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血栓回収術後に可逆性の血管狭窄を生じた1 例

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Academic year: 2021

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緒 言

 カテーテルによる血栓回収術は,急性期脳主幹動脈 閉塞に対する治療として年々治療件数が増加してきて いる.血栓回収のためのデバイスとしては大きく分け て 2 種類あり,血栓を吸引して除去する吸引カテーテ ルと,血栓をステントで捕捉して除去するステントリ トリーバーがある.どちらもその有効性が複数のエビ デンスで証明されている1–3).しかしながら,ステン トリトリーバーを用いて血栓回収を行った場合に,慢 性期に血管狭窄や閉塞を起こすことがあり4,5),手技 時の血管内皮損傷が関与している可能性が指摘されて いる6)  今回われわれは,ステントリトリーバーと吸引カ テーテルを用いた血栓回収術後に,遅発性に可逆的な 血管狭窄病変を生じた 1 例を経験したので報告する. ¥

症例呈示

 37 歳女性,突然の左片麻痺が出現し,救急搬送さ れた.妊娠 33 週,出産歴なし,自然流産歴 1 回.そ の他に特記すべき既往歴なし.来院時の意識レベルは Glasgow Coma Scale(GCS)14(E4V4M6)で,左上下肢 不全麻痺と左半側空間無視を認めた.National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)は 12 点であった.頭部 MRI 拡散強調画像にて,右中大脳動脈領域に淡く高 信号(Alberta Stroke Program Early CT Score-Diffusion Weight Imaging(DWI-ASPECTS)9 点)を 認 め, 頭 部 MRA は体動のため詳細な評価は困難であったが,右 中大脳動脈 M1 部の途絶が疑われた(Fig. 1).以上よ り,右中大脳動脈の閉塞による脳梗塞と診断した.  妊娠中であるが,母体保護の観点から,t-PA 療法 や血栓回収術の施行を検討した.t-PA 療法は胎盤血 腫や子宮内出血のリスクがあると考えて行わなかっ 要  旨 【目的】急性右中大脳動脈閉塞症に対して血栓回収術を行い,可逆的な血管狭窄病変を生じた 1 例 を経験したので報告する.【症例】37 歳女性.突然の左片麻痺にて発症した右中大脳動脈閉塞症に 対して,血栓回収術を行った.術直後および急性期の画像では血管狭窄は認めなかったが,術後 3 カ月目の画像で右中大脳動脈に血管狭窄を認めた.その後は徐々に狭窄が改善し,経過を通して患 者は無症候であった.【結語】血栓回収術後の慢性期に血管狭窄や閉塞を伴うことがあり,手技時の 血管内皮損傷が関与している可能性がある.術後の経過観察において留意する必要がある.

Keywords  mechanical thrombectomy, reversible vascular stenosis, stent retriever

血栓回収術後に可逆性の血管狭窄を生じた1 例

伊藤真史 清水大輝 若林健一 大多和賢登 橋田美紀 山本諒 福井隆彦 松山知貴 雄山博文 豊橋市民病院 脳神経外科

症例報告

連絡先:伊藤真史 豊橋市民病院 脳神経外科(〒 441-8570 愛知県豊橋市青竹町八間西 50) E-mail: [email protected] Tel: 0532-33-6111 2021 年 1 月 26 日受付  2021 年 3 月 10 日採択 本論文は,クリエイティブ・コモンズ CC-BY-NC-ND(表示–営利利用不可–改変禁止)の条件下で利用できる.©2021 日本脳神経血管内治療学会

(2)

