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フランスにおける充填式抵当権(l'hypothèque rechargeable)と抵当権付終身貸付(le prêt viager hypothécaire)について : グリマルディ教授の解説を中心として (【退職記念号】 圓谷 勝男 教授 佐藤 清勝 教授 エルンスト・ロコバント 教授) 利用統計を見る

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フランスにおける充填式抵当権(l'hypotheque

rechargeable)と抵当権付終身貸付(le pret viager

hypothecaire)について : グリマルディ教授の解説

を中心として (【退職記念号】 圓谷 勝男 教授 佐

藤 清勝 教授 エルンスト・ロコバント 教授)

著者名(日)

太矢 一彦

雑誌名

東洋法学

52

2

ページ

185-209

発行年

2009-03-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000678/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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︽研究ノート︾

フランスにおける充填式抵当権︵一、ξ8跨8器お。ご旙8巨Φ︶

付終身貸付︵一Φ榎稗≦謎Rξb9箒。導Φ︶について

   ーグリマルディ教授の解説を中心として1

       太 矢  一 はじめに

と抵当権

 フランスでは、政府によるオルドナンス︵○巳○目き8昌。88−ω&倉8B震ω88N色魯奉碧図ω日9需︶に       ︵1︶ よって、二〇〇六年に担保法の大規模な改正が行われた。  今回のオルドナンスの目的は、現存する利益の均衡を維持しつつ、経済活動を行う者だけではなく、全ての市民 にとっても、担保法を読みやすく、より実効性のあるものとするための現代化を行うことにあるとされる。そして そのようなことから、今回の改正では、民法典に新しく担保のための﹁第四編︵享お︶﹂を創設することで、法典 化というフランスの伝統に則りながら、法を読みやすくしたとされ、さらに、担保の設定を容易にし、担保の品数 を増やし、実行方法を簡素化する改革的な規定を提案し、それに応じて、貸付に頼る者の保護規定を準備すること       ︵2︶ で、担保の実効性と債務者の保護という目的を達成したとされている。 185

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypoth色que rechargeable)と抵当権付終身貸付(le pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕  今回のフランス担保法改正については、二〇〇三年七月に国璽尚書によって、グリマルディ教授を中心とする作 業グループに担保法改正の検討が要請され、担保法改正委員会が設立されたことに始まる。この作業グループの構 成について、金山教授のヒアリング調査によると、委員長のグリマルディ教授の人選により、大学教授が五名、そ れに加えて、委員として、銀行関係者二名、司法官︵控訴院︶一名、公証人一名、弁護士一名が任命され、これら の各界代表者の人選のため、司法省は、公証人については全国公証人評議会に、弁護士については全国弁護士会評 議会に、銀行関係者についてはフランス銀行協会に、そして司法官については司法省に対して、誰を委員とするか        ︵3︶ につきそれぞれの職業を代表する団体の意見を聞いた上での人選がなされたようである。  その後、二〇〇五年三月三一日に、この委員会による予備草案が司法大臣に提出され、その予備草案に基づき ﹁経済の近代化及び信用のための二〇〇五年七月二六日ロワ八四二号﹂で、民法、商法、消費者法を改正する授権 を定める二四条が規定され、その授権の範囲内で二〇〇六年のオルドナンスが制定されることになる。  このように今回のフランス担保法改正は、オルドナンスの授権によってなされたため、特に不動産担保法関連に おいては、改革の範囲対象が限定され、その結果、当初グリマルディ教授のグループが企図していた不動産先取特         ︵4︶ 権の改革が見送られ、実質的には抵当権改革がその中心となったといえる。そして、抵当権改革の主たる狙いは、 先に述べたオルドナンスの目的として明記された担保の設定を容易にし、担保の品数を増やす一方で、それとのバ        ︵5︶ ランスを図る為貸付に頼る者の保護規定を充実させることにあり、その具現化が充填式抵当権︵一.ξ8毎8器串 o富お$巨の︶と抵当権付終身貸付︵一①榎騨≦禮段ξ8岳σo魯Φ︶の二つの新制度にあるといえよう。  わが国の抵当制度は、フランス民法と同様保全抵当としての性質が強いといえ、﹁特定性﹂の原則との関係にお いても、今回のフランス法の改正は、今後のわが国の抵当制度を考えるにあたって参考になるものと思われる。ま 186

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た、社会福祉の観点から、抵当権を活用した終身貸付制度なるものを法制化したことは注目に値しよう。  このようなことから、本稿では今回のフランス担保法改正における充填式抵当権と抵当権付終身貸付を取り上       ︵6︶ げ、今回の改正作業において主たる役割を果たしたグリマルディ教授の解説を中心に、両制度についての紹介およ          ︵7︶ び若干の考察を試みたい。 一一充填式抵当権︵一、7<Uo号9⊂①δ9①品8σ一Φ︶  1 概念  今回の担保法改正によって新たに創設されたフランス民法典二四二二条は﹁抵当権は、設定行為において、明示 に予定している場合には、設定行為で記載された債権とは別の債権の担保として後から充当することができる﹂と し、充填式抵当権についての規定をおいた。  充填式抵当権とは、同一の抵当権に、引き続き発生する債権を担保することを認めることで、当事者の意思によ る抵当権のリサイクルを認めるものとされ、この制度は、ベルギー法などすでにヨーロッパの立法において行われ       ︵8︶ ているものにならって、フランス法の約定抵当権に導入したものであるとされる。        ︵9︶  充填式抵当権の利点は、新たに抵当権を設定するための費用を避けられることにあり、このことによって抵当権 の運用を容易にし、消費への貸付を活発にすることが目指されている。 グリマルディ教授は、フランス民法典二四二二条で充填されることになる﹁設定行為で記載された債権とは別の 187

