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嘔吐反射患者に対するプロポフォール静脈内鎮静法の有用性

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Academic year: 2021

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四国歯誌 20(2):259∼260,2008 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部口腔侵襲制御学分野

嘔吐反射患者に対するプロポフォール静脈内鎮静法の有用性

富岡 重正,中條 信義

トピックス

 歯科臨床において,患者が嘔吐様の反射(異常絞扼反 射と呼ぶ)を起こすことがある。この反射は,口腔領域 に一定以上の強さの刺激を加えると起こる異物排除の生 体防御反応の一つであり,実際にはほとんどが吐物を伴 わない。このような反射を起こしやすい患者に対して, 印象採得,口腔内レントゲン撮影,義歯装着などの歯科 処置を行うことは極めて困難となる。  異常絞扼反射には,口腔粘膜の物理的刺激によって 誘発されるsomatogenic なものと,患者の不安,恐怖, 過去の経験,学習にもとづく条件応答などの心理的精 神的要因が影響するpsychogenic なものがある。一般 的には,口腔内の刺激によってのみ反射が誘発される somatogenic な患者はほとんどの歯科治療に耐えること ができるのに対して,視覚,聴覚,味覚,嗅覚などの刺 激によって反射が起こるpsychogenic な患者の歯科治療 は非常に困難である。  異常絞扼反射患者を管理する方法には,表面麻酔な どの局所麻酔法,笑気や静脈内鎮静薬を用いた精神鎮 静法,全身麻酔法などの薬物を使用する方法と,針治 療,脱感作療法,呼吸法指導,自律訓練,催眠暗示など の薬物を使用しない方法がある。患者の異常絞扼反射の 程度等は個人差が大きく一概にどの方法が効果的とは言 い切れないが,歯科麻酔領域では薬物を用いた管理がよ く用いられる。口腔内の刺激によって反射が誘発される somatogenic な患者に対しては,キシロカインビスカス などによる含嗽により口腔粘膜を表面麻酔することで歯 科治療が可能になることが多い。しかしながら,異常絞 扼反射の重症度が高いpsychogenic な患者に対しては一 般的に精神鎮静法が用いられる。笑気吸入鎮静法は鎮静 作用が弱いため,これだけで異常絞扼反射を抑制し口腔 内歯科治療を行うことは難しい。我々の施設を含めたほ とんどの病院では,異常絞扼反射患者に対して静脈内鎮 静法を用いた管理をおこなっている。  静脈内鎮静法に使用される薬物としては,これまで ジアゼパム,ミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬 剤が多かった。これらの薬剤は抗不安作用が強く,不安 などの心理的精神的要因で異常絞扼反射が誘発される患 者には有効であるが,調節性に欠ける欠点があった。例 えば,ミダゾラム投与により患者は至適鎮静状態(意識 はあるものの不安や恐怖心がなくなり協力的な状態)に あるにもかかわらず,処置部位が大臼歯部,軟口蓋部 などに及ぶと絞扼反射が誘発される。そこでミダゾラム を追加投与すると,意識レベルが低下し開口の指示に従 えなくなったり,舌根沈下をきたし呼吸が抑制されてし まう。  プロポフォールという全身麻酔薬は,麻酔が非常に 速くかかり速く醒めるという特徴を持っている。その ため,専用の機械を使って持続して投与することが可能 で(図),投与量を少なくすれば鎮静薬としても使用で きる。プロポフォールは調節性に優れているという点以 外にも,制吐作用も持っており,抗癌剤投与に伴う副作 用である悪心・嘔吐にも効果があると報告されている1) そこで,我々はプロポフォールを異常絞扼反射患者の静 脈内鎮静法に使用した。 図 プロポフォール専用注入器によるプロポフォールの 静脈内持続投与

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260 四国歯誌 第20巻第2号 2008  症例:患者は44歳の男性で,全身的既往歴はなかっ た。異常絞扼反射は小学生頃から次第に悪化し,34歳時 に開業歯科医院にて笑気吸入鎮静法下に歯科治療を試み たが困難であった。初診時には歯科用ミラーを口に近づ けるだけで嘔気をもよおした。ベンゾジアゼピン系薬剤 による静脈内鎮静法を試みた。ジアゼパムの投与により 至適鎮静度が得られ前歯部の治療は可能となったが,臼 歯部の治療では絞扼反射が誘発された。またミダゾラ ムでは,入眠しているにもかかわらず臼歯部の治療では 絞扼反射が誘発された。そこでプロポフォールによる静 脈内鎮静法をおこなった。プロポフォール 0.2 mg/kg を ボーラス投与した後4mg/kg/hr で持続投与し,その後3 mg/kg/hr に低下させた。患者は至適鎮静状態となり,開 口の指示にも従うことも絞扼反射はみられず歯科治療も 可能であった。さらにプロポフォールを2mg/kg/hr,1 mg/kg/hr と低下させたが,意識は明瞭な上に絞扼反射は 誘発されず歯科治療も可能であった。精神鎮静法中にパ ソコンにてプロポフォールの血中濃度をシュミレーショ ンしたが,鎮静量に至らない低濃度のプロポフォールで も異常絞扼反射の抑制が可能であった。  この症例報告2, 3)から,異常絞扼反射患者に対してプ ロポフォールによる静脈内鎮静法は低濃度でも有用であ ることが分かった。この報告の後,異常絞扼反射患者の 静脈内鎮静法の薬剤としてプロポフォールが頻用される ようになった4)。しかし,プロポフォールの制吐作用の メカニズムについてはセロトニン受容体拮抗説,ドーパ ミン受容体拮抗説,GABAA受容体増強作用など様々な 説があるものの詳細については未だ不明である。また, 低濃度のプロポフォールでは絞扼反射を除くことはでき なかったという症例も報告されており5),すべての異常 絞扼反射患者の歯科治療が低濃度プロポフォールによる 静脈内鎮静法で可能ということではない。実際,我々の 施設でも,ほとんどの異常絞扼反射患者の歯科治療はプ ロポフォールによる静脈内鎮静法で可能であるが,多量 のプロポフォール投与が必要であった重症な症例も経験 している。患者によってはプロポフォールとベンゾジア ゼピン薬剤を併用した方が良いのではないかという考え もあり,今後症例数を増やしながら,異常絞扼反射患者 に適した精神鎮静方法についてさらに検討を加えていく 予定である。

参考文献

1) Tomioka S, Kurio T, Takaishi K and Nakajo N: Propofol is effective in chemotherapy-induced nausea and vomiting: A case report with quantitative analysis. Anesth Analg 89, 798-799 (1999) 

2) Tomioka S, Uchida D, Eguchi S and Nakajo N: Elimination of hypersensitive gagging reaction to dentistry by propofol at subhypnotic doses. Oral Dis 4,

279-280 (1998) 3) 富岡重正,栗尾富子,高石和美,江口覚,中條信義: 異常絞扼反射に鎮静量以下の低濃度プロポフォール が有効であった症例,日歯麻誌 27,189-193(1999) 4) 石神哲郎,岸田朋子,屋島浩記,浅野陽子,横山幸 三,椙山加綱:異常絞扼反射を有する患者の管理に 関する臨床統計的観察,日歯麻誌 32,60-65(2004) 5) 入船正浩,田中千賀子,寶田 貫,遠藤千恵,清水 慶隆,小林恵子,坂田恵子,河原道夫:異常絞扼反 射を有する患者の歯科治療におけるプロポフォール による静脈内鎮静法の有効性 −歯科恐怖症患者と の比較−,日歯麻誌 33,129(2005)

参照

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