た.しかし,妊娠後期であり放射線被曝および造影剤 のリスクは許容されると考えて,血栓回収術を行うこ ととした.体幹部にプロテクターを装着した上で,右 鼠経部から 9Fr ロングシースを挿入し,9 Fr OPTIMO ガイディングカテーテル(東海メディカルプロダク ツ,愛知)を右内頚動脈に留置した.造影を行うと, 右内頚動脈瘤および右 M1 部の閉塞を認めた(Fig. 2A,B).動脈瘤に留意しつつ閉塞部にアプローチし て, 手 技 を 行 っ た. 血 栓 は 非 常 に 硬 く,Penumbra ACE68(Penumbra, Alameda, CA, USA)で吸引を 1 回, ACE68 と REVIVE(Codman Neuro, Raynham, MA, USA)を併用して 2 回,さらに ACE68 と Solitaire 4 × 20 mm(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)を併用して 3 回の手技を行うことで少しずつ血栓を除去していき, 最終的に thrombolysis in cerebral infarction(TICI)3 の再 開通を得ることができた(Fig. 2C,D).  血栓回収術終了時の血管撮影や術後 2 日目の MRI では血管狭窄所見は認めず(Fig. 3A,B),アテローム 性病変は否定的であった.また,血管解離を疑う所見 も認めなかった.経食道心臓超音波検査,頚動脈超音 波検査,下肢静脈超音波検査,心電図は,いずれも異 常所見を認めなかった.来院時の採血にてフィブリノ ゲン値および D-dimer が軽度高値であったが,それ以 外の凝固因子などは正常であった.摘出された血栓の 病理診断は,少量の好中球を混じたフィブリン塊で あった.以上から,妊娠に伴う凝固異常による塞栓症 を疑い,術翌日より 37W5D の予定帝王切開術までヘ パリン化を行った.症状は術後から著明に改善してお り,出産後は後遺症なく(modified Rankin scale 0)退院 となった.  外来にて画像追跡を行うと,術後 3 カ月目の画像で 右中大脳動脈 M1 部に血管狭窄を認めた(Fig. 3C, D).抗血小板薬(アスピリン 100 mg/ 日)を使用して 経過観察を行い,M1 近位部に軽度狭窄が残存する程 度まで改善した(Fig. 3E∼H).その後は抗血小板薬の 内服を終了とし,現時点で術後 1 年半となるが,無症 候で経過している. ¥

考 察

 本症例では,治療直後に認めなかった血管狭窄が術 後 3 カ月の時点で出現していた.再開通直後および術 後 2 日目の画像では狭窄を認めておらず,動脈硬化の 危険因子も認めなかったことから,アテローム性変化 による狭窄は否定的であった.また,閉塞部に血管解 離を疑う所見はなく,治療時に血管解離を生じた可能 性も低いと考えた.ただし,妊娠中であることや術後 の臨床症状が良かったことから最低限の画像検査しか 行っておらず,術後 2 日目の MRI 画像ののちは術後

B

A

Fig. 1 来院時頭部画像 (A)MRA にて右中大脳動脈 M1 近位部の閉塞が疑われる. (B)拡散強調画像で右島皮質などに高信号を認める.

(3)

B

A

D

C

Fig. 2 血栓回収術中画像 右内頚動脈撮影正面像(A)および側面像(B)で,右 M1 近位部閉塞(矢印)と右内頚動脈瘤(矢 頭)を認めた.複数回の手技にて血栓が除去され,最終的に正面像(C)および側面像(D)のよ うに再開通となった.TICI3 の再開通で明らかな血管狭窄の残存なども認めなかった. TICI: thrombolysis in cerebral infarction

3 カ月目の MRI 画像であるため,狭窄がいつから生 じたかは不明である.しかし,他の報告などでは,血 管解離や血管攣縮による変化は治療直後∼数日程度で 狭窄を生じ6,7),内膜肥厚による狭窄は 2∼3 カ月程度 経った時点で狭窄を生じることが多いといわれてい る4–6,8).そのため,今回は治療時の内皮障害による内 膜肥厚によって狭窄を生じた可能性が高いと考えた.  ステントリトリーバーを引き抜く際に血管内皮を損 傷するといわれており9),動物実験においてもステン トリトリーバー使用後の血管内皮障害が明らかにされ ている10).実際の症例においても,ステントリトリー バーを用いた血栓回収術後 2 カ月で血管狭窄を生じ, 6 カ月後に進行を認めた報告や4),血栓回収術 1 年後 の頭部 MRA の解析で,血栓回収部位に新たな狭窄 (10.3%),血管拡張(2.6%),閉塞(5.1%)を認めた報 告8),脳血管撮影にて経過観察を行い,3 カ月後に血 管狭窄(3.4%)や閉塞(0.9%)を認めたという報告があ る6).これらの報告でも,術直後には狭窄はなく,遅 発性に狭窄が新たに発生している.これは,ステント による局所血管壁の損傷によって炎症反応が生じ,そ れが引き金となって血管平滑筋細胞の増殖・細胞外マ トリックスの増生が起こることで,内膜肥厚を来すと 考えられている11).また,長期的な経過において狭窄 や閉塞が残存することも多いが,本症例のように経過 とともに狭窄の改善を認めた報告もある5).これは, 内膜肥厚による血管内腔の狭窄があっても,血管のリ モデリングに伴って狭窄が改善したためと考えられ る.さらに,本症例においては,術後 3 カ月の時点で は M1 全長において狭窄を認めていたが,血管内腔の 狭窄とともに血管外径の縮小も認めていた.内膜肥厚