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypot艶que rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pr6t viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕       ︵10︶ 債権﹂と、フランス民法典二四二一条が規定する﹁将来債権︵R8琴8翫9自8︶﹂との違いを次のように解説して いる。    民法二四二二条の規定は、民法二四二一条で明確に有効とされた将来債権を担保する約定抵当権と区別されるもので   ある。民法二四二一条の意味からすれば、将来債権とは、未だ発生していないもので、それにもかかわらず、抵当権設   定行為によって対象とされ、予定された債権であると理解されている。すなわち、原因︵85①︶、起源︵ω○員8︶が、   設定行為において指し示されなければならないのである。︵例えば、締結されるこれこれの契約によって発生する債権   というようにである︶。    別の言い方をすれば、将来債権を担保する約定抵当権は、抵当権設定時において特定しうる債権をより確実なものと   するものである。それに対して、充填式抵当権は、設定行為において将来の債権も現在の債権も区別することなく、未   知で特定しえない債権を担保する資格を有するのであり、充填式抵当権が消滅しない限り、抵当権設定の合意時に既に   発生している、あるいは合意の後にのみ発生するであろう債権を充当することができるのである。これは不動産を取得   するために負った借金を担保するために合意された抵当権が、後から生じる消費に関する借金の担保として充当される   ことを容認するもので、都合に応じて、あとから活用することが認められる外観を生み出すという特徴を有する。    将来債権を担保する抵当権と充填式抵当権は、その目的とする対象以外にも、それによって利益を得る人によっても   区別される。すなわち、前者は、設定行為によって特定された将来の債権から担保を得る債権者の利益のためである   が、後者は、担保を再利用する自由を得る者の利益のために認められるのである。    しかし、そうであるからといって、充填式抵当権が、抵当権を有しない債権者の手の届かないところにおかれて、充   填式抵当権者のためだけの権利を留保するものでも、不動産の価格について、その全体の権利を保持することを認める 188

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ものではない。充填式抵当権の負担のある不動産は、通常の抵当権の負担のあるものと同様に、それが抵当権によって 担保されている債権や充当されるべき代価がなければ、抵当権のない債権によって差し押さえができることに変わりは ︵11︶ ない。  2 適用範囲  充填式抵当権は、抵当権を容易にし、消費への貸付を活発にさせるというオルドナンスで示された目的に従っ て、広くひらかれたものとされている。もっとも、消費者法典で規律される貸付を担保する場合には、その形式的 条件を満たさなければ、刑事上の重い制裁が課される︵消費者法三一三−一四−一条、消費者法三一四ー一四−二 条︶。また、リボルディング貸付に関しては適用が除外されている︵消費者法三一三−四条二項︶。  フランス民法典二四二二条は、充填式抵当権を﹁抵当権は、その設定行為において、明示に予定している場合に は﹂と定め、当事者の合意による特別な条項を置くことを前提に認める︵民法二四二二条一項︶。なお、オルドナ ンスの効力発生前に登記された抵当権についても、充填可能とすることができるとされており︵○轟⇒.88−G&        ︵12︶ 詑B胃ω80曾旨8︶、また、オルドナンスの追認法によって、二〇〇七年二月二〇日から二年間の猶予期間内に        ︵13︶ おいては、金銭の貸主の先取特権も、充填式抵当権に変えることができるとされている。  3 充填の合意  充填の合意は、たとえ最初に担保された債権が完全に弁済されていなくても行うことができるが︵民法二四二二 条二項︶、あらかじめ元本の最高限度額︵鋤富旨Φ自α、巨Φ8BBΦα簿震巨話①︶について公正証書に記載しておか 189

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypot艶que rechargeable)と抵当権付終身貸付(le pr6t viager hypothecaire)について〔太矢 一彦〕 なければならず、それを怠ると抵当権設定行為自体が無効とされる︵民法二四壬二条一項︶。  充填の合意は、公証人が作成した証書によって効力を生じ、それは欄外に記載する形式によって公示され、それ がなされない場合には第三者に対抗することができない。︵民法二四二二条三項、四項、民法二四三〇条三項︶  また、充填の合意︵8薯①呂98お魯蝉鑛①B①昌︶は、当初の債権者︵一ΦR8目σ9讐冨冨︶との間において も、また新たな債権者︵一①ぎ¢奉窪R8目再︶との間においてもなすことができる︵民法二四二二条三項︶。これ は、借主が、銀行の﹁囚われ人︵賓一ω9巳段︶﹂となることを避け、銀行間の自由な競争を阻害しないためであると   ︵14︶ される。  フランス民法二四壬二条二項の規定する﹁元本の最高限度額﹂に関して、グリマルディ教授は、次のように問題 設定をした上で、解説している。   充填式抵当権は、最初の債権者の被担保債権額を超える金額についてまで、充填の合意することができるのか。   この点について、論理的観点からすれば、抵当権は、被担保債権と分離可能であることから、それらの総額が異なると  いうことは突飛なことではなく、また実用的観点からも、それらの総額がより高額となる複数の債権を担保すればするほ  ど同一の抵当権は役に立つことになる。法ではなく道理によって課される唯一の制限は、不動産の価額である。単純にこ  のような場合、登記一覧表において二つの上限額を記載すべきである。それは債権の総額についてと抵当権によって担保  される総額についてである。その二つの総額はその担保の第三者への対抗に関しても重要となる。   確かに、複数の条文からすれば、充填式抵当権が、最初の被担保債権額と等しい金額を担保するものであるとみること  ができる。例えば、充填式抵当権の設定に関して、民法二四二三条は、﹁定められた金額﹂の記載を要求しており、そこ 190

