著者
十名 直喜
雑誌名
名古屋学院大学論集 社会科学篇
巻
33
号
1
ページ
75-145
発行年
1996-07-31
URL
http://doi.org/10.15012/00000794
Copyright (c) 1996 十名直喜名古屋学院大学論集 社会科学篇 第33巻 第1号 (1996.7) 75
日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷
十
名
直
喜
目次
1
は じめに2
戦後 日本の資源輸 入 システム (1)戦後 日本の資源輸 入の構 造 (2)日本型資源入手 システム論 をめ ぐって3
日本鉄鋼業の原料 問題 の基本的特質 (1)鉄鋼原料の基本的性格 (2)戦後 日本鉄鋼業の原料問題4
鉄鋼 原料入手 システムの 日本型特 質 (1)日本型鉄鋼 原料入手 システムの基本型 (2)長期契約方式 (3)共同購入方式 (4)大型専用船・兼用船方式5
日本型鉄鋼原料入手 システムのイ ンパ ク トと歴 史的意義 (1)戦後の背景 (2)日本型鉄鋼原料入手 システムの強み とイ ンパ ク ト (3)日本型鉄鋼 原料入手 システムのアキ レス腱 と課題6
日本鉄鋼業 における原料事情 の変遷 (1)変遷 区分の視点 (2)原料事情 の変遷 と画期 ① 戦後復興期 ② 高度成長期 ③ 低成長・減量合理化期7
おわ りに 一端 括 と課題―1
は じ め に
戦 後 日本 の産業 は,資
源 開発部 門 をほ とん ど持 たず に,い
わ ゆ る加工 部門 に特 化 した形 で発展 して きた。欧米 か ら輸 入 した先進技 術 に基づ く加 工設備 に資本 を集 中投 入 し,加
工 貿易立 国 と しての道 を歩 んで きたので あ る。 単純 に商業ベ ー スで資源 を輸 入す る とい う不利性 を,加
工 部門 にお け る設 備 の ス ケール・ メ リッ トや 高能率性,そ
して きめ細 か な改善・ 工夫 を加味 す るこ とに よってカバ ー して きた。 しか し,海
外 資源 の 入手 にあた って は,そ
の不利性 をカバ ーすべ くさまざ まな工 夫 が織 り込 まれ,
日本独 自の システム を構 築 してい る。 そ して,戦
後 にお け る内外環境 の変化 に適合す るなかで,従
来 の 「脆 弱性 」 を「優位性 」 に転化 させ る局面 を も実現 させ て きたので あ る。 そ う したモデル の典型 と して,
日本鉄鋼 業 の原料 入手 システム をあげ るこ とが で きる。 日本鉄鋼業 の原料 入手・利用 システム は,製
鉄 所立地や 原料輸 送 の面 で革命的 なイ ンパ ク トを もた ら し,資
源 の 開発・ 貿易の あ り方 に も大 きな影響 を及ぼ して きた。 さらに,欧
米鉄 鋼 業 の資源独 占を突 き崩す ととも に,途
上 国鉄鋼業 に対 して も発展の モデル とな ったので あ る。 この ような大 きな影響 力 を及ぼ して きた 日本鉄鋼 業の原料 入手 システム と は何 で あ るのか。 それ は どの ような内外環境 の下 で生 まれ て きたので あろ う か。鉄鋼 原料 問題 とは何 であ ったか。 原料事情 は どの ように変遷 し,今
日ど の ような位置 にあ るのか。本稿 で は,以
上 の ようなテーマ につ いて,考
えて み たい。2
戦後 日本 の資源輸入 システム
(1)戦
後 日本 の資源輸入 の構造 第二 次大戦 後 にお け る 日本経済 の飛躍 的発展の背景 には,戦
後 に出現 した 資源 。エ ネル ギー をめ ぐる世 界的 な地殻 変動 が あ り,そ
れ が 及ぼ した重大 な 影響 を見逃 して はな るまい。(1)日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 77 戦前の 日本 においては
,石
炭,石
油 とい う基本的なエネル ギーが欧米先進 国に比べて少なか らず不利な位置 にあった。 しか も,重
化学工業の基本的原 材料である鋼材が,量
。品質およびコス トのいずれにおいて も不十分なレベ ル にあった。そ う した事情 が,重
化学工業の発達 を制約 していた といわれ る。(2) 戦後,世
界各地 における植民地の相次 ぐ独立 と製鉄資源(鉄鉱石,原
料炭) の新開発時代の出現が,
日本鉄鋼業の飛躍的発展 を促す方向に作用す る。そ れが また,重
化学工業の発達 を促す有利 な条件へ転化す るのである。 さらに,中
東,ア
フ リカにおける新大油田の発見 と新開発は,石
油の低廉 豊富な供給 とい う新局面 を戦後の世界に開いた。 これは,欧
米先進国の優位 を相対的に低下 させ る要因 となる(3)_方
,日本の重化学工業化 に有利 な条件 を もた らす。低廉豊富な石油の出現 は,戦
前に 日本で発達が困難であった石 油化学工業の発達 を促 した。 さらに,電
力を低廉豊富 に し,
日本の産業各部 門の発達 を促すな ど,高
度成長 を リー ドしてい く役割 を果 たすのである。 以上 にみ るような戦後 日本経済の発展は,製
錬,精
製な どの加工部門に特 化 (あるいは偏重)し
た発展で もあった。すなわち,
自社鉱 山 (キャプテ ィ ブ 。マ イン)を
持 たず に,探
査 。採掘部門 を国際鉱業資本や産出国資本な ど に依存 し,原
料・エネル ギー資源 を単純輸 入す るという方式である。欧米(と くに米国)か
ら導入 した加工技術 に基づ き,
もっぱ ら加工設備 に集中的な資 本配分 を行な う。そ して,原
鉱石で輸入 した原燃料資源 を国内で加工 し,国
内市場 に出荷す るとともに,そ
の余剰分 を輸 出す るとい う加工貿易方式 を展 開 してい く。0
この ような消費地製錬 (精製)方
式 を基本 に した産業形態 は,表
1に
み る ように 日本 に特徴的な ものであ り,い
わゆる「資源産業」(5)に典型的 にみ られ る。そ うした方式へ特化 した背景 としては,戦
前の植民地資源の喪失,海
外 資源への投資余力の欠如,国
内鉱業資本の脆弱性(技術や経営 ノウハ ウな ど) といった 日本 に特有な要因がある。 さらに,巨
大な国際鉱業資本の支配や資 源ナ シ ョナ リズムの高 まりといった国際的な要因 もあげ られ る。 「資源産業」の収益 は,一
般 に採掘部門に偏 る傾向がみ られ る(表2)。 資「資源産業」における企業経営構造の内外比較
(1969年) 表 1 探掘部門 製 錬 並門 (精製)口P11 日 本 18 : 100 0 : 100 15 : 100 0: 100 89 : 100 100 : 100 114 : 100 117: 100 ,毎 外 出所 注´: :各社年次報告書等 に よ り作成。通産省鉱山石炭局 〔1971〕『資源問題の展望(1971)』 通商産業調査会,43ペー ジ。1.国
内鉱 十海外開発参加鉱 のメタル量2.製
錬部門 を100に統一 して換算 した もの3.製
錬各社 の 自社生産+開発輸 入 表2
採掘・ 製錬部 門の付加価値率比較 鉱 種 1969年 銅 金合 ]E '合 出所:通商産業省大臣官房調査統計部「本邦鉱業の 趣勢」。通産省鉱山石炭局 〔1971〕『資源問題 の展望 (1971)』 通商産業調査会,44ページ。 注:1.亜
鉛 を含む。2.鉛
を含む。 71.4 5.6 66.5 15.1 66.5 18.0 生産
量 経営参加による 探掘量 〔注1) 製錬・ 精 製量 銅 `=ッ ケル ア ル ミ 石 油 製錬各社 製錬 各社 製錬各社 精 製各社 117千t O千t 89千t O百万kl 648千t(注3) 11千t 591・F‐t 166百 万kl ル ミ 油 同 ヶ レ ニ ア 石 アナコンダ イ ン コ ア ル コ ア ニ `ン ソ 542千t 173二千‐t l,650二 F^t 317百 万kl 611千t 173二千・t l,450千t 284百 万kl 部
門 1968年 採掘 部門 製錬部門 採掘部 門に1) 製錬部 門 採掘部 門は2) 製錬部 門 67.6 4.5 70.9 17.5 70.9 19.6
日本鉄鋼業の原料人手システムと原料事情の変遷 表
