事業再編税制等に対する期待 事業再編時に生じるみなし配当や繰越欠損金の取り扱い、事業再編の対価としての自 己株式の取り扱いに関する意見などが挙げられた。 税制に関しては赤字事業の譲渡にかかる欠損金の取り扱い、事業再編時のみなし 配当課税の見直し等に関して、海外とのイコールフッティングを行ってほしい。 再編に伴う租税関連の検討には時間を要し、再編意思決定の遅れにも繋がってし まっているという認識である 事業再編の対価として自己株式が使いにくい点の改善を期待する。自己株式を対 価として用いるとみなし増資規定が適用され、適時開示の対象となってしまうが、 再編手続きへの影響が大きいため、実質的に使えない。また、自己株式を対価と した場合にはみなし配当の問題もあり、実務上は非常に煩雑となる。自己株式が 対価として使えると小型の再編案件をより頻繁に行う事が出来るようになると認 識している 連結納税を採用しているが、事業再編時の課税関係の取扱いや繰越欠損金の取扱 いが改善されると事業再編を行いやすい (4)労働法制・配置転換に関する各種支援などに対する期待 一般的に日本の労働法制は厳しいと認識されており、このことが事業再編の進まない 要因の一つになっているという仮説を持っていたが、労働法制に対する要望事項は少な かった。この点を踏まえ、日本と同様に労働法制が厳しいと言われているが、早い段階 から事業再編を進めているドイツを例にとって、解雇や事業譲渡に関する労働法制を比 較してみた。限られた情報ではあったが、結果としては、どちらかが極端に厳しいとい った要素は見当たらず、事業再編時の労働条件の変更の有無など、一部は、ドイツの方 が、労働者保護が手厚い部分も見られた。このことから、ヒアリングでも確認されたと おり、日本の労働法制が事業再編の大きな阻害要因となっている訳ではないことが示唆 される。 一方、事業再編に伴う従業員の配置転換など、追加的に発生するコストに対する支援 などの期待が寄せられた。また、企業が機動的に事業再編を行うためには、労働市場の 流動性を高めることが必要であり、そのためには国内の経済成長によって雇用機会を創 出していくことが何よりも有効ではないか、という点が指摘された。
33 意思決定に際し決定的な阻害要因となるような規制はないという認識であるが、 強いて挙げれば社内の配置転換を促進するような補助等は考えられる 雇用規制については、再編の決定的な障害ではないが、社内での配置転換に伴う 再教育に対するインセンティブ等があると望ましい 雇用規制がネックとなり再編を行なわないということはないと認識している (労働市場の流動性の向上) 雇用の流動化については、先ず国内の成長による雇用機会の創出が何よりも重要 だと考える。日本の雇用規制自体はアメリカ以外の国と比較すれば強すぎるとい うことはないと認識しており、また現実にはアメリカでも解雇が平然と受け入れ られ、簡単に解雇が行なえるということはないと理解している (5)その他 上記以外にも、経営人材の育成環境の整備や、国として事業再編を積極的に推進する 事業領域の指定、知的財産権に関する意見が挙げられた。 経営の専門家の育成については、法曹の専門家や会計の専門家と同様に「経営者 が専門能力と経験を要する専門家である」という認識に立ち、育成が行なわれる 事が望ましいと考える 総花的な投資や事業再編の回避の為に、政策としての重点事業の指定などがある とありがたいと考える 知財に関する法律が必ずしも事業再編を念頭においておらず、特に事業再編によ り分離される事業と自社に残る事業の両方で用いられる共有知財の取り扱いが複 雑であるため、見直される事が望ましい
34 ここまで、日本企業の低収益性の要因を考察した上で、直近20 年の累計で見れば日本 企業は事業再編に消極的である一方、時系列的に見れば、日本企業の事業再編は本格化 しつつあることを確認した。その後、「好循環を生み出す事業再編」という、日本企業に 求められる事業再編のあり方を検討した上で、事業再編を後押しするための政策サイド に対する期待を整理した。 本章では、本格化し始めている事業再編をさらに加速させ、日本企業が好循環を生み 出す事業再編へと踏み出すために何が求められているかを考察する。第3 章で整理した KFS(Key Factor for Success)を踏まえ、さらには本調査を通じて得られた企業からの コメントや先行調査も参考にし、以下の4 項目を取り上げる。 (1)真の長期的経営の実践 日本企業の特徴として「長期的経営」がしばしば言及されてきた。例えば、平成 18 年度の年次経済財政報告では、「終身雇用や年功賃金制による企業内部組織」、「企業グ ループや系列といった企業間の長期的な取引関係の構築」といった点が提示されている。 この長期雇用や長期取引をもって、日本企業が「長期的経営」を行っていると評する向 きがあるが、本当にそうだろうか。昨今では別の見解が示されている。 第1 章でも触れた「伊藤レポート」では、「日本企業には中期経営計画を開示する慣 習があるが、その達成度合いは低いこと」、「逆に経営者がその達成度合で評価されると の観念が強い場合には、その計画よりも長期的な視野を持った経営がしにくいこと」、 「経営者の数年単位での交代も、十数年先を見据えた長期投資を躊躇するインセンティ ブになっている可能性があること」といった点を挙げ、日本企業は本当に長期を見据え て経営を行っているのか、という問題提起がなされている10。 このような指摘を踏まえると、第3 章で述べた「中長期的な経営環境を読み解き、事 業ポートフォリオを再定義し、それを実現するための戦略を構築する」といった企業行 動は、日本企業においては限定的と言えるのではないだろうか。したがって、日本企業 の事業再編をさらに加速させ、好循環を生み出し、高収益・高成長の事業ポートフォリ オへと組み替えていくためには、「真の長期的経営」が実践できるかどうかが肝となる。 ここで言う「真の長期的経営」とは、単に長期雇用や長期取引を前提にするのではな く、10 年から 50 年といった時間軸での人口動態や経済成長、エネルギーや技術的な動 向などの中長期的な経営環境を分析し、そこに自社の長期ビジョンや技術優位性、マー ケット上の強みなどを踏まえた上で、戦略を構築、将来の事業ポートフォリオを選択し、 10 平成 26 年 8 月 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関 係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書 P76。なお、本レポートでは、日 本企業は資本市場の短期化の影響を受けて短期志向化している傾向は見られない、あるい はその影響は限定的であるという一般的な認識も示されている
