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「中国製造 2025」と米中貿易戦の行方

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経済と経営 49‒1・2(2019.3)

〈論 文〉

「中国製造 2025」と米中貿易戦の行方

汪   志 平

はじめに

 中国にとって 2018 年は、対米貿易摩擦の問題に振り回された 1 年であったと言えよう。現在、 米中貿易戦は中国経済のみならず,日本・世界経済の先行きを左右する大きなリスク要因となって いる。  2018 年 12 月 1 日,米中首脳会談が行われ、米国が 2019 年 1 月からの 2000 億ドルの制裁関税を 25%に引き上げるのを 90 日間延長して,2 月末までの協議中は棚上げにすることを決めた。  しかし同日、ファーウェイ(華為)の副会長孟晩秋がカナダで逮捕されていた。12 月 10 日に日 本政府は、中国製通信機器の排除に向けて指針をまとめ,日本の携帯大手は 5G への切り替えに向 けて,中国の通信機器を基地局に使用しない方針となっている。米国から同盟国への要請を受けて のことである。  こうした一連の措置は、今までのトランプ大統領が貿易赤字を問題視している問題とは次元が 違って,むしろ中国がデジタル覇権を狙って国際的シェアを拡大させようとする活動に待ったをか けるものであり,「米中の新冷戦」という人もいる。  本稿では中国の視点から,まず対米貿易摩擦への中国の対応の経緯を振り返ったうえで、中国の 基本的な認識や対応余地を分析し、さらに摩擦の重要な背景である「中国製造 2025」の内容を説 明し,貿易戦の行方について展望する。  

一 米中貿易摩擦から覇権争いへ

 今回の対立に至るまでの伏線になる事件が 2 つあった。1 つは、トランプ大統領が 2018 年 4 月に, 中国通信会社 ZTE に対して,部品供給を停止する措置を実行しようとして,ZTE は破綻の手前ま で行った。ZTE は、イランと北朝鮮に米国製の機器・部品を組み込んで 2010 ~ 2016 年にかけて 輸出していた。習近平主席がトランプ大統領にかけ合って,罰金と経営陣の交代を決めることで切 り抜けている。このときも、ファーウェイは次のターゲットとして名前が挙がっていた。  さらに、2018 年 8 月には、「国防権限法 2019」が米議会を通って,トランプ大統領も署名した。 この法律は、米政府機関が中国の通信 5 社の製品またはその部品を組み込んだ他社製品の調達を禁 止する。米国が狙っているのは、中国の通信会社が国際シェアを広げて、米国と同盟国の安全保障 を脅かすことを許さないということだ。

