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それを実行していくことである。もちろん、産業によって時間軸は異なるものの、企業 を取り巻く環境が、比較的安定的であった時代から、現代のように変化することが前提 である時代になったことを認識し、「長期的経営」が意味するところを考え直す必要が あるのではないだろうか。
この真の長期的経営を実践するためには、①長期的な経営環境を読み解くための体制 構築や情報取得への投資、②自社のビジョンや技術的優位性、マーケット上の強みなど 企業行動の軸となるものに対する共通理解、③それらの要素を組み合わせて戦略や事業 ポートフォリオを構想、実行できる体制の構築や人材の獲得・育成、が求められる。例 えば、米国の主要な化学企業の一つであるDuPont社では、人口の増大を前提として、
「化石燃料依存からの脱却」、「安全なくらし」、「新興市場の増大」、「食糧増産の必要性」
というメガトレンドを読み解き、それに自社のコアバリューや技術的な優位性などを加 味して、事業ポートフォリオを定め、それに向けて積極的に事業再編を進めているよう だ11。
もちろん、それに気づき、取り組みを始めている日本企業もある。今回の調査でもビ ジネスモデルの構築や事業機会への感度を上げていくために、長期的なマクロ環境の分 析に着手しているといった声が寄せられた。しかしながら、このような企業はまだ少数 であり、さらには、それを全社で共有し、事業活動における長期に亘る拠り処としてい る企業はごく限られる。長期的な視点を持ち、それを起点とした経営を愚直に実践して いくことが多くの日本企業にいま求められている。
(2)より高い収益目標の設定
一般的に、日本企業における収益目標は低く、実際に結果も低い。その背景には様々 あるが、資本コストの低さ12や株主からの期待収益率の低さ13などが言及されている。
戦後復興から高度成長期、世界有数の経済大国となった安定成長に至る長きに亘り、日 本企業には雇用を創出し、維持する機能がより求められ、間接金融による資金調達を前 提に、高い収益性が要求されてこなかったとも言える。これがうまく機能し、日本と日 本企業は繁栄を遂げるが、時代が変わって直接金融の比重が高まり、グローバルベース での一層激しい競争も背景に、昨今は諸外国企業に比べて低い収益性を改善しようとの 動きが諸所に見られる。日本版スチュワードシップ・コードやコーポレート・ガバナン スコード、伊藤レポートなどが発信され、企業と株式市場との対話などを含め、持続的 な高収益性への意識を高めている。
この一連の流れの中で、伊藤レポートなどで指摘されているように、ROE8%は最低
11 DuPont HPをもとに記載
12 平成22年度年次経済財政報告 第3節、第3章
13 平成26年8月 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関 係構築~」プロジェクト(伊藤レポート) 最終報告書 P43
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限、あるいは 10%を目指すべきなど、日本企業において今までの水準から一段高い収 益目標が設定されつつあるが、好循環を生み出す事業再編をもたらすためには、海外企 業の目標や実績を踏まえ、より高い水準を目標として設定すべきではないだろうか。
ROE8%、10%も日本企業の現在地を鑑みれば高い水準かもしれない。しかし一方で、
海外企業の目標や実績を目の当たりにしてしまうと、将来を見越したリソースシフトを 積極的に推進するための事業再編を促すトリガーとしては力不足の感がある。
(図表5-1)調査対象企業における中期経営計画*
(図表5-2)調査対象企業におけるROE実績値平均(20年・5年・3年)
脚注:GEは営業利益率の代替としてIndustrial Marginの値を使用
出所:各社アニュアルレポート、中期経営計画を元に、デロイト トーマツ コンサルティング作 成
出所:Bloombergデータを元に、デロイト トーマツ コンサルティング作成
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(図表5-3)本社所在地別の多角化度別ROE比較*
もちろん、すべての企業が等しく高い収益目標を設定することは難しいであろう。世 界の主要な企業とNo.1の座をかけて競争していく企業、それらの企業を支え、国内市 場で競争しながらも雇用を守り、安定的にトップ企業へと製品供給を続ける企業など、