3
日本の原材料の輸入状況 (1987年) 品 目 (単位) 日本の輸入量 世界の輸入量 日本のンエア(%) 順 位 木材(1,000立方 メー トル) パ ルプ(1,000ト ン) 綿花(1,000ト ン) 羊毛(1,000ト ン) 絹(ト ン) 53,474 2,731 836 153.5 8,342 213,321 5,565 1,027.5 35,864 15.0 14.9 23.3 25.1 1 3 1 1 1 1次エ ネル ギー計(1986年) (石油換算 100万 トン) 石炭(万トン)(1986年) 原油(万トン)(1986年) 天 然 ガ ス (1,000ジ ュール) (同) 299.4 9,039 16,534 1,573.3 2,096.2 34,102 120,743 8.288.1 14.3 26 13 20 5 7 0 1 2 2 1 天然 ゴム消費(1,000ト ン) 568 4,805 11.8 出所:FAO貿
易年艦,国
連 エネル ギー統計 な どによる 源発見 。開発の コス トに加 えて,
リスクに対す る保険料的な利益が通常の利 益 に上積 み され るか らである。そのため,製
錬・精製部門 に偏重 した 日本の 「資源産業」は,鉄
鋼業 を除 くと不安定かつ低収益 な企業体質 を余儀 な くさ れて きた。資源輸入において,量
的な面で主体性 を持つ ことが難 しいだけで な く,価
格面で も海外の価格変動 をほぼその まま国内に反せ ざる得ないか ら である。(6) 日本の資源輸 入規模 は,1967年
に米国 を凌駕 して以降,表
3に
み られ るよ うに世界第一の資源輸入国になっている。大量の輸入原燃料 は,
日本の重化 学工業 における再生産機構 の出発点 をなす。加工部門に特化 した 日本産業が 構造的 に抱 える資源供給の不安定性 は,
日本経済のアキ レス腱で もある。 そ れゆえ,そ
の克服 に向けての種 々の工夫や努力が積み重ね られ,海
外資源確 保 における日本独 自な方式 (すなわち日本型資源入手 システム)を
生み出 し たのである。 それは,戦
後の 日本産業にみ られ る資源・ エネル ギー面での脆 弱性 を次の ような処方策によってカバーす るというものである。 その一つは,企
業グループ をつ くって資源開発・購入 を行 な うというや り 方である。図1に
み るように鉱業資本や需要業界,商
社 な どがグループ をつ 79(1)銅の大 型 プ ロジ ェク トの場 合 (本 邦 法 人) (投融資) (現 地 法 人) 鉱 業 会 社 総 合 商 社 (2)石油 の場 合 (a)採掘 会 社 需 要 業 界 総 合商 社 (b)総合 商 社 銀 行 同 系 企 業 集 団 各社 (3)鉄鉱 石 の場 合 総 合 商 社 鉄 鋼 会 社 (4)ウラ ンの場 合 鉱 業 会 社 電 力 会 社 商 社 等 (投融資) (本 邦 法 人) ――――― 開 発 (投融資) ――― 開 発 ――一 開 発 ―――― 開 発 (本 邦 法 人) 引 取 保 証 (投融資) 開 発 (現 地 法 人) (投融資) ︵ 本 邦 法 人 ︶ ︵ 現 地 法 人 ︶ (投 融 資) 開 発 (投融資) 開発会社 投資会社 現 地 法 人 開発会社 現 地+外国企 業 開 発 会 社 統 括 会 社 開 発 会 社 外国企業 開発 会 社 外 国企 業
日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 (5)石炭 の場 合 81 商 社 開 発 石 炭 会 社 (出資) 鉄 鋼 会 社 (本 邦 法 人) 図
1
日本 の海外資源 開発 の代表形態 出所:通産省鉱山石炭局 〔1971〕『資源問題の展望 (1971)』 通商産業調査会,296ページ。 (注)た
だ し,(2)石油(b)項は,杉
野幹夫〔1990〕 『総合商社の市場支配』大月書店,177ペー ジより追加 した。 くり,
さらには外国企業な どと合弁形態 をとることによって必要な資金や技 術 を調達 し, │,スクを分散す る方策が とられた。 また,そ
こでは総合商社 と い う商業資本が,投
資主体 あるいは現地情報の担 い手 として,主
動的な役割 を担 っている点が注 目され る。(7) 二つめは上記の ような形で民間企業 を主体 としなが らも,国
家 による直接 間接の支援 によって支 えたことである。金融,税
制,保
険な どの各分野 にお いて,海
外資源投資の リスクを国家が最大限肩代わ りす ることによ り民間企 業の進 出を促 した。政策の主柱 である金融 において積極的役割 を担 ったのは, 日本輸 出入銀行や石油公団などの政府系金融機関である。 三つめに,膨
大 な資源輸入 と需要先への供給 を担 う資源輸送の合理化があ げ られ る。需要産業や造船業界,商
社 などが連携 して,国
家の助成の下に進 めた船舶の専用船化 と大型化 は,輸
送の安定化 とコス トの低減 に大 きな役割 を発揮す る。 以上 にみるような資源確保の方策 は,個
別企業 による垂直統合支配 といっ た伝統的な欧米型方式 とは異質である。 しか も,総
合商社や業界共同の開発 会社,政
府系金融機関 といった 日本型組織 とそれ らのネ ッ トワークが重要な 役割 を発揮 している。それ らは,日本型資源入手 システム として注 目され る。 こうした 日本独 自のシステムによって,戦
後 に出現 した世界的な資源分布 開 発 会 社 調査 開発会社
の 変革 とそれが は らむ 日本の有利性 が
,構
造的 な不 安 定性 を内包 しなが ら も 顕在 化 して い くの で あ る。(2)日
本型資源入手システム論 をめ ぐって ① 小島 清[1981]の
「 日本型 『開発輸 入一長期契約方式』」論 海外資源の開発・輸入のあ り方には,
日本の場合,欧
米 とは異なる特徴が み られ る。小島 清[1981]は
,こ
れ を「長期購買契約 を基軸 としてあ くま で 日本への輸入 を安定的に確保 しよう」とす るや り方 と捉 え,「日本型『開発 輸 入一長期契約方式』」と規定す る。(8)こ の方式 は,山
元 に市場保証 を与 える ことによって開発 を促す とい う点にポイン トを置 く。 これに対 して,欧
米先進諸国では「垂直統合企業 たる巨大多国籍企業 によ る captive developmentに よる ものがほ とん どであ り,典
型であった。」この ような伝統的な欧米型方式 を,小
島は「 自主開発一垂直統合方式」 と呼んで いる。(9) 日本型方式が登場 した背景 として,(a)日 本側 と供給側の双方が新登場者で あること,(b)需要お よび供給量の巨大性・ 固塊性,を
あげている。 また,
日 本が新参供給者 と結びつ いた背景 には,そ
れ を必要 とす る供給側 の事情 が あった。すなわち,資
源ナシ ョナ リズムが高 まり,開
発のための資本や技術 もあるなかで,巨
大 な市場保証のみが不足 し求め られていたこ とがある。(10) 長期契約方式のメ リッ トとして,大
規模開発 と大量取引に伴 う各種の取引 コス トの節約をあげてお り,こ
れ らは産出国 と輸入国 (日本側)の
双方が分 かち合 えるもの とみ る。 さらにこの方式は,ウ
ィー クな政策ではな く,は
る かに優れたユニークな資源保障方策であると評価す る。資源ナ シ ョナ リズム の高 ま りに対応 し,そ
れ を満 たす先駆的な方式 としての性格 を持つ と言い切 る。(11) 他方で小島は,双方が支配的購買者一主要供給者の関係(Dominant Buyer‐Major Supphers Relations)に あると捉 える。 また
,世
界市場 において支配 的購買者であるな らば,日本の長期契約が世界市場の安定化 に役立つ とみ る。日本鉄鋼業の原料入手システムと原料事情の変遷 83 占 と してのバ ーゲニ ング・ パ ワー を発揮 しうる点 を指摘 して い る。 なお
,
日 本 へ の過 度依 存 に よる供 給側 の不利 な面 につ いて も言及 して い る。(12) これ らの側面 は,メ