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1. 米中貿易摩擦の経緯  2018 年に入ってから,米国の通商政策において、同国の貿易赤字の約半分を占める中国が強く 意識されていることがいっそう鮮明になった。以下では,2018 年の中国に関連する米国の通商政 策とそれに対する中国の対応を,同年 6 月初旬までとそれ以降の 2 段階に分けて、具体的な経緯を 振り返ってみたい。 (1)2018 年初めから 6 月初旬まで  ①家庭用大型洗濯機および太陽電池の輸入に対する緊急輸入制限(セーフガード)措置(2 月 7 日施行)。②鉄鋼・アルミニウム製品への高関税賦課(3 月 23 日施行)。③知的財産権侵害等を理 由とする対中貿易・投資制裁の実施検討を発表(3 月 22 日)  相次ぐ米国の措置を受け、中国政府もさまざまな措置を発動、公表した。例えば,③に対する報 復として、大豆や自動車、航空機を中心に米国の措置と同額となる対米輸入 500 億ドル相当への制 裁関税賦課の方針を発表した(4 月 4 日)。  それと同時に、中国政府は対外開放を加速させる考えを強調するなど、一定の歩み寄りの姿勢も みせた。習近平中国国家主席が 4 月 8 ~ 11 日にかけて中国で開催されたボアオ・アジアフォーラ ムでは、対外開放や輸入拡大などをいっそう進める方針を述べたほか、易綱・人民銀行総裁も金融 分野での具体的な対外開放策と工程表を示した。  4 月 16 日になると、米国は中国の通信機器メーカーの ZTE による不正に対する措置として、同 社への米国製品の販売禁止を決定するなど、中国に対する厳しい対応を続けた。 (2)2018 年 6 月初旬以降  米中通商協議は、5 月から 6 月初旬にかけて 3 回にわたり開催され、米国からはムニューシン財 務長官等、中国からは劉鶴・国務院副総理が代表を務めた。しかし、協議を通じて米国が中国に要 求をしたのは、今後 2 年間での米国の対中赤字 2000 億ドルの削減や,「中国製造 2025」の対象産 業に対する補助金支給等の政府支援の停止など、中国にとっては受け入れ難い事項であった。  第 2 回の協議では、米中の共同声明が公表されたものの、第 3 回では中国が単独で声明を公表す るにとどまるなど、最終的に目立った成果は上がらなかった。  その後、6 月 15 日には、トランプ大統領が約 500 億ドルの輸入品に対する追加関税措置の発動 を決定し、中国も報復措置の実施を決めるなど、事態は悪化をした。さらに、7 月から 8 月にかけ ても、米国による対中輸入約 2000 億ドルへの追加関税措置をめぐり,米中間の応酬はエスカレー トしていった。  8 月 22 ~ 23 日には、商務部の次官が訪米して第 4 回の協議が開催されたが、そこでも目立った 成果は上がらず、9 月 17 日には米国が上記措置の発動を、また翌 18 日には中国も対米輸入 600 億 ドルを対象とする報復措置の発動を決めるなど、米中貿易摩擦は収束する気配をみせていない。  2018 年 9 月末に『第 3 弾目』として,米トランプ政権が発動した年間輸入額 2000 億ドル相当分 に対する制裁関税について、当初の関税率 10%の 2019 年 1 月から 25%への引き上げに伴うさらな る激化が懸念された。しかし、アルゼンチンで開催された G20 サミットに併せて,2018 年 12 月 1 日, 米中首脳会談が行われた。米国が 2019 年 1 月からの 2,000 億ドルの制裁関税を 25%に引き上げる のを 90 日間延長して,2 月末までの協議中は棚上げにすることを決めた。  米中は今後、①強制的な技術移転、②知的財産保護、③非関税障壁、④サイバー攻撃及び犯罪、

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⑤サービス及び農業分野での市場開放、について直ちに協議を開始することで合意し、協議期限で ある 90 日以内に合意に至らなければ、米国は関税率を 25%に引き上げるとした。  また 90 日とされる協議期限について,当初は起算日時を 1 月 1 日としていたが、その後に米ホ ワイトハウスが 12 月 1 日からと訂正した結果、2 月末に協議期限が終わりを迎えるため、例年 3 月に中国で行われる全人代(全国人民代表大会)直前のタイミングとなる。 2. 米中貿易摩擦に対する中国の基本認識  米国が通商問題で中国への圧力を強め始めた背景について、中国国内では大きく分けて 2 つの見 方がなされた。1 つめは、2018 年 11 月実施の中間選挙を意識したトランプ大統領の政治的な思惑 である。米国第一主義に基づく中国への強硬姿勢をアピールするとともに、中国の市場開放を促す ための交渉材料にしようとしている、と考えられたのである。  もう 1 つは、対中外交の方針転換である。中国は、これまで経済規模を着実に拡大させるととも に、近年では電気自動車やフィンテック(情報技術を駆使した金融サービス)、人工知能(AI)な ど最先端の産業技術領域でも台頭してきて,世界でのプレゼンスを高めており、産業競争力の面で 米国の優位を脅かす存在になってきた。  また、米国はこれまで、中国の市場経済化や民主化を促そうとする「関与政策」をとってきたが、 実際には政治体制面を中心に,米国が想定していたような変化は見られなかった。それどころか、 中国は経済力を強めて「社会主義現代化強国」というスローガンを掲げるようになり、安全保障の 面でも脅威となりつつあると見ている。こうした現状を受けて、米国は中国への圧力を強め,中国 の台頭を抑制しようとする「封じ込め政策」をとる方針に転換したと見られている。  2017 年末に発表された『国家安全保障戦略』に関する演説で,トランプ大統領が中国を「戦略 的競争相手」と呼ぶなど、単なる政治的思惑を超えた対中認識の変化が鮮明になり始めていた。し かし 2018 年 5 月まで、中国国内においては米国で中間選挙が終われば,中国への圧力も弱まるだ ろうとみる楽観的な論調のほうが比較的多かった。現在では中国国内で,米中貿易摩擦は長期戦に なるとの見方が概ねコンセンサスになっている。  トランプが大統領になる前、すでに米国内では、「中国と戦って勝たなければならない」と主張 するベストセラー本が出ていた。1 冊目は、国防総省顧問マイケル・ピルズベリーの『China 2049』 であり,「中国は、建国 100 年目にあたる 2049 年までに、世界覇権を握ろうとしている」という内 容である。2 冊目は、トランプ大統領の補佐官で国家通商会議議長ピーター・ナヴァロの『米中も し戦わば~戦争の地政学』である。この本は、米中戦争が起こる確率は非常に高い,という話から 始まる。この 2 冊は共に、米国での出版は 2015 年である。つまり、トランプが大統領になる 2 年 前に出されている。  そして、2015 年 3 月、「AIIB 事件」が起こっている。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、 スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国など親米国家群が、米国の制止を無視し、中国が主導 する「AIIB」への参加を決めた。この事件は、米国の支配力低下と、中国の影響力増大を世界に 示した。つまり、米国には「中国を打倒しなければ、わが国の時代は終わる」という強い危機感が、 トランプ政権誕生前からあったのである。  米国側のかねてからの関心事項としては、対中貿易赤字や人民元レート、過剰生産能力、市場開

