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学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因 : 教員志望の学生を対象とした調査

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Academic year: 2021

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(1)Title. 学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因 : 教員志望の学生を対象とした調査. Author(s). 渡部, 基; 奥田, 里佳. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 60(1): 265-273. Issue Date. 2009-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/998. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. 学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因. 一教員志望の学生を対象とした調査−. 渡部 基・奥田 里佳 北海道教育大学札幌枚 学枚保健学研究室. BarrierstotheImplementationofBystander−initiated Cardiopulmonary Resuscitation during Emergencies in School Settings −APreliminarySurveyofTeacher−TrainingCourseStudents−. WATANABE Motoi and OKUDA Rika. DepartmentofSchooIHealth,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 学校管理下の災害による児童生徒の死亡を防ぐ対策として,現場に居合わせた教職員が心肺蘇生を速やか に行うことが重安である。しかし,心肺蘇生を実際に行おうとする際には,状態を悪化させる不安や応急手 当の具体的な手順の知識不足等,心肺蘇生を行おうとする意志を阻害する要因も少なくないと思われる。そ こで,本研究は,心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因を明らかにすることを目的として,教員志望の大 学生を対象に調査を行った。方法は,自記式無記名の質問紙を用いて,他の教員の有無や倒れた子どもが自 分のクラスかどうかにより分けた学校で心肺蘇生が必要な4つの場面を設定し,心肺蘇生を行う意志と心肺 蘇生に関する考えや感情との関連を検討した。その結果,全体として,274名(一般教諭志望81.0%,養護 教諭志望19.0%)から有効な回答が得られた。一般教諭志望の者において,心肺蘇生を行おうとする意志が ある者が,そうでない者に比して,学級担任として心肺蘇生の方法を知る必要を感じていたり,他の教員ま かせにしようと思わなかったりしていた。しかし,いずれの項目でも,従来の心肺蘇生法の授業や講習の受講 回数や時期等との関連が認められなかった。一方,養護教諭志望の者においては,心肺蘇生を行う意志と心肺. 蘇生に関する知識,考え,感情のそれぞれの間に関連が認められなかった。今後は,特に,一般教諭志望の者 に対して,これらの考えや感情を改善することにも配慮した授業や講習のあり方を検討すべきであると考える。. 目 的 独立行政法人日本スポーツ振興センターによる. と,平成18年度に死亡見舞金を給付した学校管理 下の災害74件のうち,37.8%が心臓系に起因する. 突然死であった。このような災害による児童生徒. 265.