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では、﹁場合によっては、当事者は、そのために不特定で不確定又は条件付の定期金、給付、そして権利についての評価 を行う﹂としていることから、民法二四二三条の﹁定められた金額﹂は、被担保債権額の明示であることを想起させる。 また、充填式抵当権の記載事項に関して、民法二四二八条三項三号、四号は、登記申請書に、﹁債権の元本、その附帯金 及び請求が可能となる時期についての記載﹂を含んでいなければならないことを規定する。私︵グリマルディー筆者注︶ の考えでは、この記載は、第三者への対抗を保証するための登記における抵当権の担保額が、被担保債権の総額に等しい ということを確実であるとみなすためであろう。  しかし、その一方で、動産信用あるいは不動産信用に対して充填式抵当権の枠組みをつくるために消費者法典に挿入さ れた規定では、債権の申込は最初の書類に付属して﹁抵当権の現状﹂あるいは﹁抵当権設定合意によって定められた上限 担保金額﹂や﹁場合によっては、後から申し込まれた借金の総額﹂︵消費者法一三三ー一四条一項︶についても含んでい なければならないと規定している。これは、担保される合計額が、最初の債権の金額とは異なっていることを前提として いるのである。他にも、民法二四二八条三号は、﹁︵民法︶二四二二条で予定された充填条項﹂の申請書で﹁明示の記載﹂ を要求しており、その﹁明示の記載﹂で、担保の最大限度額の情報を明確にしておかなければならないという意味が含ま れている。  したがって、今後この点については、実務や裁判によって、充填式抵当権の発展を可能にする自由な解釈のための位置 づけがなされることが期待される。というのも、抵当権の論理においては、その全てのものが、担保総額が最初の債権額 を超えることを正当化するが、登記の一般作用においては、被担保債権の総額を超える金額の抵当権の登記は禁止されて     ︵15V いるのである。 191

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypot艶que rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕  4 債権者間の順位        ︵16︶  充填によって利益を受ける新しい債権者は、以前に存在した登記に忍び込む︵ω①讐ω器︶とされる。  充填式抵当権の形式で登記された債権者間︵最初の債権者と充填の利益を受けた債権者︶の優劣は、それぞれの 公示の日付において、先に公示をなした債権者が優先することとなる。  ただし、保全を目的とする抵当権者の利益のために、充填の合意についての公示が、裁判上の保全抵当権の登記 よりも後になされた場合には、裁判上の保全抵当権の登記が充填の合意よりも先順位であるとみなされるとの例外       ︵17︶ がフランス民法典二四二五条五項で規定されている。したがって、すでに充填式抵当権の負担のある不動産に抵当 権の登記をした債権者は、後に充填の合意を公示した債権者に優先するのであり、別の言い方をすれば、充填の合 意は、それが保全を目的とする抵当権と対立する場合には、その充填の合意の公示と裁判上の保全抵当権の登記の 日付によって順位が決められるのである。 グリマルデイ教授は、この抵当権者間の順位について次のように述べている。   最初の債権者は、その相互関係において、第一順位の権利を付与される。例えば、充填式抵当権が、Aによって六月  一日に登記され、通常の抵当権︵第二順位の抵当権−筆者注︶がBによって七月一日に登記され、充填の合意がCに  よって八月一日に公示されたとする。不動産の価額に対しての順序は、A、次いでC、最後にBの順になる。   ここにみるように、その例は単純であり、すでに充填式抵当権の負担を負った不動産を担保として提供された債権者        ︵18︶  は、第二順位の抵当権よりも、充填の合意を選ぶに違いない。 192

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グリマルディ教授はこの問題とも関連して、さらに次のような問題を提起し、抵当権者間の順位について解説し ている。    まず、充填の合意は、最初の債権が弁済されたことを前提とするのであろうか。    明らかに否である。民法二四二二条二項は﹁設定者は設定行為において予定されかつ民法二四二三条に書かれた金額   の限度において、当初の債権者に対してのみならず、その債権が弁済されてなくても、新たな債権者に対しても、担保   を提供することができる﹂と規定している。単純に、新しい債権者は、最初の債権者との関係において、二番目の債権   者の地位になるのである。    すなわち、最初の債権が、時期が来れば抵当権が担保するものの全体を奪う余地があるのであれば、担保が不完全で   あるということである。交互計算や、リボルディング貸金︵消費者に対してのものでない︶で、未払いとなっているも   のや、財物又はサービスなどの提供の対価のような、不確かな金額である債権については、特に強いリスクがあるので   ある。その充填合意による担保の総額が、最初の債権の金額を越える場合、その担保は、二番目の債権者に安心を与え   るのである。すなわち、その差額においては、二番目の債権者は、最初の債権者に危険を感じないであろう。    では、次に第二順位の新しい抵当権は、充填しうる第一順位の抵当権に対して、何らかの有用性を持ちうるのであろ   うか。    新しい債権が、充填式抵当権の被担保債権額を超える金額である場合においても︵弁済時に債務の履行がなされてお   らず、そのことによって、担保としての効力を有したままとなっている前の債権の総額を減じた状態で︶、必然的に不        ︵19︶   動産の価額が、それを容認するのは確かなのである。 193

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypotheque rechargeable)と抵当権付終身貸付(le pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕  ここでのグリマルディ教授の見解によれば、まず最初の債権が弁済されたことを前提とするかとの問に対して は、充填の合意が行われるのに最初の債権が弁済されている必要はないとされる。そして、最初の債権の弁済がな されていなくても、少なくとも最初の債権額と、あらかじめ設定された﹁最高限度額﹂との差額分については、二 番目の債権者には危険が生じないとされる。  また、その場合、次に問題とされた第二順位の担保の有用性については、充填式抵当権の設定時における﹁元本 の最高限度額﹂と、不動産の価額との差額が、後順位の担保権者にとって担保の有効性の判断基準となるとされる のである。  しかしこの考え方に対しては、ファルジュ教授によって、次のような疑問が述べられており、そこでの見解をま とめると以下のようになる。    ここでは、説明を単純にするために、負債総額の元本を表す部分と利息を表す部分とを区別しないで議論する。    二〇〇六年六月一日、債権者Aが第一順位の充填可能な約定抵当権の登記をし、その場合、彼の債権の総額である   一〇〇〇〇〇を超えない﹁定められた金額﹂において、充填可能の設定がなされた。    その時の不動産の価値は一六〇〇〇〇である。    二〇〇六年七月一日、債権者Bは、彼の債権額五〇〇〇〇の金額に対応する﹁定められた金額﹂において、第二順位   の︵充填ではない︶﹁通常﹂の約定抵当権を登記する。    二〇〇六年八月一日、債権者Cは第一順位の抵当権についての充填の利益を受ける。それは、同日七〇〇〇〇を欄外   に公示される。︵Aの債権が、部分的にさえも弁済されていなくてもである。︶ 194