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放、知財保護が挙げられるほか、最近では、対中制裁の根拠ともなっている外資企業への技術移転 要求や、製造業の高度化に向けた産業政策である「中国製造 2025」に対して、特に米国からの批 判の矛先が向かうようになっている。  2018 年 3 月トランプ大統領は、知的財産権の侵害などを理由に,中国への制裁関税の賦課を指 示する大統領令に署名した。3 月 22 日に USTR(米通商代表部)が公表した資料では、中国のハ イテク産業による知的財産権の侵害などがやり玉に挙げられた。  加えて中国は、アジア新興国などのインフラ需要の取り込みを目指して、「一帯一路」(21 世紀 のシルクロード経済圏構想)を提唱し、対外進出を強化している。それに伴い、米国への一極集中 ともいわれた世界の政治・経済・安全保障のパワーバランスが変化している。米中の覇権争いとい う世界規模で進む変化の一端が、貿易面での米中の摩擦に表れている。  

二 「中国製造 2025」の背景と内容

 続いて,2018 年の米中貿易戦にたびたび登場する中国政府による製造業高度化の産業政策であ る「中国製造 2025」について,その概略について述べる。   1.「製造大国」から「製造強国」を目指す中国  1979 年の改革開放以来,中国製造業の持続的な成長によって,あらゆる分野にわたる独自の産 業体系が形成され,工業化が大いに進展し,世界トップの製造大国になった。  たとえば,中国の製造業の付加価値額は、2001 年にドイツを上回っており、2006 年に日本を抜き、 金融危機後の 2010 年に,中国の製造業の付加価値対世界のシェアは 18.8% に達し、米国の 18.7% を上回り世界 1 位となり,さらに 2013 年の 24.52%まで急上昇した(図 1)。 図 1 中国と日米独における製造業の付加価値の推移

(出所)李立栄(2015)。世界銀行、World Development Indicators より作成。

 

 2015 年 3 月の英経済誌『エコノミスト』(The Economist, “Made in China”, March 14-20, 2015, p.11) によると、中国製の製品は世界の市場において、空調(80%)、携帯電話(70%)、靴(60%)など