(3) 渡部. 基・奥田 里佳. の死亡を防ぐ対策として,現場に居合わせた教職 員が心肺蘇生を速やかに行うことが重要である。 しかし,心肺蘇生を実際に行おうとする際には,. 方 法 2007年11月上旬に,北海道教育大学札幌校学生. 不安等の要因がそうした意志を妨げてしまうこと. を対象として,自記式無記名の質問紙調査を実施. もある。例えば,東京消防庁1)や内閣府2)の調査. した。配布の際には,調査内容,注意事項,回収. によると,周囲の人が病気や怪我をした時に応急. 方法の説明を行った。調査票は記入後,回答者に. 手当が行われない理由として,「手当の方法がわ. 各自でシール付きの封筒に入れて密封してもら. からない」,「かえって悪化させることが心配だ」,. い,鍵付きの回収箱に入れるよう指示した。調査. 「救急隊員に任せたほうがよい」等の回答が多く. における倫理的配慮は,個人情報の厳重な管理,. みられた。このように,状態を悪化させる不安や. 回答の可否による不利益が生じないことの保証等. 応急手当の具体的な手順の知識不足等が,心肺蘇. を調査票に明記した。また,調査票の回答をもっ. 生等の応急手当を行おうとする意志の阻害要因と. て同意を得たものとした。. なっていると考えられる。したがって,教職員が. 回収された調査票の中で回答に記入もれや記入. 心肺蘇生を速やかに行うためには,これらの要因. ミスがあった者6名を除いて,274名(有効回答. を軽減し,心肺蘇生を行う意志を高めていくこと. 率56.1%)を最終的な分析対象とした。対象者の. が大切である。また,こうした取り組みは,教員. 属性は,性別が男子41.6%(114名),女子58.4%. 志望の大学生に対しても同様に行うことよって,. (160名),学年が1学年23.4%(64名),2学年. 学校現場における心肺蘇生の円滑な実施に向け. て,より強固な基盤づくりが可能となる。荒井ら3) による全国の体育系・教育学部を有する大学72校. を対象とした調査でも,回答した9割以上の大学 で心肺蘇生法の授業を行っている。. 29.9%(82名),3学年18.6%(51名),4学年28.1% (77名),志望コース別が養護教諭志望19.0%(52 名),一般教諭志望81.0%(222名)であった。 調査項目,回答方法については,対象者の属性. のほか,以下のとおりである。. 従来,教員志望の大学生における心肺蘇生に関 する先行研究をみると,以下のような結果が得ら れている。すなわち,応急手当・心肺蘇生法の重 要性を認識してい. る反面,実際処置に参加するこ. (1)AEDを用いた′む肺蘇生法に関する知識. AEDを用いた心肺蘇生法に関する知識(3項 目)については,まず,AEDを知っているかど. とに抵抗感を抱いていること4),心肺蘇生法の教. うかについて,「知らない」,「知っている」の二. 育を行う場合には認知スタイル上の特質を考慮し. 者択一で回答を求め,そのうち,「知っている」. た指導が重要であること5),普通救命講習受講後. と回答した者を対象にAEDの用途とAEDを用. では,心肺蘇生法実習経験者の方が未経験者に比. いた心肺蘇生法の手順についてもたずねた。. して,いざという時に心肺蘇生法を実施できると. AEDの用途については,四つの選択肢から一つ. 回答した者が有意に多かったこと6)等である。こ. 選択するよう回答を求め,心肺蘇生法の手順につ. のように,これらの先行研究では,教員志望の学. いては,五つの選択肢を正しい順に並べ替えるよ. 生において,心肺蘇生を行おうとする意志を阻害. う回答を求めた。. する要因に焦点を当てて十分に検討されていない のが現状である。 そこで,本研究は,教員志望の大学生を対象と. (2)救命率に関する知識. 救命率に関する知識(3項目)については,呼. して,心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因を. 吸停止後および心臓停止後,それぞれ何分で死亡. 明らかにすることを目的とした。. 率が50%になるのか,また,救急車は平均何分で 現場に到着するのかのそれぞれに対して具体的な. 266.

(4) 学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因. 時間で回答を求めた。. とがあるのか,実際に訓練用の人形を使って心肺 蘇生を行ったものは何回受けたことがあるのか,. (3)′む肺蘇生に関する意志. 心肺蘇生に関する意志(4項目)については,. 学校で心肺蘇生が必要な場面として,①自分しか. 大学入学後に何回受けたことがあるのかについ て,具体的な回数で回答を求めた。 なお,二群間の回答の割合の比較にはズ2検定. いない時,自分のクラスの子どもが倒れた場合(以. を用い,統計上の有意水準は5%とした。分析に. 