35 である時代になったことを認識し、「長期的経営」が意味するところを考え直す必要が あるのではないだろうか。 この真の長期的経営を実践するためには、①長期的な経営環境を読み解くための体制 構築や情報取得への投資、②自社のビジョンや技術的優位性、マーケット上の強みなど 企業行動の軸となるものに対する共通理解、③それらの要素を組み合わせて戦略や事業 ポートフォリオを構想、実行できる体制の構築や人材の獲得・育成、が求められる。例 えば、米国の主要な化学企業の一つであるDuPont社では、人口の増大を前提として、 「化石燃料依存からの脱却」、「安全なくらし」、「新興市場の増大」、「食糧増産の必要性」 というメガトレンドを読み解き、それに自社のコアバリューや技術的な優位性などを加 味して、事業ポートフォリオを定め、それに向けて積極的に事業再編を進めているよう だ11。 もちろん、それに気づき、取り組みを始めている日本企業もある。今回の調査でもビ ジネスモデルの構築や事業機会への感度を上げていくために、長期的なマクロ環境の分 析に着手しているといった声が寄せられた。しかしながら、このような企業はまだ少数 であり、さらには、それを全社で共有し、事業活動における長期に亘る拠り処としてい る企業はごく限られる。長期的な視点を持ち、それを起点とした経営を愚直に実践して いくことが多くの日本企業にいま求められている。 (2)より高い収益目標の設定 一般的に、日本企業における収益目標は低く、実際に結果も低い。その背景には様々 あるが、資本コストの低さ12や株主からの期待収益率の低さ13などが言及されている。 戦後復興から高度成長期、世界有数の経済大国となった安定成長に至る長きに亘り、日 本企業には雇用を創出し、維持する機能がより求められ、間接金融による資金調達を前 提に、高い収益性が要求されてこなかったとも言える。これがうまく機能し、日本と日 本企業は繁栄を遂げるが、時代が変わって直接金融の比重が高まり、グローバルベース での一層激しい競争も背景に、昨今は諸外国企業に比べて低い収益性を改善しようとの 動きが諸所に見られる。日本版スチュワードシップ・コードやコーポレート・ガバナン スコード、伊藤レポートなどが発信され、企業と株式市場との対話などを含め、持続的 な高収益性への意識を高めている。 この一連の流れの中で、伊藤レポートなどで指摘されているように、ROE8%は最低 11 DuPont HP をもとに記載 12 平成 22 年度年次経済財政報告 第 3 節、第 3 章 13 平成 26 年 8 月 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関 係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書 P43
36 業の目標や実績を踏まえ、より高い水準を目標として設定すべきではないだろうか。 ROE8%、10%も日本企業の現在地を鑑みれば高い水準かもしれない。しかし一方で、 海外企業の目標や実績を目の当たりにしてしまうと、将来を見越したリソースシフトを 積極的に推進するための事業再編を促すトリガーとしては力不足の感がある。 (図表5-1)調査対象企業における中期経営計画* (図表5-2)調査対象企業における ROE 実績値平均(20 年・5 年・3 年) 脚注:GE は営業利益率の代替として Industrial Margin の値を使用 出所:各社アニュアルレポート、中期経営計画を元に、デロイト トーマツ コンサルティング作 成 出所:Bloomberg データを元に、デロイト トーマツ コンサルティング作成
37 もちろん、すべての企業が等しく高い収益目標を設定することは難しいであろう。世 界の主要な企業とNo.1 の座をかけて競争していく企業、それらの企業を支え、国内市 場で競争しながらも雇用を守り、安定的にトップ企業へと製品供給を続ける企業など、 各業界の中での企業の位置づけや役割に応じた収益目標を設定し、機関投資家への説明 や株主総会、各種のパブリックリレーションにより、株式市場とも対話を重ねて企業の 目標への理解を図っていくことが現実的な路線ではないかと考えられる。 これが実現されれば、第3 章で触れた、「自社の収益基準では売却対象の事業となっ ても、買い手には十分に魅力的なケース」が起こりやすくなり、結果として、「売り手」 「買い手」「売却事業に係わる従業員」の3 者にとってのさらなる展望をもたらすよう な好循環を生み出す事業再編が加速されるのではないだろうか。 脚注1:海外売上高比率 20%以上で多角化度については、Bloomberg のセグメントデータを元に、 HHI(ハーフィンダール指数)を算出。セクター別売上高・営業利益の両方を、FY 2006-13 の 8 期連続で取得可能な企業が調査対象 脚注2:多角化度 H は各国の多角化度の上位 50%企業を対象とし、多角化度 L はその他の企業を 対象としている 出所:Bloomberg データを元に、デロイト トーマツ コンサルティング作成。分析対象企業を以 下の条件で抽出した。①「金融」「エネルギー」「公益」に含まれる企業を除外、②10 年間連続で 全社売上高を取得できない企業を除外、③①・②の操作を行った後、直近12 か月(LTM)の連 結売上高上位500 社を抽出、④③で抽出した企業群から、海外売上高比率 20%未満の企業を除外。 さらに、売上高・ROE を FY 2006-13 の 8 期連続で取得可能な企業が調査対象