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と大きなシェアを占めている。また中国の工業・情報通信化部によれば、2013 年の主要工業製品 500 種類余りの中で、220 種以上の品目で中国は生産量世界一を誇る。  中国は量の面では製造大国になったものの、質的な面では依然として先進国と比べて大きな格差 が存在する。中国の製造業は、主にローエンド製品の製造に集中し、利益率が低く、人材も不足し ている。自主的イノベーション能力や資源利用効率,産業構造,情報化レベル,品質や生産効率な どで,先進国に大きく後れを取っており,生産方式の転換を迫られている。  2000 年以降、中国では賃金が上昇し続け、これまでの低コストの比較優位性が後退している(図 2)。逆にインドや東南アジアの後発新興国は、豊富な資源と低賃金を武器に、ミドル・ローエンド の製造業に注力し、世界から労働集約型の製造業を呼び込んでいる。人件費の上昇が進む中、中国 の低付加価値・労働集約型製造業もこれらの国や地域へ移転されている。失業率の上昇など労働市 場の不安を払拭するため、製造業でも新しい産業の育成が喫緊な課題となっている。 図 2 アジアに展開する日系企業の賃金水準(製造業作業員/基本給・月給) 備考:1.基本給とは、諸手当を除いた給与、2016 年 10 月時点(中国は 2016 年 9 月時点)。    2.作業員とは、正規雇用の一般工職で実務経験 3 年程度の場合。 資料:ジェトロ「2016 年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」から作成。    また、中国の製造業には自らイノベーションを起こす力が不足しており、コア技術や先端設備で は海外依存が高い。すなわち、技術力でリードする先進国と、コストの優位性で猛追する後発の新 興国の狭間にあって、中国の製造業はかつてないほど厳しい競争を強いられている。さらに、先端 設備とサービス業の発展が遅れ、グローバルブランドも確立されていない。  「中国製造 2025」の戦略が策定される背景に,世界の先進諸国の「製造業強化」への回帰も重要 である。これまでの産業政策論では、製造業は付加価値が低く、金融業のような資本効率が良い産 業に転換すべきだとの主張が多かった。しかし、欧米の金融機関が巨大な損失を被った世界金融危 機の後、欧米先進国は金融部門を偏重する政策を見直し、製造業の重要性を再認識した。  具体的には、米国ではオバマ大統領主導の下、2011 年 6 月に「米国の先進製造業のリーダーシッ プを確実にするために」(Ensuring American Leadership in Advanced Manufacturing)という報告書が 出され、産学官連携のパートナーシップ構築を提唱した。続いて 2012 年 7 月には、「先進製造業に

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おける国内競争的優位性の獲得」という報告書を発表した。さらに 2014 年 10 月には「米国の先進 製造業の加速」という 12 の提言を表明し、製造業のイノベーション力強化を図った。  他方、ドイツでは 2011 年 11 月に,政府の「ハイテク戦略 2020 行動計画」として、「インダスト リー 4.0」が採択された。イギリスでは 2013 年 10 月に,「製造業の将来:イギリスのための機会と 挑戦の新たな時代」を公表し、次世代製造業の具体的なビジョンを明確にした。  このように、各国は製造業回帰に向けてイノベーションの促進やベンチャー企業の育成を通じて、 製造業を高付加価値型産業へシフトすることにより,競争力の向上を目指している。  こうした中で 2013 年 1 月,中国の国務院や工業情報化部は,中国工程院に委任して重大諮問プ ロジェクトである「製造強国戦略研究」を開始した。150 名の専門家や研究者によって約 2 年の歳 月をかけて,中国製造業の位置づけと戦略ビジョンが研究された。  同研究によると,2012 年時点で,主要国製造業の総合指数は,米国が 160 点でトップ,日本が 120 点で第 2 位,ドイツが 115 点で 3 位,中国が 80 点で 4 位となっている。工業先進国と比べ, 中国製造業はまだ工業化の中後期にあり,2025 ~ 2030 年に工業化を達成すると見込まれる。  2014 年に中国の第 3 次産業(サービス業)が名目 GDP に占める割合は 48.1% と、3 年連続で第 2 次産業(製造業)を上回った。そして 2017 年に,第 3 次産業の GDP に占める割合は 51.6%に達し, 第 2 次産業の 40.5%を大きく上回るようになっている(表 1,図 3)。中国は、「製造大国」からサー ビス産業を主体とする「消費大国」に転換しつつある。にもかかわらず、今般、製造業を強化する 理由としては、輸出を伸ばすことを通じて外貨を獲得する狙いがあると見られる。 表 1 中国の名目 GDP に占める各産業の構成比率 1990 年 2000 年 2010 年 2017 年 第一次産業 26.6 14.7 9.5 7.9 第二次産業 41.0 45.5 46.4 40.5 第三次産業 32.4 39.8 44.1 51.6 資料:中国国家統計局、CEIC database から作成。         図 3 中国の産業別名目 GDP 構成の推移(%) 資料:中国国家統計局、CEIC database から作成。