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 二〇一〇年、不動産は二〇〇〇〇〇で売却された。  Aには八OOOOの金額の債権が、Bは四〇〇〇〇の金額の債権が、Cは五〇〇〇〇の金額の債権が、それぞれ残さ れているものとする。  その際、不動産の代価についての充当は次のようになされる。  AとCは一〇〇〇〇〇について第一順位を有し、それぞれの権利関係は、公示の順番によって解決される。したがっ て、Aは第一順位の弁済を受けることから、債権額について完全に弁済され八OOOOを受け取り、Cは二〇〇〇〇を 受け取り、残りの債権︵三〇〇〇〇︶については無担保の債権者となる。第二順位のBはAとCの弁済の後に残ってい る一〇〇〇〇〇について、彼に支払わなければならない四〇〇〇〇を受け取る。  このような場合には、Cは第三順位の抵当権を設定するよりも︵二〇〇〇〇について、Bに優先できる点で1筆者 注︶利点があるように思われる。それはたとえ別の債権者が充填の利益を受けていたとしてもである。  しかし、最悪なのは、Cは第三順位の抵当権者の資格であれば、六〇〇〇〇の残金についての弁済を得ることができ たということである。すなわち、その支払金は次のようなものとなろう。  二〇〇〇〇〇︵不動産の価額︶1︵マイナス︶一〇〇〇〇〇︵充填式抵当の保持者に支払わなければならない最大金 額︶1︵マイナス︶四〇〇〇〇︵第二順位のB債権者への充当︶  このように、Cは彼の債権の全ての部分に対して無担保債権者とはならないのである。  それは、適切な助言をする立場にある公証人にとって、困難なこととなる。  その例にとどまらずここで述べたことは、最初の債権額を上回る抵当権の充填が抵当権の侵害に関して新たな紛争要 因となることである。 195

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フランスにおける充填式抵当権(rhypotheque rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕  その契約日に三〇〇〇〇〇の価値の不動産に設定された抵当権を考察してみよう。  これには、約定された最初の貸付︵一〇〇〇〇〇︶の金額を超える二〇〇〇〇〇について、設定行為において﹁定め られた金額﹂として充填可能の条件がつけられていたとする。  この場合、第二順位の抵当権は、一〇〇〇〇〇の債権を担保するのに何らかの有用性があるのであろうか。一見すれ ば、あるであろう。  たとえ契約当事者が抵当権によって保護される全体を支配していたとしても、第二順位の抵当権の資格のある債権者 は、自由に処分しうる一〇〇〇〇〇について弁済を受けることができるはずである。︵全ての第一順位の抵当権の恩恵 を受ける債権者が順に弁済を受ける代価三〇〇〇〇〇1︵マイナス︶二〇〇〇〇〇の不動産の価値に相当する︶。  しかし、その見通しは、少なくとも不動産がその価値を維持していることが前提となる。  その権利を確保するためには、二番目の債権者はいかなる場合にも第二順位の抵当権の設定と同時に充填の合意をな すことが必要であろう。それは、後から充填式抵当に忍び込み、価値が低下した不動産の代金について、優先する債権 者から保護されるためなのである。  また別の可能性としては、第二順位の抵当権者は最初の抵当権の充填しうるという特色を当事者によって放棄される ことで貸付を行うことである。放棄︵法はそれをいっていない︶は登記された最初の債権者に損害を与えない限り可能 であろう。その様な放棄は、最初の債権が弁済されなければならないものである以上、抵当権がもはや充填可能ではな        ︵20︶ いことを欄外に記載することで明示される。 196

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 5 消滅について  充填式抵当権は、 二四八八条︶。 主たる債権の消滅によっても、債権者による抵当権の放棄によっても消滅しない。︵民法 東洋法学第52巻第2号(2009年3月) この点について、グリマルディ教授は、次のように解説する。   充填式抵当権は、主たる債権よりも生き延びるものであり、新しい債権担保の申込をすることのできる契約当事者の  手によって自由に処分できる。   そして、抵当権の放棄については、土地の登記の面で、抵当権がもはや充填可能ではないということ︵支払わなけれ  ばならない債権は残っているが︶を、その欄外において記載すること、あるいは単純に抵当権自体を消すことによって        ︵21︶  ︵この場合、被担保債権は、もはや消滅することとなる︶表示されることになる。  6 公序について  フランス民法典二四二二条六項は、﹁本条文の規定は、 は、書かれていないものとみなされる﹂と規定する。 公序︵○巳冨建9。︶であり、これに反する全ての条項 ﹁公序﹂に関してグリマルディ教授は、次のように解説する。   公序に関する規定は、充填式抵当権が、新たな債権者に対して、担保を提供しうることを規定する民法二四二二条二  号の規定をより強化するものとして歓迎される。すなわち、充填式抵当権は貸付の提供者を債務者が選択する自由を保 197