下,一人で自分のクラスの子どもの場面),②自. あたって,統計ソフトは,SPSSll.OJforWin−. 分しかいない時,他のクラスの子どもが倒れた場. dowsを使用した。. 合(以下,一人で他のクラスの子どもの場面),. ③他にも見ている教員がいる時,自分のクラスの 子どもが倒れた場合(以下,他にも教員がいて自 分のクラスの子どもの場面),④他にも見ている. 教員がいる時,他のクラスの子どもが倒れた場合 (以下,他にも教員がいて他のクラスの子どもの. 結 果 AEDを用いた心肺蘇生法に関する知識につい ては,AEDを知っていると回答した者が一般教 諭志望86.5%,養護教諭志望96.2%で,それぞれ. 場面)の四つを設定した。さらに,それぞれの場. のうち,その用途の正解者が一般教諭志望84.4%,. 面について,教員として自分が心肺蘇生を行いた. 養護教諭志望88.0%,その手順の正解者が一般教. いと思うかどうか,「そう思う」から「そう思わ. 諭志望36.5%,養護教諭志望30.0%であった。さ. ない」の4件法で回答を求めた。. らに,その手順のそれぞれの正解者において,「知 識がないので,心肺蘇生を行うことに不安がある」. (4)′む肺蘇生に関する考え. 教員としての心肺蘇生法を知る必要性(1項目). の項目をみると,そう思うと回答した者(「そう 思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」と. について,「そう思う」から「そう思わない」の. 回答した者の合計,以下同様)の割合が一般教諭. 4件法で回答を求めた。また,回答した理由(4. 志望8臥6%,養護教諭志望33.3%であった。なお,. 項目)についても,それぞれの質問に対して,「そ. 心肺蘇生に関する知識(3項目)については,い. う思う」から「そう思わない」の4件法で回答を. ずれも一般教諭志望と養護教諭志望の間に有意差. 求めた。. は認められなかった。 次に,救命率に関する知識については,呼吸停. (5)心肺蘇生に関する感情 心肺蘇生に関する感情(6項目)については,. 止後に死亡率が50%になる時間の正解者が一般教 諭志望24.5%,養護教諭志望30.8%で,正解より. それぞれの質問に対して,「そう思う」から「そ. 遅い時間を回答した者が一般教諭志望45.5%,養. う思わない」の4件法で回答を求めた。. 護教諭志望23.1%であった。さらに,一般教諭志. 望および養護教諭志望の両群において,正解より (6)′む肺蘇生法の授業や講習の受講経験 心肺蘇生法の授業や講習の受講経験(8項目). 遅い時間を回答した者の方がそうでない者に比し て,「養護教諭に任せておけばいいから」,「教職. については,まず,今までに,AEDの内容を含. 員全員が知る必要はないから」の項目でそう思う. む心肺蘇生法の授業や講習,およびAEDの内容. と回答した者の割合が有意に多かった。また,一. を含まないものの両方について,「受けたことが. 般教諭志望でのみ,同様に「自分がやらなくても. ない」,「受けたことがある」の二者択一で回答を. 他の教員がやってくれると思う」の項目でそう思. 求めた。そのうち,「受けたことがある」と回答. うと回答した者の割合が有意に多かった。. した者を対象に,授業と講習全部で何回受けたこ. 心臓停止後に死亡率が50%になる時間の正解者. 267.

(5) 渡部. 基・奥田 里佳. は,一般教諭志望13.2%,養護教諭志望30.8%で,. 43.2%,養護教諭志望9.6%,「教職員全員が知る. 一般教諭志望の方が養護教諭志望に比して有意に. 必要はないから」が一般教諭志望43.2%,養護教. 少なかった。また,正解より遅い時間を回答した. 諭志望7.7%,「心肺蘇生が必要なほどの事故は. 者は,一般教諭志望78.6%,養護教諭志望63.5%. めったに起こらないから」が一般教諭志望14.4%,. で,一般教諭志望においては,正解より遅い時間. 養護教諭志望3.8%,「心肺蘇生が必要なほどの事. を回答した者の方がそうでない者に比して,「養. 故が起こっても,手順が善かれているものを探し,. 護教諭に任せておけばいいから」,「教職員全員が. それを見ながら行えばいいから」が一般教諭志望. 知る必要はないから」,「救急隊員や養護教諭等の. 3.8%,養護教諭志望14.4%であった。いずれの. 専門知識がある人が行うべきだと思う」の項目で. 