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2.「中国製造 2025」戦略の概要  製造強国戦略研究の結果に基づいて,中国工業情報化部は 2014 年から国家発展改革委員会・科 技部・財政部・中国工程院など 20 の政府機関と連携して,製造業振興の長期戦略プランを策定した。 2015 年 5 月 19 日、国務院は国内製造業の競争力強化を図るべく中長期的な国家戦略・産業政策で ある「中国製造 2025」という 10 カ年行動計画を公表した。 表 2 「中国製造 2025」の戦略目標と重点産業分野 9大戦略目標 10 大重点産業分野 1. 国家製造業イノベーション能力の向上 2. 情報化・工業化融合の深化(スマート製造) 3. 製造業分野の基礎技術強化 4. グリーン製造の全面推進 5. 10 大重点産業分野の革新的発展 6. 品質・ブランド構築の強化 7. 製造業構造の調整深化 8. サービス型製造と生産性サービス業の発展 9. 製造業の国際化水準の引上 1. 次世代情報通信技術 2. 先端デジタル制御工作機械とロボット 3. 航空 ・ 宇宙設備 4. 海洋工程設備・ハイテク船舶 5. 先進軌道交通設備 6. 省エネルギー・新エネルギー自動車 7. 電力設備 8. 新材料 9. バイオ医薬・高性能医療機器 10. 農業機械設備 (資料)中国工業情報化部 WEB サイトにある「中国製造 2025」解説より作成。        「中国製造 2025」では,現状に立脚し,製造強国の実現に向けて「3 ステップ」(中国語は「三歩 走」)で,製造強国になるという戦略目標が明記された。すなわち,ステップ 1 では,2025 年まで に製造強国の仲間入りを果たし,ステップ 2 では,2035 年までに製造強国の中位レベルに到達する。 ステップ 3 では,建国 100 周年の 2049 年までに製造強国の先頭グループに入るとの目標を掲げて いる(表 3)。 表 3 「中国製造 2025」の 3 ステップ戦略 Step1,2025 年 格差縮小と重点突破により製造強国の仲間入りへ Step2,2035 年 工業化の実現により製造強国の中レベルに到達 Step3,2049 年 イノベーション先導で製造強国の先頭に立つ (資料)中国工業情報化部 WEB サイトにある「中国製造 2025」解説より作成。    製造強国の実現に向けて次の 5 つの基本方針を定めている。第 1 は、イノベーションの促進であ る。イノベーション支援制度の整備や業界を越えた協業によるイノベーション支援などが含まれる。 第 2 は、品質の向上である。独自ブランドの育成や法規による品質基準の整備のほか、品質管理シ ステムの構築などがある。第 3 は、環境への配慮である。環境保全のための技術や設備の利用促進 や、資源回収利用の強化などによる循環型経済発展の促進である。第 4 は、構造調整である。先端 製造業の発展促進に加え、生産型からサービス型の製造業(製造業のサービス化)への転換に注力 し、製造業の高度化と品質の向上を実現する。第 5 は、人材育成である。合理的な人材育成メカニ ズムの確立や製造業の専門技術者・管理職の人材育成を強化する。

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 2015 年 6 月,国務院は「国家製造強国建設の指導グループ」を設立し,国務院に直属する 23 の 部・委員会の責任者がメンバーとなり,製造強国建設の全局を総合管理した。さらに 2015 年 8 月, シンクタンクとして「国家製造強国建設戦略諮問委員会」が設立され,製造業発展の展望や戦略に 関わる重大問題・政策の調査研究を行い,意見を提出している。  「中国製造 2025」が公布されて以降,中国の工業情報化部を中心に 11 のサブ計画が制定され,サー ビス型製造,装備製造業の品質・ブランド向上,医療産業発展,IT 産業,新材料,製造業人材開 発の 6 分野に関する行動計画あるいはガイドラインが定められた。  また,10 大重点産業分野における技術ロードマップが公表された。10 分野は 23 の代表的な製品・ 技術にまで細分化され,市場予測,目標,育成重点,モデル応用,サポート政策の 5 つの視点から, 2025 年までの状況を分析し,2030 年を展望している。2016 年に国務院より「製造業とインターネッ トの融合的発展の深化に関する指導意見」が公布され,製造業とインターネットの融合的発展の深 化,つまり 「中国製造 2025」と「インターネット+」を共に推進することで,製造強国建設を加速 させる運びとなった。  2016 年 6 月 30 日に,中国初の製造業イノベーションセンター「国家動力電池イノベーションセ ンター」が北京で設立された。2017 年,「西安新材料イノベーションセンター」が開設された。現 在はロボット,電子情報イノベーションセンターなどの設立も計画されており,2020 年までに 15 の国家イノベーションセンターを設立する予定である。また,省レベルのイノベーションセンター 19 カ所の設立も認可され,基礎技術強化に関わる 47 方向の 61 プロジェクトを実施している。  5 大プロジェクトのコアになるスマート製造については,標準化実証実験やモデル応用に関わ る 226 のプロジェクトを実施し,「国家スマート製造標準システム建設指南」を制定した。さらに, 2015 年 46 社,2016 年 63 社,2017 年 98 社,計 207 社のモデルケースとなる企業が選定された(表 4)。 表 4 「中国製造 2025」スマート製造のモデルケース 地域 工業企業売上高の占有率(2015 年) スマート製造企業のモデルケース 東部     58% 114 社 中部     21% 48 社 西部     15% 36 社 東北      6%      9 社 全国合計 100%     207 社  (資料)『中国製造 2025 青書』(2017 年版),中国工業情報化部のデータより作成。    2016 年後半からスマート製造の推進は,企業モデルケースの段階からモデルシティの段階に入 り,12 都市・4 都市群がモデルシティとしてスタートした。モデルシティの選出は,中国の東部・中部・ 西部・東北地域に分け,旧工業基地型,イノベーション型や資源型という都市の異なる発展タイプ がカバーされる。その結果,製造業の地域分布において,東部はハイエンド装備製造への転向,中 部は産業段階のアップグレード,西部は優位性がある産業の革新という局面が形成されている。  中国は現在,工業化・情報化・都市化・農業現代化が同時に進行しつつ,13 億人の消費大市場