各業界の中での企業の位置づけや役割に応じた収益目標を設定し、機関投資家への説明 や株主総会、各種のパブリックリレーションにより、株式市場とも対話を重ねて企業の 目標への理解を図っていくことが現実的な路線ではないかと考えられる。
これが実現されれば、第3章で触れた、「自社の収益基準では売却対象の事業となっ ても、買い手には十分に魅力的なケース」が起こりやすくなり、結果として、「売り手」
「買い手」「売却事業に係わる従業員」の3者にとってのさらなる展望をもたらすよう な好循環を生み出す事業再編が加速されるのではないだろうか。
脚注1:海外売上高比率20%以上で多角化度については、Bloombergのセグメントデータを元に、
HHI(ハーフィンダール指数)を算出。セクター別売上高・営業利益の両方を、FY 2006-13の8 期連続で取得可能な企業が調査対象
脚注2:多角化度Hは各国の多角化度の上位50%企業を対象とし、多角化度Lはその他の企業を 対象としている
出所:Bloombergデータを元に、デロイト トーマツ コンサルティング作成。分析対象企業を以
下の条件で抽出した。①「金融」「エネルギー」「公益」に含まれる企業を除外、②10年間連続で 全社売上高を取得できない企業を除外、③①・②の操作を行った後、直近12か月(LTM)の連 結売上高上位500社を抽出、④③で抽出した企業群から、海外売上高比率20%未満の企業を除外。
さらに、売上高・ROEをFY 2006-13の8期連続で取得可能な企業が調査対象
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(3)経営人材育成の仕組みの整備
ヒアリングを通じて各社に確認したところ、意外な程、経営人材育成の仕組みを、は っきりとした意図をもって整備している企業は少なかった。
第3章で整理したKFSで触れたとおり、強いリーダーシップを擁する経営者を輩出 し続けられることが好循環を生み出す事業再編を推進するための要諦となるが、どのよ うなことを意識して経営人材の育成の仕組みを整備すべきであろうか。この点に関して、
第3章で紹介した「事業や技術には詳しい事業部長であっても、経営者になる過程にお いては、適切なスキルセットの追加が必要である」という企業からのコメントが示唆に 富んでいる。すなわち、経営者たる人材には、複数の事業部門、あるいはスタッフ部門 も含めたマネジメント経験や全体最適を実現するためのリソース配分に必要なファイ ナンス理論や組織機能論、株主視点を正しく認識するための資本市場に対する理解など、
「経営の専門的なスキル」を身につけさせる必要がある。
もちろん、経営の専門的なスキルは多岐にわたり、企業の置かれているステージや志 向する戦略などにより異なる部分もあり、一概には定義しづらい。しかし、大きな転換 の潮目にある現代の日本企業の経営者には、共通的に「目利き力」とでもいうべきスキ ルが求められるのではないだろうか。
投資対象や売却候補事業を決定する際には、多面的な評価とそれに基づいた総合的な 判断が必要になる点を指摘したが、「目利き力」とはまさにこれを的確に行う力を意味 している。この目利き力を養うためには、自社の技術優位性やマーケットにおける強み を理解していることはもちろん、成長性や収益性といった各種の定量分析に基づいた上 でビジネスモデルを構想し、どの程度の利益が挙がり、どの程度のキャッシュが稼げる のかを読み解くための「ビジネス×ファイナンス」の感覚を持つことが非常に重要にな る。したがって、特定の事業領域や技術で強みを持つことは前提としても、サイロ的に 1つのテクニカルスキルに依存し過ぎることなく、複数の事業を経験させながら、ファ イナンスの素養を与えることで、事業部長目線ではなく企業経営者目線で判断ができる 準備、つまりはマネジメントスキルを意図的に身につけさせることが経営人材育成に欠 かせない要件となる。逆に、ファイナンスの現場で育ってきた人材に事業部長を経験さ せることでビジネスの素養を付けさせる、といったやり方もあろう。実際、日本企業の
中にも CEO(Chief Executive Officer)になる前に意図的に CFO(Chief Finance
Officer)を経験させている企業もある。また、米系企業などでも、社内のファイナン
スにおける育成プログラムを経ることが経営者の登竜門になっていることや、CEO へ のキャリアパス上に、CFOが含まれる場合も少なくない。