リッ トの双 方分配論 や 資源 ナ シ ョナ リズム と矛 盾 す る 性 格 を もは らむ もの で あ る。 日本 に有利 な比 率 での メ リッ ト分 配論 に他 な ら な い とい え よ う。 また,小
島 にあ って は,「 開発輸 入一 長期 契約 方式 」の特 徴 を明快 に捉 えて い るが,そ
の主体 と しての組織,
と りわけ企業 間関係 や 国家 との関係 な どにつ いての分析 はあ ま りみ られ ない。 小 島の分析 に対 して,杉
野幹夫[1990]は
それ ほ ど簡 単 に欧米 型 と対 置 で きるわ けで はな い と批 判 す る。欧 米 多国籍 企 業 との合弁 の ケー ス も多い こ と, 輸 入確保 を主 目的 とす るの は 日本企業 だ けで はない こ と,産
出国 と矛 盾 。対 立 しな い とは言 い きれ ない こ とな どを,批
判 の論 拠 にあげて い る。(13) ② 杉野幹夫[1990]の
「 日本型海外資源投資」論 杉野は海外資源投資の主体 に着 目し,その主体 に分析のメスを入れている。 これは契約方式 に注 目す る小島 とは対照的である。杉野は海外資源投資の 日 本型特徴 を次の ように捉 える。 (a)企業 グループ をつ くるこ とに よって必要資金 を調達 しリスクを分散す る。(b企 業 グループ には総合商社が参加 し,重
要 な役割 を担 っている。 さら に,(C)外国企業 との合弁形態 をとり,(d)そこに 日本輸 出入銀行な どの政府系 金融機関 による国家的支援 を行なう。(14)また,(e)輸入 ソースの多様化 (およ び各種 原料 の配合技 術)に
よ り資源 の低廉 。安定確保 と効率的利用 をはか る。(15) 海外資源投資の主体 については,総合商社に力点 を置いた視点か ら分析 し, 企業 グループや外国企業 との合弁,政
府の支援 といった特徴 を浮かび上が ら せ ている。 しか し,長
期契約方式 をめ ぐる小島 らの分析視点は,あ
ま りふ ま え られていない ように見受 け られ る。小島の場合,
日本型方式の特徴の一部 をうま くす くいあげている。しか しなが ら,主
体の分析がほ とん ど抜 けてお り,
日本型方式の美化論 に も結びついているといえよう。 杉野が投資の主体 に注 日す るのに対 し,小
島は輸入契約のあ り方に目を向けて い る。 そ うす る と
,杉
野 の投 資主体論 と小 島の長期 契約論 を結びつ け再 構 成 す る視 点 が必要 とな る。 第一 に,長
期 契約 方式 は,戦
後 の新 しい内外環境 の なかで 日本が編 み出 し た独 自な資源 入手の システムで あ る。 山元 に数量・ 価格 の長期 的保証 (すな わ ち市場 の保証)を
与 え るこ とに よって開発 を促 す とと もに,
日本側 は低廉 な価格 での安定 した資源の確 保 が可能 とな る。 また,大
型専 用船 方式 を採 用 し輸 送 コス トの低減 を行 な う。 第二 に,企
業 グル ープ をつ くって,海
外 資 源 に投 資す る資金 を調達 す る と と もに,
リス クの分散 を図 る。企 業 グル ープ には総合商社 が参加 していて, 海 外 資源 の新 規 ソースな どの情報 を入手 した り山元 と交渉す るな どの重要 な 役 割 を果 たす。 また,欧
米 の 多国籍企 業 お よび産 出国の企 業や政府 との合弁 の形態 な どもとられて い る。 第二 に,そ
う したプ ロジ ェク トに対 して,政
府 系金 融機 関 に よる融資や免 税措 置 な どの 国家 的 な支援 が行 なわれ て きた。 第 四 に,以
上 の ような方式 を とるこ とに よ り,供
給側 とは「支 配 的購 買者 ― 主要供給者 の関係」 をつ くり,バ
ーゲニ ングパ ワーの確保 をはか った きた の で あ る。 以上 にみ る ような点 は,日本 型 資源入手方式 の特徴 を総括 した ものであ る。 しか し,そ
こには鉄鋼 業 に明瞭 にみ られ る業 界共 同 に よる海外資源調査や購 入契約交渉 とい った共 同購 入方式,あ
るい は大 型兼用船 方式 な どの重要 な点 が と りあげ られ ていない。 これ は,鉄
鋼 主 原料 の人手 システムの分析 に よっ て浮かび上 が って くる もので あ る。3
日本鉄鋼業の原料問題 の基本的特質
(1)鉄
鋼原料の基本的性格 ① 各種の鉄鋼原料 鉄鋼原料 には各種 あ り,製
銑原料 と製鋼原料 に大別 され る。また,メーカー お よびその製造工程 によって使用 され る原料 も異なる。日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 85 製銑工程 で使 用 され る製銑 原料 には
,鉄
鉱 石 (焼結鉱,ペ
レ ッ トを合 む), 原料 炭(コー クス),蛇
紋 岩,ケ
イ石 な どが あ る。 また製鋼工程 で使用 され る 製鋼 原料 には,銑
鉄,鉄
層,螢
石,フ
ェロア ロイ,
ドロマ イ トな どが使 われ る。 さ らに,製
銑,製
鋼 の両 工程 で は,石
灰 石,マ
ンガ ン鉱石 な どが使 われ て い る。 上 記 の諸原料 の うち,(鉄
源 とな る)鉄
鉱 石 お よび鉄 暦,(コ
ー クスの原料 とな る)原
料 炭 の3つ
を主 原料 といい,そ
の他 は副原料 とい う。 また,こ
の 他 にエ ネル ギー源 と して重油,電
力,ガ
ス,酸
素 な ど も使 用 され て い る。 な お,原
料 炭 は コー クス に変 え られ て高炉 に投 入 され,鉄
鉱 石 を溶解 す る熱 源 お よび還元剤 として機 能す る。 また,製
鉄 所 にお け るエ ネル ギーの大宗 をな して い る。 鉄 鋼 主原料 の うち,鉄
暦 は,(製
鉄 所 内で発生 す る)自家 発生 暦 と,市
中層 (機械 工 業 で発生 す る加工 暦 と使 用 不能 とな った鉄鋼 製 品 な どの老廃 暦 ),輸 入暦 に大 別 され,そ
の大 半が国内 よ り供給 されてい る。(16) 本稿 で は,鉄
鋼 主 原料 の うち,鉄
鉱石,原
料 炭 に しぼ って考 察す る。両者 は,そ
の大半 を海 外 に依 存 し,量
的 に もコス ト的 に も圧倒 的 に高 い比 重 を 占 め て い るか らで あ る。 鉄鉱石 は,天
然資源 で あ りかつ製銑主原料 と して,(同
様 の位 置 にあ る)原 料 炭 と比較 して捉 え るこ とが で きる。一 方,原
料炭 は,鉄
鉱 石 との比較 に加 えて,同
じ石炭 と して一般炭 との比較, さ らに同 じエ ネル ギー源 と して石油 との比較 な ど重層的 な視 点が必要 で あ る。 ② 鉄鉱 石 世 界の鉄鉱石埋蔵量 は,1,690億
トン とされ てお り,ソ連 。ブ ラジル 。米 国 。 豪州 ・ カナ ダの上 位5カ国 に,全
体 の約8割
が分布 してい る (図 2)。 鉄鉱石生産量 は年 間約10億
トンで,ソ
連 。中国 。ブ ラジル・豪州 。米 国 。 イ ン ドの上 位6カ国 で約8割
を 占め る。 これ を貿易面 か らみ る と(図3),ソ
連 。中国 。米 国が生 産量 の大 半 を 自国消 費 に まわ して い るため,世
界総流 通 量 は年 間約4億
トン とな って い る。輸 出 は,豪
州・ プ ラ ジル で全体 の半分 を世界計:1,960億トン
鉄 鉱 石 埋 蔵 量
Skillings IMining lRevie、v
『鉄鋼界』1991年8月 号 より再 引用 ア 南 そ 8 9% 2% 図2 出所 ベ ネズエ ラ その他9.3% 台湾 ズ。 ル マニアく ハ、3 ハヽ、 中国3.5% リ ア 2% そ 10 3. 南アフ リカ3 ス ウ ェー チ ェコス ロヴァキ 3% 輸 出 424百万 トン 図 3 出戸斤 ポ ー ン ド 鉄 鉱 石 の貿易 量
UNCTAD 1989年
実績 『鉄鋼界』1991年8月 号 よ り再 引用。 超 え,輸
入は 日本 とECで
2/3を 占め る。図4に
み るように,大
平洋地域 にお ける「豪州→ 日本」 と,大
西洋地域 における「ブラジル→欧州」が,世