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を形成している段階であり,都市化と農業現代化は製造業の発展に巨大なニーズと市場を提供して いる。世界の次世代産業変革の中,「中国製造 2025」は製造業における先進国とのギャップを埋め, さらに欧米が標榜する第 4 次産業革命にキャッチアップすることを目指している。  加えて、中国政府はインターネットと製造業の融合を図る行動計画「インターネット・プラス」 を策定し、実行に移している。この計画は「中国製造 2025」とともに、中国の産業構造転換を図 る目的で打ち出されたものであり、相互に関連する部分も多い。中国のインターネット人口急増な どの環境変化を考えれば、製造業とインターネットの融合によって新たな産業が生まれる可能性も 注目されている。

三 米中貿易戦の行方

   これまで米中政府間で行われた協議では、ムニューシン財務長官が米国交渉団を率いてきたもの の、度重なる協議にも拘らず具体的な進展に至らず、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉で米 国の主張をメキシコ及びカナダに飲ませる形で USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)締結に漕 ぎ着けたライトハイザー氏の手腕に期待しているとみられ,トランプ政権が中国政府に対して一段 の譲歩を求める姿勢を強める可能性が高いと予想される。  米トランプ政権内では上述で挙げられたテーマに加えて,「補助金問題」を提起する声が挙がっ ており、中国政府が推進する「中国製造 2025」と正面衝突する可能性があるため、中国が条件を 丸呑みすることは極めて難しい。両国間の認識を巡る相違点の大きさなどを勘案すれば、2019 年 2 月末までにすべての問題がクリアになると考えるのは些か楽観に過ぎる。今後の交渉が円滑に進む 保証はまったくない中で,事実上の『延長戦』に突入していくリスクは高いと判断出来よう。  中国が対米交渉を利用して大胆な市場開放と自由化に動けば、萎縮する心を奮い立たせる一助に なる。農村からの出稼ぎ労働者の雇用確保にもつながる。再び安定成長に道を開く自らの利益のた めに,思い切った決断を望みたい。  実際に,中国政府は2019年1月から自動車分野の外資規制を緩和する。中央政府の認可が必要だっ た合弁乗用車メーカーの設立と、2018 年から外資の単独進出が認められるようになった電気自動 車(EV)メーカーの設立について、地方政府に認可権限を委譲する。認可のハードルが下がると みられ、欧米や日本の自動車大手が中国での EV 新会社設立や新工場の建設をしやすくなりそうだ。 習近平主席は 2018 年 4 月に,自動車分野の外資規制緩和方針を表明した。今回の権限委譲はその 具体化を示す内容の 1 つで、2 月末を期限とする米中間の貿易協議を後押しする思惑もありそうだ。  シンガポール国立大学の鄭永年教授は,中国が 3 カ月の間にいっそうの制度改革、対外開放計画 を示すべきだと提言した。  しかし,中国が日欧も求める知的所有権保護策などでどこまで米国の要求に応じられるか。英フィ ナンシャル・タイムズ紙(2018 年 12 月 3 日)は,「習氏が中国経済の大幅な改変に応じ、実行す ることは事実上不可能だ」と断じ、2 月末に貿易戦争が再燃するのは不可避と指摘した。  米戦略国際問題研究所(CSIS)のグレイザー上級研究員は,「中国は米国が受け入れ可能な水準 まで要求を引き下げることに期待している」と指摘する。しかし,トランプ氏は対中強硬派のライ トハイザー米通商代表部(USTR)代表を,対中交渉の責任者に指名し、安易な譲歩には応じない