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypotheque rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕 証し、かつその提供者が競合する自由を強固にする。したがって、抵当権は、抵当権者の利益においてのみ充填しうる というような排他的条項や、抵当権は抵当権者に対して、最初に申し込まれた貸付を担保する場合にのみ、充填される ものであるというような優先条項によって、債権者が恩恵に浴することはできない。  このような条項は、無効であるというだけではなく、これらのものは書かれていないとみなされ、したがって、新し       ︵22V い債権者に対して自由に使用できるものとして、抵当権は残りの部分において存続する。 三 抵当権付終身貸付︵一Φ夏蝉く一品Φ∋看o号9①一δ︶  1 概念  今回のオルドナンスにおける抵当制度改革のもう一つの柱とされたのが、抵当権付終身貸付である。これは、担 保の形態を利用することから、一般に﹁リバースモーゲージ︵おく隻鴇白o茜鎖Φ︶﹂と呼ばれているものであるが、 今回の改革では、抵当権に関する真の新制度ではなく、貸付の新しい形態とされたことから、消費者法典の新しい       ︵23︶ 章に創設されたとされる。その目的は、老齢の人達が、その居住している不動産を担保として、主にそこに住み続 けながら、今後の生活のための貸付を得ることを認めるためである。したがって、その弁済の責任は、原則として        ︵24︶ 彼らの死亡時にのみ生じ、その際、債務の負担は、借主の相続人に課されることとなる。 2 貸付の形態 抵当権付終身貸付に関する規定は、 消費者法典三一四−一条以下で詳細に定められている。 198

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 まず、貸主は、金融機関あるいは信用機関でなければならず、借主は、自然でなければならない︵消費者法 三一四−一条一項︶。  抵当権付終身貸付は、消費者に対してのみ認められ、事業活動のための信用供与としては用いることはできず、 その場合には無効とされる︵消費者法三一四−二条︶。  貸付の契約は、公証人によってなされなければならない︵消費者法三一四−七条一項︶。  貸主は、元本あるいは借主への定期分割金︵くR器日①導ω冨ぎ9∈8︶にて貸付を行う︵消費者法三一四−一条 一項︶。ただし、定期的な支払の停止あるいは見直しを要求することのできる借主の一方的な意思表示によって、 その義務は改定を免れない︵消費者法三一四−一二条︶。  取引は、借主がもっぱら居住に供する不動産に対する抵当権によって担保され、原則として、貸主は、借主に とって最後の響爵色の貸主となる。すなわち、元本や利息は、借主の死亡または共同借主の生存者の死亡時に おいてのみ請求可能となる︵消費者法三一四−一条一項︶。例外として、借主の死亡前に、抵当不動産の譲渡︵有 償・無償を問わない︶や所有権の部分譲渡︵支分権の設定も含む︶がなされたときには請求可能となる︵消費者法 三一四−一条一項︶。  借主又はその承継人の債務は、履行期において評価される不動産の価値︵冨墨8巽3画窪ξ8けげ8幕︶を超 えてはならない︵消費者法三一四ー九条一項V。  期間が満了しない限り、すなわち原則として借主が存命の間は、借主は善良な家父長の注意をもって不動産を維 持しなければならず、使用目的を変えることはできず、貸主がその状態を確かめるため、不動産を検査したり物件 に立ち入ることを認めなければならない︵消費者法三一四−八条︶。また、その全ての不履行につき期限の利益喪 199

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フランスにおける充填式抵当権(rhypoth色que rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕 失の罰が生じる︵同条︶。  抵当権付終身貸付は、いくつかの情報が含まれる事前申込書︵・騨の質8一ぎ包によって契約がなされなければ ならない︵消費者法三一四ー五条一項︶。その事前申込書には、借主が﹁その住居の純資産を使い尽くす時点を認 識﹂できるように、元本が定期的に支払われる場合、その元本部分と、予想される貸付期問に蓄積される利息部分 とを、それぞれ区別する形式による定期支払金明細書一覧表︵一.ひ鼠8ま酵8ω<R器日①導ωも9・9∈8︶を含ん でいなければならない︵消費者法三一四ー五条一項︶。  申込書を交付した貸主は、最低でも三〇日間、その申込の条件を維持しなければならない︵消費者法三一四ー六 条︶。そして、借主はその申込の受領から一〇日問の熟考期間を経た場合にのみ承諾することができ、貸主は、そ の承諾がなされるまでは、どのような形式においても、またいかなる支払もすることはできない︵消費者法三一四 −七条︶。申込に関する規定を遵守しない場合には、貸主に民事及び刑事の処罰が科せられる。それは、利息に関 する全ての権利の剥奪または部分的な失効︵消費者法三一五−一五条︶と、三七五〇ユーロの罰金である︵消費者 法三一四−一六条︶  商業実務に関して、全ての広告は、﹁誠実であり、情報に富んだ︵一畠巴Φ①江旨興日器<①︶﹂ものでなければなら ず、そのことから、いくつかの必要的記載事項を含んでいなければならない︵消費者法三一四−三条︶。全ての訪 問取引︵留日震魯鎚Φ︶は禁止されており︵消費者法三一四−四条︶、それに反する場合には、五年の懲役及び 三七五〇〇〇ユーロの罰金の刑罰と︵消費者法三一四−一八条︶、そして様々な補充刑が科せられる︵消費者法 三一四−一九条︶。 200

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 3 返済方法  借主又は共同借主の残りの生存者が死亡した時に、相続人は、相続開始日に評価された不動産の価値の限度で債 務を返済することができ、この評価は、必要な場合には、債権者と借主の同意によって選任された又はその請求に よって任命された鑑定人によって行われる︵消費者法三一四i一三条一項︶。  相続人による返済がなされない場合、限定承認に関して適用される規定にもかかわらず、抵当権者は次のような 選択をすることができる。すなわち、共通法の要件において、不動産の差押および売却︵冨ω器δ①江曽く窪98一、 誉日窪亘①︶を行うことができ、その場合、債務は不動産の売却価格が上限となる。  または、裁判上の決定または流担保条項︵冨088日巨器○ぎ︶によって、その不動産が借主の主たる住居であっ ても、不動産の所有権を取得することができる︵消費者法三一四−二二条二項︶。抵当債権者が弁済期に担保を実 行した場合に、被担保債権額が不動産の売却価格よりも低いときには、その売却価額と被担保債権額との差額を、 場合に応じて借主またはその相続人に償還しなければならない︵消費者法三一四−九条二項︶。不動産が譲渡され た場合には、不動産の価値は、消費者法典三一四ー一四条の規定の留保付で、譲渡契約において示された価格と等 しいものとされる︵消費者法三一四−九条三項︶。  この制度についてグリマルディ教授は、特に履行期における不動産の価値の上限を弁済限度とすることについ て、次のような解説をしている。    借主の相続財産に負わされる貸金の返済が、いかなる場合でも借主の死亡時の不動産の価値を超える負担となること   はないという点が、抵当権付終身貸付の独創的なところである。 201