界の2大
流通網であ り,こ
れ らが世界の鉄鉱石マーケ ッ ト形成 において重要 な役 割 を果 た している。07) 鉄 は,地
殻 を構成す る元素のなかで4番
目に豊富で,全
体の5%を
占めて いる。鉄分 を合んでいる鉄鉱石の うち,
日本が製銑原料 として使用対象 に し ているのは,磁
鉄鉱(鉄分30∼60%),赤
鉄鉱(50∼65%),褐
鉄鉱(30∼55%)
の3種
類 で,こ
の中では赤鉄鉱の埋蔵量が最 も多い。 鉄鉱石 は比較的豊富 に賦存 している資源の一つである。 ただ し,輸
送 に困 難な内陸深 くに賦存 した り,鉱
石の品位や不純物が地域的に大 きく異なって ブラジル 26.8% カナダ71%
% 本 30 日 輸 入 422百万 トン 韓 国5 EC12 33.2%日本鉄鋼業の原料人手システム と原料事情の変遷 87 (単位:100万 トン) 日 カ ナ く つ 0.1 / ^ / .け 日本 ` 15.6 EC 7 ソ連 イ ン ド 米 国 リベ リ 8.4 クまカ 9 56.3 日本 へ ベ ネ 6.1 4.9 ズ エ ラ ア フ リカ 42 6 チ リ 20.1 オ ー トラ リア ブ ラ ´ ζ7 29.5 図 4 「ll所 鉄鉱石 の流 れ (1989年) 各国貿易統計等 より作成 『鉄鋼界』1991年8月号 より再引用。 い る。その点で は
,著
しい偏在 を示 してい る とみ るこ と もで きる。この ため, 鉄 鉱石供給の問題 は物理 的制約 の問題 とい うよ りも,採
掘 の経済 的・技 術 的 困難 をいか に克服 す るか とい う問題 で ある とい え る。(18) 鉄鉱 山の新 規 開発 には,探
鉱,経
済性 評 価,鉄
道・港 湾 な どの イ ンフ ラ整 備,鉱
山設備 の建 設 な どで 5∼10年
を要 し,既
存鉱 山の拡 張 で も数年 を要 す る。鉄鉱 山の開発・経営 は技術 的 リス クが小 さい といわれ てい る。(19)主要鉱 物 資源 の 中で は図5に
み るように,鉄
鉱石 は石 炭 と同様,鉱
床 発見 リス クは 低 く,
また開発利益格差 も相対的 に少 ない。 ただ し,資
源 の偏 在性 とい う点 で は,そ
れが大 きい鉄鉱石 は,偏
在性 の小 さい石 炭 と対照 的 で あ る。 山の規模 か らみ る と,鉄
鉱 石 は大体1,000万
トン以上 の規模 で あ る。 これ に対 して,石
炭 の 場 合,1,000万
トン単 位 で 産 出 され る 山 は な く,大
体 200∼300万
トン程 度 が普通 の規模 とな って い る。(20)なお,鉄
鉱 山の 開 発費 用 は表4に
み る ように,石
油 危機 前 に比べ て,1980年
代以 降 には トン当 りで約3倍
に上 昇 して い る。 開発資金の大規模 化 に伴 い,新
規鉱 山開発 に伴 う開 発 リス ク も従来以上 に増大 してい る。図
5
資源別寡 占化進行要 因の比較 (注)Fe:鉄
鉱石 coal:石 炭 u:ウラン oil i原油Cu:銅
Ni:ニ
ッケル al:アル ミニ ウム Pb:,合 Zn:]E'合 出所:通産省鉱 山石炭局 〔1971)『 資源問題 の展望 (1971)』 通商 産業調査会,114ペー ジ。 要 因 大 き い 中 程 度 小 さ い r l①
{資源の偏在
│ ① oil匡ヨ
◎
△ ▽ (Znヽ al │_■9■_│②
l 鉱床 の品位 規模 等 の格 差 に よる開 発利益格差①
⊂⊃
Cu ▽ (Znヽ △ al◎
[■Ωal__│ r │③
{ │ │ 鉄床 発見 の リスク①
⊂ED
□
▽
f Zn) △ al ◎ r④
l 製 品製造の 技術格差①
(Znt al Cu oil △ ▽◎
coal日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 表
4
鉄鉱 山開発 費 および年産規模 トン当た り開発 費 (単位 :米 ドル) D 将 来 1,000万 t 30,800万 ドル 33,800′′ 鉱山設備に含む 2,600′′ 67,200′′ 89 開 発 時 期 生 産 規 模 鉱 山 設 備 鉄道・ 港湾 電 力 。給水 町 造 り 計 トン当た り 67ドル 出所:日本鉄鋼協会〔1980〕『第71回西山記念技術講座 80年代における日本鉄鋼業』 129ページ。 ③ 原料 炭 一 方,石 炭資源 は,石 油や天然 ガス資源 に比べ て豊富 に存在 す るエ ネル ギー 資源 で あ る。世 界 の石 炭生 産量 は約34億
トンで,中
国 。米 国・ ソ連 の3カ国 で約7割
を占め る。(21)こ れ を貿易面 か らみ る と,中
国 。米 国 。ソ連 が生 産量 の大半 を自国消費 に まわ してい るため,世
界総流 通量 は年 間約4億
トン弱 と な って い る。石 炭輸 出量 で は,豪
州 。米 国 。南 ア フ リカ・ ソ連 の4カ国 で約7割
を占め る。 豪州 は,石
炭 生 産 の 占め るシェア は4%に
す ぎないが,輸
出 は世 界最大 で1億
トン と27%の
シ ェア を持 ってお り(図6),そ
の半分 が 日本 向 け に輸 出 され て い る (表5)。 石 炭 貿 易量 の流 れ をみ る と,1980年
代 にお い て大 きな変 化 が み られ る。1980年
にはEC向
けが,EC域
内流 通 を主 に9千
万 トンを超 え全体 の37%を
占め て,最
も大 きな流 れ を形 成 して い た。 しか し,88年
にな る と7千
万 トン で約19%の
シ ェアに落 ち込 んで い る。一方,日本 向 けにつ いて は1980年
の6.6千
万 トン(27%の
シ ェア)か
ら88年
には9.6千
万 トン(26%)に
増 加 して い る。 また,韓
国 。台湾 の増 加 が顕著 で あ る。表5に
み られ るように,88年
に お け る 日本・ 韓 国 。台湾 の石 炭輸 入量 は,世
界 の約4割
を 占め る に至 っ た。(22) BC
A 1969´ヽ´72 1967 1965∼71 250万t 3,500万t 1,100万t 12,700フアドル 9,900′′ 2,900′′ 1,500′′ 27,000′′ 5,400万 ドル 1,800′′ 鉱山設備に含む 500′′ 7,700′′ 31,600フテドル 29,800′′ 7,400′′ 12,100′′ 80,900′′ 24.5ド ル 31ドル 23ドル(単 位:100万t) コ ロ ン ビア(28) そ の他 中 国 図6 出所 世界の石炭輸 出量
「IEA COal information 1989」
『鉄鋼界報』1990年9月 1日号 より再引用。 石 炭 は
,石
炭化度 に よ り泥炭,褐
炭,亜
涯 青炭,涯
青 炭,無
煙 炭 に分類 さ れ る。石炭 は用途 か らみ る と,原
料 炭 と一般炭 に大 別す るこ とがで きる。「,F 料 炭 は,主
と して涯青炭 の うち粘 結度の高 いいわゆ る粘結炭 が使 われ る。 原 料 炭 は,そ
れ をコー クス と して高炉 に投 入 され るこ とに よ り,鉄
鉱石 の溶解 に必要 な熟 の供 給,還
元 に必要 な一酸化炭 素の発生,高
炉 内 にお け る通気性 保持 な どの ため に使 われ る。(23) 鉄鉱 石 は用途 が製鉄用 に限定 され るため,鉄
鋼 業 界だ けが購 入者 であ る。 これ に対 して,石
炭 の場合,コ
ー クス用 に とどま らず,一
般 炭 はエ ネル ギー 用 と してセ メ ン ト業界,電
力業界,紙
・ パ ルプ業界 な どに広 く使 用 され る。 この ため,石
炭 はマ ー ケ ッ トが 多様 化 して お り,価
格 設 定 に難 しい面 が あ る。(24) 石 油 か ら石炭 へ のエ ネル ギー源 の転換が進 む なかで,一
般 炭 の需要 が拡大 して い る。 また,製
鉄 業界 で も,高
炉 へ の微 粉炭 吹 き込み (Pulverized Coal lniection:略称=PCI)が
増 えて お り,非
微粘 炭 が使 用 され る。非微粘炭 とい うの は非粘炭 と微粘 炭 を合 わせ た もの(25)で,_般