理由においても,一般教諭志望の方が養護教諭志. そう思うと回答した者の割合が有意に多かった。. 望に比して,そう思うと回答した者の割合が有意. 一方,養護教諭志望においては,正解より遅い時. に多かった。. 間を回答した者とそうでない者の間に有意差は認 められなかった。 救急車が現場に到着する平均時間の正解者は,. 心肺蘇生に関する感情については,「自分がや らなくても他の教員がやってくれると思う」の項. 目で,そう思うと回答した者の割合が一般教諭志. 一般教諭志望6.4%,養護教諭志望30.8%で,一. 望55.9%,養護教諭志望26.9%,以下同様に,「救. 般教諭志望の方が養護教諭志望に比して有意に少. 急隊員や養護教諭等の専門知識がある人が行うべ. なかった。また,正解より早い時間を回答した者. きだと思う」で一般教諭志望82.0%,養護教諭志. は,一般教諭志望52.3%,養護教諭志望55.8%で. 望67.3%,「心肺蘇生の知識がないので,心肺蘇. あった。. 生を行うことに不安がある」で一般教諭志望. 心肺蘇生に関する意志については,①一人で自. 89.6%,養護教諭志望71.2%,「心肺蘇生の経験. 分のクラスの子どもの場面で行うことについてそ. がないので,心肺蘇生を行うことに不安がある」. う思うと回答した者は,一般教諭志望85.1%,養. で一般教諭志望95.9%,養護教諭志望98.1%,「心. 護教諭志望94.2%で,以下同様に,②一人で他の. 肺蘇生の際に,マウストウマウスを行うことに不. クラスの子どもの場面について,一般教諭志望. 安がある」で一般教諭志望30.6%,養護教諭志望. 84.7%,養護教諭志望92.3%,③他にも教員がい. 53.8%,「倒れたのが異性の子どもだったら,心. て自分のクラスの子どもの場面について,一般教. 肺蘇生の際に体に触れることに抵抗がある」で一. 諭志望62.2%,養護教諭志望84.6%,④他にも教. 般教諭志望13.1%,養護教諭志望25.0%であった。. 員がいて他のクラスの子どもの場面について,一. これらのうち,「自分がやらなくても他の教員が. 般教諭志望50.9%,養護教諭志望78.8%であった。. やってくれると思う」,「救急隊員や養護教諭等の. これら4つの場面のうち,③の場面と④の場面に. 専門知識がある人が行うべきだと思う」,「心肺蘇. ついては,一般教諭志望の方が養護教諭志望に比. 生の知識がないので,心肺蘇生を行うことに不安. して,そう思うと回答した者の割合が有意に少な. がある」の各項目で,一般教諭志望の方が養護教. かった。. 諭志望に比して,そう思うと回答した者の割合が. 心肺蘇生に関する考えについては,「自分が学. 有意に多かった。反対に,「心肺蘇生の際に,マ. 級担任となった場合,心肺蘇生を知っておく必要. ウストウマウスを行うことに不安がある」の項目. はない」の項目でそう思うと回答した者の割合が,. で,一般教諭志望の方が養護教諭志望に比して,. 一般教諭志望51.4%,養護教諭志望25.0%で,一. そう思うと回答した者の割合が有意に少なかっ. 般教諭志望の方が養護教諭志望に比して,有意に. た。. 多かった。また,その理由については,「養護教 諭に任せておけばいいから」が一般教諭志望. 268. 心肺蘇生法の授業や講習の受講経験について は,心肺蘇生法の授業や講習を受講したことがあ.

(6) 学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因. ると回答した者(1回以上,以下同様)は,一般. 必要なほどの事故が起こったら,手順が善かれて. 教諭志望88.7%,養護教諭志望96.2%であった。. いるものを探し,それを見ながら行えばいいから」. さらに,AEDの内容を含む心肺蘇生法の授業や. 20.2%であった。一方,養護教諭志望においては,. 講習を受けたことがあると回答した者は,一般教. すべての場面で行いたいと思う者とそうでない者. 諭志望39.2%,養護教諭志望59.6%で,一般教諭. の間に有意差は認められなかった。. 志望の方が養護教諭志望に比して,有意に少な かった。. 一方,AEDの内容を含まない心肺蘇生法の授. 心肺蘇生法の手順の正解者において,心肺蘇生 に関する意志と感情の関連について,学校で心肺 蘇生が必要な4つの場面の意志の有無別に検討し. 業や講習を受けたことがあると回答した者は,一. た(表4)。その結果,一般教諭志望においては,. 