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フランスにおける充填式抵当権(rhypoth6que rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕  すなわち、この上限設定がなされることより、貸主は、弁済能力のない債務者あるいはその相続人から、取り立てるこ とができないのであり、負債は、このようにそれを履行しなければならない者が、責任をもてる範囲で清算されるので ︵25︶ ある。 四 結びにかえて  結びにかえて両制度について若干の考察を試みたい。  まず、充填式抵当権についてであるが、日本法における根抵当権との大きな違いは、根抵当権では、根抵当権設 定契約の当事者のみが担保権者とされるが、充填式抵当権では、当事者が充填式抵当権の設定者に限られず、新し い債権者も充填式抵当権の担保権者となることができることにあろう。そのことから、根抵当権の場合には、根抵 当権設定者のみが債権者であることから、﹁極度額﹂が債権者にとっての信用として有効に機能するといえる。し かし、充填式抵当権の場合には、充填の合意︵﹁元本の最高限度額﹂︶の範囲内において、複数の債権者が混在する ことになり、さらに、グリマルディ教授の見解では、最初の債権者の被担保債権額を超える金額についてまで充填 可能の合意が認められとされることから、あとから充填を受ける債権者の信用は、最初の債権者の弁済状況に左右 されるという状況が生じることとなる。その結果、ファルジュ教授が指摘されるように、場合によっては充填を受 けるよりも、第二順位の抵当権を設定するほうが、担保として有利になるということもありうるのである。このよ うなことからすれば、充填を受ける債権者が、より確実に担保権者としての利益を享受するためには、充填を受け るのと同時に、後順位の抵当権の設定を行うことが必要となるが、そのことは、新たに抵当権を設定する費用を避 202

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け、抵当権の運用を容易にするという、充填式抵当権を認めた意義を著しく失わせることになりかねない。  しかし、翻って考えてみるに、そもそも充填式抵当権が民法典に導入された目的は、グリマルディ教授の作業グ ループによる予備草案にも明記されているように、消費者信用を、不動産信用の与信システムと競合させ、消費へ の貸付を活発にすることを目論んだものとされている。そのことからすれば、充填式抵当権は、本来比較的小口の 貸付についての担保を想定して導入されたものではないかと考えられる。  もともとフランスでは、銀行が不動産や自動車などの担保となる物件を査定したうえで、融資を行う制度は社会 的に十分認識されているが、いわゆるわが国やアメリカにおけるような消費者金融︵消費者へ供与される無担保融 資︶については社会的な認知が十分ではないとの指摘がなされており、その理由として以下のような要因があげら れている。第一に、ヨーロッパの銀行が歴史的に、そして依然として消費者向け貸付でばなく、企業向け貸付を嗜 好している。第二に、フランスには、市場金利の変動とリンクする複雑な上限金利規制があるため、サブプライム 市場の発展が妨げられている。第三に、ヨーロッパでは、イギリスを除くと、クレジットビューローが発達してお        ︵26︶ らず、申込者の信用リスクを判断することが困難であるなどである。  このようなことからも、今回の充填式抵当権の導入が、抵当権という従来から社会的に十分な認識のある制度を 活用することで、消費者信用の活性化を図る目的をもつことからしても、その﹁最高限度額﹂については、当初の 抵当権者の被担保債権の範囲内と限定して解したとしても、充填式抵当権の有用性が大きく失われることはないの ではなかろうか。この点については、結局、適切な﹁最高限度額﹂の設定をどのように行うかという問題であり、        ︵27︶ 今後の制度の運用が注目される。  次に、抵当権付終身貸付についてであるが、フランスにおける抵当権付終身貸付は、わが国においても広く知ら 203

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フランスにおける充填式抵当権(rhypoth的ue rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕 れている英米法のリバースモーゲージと同様の制度であり、先に述べたように、自宅として保有する住宅資産を担 保として、主にそこに住み続けながら、生活費、医療費等に必要な資金を年金式に入手し、契約終了時︵主に利用 者の死亡時︶に、借入金の相続人が当該資産によって借入金︵元本と利息︶を一括返済する仕組みである。  近年、わが国の高齢者世帯では、公的年金の受給額や勤労収入が伸び悩んでおり、また、医療費や介護サービス の費用負担が増加している。さらに高齢者のみで家計を営む世帯が増加していることから、高齢者世帯の日常生活 における支出は増大しており、多くの高齢者が老後資金に不安を抱える状況となっている。しかし、その一方で、       ︵28︶ 高齢者世帯︵六〇歳以上︶の持ち家率は、約八割もの高率であることから、リバースモーゲージのような制度の普 及は、わが国にとっても喫緊の課題といえる。  しかしながら、従来からのリバースモーゲージについては、利用者の死亡後の担保不動産処分による回収を前提 とするために、長生きリスク、担保不動産価値下落リスクおよび金利上昇リスクのいわゆる三大リスクがあるなど 問題点も多く、これまでわが国でも地方公共団体や私企業などが保険や信託を利用するなどの工夫をもって導入を       ︵29︶ 試みたが、国内においては未だほとんど利用されていないのが実状である。その為、今後の普及のためには、これ らのリスク軽減の仕組みをも考慮しながら、貸主、借主双方の権利のバランスをはかるためにも、フランス法のよ うな法的バックアップも視野に入れて検討する必要があるといえよう。  すでにみたように、今回のフランスにおける抵当権付終身貸付の特徴としては、この制度を貸付の特殊形態とみ ることで、民法典ではなく、消費者法典に規定を置き、貸主を金融機関か信用機関に限定し、借主は自然人でなけ ればならないとして、特に貸主の責任を厳格に規定している。また、契約の締結は、借主がその住居の純資産を使 い尽くす時点を認識するために、元本と、予想される利息を明記した事前申込書によってなされなければならない 204