炭 との違 いは,洗
炭 す なわ ち石炭 を洗 うか洗 わ ないかの違 い にす ぎない。非微粘炭 は,電
力 向 けな ど燃 料 用 の一 般炭 と品質・ 価格 にほ とん ど差 が な く,供
給 先 が だぶ って い る。(26) 16 オ ー ス トラ リ 100 (26.9%) ナ 32 5) (8 32 世界計 1988年 371 (100%) 連 35 (9_4) 44 南 ア (11.9) 米 国 86 (23.2)日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 表
5
主要 国の石炭輸 出先(単位 :100万t)
出所:各国貿易統計,IEA Coal lnformation等に よ り作成。『鉄鋼 界報』1989年11月 11
日号 よ り再 引用。 (注)合計量 は主要国か らみた輸 出入量の計 であ り
,世
界計 とは異 な る。 *88年の数値不明のため87年の推 定値 を仮置 き。 輸 出国EC7
米 国 カナ ダ ソ連 1987年 88 87 88 87 88 87 88
E C 7
そ の 他 西 欧 ソ 連,東
欧 9.0 2.4 0.1 8.4 1.8 0.1 21.9 6.5 1.9 28.4 9.8 2.7 1.5 0.9 1.4 0.7 0.9 4.4 22.5 1.2 5.3 20.6 カ ナ ダ 14.6 17.4 中 南 米 日本 韓
国 台
湾 そ の 他 0.2 0.1 6.2 9.6 3.7 4.3 2.8 5.8 12.8 3.6 4.2 1.4 1.4 16.6 3.8 0.5 0.8 1.8 19.3 4.6 1.0 0.5 6.4 7.6 合 計 11.7 10.4 71.5 86.1 25.5 29.4 34.2 34.7 輸 出国 輸 出先 ポーラン ド オース トラリア 南 ア フ リカ 合 計 87 88 87 88 87 88 87 88
E C 7
その他の西欧 ソ 連,東
欧 5.9 8.8 13.9 5.3 8.2 16.2 16.6 8.9 2.3 12.5 3.7 1.9 12.8 8.5 12.0 8.6 68 40 40 6 4 7 69 2 38 1 41 5 カ ナダ 14.6 17.4 中 南 米 日
本 韓
国 台
湾 そ の 他 2.2 0.2 2.1 0.4 2.1 47.1 7.5 6.9 10.6 2.3 50.7 8.4 7.4 13.1 7.8 2.2 2.7 8.6 5.9 ・2.2 4.3 11.0 11..9 87.5 17.2 14.4 23.2 12.0 96.3 18.8 16.9 26.5 合 計 31.0 32.2 102.0 100.0 42.6 44.0 318.5 336.8
④ 石油 と比較 した石炭 の基 本的特徴 石 油 と比較 した場合
,石
炭 の基本的特徴 と して次の5点
をあげ るこ とがで きる。(a)豊
富 な埋蔵 資源 石 炭 の理論埋蔵量 は10兆
トン,確
認理蔵量 は6,400億
トン,う ち高品位炭 は4,900億
トンで200年
分 の埋蔵 量 とみ られ る。これ は,30年
弱 の確 認理蔵 量 しか な く,今 後 の発見量 を入れ て も約80年
にす ぎない石油 とは大 き く異 な る。(b)産
出国の分散 石 油 が 中東・ ア フ リカに偏在 して い るの に対 し,石
炭 は多数 の 国 に賦 存 じ て い る。 しか も先進 国が多 く,政
治 的 に も安 定 した国が多 い。(C)労
働 集約 型産業 石油 は資本集約 型産業 で あ り,物
理 的 に も経済 的 に も比較 的容易 に生産調 整 が可能 で あ る。 ところが,石
炭 の場合,石
油 に比べ 労働 集約型産業 であ り, 生 産削減 は即失業 な どの社会 問題 を引 き起 こ しや す い。 この ため,石
炭 産 業 で は一般 的 に,い
ったん生産 を開始 す る と,終
掘 に至 る まで供 給 を続 け ざる をえな い。石油 にお け るように人為的 に供給 をコン トロール し,価
格 カル テ ル を結べ る余地 が,狭
い とみ られ る。(d)戦
略 的 な介 人の難 しさ 以上 にみ るような特徴 か ら,石
炭 の場合,石
油 とは異 な って供給寡 占状 況 を入為的 に創 出す るこ とが きわめて困難 な資源 と考 え られ る。(27)(e)高
い開発成功率 石 炭 は石 油 と異 な り,探
査 で有望 とな った鉱 山は高 い確 率 で開発 に成功 す る。(28)(2)戦
後 日本 鉄 鋼業 の原料 問題 日本鉄鋼業 において,原
料 資源 問題 は戦 前 。戦 後 を通 じて特 別 に重要 な位 置 と比 重 を 占め て きた。 その理 由 と して次 の ような点が考 え られ る。 第一 に,鉄
鋼 製 品 は,戦
前 には「軍器素材=労
働 手段 素材 」(29)と して,
ま日
本 (昭和26年度下期) イギ リス (昭和23年) アメ リカ (昭和23年) 77.0 12.0 4.2 6.8 56.9 25.0 13.3 4.8 49.9 34.8 8.6 6.7 100 100 100 33 3 29 日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 表
6
戦後初期 における原 材料 な どの対外 (および戦前)比
較 一一全 売上高 に対 す る%一
戦 前の 日 本 93 費 費 他 金 材務 の 益 計 原 労 そ 利 料 69.0 9.0 12.0 10.0 100 対 象 社 数 資料:イギ リス,アメ リカは国連欧州経済委員会の『世界市場における欧州 鉄鋼の趨勢』1949年,戦
後「1本は日本銀行統計局『本邦主要企業経営 分析調査』,戦
前は通産省重工業課『日本鉄鋼業の経営内容 と収益力』 による。 出所 :今 井則義編 〔1959〕 『現代 日本産業講座II』 岩波書店,116ペ ージ。 た戦後 は重化学工 業 の基幹的素材 と して,戦
略 的 に重要 な位 置 と役 割 を担 っ て きた こ とで あ る。 第二 に,鉄
鋼 主 原料 で あ る鉄鉱 石 は戦 前 か ら海 外 に依 存 し,原
料 炭 につ い て も高炉 用 コー クスに不可欠 な高 品位炭 (強粘 炭)を
海 外 に依 存 して お り, その安 定確保 が課題 で あった。戦 後,主
原料 (鉄鉱 石,原
料 炭)の
海 外依 存 は よ り大 き く深 くな る。工業 原料 と してみ る と,石
油 を除 いて は量 的 に も金 額 的 に も突 出 した位 置 を占め て きた こ とで あ る。 第二 に,
日本鉄鋼業 にお け る原料 コス トの比 重 は,戦
前 。戦 後 を通 じて欧 米 諸 国 に比べ て も高 く,
と りわ け復興期 におけ る原料 コス トの高 さは際立 っ て いた こ とで あ る (表6)。 この ため,鉄
鋼 主 原料 を安 定 して,低
廉 な価 格 で いか に確 保 す るかが,戦
前・戦 後 を通 じての 重大 な課題 で あ った。 日本鉄鋼 業 にお け る原料 問題 は, その後,劇
的 な変化 と展開 をみせ る。 日本鉄鋼業 は,戦
後 に出現 した新 たな内外環境 に適 応 した独 自な原料 人手 システム をつ くりあげた。 その結果,ア
キ レス腱 といわれ た原料 問題 を,
日 本鉄鋼 業 の 「強 み」 の主要 因の一 つ に転 化 させ るの で あ る。世 界 史上 に類 をみ な い 日本 の 高 度成 長 の下 で の鉄 鋼 原料 需要 の急激 な増 大
,三
度 にわ た る石油危機 な どに も対応 し,低
コス トに よる安 定確保 と課題 を達成 して きた。効 率的 な生 産 システム と技 術優位 を確立 し,世
界最 強 の国 際競争 力 を もつ に至 る。 その後,近
年 で は円高・ ドル安の急激 な進行 に よ り,国
際競 争 力の低下や 収 益 悪化 な どの問題 に直面 す る。 その反面,円
換算 の原料価格 につ いては大 幅 に低 下 し,総
コス トに 占め る原材料 費 は20%前