般教諭志望82.4%,養護教諭志望90.4%であり,. すべての場面で行いたいと思う者の方がそうでな. 一般教諭志望と養護教諭志望の間に有意差は認め. い者に比して,「自分がやらなくても他の教員が. られなかった(表1)。. やってくれる」の項目でそう思うと回答した者の. 次に,心肺蘇生に関する意志と知識の関連につ. 割合が有意に少なかった。さらに,他にも教員が. いて,学校で心肺蘇生が必要な4つの場面の意志. いる場面で行いたいと思う者の方がそうでない者. の有無別に検討した(表2)。その結果,一般教. に比して,「専門知識がある者が心肺蘇生を行う. 諭志望においては,すべての場面で行いたいと思. べきだと思う」,「知識がないので心肺蘇生を行う. う者(「そう思う」あるいは「どちらかといえば. ことに不安を感じる」のそれぞれの項目でそう思. そう思う」と回答した者の合計)の方がそうでな. うと回答した者の割合が有意に少なかった。しか. い者に比して,心肺蘇生法の手順の正解者の割合. し,これらの感情を持たずに心肺蘇生を行う意志. が有意に低かった。一方,養護教諭志望において. がある者の割合について,心肺蘇生法の授業や講. は,すべての場面で行いたいと思う者とそうでな. 習の受講経験別に比較すると,いずれの場面にお. い者の間で,その手順の正解者の割合に有意差は. いても有意差は認められなかった。一方,養護教. 認められなかった。. 諭志望においては,すべての場面で行いたいと思. さらに,心肺蘇生法の手順の止解者において,. 心肺蘇生に関する意志と考えの関連について,学. う者とそうでない者の間に有意差は認められな かった。. 校で心肺蘇生が必要な4つの場面の意志の有無別 に検討した。その結果,一般教諭志望においては,. いずれの場面でも,行いたいと思う者の方がそう でない者に比して,「自分が心肺蘇生の方法を知っ. 考 察 学校管理下の災害において,現場に居合わせた. ておく必要はない」の項目でそう思うと回答した. 教職員が心肺蘇生を行おうとする際には,状態を. 者の割合が有意に少なかった(表3)。しかし,. 悪化させる不安等の要因が心肺蘇生を行おうとす. このような考えを持たずに心肺蘇生を行う意志が. る意志を阻害することが懸念される。そこで,心. ある者の割合について,心肺蘇生法の授業や講習. 肺蘇生を行う意志に影響を与える要因を明らかに. の受講経験別に比較すると,いずれの場面でも有. することを目的として,教員志望の大学生を対象. 意差は認められなかった。「自分が心肺蘇生の方. に調査を行い,いくつかの知見が得られた。. 法を知っておく必要はない」と思う理由について. はじめに,一般教諭志望の8割以上の者が,. は,「すべて養護教諭に任せておけばいいから」. AEDを知っていると回答していたものの,その. 82.5%,「教職員全員が知らなくていいから」. 中にはAEDの用途について正しく理解していな. 79.8%,「学校で心肺蘇生が必要なほどの事故は. い者も含まれていた。このことは,調査対象の知. めったに起こらないから」87.7%,「心肺蘇生が. 識状況を正確に把握するためには,単に「知らな. 269.

(7) 渡部 基・奥田 里佳 表1 心肺蘇生法に関する授業や講習等の受講経験. (%). 一般教諭志望. 養護教諭志望. N=222. N=52. 質問項目. AEDの内容を 含む場合. 0回. 1回. 今までの授業や講習. 60.8. 30.6. 大学入学後の授業や講習. 66.7. 訓練用の人形を用いた実習 65.3. AEDの内容を 含まない場合. 2回以上. 0回. 1回. 2回以上. 8.6. 40.4. 36.5. 23.1. 28.8. 4.5. 46.2. 36.5. 17.3. 30.2. 4.5. 50.0. 30.8. 19.2. 今までの授業や講習. 17.6. 25.2. 57.2. 9.6. 23.1. 67.3. 大学入学後の授業や講習. 52.7. 43.2. 4.1. 36.5. 46.2. 17.3. 56.8. 16.7. 19.2. 34.6. 46.2. 訓練用の人形を用いた実習 26.6. 表2 心肺蘇生に関する意志と知識の関連. (%). 一般教諭志望 心肺蘇生に関する意志†. 養護教諭志望. 正解者 不正解者. 正解者‡不正解者‡. N=70. N=122. N=37. N=15. ①一人の時,自分のクラスの子どもに心肺蘇生を行いたい と思う. 70.0. 