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東洋法学第52巻第2号(2009年3月) とする。さらに、借金の返済は、相続人あるいは相続財産に課せられることになるが、いかなる場合であっても返 済額は、死亡日︵履行期︶の不動産の価値を超える負担となることはないとしている。  この返済額が死亡日の不動産価値を超えないとする点は、いわゆるノンリコース特約と同様のものが、抵当権付 終身貸付に組み込まれたものとみることができる。ノンリコースとは、非遡及︵ぎ亭お8自器︶を意味する。例え ば、ノンリコース特約の付いた融資で考えれば、通常の不動産担保融資においては、担保物件を売却しても、債権 額に満たない場合、担保物件以外からも返済義務が生じる。しかし、このノンリコース特約においては、融資にお ける返済原資を融資対象物に限定するため、担保物件以外には遡及されないことになるのである。このことから、 融資する側である金融機関には、当該物件についての高い審査能力が要求され、さらに、ここでも充填式抵当権と 同様、不動産市場の動向に大きく左右されることになるであろう。このようなことから融資を行う側の負担は大き く、また融資を行う側が、自らのリスクを回避するためには、融資金額を抑えるか、金利を高く設定することが考 えられる。そのため、今後この制度が、十分に機能するかどうかは、ここでもその具体的な運用、特に融資を行な       ︵30︶ う金融機関の対応が、重大な要素になるといえる。 ︵1︶今回のフランス担保法改正の概要については、山野目教授、平野教授、片山教授による研究が﹃比較法研究﹄及び﹃ジュリス ト﹄で発表されている。またフランス担保法改正予備草案、二〇〇六年三月二三日のオルドナンスの報告書並びに同オルドナンス  により 改正された民法典、商法典、消費者法典及び慣例法令の条文についても、既に平野教授、片山教授による翻訳が公刊されて  いる。本稿は、これらの研究に負うところが大きい。  ︹フランス担保法改正の概要について︺ 205

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フランスにおける充填式抵当権(rhypoth6que rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕  山野目章夫﹁企画趣旨の説明及び今般改正の評価︵二〇〇六年フランス担保法改正の概要︶﹂ジュリストニニ三五号︵二〇〇七 年︶三二頁以下、平野裕之﹁改正経緯及び不動産担保以外の主要改正事項︵二〇〇六年フランス担保法改正の概要︶﹂ジュリスト ニニ三五号︵二〇〇七頁︶三六頁以下、片山直也﹁不動産担保に関する改正について︵二〇〇六年フランス担保法改正の概要︶﹂ ジュリストニ壬二五号︵二〇〇七年︶四九頁以下。山野目章夫﹁二〇〇六年フランス担保法改正とこのミニ・シンポジウムの趣旨 ︵ミニ・シンポジウムニ○〇六年フランス担保法改編の概要とその思想的含意︶﹂比較法研究六九号︵二〇〇七年︶一四四頁以下、 平野裕之﹁今般改正の経緯ならびに人的担保および動産担保に関する改正について︵ミニ・シンポジウムニOO六年フランス担保 法改編の概要とその思想的含意︶﹂比較法研究六九号︵二〇〇七年︶一四八頁以下、片山直也﹁不動産担保に関する改正について 1抵当権改革を中心に︵ミニ・シンポジウムニOO六年フランス担保法改編の概要とその思想的含意︶﹂比較法研究六九号 ︵二〇〇七年︶一五九頁以下。 ︹翻訳について︺  平野裕之”片山直也﹁翻訳フランス担保法改正オルドナンス︵担保に関する二〇〇六年三月二三日のオルドナンスニOO六− 三四六号︶による民法典等の改正及びその報告書﹂慶鷹法学八号︵二〇〇七年︶一六三頁以下、平野裕之旺片山直也﹁翻訳フラン ス担保法改正予備草案ーフランス司法省担保法改正作業グループ報告書及び条文訳﹂慶鷹法学九巻︵二〇〇八年︶二〇三頁以下。   なお、﹁担保に関する二〇〇六年三月二三日のオルドナンスニ○〇六−三四六号︵○巳o暮§85。88−ω&3鴇目貰ω88尻Φ輌 牙①雲図ω日雪需︶﹂﹁担保法改正予備草案︵勾88洋も震90∈①8q署毘巴餌み団8ヨΦ身鳥○一け号ωωR①鼠碧88︶﹂に関しては、  アンリ・キャピタン協会のホームページにて入手できる。︿9質\\≦≦華箒目一8旨蝉浮○鑛\8σも9げ旨。一①鴇﹀︵最終確認日  二〇〇八年一一月八日︶ ︵2︶オルドナンス冒頭の大統領への報告の中でこの点が述べられている。 ︵3︶金山直樹﹁フランス民法典改正の動向﹂ジュリスト一二九四号︵二〇〇五年︶九二頁以下参照。 ︵4︶この点については、既に片山教授によって指摘されている︵前掲注︵1︶ジュリスト五〇頁︶。また、グリマルディ教授は、不 206