後 に まで落 ち込 む。 この ように,
日本鉄鋼 業の原料 問題 は,少
な くとも表面 的 には後景 に退 い た観 がす る。 しか しなが ら他面 で は,
日本鉄鋼業 を取 り巻 く原料 問題 は,今
日世 界的 な環境 変化 の波 に洗 われ て い る。鉄 鉱石 や石 炭 にお け る世 界 マ ー ケ ッ トの成立,ア
ジア諸国 にお け る需要の急増,一
般 炭需要の世 界的 な拡 大, さ らに は山元の減量合理化 な ど。 こ う した新 たな原料環境 に対 して,原
料 入 手 シス テム を どの ように再編 してい くか とい う重大 な課題 を抱 え るに至 って い る。 日本鉄鋼業 の原料 入手 シス テム とは何か。 どの ような原料事情 の下で,い
か な る原料政策 に よって,1構 築 して きたのか。 こ う したテーマ につ いて考察 し,今
日的 な課題 を考 え る手がか りとしたい。4
鉄鋼原料入手 システムの 日本 型特質
(1)日
本 型鉄鋼 原料 入手 システ ムを捉 える視 点 日本 の資源産業や資源 入手方式 に関す る1970年
代 初 め までの分析 には,偏 重性 や 脆弱性 を強調 す る議 論 が主流 で あった。通産省 [1971]で も,「 膨大 な 規模 とな ったわが国資源輸 入 に対 す る入手方式 の脆弱性 」,「 わが国の資源産 業 が総 じて製錬,精
製 な どの加工 部 門 に偏 重 した産業体制 を とってい る」 な どの指摘 がみ られ る。(30)ま た南克 巳 [1976]も,戦
後 日本鉄鋼 業 の構 造 を「炭 鉄 分断=『
加エ モ ノカル チ ャ』 の構 成」 と捉 えた。(31) ところが,小
島 清[1981]に
な る と,そ
の評価 が全 く逆転す るに至 る。 日本型資源 入手 システム は,伝
統 的 な欧 米 型 方式 に比べ てユ ニ ー クで あ り,日本鉄鋼業の原料 人手 ンステム と原料事情 の変遷 95 さらにはより優れたシステムであると強調す る。 また
,内
山良正 [1981]は, 日本鉄鋼業の国際競争力を支 える2大
要因 として,「効率的な生産 システム」 とともに「優れた原料調達 システム」をあげている。(32)この ような 日本の資 源入手 システムに対す る評価の逆転 は,
日本的経営や 日本の労使関係,生
産 システムなどをめ ぐる評価の変化 とも軌 を一 に した ものである。 日本の素材産業のなかで も,鉄
鋼業は「例外的 に国際競争力を維持 し」て きたが,そ
の鍵 を握 るもの として「原料政策」が とりあげ られている。 とく に,「原材料輸 入では競争 しない」 とい う「協調」体制が注 目された。(33) 日本の資源入手 システムのなかで も,
日本鉄鋼業の原料入手 システムは特 別の位置 にあるとみ ることがで きる。一方では,
日本型資源入手 システムの 先駆 をな し原型 となった とい う点 において,
また他方では 日本の素材産業の なかで も「例外的」 に成功 した という点 において,鉄
鋼原料入手 システムは 意義深 い ものがある。 なお,
日本型資源入手 システム,
とりわけ鉄鋼原料入手 システムの分析 に 当たっては,そ
れが もつ歴史的 。戦略的意義 と,そ
れが内包す る構造的不安 定性 を統一 して把握す る視点が求め られている。(2)長
期契約方式 通産省 [1971]は,高
度成長期 における日本の資源入手方式 を,(a)単純(買 付)輸
入方式,(b)融資買鉱方式,(C)開発参加輸 入方式の3つ
の タイプ に分 け ている。(a)は「外国事業者が開発 した資源 を一般の商業ベースの契約 により 買付 け,輸
入す る」方式であ り,(b)は「わが国企業が外国事業者 に開発な ど に要す る資金 を融資 し,そ
の見返 りとして資源 を輸 入す る」方式である。 ま た(C)は,「わが国企業が投資す ることによって,資
源開発 を行ない,そ
れ を輸 入す る」方式である。(34)図7に
み るように,(a)の単純輸入方式が 日本の資源 輸入の9割
前後 を占めていた。小島のいう「開発輸入一長期契約方式」 というは
,(a)を主体 とする日本の
資源輸入方式の特徴 について規定 したものである。そこでの「開発輸入」 と
いう表現は
,な
んらかの資本投資をすることによって開発 し
,そ
れを輸入す
原 油 原料炭 鉄鉱石 ニッケル アルミユウ, 亜 鉛 鉛 銅 10 7 9 6 6 16 20 10 0 0 10 20
(%) (開
発輸入)
資源別(融
資輸入) (%)
図7
主 要 資 源 輸 入 に 占め る開発 輸 入 と融 資 輸 入 の 比 率 出所 :通 産省鉱 山石炭局 〔1971〕『資源問題の展望 (1971)』 通商産業調査会,21ペ
ー ジ。 る(C)の方式 と混 同 じや す い。 それ を考慮 す る と,「 長期 契約 方式 」とい う方 が 妥 当 と思 われ る。 長期 契約 方式 とは,長
期 の買付保証 を山元 に 与えるこ とに よって,長
期 に わ た り資源 の安 定供給 を確保 す る方式 であ る。鉱 山の開発 自体 は海外資本 に 委 ね,直
接 資本参 加 は行 なわない。数量契約 と価格契約 が 中心 で あ り,単
純 な売 買方式 で あ る といえる。(35) 長期 契約 は売 主 。買主の双方 に利益 を もた らす とい う長期契約 のメ リッ ト 論 は,小
島 清 だ けで な く,業
界 の実務家(36)や産 出国の研究者(37)など も指 摘 す る ところで あ る。 まず 山元側 には,長
期 かつ 安定的 なマ ーケ ッ トを与 え る。 これ を担保 に し て,巨
額 の開発資金 を調 達 し,安
定 的 な経 営 と投 資 回収 の確 実 な見通 しをつ け るこ とが で きる。(38)と くに鉄 鉱石 と石炭 は,石
油 な どに比べ て開発 の リス クが低 い こ とも,こ
う した長期 契約 方式 の 山元側 にお け る有効性 を高 め た と い え る。 一 方,輸
入者 で あ る 日本側 は,鉄
鋼 原料 需要 の急激 な増大 に もかか わ らず,日本鉄鋼業の原料 人手 システム と原料事情の変遷 97 安 定 した原料 の供給 を確保 す るこ とがで き
,価
格 面 で も長期 の見通 しを持 つ こ とがで きた。(39)日本 の鉄 鋼 原料 需要の増大 に伴 い,山
元側 は鉱 山規模 を拡 大 して ス ケール メ リッ トを享受 し,イ
ンフ レに よる操業 費の上昇 も吸収 され た。 その結果,鉄
鉱 石 だ けで な く原料炭 につ いて も長期 間安定 した価格 レベ ル が維持 され たので あ る。(40)(3)共
同購入方 式 日本鉄鋼業 の原料 入手 システムの際立 った特徴 に,業
界 あげての共 同購 入 方式 を確立 した こ とをあげ るこ とがで きる。 共 同購 入 は,1952年
の海外製鉄 原料委員会の発足 に始 まる。 当時,商
社 の ス ポ ッ トものの買 い集 め に よるFOB価
格 騰貴 お よび運賃騰 貴 に直面 して, 八幡,富
士,鋼
管 の3社
で発足 させ た。その後,残
り7社
も加 わ り,高
炉 10 社 (各合併 を経 て1977年
以 降 は8社 )の
協調 。総 合対策 の場 とな る。(41)主要 な ソース はいずれ も,こ
の委員会 で共同開拓 した もので あ る。海外製鉄 原料 委員 会 の活動 は,1953年
か ら70年
までの間が最 も活 発で あ った。(42) 各鉱 山山元 か らの鉄鉱石や石炭 の購入契約 は,通
常,高
炉7社
が共 同で行 う。契約 には主要商社10数
社 も輸 入代行者 と して名 をつ らね る。 まず最 初 は,1∼
2の
商社 が有望 な鉄鉱 山 を見つ け,鉱
山企 業 に交渉 した り 開 発段 階 か らの参加 を図 る。 その一 方で,
日本 国 内の海外製鉄 原料委員会や 主要製鉄企業 に売 り込 み,
日本の高炉7社
の共 同購入契約 に持 ち込む。 この 商 社 が 当該鉱 山の幹事会社 とな る。 なお,幹
事 会社 は,共