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姿勢を示している。  米国が先端技術の国外流出に幅広く網をかける。安全保障を目的とする「国防権限法」に基づき、 人工知能(AI)やロボットなど先端技術に関して輸出と投資の両面で規制を大幅に強める。米国 の規制強化は国防権限法の一部である「輸出管理改革法」と「外国投資リスク審査近代化法」に基 づく。安全保障上の懸念がある米国からの技術流出を投資と輸出の両面から防ぐのが狙いだ。  輸出規制は日本企業も広く影響を受ける見通しだ。14 分野の技術を中国企業などに移転するよ うな輸出には米当局の許可が必要になる(表 5)。米国の特許を使って中国で製品開発をするよう なケースが対象になりかねない。たとえば,日本の自動車メーカーが米国の研究所で開発した AI を活用し、中国で自動運転車のサービスを始めようとすると「米国発技術の輸出」にあたるとして 規制対象となるリスクがある。また,米国を含む複数の国で事業をする日本企業が,中国に輸出し たり事業を売却したりする場合は,米国の審査・規制対象となる。 表 5 米国が輸出・投資規制を強める先端 14 分野  ① AI,②バイオテクノロジー,③測位技術,④マイクロプロセッサー, ⑤先進コンピューティング,⑥データ分析,⑦量子コンピューティング, ⑧輸送関連技術,⑨ 3D プリンター,⑩ロボティクス,⑪脳とコンピューターの接続, ⑫極超音速,⑬先端材料,⑭先進セキュリティー技術 出所:『日本経済新聞』朝刊,2019 年 1 月 11 日より作成。    米国側の対中封じ込めは着々と進んできている。2018 年 8 月に,ファーウェイの通信機器な どの連邦政府調達を禁止したのを皮切りに、新たに成立した「外国投資リスク審査近代化法」 (FIRRMA)によって安全保障の観点から、外国からの対米投資規制を強化する。  加えて、輸出管理改革法(ECRA)に基づき、米国の持つ最先端技術と基盤的技術の保護に乗り 出した。具体的にどんな技術や製品を保護し、輸出に歯止めをかけるのか。具体的な細目づくりは 難航も予想されるが、重要技術の第三国流出を許さないという米国の意志は簡単には揺るがないだ ろう。  2018 年 12 月 10 日の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、米経済界でもトランプ 政権の対中タカ派路線を支持する声が高まっているという。偽造品や海賊版の横行、企業秘密の窃 盗や技術移転の強制など数年かけて醸成されたフラストレーションが、米経済界の中国に対するセ ンチメントを変えた。   米中貿易摩擦が激化の度合いを強めていることに伴い,中国企業のマインドには徐々に下押し圧 力が掛かっており、そうした傾向は世界経済との繋がりが深い製造業において,より鮮明に現われ ている。過去数年に亘り中国を中心とするサプライチェーンに組み込まれてきた ASEAN や韓国・ 台湾などのアジア新興国では,先行きの輸出鈍化を警戒する向きも強まり、結果的に企業マインド が悪化する悪循環もみられる。米中双方の協議の行方は中国景気のみならず,世界経済を大きく左 右する材料になると言えよう。  「米中の新冷戦」は、米国の同盟国である日本の企業にも大きな影響を及ぼすだろう。経営不振