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動産を取得するための貸付においては、土地登記の税金等の費用がかからないなどの理由で、多くの場合、約定抵当権ではなく特 別の先取特権によって担保されるが、不動産に対する担保権としては、抵当権において統一化するのが望ましいとしている。 >洋器。 。斜帥b。“。 。。 。甘ωρ一9℃融ω①旨器8αΦ一餌感・§①α①ωωP曇ひω︵9α﹄。⑲。8−ω&9NG 。日貰ωNO8︶㍉Ω。きNO8旨。一。q冨目  ○同一B巴α一■ ︵5︶おo冨鑛8巨Φの訳語について、山本教授は﹁再充填可能﹂、片山教授は、﹁充填﹂という訳語を用いられている。また、比較法 学会においてもこの訳語につき議論があったことが、片山教授の論文︵前掲注︵1︶比較法研究一五九頁︶に記載されている。本 稿では、制度としての意味合いに重きをおき﹁充填式﹂という訳語を用いた。山本和彦﹁フランスの不動産競売手続﹂︵民事局 競売制度研究会 海外制度調査報告書︶︿≦≦峯日○茜9冥ζ自員\Bぼ﹂一這○ ・や蚕o亀﹀︵最終確認日二〇〇八年二月八日︶ ︵6︶9ぎ巴負8鼻后・け①全5.一8①ヨ ︵7︶今回のフランス担保法改正における、﹁特定性﹂の原則の変容に関しては、山野目教授による非常に丁寧な分析がなされている  ︵前掲注︵1︶ジュリスト三三∼三六頁︶。 ︵8︶充填式抵当権は、当初の債権と同一性をもたない債権をも担保しうるものであることからすれば、保全抵当としての特徴をも  つフランス担保法における﹁特定性﹂の原則に対する修正を含んでいるが、設定行為で﹁定められた金額﹂についての債権を担保 するという点で、﹁特定性﹂はなお存続しているとの説明がなされている。墨昌㊤Oぎ三一80耳一呂磐ζ豊ぎω曾R3①〇四9巳8 ①け寄一言冨℃簿Φ一−bさ計嵐題急誌敬90 。Φひα■−い①8’80刈旨。o 。ミも①09 ︵9︶匡9①一寄禮ρ富⑦象お融9国ΦωωΦωd巳<①邑琶8ω号9①8げ一ρNO。N5.ω。9b露 ︵10︶グリマルデイ教授の解説では、当該箇所については、民法二四二七条となっているが︵予備草案では、将来債権の規定は、民 法二四二七条となっている︶、オルドナンスでは将来債権の規定は民法二四二一条とされていることから、本稿では民法二酉二 条と表記する。なお本稿で引用する条文は、特に別の記載がない限り、全てフランス法における規程を指す。 ︵n︶9ぎ曽一98鼻后・け$昌。H鐸 ︵12︶8ぎ.8・認﹄身8欲琶Φ“○○ご。量昌9くRω8駐も・ω笹8ω巨財8ω習江四浮B器号甲き。9詳5 207

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フランスにおける充填式抵当権(1’hypot艶que rechargeable)と抵当権付終身貸付(1e pret viager hypoth6caire)について〔太矢 一彦〕 ︵B︶冨震①旨>旨・ω㌔一①霞①9・8ト8毘誌融鉾ωΦ$噂39・範N。。・ 。堕⇒.①①ε①。9 ︵14︶9首巴島8●亀塁88“β.一雲 ︵15︶9邑巴負8■蝕針88企昌.一零 ︵16︶甲謎ρ8,黛貸88Pロ。ω箋 ︵17︶本条の趣旨について、グリマルディ教授は、保全を目的とする抵当権の有用性は明らかであり、その公示による優先を認めな  いと保全を目的とする抵当権の効力が大きく損なわれることになるからとされている。9冒巴負8ト鑓8富全づ。一寧 ︵18︶9ぎ9 。一負8り舞旨・8合づ.一呉 ︵19︶9言巴負8し鼻層8$“旨.一。・ 。. ︵20︶寄濃ρB蝕貸88。旨.ω。9 ︵21︶9ぎ㊤一負8﹃鼻層88命ロ.一。P ︵22︶9冒巴98。亀貸88企づ。N8 ︵23︶9誉巴負8甲貸黛88介づ.N8 ︵24︶9冒蝉一負§鼻旨。$全ロ.卜。8 ︵25︶9誉巴負8.亀貸88介⇒.一塗 ︵26︶原輝史﹃フランスにおける消費者金融の実態﹄早稲大学消費者金融サービス研究所ワーキングペーパー笏O閃ω8−08︵二〇〇二  年︶︵︿耳貫\\≦≦≦≦器①鼠一冥頁泣8砂む段ミ9ω8−08も臼﹀最終確認日二〇〇八年一一月八日︶五∼六頁。 ︵27︶この限度額について、二〇〇〇〇〇ユーロの金額での貸付が、充填式抵当権によって担保されている場合、五年後に  五〇〇〇〇ユーロの弁済がなされたならば、五〇〇〇〇ユーロを最大金額として新しい貸付に対して抵当権を再利用することが出  来ると説明する見解もある。ζ畳①2α色Φ冒富巳山餌9巴一9ζ習器鼠団○霞器ωぎ9くぎ8筥ω議B8αbさ母賎8毘誌融鉾U巴一8−  ω一おざNOONp.NO鴇も㎝8. ︵28︶金融広報中央委員会の二〇〇六年の調査報告によれば、六〇歳代の持ち家比率は七九・六%、七〇歳以上の持ち家比率は 208

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八一・四%とされている。金融広報中央委員会﹁家計の金融資産に関する世論調査﹂︿耳6一\\≦≦≦誓冒后o控β旨\浮壁8\8汀一\ ωけ讐む魚\鼠鼠09段V︵最終確認日二〇〇八年一一月八日︶。 ︵29︶わが国でのリバースモーゲージの状況については、倉田剛﹃持家資産の転換システムーリバースモーゲージ制度の福祉的効用 1﹄︵法政大学出版会、二〇〇七年︶一七頁以下において、詳しい分析がなされている。 ︵30︶金融機関の具体的対応については、次稿にて紹介する予定であるが、ここでは、フランス不動産銀行︵O詠舞閃99震8 写昏8︶の取り扱いを参考にあげておきたい。辟昼\\類≦≦R8ま8畠瓜ミ9ぎぺ邑\評昌8一一①おもく寓\ギ①戸≦諾震1=旨o跨①。蝕お ω拝巨︵最終確認日二〇〇八年一一月八日︶ ※本稿は、全国銀行学術振興財団の研究助成による研究成果の一部である。 1たや かずひこ・法学部准教授1 209

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