同購 入契約 に持 ち込 む段 階で各製鉄企業 と取 引関係 にあ る他の商社 に も輸 入代 行者 と して参加 を求 め る。 これ は,危
険分散 と利 益 配分 の両方の意味 を持 つ。 また,商
社 配分 につ いて は,製
鉄 企 業側 の企 図 が反映 され る場合 もあ る。(43) 長期 契約 に よる製鉄企 業 。商社 の一体 とな った共 同購 入方式 は,
日本側 の バ ーゲニ ング・パ ワー を高め る役割 を発揮 した。鉄鉱石取 引の 日豪関係 にお いて,「 買手の製鉄企 業,商
社 の合 同購 入の交渉 力が売 手側 の鉱 山企 業 を上 回 って買手 に有利 に推 移 した」 こ とが指摘 され てい る。(“)(開発 許 可) 1鉱 区使用料 ) t法人税・輸出税 リ (投融 資) (現地 法 人) C数 1民 間 主 導 型 1輸銀融資) t投 資保険 リ (協議) (投融 資) r―――‐ 商 社 ヽ ︵ 対 日 鉄 鉱 石 輸 出 ︶ 融 ︵ 長 期 購 入 契 約 に 基 づ く 引 取 保 証 ︶ ” ﹁ ︱ ● ハ ー メ 月 ︱ ︱ ︱ コ
r
欧
欧
欧
︵ 融 資 ︶ 一 楊 一 一 本 一 コ 資 一 一 際 ¨ 一 国 一 資 ︶ 製 鉄 企 業 Ca"2政 府 主 導 型 f輸銀融資1 t投資保険 リ`
`
`
ヽ
ヽ
ポ
Lヽヽ
(投融 資) 「 一――‐ 商 社 (投融 資) (配 当 金) (現 地 法 人) 日_ノ │ 回卜4
製 鉄 企 業_ 1 回 ‐ ´: 回・ ―」 ――k_型堕写杢■2´ ' 図8
長期契約方式による鉄鉱山開発の2つのパ ターン 出所:山澤逸平/池間 誠編 〔1981)『資源貿易の経済学』文真堂,197ページ。 ︵ 長 期 購 入 契 約 に 基 づ く 引 取 保 証 ︶ ︵ 対 日 鉄 鉱 石 輸 出 ︶ ︵ 融 資 ︶ ︵ 融 資 ︶ 現 地 政 府 日 本 政 府 開 発 会 社 外国企業 または 現 地 資 本 鉱 山 開 発 輸 出 日 本 政 府 現 地 政 府 国営 鉄 鉱 山企業 開 発 会 社 鉱 山 開 発 輸 │七│]本鉄鋼業の原料入手システムと原料事情の変遷
99
日本政 府 は,政
策 金 融面や税 制面 な どで こ う した資源 入手 方式 を支援 して きた。政策金融 には,海
外経済 協 力基 金,輸
出入銀 行 に よる海 外投 資金 融や 資源金 融 が あ る。海 外経 済協 力基 金 の (探鉱 。開 発)融
資 は,発
展途上 国の プ ロ ジェク トにつ いて も行 なわれ る。 また,通
産 省 に よる海外投資保 険や資源 開発投 資損失準備 金制度 もあ る。 海 外 資源投資保険 は,1970年
に従来 の海外投 資元本保険 お よび海外投 資利益 保 険 を統合 した もので あ る。資源 開発 に限定 され ないが,民
間企 業 に よる海 外投 資行動の重要 な柱 とな って きた。資源 開発投資損失準備金制度 は,海
外 投 資 お よび融資 につ き,探
鉱100%,開
発30%の
準備金積 立 を認 め る制度 で あ る。(45) 政 策金融 を得 て推 進 され た製鉄 原料 の合 同調 達方式 は,す で に1950年
代 の 対 イ ン ド融資買鉱プ ロジェク トか ら始 まってお り,こ
れが 日本 の融資買鉱 の 先駆 とな った。 また こ う した官民協調 方式 が長 い歴 史 を持 つ こ とを示 す もの で あ る。(46) なお,資
源 産 出国側 の対応 は,民
間企 業 が鉄鉱 山の開発 を主導 す る場 合 と, 資源 産 出国政 府 が直接 に鉄鉱 山の 開発 に関与 す る場 合 に,大
別 す るこ とが で きる (図8)。 豪州 は,前
者 の代表例 であ る。 豪州 で は民 間の鉱 山企 業 が,政 府 よ り開発許 可 を得 て事業 を行 なってい る。 連 邦政府 は,鉄
鉱石 の輸 出許 可権 限 を持 ち,鉄
鉱石輸 出税 を徴収 し,輸
出契 約 条件 チ ェ ックを行 な う。州政 府 は,鉄
鉱 山の開発許 可権 限 を有 し,鉱
区使 用料 を政 府収 入 と して得 てい る。 ブ ラジル で は,民
間企 業主導 型の開発形 態 と政府企業主導型 の開発形態 が 共 存 してい る。MBR,サ
マル コな どではプ ラジル民 間資本 と外 国資本 が合弁 で鉄鉱 山の開発 を行 なってい る一方,政
府企 業 の リオ ドセ も鉄鉱 山の開発・ 経営・ 輸 送・輸 出 を行 なって い る。(47)(4)大
型専用船・ 兼用船方式 専 用船 方式 とは,鉱 山開発 にお け る長期 契約 方式 に比肩 され る もので あ る。 す なわ ち,荷
主 で あ る製鉄企 業 は,直
接 建 造資金 を投 下す るこ とな く,長
期11 (2日) ル シ ャ湾 6.400 ヨーロツパ(3[1) 18 411) ラ ジ /′
V
Q 日本 (4日) 15 11 5.000海里 (空 ヽ 35 11.700 図9
鉱油兼用船 の航海パ ター ン例 (注)数
字は所要航海 日数,( )内
数字は荷役所要 日数を示す 出所:日本鉄鋼協会 〔1980〕『第 71回 西山記念技術講座80年
代における日本鉄鋼業』114 ペ ー ジ。 に荷 主 に対 しコス トベ ース に よる運賃並 び に積 荷保証 を与 え る。船 主 は この 保証 の もと,低
利 の制 度金 融(48)を利 用 し,船
を建 造す る もので あ る。 専 用船 方式 は,荷
主・ 船 主双 方 にメ リッ トを もた らす。 これ に よって,製
鉄企 業 は増大 す る船 腹需要 を満 たす とともに,市
況 に左 右 され るこ との ない 安 定的運 賃の確 保 が可能 とな る。一 方,船
主 も船 隊 を拡 充 。整備 す るこ とが 可 能 とな る。(49) 専 用船 の大 型化 に対 応 して,積
地 ・揚地港湾 の整備 。大 型化 も逐次進 め ら れ た。製鉄所 の港湾・荷役 設備 も,水
深20m前
後 の大 型港 湾,1,500∼
2,500 トン/時の能力を もつア ンローダ(荷場 げ)設
備 と効率的な原料荷役体制が整 備 されてい く。(50)なお鉄鋼港湾 は,1959年
か ら特定港湾 に指定 され,そ
の整 備 にあたっては国庫 より1/4,都
道府県市町村 より1/4,合
わせ て 1/2の 費用 が公的資金 にて まかなわれた。(51) また,大
型兼用船方式 により,大
西洋岸の北南米 。アフ リカな ど遠距離 ソー スか ら経済 コス トでの安定 した輸送が可能 となる。兼用船方式 というのは図9に
み るように,一般的ルー トとして 日本 よリペル シア湾 まで空船 で航海 し, O o (原油)ノ
日本鉄鋼業の原料大手システム と原料事情の変遷 一 平均運賃(S/T) ――一―平均海上輸送距離(海里) 101 (s/T) 12 000海里) 12.03 8.19 7.0 60 5.0 8.75 6.00 3 00 2.9 4.0 5.545.705 50 3.803.90 5.6 61 4.50 6_3 6.3 62 6.706.51 6・16.0 平 均 運 賃 53 40 4 30 3 66 2.0 1955 '57 '58 '60 '62 '64 '66 '68 '70 '74 '76 '78(年) 図
10
鉄鉱石 の運賃 と平均海上輸送 距離 の推移 出所 :海運統計要覧,新
日鉄資料 日本鉄鋼協会 〔1980〕『第 71回 西山記念技術講座80年
代における日本鉄鋼業』115 ページより再引用。 ペ ル シア湾 にてオ イル を積 み,
ヨー ロ ッパ あ るいは北南米 な どへ輸 送 す る。 その後,lL南
米 あ るい はア フ リカの鉱 石 また は石 炭 を 日本 まで輸;)生す る とい う,い
わ ゆ る三角輸 送形態 を可能 に した もので あ る。 これ に よって,
日本 の製鉄企 業 の負担 す るフ レー トは,
ヨー ロ ッパ で空船 にな ってか ら鉱石 を積 んで 日本へ くる部分 のみ とな り,大
幅 な フ レー ト低 減 が 図 られ た。(52) これ らの結果,1955年
∼70年