B

A

D

C

(4)

による強い狭窄を近位部に生じたことで,それより遠 位の血管では,内膜肥厚に加えて血流低下による血管 径の縮小も合わさり,狭窄が強く見えていた可能性が ある.  また,本症例では,治療時に吸引カテーテルが M1 中央まで進んでおり,吸引カテーテルの誘導や吸引に よる血管内皮損傷の可能性もある.ただ,吸引カテー テルのみの手技において,術後に血管狭窄を生じた報 告は渉猟した限りではなかった.ステントリトリー バーのみの手技とステントリトリーバーと吸引カテー テルを併用した手技のどちらが術後の血管狭窄を生じ やすいのかは,今後の症例の蓄積が待たれる.  なお,血管内皮損傷により狭窄を生じるのであれ ば,術中にステントリトリーバーを使用した回数が多 いほどハイリスクのように感じるが,病変に対するス テントリトリーバーの通過回数と血管異常の出現に有 意差はないといわれている8).動物実験レベルではあ るが,手技回数は血管壁の損傷の程度と相関していな かったとの報告もある12).これらより,手技回数によ らず,血管の狭窄・閉塞が新たに生じる可能性がある と考えられる.  そして,本症例においては,抗血小板薬を投薬の上 で経過観察を行ったが,無症候に経過することも多い ため5),抗血小板薬が必要かは議論の余地がある.病 態として血管内皮の損傷や内膜肥厚が疑われるのであ れば,血管内皮機能改善作用,血管拡張作用,血管平 滑筋細胞増殖抑制作用などがあるシロスタゾールを使 用することも検討される13–15).また,今回は術後から 出産までの約 4 週間はヘパリンを持続投与しており, 薬剤性に血管内皮に影響を与えた可能性や,早期に狭 窄を生じていたが無症候であり,指摘されなかった可 能性なども考えられる.  血栓回収術後慢性期の狭窄の発症については,各報 告でも,術後 3 カ月∼1 年程度の時期に血管所見に変 化を認めることが多い.そのため,治療直後の画像所 見に問題がないとしても,術後 1 年程度は画像などで の経過追跡が望ましいと思われる. ¥

結 語

 血栓回収術後に,遅発性に可逆性の血管狭窄病変を 生じた 1 例を経験した.手技時の血管内皮損傷によっ て,血管狭窄や閉塞を生じる可能性が指摘されてい る.これは,長期的な予後に関与する可能性があり, 慢性期の経過観察において留意しておくべき病態であ

B

F

A

D

E

H

C

G

Fig. 3 (A, B)術後 2 日目の MRA および T2 強調画像.明らかな血管狭窄や解離などの所見は認めなかった. (C, D)術後 3 カ月目の MRA および T2 強調画像.右 M1 全体に血管狭窄所見を認めた. (E, F)術後 6 カ月目の MRA および T2 強調画像.右 M1 近位部に狭窄所見を認めた. (G, H)術後 1 年目の MRA および T2 強調画像.軽度の狭窄が残存するのみに改善している.

(5)

ると思われる. ¥

利益相反の開示

 筆頭著者および共著者全員が利益相反はない. References

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A Case of Reversible Vascular Stenosis after Mechanical

Thrombectomy

Masashi ITO, Hiroki SHIMIZU, Kenichi WAKABAYASHI, Masato OTAWA, Miki HASHIDA, Ryo YAMAMOTO, Takahiko FUKUI, Tomoki MATSUYAMA, and Hirofumi OYAMA

Department of Neurosurgery, Toyohashi Municipal Hospital, Toyohashi, Aichi, Japan

Objective: In a case of acute right middle cerebral artery occlusion that underwent mechanical thrombectomy, a delayed and reversible vascular stenotic lesion occurred.

Case Presentations: A 37-year-old woman developed a cerebral infarction with right middle cerebral artery occlusion. Mechanical thrombectomy was performed using a stent retriever and an aspiration catheter. Postoperative images showed no vascular stenosis, but vascular stenosis was observed 3 months after the operation. After that, the stenosis gradually improved. It was clinically asymptomatic.

Conclusion: Vascular stenosis and occlusion may occur in the chronic phase after mechanical thrombectomy. This may be related to vascular endothelial damage during the procedure. Follow-up should be carefully conducted.

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