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に陥った日本の電機メーカーはシャープをはじめ、東芝の家電事業や NEC 系の二次電池事業など, これまで中華系資本に出資・売却されることが多かった。今後は安全保障に関係するハイテクがら みの案件で、中華系マネーに頼ることは難しくなると予測する。  M&A(合併・買収)に限らず、サプライチェーンやイノベーションチェーンの再編も必要にな るかもしれない。モノや知が自由に行き交う世界に亀裂が生じ、世界のビジネス地図が米中の 2 陣 営に分かれてしまう。それは直接的なコスト増にとどまらず、イノベーションを阻害し、人類の進 化を足踏みさせるかもしれない。2019 年の世界は緊張の予感に満ちており、日本企業にも備えが 必要である。  最後に,不透明な未来について、いくつかの日本の選択肢を考えてみたい。  1 つは、米国がつくる包囲網の中で、日本が積極的な役割を果たすシナリオである。すでに知的 財産問題は、米国だけでなく、日本やアジア諸国でも問題視されている。しかし中国は日本に対し て,政経分離の原則を守り続けてほしいと期待するから、日本はどこかに節度を持って臨むという 態度をみせる方がよい。また、中国に対するメッセージとして,中国の取引慣行には体質改善を促 す方がよいであろう。  次に、日本の別の選択肢として、なるべく関与しないという立場もあるであろう。トランプ政権 の保護主義にはなるべく妥協しないという点で、日本は欧州とも利害一致している。しかし、こう した関与しない姿勢は、米中対決が尖鋭化する中でどこまで保っているかは疑問である。米国は中 国に対して次々に要求を出し、包囲網を強化して,日本は旗色をはっきりさせることを要求される であろう。  日本の採るべき選択肢に関して、具体的な解答を持っていない。伝統的には,日本は政経分離の 原則で中国との関係を維持してきた。この原則は、中国が覇権を唱えない限りにおいて、過去も未 来も有効である。覇権争いに加わらず、政経分離を唱え続けることが唯一の解に思える。  世界の覇権国の寿命は 100 年程度といわれる。20 世紀前半、英国から米国に覇権はシフトした。 現在、中国が米国を追い上げている。米中間の摩擦は、貿易に限らず、安全保障や国際社会でのリー ダーシップなど多くの分野に及ぶ。両者の争いは根の深いものであり、現在の覇権国と、将来の覇 権国との大規模な摩擦の一部と考えるべきであり,その争いは簡単に収束するものではないであろ う。

参考文献

北野幸伯「トランプの『中国潰し』に世界が巻き添え 貿易戦争は覇権争奪戦だ」Diamond Online,2018 年 10 月 3 日 熊野英生「米中貿易戦争から覇権争いに」第一生命経済研究所 HP,2018 年 12 月 13 日 経済産業省『通商白書 2018』(http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2018) 種市房子「中国の技術 第 3 次産業が 5 割超 もはやサービス産業国」『エコノミスト』,2018 年 3 月 20 日  西濵徹「米中貿易摩擦の『一時休戦』と中国経済の行方」第一生命経済研究所 HP,2018 年 12 月 4 日 真壁昭夫「ファーウェイめぐり勃発した米中 IT 覇権争いは『対岸の火事』ではない」Diamond

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Online,2018 年 12 月 18 日  真壁昭夫「米中の覇権争いは激化の一途 狭間で日本が生き残る道は」Diamond Online,2018 年 5 月 29 日  真壁昭夫「米中貿易戦争は一時的現象ではなく『中国の台頭』を象徴する出来事だ」Diamond Online,2018 年 4 月 3 日  三浦祐介「対米貿易摩擦への対応に苦慮する中国」『国際問題』No. 677,2018 年 12 月 頼寧「進化し続ける『世界の工場』」『日立評論』Vol.99 No.06,2017 年 李立栄「製造業の競争力強化を図る『中国製造 2025』の狙いと今後の課題」『野村資本市場クォー タリー』2015 秋号 「中国は自らのために大胆な市場開放を」『日本経済新聞』朝刊,2018 年 12 月 29 日 「中国の制度改革は困難 米中貿易戦争再燃は不可避」『エコノミスト』,2018 年 12 月 25 日 「中国 車の外資規制緩和」『日本経済新聞』朝刊,2018 年 12 月 29 日 「米 技術流出規制一段と 中国念頭 日本も対象」『日本経済新聞』朝刊,2019 年 1 月 11 日 「米中ハイテク冷戦のコスト 日本企業中華系との M & A 困難に」『日経産業新聞』,2019 年 1 月 11 日 魏建国 “中美如何避开战略误判这一最大风险?”《走出去智库 CGGT》2019 年 1 月 7 日 “华为事件的背后是追赶型国家和追赶型企业的困境”《北京大学经管书苑》2018 年 12 月 10 日 “西安新材料创新中心投入运营” 新华网(www.xinhuanet.com),2018 年 11 月 18 日

“What is Made in China 2025 and Why Has it Made the World So Nervous?” (https://www.china-briefing. com)

“Is ʻMade in China 2025ʼ a Threat to Global Trade?” (https://www.cfr.org) “Made in China 2025: moving up the value chain”, (https://www.juliusbaer.com)

参照

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