92.1*. 100. 91.9. ②一人の時,他のクラスの子どもに心肺蘇生を行いたいと 思う. 70.0. 91.4*. 93.3. 91.9. ③他にも教員がいる時,自分のクラスの子どもに心肺蘇生 を行いたいと思う. 50.0. 67.8*. 93.3. 81.1. ④他にも教員がいる時,他のクラスの子どもに心肺蘇生を 行いたいと思う. 40.0. 55.9*. 93.3. 73.0. *‥p<0.05 †「そう思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」と回答した者の合計 ‡心肺蘇生法の手順に関する項目. 表3 一般教諭志望における心肺蘇生に関する意志と考えの関連. (%). ①一人で自分のクラスの子どもの場面. 行いたいと思う†行いたいと思わか、‡ N=49. 学級担任となった場合, 心肺蘇生の方法を知って おく必要はないと思う†. 49.0. N=21 100*. ③他にも教員がいて自分のクラスの子 どもの場面 行いたいと思う 行いたいと思わない N=35 31.4. N=35 97.1*. 心肺蘇生法の手順の正解者 *‥p<0.05 †「そう思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」と回答した者の合計 辛「そう思わない」あるいは「どちらかといえばそう思わない」と回答した者の合計. 270. ②一人で他のクラスの子どもの場面 行いたいと思う 行いたいと思わない N=49 49.0. N=21 100*. ④他にも教員がいて他のクラスの子ど もの場面 行いたいと思う 行いたいと思わない N=28 21.4. N=42 92.9*.

(8) 学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因 表4−1 一般教諭志望における心肺蘇生に関する意志と感情の関連. (%). ①一人で自分のクラスの子どもの場面 ②一人で他のクラスの子どもの場面 心肺蘇生に関する感情†. 行いたいと思う†行いたいと思わない‡行いたいと思う 行いたいと思わない N=49. 他の教員がやってくれると思う. N=21. N=49. N=21. 46.9. 100*. 46.9. 100*. 81.6. 95.2. 81.6. 95.2. 83.7. 100. 83.7. 100. 98.0. 100. 98.0. 100. 28.6. 33.3. 28.6. 33.3. 8.2. 4.8. 8.2. 4.8. 専門知識がある人が行うべきだと. 思う 知識がないので,心肺蘇生を行う. ことに不安がある 経験したことがないので,心肺蘇 生を行うことに不安がある マウストウマウスを行うことに抵 抗がある 倒れたのが異件の子どもなら,心 肺蘇生を行うことに抵抗がある. 心肺蘇生法の手順の正解者 *‥p<0.05 †「そう思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」と回答した者の合計 ‡「そう思わない」あるいは「どちらかといえばそう思わない」と回答した者の合計. 表4−2 一般教諭志望における心肺蘇生に関する意志と感情の関連. (%). ③他にも教員がいて自分のクラスの ④他にも教員がいて他のクラスの子 子どもの場面 心肺蘇生に関する感情†. 行いたいと思う†行いたいと思わか、‡行いたいと思う 行いたいと思わない N=35. 他の教員がやってくれると思う. どもの場面. N=35. N=28. N=42. 28.6. 97.1*. 17.9. 92.9*. 74.3. 97.1*. 67.9. 97.6*. 専門知識がある人が行うべきだと 思う 知識がないので,心肺蘇生を行う. ことに不安がある 経験したことがないので,心肺蘇 生を行うことに不安がある マウストウマウスを行うことに抵 抗がある 倒れたのが異性の子どもなら,心 肺蘇生を行うことに抵抗がある. 77.1. 100*. 71.4. 100*. 97.1. 100. 96.4. 100. 34.3. 25.7. 39.3. 23.8. 11.4. 2.9. 10.7. 4.8. 心肺蘇生法の手順の正解者 *‥p<0.05 †「そう思う」あるいは「どちらかといえばそう思う」と回答した者の合計 ‡「そう思わない」あるいは「どちらかといえばそう思わない」と回答した者の合計. 271.