代 前 半 まで は鉄 鉱石 の場合,図
10にみ られ る ように平均輸 送距離 が2,900海
里 か ら6,300海
里へ と大 幅 に伸 び たに もか か わ らず,輸
送運 賃 は一貫 して低 下 してい る。 入着価格 に 占め る運賃 比率 も3割
程 度 に引 き下 げ るこ とがで き,運
賃 市況 に も左 右 され に くい安定運 賃 の 確 保 に成功 した。 この傾 向 は原料 炭 の場 合 も同様 にみ られ,入
着価 格 に 占め る運賃 比率 で は,1960年
代 初 めの4割
近 い レベル か ら,60年
代 後 半 には3割
程 度 に まで低 下 してい る。(53)表
7
主要 国鉄鉱石平均海上輸送距離 国 名 日 独 仏 伊 英 米 60 65 70 75 80 4.0 5.5 2.9 2.92.1 3.0
3.3 3.02.1 2.2
2.5 2.2 6.0 3.2 3.7 3.4 3.4 2.2 6.2 4.8 4.4 4.4 3.1 2.6 6.6 4.5 (4.1) (4.1) (4.1) 2.1 出所:川崎 勉〔1982〕『日本鉄鋼業 一 その 軌跡一 』鉄鋼新聞社。299ページ。 こうして,平
均海上輸送距離が欧米 に比べて圧倒的 に長い (表7)に
もか かわ らず,常
に競争力ある価格で鉄鉱石 。原料炭の供給 を確保す ることが可 能 になる。フレー ト面で経済性 を維持す るこ とにより,遠
距離 にある良質か つ大規模鉱山か らの引取 を可能 に し,ソ
ースの多様化 を図 ることがで きた。5
日本 型鉄鋼原料入手 システムの イ ンパ ク トと歴 史的意義
(1)戦
後 の背 景 この ような製鉄 原料 入手 の方式が とられ た 日本側 の事情 には,ま
ず製鉄企 業 にお け る資金 的 余 力の欠如 が あげ られ る。 当時,復
興 か ら高度成 長へ と急 速 な発 展期 にあ り,
自 らの製銑 設備 の拡 張,効
率化 に資金 の大 半 を投 入 して いた。 この ため,海
外 資源 に投資 して 自社鉱 山 を持 つ余力 はなか ったので あ る。 しか も,
日本 には国際的鉱 山企 業 もな く,海
外 資源 開発の技術や経営 ノ ウハ ウ も蓄積 され ていない。 他 方,国
際的 には,第
二次大戦後 に次の ような新 たな状 況 が出現 して いた。 第一 に,
日本鉄鋼業 は戦 前の海外植 民地 。半植 民地資源 を喪失 し,い
わ ば戦 前 日本 型 キ ャプ テ ィブ 。マ イ ン方式 の挫折 とい う局面 にあ り,そ
れ を教訓 に した新 たなシステムの再構 築 に迫 られ ていた こ とで あ る。 第二 に,第
二 次大戦後 に新 た に出現 した新興独立 諸国が 自国内の資源 開発 に意欲 をみせ,
また米・英系鉱 山企 業 に よるこれ ら地域 の資源 開発へ の積極日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 103 的な進 出 とが結びつ き
,こ
こに世界的な資源分布の変革期 を迎 えたことであ る。 これ らの地域 に とって,
とくに欠けていたのは市場の保証であった。 第二 に,米
国の対 日占領政策が 日本経済 の復興援助へ と転換 し,東
南アジ アの製鉄資源開発な どに も援助の手 を差 し伸べ たことである。 この ような戦後の新 たな内外環境の もとで,そ
のハ ンデ ィキャップ を克服 すべ く編み出 された 日本独 自の原料入手 システムが,主
要 な製鉄企業 と商社 による長期契約一共同購入方式である。(2)日
本型鉄鋼原料入手システムの強み 資源開発部門 (自社鉱 山)と
いう上流 を持 たず海外資源 に依存す るという ことは,高
収益部門 を持 たず,
また国際的な市場変動 にさらされやすい とい うハ ンデ ィキャップ をもっている。 しか し,他
面か らみ ると,そ
の分だけ固 定的な負担 を持 たず,ス
リム さとい う点での有利性 を内包す るとみることも で きる。その後,こ
のス リム とい う有利性が発揮 され ることになる。 自社鉱 山を持 たないゆえに,世
界各地の高品位で低価格の大規模 ソースを 選択 で きたこ と,
しか も輸 送の合理化 に よって,フ
レー ト面 でのハ ンデ ィ キャップ を最小限にセープ したことである。 すでに,1967年
のECSC(欧
州石炭鉄鋼共同体)資
料 は,
日本の鉄鉱石調 達 について,長
期契約 に基づ く「強固な共同調達政策」 と評 し,数
量の長期 確保 と価格の安定 を図 っている点 に注 目していた。(54) 一方,キ
ャプテ ィブ 。マイン (自社鉱 山)を
所有す る米国や,域
内資源 に 依存す る西欧の製鉄企業の場合,戦
後のインフレや石油危機 の下で,そ
れ ら がネ ックとなる状況 も顕在化す る。枯渇化 に伴 う低 品位化 に加 えて,内
陸輸 送 コス トや採掘 コス トの増大,(石
油や電力を使用す る)ペ
レッ ト・プ ラン ト の高 コス ト化 。競争力喪失問題 な どに直面す るのである。 こうして,キ
ャプテ ィブ・マイン方式はその有利性 を失 ってい き,1970年
代後半 には原料入手価格面で も日本 と逆転す るな ど,ハ
ンデ ィキャ ップヘ と 転化す るに至 る。その後,石
炭資源への石油メ ジャーな どの参入 と退出が相 次 ぐな ど,製鉄用 キャプテ イブ。マ インを持つ ことの難 しさを もクローズア ップ させ てい る。 これ とは対照 的 に
,
日本の製鉄企業 は,長
期 契約 に基づ く長期継続取 引 に よって,山
元 との密接 な関係 をつ くりだ した。 これ に伴 い,種
々の取 引 コス トが節約 され る とともに,継
続 的 な対 話 と情報 交換が可能 とな り,相
互 の「信 頼関係」が生み出されたことである。 とくに,
日本鉄鋼業 は「信頼関係」 を 重視す る。 さらに,支
配的購買者 としての立場 を利用 して,山
元の労使関係や ス トラ イキな どに も間接的に関与 し,影
響 力を発揮 したことが注 目され る。1980年
代の契約更改時 には,ス
トライキ多発の豪州 ソースか らの更改 をセープ し, 労使関係の比較的安定 したカナ ダか らの引 き取 りを厚 くしたことである。1980年
代 における鉄鋼資源の余剰化の下で,山
元間の競争が世界的 に激化 し,
日本のバーゲニ ング・ ポジシ ョンを有利 に した。 日本の製鉄企業 と商社連合方式のバーゲニ ング・パ ワーは,1960年
代の高 度成長時のみな らず,70年
代の石油危機 において も危機的局面 を最小限に抑 えるとともに,1980年
代の減量合理化の下で も発揮 された といえる。(3)日
本 型鉄鋼原料 入手 システムの歴 史的 イ ンパ ク ト 鉄鉱 石の場 合,1960年
代 まで は統一 され た世 界市場 が成立 していたわ けで はなか った。米 国,EC,
日本 の供給源 (ソー ス)が
互 い に離 れ てお り,入
手 方式 も異 な って いたか らで あ る。米 国 はキ ャプ テ ィブ・マ イ ン,ECは
域 内お よび北欧鉱石 の ス ポ ッ ト購 入,
日本 は長期契約購 入 と分類 され ていた。 しか し,1970年
代 にな る と供 給 源 が重 な る よ うにな り,輸入方式 の類似化, 価 格決 定の連携 化 が 目立つ ようにな る。鉄鉱石 の世 界貿易が成立 して きたの で あ る。その背景 には,ア
フ リカ,南
米 の鉄鉱 山の 多 くが国有化 され た こ と, ヨー ロ ッパ鉄鉱石 の シェアが縮 小 した こ とな どが あ る。(55)なお,西
欧 の製鉄 企 業 が海外依 存度 を高め た背景 と して,需
要 の伸 び に加 えて,域
内鉱石 の大 部 分 が低Fe,高 Pと
い う低 品位鉱石 で陸上輸 送 費が割 高 となった こ とが あげ られ る。 この ため,南
米,ア
フ リカの高品位鉱石 を大型船 で運 ぶ方が経済性 の面 で評価 で きる ようにな ったか らで あ る。(56)日本鉄鋼業の原料入手システム と原料事情の変遷 105 以上の ような事情 か ら