(9) 渡部. 基・奥田 里佳. い」あるいは「知っている」という二つの選択肢. に知識を習得するだけでは不十分であると考えら. でたずねることには限界があり,具体的な手順や. れる。本調査の結果では,一般教諭志望の者にお. 用途を問うことが必要である。また,AEDを知っ. いて,心肺蘇生法の手順を理解していない者の方. ていると回答した者のうち,心肺蘇生法の手順の. が理解している者に比べて,心肺蘇生を実行する. 正解者は,わずか3割程度であった。学校におい. 意志が強い結果となった。このことは,心肺蘇生. ては,教職員全員が正しい心肺蘇生法の手順を知. 法の手順を十分理解していないことにより,実際. らないと,児童や生徒の突然死といった災害へ速. の場面では速やかに対応することができない可能. やかに対応することができない。教員志望の学生. 性が懸念される。. に対しては,教職へ就くまでの間に,正しい心肺. そこで,心肺蘇生を行う意志に対して影響を与. 蘇生法の手順を確実に習得させることが急務であ. える要因として,心肺蘇生に対する考えや感情に. る。その際には,その手順の正解者の9割近くが,. 注目した。その結果,一般教諭志望の者において. 自分の知識に不安を感じていたことから,そうし. は,心肺蘇生法の手順が正解しているにもかかわ. た不安を軽減するような心肺蘇生法の習得のさせ. らず,学校で心肺蘇生が必要ないずれの場面でも. 方が課題となると思われる。. 自分が心肺蘇生の方法を知っておく必要はないと. 一般教諭志望の8割近くの者が,心臓停止後に. いう考えや,自分がやらなくても他の教員がやっ. 死亡率が50%になる時間を正解より遅く回答して. てくれるという感情が心肺蘇生を行う意志が妨げ. いたこと等,心肺蘇生の緊急性を十分に理解して. ていることが明らかとなった。さらに,他にも教. いない者が多いという結果となった。これらの者. 員がいる場面では,心肺蘇生に関する知識がない. は,心肺蘇生を養護教諭や他の教諭にまかせたい. ことに対する不安等の感情によっても,心肺蘇生. と思っている者が多く,心肺蘇生の緊急性を理解. を行う意志が妨げられていた。. せずに心肺蘇生を他人まかせにして,心肺蘇生を. ラタネら7)は,人は一人の時よりも他者が存在. 躊躇してしまう事態になることも考えられる。さ. する時の方が緊急事態に介入する度合いが低くな. らに,一般教諭志望の5剖以上の者が,自分は教. る,いわゆる傍観者効果が起こることを指摘して. 諭として心肺蘇生法を知っておく必要はないと回. いる。本調査の結果でも,自分以外の養護教諭や. 答し,その理由については,教職員全員が知る必. 他の教諭の存在が,心肺蘇生を実行することに対. 要はない等と回答している者が8割前後みられ. する責任感を弱めたり,他の人の前で失敗したく. た。心肺蘇生は,現場に居合わせた者が速やかに. ないという不安を強めたりすることによって,心. 行う必要があり,すべての教職員に対して,心肺. 肺蘇生を実行する意志が妨げられていると考えら. 蘇生を習得する必要性を理解させるべきである。. れる。. 本研究では,他の教員の有無や倒れた子どもが. 一方,養護教諭志望の者においては,心肺蘇生. 自分のクラスかどうかにより,学校で心肺蘇生が. を行う意志と心肺蘇生に関する知識,考え,感情. 必要な場面を4つに分けて,心肺蘇生を行う意志. のそれぞれの間に関連が認められなかった。この. をたずねた。その結果,一般教諭志望においては,. ことは,養護教諭志望の者が心肺蘇生をはじめと. 自分一人しかいない場面であったとしても,およ. する応急手当が養護教諭の職務として位置づけら. そ5人に1人には,心肺蘇生を行う意志がみられ. れていることをよく理解しており,全体として心. なかった。このことは,心肺蘇生を行う意志を高. 肺蘇生に対して積極的な態度を示したためである. めることが容易でないことを示していると思われ. と思われる。. る。また,心肺蘇生法の正しい手順を知っている. このような教員志望の者に対して,心肺蘇生を. 者は,心肺蘇生を行う意志が必ずしも高いわけで. 行う意志を高めていく機会には様々なものがあ. なく,心肺蘇生を行う意志を高めるためには,単. る。その中でも重要なものが,心肺蘇生に関する. 272.

(10) 学校管理下の事故場面における心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因. 授業や講習である。芝木ら4)によると,教員養成. 知識がある人が行うべきだと思う」「知識がない. 系大学学生の一般教諭志望の者515名を対象とし. ので,心肺蘇生を行うことに不安がある」の2項. た心肺蘇生法に関する調査では,心肺蘇生法につ. 目で,同様に,そう思うと回答する割合が有意に. いて,授業や講習会を受けたことがある者は2割. 少なかった。しかし,いずれの項目においても,. に満たなかった。一方,本調査では,そうした授. 従来の心肺蘇生法の授業や講習の受講回数や時期. 業や講習会を受けたことがある者が,9割近くに. 等との関連が認められなかった。一方,養護教諭. のぼった。これは,芝木らの調査以来,2004年7. 志望の者においては,心肺蘇生を行う意志と心肺. 月から一般人によるAEDの使用が許可されたこ. 蘇生に関する知識,考え,感情のそれぞれの間に. と,2006年度にAEDを設置している学校の割合. 関連が認められなかった。. が全国の高等学校で67.8%8)となっていること等 により,心肺蘇生に関する授業や講習の機会が増 文 献. 加したためであると思われる。しかし,本研究で 明らかとなった心肺蘇生を行う意志を妨げる4つ の考えや感情については,従来の心肺蘇生法の授 業や講習の受講回数や時期等との関連が認められ なかった。このことから,従来の授業や講習では, これらの考えや感情を改善し,心肺蘇生を行う意 志を高めるには不十分であったと思われる。今後 は,これらの考えや感情を改善することにも配慮 した授業や講習のあり方を検討すべきであろう〈. 1)東京消防庁:第25期東京消防庁救急業務懇話会答申 概要,2005 2)内閣府:交通安全に関する世論調査(調査の概要), 2002 3)荒井宏和,河野一郎,山本利春ほか:体育・教育系 大学における心肺蘇生法教育に関する一考察,大学体. 育研究,21:11−19,1999 4)芝木美沙子,瀧田直恵,原敬子ほか:教員養成系大 学における応急処置教育(第一報)一大学生を対象と した心肺蘇生法に関する調査−,北海道教育大学紀要 (教育科学編),49(1):125−136,1998. 5)西沢義子,早川三野雄:救急蘇生活動における認知 まとめ. スタイル別教育方法の研究:実習初期の学生に対する 心肺蘇生法の指導方法に関する検討,日本看護研究学. 心肺蘇生を行う意志に影響を与える要因を明ら かにすることを目的として,教員志望の大学生を 対象に調査を行った。方法は,自記式無記名の質. 問紙を用いて,他の教員の有無や倒れた子どもが 自分のクラスかどうかにより分けた学校で心肺蘇 生が必要な4つの場面を設定し,心肺蘇生を行う 意志と心肺蘇生に関する知識,考え,感情との関. 会雑誌,19(1):53−60,1996. 6)大阪教育大学学校安全プロジェクトチーム:普通救 命講習受講後における学生の意識調査,2004. 7)ビブ・ラタネ,ジョン・ダーリー. (竹村研一,杉崎. 和子訳):新装版 冷淡な傍観者一思いやりの社会心 理学,1997. 8)文部科学省:学校における自動体外式除細動器 (AED)の設置状況調査,19,2008. 連を検討した。その結果,全体として,274名(一 般教諭志望81.0%,養護教諭志望19.0%)から有. (渡部 基 札幌校准教授). 効な回答を得られた。一般教諭志望で心肺蘇生法. (奥田 里佳 札幌校元学生). の手順を理解している者においては,いずれの場 面でも,心肺蘇生を行う意志がある者の方がそう でない者に比して,「学級担任となった場合,心. 肺蘇生の方法を知っておく必要はないと思う」, 「他の教員がやってくれると思う」の2項目で,. そう思うと回答する割合が有意に少なかった。ま た,他にも教員がいる2つの場面でも,「専門的. 273.

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参照

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